説明

焼結鉱の製造方法

【課題】高リン鉱石を焼結原料に配合する場合にも生産率、歩留りの高い高品質の焼結鉱を製造できる、焼結鉱の製造方法を提供すること。また、高リン鉱石のようにAl23含有量が高い原料鉱石を用いた場合にも生産率、歩留りの高い高品質の焼結鉱を製造できる、焼結鉱の製造方法を提供すること。
【解決手段】配合された鉄鉱石がP含有量が0.1mass%以上、Al23含有量が2.0mass%以上の高リン鉱石を含有し、該高リン鉱石100質量部に対して、FeO源をFeO換算量で3質量部以上配合し、かつ全鉄鉱石100質量部に対する前記FeO源の割合をFeO換算量で5質量部以下とした焼結原料から焼結鉱を製造することを特徴とする焼結鉱の製造方法を用いる。高リン鉱石100質量部に対して、FeO源をFeO換算量で5質量部以上配合すること、FeO源が、ミルスケール、高炉発生ダスト、製鋼ダストであることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉等の主原料として用いられる焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の主原料である焼結鉱は、一般に以下のようにして製造される。まず、粉鉄鉱石に、石灰粉等の酸化カルシウム含有副原料、珪石や蛇紋岩等の酸化ケイ素含有副原料及びコークス粉等の炭材を配合し、これに適量の水を加えて混合・造粒する。この造粒された配合原料(焼結原料)を、ドワイトロイド式焼結機のパレット上に所定の厚さに充填し、この充填ベッド表層部の炭材に着火後、下方に向けて空気を吸引しながら充填ベッド内部の炭材を燃焼させ、その燃焼熱により配合原料を焼結させて焼結ケーキとする。そして、この焼結ケーキを粉砕・整粒することにより、粒径が数mm以上の成品焼結鉱が得られる。
【0003】
安定した高炉操業を行うためには、高品質の焼結鉱が求められる。一般に、焼結鉱の品質はシャッター強度(冷間強度)、還元粉化指数(RDI)、被還元性(RI)などが指標とされるが、これらが指標となる成品焼結鉱の品質は、高炉操業における炉内荷下がり状態の安定性、炉内通気性や通液性、鉱石の還元効率、高温性状等に対して大きな影響を及ぼす。このため焼結鉱の製造プロセスでは厳しい品質管理が行なわれている。また、焼結鉱の製造コストを低減させるために焼結鉱の成品歩留まりの向上が求められ、さらに焼結鉱製造ラインの効率化と生産率の向上が求められる。
【0004】
ところで、焼結鉱の原料鉄鉱石としては、従来、主としてヘマタイト鉱石(赤鉄鉱)やマグネタイト鉱石(磁鉄鉱)が用いられてきたが、最近このような良質な鉄鉱石の供給量が減少しつつあることに伴い、高リン鉱石などのようなリンの含有量が高い鉄鉱石を用いる必要に迫られており、将来的にその使用量は益々増大するものと思われる。ここで、高リン鉱石とは、焼結原料として利用される通常の粉鉄鉱石と比べてPの含有量が高く、一般にPを0.1mass%以上含有するような鉄鉱石である(例えば、非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】第146、147回西山記念技術講座「製銑技術の最近の進歩と将来」1993年、p.36、37
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高リン鉱石のようなP含有量の高い鉄鉱石を高炉原料として使用することは、製造される溶銑のP濃度を高め、脱燐処理の負荷を増大させることになるため、従来ではほとんど使用されていなかった。しかし、上述したように良質な鉄鉱石の供給量が減少しつつあることから、この高リン鉱石についても、焼結原料として相当量配合することが検討されつつある。しかし、本発明者らが検討したところ、高リン鉱石を焼結原料として用いた場合、焼結鉱の生産率や、歩留りが悪化するという問題があることが判明した。これは、高リン鉱石のAl23(アルミナ)含有量が高いためと考えられる。
【0006】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、高リン鉱石を焼結原料に配合する場合にも生産率、歩留りの高い高品質の焼結鉱を製造できる、焼結鉱の製造方法を提供することにある。
【0007】
また本発明の他の目的は、高リン鉱石のようにAl23含有量が高い原料鉱石を用いた場合にも生産率、歩留りの高い高品質の焼結鉱を製造できる、焼結鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高リン鉱石などのようなAl23の割合が高い鉄鉱石を焼結原料に一定割合以上配合した場合に、成品歩留まりや生産率が悪化する根本的な原因とその解決手段を見出すべく種々の実験と検討を行い、その結果、生産率や成品歩留まりが悪化する主要な原因が以下のような点にあることが判明した。
【0009】
焼結機に於いて粉鉄鉱石等の含Fe原料が塊成されるのは、主に鉄鉱石に接触した生石灰、石灰石中のCaOが酸化鉄(Fe)と反応して低融点のCaO−Fe23系融体(カルシウムフェライト融液)を作り、この融液を介して塊成化が行われると同時に焼結鉱を構成する種々の組織が晶出形成されることによるものである。焼結反応に於いて重要な役割を担っているこの融液は、鉄鉱石と生石灰、石灰石の微粒子接触点が発生の基点になることも知られている。更に、この初期発生融液にAl23が溶け込むと粘性が高くなり流動性が悪化し鉱石同士の焼結反応が充分に進まない為、焼結鉱の歩留りが悪化するとされているが、高リン鉱石は特に微粉部にAl23の含有量が高く、焼成時に発生する融液の粘度が上昇することを見出した。
【0010】
すなわち、高リン鉱石でAl23を多量に含む微粉部分は比表面積が大きく、必然的に反応界面も大きいため、焼結時に生成する融液との反応性が大きい。そこで、焼結時に微粉鉱石の周辺で酸化カルシウムと酸化鉄との反応によりカルシウムフェライト融液が生成すると、この融液に多量の微粉鉱石が急速に同化する。このためその部分では、融液中のAl23の含有率が増大し、他の部分に比べて融液の粘度が大きく低下し、融液の流動性が低下する。その結果、焼結ベッド内の空隙が閉塞されて通気性が悪化し(難通気性層の形成)、特に焼結ベッド下層部ではコークスなどの炭材が十分に燃焼できず、焼きムラが発生して生産率及び歩留が低下するのである。
【0011】
そこで、以上のようなAl23の増加による融液の流動性の低下という問題を解消する方策について検討した結果、融液生成時に適量のFeOが存在すると融液の流動性が上昇すること、したがって、焼結原料中に適量のFeO源を添加することにより、融液の流動性を高め、焼結ベッド内での難通気性層の形成を抑制できることが判明した。但し、FeO源の添加量が過剰であると、逆に融液の液化温度が上昇して融液中に懸濁する固体分が増加し、融液流動性が悪化してしまうことも判明した。
【0012】
本発明は以上のような知見に基づきなされたもので、その特徴は以下のとおりである。
(1)配合された鉄鉱石がP含有量が0.1mass%以上、Al23含有量が2.0mass%以上の高リン鉱石を含有し、該高リン鉱石100質量部に対して、FeO源をFeO換算量で3質量部以上配合し、かつ全鉄鉱石100質量部に対する前記FeO源の割合をFeO換算量で5質量部以下とした焼結原料から焼結鉱を製造することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(2)FeO源が、ミルスケール、高炉発生ダスト、製鋼ダストの中から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Al23の割合が高い鉄鉱石が配合された焼結原料から焼結鉱を製造する際に、焼結原料中に配合されたFeO源の作用によって、Al23を多量に含む融液の溶融温度が低下し、融液の流動性が高められるため、焼結ベッド内での難通気性層の形成が効果的に抑制される。この結果、焼結ベッド内での焼きムラの発生が防止され、焼結鉱を高い成品歩留まりと生産率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いる焼結原料では、P含有量が0.1mass%以上、Al23含有量が2.0mass%以上の高リン鉱石100質量部に対して、FeO源を3質量部(但し、FeO換算量)以上配合する。FeO源とは、FeOを含有する物質、もしくは炉内でFeOを生成するFeO生成源となる物質を含有する物質である。Fe34は炉内でFeOとして融液に作用するため、FeO源として、FeO自体を含有するものの他にFe34を含有するものも用いることが可能である。FeO源としてFe34を用いる場合は、Fe34の配合量に(55.8+16)/(55.8×3+16×4)を掛けてFeO換算量を算出する。なお、鉱石中に含まれるFeOやFe34については、本発明で配合するFeO源には算入しない。FeO源にはFeOやFeO生成源以外の物質が含まれている場合もあるため、FeO源の配合量は実質的なFeO源の含有量であるFeO換算量とする。
【0015】
P含有量が0.1mass%以上、Al23含有量が2.0mass%以上の高リン鉱石は、特に微粉部にAl23の含有量が高く、少なくとも、粒径0.063mm以下のAl23含有量が3mass%以上であるものである。高リン鉱石はこのように微粉部分のAl23含有量が高く、粒径0.063mm以下のAl23含有量は、通常使用されているような複数種類の鉄鉱石を混合した場合の2倍程度である場合もある。高リン鉱石以外の鉱石でも、粒径0.063mm以下の微粉のAl23含有量が3mass%以上である品種であれば本発明の効果がある。また、特に微粉部にAl23の含有量が高くない品種の鉄鉱石であっても、全体としてAl23含有量が2.0mass%以上の鉄鉱石であれば、粒径0.063mm以下の微粉のAl23含有量も比較的高まる傾向にあるため、FeO源を鉱石の3質量部以上配合すれば、それなりに歩留まりと生産率が向上する。
【0016】
FeO源としては、鋼材の製造工程で生じるミルスケール(高温下で鋼材の表面に生成した酸化鉄が鋼材の圧延時に剥離して生じた酸化鉄粉)、高炉発生ダスト、製鋼ダストなどを用いることができる。これらは製鉄所で発生する廃棄物であり、低コストであるので、これらの中から選ばれる1種以上を用いることが望ましい。但し、FeO源としては、上記のものに限定されるものではない。
【0017】
FeO源は、反応性を考慮すると、微細粒であることが好ましい。例えば、粒径0.2mm以下のFeO源を用いれば十分な反応性を得ることができる。
【0018】
FeO源を、P含有量が0.1mass%以上、Al23含有量が2.0mass%以上の高リン鉱石100質量部に対して3質量部(但し、FeO換算量)以上配合することにより、融液の溶融温度が効果的に低下し、融液の流動性が高められる結果、焼結ベッド内での難通気性層の形成が効果的に抑制される。また、このような作用をより効果的に得るには、FeO源を、焼結原料中に含まれるP含有量が0.1mass%以上、Al23含有量が2.0mass%以上の高リン鉱石100質量部に対して5質量部(但し、FeO換算量)以上配合することが好ましい。
【0019】
一方で、FeO源を過剰に配合すると、逆に融液の溶融温度が上昇して融液中に懸濁する固体が増加し、融液流動性が悪化してしまう。このため全鉄鉱石100質量部に対する前記FeO源の割合は5質量部(但し、FeO換算量)以下とする必要がある。
【実施例1】
【0020】
本発明の効果を検証するために行った試験結果について説明する。
【0021】
ポット炉試験装置を用い、以下のような条件で焼結原料の焼成試験を実施した。
【0022】
新原料として配合した各原料(鉄鉱石及び副原料)の組成とLOI(Loss Of Ignition:加熱後重量減少割合)を表1に示す。鉄鉱石としては、高リン鉱石及びヘマタイト鉱石(ハマスレー鉱石)のうちの1種以上を使用し、これに副原料として石灰石、生灰石、硅石及び粉コークスを配合し、さらにFeO源としてミルスケールを配合して焼結原料とした。各原料の配合率は、焼結鉱の酸化ケイ素含有量が4.8mass%となるように調整した。これらの焼結原料を同一の混合・造粒条件で造粒した後、焼結鍋に装入して焼成した。焼結鍋内の原料充填層は直径270mm×高さ450mmとし、吸引負圧10kPaにて焼成を実施した。
【0023】
【表1】

【0024】
表2に、本発明例及び比較例の焼結原料の配合条件と焼結試験結果を示す。なお、表2に示した「基準1」は、高リン鉱石を用いない平均的な焼結原料を用いた例である。
【0025】
【表2】

【0026】
比較例1は、基準1の原料配合に対して、高リン鉱石を15.0mass%(全鉱石中でのアルミナの割合:1.7mass%)、高リン鉱石100質量部に対するFeO源の配合量が2.8質量部とし、本発明の範囲外の条件である。焼成時に粘性の高い融液が生成して難通気性層が形成される結果、焼結鉱の生産率及び成品歩留まりは低くなっている。
【0027】
本発明例1は、比較例1と同様に高リン鉱石の配合率を15.0mass%(全鉱石中でのアルミナの割合:1.7mass%)とし、比較例1の原料配合に対してさらにミルスケールの配合量を増加させて高リン鉱石100質量部に対するFeO源の配合量が3.3質量部とした本発明の範囲内の条件である。焼成時の難通気性層の形成が抑制されるため、比較例1に比べて生産率と成品歩留まりが大きく改善され、基準1と同等以上の結果が得られている。
【0028】
本発明例2は、比較例1と同様に高リン鉱石の配合率を15.0mass%(全鉱石中でのアルミナの割合:1.7mass%)とし、本発明例1の原料配合に対してさらにミルスケールの配合量を増加させて高リン鉱石100質量部に対するFeO源の配合量が5.3質量部とした本発明の範囲内の条件である。本発明例1に対し生産率と成品歩留まりがさらに大きく改善され、基準1と同等以上の結果が得られている。
【0029】
本発明例3は、高リン鉱石の配合率を基準1よりも大幅に高い15.0mass%(全鉱石中でのアルミナの割合:2.0mass%)とし、さらにミルスケールの配合量を増加させて高リン鉱石100質量部に対するFeO源の配合量が14.9質量部、全鉱石中100質量部に対するFeO源の配合量が4.8質量部とした本発明の範囲内の条件である。本発明例1と同様に焼成時の難通気性層の形成が抑制されるため、高リン鉱石を多量に配合したにも関わらず生産率と成品歩留まりが大きく改善され、基準1と同等以上の結果が得られている。
【0030】
比較例2は、本発明例2の原料配合に対してミルスケールを更に増加させ、高リン鉱石100質量部に対するFeO源の配合量が16.4質量部、全鉱石中100質量部に対するFeO源の配合量が5.3質量部とした本発明の範囲外の条件である。このとき配合原料中のFeOが過剰となり、焼成時に粘性の高い融液が発生して難通気性層が形成される結果、焼結鉱の生産率及び成品歩留まりは低くなっている。
【0031】
以上の試験結果からも明らかなように、本発明を満足する条件で焼結原料を配合し、これを焼成することにより、特別な手段を用いたり或いは特別な事前処理や造粒方法を採ることなく、高リン鉱石のような微粉におけるアルミナの割合が高い鉄鉱石を多量に配合した焼結原料から、焼結鉱を高い生産率と成品歩留まりで製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配合された鉄鉱石がP含有量が0.1mass%以上、Al23含有量が2.0mass%以上の高リン鉱石を含有し、該高リン鉱石100質量部に対して、FeO源をFeO換算量で3質量部以上配合し、かつ全鉄鉱石100質量部に対する前記FeO源の割合をFeO換算量で5質量部以下とした焼結原料から焼結鉱を製造することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
FeO源が、ミルスケール、高炉発生ダスト、製鋼ダストの中から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。

【公開番号】特開2006−152367(P2006−152367A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343931(P2004−343931)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】