説明

焼結鉱の製造方法

【課題】高炉スラグを形成する成分の含有量の増加が少なく、冷間落下強度に優れた焼結鉱を、高い生産率で製造できる、焼結鉱の製造方法を提供すること。
【解決手段】粉鉄鉱石その他の鉄系原料、副原料および炭材等からなる配合原料を、焼結機に供給し、前記炭材を燃焼させて該鉄系原料の少なくとも一部を溶融させたのち冷却し、塊成化することにより得られる焼結鉱の製造方法において、角閃石を添加した焼結原料を用いる。焼結原料中の角閃石の添加量が0.3mass%以下であること、角閃石の粒度が0.5mm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生産率と冷間落下強度の優れた焼結鉱の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉原料として使用される焼結鉱は、一般に、焼結原料を造粒した後に焼結機を用いて焼結する、以下の方法により製造される。
【0003】
先ず、本船から荷揚げされた鉄鉱石を銘柄ごとに粉鉱ヤードに山積みする。この後、山積みされた各種粉鉱石、含CaO副原料、含SiO2副原料、ダスト及び炭材等を予め設定している割合でベッディング法により混合し、ブレンディング粉とする。このブレンディング粉、石灰石及び/又は生石灰、珪石及び/又は蛇紋岩、粉コークス及び/又は無煙炭、並びに返し鉱と、場合によっては、更に単味の鉱石等の各原料をそれぞれ別の配合槽に入れ、それぞれの配合槽から各原料を所定量連続的に切り出す。そして切り出された原料に適量の水分を添加して混合、造粒する。
【0004】
このようにして造粒された擬似粒子形態の焼結原料をホッパーより無端移動グレート式焼結機(ドワイトロイド式焼結機)のパレット上に連続的に500〜700mm程度の高さの層厚さに供給する。次いで点火炉にて表層部中の炭材に点火し、下方に向けて強制的に空気を吸引しながら炭材を燃焼させて、この時発生する燃焼熱によって配合した焼結原料を焼結、塊成化する。こうして焼成された焼結ケーキを冷却後、破砕し、整粒して3〜5mm以上の粒子を成品焼結鉱として高炉に装入する。破砕・整粒過程で発生した3〜5mm以下の粉焼結鉱は、返し鉱として再度焼結鉱原料として使用される。この焼結鉱の焼成過程では凝結材であるコークス(炭材)の燃焼による発熱により、鉱石と石灰等の副原料が反応しカルシウムフェライト(CaO・nFe23、CaO・nFe34)やオリビン(SiO2・Fe23)等の融体が発生し、鉄鉱石同士を結合する。
【0005】
上述した方法で製造された焼結鉱の品質特性としては、冷間強度、還元性及び還元粉化性等があり、これらの特性が高炉の安定且つ高効率操業に大きく影響する。従って、上記の品質特性は特に厳しく管理されている。一方、焼結鉱の製造コスト面からは、炭材、ガス、電力等の消費エネルギー原単位が低く、且つ高生産率、高歩留であることが要請される。更に最近では、環境対策及び省エネルギーへの対応から、高炉発生の副産物であるスラグの発生を極力低減することに対する要請が強くなっている。このためには、SiO2、CaO等の高炉スラグを形成する成分の含有量が少ないことが望ましい。上記背景から、焼結鉱の品質や、生産率及び歩留向上に関する技術が多数提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、5〜15質量%のFeO成分と0.5〜4.0質量%のフッ素成分を含む製鋼スラグを全焼結原料に対して0.1〜5.0質量%配合することにより、CaO成分が6.0〜12.0質量%の焼結鉱を製造するに際し、焼結鉱の歩留および生産性を低下させることなく製造する方法が開示されている。
【0007】
また特許文献2には、MgO添加源副原料として、粒度構成が径1mm以下の粒子が30%未満であるマグネサイト及びブルースタイトの内の一方、又はそれらの両方を用いることにより、焼結工程での生産率及び歩留を低下させずに、焼結鉱中SiO2含有率を所定値まで低めて、還元性、還元粉化性及び高温性状に優れた焼結鉱を製造する方法が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、石灰石の粒度を3〜5mmが15mass%以上とし、含MgO副原料として蛇紋岩、ニッケルスラグ、ジュナイトのうち1種または2種を用い、これらの粒度を0〜0.5mmが30mass%以下、1〜5mmが50mass%以上になるように調整または造粒し焼結原料中に配合することによる高温性状と冷間強度の優れた焼結鉱の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−317070号公報
【特許文献2】特開2000−178660号公報
【特許文献3】特開平9−272925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の方法では焼結排ガス中のフッ素濃度が上昇し、ガス中の水分と結合することにより弗酸が生成し、排風ダクトの腐食等が問題となる。
【0010】
また、特許文献2に記載の方法では、焼成中のMgO滓化性が悪いため、焼結鉱生産率の低下は否めないという問題がある。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の方法では、含MgO副原料の粒度分布調整が非常に困難であり、実用化には到っていない。
【0012】
上記のように、従来の技術では、高炉スラグを形成する成分の含有量の増加が少なく、品質に優れた焼結鉱を、低コストで製造することは困難である。
【0013】
したがって本発明の目的は、従来技術の抱えている上述した問題点を克服できる技術の確立であり、高炉スラグを形成する成分の含有量の増加が少なく、冷間落下強度に優れた焼結鉱を、高い生産率で製造できる、焼結鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)角閃石を添加した焼結原料を用いることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
(2)焼結原料中の角閃石の添加量が0.3mass%以下であることを特徴とする(1)に記載の焼結鉱の製造方法。
(3)角閃石の粒度が0.5mm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高炉スラグを形成する成分(SiO2、CaO等)の含有量の増加が少なく生産率と冷間落下強度の優れた焼結鉱を製造できる。
【0016】
これにより高炉スラグの発生量を増加させることなく、高炉を安定且つ高効率に操業できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明においては、角閃石を焼結原料として使用する。角閃石は、珪酸塩鉱物の一種である鉱物であり、色は、無色・緑色・褐色・青色などで、ガラス光沢を持つ。単斜晶系ないしは斜方晶系で、自形結晶は長柱状である。結晶形は輝石によく似るが、約120°で交わる2方向のへき開で区別される(輝石は約90°)。比重3.0〜3.5。モース硬度5〜6である。
【0018】
角閃石は一般的な造岩鉱物で、安山岩や斑れい岩などの中性〜塩基性岩に多く含まれる。また、変成鉱物として、緑色片岩や角閃岩などの変成岩中にも多く含まれる。角閃石の中でもっとも多く産出するのは普通角閃石であり、化学式はCa2(Mg、Fe)4Al(AlSi722)(OH)2で表される。またこの他に緑閃石Ca2(Mg、Fe)5(Si822(OH)2、エデン閃石Na2Ca(Mg、Fe)5Si7AlO22(OH)2、リヒター閃石Na2Ca(Mg、Fe、Al)5(Si、Al)822(OH、F)2、パルガス閃石NaCa2(Mg、Fe)4AlSi6Al222(OH)2、リーベック閃石Na(Fe2+、Mg)3Fe3+2Si822(OH)2などが角閃石に属する。しかしながら天然に算出される鉱石は種々の鉱物からなる場合が多く、普通角閃石単相では産出されることは稀であり、本発明で使用される角閃石としては実質的には角閃石族を主成分とする混合物となる。
【0019】
焼結原料として角閃石を用いた場合、焼結鉱の製造工程におけるこの角閃石の作用としては1mass%未満の少量の添加で焼結中の融液の流動性を向上することがあげられる。一方蛇紋岩、ニッケルスラグ等は数mass%を添加した場合であっても、焼結鉱の生産性、強度へ与える影響が少ないが、これはNa、Ca等の成分含有量が少ないために、融液との反応性が低いためであると考えられる。
【0020】
本発明においては焼結原料への角閃石の添加量は0.3mass%以下が好ましい(角閃石を添加した状態で焼結原料中の角閃石の含有量が0.3mass%以下)。少量においても効果が発現するため、角閃石の過剰な添加は過剰な溶融状態をもたらす。具体的には通気性が悪化し焼結時間が延長するため生産率が低下する。またスラグ量も増加するため添加量は少ないほうが望ましい。尚、上記のように角閃石は角閃石以外の成分をある程度含む状態で添加することになるため、添加量は角閃石相当分で0.3mass%以下とする。
【0021】
添加する角閃石の粒度は、0.5mm以下(粒度分布:0.5mm以下、100mass%)とすることが好ましい。0.5mm以下とすることにより、少量の添加であっても生産率と冷間落下強度の向上が得られる。細粒化することにより均一に融液に作用するため、より効果が出やすくなるので、角閃石の粒度は、0.2mm以下とすることがより好ましい。なお、角閃石の粒度が0.2mm以下であれば、添加量は角閃石相当分で0.001mass%以上の添加で効果を生じる。この極微量の添加でも効果を発揮する理由は、融液の流動性が向上した部分が焼結層中に偏在することになる関係から全体として強度が発現できているものと推察される。より好ましくは、粒度が0.2mm以下の角閃石を0.002mass%以上添加する。
【0022】
なお鉄鉱石ペレットを製造する際に、ペレット造粒強度の向上のために、ペレット原料に劈開性層状鉱物を配合する技術が知られており(特開昭55−54530号公報参照。)、劈開性層状鉱物の例として角閃石綿が挙げられている。しかし、特開昭55−54530号公報に記載の技術は、針状あるいは片状の微細組成物を多量にペレット原料に配合するものであり、本発明とは異なる技術である。特開昭55−54530号公報においては蛇紋岩も劈開性層状鉱物の一例として記載されているが、蛇紋岩を焼結鉱の製造方法である本発明で適用した場合は、上記のようにその効果が認められない。すなわち、本発明における角閃石の作用効果は特開昭55−54530号公報に記載された作用効果とは異なるものである。
【実施例1】
【0023】
本発明にかかる焼結鉱の具体的な製造方法を実施例に基づいて説明するとともに、本発明の範囲外の焼結鉱も製造して比較例とし、本発明の効果を確認した。なお、これらの焼結鉱を製造するに際しては、表1に示す組成を有する9銘柄(鉱石A〜I)の粉鉄鉱石を、表1に示す鉱石配合割合で配合したものを使用した。
【0024】
【表1】

【0025】
また、副原料の組成を表2に、本発明で用いた角閃石の組成を表3に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
また、基準となる鉱石A〜Iの鉄鉱石原料と副原料との配合割合を表4に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
(本発明例1)
この実施例において、配合原料を調整するに当っては、焼結鉱中のSiO2含有量が5.0mass%となるようにニッケルスラグを、焼結鉱中のCaO含有量が9.4mass%となるように石灰石を配合した(表4参照)。この鉄鉱石原料と副原料に対し、粒度0.5mm以下(−0.5mm、100mass%)の角閃石を0.03mass%添加した。また、製品とならない粒径5mm未満の焼結鉱は原料中に返鉱として戻されるが、その返鉱を新原料に対し20mass%となるように配合した。ここで新原料とは鉄鉱石原料と副原料と添加物との和のことである。
【0031】
そして、焼結鉱の製造に当っては、すべての配合原料を、ドラムミキサーに投入し、水分を添加しながら混合・造粒した。配合した全炭材量は、新原料に対し4.5mass%とした。上記配合物を焼結機に装入し、焼結後に得られた焼結鉱の生産率と品質(落下強度、被還元性、還元粉化性)を評価した。結果を表5の本発明例1の欄に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
落下強度(シャッターインデックス(SI))は日本工業規格JIS M8711で規定された方法により求めた。また、被還元性指数(RI)は日本工業規格JIS M8713に規定された方法で求めた。また、還元粉化指数(RDI)は日本工業規格JIS M8720に規定された方法で求めた。得られた焼結鉱は、生産率が1.22t/h・m2、SIが90.6、RIが61.7、RDIが31.0であり、生産率と冷間落下強度の優れた焼結鉱が得られた。
【0034】
(本発明例2)
鉄鉱石原料と副原料に対し粒度−0.5mm、100mass%の角閃石を0.05mass%添加したこと以外は本発明例1と同様の方法で焼結鉱の製造を実施した。結果を表5の本発明例2の欄に示す。得られた焼結鉱は、生産率が1.19t/h・m2、SIが90.4、RIが61.7、RDIが30.9であり、生産率と冷間落下強度の優れた焼結鉱が得られた。
【0035】
(本発明例3)
鉄鉱石原料と副原料に対し粒度−0.5mm、100mass%の角閃石を0.10mass%添加したこと以外は本発明例1と同様の方法で焼結鉱の製造を実施した。結果を表5の本発明例3の欄に示す。得られた焼結鉱は、生産率が1.16t/h・m2、SIが92.9、RIが61.5、RDIが31.0であり、生産率と冷間落下強度の優れた焼結鉱が得られた。
【0036】
(本発明例4)
鉄鉱石原料と副原料に対し粒度−0.5mm、100mass%の角閃石を0.30mass%添加したこと以外は本発明例1と同様の方法で焼結鉱の製造を実施した。結果を表5の本発明例4の欄に示す。得られた焼結鉱は、生産率が1.14t/h・m2、SIが93.0、RIが61.5、RDIが30.2であり、生産率と冷間落下強度の優れた焼結鉱が得られた。
【0037】
(本発明例5)
鉄鉱石原料と副原料に対し粒度−0.5mm、50mass%の角閃石を0.03mass%添加したこと以外は本発明例1と同様の方法で焼結鉱の製造を実施した。結果を表5の本発明例5の欄に示す。得られた焼結鉱は、生産率が1.19t/h・m2、SIが90.2、RIが61.6、RDIが29.9であり、生産率と冷間落下強度の優れた焼結鉱が得られた。
【0038】
(本発明例6)
鉄鉱石原料と副原料に対し粒度−0.5mm、20mass%の角閃石を0.03mass%添加したこと以外は本発明例1と同様の方法で焼結鉱の製造を実施した。結果を表5の本発明例6の欄に示す。得られた焼結鉱は、生産率が1.16t/h・m2、SIが90.0、RIが61.5、RDIが31.0であり、生産率と冷間落下強度の優れた焼結鉱が得られた。
【0039】
(比較例1)
鉄鉱石原料と副原料に対し角閃石を添加しないこと以外は本発明例1と同様の方法で焼結鉱の製造を実施した。結果を表6の比較例1の欄に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
得られた焼結鉱は生産率が1.05t/h・m2、SIが89.9、RIが61.5、RDIが31.1であり、生産率と冷間落下強度の低い焼結鉱となった。
【0042】
(比較例2)
鉄鉱石原料と副原料に対し粒度−0.5mm、100mass%の角閃石を0.5mass%添加したこと以外は本発明例1と同様の方法で焼結鉱の製造を実施した。結果を表6の比較例2の欄に示す。得られた焼結鉱は、生産率が0.94t/h・m2、SIが92.0、RIが60.0、RDIが35.6であり、生産率の低い焼結鉱となった。
【0043】
(比較例3)
表4の原料配合中、ニッケルスラグに変えて蛇紋岩を使用し、角閃石を添加しないこと以外は本発明例1と同様の方法(表4の原料配合中、Niスラグに変えて蛇紋岩を使用したこと以外は比較例1と同様の方法)で焼結鉱の製造を実施した。結果を表6の比較例3の欄に示す。
【0044】
得られた焼結鉱は、生産率が1.03t/h・m2、SIが90.1、RIが61.1、RDIが31.8であり、生産率の低い焼結鉱となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角閃石を添加した焼結原料を用いることを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
焼結原料中の角閃石の添加量が0.3mass%以下であることを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
角閃石の粒度が0.5mm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の焼結鉱の製造方法。

【公開番号】特開2009−30144(P2009−30144A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198247(P2007−198247)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】