説明

照明用保護部材、高圧放電ランプおよび照明器具

【課題】
ランプの品種に制約されることなく、光学特性の低下を抑制しつつ外管バルブが破損した場合でも、破片の飛散または落下を防止することが可能な高圧放電ランプを提供する。
【解決手段】
透光性ガラス基材としての外管バルブ13の外表面に可視平均透過率が90%以上、引張り強度80MPa以上の耐熱性樹脂からなり、厚さが10μm以上となるように塗布された保護層15を形成した高圧放電ランプ1は、発光管2の品種に制約されることなく、光出力の低下を抑制しつつ外管バルブ13が破損した場合でも、保護層15によって外管バルブ13の破片の飛散または落下を防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明用保護部材ならびにこの保護部材を用いた高圧放電ランプおよび照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスまたは石英製の発光管を有するメタルハライドランプまたは一般水銀灯などの高圧放電ランプが店舗、屋外などで広く使用されている。このようなランプの発光管は、点灯時に内部が高圧になっているため、発光管の強度が劣化により低下すると発光管がまれに破裂する場合がある。この破裂によって発光管または外管バルブの破片が飛び散ることを防止するために、外管バルブの外表面にフッ素樹脂をコーティングして保護膜を形成した製品が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このフッ素樹脂製の保護膜は、発光管または外管バルブの飛散防止効果を有しているが、透光性が低いので光束低下の課題を有しており、また保護膜の耐熱温度が低いので、使用が可能なランプに制約があることから、近年では発光管周囲に石英ガラス製の保護筒(シュラウド)を設けた飛散防止対策が採用されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】実願昭61−98903号(実開昭63−6662号)のマイクロフィルム
【特許文献2】特開2003−100253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、石英ガラス製の保護筒(シュラウド)による飛散防止は、発光管の破裂時の場合は有効であるが、外管バルブの残留歪やその他の原因による外管バルブの破損が発生した場合には対応できないため、こうした不具合にも対処可能な保護手段が必要となっている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、照明用部材の品種に制約されることなく、光学特性の低下を抑制しつつ外管バルブ等の透光性ガラス基材が破損した場合でも、破片の飛散または落下を防止することが可能な照明用保護部材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の照明用保護部材は、透光性ガラス基材と;可視平均透過率が90%以上、引張り強度80MPa以上の耐熱性樹脂からなり、前記透光性基材の少なくとも一面側に厚さが10μm以上となるように塗布された保護層と;を具備していることを特徴とする。
【0007】
照明用保護部材としては、発光管等の光源部の周囲に直接または間接的に配設される保護部材であり、破損に伴って破片が飛散が発生しやすい透光性ガラス基材に適用される。発光管の周囲に配設されることから、保護層の可視平均透過率は90%以上、保護層の耐熱温度は200℃以上が好ましい。透光性ガラス基材が破損した場合でも、破片の飛散または落下の防止を可能とするためには、引張り強度80MPa以上であり、かつ厚さが10μm以上の耐熱性樹脂からなる保護層が塗布形成される必要がある。
請求項2は、請求項1記載の照明用保護部材において、耐熱性樹脂がポリイミド系であることを特徴とする。
【0008】
耐熱性樹脂を種々検討した結果、ポリイミド系樹脂を塗布形成して得られた保護層は、厚さが10μm以上であっても可視平均透過率90%以上とすることができ、引張り強度80MPa以上を確保でき、耐熱温度も200℃以上で良好であった。保護層の厚さは、可視光透過率および塗布工程の容易性の観点からは40〜100μmの範囲内とするのが好適である。
【0009】
請求項3は、請求項2記載の照明用保護部材において、耐熱性樹脂にSiO2、Al2O3およびZnOのうち少なくとも一種からなる無機化合物微粒子が50質量%以下混合されていることを特徴とする。
【0010】
耐熱性樹脂に50質量%以下の上記無機化合物微粒子を混合して製膜することにより、保護層の耐久性能、可視光透過率または製造コストを調整することが可能となる。
請求項4は、請求項3記載の照明用保護部材において、耐熱性樹脂にシリコーン化合物が混合されていることを特徴とする。
【0011】
耐熱性樹脂にシリコーン化合物を混合することで、光学特性を大きく変化させることなく耐熱性樹脂の使用量を調整するとともに保護層の耐久性や屈折率を調整でき、また塗布液の粘性や乾燥速度等を最適化することができる。
【0012】
請求項5の高圧放電ランプは、透光性放電容器を有する発光管と;内部に前記発光管を収容する外管バルブを有し、この外管バルブを透光性ガラス基材としてその外表面に保護層が形成されてなる請求項1ないし4いずれか一記載の照明用保護部材と;前記外管バルブの一端側に設けられた口金と;を具備していることを特徴とする。
請求項6は、請求項5記載の高圧放電ランプにおいて、保護層が外管バルブの外表面とともに口金の一部にも塗布されていることを特徴とする。
【0013】
保護層が口金の少なくとも一部に塗布されていることで、外管バルブの残留歪その他の原因により外管バルブに割れが発生しても、外管バルブの落下、飛散の発生を抑制することができる。
請求項7の照明器具は、器具本体と;この器具本体に装着された請求項5または6記載の高圧放電ランプと;を具備していることを特徴とする。
【0014】
請求項8の照明器具は、器具本体と;この器具本体に装着された高圧放電ランプと;前記器具本体に前記高圧放電ランプを覆うように設けられた請求項1ないし4いずれか一記載の照明用保護部材と;を具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、照明用部材の品種に制約されることなく、光学特性の低下を抑制しつつ外管バルブ等の透光性ガラス基材が破損した場合でも、破片の飛散または落下を防止することが可能な照明用保護部材等を提供することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、保護層をポリイミド系樹脂を塗布することで形成しているので、厚さが10μm以上であっても可視平均透過率90%以上とすることができ、引張り強度80MPa以上を確保することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、耐熱性樹脂に50質量%以下の上記無機化合物微粒子を混合して保護層を形成しているので、保護層の耐久性能、可視光透過率または製造コストを調整できる。
【0018】
請求項4の発明によれば、耐熱性樹脂にシリコーン化合物を混合することで、光学特性を大きく変化させることなく耐熱性樹脂の使用量を調整するとともに保護層の耐久性や屈折率を調整でき、また塗布液の粘性や乾燥速度等を最適化することができる。このため、保護層の強度を低下することなく保護層の塗布が容易となる、コストを抑えることもできる。
【0019】
請求項5の発明によれば、発光管の品種に制約されることなく、光出力の低下を抑制しつつ外管バルブが破損した場合でも、破片の飛散または落下を防止することが可能な高圧放電ランプを提供することができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、保護層が口金の少なくとも一部に塗布されているので、外管バルブが破損した場合でも、保護層が口金に被着されて保護層の内側の破片の落下、飛散することが確実に抑制できる。
請求項7の発明によれば、請求項5または6記載の高圧放電ランプを使用した照明器具を提供することができる。
請求項8の発明によれば、請求項1ないし4いずれか一記載の照明用保護部材を使用した照明器具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照にして説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態である高圧放電ランプを示す正面図である。
【0022】
1は高圧放電ランプとしてのメタルハライドランプであり、アルミナセラミック製の発光管2を備えている。この発光管2は、中央の発光部3と、この発光部3の軸方向の両端側に互いに延出する細管部4a,4bとを備えている。発光部3は、細管部4a,4bを介して気密に封止されていて内部に放電空間が形成されており、この放電空間には細管部4a,4bから導入された一対の電極(図示せず)が対向して配置されている。細管部4a,4bには、夫々先端部に各電極が接合された給電体5a,5bが配設され、ガラスフリット等で封着されている。発光管2内には所定のハロゲン金属や希ガス(必要に応じて水銀が追加される)等からなる放電媒体が封入されている。
【0023】
給電体5aは、一端がステム10に固定された筒状のガイド体11等により支持されるとともに後述する口金と電気的に接続されている。給電体5bは、一端がステム10に固定されたリード線により支持されるとともに後述する口金14と電気的に接続されている。なお、このステム10には、必要に応じて点灯管等の始動器が設けられていてもよい。
【0024】
発光管2の周囲は、硬質ガラス製の透光性ガラス基材としての外管バルブ13によって覆われている。この外管バルブ13は、先端側が閉塞されたTバルブ形状をなしており、他端側には発光管2と導通する給電手段としてのE形口金14が取り付けられている。
【0025】
外管バルブ13の外表面には、耐熱性樹脂からなる透明な保護層15が形成されており、これによって外管バルブ13が照明用保護部材として機能する。この保護層15の可視平均透過率は約95%、引張り強度90MPaである。また保護層15の厚さは10μm以上、好ましくは40〜100μmの範囲となるように塗布形成されている。また、保護層15は、外管バルブ13の基端側を越えて口金の一部(外管バルブ13側の端縁部から幅約3mmの全周)にも塗布されている。
【0026】
保護層15は、以下の方法によって製膜することが可能である。まず、外管バルブ15の外表面にN−メチルピロリドンやN,N−ジメチルアセトアミドに固形分としてポリアミド酸20質量%を溶解した透明ポリイミドコーティング溶液をディップや流し塗りで塗布し、室温下で乾燥させて製膜する。それを250℃の大気雰囲気で1時間以上熱処理することによって、可視平均透過率が90%以上の透明ポリイミド膜からなる保護層15が形成される。保護層15の膜厚は、塗布溶液を希釈することで調整することができる。
【0027】
なお、保護層15を形成する耐熱性樹脂にSiO2、Al2O3およびZnOのうち少なくとも一種からなる無機化合物微粒子を50質量%以下、例えば塗布溶液に対して10〜35質量%の割合で混合することができる。このように耐熱性樹脂に無機化合物微粒子を塗布溶液に混合することによって、保護層15の耐久性、可視光透過率および製造コストを調整することが可能となる。
【0028】
また、保護層15を形成する耐熱性樹脂にシリコーン化合物を混合することで、光学特性を大きく変化させることなく耐熱性樹脂の使用量を調整するとともに保護層15の耐久性や屈折率を調整でき、また塗布液の粘性や乾燥速度等を最適化することができる。このため、保護層15の強度を低下することなく保護層の塗布が容易となる、コストを抑えることもできる。
【0029】
次に、本実施形態の作用について説明する。保護層15の効果を確認するために、外管バルブ13に保護層15を形成する前に、口金端から2cmの長さにわたって外管バルブ13の外表面にあらかじめ線状の傷を入れておき、透明ポリイミド樹脂からなる保護層15を複数種類の厚さで形成後、傷の箇所一点をバーナーで加熱し外管落下するかどうか検証を行った。その結果、保護層15の厚さが10μm以上であれば、塗布で外管の落下・飛散は発生しなかった。これにより、外管バルブの残留歪その他の原因により外管バルブの破損が発生しても、外管バルブの破片が落下、飛散することが抑制される。
【0030】
また、ANSI(American National Standards Institute:米国規格協会)規格による発光管破裂試験を行った結果、保護層15の厚さが40〜100μmであれば、シュラウドが設けられていない発光管2が破裂した場合でも外管バルブ13の飛散防止が可能であることが分かった。
なお、本実施形態においては、外管バルブ13にTバルブ形状が使用されているが、BTバルブ形状に適用することも可能である。
図2は、本発明の第2の実施形態に係る照明器具を示す概略断面図である。但し、図1と同部材は同符番を付して説明を省略する。
【0031】
21は、照明器具であり、高圧放電ランプ1は、外管バルブ13の外表面に保護層15が形成された第1実施形態の高圧放電ランプ1である。照明器具21は、下面が開放された反射体25を有し、この反射体25の天井面にはソケット26を備えている。高圧放電ランプ1は、口金14を上向きの状態でソケット26に螺合することにより照明器具21に取り付けられている。この第2の実施形態にかかる照明器具によれば、第1の実施形態で説明したように、シュラウドが設けられていない発光管2が破裂した場合でも外管バルブ13の飛散防止が可能である。
図3は、本発明の第3の実施形態に係る照明器具を示す概略断面図である。但し、図2と同部材は同符番を付して説明を省略する。
【0032】
本実施形態の照明器具21は、外管バルブ13の外表面に保護層15が形成されていない高圧放電ランプ1がソケット26に装着されている。そして、反射体25の下面側が開口には、耐熱性ガラス板からなる透光性ガラス基材としての保護カバー23が装着されている。この保護カバー23の外表面には、第1の実施形態と同様の製法で塗布された耐熱性樹脂からなる保護層15が形成されている。
【0033】
本実施形態の高圧放電ランプ1は、シュラウドおよび保護層が設けられていないが、外表面に保護層15が形成された保護カバー23が照明用保護部材として機能するので、発光管2が破裂した場合でも外管バルブ13の飛散防止が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態である高圧放電ランプを示す正面図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る照明器具を示す概略断面図。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る照明器具を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0035】
1…高圧放電ランプ、2…発光管、13…透光性ガラス基材としての外管バルブ、14…口金、15…保護層、21…照明器具、23…照明用保護部材としての保護カバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性ガラス基材と;
可視平均透過率が90%以上、引張り強度80MPa以上の耐熱性樹脂からなり、前記透光性基材の少なくとも一面側に厚さが10μm以上となるように塗布された保護層と;
を具備していることを特徴とする照明用保護部材。
【請求項2】
耐熱性樹脂がポリイミド系であることを特徴とする請求項1記載の照明用保護部材。
【請求項3】
耐熱性樹脂にSiO2、Al2O3およびZnOのうち少なくとも一種からなる無機化合物微粒子が50質量%以下混合されていることを特徴とする請求項2記載の照明用保護部材。
【請求項4】
耐熱性樹脂にシリコーン化合物が混合されていることを特徴とする請求項3記載の照明用保護部材。
【請求項5】
透光性放電容器を有する発光管と;
内部に前記発光管を収容する外管バルブを有し、この外管バルブを透光性ガラス基材としてその外表面に保護層が形成されてなる請求項1ないし4いずれか一記載の照明用保護部材と;
前記外管バルブの一端側に設けられた口金と;
を具備していることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項6】
保護層が外管バルブの外表面とともに口金の一部にも塗布されていることを特徴とする請求項5記載の高圧放電ランプ。
【請求項7】
器具本体と;
この器具本体に装着された請求項5または6記載の高圧放電ランプと;
を具備していることを特徴とする照明器具。
【請求項8】
器具本体と;
この器具本体に装着された高圧放電ランプと;
前記器具本体に前記高圧放電ランプを覆うように設けられた請求項1ないし4いずれか一記載の照明用保護部材と;
を具備していることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−73593(P2010−73593A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−241941(P2008−241941)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】