説明

照明用有機EL素子およびその製造方法

【課題】高価な製造設備を必要とせず、多品種の製品に適用可能な、低コストで有機EL素子を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基板1上に第1電極2と有機発光層3と第2電極4とが順に積層され、平面視した場合に第2電極4が第1電極2と交差するよう配置された照明用有機EL素子を製造する方法であって、該方法は、第1電極2が形成された基板1上の、第1電極2と第2電極4とが交差する領域に対応する所定部分にのみ、非接触方式で絶縁材料を塗布して絶縁膜5を形成する絶縁膜形成工程と、該絶縁膜形成工程の後、開口部を有する蒸着マスク7を用いて、交差する領域内に位置する第1電極2上に、有機発光層3を真空蒸着により形成する有機発光層形成工程と、該有機発光層形成工程の後、蒸着マスク7とは異なる開口部を有する別の蒸着マスク8を用いて、有機発光層3上に第2電極4を形成する第2電極形成工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明に適した大面積の有機EL素子およびその製造方法に関し、特に、絶縁膜をパターニング形成した有機EL素子及び簡素にパターニング形成する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、第1電極と第2電極との間に電圧を印加することにより、第1電極と第2電極とに挟まれた有機発光層が発光するものである。有機発光素子として、既に、有機EL(エレクトロルミネセンス)素子が、液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイに用いられている。フラットパネルディスプレイは、画素数多いことから一つの画素が微細である。有機EL素子を用いたディスプレイも同様に画素が微細であり、微細な蒸着マスクを利用して有機EL素子をパターニングしている。また、近年、有機EL素子は、固体照明に用いられようとしている。
【0003】
固体照明は、ディスプレイよりも高輝度が要求される製品である。例えば、ディスプレイで要求される輝度が1,000cd/m程度であるのに対し、固体照明では3,000〜5,000cd/m程度の輝度が要求される。そのため、単位面積当たりの大きな電流値を各電極に流す必要がある。
有機EL素子を用いたディスプレイにおいて、一つの発光素子の大きさは1mm角未満である。一方、有機EL素子を用いた固体照明では、ディスプレイよりも大きな光束が必要とされるため、一つの発光素子は100mm角以上の大きさが要求される。
【0004】
図7に、一般的な有機EL素子の一つの発光素子の平面図を示す。なお、最終製品ではこの有機EL素子を環境から保護するために封止部材が必要であるが、図7では省略する。
有機EL素子の一つの発光素子は、基板1上に、第1電極2、有機発光層3及び第2電極4が積層されてなる。第1電極(陽極)2は、基板1上にフォトリソグラフィによってパターニング形成される。有機発光層3は第1電極2と交差するように積層されている。第2電極4は、有機発光層3及び第1電極2と交差するよう積層され、第1電極2と第2電極4の間に電圧を印加することにより、この電極が交差した部分にある有機発光層3のみが発光する。
【0005】
有機EL素子では、光を取り出すために第1電極2及び第2電極4のいずれかに透明導電膜が必要となる。一般に、第1電極2が透明導電膜とされる。透明導電膜の材料としては酸化インジウムスズ(ITO)などが用いられる。ITOは透明導電膜の材料の中で最も体積抵抗率が小さいとされるが、金属に比べるとITOの体積抵抗率は著しく高い。
【0006】
有機発光層3は、有機発光材料からなる有機多層膜とされる。有機発光層3は、通常、開口部を有する蒸着マスクを、第1電極2が形成された基板上に配置した後、真空蒸着装置内で連続的に蒸着することにより形成される。
【0007】
第2電極4は金属膜などとされ、真空蒸着装置やスパッタリング装置を用いて製膜される。第2電極4は、通常、有機発光層3で用いた蒸着マスクとは別の開口部を有する蒸着マスクを配置した後、有機発光層3上に形成される。
【0008】
上記構成の有機EL素子を単一大面積に形成して大電流を流すと、電圧降下により、暗くなってしまう。また、大電流密度かつ大面積の有機EL素子の場合、素子周辺部が明るくなり、中央部が暗くなる現象(輝度ムラ)が生じる。これは、透明導電膜の抵抗値が高いことと、大電流により電圧降下が生じることに起因する。
電圧降下を小さくして明るさを均一に改善するためには、透明導電膜の膜厚を100〜500nm程度に厚くしてシート抵抗値を下げると良い。そうすることで、輝度ムラを抑制することができる。
【0009】
しかしながら、フォトリソグラフィによって厚い透明導電膜(第1電極)を形成すると、第1電極2の縁部が急峻な断面となる。図8に、図7の(a)ラインの断面図を示す。断面が急峻な第1電極2上に有機発光層3(膜厚:100〜300nm程度)を積層すると、第1電極2の縁部に重なる部分の有機発光層3で薄膜化、ピンホール、及びクラックなどの欠陥が発生し易くなる。それによって、第1電極2と第2電極4との間ではリーク電流や短絡が生じ易くなり、有機EL素子の品質低下と歩留低下を招く原因になっている。
【0010】
上記問題を解決するため、特許文献1や特許文献2のような有機EL素子が提案されている。
特許文献1では、精度の高い発光領域を得るために、フォトリソグラフィ技術を用いて絶縁層を設け、高精度でパターンを形成している。図9に、絶縁層のパターニング加工工程を示す。まず、第1電極である透明導電膜がパターニングされている基板を洗浄し、乾燥させる。次に上記基板上に、感光剤(フォトレジスト)をスピンコートで全面塗布する。レジストをプリベークにより半乾燥後、露光マスクを用いてパターニングし露光器によって紫外線を照射し感光させる。その後、現像(エッチング及び洗浄)し、ポストベークを経て高精度な絶縁層をパターニング加工している。
特許文献2では、ロール印刷法により、絶縁層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平3−250583号公報(請求項1)
【特許文献2】特開2005−310404号公報(段落[0013]及び[0014])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載のパターニング加工方法は、半導体やフラットパネルディスプレイにおいて一般に用いられている高精度な加工技術であるが、大規模かつ高価な製造設備が必要である。また、特許文献1に記載の方法では、フォトレジストを一旦全面に塗布し、その後にパターニング加工するため、不要なレジスト材料を大量に消費することになる。レジスト材料及び露光器は高価であり、現像液の廃棄処理にも費用と手間がかかる。そのため、製造コストが高くなるという問題がある。上記コストアップは、ディスプレイのような高付加価値製品では許容されるが、照明用製品では非常に大きな問題である。
【0013】
照明製品では、基板サイズは同一であっても、素子パネルの寸法は様々であり、多品種に適した製造方法が要求される。フォトリソグラフィ技術を用いた方法では、露光マスクの交換及び調整が必要となる。ロール印刷法式では、ロール版の交換及び調整が必要となる。そのため、素子サイズが異なる品種変更に対する段取りに時間がかかり、生産性を低下させる問題がある。
【0014】
図10に、図7の(b)ラインの断面図を示す。図10に示されるように、(b)ラインの断面では、第1電極2の平坦な部分上に有機発光層3が積層されている。有機EL素子では、第2電極4は必要部分にのみ製膜されるため、製膜時には、有機発光層3の上に第2電極用蒸着マスク8を用いる。第2電極用蒸着マスク8で覆う際に、端部に僅かでも変形やねじれが生じると、有機発光層3を傷つけて欠陥を生じさせることになる。よって、第1電極4の平坦な部分上に有機発光層3を積層した場合であっても、第1電極2及び第2電極4の間でのリーク電流や短絡が生じやすい状態となり、有機EL素子の品質低下と歩留低下を招く原因となる。
【0015】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、高価な製造設備を必要とせず、多品種の製品に適用可能な、低コストで照明用有機EL素子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、基板上に第1電極と有機発光層と第2電極とが順に積層され、平面視した場合に前記第2電極が前記第1電極と交差するよう配置された有機EL素子を製造する方法であって、第1電極が形成された基板上の、前記第1電極と前記第2電極とが交差する領域に対応する所定部分にのみ、非接触方式でパターニング加工することなく絶縁材料を塗布して絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、該絶縁膜形成工程の後、開口部を有する蒸着マスクを用いて、前記交差する領域内に位置する前記第1電極上に、有機発光層を真空蒸着により形成する有機発光層形成工程と、該有機発光層形成工程の後、前記蒸着マスクとは異なる開口部を有する別の蒸着マスクを用いて、前記有機発光層上に第2電極を形成する第2電極形成工程と、を備える照明用有機EL素子の製造方法を提供する。
【0017】
上記発明によれば、必要な部分にのみ絶縁膜を形成することができる。それによって、絶縁材料を余分に塗布しなくて良いため、材料コストを抑制することができる。また、従来フォトリソグラフィで行われていたプリベーク、露光及び現像などの余分に塗布した絶縁材料を除去するための工程がないため、洗浄剤、廃液処理及びパターンに合わせた高価な露光マスクも不要となる。また、絶縁材料を除去する工程がないため、絶縁材料を塗布した後は、これを硬化する工程のみを行うことで絶縁膜を形成することができる。また、上記発明によれば、所定部分に絶縁膜を設けることで、製造過程で生ずる有機発光層の損傷を防止し、欠陥の少ない有機発光層を備えた照明用有機EL素子とすることができる。
【0018】
上記発明の一態様において、前記絶縁膜形成工程が、単一ノズルを前記第1電極に対して間隔をあけて配置し、前記単一ノズルから前記第1電極が形成された基板の前記所定部分に向けて前記絶縁材料を断続的に吐出するステップと、前記基板または前記単一ノズルを相対的に移動させて、前記所定部分に連続した絶縁膜を形成するステップと、を含むことが好ましい。
【0019】
上記発明の一態様によれば、高価な製造設備を必要とせずに絶縁膜を必要とする所定の位置のみに形成することができる。また、素子サイズが変更された場合であっても、塗布位置制御プログラムのみを選択変更することにより、瞬時に段取り変えをすることが可能となる。
【0020】
上記発明の一態様において、前記所定部分を、平面視した場合に前記第1電極の縁部と前記第2電極の面が交差する領域、または前記第1電極の面と前記第2電極の縁部が交差する領域の少なくとも一方に対応する部分とすると良い。
【0021】
所定部分を第1電極の縁部と第2電極の面が交差する領域に対応する部分とすると、第1電極の縁部上に形成される有機発光層の薄膜化及びピンホールやクラックなど欠陥発生を抑制することができる。それにより、電極間でのリーク電流や短絡などが発生しにくくなるため、更に品質低下や歩留低下を抑制される。
所定部分を第1電極の面と第2電極の縁部が交差する領域と対応する部分すると、第2電極形成時に使用する蒸着マスクの端部が非発光素子部分に重なるため、発光素子部分の有機発光層を傷つけることを防止できる。それにより、電極間でのリーク電流や短絡などが発生しにくくなるため、品質低下や歩留低下を抑制される。
【0022】
また、本発明は、基板上に第1電極と有機発光層と第2電極とが順に積層された発光素子を備え、平面視した場合に前記第2電極が前記第1電極と交差するよう配置された有機EL素子であって、第1電極が形成された基板上の、前記第1電極と前記第2電極とが交差する領域に対応する所定部分にのみ、非接触方式で有機絶縁材料をパターニング加工することなく塗布して形成された有機絶縁膜を備える照明用有機EL素子を提供する。
【0023】
上記発明によれば、非接触方式で絶縁膜を必要な部分にのみ形成するため、パターニング加工の工程および設備が不要となり、製造コストを抑制することができる。また、所定部分に絶縁膜を備える製造過程で生ずる有機発光層の損傷が低減された欠陥の少ない有機発光層を備えた照明用有機EL素子とすることができる。
【0024】
上記発明の一態様において、前記所定部分が、前記第1電極の縁部と前記第2電極の面が交差する領域、または前記第1電極の面と前記第2電極の縁部が交差する領域の少なくとも一方とすると良い。
【0025】
所定部分を第1電極の縁部と第2電極の面が交差する領域に対応する部分とすると、薄膜化及びピンホールやクラックなどの欠陥が少ない有機発光層とすることができる。それにより、電極間でのリーク電流や短絡などが発生しにくい有機EL素子となる。
所定部分を第1電極の面と第2電極の縁部が交差する領域と対応する部分すると、第2電極形成時に使用する蒸着マスクの端部が非発光素子部分に重なる。そのため、発光素子部分において損傷の少ない有機発光層とすることができる。それにより、電極間でのリーク電流や短絡などが発生しにくい照明用有機EL素子となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、非接触方式で絶縁膜を形成するため、絶縁膜の材料コストを抑制することができる。また、洗浄剤及び廃液処理を不要とし、素子サイズの変更を瞬時に段取り変えを可能とする。また、高価な製造設備を用いる必要もない。これによって、より安く欠陥の少ない照明用有機EL素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態に係る有機EL素子の一つの発光素子の一例を示す概略平面図である。
【図2】第1実施形態に係る有機EL素子の製造方法を説明する図である。
【図3】絶縁膜形成の一例を示す工程図である。
【図4】絶縁膜形成の一例を示す模式図である。
【図5】第2実施形態に係る有機EL素子の一つの発光素子の一例を示す概略平面図である。
【図6】図5の(b)ラインにおける断面図である。
【図7】一般的な有機EL素子の一つの発光素子の概略平面図である。
【図8】図7の(a)ラインにおける断面図である。
【図9】従来のパターニング加工の工程図である。
【図10】図7の(b)ラインにおける断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明に係る照明用有機EL素子及びその製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0029】
〈第1実施形態〉
図1に、本実施形態に係る有機EL素子の一つの発光素子の一例の概略平面図を示す。
本実施形態に係る有機EL素子は、基板1に第1電極2、有機発光層3、及び第2電極4が順に積層された発光素子を備える。有機EL素子を平面視した場合に、第1電極2の面の外周と第2電極4の面の外周とは、完全に重なってはおらず、第2電極4と第1電極2とが交差する配置とされる。第1電極2と有機発光層3との間または基板1と有機発光層3との間の所定部分には、絶縁膜5が設けられている。所定部分とは、第1電極2と第2電極4とが交差する領域に対応する部分とされる。上記交差する領域は、有機EL素子を平面視した場合に、第1電極2の縁部と第2電極4の面が交差する領域、または第1電極2の面と第2電極4の縁部が交差する領域とされ得る。本実施形態では所定部分を第1電極2の縁部と第2電極4の面が交差する領域に対応する部分とする。すなわち、上に有機発光層3/第2電極4が積層される第1電極2のパターニング段差部分にのみに絶縁膜5が設けられる。そのため、絶縁膜が必要な領域が非常に少なく、簡素に絶縁膜を形成することができる。
【0030】
基板1上に第1電極2/有機発光層3/第2電極4の順で積層された部分が発光素子として作用する。すなわち、第1電極2と第2電極4との間に電圧を印加することにより、発光素子の有機発光層3が発光し、基板1を通って光が外部に放射される。本実施形態において、この発光素子は50mm角〜300mm角の大きさとされる。
基板1上に第1電極2/絶縁膜5/有機発光層3/第2電極4または絶縁膜5/有機発光層3/第2電極4の順で積層された部分は、非発光素子部分とされる。
【0031】
基板1は、透光性基板とされる。
第1電極2は、導電性を有する透明な膜とされる。例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などの金属酸化膜などを用いることができる。第1電極2の厚さは、100nm〜500nm程度とされる。第1電極2は、縁部に急峻な断面を有していても良い。
有機発光層3は、有機発光材料からなる有機多層膜とされる。例えば、有機多層膜の構成は、正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層などとされる。有機発光層3の総厚さは、100nm〜300nm程度とされる。
第2電極4は、導電性を有する膜とされる。例えば、第2電極4は、アルミニウム(Al)や銀(Ag)の金属膜あるいは金属酸化膜などからなる。
【0032】
絶縁膜5は、電気的に絶縁な膜とされる。例えば、ポジ型レジスト、ネガ型レジスト、または他の硬化型樹脂などを用いることができる。絶縁膜5の厚さは、第1電極2と第2電極4との間の印加電圧に対する耐圧があれば十分であるが、第1電極2の厚さ以上が望ましく、100nm〜10μmの範囲が良い。絶縁膜5の幅は、ディスプレイの場合は非常に狭い幅が要求されるが、100mm角サイズ以上の有機EL照明では幅狭は要求されず、精度も要求されないことから、0.05mm〜2mmが好ましい。
【0033】
次に、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法を説明する。本実施形態に係る有機ELの製造方法は、絶縁膜形成工程、有機発光層形成工程、第2電極形成工程を含む。
図2に、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法の一例を説明する図を示す。図2(a)〜図2(d)は、図1の(a)ラインにおける断面を見た図である。
【0034】
(1)図2(a)
基板1上に、第1電極2をパターニングする。
【0035】
(2)図2(b):絶縁膜形成工程
絶縁膜形成工程では、まず、第1電極2が形成された基板1の表面を洗浄する。その後、第1電極2が形成された基板1上の所定部分に絶縁材料を塗布し、硬化させる。硬化方法は、使用する絶縁材料に応じて適宜選択する。図3に、絶縁材料としてポジ型のレジストを使用した場合の絶縁膜形成の工程図を例示する。図3によれば、洗浄、レジスト描画(塗布)及びポスベークの工程によって絶縁膜5を形成することができる。ポジ型レジストは塗布した後に、加熱する(ポストベーク)のみで硬化し、絶縁膜5となる。絶縁材料は所定部分にのみ塗布されているため、従来のフォトリソグラフィによる絶縁膜の形成で必要であったプリベーク、露光、及び現像の工程が不要となる。
【0036】
絶縁材料は、非接触方式にて塗布する。非接触方式で絶縁膜5を塗布する方法としては、ドット吐出型のディスペンサーが最適である。ドット吐出型のディスペンサーとしては、例えば、アシムテック社製のJET MASTER(登録商標)2などを用いることができる。絶縁材料の塗布は、1つの発光素子に対して単一のノズル6を用いて行う。ノズル6の吐出口の大きさなどは、使用する絶縁材料の種類や、対象とする発光素子の大きさに応じて適宜設定される。
【0037】
絶縁材料には低温で硬化が可能な有機材料が望ましく、絶縁材料(レジスト)の吐出には、インクジェットのようにノズルを複数配置したヘッドの方が効率的に見える。しかし、インクジェットは低粘度のインクを吐出するためのものであるため、本実施形態の絶縁材料として用いる粘性の高い液体(レジスト液)は、インクジェットを用いて印刷することができない。また、インクジェットはノズル当りの吐出量が微小で少ないため、1μm前後の厚さの膜の形成には向いていない。更に、インクジェットは基板面全面にパターニングすることは適しているが、少ない縦横のラインに塗布するには適していない。
【0038】
ドット吐出型のディスペンサーを用いる場合、まず、単一ノズル6の先端を第1電極2が形成された基板1上に向け、先端が第1電極2と接触しないよう間隔をあけて単一ノズル6を配置する。例えば、第1電極2の縁部(パターニング段差部分)に対し、第1電極2の表面から0.1〜1.0mmの間隔をあけて単一ノズル6を配置すると良い。
次に、単一ノズル6から第1電極2が形成された基板1上の所定部分に向けて絶縁材料を断続的に吐出する。また、絶縁材料を吐出しながら、基板1または単一ノズル6を相対的に移動させることで、所定部分に連続した線形の絶縁膜5を形成する。絶縁材料の吐出量や、基板1または単一ノズル6の移動速度などは、塗布対象表面の濡れ性、絶縁材料の種類及び粘度を考慮し、絶縁膜5が所望の厚さ及び幅となるよう適宜設定される。
【0039】
図4に、絶縁膜形成の一例の模式図を示す。図4(a)は、ノズルから吐出された絶縁材料の吐出粒である。吐出量は5nL、吐出粒直径は0.2mmに相当する。吐出繰返し速度を200dot/sec、移動速度を100mm/secとした条件では、吐出粒子は0.5mm間隔で基板上に塗布される。図4(b)及び図4(c)は、基板に着弾後の絶縁材料の様子を示す。吐出された絶縁材料は着弾後、図4(b)に示すように広がり、最終的には図4(c)のように線状に繋がり、厚さ5μm、幅2.0mmの絶縁膜5となる。この幅は、100mm角以上の照明用有機EL素子では十分許容可能であるが、吐出量と間隔を変えることにより幅を変えることは容易である。
【0040】
(3)図2(c):有機発光層形成工程
絶縁膜形成工程を経た基板1を真空蒸着装置内に搬入する。基板1上に有機用蒸着マスク7をかけ、有機材料を積層蒸着して有機発光層3を形成する。有機用蒸着マスク7は、例えば、図1の(a)ラインの向きでは第1電極2の面と同等または第1電極の面よりも大きい開口部を有する。有機用蒸着マスク7をかけるときには、この開口部が第1電極2にかかるようにする。他の有機材料の蒸着条件は、任意とする。
【0041】
(4)図2(d):第2電極形成工程
有機発光層形成工程を経た基板1を別の真空蒸着装置に搬入する。基板1上に第2電極用蒸着マスク8をかけ、導電性材料を積層蒸着して第2電極4を形成する。第2電極用蒸着マスク8は、例えば、図1の(a)ラインの向きでは第1電極2よりも大きく、図1の(b)ラインの向きでは第1電極2よりも小さい開口部を有するものを使用する。他の導電性材料の蒸着条件は、任意とする。第2電極形成工程後は、適宜封止部材を形成する(不図示)。
【0042】
なお、本実施形態において第2電極を真空蒸着により製膜したが、これに限定されず、スパッタリング法によって製膜しても良い。
【0043】
〈第2実施形態〉
本実施形態にかかる有機EL素子は、絶縁膜の形成する所定部分が異なる以外は、第1実施形態と同様の構成とした。
図5に、本実施形態に係る有機EL素子の一つの発光素子の一例の概略平面図を示す。本実施形態の絶縁膜5は、有機EL素子を平面視した場合に、第1電極2の縁部と第2電極4の面が交差する領域、及び第1電極2の面と第2電極4の縁部が交差する領域に設けられる。すなわち、有機発光層3/第2電極4が積層される第1電極2のパターニング段差部分に加え、第2電極4形成時に、有機発光層3に第2電極用蒸着マスク8が接触する可能性のある箇所に対応する部分に絶縁膜5を形成する。
【0044】
図6に、図5の(b)ラインにおける断面図を示す。図6では、絶縁膜5が第1電極2上の平坦な部分に設けられている。第2電極蒸着マスク8は、開口部の端部が絶縁膜5上にかかるようにする。そうすることで、第2電極用蒸着マスク8が有機発光層3に接触する部分が非発光素子部分となるため、発光素子にある有機発光層3を傷つけなくて済む。
【0045】
本実施形態において、絶縁膜5は縦横に連続的に形成する。絶縁膜5の塗布条件を図4で示した条件とすると、100mm角の発光素子の場合、4秒で絶縁膜5の描画が可能であり、15面取りのマスタ−基板でも1分間で描画が可能である。
【0046】
更に大型の基板を用いる場合は、1つの発光素子に対して単一ノズル6が配置されるよう基板1上に複数の単一ノズル6を配置することにより、複数の発光素子に同時に絶縁膜5を描画しても良い。それにより、更なる処理速度の向上も容易に可能となる。
【0047】
上記第1実施形態及び第2実施形態によれば、フォトリソグラフフィを用いることなく、フォトレジストを直接形成したい部分にのみ、直接塗布描画し、ベークするのみで絶縁膜5を形成することができる。そのため、従来のフォトリソグラフィ技術と比較して、絶縁材料の使用量を低減することができる上、従来のベーク炉を使用するのみで新たな設備は必要としない。
【0048】
また、ノズルを一軸で、更に基板を一軸で、プログラム可動させることにより、多種多様の素子サイズの変更に瞬時に対応可能となる。
【0049】
また、ロール印刷のように直接基板に接触して転写する必要が無いため、基板の凹凸やうねりや歪のような不良発生要因に対しても全く影響なく製造が行える。
【符号の説明】
【0050】
1 基板
2 第1電極
3 有機発光層
4 第2電極
5 絶縁膜
6 単一ノズル
7 有機用蒸着マスク
8 第2電極用蒸着マスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1電極と有機発光層と第2電極とが順に積層され、平面視した場合に前記第2電極が前記第1電極と交差するよう配置された有機EL素子を製造する方法であって、
第1電極が形成された基板上の、前記第1電極と前記第2電極とが交差する領域に対応する所定部分にのみ、非接触方式で絶縁材料をパターン加工することなく塗布して絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
該絶縁膜形成工程の後、開口部を有する蒸着マスクを用いて、前記交差する領域内に位置する前記第1電極上に、有機発光層を真空蒸着により形成する有機発光層形成工程と、
該有機発光層形成工程の後、前記蒸着マスクとは異なる開口部を有する別の蒸着マスクを用いて、前記有機発光層上に第2電極を形成する第2電極形成工程と、
を備える照明用有機EL素子の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁膜形成工程が、
単一ノズルを前記第1電極に対して間隔をあけて配置し、前記単一ノズルから前記第1電極が形成された基板の前記所定部分に向けて前記絶縁材料を断続的に吐出するステップと、
前記基板または前記単一ノズルを相対的に移動させて、前記所定部分に連続した絶縁膜を形成するステップと、
を含む請求項1に記載の照明用有機EL素子の製造方法。
【請求項3】
前記所定部分を、平面視した場合に前記第1電極の縁部と前記第2電極の面が交差する領域、または前記第1電極の面と前記第2電極の縁部が交差する領域の少なくとも一方に対応する部分とする請求項1または請求項2に記載の照明用有機EL素子の製造方法。
【請求項4】
基板上に第1電極と有機発光層と第2電極とが順に積層された発光素子を備え、平面視した場合に前記第2電極が前記第1電極と交差するよう配置された有機EL素子であって、
第1電極が形成された基板上の、前記第1電極と前記第2電極とが交差する領域に対応する所定部分にのみ、非接触方式で有機絶縁材料をパターン加工することなく塗布して形成された有機絶縁膜を備える照明用有機EL素子。
【請求項5】
前記所定部分が、前記第1電極の縁部と前記第2電極の面が交差する領域、または前記第1電極の面と前記第2電極の縁部が交差する領域の少なくとも一方とする請求項4に記載の照明用有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−146606(P2012−146606A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6024(P2011−6024)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】