説明

熱エネルギー回収システムの性能検証装置

【課題】小型で可搬性に優れており、製造工程等から排出される温排水の熱エネルギーを回収するとともに、高温水を生成して製造工程の熱消費設備に供給するシステムの事前評価ができる熱エネルギー回収システムの性能検証装置を提供する。
【解決手段】ヒートポンプシステムを利用して、排水中の熱エネルギーを回収し、温排水を常温まで冷却するとともに、給水から高温水を生成するシステムの性能検証を行う熱エネルギー回収システムの性能検証装置である。温排水槽2と、検証用ヒートポンプシステム1と、冷却側熱交換器3と、加熱側熱交換器4と、高温水槽5と、検証用ヒートポンプシステム1の稼動能力を測定する測定手段7と、移動手段とを備える。検証用ヒートポンプシステム1を稼動させるとともに、温排水及び給水を流通させて性能を監視することにより、熱エネルギー回収システムの性能の事前評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の製造工程で排出される温排水中の熱エネルギーを回収して、製造工程で再利用するとともに、温排水の熱量を施設外へ放出あるいは排水処理可能な温度まで低減するシステムを導入する前に、その機能と効果等を事前に評価するための熱エネルギー回収システムの性能検証装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場等の製造工程から排出される排水は、70〜40℃の温排水が多くを占めており、排水処理または構外(下水等を含む)に放出するためには常温まで排水温度を低下させる必要がある。このため、特許文献1に示すような強制冷却(ヒートポンプの冷水生成機能を利用したものを含む)や、加水冷却が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−257791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のような、ヒートポンプを利用して温排水の冷却を行うシステムの導入に当たっては多額の設備費用を必要とするため、本格システム設置前に十分な事前評価が求められる。しかしながら、製造工程等から排出される温排水の熱エネルギーを回収する(これにより、温排水温度を常温まで低下させる)とともに、高温水を生成して製造工程の熱消費設備に供給するシステムにおける事前評価(検証)用の装置はない。
【0005】
また、事前評価用の装置は、本格システムとは異なって長期間設置するものではなく、複数個所において、複数回にわたって使用できるようにするのが望ましい。このため、装置が小型なもので、可搬性に優れたものが望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、小型で可搬性に優れており、製造工程等から排出される温排水の熱エネルギーを回収するとともに、高温水を生成して製造工程の熱消費設備に供給するシステムの事前評価ができる熱エネルギー回収システムの性能検証装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置は、ヒートポンプシステムを利用して、排水中の熱エネルギーを回収し、温排水を常温まで冷却するとともに、給水から高温水を生成する熱エネルギー回収システムの性能検証を行う熱エネルギー回収システムの性能検証装置であって、温排水が貯蔵された温排水槽と、検証用ヒートポンプシステムと、温排水との熱交換によって温排水の熱エネルギーを回収し、前記検証用ヒートポンプシステムとの間で第1伝熱媒体が循環して、この第1伝熱媒体と温排水との間で熱交換を行って温排水を冷却する冷却側熱交換器と、給水との熱交換によって、前記検証用ヒートポンプシステムとの間で第2伝熱媒体が循環して、この第2伝熱媒体と給水との間で熱交換を行って給水から高温水を生成する加熱側熱交換器と、前記高温水を貯留する高温水槽と、前記検証用ヒートポンプシステムの稼動能力を示すデータを測定する測定手段と、前記温排水槽、検証用ヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器、及び測定手段を移動可能とする移動手段とを備え、前記検証用ヒートポンプシステムを稼動させるとともに、前記温排水及び給水を流通させて、前記測定手段にて測定されたデータに基づいて前記検証用ヒートポンプシステムの稼働能力を監視することにより、前記熱エネルギー回収システムの性能検証を行うものである。
【0008】
本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置によれば、システム(本発明の性能検証装置にて性能を検証すべき本格システム)の設置前に、システムの性能の事前評価を行うことができ、本格システム展開時の効果や運用上の課題を確認できる。すなわち、本発明の装置を設置して実際に稼動させることによって、機器の稼動能力だけでなく、稼動上の問題(例えば、温排水中の異物の存在、長時間の使用による機器の汚れや損傷、温排水の性状が系統に及ぼす影響)を含めた性能評価を行うことができる。この稼動上の問題は、コンピュータシミュレーションでは得ることができないため、本発明では、コンピュータシミュレーションよりも正確な性能評価を行うことができる。この場合、本格システムは、温排水槽、いわゆる熱回収型のヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器を備え、強制冷却や加水冷却が不要となり、温排水は熱回収されて冷却されるとともに、温排水にて回収された熱により高温水を生成できるシステムである。このシステムは、温排水の冷却と高温水の生成を同時に行うため、回収された熱エネルギーを製造工程の一部エネルギーとして利用することも可能であり、事前検証の期間中も消費および生成されたエネルギーを有効活用できるものである。
【0009】
しかも、移動手段を備えているため、性能を検証すべきシステムの設置場所又はその近傍まで、温排水槽、検証用ヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器、及び測定手段を移動させて、その場所で実際に性能検証することが可能となる。ここで、本明細書において「移動」とは、本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置が、ある場所から別の場所に位置を変える(変位する)ことを意味している。この場合、変位の程度は問わず、変位後の位置と変位前の位置とが遠距離である場合も近距離である場合も含む。また、変位させるための経路は問わず、地面に沿った経路での変位、地面に沿わない経路での変位、地面に沿った経路と沿わない経路との両方の変位を含み、平面視においても、直線的な経路での変位、迂回した経路での変位を含む。
【0010】
前記移動手段は、前記温排水槽、検証用ヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器、及び測定手段を設置する板状部材を備えることが好ましい。これにより、板状部材の上で温排水槽、検証用ヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器、及び測定手段を一体化させることができて、輸送手段(本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置を輸送するもの)により移動させやすいものとなる。また、設置、除去作業も容易なものとなる。
【0011】
前記測定手段は、温排水の冷却側熱交換器への入口温度及び出口温度の温度差を検出する第1温度測定部と、温排水の流量を測定する第1流量測定部と、給水の加熱側熱交換器への入口温度及び出口温度の温度差を検出する第2温度測定部と、給水の流量を測定する第2流量測定部と、前記検証用ヒートポンプシステムの圧縮機の動力を検出する動力測定部とを備えたものとできる。
【0012】
前記構成において、板状部材を鋼製とするのが望ましい。
【0013】
前記測定手段とは離間した位置に、前記測定手段にて取得したデータの処理を行う処理手段を備え、測定手段のデータを処理手段へ伝送する通信手段を備えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置は、小型で可搬性に優れており、製造工程等から排出される温排水の熱エネルギーを回収するとともに、高温水を生成して製造工程の熱消費設備に供給するシステムの事前評価が可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置を示す概念図である。
【図2】本発明の熱エネルギー回収システムのブロック図である。
【図3】本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置の正面図である。
【図4】本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置の平面図である。
【図5】本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置の側面図である。
【図6】本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置にて性能を検証すべき本格システムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置の概念図である。このシステムは、本格システム(温排水槽、いわゆる熱回収型のヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器を備え、強制冷却や加水冷却が不要となり、温排水は熱回収されて冷却されるとともに、温排水にて回収された熱により高温水を生成できる熱エネルギー回収システム)の導入前に、本格システムの性能検証を行うものである。
【0018】
本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置は、検証用ヒートポンプシステム1と、温排水が貯蔵された温排水槽2と、冷却側熱交換器3と、加熱側熱交換器4と、高温水槽5と、測定手段7と、移動手段とを備えている。
【0019】
検証用ヒートポンプシステム1は、いわゆる熱回収型のヒートポンプシステムである。すなわち、検証用ヒートポンプシステム1は、図1に示すように、圧縮器16、加熱器17、膨張弁18、及び冷却器19とを備え、これらの各機器は、冷媒通路20を介して接続されており、冷媒通路20内には、冷媒が充填されている。そして、検証用ヒートポンプシステム1と冷却側熱交換器3とで、後述する熱交換回路21が形成され、検証用ヒートポンプシステム1と加熱側熱交換器4とで後述する給水回路25が形成されている。本実施形態では、冷媒としてCOを使用している。
【0020】
図1において圧縮器16は、冷媒を断熱圧縮して高温・高圧のガス(超臨界状態)にするものであり、加熱器17(水熱交換部)は、圧縮器16から供給された高温・高圧のガス(超臨界状態)と、この検証用ヒートポンプシステム1へ導入された給水との間で熱交換することにより給水を加熱させるものである。膨張弁18は、加熱器17で低温・高圧となったガス(超臨界状態)冷媒を膨張させて低温・低圧の液体とする弁である。冷却器19(冷熱交換部)は、膨張弁18を通過した低温・低圧の冷媒と後述する熱交換回路21の伝熱媒体との間で熱交換することにより冷媒を蒸発させるものである。
【0021】
また、図1において検証用ヒートポンプシステム1の冷却器19は、熱交換回路21の一部を構成する。すなわち、熱交換回路21は、熱交換器3と冷却器19とを循環する配管にて接続されることにより形成されており、熱交換器3と冷却器19との間で第1伝熱媒体(低温冷媒)が循環する。これにより、冷却器19にて冷却された伝熱媒体(例えば20℃)が、熱交換器3に導入され、後述するように温排水との間で熱交換を行うことにより、伝熱媒体が例えば25℃に加熱される。伝熱媒体としては、例えば、水等の液体を使用することができる。
【0022】
また、図1において検証用ヒートポンプシステム1の加熱器17は、給水回路25の一部を構成する。すなわち、給水回路25は、熱交換器4と加熱器17とを循環する配管にて接続されることにより形成されており、熱交換器4と加熱器17との間で第2伝熱媒体(高温冷媒)が循環する。これにより、加熱器17にて加熱された伝熱媒体(例えば90℃)が、熱交換器4に導入され、後述するように給水との間で熱交換を行うことにより、伝熱媒体が例えば20℃に冷却される。伝熱媒体としては、例えば、水等の液体を使用することができる。
【0023】
図1において熱交換器3、4は、例えば凹凸に表面が加工された金属製の板を合わせて温冷媒体の通路を形成したプレート形熱交換器である。冷却側熱交換器3は、配管を介して温排水が流通するようになっており、温排水からの熱は、前記した熱交換回路21を循環する低温冷媒と熱交換し、例えば40℃の温排水を30℃に冷却する。加熱側熱交換器4は、配管を介して給水が流通するようになっており、給水は、前記した給水回路25を循環する高温冷媒と熱交換し、例えば15℃の給水を85℃に加熱する。
【0024】
図1において温排水槽2は、温排水を貯蔵するものであり、例えばタンクにて構成されている。そして、このタンクは、その温排水の温度(例えば60℃)に保温できる機能を有している。温排水槽2からは、温排水が流通する配管23が連結されており、この配管23は、冷却側熱交換器3内を通って冷却側熱交換器3の外に出る。この配管23の先端部は、温排水を排出する排出口となる。
【0025】
図1において高温水槽5は、高温水を貯蔵するものであり、例えばタンクにて構成されている。そして、このタンクは、その高温水の温度(例えば85℃)に保温できる機能を有している。給水が流通する配管24は、加熱側熱交換器4内を通って加熱側熱交換器4の外に出て、高温水槽5に連結されている。
【0026】
温排水槽2の上流側に、冷却側熱交換器3への異物の流入を規制するフィルタを設けている。すなわち、温排水槽2の上流側には、除塵装置6が設けられており、この除塵装置6は旋回流またはフィルタを利用して異物を分離する機能を備えたものとなっている。ここで旋回流式の除塵装置6に導入された温排水は、旋回流が発生し、温排水内の塵および残留固形物は、旋回流に合わせて分離されケーシング外に排出される。除塵装置としては、例えば特開2009−44985に記載された除塵装置と同様のものを使用する。これにより、温排水中の塵や残留固形物等の異物が冷却側熱交換器3内へ混入するのを防止することができる。
【0027】
図1において測定手段7は、検証用ヒートポンプシステム1の稼動能力を測定するものである。測定手段7は、第1温度測定部30と、第1流量測定部34と、第2温度測定部32と、第2流量測定部35と、検証用ヒートポンプシステム1の圧縮機16の動力を検出する動力測定部36とを備えている。
【0028】
第1温度測定部30は、冷却側熱交換器3の温排水の上流側(入口側)の温排水の温度を検出する上流側温度センサ30aと、下流側(出口側)の温排水の温度を検出する温排水の下流側温度センサ30bとで構成されている。第1流量測定部34は、温排水の流量を検出する流量センサにて構成されている。これにより、温排水の冷却側熱交換器3への入口温度及び出口温度の温度差と、温排水の流量とから、冷却側熱交換器3の冷却能力が算出できる。冷却側熱交換器3の冷却能力は、冷却器19の冷却能力と等しくなる。従って、第1温度測定部30と、第1流量測定部34とから、冷却器19の冷却能力がわかる。
【0029】
第2温度測定部32は、加熱側熱交換器4の給水の上流側(入口側)の給水の温度を検出する上流側温度センサ32aと、下流側(出口側)の給水(この場合、高温水)の温度を検出する給水の下流側温度センサ32bとで構成されている。第2流量測定部35は、高温水の流量を検出する流量センサにて構成されている。これにより、給水の加熱側熱交換器4への入口温度及び出口温度の温度差と、高温水の流量とから、加熱側熱交換器4の加熱能力が算出できる。加熱側熱交換器4の加熱能力は、加熱器17の加熱能力と等しくなる。従って、第2温度測定部32と、第2流量測定部35とから、加熱器17の加熱能力がわかる。
【0030】
図2に示すように、測定手段7(つまり、本発明の熱エネルギー回収システムの性能評価検証装置)とは離間した位置に、測定手段7にて取得したデータの処理を行う処理手段37を備える。そして、測定手段7と処理手段37とは、公知公用の通信手段33を介して、測定手段7のデータが処理手段37へ伝送できるようになっている。通信手段33は有線であっても無線であってもよい。このようにして、評価用に収集・保存されたデータは予めプログラムされた周期で評価検証データを処理する遠隔地にも無線や有線の通信で伝送されるとともにシステム異常の警報や保護装置の動作も通信手段を介して確認することができる。
【0031】
移動手段は、少なくとも板状部材10を備える。本実施形態では、移動手段は、板状部材10と吊下手段9とで構成されている。すなわち、前記した検証用ヒートポンプシステム1、温排水槽2、高温水槽5、冷却側熱交換器3、加熱側熱交換器4、及び測定手段7は、図3及び図4に示すように矩形状の板状部材10に載置されている。この板状部材10は鋼製としている。この板状部材10に、吊下手段9が設けられている。
【0032】
吊下手段9は、4本のロープ材11a、11b、12a、12b(図3〜図5参照)と、吊下棒13と、嵌合孔部14とからなる。2本のロープ材11a、12aが、板状部材10の長手方向辺部の一方に離間して固定されており、別の2本のロープ材11b、12bが、板状部材10の長手方向辺部の他方に、ロープ材11a、12aと相対向するように設けられている。そして、相対向する一対のロープ材11a、12aは、図5に示すように吊下棒13の一端部に連結されるとともに、相対向する一対のロープ材12aは、吊下棒13の他端部に連結されている。吊下棒13の中央部には、嵌合孔部14が設けられており、この嵌合孔部14に、例えば小型クレーンのクレーンフック15等を嵌合させて、板状部材10に設置された装置全体を持ち上げることができる。
【0033】
次に、本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置を使用する方法について説明する。本実施形態では、輸送手段としてクレーンを使用する場合について説明する。まず、嵌合孔部14にクレーンフック15等を嵌合させて上方へ持ち上げると、吊下棒13は、ロープ材11a、11b、12a、12bを介して板状部材10より上方に離間した状態となる。さらに上方へ持ち上げると、板状部材10がクレーンフック15から吊下状態となって、温排水槽2、検証用ヒートポンプシステム1、高温水槽5、冷却側熱交換器3、加熱側熱交換器4、及び測定手段7が持ち上げられた宙吊り状態となる。これにより、熱エネルギー回収システムの性能検証装置を、一般輸送手段に積載し、設置すべき所望の位置にまで移動させる。
【0034】
そして、熱エネルギー回収システムの性能検証装置を稼動させて性能評価を行う。すなわち、温排水系統から検証用ヒートポンプシステム1への送水系統と給水系統から検証用ヒートポンプシステム1への給水系統が確保されていることを確認し、検証用ヒートポンプシステム1を作動させる。このとき、図1に示すように給水回路25に例えば15℃の水を給水し、配管24を介して加熱側熱交換器4を流通させる。これにより、給水は加熱側熱交換器4にて、給水回路25を循環する高温冷媒と熱交換して、例えば85℃の高温水となる。この高温水は、高温水槽5に貯留される。
【0035】
一方、これと同時に、例えば40℃の温排水は、配管23を介して冷却側熱交換器3を流通する。これにより、温排水は冷却側熱交換器3にて、熱交換回路21を循環する低温冷媒と熱交換して、例えば30℃の排水となる。
【0036】
このとき、測定手段7は、表1に示すように、冷却側熱交換器3の上流側(入口側)の温排水の温度と流量を検出するととともに、下流側(出口側)の温排水の温度を検出する。そして、温度及び流量の差から回収熱量を算出し、冷却器19の冷却能力を算出する。また、同様に加熱側熱交換器の上流側(入口側)の給水の温度を検出するとともに、下流側(出口側)の給水(この場合、高温水)の流量、温度を検出する。これにより、加熱器17の加熱能力を算出する。それに加えて、動力測定部36から、消費電力を測定する。このように検出されたデータは、通信手段33を介して処理手段37に伝達されて、処理手段37にて前記データに基づいて回収熱量を算出する。このように、検証用ヒートポンプシステム1を稼動させるとともに、温排水及び給水を流通させて、測定手段7にて測定されたデータに基づいて検証用ヒートポンプシステム1の稼働能力を監視することにより、本格システム(熱エネルギー回収システム)の性能の事前検証を行うことができる。
【表1】

【0037】
図6に、本格システムの概念図を示す。本格システムはヒートポンプシステムが7台カスケード接続されたものであり、1台の検証用ヒートポンプシステム1の性能を検証することにより、図6に示すような本格システムの性能を検証することができる。このシステムは、図6に示すように、冷却手段55と、保温水槽54とを備え冷温併給ヒートポンプシステム52a〜52gと保冷水槽60とを備えている。冷却手段55は、7台のヒートポンプシステム52a〜52gと、ヒートポンプシステム52a〜52gに対応する熱交換器53a〜53gとから構成されており、ヒートポンプシステム52a〜52gと熱交換器53a〜53gと保温水槽54と温熱消費設備51が配管で接続されている。また、1台のヒートポンプシステム61が、保冷水槽60を介して冷熱消費設備62に配管で接続されている。
【0038】
前記構成を備えた本格システムは、温排水との熱交換によって温排水の熱エネルギーを回収し、ヒートポンプシステムとの間で伝熱媒体が循環して、この伝熱媒体と温排水との間で熱交換を行うものである。すなわち、本格システムは、温熱消費設備(高温水を消費する設備であり、例えば、清涼飲料水や薬品等の製造工程において、残渣洗浄やプロセス殺菌のための洗浄、加熱殺菌が実施される設備)から放出された温排水を所定冷却温度まで冷却して外部へ排出するとともに温排水から回収した熱エネルギーで高温水や冷水を生成して製造工程の温熱消費設備や冷熱消費設備に再利用するものである。
【0039】
本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置は、小型で可搬性に優れており、製造工程等から排出される温排水の熱エネルギーを回収するとともに、高温水や冷水を生成して製造工程の熱消費設備や冷熱消費設備に供給する本格システムの事前評価が可能なものとなる。
【0040】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、検証用ヒートポンプシステム1の数、及び熱交換器3、4の数を複数設けてもよい。検証用ヒートポンプシステム1を循環する伝熱媒体としては、水に限られず、種々の液体とすることができる。また、温排水を排水する際の温度や、加熱された後の給水温度、液体量、等は種々設定することができる。前記実施形態では、移動手段を板状部材10と吊下手段9とで構成したが、温排水槽、検証用ヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器、及び測定手段を移動させるものであれば、板状部材10を備えていなくてもよい。また、板状部材10を備える場合は、吊下手段9を省略し、輸送手段をクレーン以外のものとしてもよい。すなわち、本発明の熱エネルギー回収システムの性能検証装置を宙吊り状態で移動させたが、宙吊りすることなく、例えばフォークリフト、トラック等に載置した状態で、設置位置まで移動させてもよい。この場合、輸送手段に載置した状態で使用してもよい。
【0041】
検証評価システムの運転は自動プログラムで運転されていてもよい。すなわち、システム運転中の警報や保護装置に作動状況や検証用データの採取については、モデム通信や無線通信を介して、遠隔地でも確認できるように設計してもよい。また、前記実施形態では温排水槽の上流側に除塵装置を設けたが、このような除塵装置を省略してもよい。また、冷却側熱交換器にて冷却された温排水を、排水することなく冷水として供給することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 検証用ヒートポンプシステム
2 温排水槽
3 冷却側熱交換器
4 加熱側熱交換器
5 高温水槽
7 測定手段
9 吊下手段
10 板状部材
37 処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプシステムを利用して、排水中の熱エネルギーを回収し、温排水を常温まで冷却するとともに、給水から高温水を生成する熱エネルギー回収システムの性能検証を行う熱エネルギー回収システムの性能検証装置であって、
温排水が貯蔵された温排水槽と、
検証用ヒートポンプシステムと、
温排水との熱交換によって温排水の熱エネルギーを回収し、前記検証用ヒートポンプシステムとの間で第1伝熱媒体が循環して、この第1伝熱媒体と温排水との間で熱交換を行って温排水を冷却する冷却側熱交換器と、
給水との熱交換によって、前記検証用ヒートポンプシステムとの間で第2伝熱媒体が循環して、この第2伝熱媒体と給水との間で熱交換を行って給水から高温水を生成する加熱側熱交換器と、
前記高温水を貯留する高温水槽と、
前記検証用ヒートポンプシステムの稼動能力を示すデータを測定する測定手段と、
前記温排水槽、検証用ヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器、及び測定手段を移動可能とする移動手段と、
前記検証用ヒートポンプシステムを稼動させるとともに、前記温排水及び給水を流通させて、前記測定手段にて測定されたデータに基づいて前記検証用ヒートポンプシステムの稼働能力を監視することにより、前記熱エネルギー回収システムの性能検証を行うことを特徴とする熱エネルギー回収システムの性能検証装置。
【請求項2】
前記測定手段は、温排水の冷却側熱交換器への入口温度及び出口温度の温度差を検出する第1温度測定部と、温排水の流量を測定する第1流量測定部と、
給水の加熱側熱交換器への入口温度及び出口温度の温度差を検出する第2温度測定部と、給水の流量を測定する第2流量測定部と、
前記検証用ヒートポンプシステムの圧縮機の動力を検出する動力測定部とを備えたことを特徴とする請求項1の熱エネルギー回収システムの性能検証装置。
【請求項3】
前記移動手段は、前記温排水槽、検証用ヒートポンプシステム、高温水槽、冷却側熱交換器、加熱側熱交換器、及び測定手段を設置する板状部材を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2の熱エネルギー回収システムの性能検証装置。
【請求項4】
前記板状部材を鋼製としたことを特徴とする請求項3の熱エネルギー回収システムの性能検証装置。
【請求項5】
前記測定手段とは離間した位置に、前記測定手段にて取得したデータの処理を行う処理手段を備え、測定手段のデータを処理手段へ伝送する通信手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項の熱エネルギー回収システムの性能検証装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−237510(P2012−237510A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106954(P2011−106954)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【出願人】(000157005)関電プラント株式会社 (7)