説明

熱プレス機

【課題】 被加熱押圧物にマークを迅速かつ確実に接着することができる熱プレス機を提供すること。
【解決手段】 衣類82にマーク80A,80Bを載せ、これらを上下のシリコンゴムヒーター74,94によって挟持して加熱する。マーク80A,Bのホットメルト接着剤は両面側から加熱されて迅速(片面からの加熱対比で約半分の時間)に溶融し、相手の繊維に浸透して絡み付く。その後、上下のシリコンゴムヒーター74を上方に移動すると、圧縮バネ102で付勢されたスライドガイド96が衣類82を押し上げて下側のシリコンゴムヒーター94から離間させる。衣類82、マーク80A,80Bは、両シリコンゴムヒーターから離れて外気によって迅速に冷却され、接着剤が固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱プレス機にかかり、特に、少なくとも繊維を含んで形成されたユニフォームやシャツ等の被加熱押圧物に、短繊維植設体やワッペン等のマークを加熱押圧によって形成する熱プレス機に関する。
【背景技術】
【0002】
自己の所属する部門やチーム等を他に提示することや、他と識別することを目的として、シャツやユニフォーム等の衣類に番号やシンボル等のマークを張り付けることが一般的になされている。このマークを容易に衣類に張り付けるため、衣類に加熱押圧により張り付け可能な熱圧着型のマークまたは熱転写型のマークが知られている。
【0003】
このマークは、通常、衣類側の面に熱溶融性の接着剤(所謂ホットメルト接着剤)が塗布されており、所定の温度環境下で接着剤が溶融し、マークへの所定圧力付加によって接着剤が衣類に浸透してマークと衣類とが一体化されることになる。
【0004】
このマークを衣類に接着するための装置として、例えば、特許文献1に記載されているような熱プレス機が知られている。
【0005】
この熱プレス機では、平面上の基台の上に衣類とマークを載せて、マークと衣類をヒーターで加熱された加熱板との間で挟持するように衣類とマークを加熱板で上から押圧し、接着剤を溶融させている。
【特許文献1】特開平11―315468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の熱プレス機では、熱板の温度を例えば150〜160°Cに加熱し、接着剤を溶融させて衣類に接着剤を浸透させるために、挟持押圧時間を30〜45秒間要していた。
【0007】
しかしながら、市場では、大量に処理をする場合に、より短い時間で効率的に接着作業を行いたいという要望がある。
【0008】
短時間で接着剤を溶融するには、熱板の温度を上げれば良いと考えるが、衣類やマークの素材(例えば、合成繊維)を変質させたり、表面の状態を変えないようにするには、現在の温度以上に設定することが出来ない。
【0009】
本発明は、上記事実を考慮して、被加熱押圧物にマークを迅速かつ確実に接着することができる熱プレス機を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、少なくとも繊維を含んで形成された被加熱押圧物にマークを加熱押圧して接着するための熱プレス機であって、前記被加熱押圧物と前記マークとを挟持するための第1の押圧部材、及び第2の押圧部材と、前記第1の押圧部材に設けられ、前記被加熱押圧物、及び前記マークの少なくとも一方を加熱する第1の加熱手段と、前記第2の押圧部材に設けられ、前記被加熱押圧物、及び前記マークの少なくとも一方を加熱する第2の加熱手段と、前記第1の押圧部材と前記第2の押圧部材との間で前記被加熱押圧物と前記マークとを挟持押圧する第1の位置と、前記第1の位置よりも前記第1の押圧部材と前記第2の押圧部材とを離間させて前記被加熱押圧物と前記マークとに押圧力を付与しない第2の位置との間を移動するように、前記第1の押圧部材及び前記第2の押圧部材を相対移動可能に支持する支持手段と、前記第2の位置においては前記被加熱押圧物と前記マークを前記第1の押圧部材、及び前記第2の押圧部材の少なくとも一方から離間させ、前記第1の位置においては、前記被加熱押圧物と前記マークとを密着可能とさせる離間手段と、を有することを特徴としている。
【0011】
次に、請求項1に記載の熱プレス機の作用を説明する。
【0012】
請求項1に記載の熱プレス機では、例えば、第1の押圧部材を水平に配置し、第2の押圧部材を第1の押圧部材の上方に配置し、両者は支持手段により相対移動可能に支持される。
【0013】
被加熱押圧物とマークを接着するには、先ず、第1の加熱手段、及び第2の加熱手段を加熱する。
【0014】
次に、被加熱押圧物を第1の押圧物の上に配置し、被加熱押圧物の上の所定位置にマークを配置する。この状態では、離間手段は、被加熱押圧物とマークを、第1の押圧部材から離間させている。したがって、被加熱押圧物及びマークを配置したのみの状態では、マークの接着剤が加熱されて溶解することがなく、レイアウトの調整等を時間をかけて行うことができる。
【0015】
次に、第2の押圧部材を下降し、第1の押圧部材と第2の押圧部材との間で被加熱押圧物とマークを挟持押圧する。被加熱押圧物とマークには、それぞれ第1の押圧部材と第2の押圧部材との両方からの熱が付与され、片側からのみ熱を付与される従来の熱プレス機よりも熱溶融性の接着剤は短時間で溶融し、押圧力によって溶融した接着剤が、例えば、衣類等の被加熱押圧物に素早く浸透する。
【0016】
その後、第2の押圧部材を被加熱押圧物及びマークから離れるように上昇させると、離間手段により被加熱押圧物及びマークは第1の押圧部材から離間して加熱されなくなる。これにより、被加熱押圧物及びマークは裏表面が外気に触れることで効率的に冷却されて温度が下がり、熱溶融性の接着剤が固化してマークが被加熱押圧物に対して完全に接着される。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱プレス機において、前記第1の加熱手段、及び前記第2の加熱手段の温度を各々独立して制御する温度制御手段を有する、ことを特徴としている。
【0018】
次に、請求項2に記載の熱プレス機の作用を説明する。
【0019】
請求項2に記載の熱プレス機では、温度制御手段により、第1の加熱手段、及び第2の加熱手段の温度を各々独立することで、第1の押圧部材の温度と、第2の押圧部材の温度とを個別に所望の温度に設定することができる。例えば、被加熱押圧物、及びマークの材質、厚さ、接着剤の種類等により接着の温度条件も変わるので、条件が変わっても確実な接着を行えるように第1の押圧部材、及び第2の押圧部材の各々について設定温度の変更を行うことが出来る。
【0020】
したがって、被加熱押圧物、及びマークの材質、厚さ、接着剤の種類等に応じて、最適な加熱条件を設定できる。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の熱プレス機において、前記第1の押圧部材と前記第2の押圧部材との間に配置され、前記被加熱押圧物と前記マークとが相対移動しないように前記被加熱押圧物、及び前記マークの少なくとも一方を押圧する保持手段を有する、ことを特徴としている。
【0022】
次に、請求項3に記載の熱プレス機の作用を説明する。
【0023】
第2の押圧部材を第1の押圧部材から離間させることで、被加熱押圧物とマークとは外気により冷却されるが、接着剤が固化するまでの間は接着剤が液状であり、冷却過程における被加熱押圧物やマークの変形等により、被加熱押圧物とマークとの相対位置がずれる場合がある。このような場合には、保持手段により、マーク、及び被加熱押圧物の少なくとも一方を軽く押えることで、被加熱押圧物とマークとの相対位置がずれることを防止できる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の熱プレス機において、前記被加熱押圧物を平面状に支持可能とする被加熱押圧物支持手段を有する、ことを特徴としている。
【0025】
次に、請求項4に記載の熱プレス機の作用を説明する。
【0026】
衣類等の被加熱押圧物にマークを接着する際に、被加熱押圧物に皺等がよってプレスされないように、被加熱押圧物支持手段で被加熱押圧物を平面状に支持することが出来る。
【0027】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の熱プレス機において、前記第1の押圧部材の表面、及び前記第2の押圧部材の表面の少なくとも一方には、前記第1の位置にて前記被加熱押圧物、及び前記マークを挟持したときに、前記被加熱押圧物、及び前記マークに押圧されて弾性変形する弾性部材が設けられている、ことを特徴としている。
【0028】
次に、請求項5に記載の熱プレス機の作用を説明する。
【0029】
例えば、第1の押圧部材の表面、及び第2の押圧部材の表面が各々金属等で平面で形成されている場合で、衣類等の被加熱押圧物に下層のマークを載せ、下層のマークの上にさらに上層のマークを載せて接着することを考えると、第1の押圧部材と第2の押圧部材とで被加熱押圧物、及びマークを挟持したときに、マークを重ねた厚い部分(即ち、被加熱押圧物と下層のマークと上層のマークとの3層部分)に主として圧力が作用し、これに比べて被加熱押圧物と下層のマークのみの薄い部分には圧力がさほど作用しないことになるので、下層のマークの接着が弱くなる虞がある。
【0030】
請求項5に記載の熱プレス機では、被加熱押圧物、及びマークを挟持したときに、第1の押圧部材の表面、及び第2の押圧部材の表面の少なくとも一方に設けられた弾性部材が被加熱押圧物、及びマークに押圧され、凹凸になじむように弾性変形するため、上述した被加熱押圧物と下層のマークのみの薄い部分にも弾性部材を押圧させることができ、弾性部材を介して熱、及び圧力を確実に付与することが出来る。
【0031】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の熱プレス機において、前記第1の位置における前記第1の押圧部材と前記第2の押圧部材との間の押圧力を変更可能とする圧力可変手段を有する、ことを特徴としている。
【0032】
次に、請求項6に記載の熱プレス機の作用を説明する。
【0033】
請求項6に記載の熱プレス機では、圧力可変手段により第1の押圧部材と第2の押圧部材との間の押圧力を変更することができる。例えば、被加熱押圧物、及びマークの材質、厚さ、接着剤の種類等により接着の条件も変わるので、条件が変わっても確実な接着を行えるように押圧力の変更を行うことが出来る。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように本発明の熱プレス機によれば、被加熱押圧物にマークを迅速かつ確実に接着することができる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照して本発明の熱プレス機の第1の実施形態を詳細に説明する。
【0036】
図1乃至図3に示すように、本実施の形態の熱プレス機10は、ベース12を備えており、ベース12上面には台座24が固定され、台座24には基台部26が取り付けられている(詳細は後述)。基台部26の上方には加圧部30(本発明の第1の押圧部材)が配置されている。加圧部30は、開閉リンク部40(本発明の支持手段)を介してベース12に取り付けられている。この開閉リンク部40は、ベース12に固定されたケーシング14によって覆われている。
【0037】
ケーシング14の前面の中心から分離した一方側(図1の矢印R方向側)には、電源スイッチ22及び電源ランプ20が取り付けられている。また、ケーシング14前面の他方側(図1の矢印L方向側)には、後述するシリコンゴムヒーター74,94の温度調節(設定)をするための上ヒーター温度調節部16A、下ヒーター温度調節部16B(本発明の温度制御手段)、及び加圧時間を設定するための加圧時間設定部18が取り付けられている。
【0038】
後述するように、加圧レバー28を旋回して加圧部30を基台部26へ向けて押圧すると、図示しないスイッチが入ってタイマーが作動し、加圧時間設定部18で設定した加圧時間が経過すると、図示しないブザー(ランプ等でも良い)によって加圧時間が経過したことを警告するようになっている。なお、加圧部30を持ち上げると警告は停止するようになっている。
【0039】
なお、図15には、温度制御系の電気回路(概略)が示されている。なお、図中の符号17はヒーターの温度を検出する温度検出素子であり、温度検出素子17で後述するシリコンゴムヒーターの温度を測定し、一定温度となるようにフィードバック制御を行っている。
【0040】
上記加圧部30は、バネ部70を備えている。バネ部70は4つのバネ72を備え加圧部30の上面と金属プレート34とに固定されている。この金属プレート34には、バネ部側とは反対側に、弾性を有する一定厚さとされた平板状のシリコンゴムヒーター74(本発明の第1の加熱手段、及び弾性部材)が貼り付けられている。シリコンゴムヒーター74の温度設定は、前述した上ヒーター温度調節部16Aによって行う。
【0041】
この加圧部30は開閉レバー32を備えている。この開閉レバー32はバネ部70による加圧を開始するまたは解除するためのものである。また、加圧部30はアーム64を備えており、アーム64は開閉リンク部40の一部を構成している。
【0042】
開閉リンク部40は、ベース12に固定された固定台46を備えている。固定台46には、シャフト51が回転可能に取り付けられ、シャフト51には中継板50が取り付けられている。この中継板50にはアーム64が固定されており、中継板50の回転により加圧部30がシャフト51を回転中心として旋回することになる。なお、固定台46にはストッパ48が固定されており、中継板50の反時計回りの回転を制限している。
【0043】
固定台46にはシャフト52が回転可能に取り付けられており、シャフト52にはアーム62の一端が取り付けられている。アーム62の他端は加圧レバー28の一端(グリップ側と逆側)が固定されている。アーム62の端側近傍にはシャフト56が回転可能に取り付けられており、シャフト56にはカム58の一方側が回転可能に取り付けられている。なお、カム58に形成された突起58Aには調整螺子84(本発明の圧力可変手段) が取り付けられており、この調整螺子84によって当て具60が突起58Aと接離する方向(矢印A方向)に移動するようになっている。
【0044】
また、アーム64の中腹部近傍にはシャフト54が回転可能に取り付けられており、シャフト54にはカム58の他方側が回転可能に取り付けられている。これらのシャフト51〜56によって連結された固定台46、中継板50、カム58、アーム62、64、によってリンク機構を構成している。なお、アーム64の一端(加圧部30と逆側)には、ベース12に一端が固定されたバネ42の他端及び固定台46に一端が固定されたバネ44の他端が固定されている。なお、これらバネ42、及びバネ44は引っ張りバネであり、加圧部30を持ち上げる方向に付勢している。
【0045】
従って、加圧レバー28を旋回することによって、加圧部30を基台部26へ向けて押圧方向に移動(図1及び図2の開放状態から、図3の閉止状態への移動)させたり押圧逆方向に移動させたりすることができる。
【0046】
ここで、図3の閉止状態で説明すると、調整螺子84によって当て具60を下方に移動すると、加圧部30は下方に押し下げられ、バネ72が圧縮されるので押圧力が高くなる。一方、調整螺子84によって当て具60を上方に移動すると、加圧部30は図3の状態よりも上方に位置することになり、バネ72の圧縮量が減り、押圧力が低くなる。
【0047】
また、シャフト51には、枠状のフレーム86を支持するアーム88の一端が回動可能に支持されている。フレーム86は、加圧部30の下方に配置され、耐熱性を有し、かつ ホットメルト用接着剤が付着し難く、また、万が一ホットメルト用接着剤が付着しても剥がれやすい材料、例えば、テフロン(登録商標)等のフィルム90が貼り付けられている。なお、フィルム90は、後述するマークの位置を確認し易い様に透明または半透明が好ましい。
【0048】
なお、フレーム86、フィルム90が本発明の保持手段を構成している。
【0049】
基台部26には、矩形のブロック92(本発明の第2の押圧部材)が取り付けられている。このブロック92の上面には、弾性を有する一定厚さとされた平板状のシリコンゴムヒーター94(本発明の第2の加熱手段、及び弾性部材)が貼り付けられている。シリコンゴムヒーター94の温度設定は、前述した下ヒーター温度調節部16Bによって行う。
【0050】
ブロック92の左右両側には、L字状に折り曲がったスライドガイド96が配置されている。スライドガイド96の側板96Aには、上下方向に延びる長孔98が形成されている。一方、ブロック92の側面には、長孔98と対向する位置に、ガイド軸100が取り付けられている。ガイド軸100は、丸棒状の軸部(図示せず)と、軸部の先端に形成されて軸部よりも径の大きな円板状の頭部100Aとを備えている。
【0051】
長孔98に、ガイド軸100の軸部が貫通して配置されており、スライドガイド96は、ブロック92の側部において、上下方向にスライド自在に支持されている。
【0052】
基台部26とスライドガイド96の天板96Bとの間には、スライドガイド96を上方に付勢する圧縮バネ102が配置されている。通常は、図1に示すように、スライドガイド96の天板96Bが、下側のシリコンゴムヒーター94よりも上方に位置している。なお、スライドガイド96、ガイド軸100、圧縮バネ102が本発明の離間手段を構成している。
(作用)
次に、本実施形態の熱プレス機10を用いて衣類にマークを接着する手順を説明する。
【0053】
先ず、電源投入して、温度調節部16A,Bによって加熱押圧時の温度調節(例えば、150〜160°C。)を行い、加圧時間設定部18によって加圧時間を設定する。これにより、シリコンゴムヒーター74,94は、温度調節部16A,Bによって設定された温度に加熱される。また、シリコンゴムヒーター74,94の温度は、電源投入後は、フィードバック制御やサーモスタット等によって電源が切られるまで一定に保たれる。なお、シリコンゴムヒーター74,94の温度が、設定した温度に達したことを示す表示(ランプ等)を設けても良い。
【0054】
次に、図4に示すように、スライドガイド96の上に衣類82(被加熱押圧物)を配置し、衣類82の皺を伸ばしてから図5に示す固定枠104(本発明の被加熱押圧物支持手段)をスライドガイド96の縁の外側に配置する。これにより、衣類82がスライドガイド96に固定される。なお、固定枠104は、刺繍枠の外枠と同様の構成であり、衣類82の生地の厚さに応じて螺子106によって径を微調整可能となっている。
【0055】
このようにして固定された衣類82の上にマーク80A,80Bを載置する。
【0056】
そして、フレーム86を下降させてフィルム90をマーク80A,80Bの上に置き、さらに、加圧レバー28を旋回し下降させる。加圧レバー28を下降させると、スライドガイド96が下方にスライドして圧縮バネ102が圧縮され、上側のシリコンゴムヒーター74と下側のシリコンゴムヒーター94との間に、フィルム90、マーク80A,80B、及び衣類82が挟持され(図6参照)、図示しないスイッチが入ってタイマーが作動する。
【0057】
上記のマーク80A,80Bは、周知のように、基布の裏面(図の下面)にホットメルト用接着剤が塗布されている。このホットメルト用接着剤は、所定温度(例えば、摂氏150度)で溶融するものである。従って、上側のシリコンゴムヒーター74と下側のシリコンゴムヒーター94とで衣類82及びマーク80A,80Bが挟持されたときにホットメルト用接着剤が両面側から加熱されて迅速(片面からの加熱対比で約半分の時間)に溶融する。そして、衣類82及びマーク80A,80Bは加圧されているので、マーク80Aの溶融したホットメルト用接着剤の一部が衣類82に浸透して衣類82の繊維に絡みつき、マーク80Bの溶融したホットメルト用接着剤の一部がマーク80Aに浸透してマーク80Aの繊維に絡みつく。なお、加圧時間設定部18によって設定する上記の加圧時間とは、上述したように、ホットメルト用接着剤が溶解して相手側の繊維に浸透して絡みつくのに必要とされる時間である。
【0058】
挟持後、加圧時間設定部18で設定した加圧時間が経過すると、図示しないブザーが鳴り、予め設定した加圧時間が経過したことが警告される。
【0059】
所定の加圧時間経過後、加圧レバー28を旋回し上昇させ、加圧部30を途中まで上昇させる。これにより、上側のシリコンゴムヒーター74がフィルム90、衣類82及びマーク80A,80Bから離れると共に、圧縮バネ102で付勢されたスライドガイド96が上昇して元の位置に戻り、スライドガイド96で支持された衣類82が下側のシリコンゴムヒーター94から離れ、衣類82及びマーク80A,80Bの加熱が行われなくなり、衣類82及びマーク80A,80Bは外気により迅速に自然冷却される(図6参照)。本実施形態では、衣類82及びマーク80A,80Bを自然冷却しているが、ファンによる送風で強制冷却しても良い。
【0060】
なお、衣類82及びマーク80A,80Bが冷却する過程で、熱収縮等により衣類82及びマーク80A,80Bの何れかかが動く場合があり、ホットメルト用接着剤が固化する前(即ち、接着される前)に、この動きによってマーク80A,80Bの位置がずれる場合もある。このようなずれを防止するには、ホットメルト用接着剤が固化するまで、フィルム90によってマーク80A,80Bを押えておけば良い。このとき、フィルム90にはフレーム86の重量が作用してマーク80A,80Bを押え付ける。
【0061】
ホットメルト用接着剤が固化した後、固定枠104を外して衣類82を取り除く。
【0062】
なお、本実施形態の熱プレス機10では、スライドガイド96に固定された衣類82にマーク80A,80Bを載置している状態では、衣類82、及びマーク80A,80Bが両シリコンゴムヒーターから離間して加熱されないので、マーク80A,80Bのレイアウトに時間がかかったとしてもホットメルト用接着剤が溶解することは無い。
【0063】
また、シリコンゴムヒーター74,94は、弾性変形し易いので、図8に示すように、両シリコンゴムヒーター間に衣類82及びマーク80A,80Bを挟持したときに、表面が凹凸形状に良く馴染み、マーク80A,80Bの縁部分を確実に押圧することができ、全体的に均一かつ確実な接着を行える。
【0064】
また、衣類82及びマーク80A,80Bの表面には、弾性体である平板状のシリコンゴムヒーター74が押し付けられるので、アイロン等の平面状の鉄板を押し付けるものに比較して、衣類82及びマーク80A,80Bの表面にプレス跡(アイロン跡)がつき難い。したがって、衣類82及びマーク80A,80Bの表面状態を損ねない。
【0065】
また、本実施形態の熱プレス機10では、上側のシリコンゴムヒーター74、及び下側のシリコンゴムヒーター94の温度をそれぞれ個別に設定でき、衣類82、及びマーク80A,80Bの材質、厚さ、接着剤の種類等に応じて、最適な加熱条件を設定できる。したがって、上側のシリコンゴムヒーター74、及び下側のシリコンゴムヒーター94のそれぞれの温度を、衣類82及びマーク80A,80Bの表面状態を損ねないように最適な温度に設定でき、これによって、衣類82及びマーク80A,80Bの表面状態を損ねないように接着作業を行うことが出来る。
[第2の実施形態]
次に、本発明の熱プレス機の第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0066】
第1の実施形態では、スライドガイド96に衣類82を固定することで、下側のシリコンゴムヒーター94から衣類82を離していたが、本実施形態では、図9に示すように、スライドガイド96の代わりとして、シリコンゴムヒーター94の両側にゴム等の弾性体からなるチューブ108を基台部26の上に取り付けている。チューブ108の中には空気が充填されており、上端位置がシリコンゴムヒーター94の上面よりも上に位置している。
(作用)
本実施形態の熱プレス機10では、図9に示すように、衣類82を配置して衣類82をチューブ108で支持する。このようにして固定された衣類82の上にマーク80A,80Bを載置する。そして、フレーム86を下降させてフィルム90をマーク80A,80Bの上に置き、さらに、加圧レバー28を旋回し下降させる。加圧レバー28を下降させると、図10に示すようにチューブ108が押し潰され、上側のシリコンゴムヒーター74と下側のシリコンゴムヒーター94との間に、フィルム90、マーク80A,80B、及び衣類82が挟持される。
【0067】
所定の加圧時間経過後、加圧レバー28を旋回し上昇させ、図11に示すように加圧部30を上昇させると、チューブ108が元の形状に戻り、衣類82が下側のシリコンゴムヒーター94から離れ、衣類82及びマーク80A,80Bの加熱が行われなくなり、衣類82及びマーク80A,80Bは外気により迅速に自然冷却される。
【0068】
また、本実施形態の熱プレス機10においても、図10に示すように、チューブ108に固定された衣類82にマーク80A,80Bを載置している状態では、衣類82、及びマーク80A,80Bが両シリコンゴムヒーターから離間して加熱されないので、マーク80A,80Bのレイアウトに時間がかかったとしてもホットメルト用接着剤が溶解することは無い。
【0069】
なお、本実施形態では、チューブ108の空気を出し入れしていないが、チューブ108にエアバルブを設け、コンプレッサーのホースをエアバルブに連結し、内圧の調整によって径を変更できるようにしても良い。
[第3の実施形態]
次に、本発明の熱プレス機の第3の実施形態を説明する。なお、前述した実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0070】
第2の実施形態では、チューブ108で衣類82を固定することで、下側のシリコンゴムヒーター94から衣類82を離していたが、本実施形態では、図12に示すように、チューブ108の代わりとして、屈曲させた板バネ110を基台部26に取り付けている。
(作用)
本実施形態の熱プレス機10では、図12に示すように、衣類82を配置して衣類82を板バネ110で支持する。このようにして固定された衣類82の上にマーク80A,80Bを載置する。そして、フレーム86を下降させてフィルム90をマーク80A,80Bの上に置き、さらに、加圧レバー28を旋回し下降させる。加圧レバー28を下降させると、図13に示すように板バネ110が変形し、上側のシリコンゴムヒーター94と下側のシリコンゴムヒーター74との間に、フィルム90、マーク80A,80B、及び衣類82が挟持される。
【0071】
所定の加圧時間経過後、加圧レバー28を旋回し上昇させ、図14に示すように加圧部30を上昇させると、板バネ110が元の形状に戻り、衣類82が下側のシリコンゴムヒーター94から離れ、衣類82及びマーク80A,80Bの加熱が行われなくなり、衣類82及びマーク80A,80Bは外気により迅速に自然冷却される。
【0072】
また、本実施形態の熱プレス機10においても、図12に示すように板バネ110に固定された衣類82にマーク80A,80Bを載置している状態では、衣類82、及びマーク80A,80Bが両シリコンゴムヒーターから離間して加熱されないので、マーク80A,80Bのレイアウトに時間がかかったとしてもホットメルト用接着剤が溶解することは無い。
[その他の実施形態]
上記実施形態では、シリコンゴムヒーター74,94を用いたが、接着部分の凹凸形状に馴染むように衣類82及びマーク80A,80Bにあたる部分が柔軟であれば良く、例えば、電気ヒーターで加熱する金属板(例えば、アイロンのようなもの)の表面に耐熱性のゴム等からなるシート状の弾性体を貼り付ける構成としても良い。
【0073】
上記実施形態では、被加熱押圧物とマークとをシリコンゴムヒーター74とシリコンゴムヒーター94で挟持して両側から加熱したが、シリコンゴムヒーター74、及びシリコンゴムヒーター94の何れか一方を、例えば、鉄板を電熱ヒーターで加熱する所謂鉄板ヒーターに代えても良い。
【0074】
なお、上記実施形態では、繊維を含んで形成されたユニフォームやシャツ等の被加熱押圧物に短繊維植設体やワッペン等のマークを加熱押圧によって張り付ける例を示したが、本発明はこれに限らず、被加熱押圧物としては、不織布、紙等の織物以外のものであっても良い。
【0075】
上記実施形態では、基布の裏面にホットメルト用接着剤を塗布したマーク80A,80Bを衣類82に接着する例を示したが、本発明の熱プレス機10は、マーク80A,80Bの代わりにマークを模った昇華染料を用い、加熱により昇華染料を昇華させて衣類82を染色させる用途(いわゆる昇華転写プリント)にも使用できる。
【0076】
上記実施形態では、加圧時間経過後、加圧レバー28を旋回して加圧部30を上昇させることで、上側のシリコンゴムヒーター74がフィルム90、衣類82及びマーク80A,80Bから離れると共に、スライドガイド96(またはチューブ108、または板バネ110)が元に戻って衣類82が下側のシリコンゴムヒーター94から離れて自然冷却されるようになっていたが、スライドガイド96、チューブ108、または板バネ110に代えて、衣類82の端に向けてファンやノズルから空気を送り込み、風力により衣類82を下側のシリコンゴムヒーター94から浮き上がらせても良い。また、送風することで衣類82、及びマーク80A,80Bを強制冷却でき、送風しない場合に比較して短時間で接着剤を固化させ、短時間で接着作業を終了させることも出来る。
【0077】
上記実施形態では、マーク80A,80Bを押えるためにフィルム90を用いたが、本発明はこれに限らず、熱が伝わり、かつマーク80A,80Bを押える機能を有していれば良く、フィルム90の代わりとして、布、ナイロン等のメッシュ(例えば、衣類をアイロンする際に、衣類とアイロンとの間に配置するテカリ防止用の当て布の様な物。)、面ファスナーの雄側(織編成又は不織布などの繊維製基布に多数の雄係合素子(鉤状の起毛)を植え付けたもので、ループ状の起毛を有する雌側に対して着脱自在とされる。)等を用いることもできる。
【0078】
また、上記実施形態では、衣類82を固定するために、スライドガイド96の上に衣類82を載せ、固定枠104を用いてスライドガイド96の縁と固定枠104との間に衣類82を挟んだが、本発明はこれに限らず、外枠と内枠からなる刺繍枠を用い、装置外で予め衣類82の皺を伸ばして固定しておき、これをスライドガイド96の所定位置に配置しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】第1の実施形態に係る熱プレス機を開いた状態の外観を示す斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係る熱プレス機の開閉リンク部を説明するための開いた状態の側面図である。
【図3】第1の実施形態に係る熱プレス機の開閉リンク部を説明するための閉じた状態の側面図である。
【図4】第1の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを支持した状態を示す要部の断面図である。
【図5】衣類を支持する枠の斜視図である。
【図6】第1の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを挟持した状態を示す要部の断面図である。
【図7】第1の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを接着した後に開いた状態を示す要部の断面図である。
【図8】衣類、及びマークの積層部分の拡大断面図である。
【図9】第2の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを支持した状態を示す要部の断面図である。
【図10】第2の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを挟持した状態を示す要部の断面図である。
【図11】第2の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを接着した後に開いた状態を示す要部の断面図である。
【図12】第3の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを支持した状態を示す要部の断面図である。
【図13】第3の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを挟持した状態を示す要部の断面図である。
【図14】第3の実施形態に係る熱プレス機で衣類及びマークを接着した後に開いた状態を示す要部の断面図である。
【図15】温度調節部分の回路図の一例である。
【符号の説明】
【0080】
10 熱プレス機
16B 下ヒーター温度調節部
16A 上ヒーター温度調節部
26 基台部
30 加圧部
40 開閉リンク部
74 シリコンゴムヒーター
80A マーク
80B マーク
82 衣類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも繊維を含んで形成された被加熱押圧物にマークを加熱押圧して接着するための熱プレス機であって、
前記被加熱押圧物と前記マークとを挟持するための第1の押圧部材、及び第2の押圧部材と、
前記第1の押圧部材に設けられ、前記被加熱押圧物、及び前記マークの少なくとも一方を加熱する第1の加熱手段と、
前記第2の押圧部材に設けられ、前記被加熱押圧物、及び前記マークの少なくとも一方を加熱する第2の加熱手段と、
前記第1の押圧部材と前記第2の押圧部材との間で前記被加熱押圧物と前記マークとを挟持押圧する第1の位置と、前記第1の位置よりも前記第1の押圧部材と前記第2の押圧部材とを離間させて前記被加熱押圧物と前記マークとに押圧力を付与しない第2の位置との間を移動するように、前記第1の押圧部材及び前記第2の押圧部材を相対移動可能に支持する支持手段と、
前記第2の位置においては前記被加熱押圧物と前記マークを前記第1の押圧部材、及び前記第2の押圧部材の少なくとも一方から離間させ、前記第1の位置においては、前記被加熱押圧物と前記マークとを密着可能とさせる離間手段と、を有することを特徴とする熱プレス機。
【請求項2】
前記第1の加熱手段、及び前記第2の加熱手段の温度を各々独立して制御する温度制御手段を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の熱プレス機。
【請求項3】
前記第1の押圧部材と前記第2の押圧部材との間に配置され、前記被加熱押圧物と前記マークとが相対移動しないように前記被加熱押圧物、及び前記マークの少なくとも一方を押圧する保持手段を有する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱プレス機。
【請求項4】
前記被加熱押圧物を平面状に支持可能とする被加熱押圧物支持手段を有する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の熱プレス機。
【請求項5】
前記第1の押圧部材の表面、及び前記第2の押圧部材の表面の少なくとも一方には、前記第1の位置にて前記被加熱押圧物、及び前記マークを挟持したときに、前記被加熱押圧物、及び前記マークに押圧されて弾性変形する弾性部材が設けられている、ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の熱プレス機。
【請求項6】
前記第1の位置における前記第1の押圧部材と前記第2の押圧部材との間の押圧力を変更可能とする圧力可変手段を有する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の熱プレス機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−69215(P2007−69215A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255451(P2005−255451)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(399132386)株式会社宝來社 (12)
【Fターム(参考)】