説明

熱レンズ形成素子

【課題】素子の向きに依存せず、広い使用温度範囲で高速に熱レンズを形成・消滅させる。
【解決手段】熱レンズ形成素子1は、制御光を吸収する色素溶液の溶剤として、160℃以上における粘度が0ないし3mPa・sであり、かつ、160℃における粘度の値で、40℃における粘度の値を除した値が1以上、6以下である溶剤を用い、前記色素溶液を入射信号光の光軸を中心軸とする円柱またはその円柱に外接するN角柱(Nは4以上の整数)の形状の第1の空間11内に充填して制御光吸収領域とし、前記第1の空間11を溶液導入路12および堰17を介して第2の空間13に接続され、この第2の空間13には前記色素溶液および不活性気体の気泡14が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信、光情報処理などの光エレクトロニクスおよびフォトニクスの分野において有用な、光路切替装置および光路切替方法に用いられる熱レンズ形成素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、全く新しい原理に基づく光路切替方法および装置として、熱レンズ形成素子中の制御光吸収領域に、制御光吸収領域が吸収する波長帯域の制御光、および、制御光吸収領域が吸収しない波長帯域の信号光を各々の光軸が一致するよう収束させて照射し、制御光が照射されない場合は信号光が鏡の穴を通して直進するようにし、一方、制御光が照射される場合は、信号光の進行方向に対して傾けて設けた穴付ミラーを用いて反射することによって光路を変更させる方法およびそのための装置を発明した(特許文献1参照)。この発明以前の背景技術については、特許文献1に詳しく記載されている。
【0003】
本発明者らは、また、熱レンズ形成素子および穴付ミラーを複数組み合わせて用いる光制御式光路切替型光信号伝送装置および光信号光路切替方法を発明した(特許文献2参照)。なお、特許文献1および特許文献2に記載の光路切替方式おいて制御光を照射した場合、熱レンズ効果によって信号光のビーム断面形状はリング状になる。そこでこの方式を以下「リングビーム方式」と呼ぶ。
【0004】
本発明者らは、また、熱レンズ形成光素子中の制御光吸収領域に、制御光吸収領域が吸収する波長帯域の制御光、および、制御光吸収領域が吸収しない波長帯域の信号光とを入射させ、前記制御光および前記信号光は、前記制御光吸収領域にて収束するように照射されかつ前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が相異なるように照射され、前記制御光と前記信号光は、光の進行方向で前記制御光吸収領域の入射面またはその近辺において収束したのち拡散することによって、前記制御光吸収領域内における前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因し可逆的に形成される熱レンズにより、屈折率が変化して、前記信号光の進行方向を変えることを特徴とする光偏向方法および光路切替装置を開示した(特許文献3〜5参照)。特許文献3〜5において、熱レンズ形成光素子の制御光吸収領域としては、色素を溶剤に溶解したものをガラス容器に封じたものが開示されており、溶剤としては、少なくとも使用する色素を溶解するものであって、熱レンズ形成時の温度上昇に際し、熱分解することなく、かつ、沸騰する温度(沸点)が100℃以上、好ましくは200℃以上、更に好ましくは300℃以上のものを好適に用いることができると記載されている。しかしながら、特許文献3〜5には、溶剤の屈折率および粘度の温度特性に関する記述はない。なお、特許文献3〜5に記載の光路偏向方式においては制御光を照射しても信号光のビーム断面形状はほぼ円形に保たれる。そこでこの方式を以下「丸ビーム方式」と呼ぶ。
【0005】
本発明者の一部他は、液状の光応答性組成物を充填した光学セルに、前記光応答性組成物が感応する波長の制御光を照射し、制御光とは異なる波長帯域にある信号光の透過率および/または屈折率を可逆的に変化させることにより前記光学セルを透過する前記信号光の強度変調および/または光束密度変調を行う光制御方法であって、前記制御光および前記信号光を各々収束させて前記光学セルへ照射し、かつ、前記制御光および前記信号光のそれぞれの焦点近傍の光子密度が最も高い領域が前記光学セル内の前記光応答性組成物中において互いに重なり合うように前記制御光および前記信号光の光路をそれぞれ配置し、前記光学素子中の前記光応答性組成物を透過した後、発散していく信号光光線束を、前記信号光の収束手段よりも小さい開口数の凸レンズまたは凹面鏡で受光することによって、前記強度変調および/または光束密度変調を強く受けた領域の信号光光線束を分別して取り出すことを特徴とする光制御方法を発明した(特許文献6参照)。特許文献6にも、溶剤の屈折率および粘度の温度特性に関する記述はない。特許文献6には、光学セルの2枚のガラス板とスペーサーにより構成される扁平直方体型空間に色素溶液が満たされた形態の熱レンズ形成素子が記載されているが、この素子の向きを重力の方向に対して変化させた場合の熱レンズ効果の変動に関しては全く記述されていない。
【0006】
光学媒体中へレーザーを照射した場合の発熱に伴う温度上昇・屈折率およびその分布の変化による「熱レンズ効果」そのものについては、レーザー光学の初期から数多く研究・報告がなされている。例えば、27種類の有機溶剤にヘリウム・ネオンレーザー(発振波長633nm)を照射した場合に観察される屈折率変化の温度係数∂n/∂Tが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、非特許文献1には、溶剤の粘度の温度特性に関する記述はない。
【0007】
【特許文献1】特許第3809908号明細書
【特許文献2】特許第3906926号明細書
【特許文献3】特開2007−225825号公報
【特許文献4】特開2007−225826号公報
【特許文献5】特開2007−225827号公報
【特許文献6】特許第3504076号明細書
【非特許文献1】D.Solimini: “Loss Measurement of Organic Materials at 6328Å”,J.Appl.Phys.,vol.37,3314−3315(1966)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、熱レンズ形成素子の制御光照射の有無に対する熱レンズ形成の応答速度をできる限り高速化することを目的とする。
【0009】
本発明は、また、熱レンズ形成素子の向きを重力の方向に対して変えた場合の熱レンズ効果の変動を最小化することを目的とする。
【0010】
本発明は、更に、熱レンズ形成素子の使用可能温度範囲を広くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の特徴を有する。
【0012】
(1)信号光の波長の光を吸収せず、制御光の光を吸収する色素を溶剤に溶解させた溶液が充填された光学セルを備える熱レンズ形成素子であって、
前記光学セルは、少なくとも制御光が焦点を結ぶように配置された制御光吸収領域を有し、
前記溶剤の160℃以上における粘度が0ないし3mPa・sであり、かつ、前記溶剤の160℃における粘度の値で、前記溶剤の40℃における粘度の値を除した値が1以上、6以下であり、
前記制御光吸収領域には、前記制御光吸収領域が吸収する波長帯域から選ばれる波長の制御光と、前記制御光吸収領域が吸収しない波長帯域から選ばれる波長の信号光とが各々収束されて照射され、かつ前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が同一または相異なるように照射され、前記制御光吸収領域が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に形成される屈折率の分布に基づいた熱レンズが形成され、
前記制御光が照射されず熱レンズが形成されない場合は前記収束された信号光が通常の開き角度と直進方向で出射する状態と、
前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が同一になるよう制御光が照射されて熱レンズが形成される場合は前記収束された信号光が通常の開き角度よりも大きい開き角度で出射する状態、または、前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が相異なるよう制御光が照射されて熱レンズが形成される場合は前記収束された信号光が通常の開き角度と異なる開き角度と直進方向とは異なる方向で出射する状態
とを、
前記制御光の照射の有無に対応させて実現させることを特徴とする熱レンズ形成素子である。
【0013】
(2)前記制御光吸収領域の形状が、前記制御光が照射されず前記信号光が直進する場合の光軸を中心軸とする円柱またはその円柱に外接するN角柱(Nは4以上の整数)であって、前記信号光は前記円柱またはその円柱に外接するN角柱の一方の底面から垂直に入射し、他方の底面から出射することを特徴とする前記(1)に記載の熱レンズ形成素子である。
【0014】
(3)前記円柱またはその円柱に外接するN角柱の高さ、すなわち、底面間距離と前記円柱の直径が同一であることを特徴とする前記(2)に記載の熱レンズ形成素子である。
【0015】
(4)前記円柱またはその円柱に外接するN角柱の高さ、すなわち、底面間距離が200μmないし500μmであり、かつ、前記円柱の直径が200ないし500μmであることを特徴とする前記(2)または(3)に記載の熱レンズ形成素子である。
【0016】
(5)形状が円柱またはその円柱に外接するN角柱の前記制御光吸収領域が、内径10ないし50μmの細管または隙間間隔が5ないし20μmの堰を介して第2の空間に接続され、この第2の空間には前記色素溶液および不活性気体が充填されていることを特徴とする前記(2)、(3)または(4)に記載の熱レンズ形成素子である。
【発明の効果】
【0017】
制御光の出力30mW以下という小さいパワーで、リングビーム方式の場合1ミリ秒未満、丸ビーム方式の場合10ミリ秒未満の高速な応答速度で熱レンズ効果を発揮する熱レンズ形成素子を実現することができる。また、素子の向きを重力方向に対して変化させても、熱レンズ効果の変動が少ない熱レンズ形成素子を提供することができる。更に、−40〜85℃の温度範囲で使用可能な熱レンズ形成素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1〜図16の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1a〜図1cは本発明の第1の実施の形態に係る熱レンズ形成素子1の一例の概略構成図である。
【0020】
[熱レンズ形成素子の構成]
熱レンズ形成素子1は光学セル16の内部の第1の空間11および第2の空間13に色素を溶剤に溶解した溶液を充填し、蓋15を接着した構成である。ここで第1の空間11と第2の空間13は、堰17によって狭められた溶液導入路12を通じて連結している。なお、後に詳しく説明するように、第2の空間13の内部には不活性気体の気泡14も封印されている。以下、個々の構成要素について詳細に説明する。
【0021】
[光学セルおよび蓋]
光学セルおよび蓋の材質は石英ガラスまたはサファイアガラスが好適に用いられる。光学セルおよび蓋の加工精度は、いわゆる「オプティカルコンタクト」すなわち接着剤なしでも2つの部品の表面が密着するよう研磨されていれば良い。このような表面精度で表面加工された石英ガラス(またはサファイアガラス)の複数の部品を組み合わせて、融点直下の温度で均一に加熱すると、オプティカルコンタクトしている面で融着させることができる。光学セル16も、このような融着法によって、製造される。
【0022】
光学セルおよび蓋を構成する石英ガラスの板材の厚さT1は350μmないし500μmが好適である。T1が350μmよりも薄いと、強度不足で研磨時に破損しやすくなる。一方、T1が500μmよりも厚いと、収束しながら入射する信号光あるいは拡散・偏向しながら出射する信号光のビーム形状が屈折の影響で劣化する度合いが高まり好ましくない。厚さT1が上記の範囲にあれば、板材の1辺の長さT2に関しては特に制約はない。石英ガラスを用いる場合、信号光および制御光の入射面、および、信号光の出射面に無反射コートを行うことが好ましい。サファイアガラスを用いる場合、強度的には板材の厚さT1を100μm以下にすることも可能であるが、端面の研磨加工および融着加工の精度を考慮すると、200ないし500μmが好適である。サファイアガラスを用いる場合、信号光および制御光の入射面、および、信号光の出射面の無反射コートは必須である。堰17の高さh1'が485μmになるよう、第1の空間11の形状に合わせた形状のガラス部材を切断・研磨・融着加工し、堰17および溶液導入路12を形成する。
【0023】
光学セル内部の第1の空間11の形状は、例えば、入射信号光101の光軸100を中心とする円柱10に外接する四角柱、五角柱、六角柱など、対称性の高いものが好ましい。加工しやすさを考慮すると、図1に示すような四角柱が最適である。更に、第1の空間11の形状の特徴として、円柱10の直径D1と高さh1が同一であることが好ましい。このような形状の第1の空間11に色素溶液が充填され、制御光吸収領域を構成し、信号光101および制御光111は円柱10の一方の底面から入射し、他方の底面から出射する。このようにして、制御光吸収領域の形状の対称性を高めることによって、制御光吸収領域に形成される熱レンズ、すなわち、周辺よりも高温・低密度の領域が重力場において対流する状況が光学セル16の重力方向に対する方向に寄らずほぼ同一となるため、熱レンズ形成素子1の重力方向に対する向きに寄らず、ほぼ均一な熱レンズ効果が発揮される。また、制御光吸収領域に形成された熱レンズが制御光遮断で消滅する過程において、色素溶液が熱伝導率の高いガラス材質によって6面を取り囲まれているため、冷却が効率良く行われ、結果的に、制御光の有無に対応する熱レンズ効果の応答速度が高速化される。
【0024】
なお、制御光吸収領域における熱レンズ形成を効果的に行うには、特定の領域にある程度の熱エネルギーが蓄積される必要がある。例えば、ガラス基板に色素薄膜を真空蒸着によって直接形成した場合には、制御光を収束照射しても発生した熱は瞬時に拡散してしまうため、検知できるような熱レンズ効果は起こらない。また、前記円柱10の直径D1を500μmで一定とし、円柱10の高さ、すなわち色素溶液の厚さ(光路長)を25、50、100、200、500、および1000μmと変化させて、制御光の波長を例えば650ないし980nmとし、制御光強度と熱レンズ効果の大きさを比較すると、色素溶液の厚さが25ないし100μmの場合、制御光強度を高めても熱レンズ効果の大きさは飽和した。また、色素溶液の厚さを1000μmとした場合、特にメリットはなく、むしろ出射信号光のビーム形状への屈折の悪影響が顕著になった。従って、円柱10の高さh1は200ないし500μmが好適である。円柱10の直径D1については、円柱の高さh1と同一にすることが好ましいため、円柱の高さh1の大きさの範囲は200ないし500μmが好適である。以上の検討において「熱レンズ効果の大きさ」は、リングビーム方式の場合、出射信号光断面のリングの大きさとして、また、丸ビーム方式の場合、熱レンズ形成素子を出射する信号光の偏向角度の大きさとして明確に検知・比較可能である。
【0025】
[接着剤]
光学セル16へ蓋15を取り付ける方法としては、加熱および発熱を伴わない方式であることが必須である。光学セル16内の第1の空間11および第2の空間13に充填された色素溶液が昇温で膨張すると、光学セル16と蓋15の接合面からあふれ出したり、接合面を汚染したりする。従って、以下の要求を満たすような接着剤で接着することが推奨される。
【0026】
(a)室温または室温以下の温度で硬化すること。
(b)光学セル16内部に充填される色素溶液の溶剤に溶解しないこと。
(c)前記溶剤に膨潤しないこと。
(d)前記溶剤の蒸気を透過しないこと。
(e)酸素が前記色素溶液の劣化の原因となる場合、酸素ガスを透過しないこと。
(f)水が前記色素溶液の劣化の原因となる場合、水蒸気を透過しないこと。
(g)二酸化炭素、一酸化炭素、亜硫酸ガスなどが前記色素溶液の劣化の原因となる場合、これらのガスを透過しないこと。
(h)接着剤成分および硬化剤成分が、前記色素溶液の成分と作用しないこと。
【0027】
接着剤としてはアミンまたは酸無水物を重合開始剤とするエポキシ樹脂系接着剤であって、上記(a)〜(h)の条件を満たすものを選定し好適に使用することができる。
【0028】
なお、紫外線硬化樹脂や電子線硬化樹脂は、直接加熱は必要ないものの、吸収された紫外線や電子線のエネルギーの一部は熱に変わり温度が上昇してしまうため、光学セル16へ蓋15を接着する用途には適さない。
【0029】
容易に理解できるように、酸素や水が前記色素溶液の劣化の原因となる場合、前記色素溶液の取扱は真空系、密閉系、および、高性能グローブボックスなどを用いた不活性ガス雰囲気中、非水条件下で行われる。この場合、接着面に吸着した水を触媒として硬化反応が進行するシアノアクリレート系接着剤は、光学セル16へ蓋15を接着する用途には適さない。水が前記色素溶液の劣化に無関係な場合は、上記(a)〜(h)の条件を満たすことができれば、シアノアクリレート系接着剤を用いても良い。
【0030】
[色素]
本発明の熱レンズ形成素子に用いられる色素は以下のような過酷な要件を満足しなければならない。
【0031】
(A)制御光の吸収波長帯域の収束レーザーの照射に2千時間以上、可能であれば数万時間以上耐えること。
(B)制御光の吸収波長帯域の収束レーザーの収束位置における200℃を超える温度上昇に2千時間以上、可能であれば数万時間以上耐えること。
(C)制御光吸収波長帯域の収束レーザーの照射および温度上昇によって分解物、反応生成物、あるいは会合体などの固体粒子を形成しないこと。
(D)信号光の波長帯域において光吸収や光散乱を起こさないこと。
【0032】
色素の具体例としては、信号光波長980〜2000nmの場合、制御光波長の帯域に応じて、以下のような溶剤可溶性フタロシアニン誘導体を好適に用いることができる。
650〜670nm:1,5,9,13−テトラ−tert−ブチル銅フタロシアニン
685〜715nm:1,5,9,13−テトラ−tert−ブチルオキシバナジウムフタロシアニン
730〜830nm:2,11,20,29−テトラ−tert−ブチルオキシバナジウムナフタロシアニン
840〜890nm:5,9,14,18,23,27,32,36−オクタ−n−ブトキシ−2,3−ナフタロシアニン
【0033】
[溶剤]
本発明の熱レンズ形成素子に用いられる溶剤は以下のような複数の要件を満足しなければならない。
【0034】
[1]本発明の熱レンズ形成素子に用いられる色素を適切な濃度で安定に溶解すること。
[2]信号光および制御光レーザーの照射に2千時間以上、可能であれば数万時間以上耐えること。
[3]信号光および制御光レーザーの収束位置における200℃を超える温度上昇に2千時間以上、可能であれば数万時間以上耐えること。
[4]信号光および制御光レーザーの照射および温度上昇によって分解物、反応生成物、あるいは会合体などの固体粒子を形成しないこと。
[5]信号光の波長帯域において光吸収や光散乱を起こさないこと。
[6]制御光レーザーの収束位置における光吸収に伴う発熱・温度上昇に敏感に応答し、温度1℃の変化当たりの屈折率変化として0.0004以上を示すこと。
【0035】
[溶剤の融点と沸点]
熱レンズ形成素子としての利用分野を広くするためには、使用可能温度範囲が広範であることが好ましい。例えば、光通信の分野で活用するには−40℃から85℃の温度範囲で支障なく稼働することが要求される。溶剤の融点が−40℃未満であれば、このような低温域の要求に応えることができる。また、制御光が照射されない状態において、すでに85℃に到達している場合、熱レンズ形成素子としての機能を充分に発揮するためには、制御光照射部の温度が200℃以上、可能であれば300℃程度まで到達しても色素溶液が液体状態である必要がある。すなわち、本発明の熱レンズ形成素子に用いられる溶剤の沸点は、200℃以上、可能であれば300℃を超えることが好ましい。溶剤成分の化学構造は単一である必要はなく、混合物であって良い。
【0036】
本発明の熱レンズ形成素子に好適に用いられる溶剤として、次に示す構造異性体4成分(分子量は同一)の混合溶剤が推奨される。この溶剤を以下「溶剤#1」と呼ぶ。
・第1成分:1−フェニル−1−(2,5−キシリル)エタン
・第2成分:1−フェニル−1−(2,4−キシリル)エタン
・第3成分:1−フェニル−1−(3,4−キシリル)エタン
・第4成分:1−フェニル−1−(4−エチルフェニル)エタン
【0037】
溶剤#1の質量分析ガスクロマトグラムを図6に示す。主ピーク4本とも、分子イオンピークの質量は210である。個々のピークと上記化学構造との対応については未解決であるが、分子量が同一の構造異性体混合物であることは明確である。
【0038】
溶剤#1の諸物性は以下の通りである。
・外観:無色透明液体
・臭気:弱い芳香臭
・沸点:290〜305℃
・融点:−47.5℃
・蒸気圧:0.067Pa (25℃)
・蒸気密度:7.2 (空気=1)
・比重(水=1):0.987
・水溶解度(20℃):水に溶けない。
【0039】
一方、沸点が300℃以上であって、前記フタロシアニン誘導体を良く溶解する溶剤として、アルキルナフタレン系の油拡散ポンプ用オイル「ライオンS」(ライオン株式会社)を挙げることができる。この溶剤を以下「溶剤#2」と呼ぶ。
【0040】
溶剤#1の替わりに溶剤#2を用いた熱レンズ形成素子は、熱レンズ効果は示すものの、リングビーム方式の場合、制御光パワーを同一で比較したとき、溶剤#1よりもリングのサイズが小さく、応答速度も遅くなることが判った。また、丸ビーム方式の場合、溶剤#1よりも偏向角が小さく、応答速度も遅くなることが判った。
【0041】
このような溶剤の種類による熱レンズ効果の良否の原因を解明するため、以下のような検討を行った。
【0042】
[屈折率の温度変化の測定]
試料部温水循環式屈折率計NAR−2T型(株式会社アタゴ製)を用い、20℃から90℃までの屈折率を測定した。溶剤#1および溶剤#2の屈折率・温度変化の様子を図7および図8に各々示す。
【0043】
観察された屈折率の温度変化は、直線近似可能であり、200℃以上まで外挿しても特に問題ないと判断される。屈折率の温度変化係数は以下のように測定された。
・溶剤#1:−0.00048866
・溶剤#2:−0.00042963
すなわち、溶剤#1および溶剤#2の屈折率・温度変化係数の差はあるものの、さほど顕著なものではないことが判った。
【0044】
[粘度の温度変化の測定]
溶剤#1および溶剤#2の粘度・温度変化を測定・比較したところ、著しい相違があることを見出し、本発明に至った。
【0045】
粘度・温度変化の測定には、毛細管粘度計やヘプラー型落球式粘度計などの測定装置内に試料液体を入れ、全体を所定の温度まで加熱してから測定する方法の他、試料液体の温度のみを昇温し、回転式センサー、あるいは、音叉式センサーを液中に挿入して、温度とともに粘度を測定する方法がある。測定温度を150℃以上の高温にする場合、粘度計全体の温度を均一に加熱しながら測定操作を行うことが容易でないことから、試料液体のみ昇温する測定方法を採用することとした。回転式センサーを試料液体に挿入する方法は、センサーを沈める深さを正確に制御することが困難であること、および、昇温時のセンサーの温度を正確に測定することが困難であることから、熱容量の小さい、音叉式センサーを試料液体に一定深さで挿入し、共振周波数の変化から粘度を測定する方式にて測定することとした。測定装置として音叉振動式粘度計SV−10型(株式会社エー・アンド・デイ製造)を用い、JIS規格「粘度10」の標準液を用いて25℃前後の温度で校正してから、粘度・温度変化の測定を行った。なお、装置の仕様上、測定温度の上限は160℃とした。試料液体の量は100mlとし、マグネチックスターラー付ホットプレートにて、緩やかに攪拌しながら昇温速度5℃/分で加熱した。温度上昇に伴い試料液体の体積が膨張し、液面が上昇する。そこで、試料容器およびマグネチックスターラー付ホットプレートをラボジャッキの上に設置し、試料容器の高さを調整し、粘度計の音叉センサーと試料液面の位置関係を一定に保った。
【0046】
以上のようにして測定した溶剤#1および溶剤#2の粘度・温度特性を図9に示す。いずれの溶剤の場合も、室温から温度が上昇すると、粘度は急激に減少した後、100℃を超えた当たりから、減少の度合いが徐々に減じ、150℃以上では温度変化に対する粘度変化が緩慢になることが判る。また、図9において、溶剤#1(太い曲線)に比べ、溶剤#2(細い曲線)の温度に対する粘度変化が非常に大きいことが判る。このような粘度・温度特性の相違を定量的に表すため、室温よりも若干高い40℃における粘度の値(η1)を、160℃における粘度の値(η2)で除算した数値(η1/η2)を用いることとした。なお、潤滑油の分野では粘度・温度特性の数値表現として、40℃における粘度の値を、100℃における粘度の値で除算した数値が用いられている。室温から昇温開始して測定する際、温度上昇速度が安定し始める領域であることから低温側の代表温度として40℃を選定した。使用した粘度計の仕様の制約で、高温側の値として160℃の粘度を用いることとしたが、150℃以上では温度変化に対する粘度変化が緩慢になることから、熱レンズ効果に関連する高温側の代表値として意味があると判断される。測定誤差を考慮し、3回測定した結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
溶剤#1および溶剤#2について、η1/η2を比較すると、溶剤#1の40℃/160℃の粘度変化η1/η2は平均5.00であるのに対し、溶剤#2では同13.7と大きい。このような粘度・温度特性の相違を「熱レンズ形成」のプロセスに当てはめて考察すると、収束された制御光ビーム収束点(サイズは数μmのオーダー)で発生した熱で色素溶液の温度が上昇し、熱膨張と屈折率の減少が起こり、その領域が周辺に伝搬していく際、溶剤#1のように、室温近辺の粘度が比較的低く、温度上昇に伴う粘度変化も小さい場合、粘度、すなわち、溶剤分子間のズリ応力が小さく、「熱膨張の伝搬」(単なる熱伝導とは異なり、分子の移動を伴う現象)が円滑に進行するものと推測される。一方、溶剤#2のように室温近辺の粘度が比較的高く、温度上昇に伴う粘度変化は大きい場合、「熱膨張の伝搬」は近接する「低温状態の溶剤分子」との大きなズリ応力によって妨害され、通常の「熱伝導」で近接分子の温度上昇(すなわち分子の振動増大)が起きて、粘度が低下して初めて、「熱膨張の伝搬」が起こると考えられる。温度上昇に伴う屈折率の低下は、「体積膨張=密度の低下」に寄るところが大きいため、結果的に「体積膨張領域の伝搬が速い溶剤#1の方が、遅い溶剤#2よりも速く、屈折率低下領域=熱レンズ効果領域が広がる」と考察される。
【0049】
以上の観点から、種々の溶剤の粘度・温度特性を測定・比較し、熱レンズ効果の大きさおよび応答速度との比較を行った結果、特に優れた熱レンズ形成素子の色素溶液の溶剤の温度・粘度特性として、160℃以上における粘度が0ないし3mPa・sであり、かつ、前記溶剤の160℃における粘度の値η2で、前記溶剤の40℃における粘度の値η1を除した値η1/η2が1以上、6以下であることを見出した。160℃以上における好ましい溶剤の粘度は3mPa・s以下であり、下限については0mPa・sより大きい値であれば特に制約はない。160℃以上における粘度が3mPa・sを超えていると、溶剤#2の場合よりも更に熱レンズ形成特性が悪くなり、応答速度も遅くなり、熱レンズ形成素子としての実用性がなくなってしまう。溶剤の160℃における粘度の値η2で、前記溶剤の40℃における粘度の値η1を除した値η1/η2の上限6は、溶剤#1とほぼ同等の高い熱レンズ効果・応答速度を与える溶剤としての上限値であり、これを超えた場合は、制御光パワーを同一で溶剤#1と比較した場合、熱レンズ効果による光路変更角度が小さくなったり、応答速度が遅くなったりする。η1/η2の下限については1よりも大きい値であれば特に制約はない。
【0050】
以上のような粘度・温度特性を必須要件として、更に、先に列挙した溶剤の要求項目[1]〜[6]および「沸点200℃以上、融点−40以下」という制約を加えると、使用できる溶剤の種類は極めて限定される。具体的には先に詳しく説明した混合溶剤「溶剤#1」(図6に示す組成のもの)およびその組成を変化させたものを特に好適に使用することができる。
【0051】
[不活性気体]
図1に示す熱レンズ形成素子1は光学セル16の内部の第1の空間11および第2の空間13に色素を溶剤に溶解した溶液を充填し、蓋15を接着した構成であり、第1の空間11と第2の空間13は、堰17によって狭められた溶液導入路12を通じて連結し、第2の空間13の内部には前記色素溶液とともに不活性気体の気泡14が封印されている。気泡14の役割は、熱レンズ形成素子1全体の温度が上昇・下降した場合における、光学セル16と色素溶液の熱膨張率の差に起因する光学セル16内部圧力の増大・減少を緩衝することである。光学セル16の材質は石英ガラスまたはサファイアガラスであるため、室温から300℃程度までの熱膨張は極めて小さい。これに対して光学セル16内部に充填される溶剤(特に有機溶剤)の熱膨張は非常に大きく、また、気体と異なり、液体の体積を圧縮するには膨大な圧力を必要とするため、気泡なしにガラスセル内部に溶剤を密封し、温度を上下させると、±10℃〜±20℃の変化であっても、溶剤体積の膨張・収縮によって、ガラスセルは容易に破損してしまう。これを避けるためには、信号光が通過する第1の空間11と、堰17によって狭められた溶液導入路12を通じて連結した第2の空間13の内部には前記色素溶液とともに不活性気体の気泡14を封入することが効果的である。ここで、堰17によって狭められた溶液導入路12があれば、気泡14が第1の空間11内部に侵入することはなく、信号光の透過に影響することもない。
【0052】
不活性気体の種類としては、ヘリウム、窒素、アルゴン、キセノンなどを好適に用いることができる。
【0053】
熱レンズ形成素子1の光学セル16内部の第1の空間11、溶液導入路12および第2の空間13の合計体積に対する気泡14の不活性気体の体積(仕込量)は、不活性気体の温度30℃、圧力1013hPaのとき、前記合計体積の2ないし5%であれば、熱レンズ形成素子1の使用環境の温度が85℃であっても、特に支障なく使用可能であることを実験的に確認することができる。
【0054】
[リングビーム方式光路切替への応用]
図4は本発明の熱レンズ形成素子を用いた、リングビーム方式光路切替装置の一例の概略構成図である。リングビーム方式光路切替装置の詳細は特許文献1に記載されている。概要として、入力側信号光・光ファイバー400から出射した入射信号光をコリメートレンズ40にてほぼ平行なビーム401に変換してダイクロイックミラー42を透過させ、更に集光レンズ43にて収束させ、収束光として熱レンズ形成素子1(または、後述する熱レンズ形成素子2または3)に入射させる。一方、制御光・光ファイバー410から出射した制御光をコリメートレンズ41にてほぼ平行なビーム411としてダイクロイックミラー42にて反射させ、信号光ビーム401と光軸を一致させ、更に集光レンズ43にて収束させ、収束光として熱レンズ形成素子1(または、後述する熱レンズ形成素子2または3)に入射させる。リングビーム方式光路切替装置および方法においては、制御光と信号光を同一光軸で熱レンズ形成素子の制御光吸収領域へ収束入射させ、更に、制御光および信号光双方の収束領域が重なり合い、前記制御光吸収領域の信号光入射側近傍に位置するよう、光学系が微調整される。こうすると、熱レンズ形成素子・制御光吸収領域の信号光入射側近傍へ収束入射した制御光は、前記制御光吸収領域において光吸収されながら進行し、吸収された光エネルギーは熱に変わり、色素溶液の熱膨張に伴う密度減少および屈折率の低下を引き起こし、光の進行方向に特定の形状の熱レンズを形成させる。このように前記制御光吸収領域に形成された熱レンズ内部に収束入射された信号光が広がりながら進行すると、入射時にはガウス分布であった信号光のビーム断面のエネルギー分布は、リング状に変換され、制御光が照射されない場合の角度よりも大きな開き角度で、熱レンズ形成素子1(または、後述する熱レンズ形成素子2または3)から出射する。この出射信号光を、集光レンズ43よりも大きな開口数の受光レンズ44にて受光し、ほぼ平行なビームに変換してから、制御光が照射されず直進する場合の信号光・光路に45度の角度で設置され、制御光が照射されず直進する場合の信号光ビームが通過するのに充分な大きさの穴が設けられた穴付ミラー45に入射させると、制御光が照射されない場合、信号光421は直進し、結合レンズ46に入射し、収束され、直進出力側信号光・光ファイバー420に入射していく。一方、制御光が照射された場合は、熱レンズ効果によってリングビームに変換された信号光は、穴付ミラー45の穴の周辺で反射され、結合レンズ47にて収束され、光路切替信号光431として光路切替出力側信号光・光ファイバー430に入射していく。
【0055】
図10aから図10dに、信号光光源として波長1550nm、制御光光源として波長660nmのレーザーを用い、色素として1,5,9,13−テトラ−tert−ブチル銅フタロシアニンを溶剤#1に0.2重量%の濃度で溶解した溶液を本発明の熱レンズ形成素子1(光路長500μm)に充填した場合の出射信号光ビームの断面形状と制御光パワーの対応を示す。制御光を照射しない場合、図10aのように信号光のビーム断面はエネルギーがガウス分布の丸ビームである。制御光パワーを2.2、4.3mw、7.6mWと大きくすると、信号光のビーム断面は、各々図10b,図10c,図10dのように変化する。この場合、制御光パワーが4.3mWのとき、リングの形状および大きさが最適になり、同2.2mwではパワーが足りず「リングの開き具合」が不充分であり、同7.6mWでは制御光が強すぎて熱レンズの形状が乱れ、リングが多重に形成される。
【0056】
本発明の熱レンズ形成素子を用いた、リングビーム方式光路切替装置は、4ないし5mWという小さい制御光パワーで、制御光を照射しない場合のガウス分布・丸ビームと、制御光を照射した場合のリングビームの変換を行うことができる。
【0057】
本発明の熱レンズ形成素子を用いた、リングビーム方式光路切替装置の応答速度を調べるため、制御光パワーをデューティ比1:1(すなわち制御光光源点灯時間と消灯時間の比率1:1)で、周波数を変えて断続させ、それに対応する直進制御光の強度変化の波形をオシロスコープで観察した。図4において、熱レンズ形成素子1(または、後述する熱レンズ形成素子2または3)に入射する制御光411の一部分を光検出器に導いてオシロスコープ上で測定した制御光の波形4110および制御光411の明滅に対応して光路切替された信号光431を光検出器に導いてオシロスコープ上で測定した信号光の波形4310を図11および図12に示す。なお、図12の縦軸は図11の場合の3倍に拡大されている。また、制御光411を断続する矩形波の周波数を0.1kHzないし100kHzに設定し、そのときの制御光411の断続に対応する光路切替信号光431の波形4310の振幅Lを測定した結果を図13に示す。
【0058】
図11において制御光411(図4)を断続する矩形波の周波数500Hzであり、このときの信号光の断続に対応する信号光の波形4310の振幅Lを基準の1とすると、制御光411を断続する矩形波の周波数範囲0.2から2kHzにおいて、振幅Lは、ほぼ1であった。すなわち、応答速度250マイクロ秒で完全な光路切替が可能であることが確認された。
【0059】
更に周波数を高めた場合の例として、周波数20kHzにおける信号光の波形4310を図12に示す。図12から判るように熱レンズ効果による光路切替が完了しない内に制御光を消灯すると、信号光の波形はのこぎりの刃状になり、振幅Lは小さくなっていく。
【0060】
すなわち、熱レンズ効果の応答速度を超えると光路の切替は不完全になり、信号光の一部は光路切替されずに直進する。制御光411を断続する矩形波の周波数を2kHzから高めた場合の信号光の振幅Lは、図13に示すように漸減していく。
【0061】
本実施形態(図4に示す)の光路切替装置の耐久性を測定するため、信号光を連続光とし、一方、制御光を周波数数1kHzで、デューティ比1:1の矩形波断続光線として照射し、光路切替された信号光の強度振幅の時間を比較した。その結果、連続1万時間経過しても、信号光の強度振幅は減衰しなかった。
【0062】
[比較実施形態1]
溶剤#1の替わりに、温度を変えた場合の粘度変化が大きな溶剤#2を用いた他は溶剤#1を用いた場合と同様にして、図4に示す本発明の熱レンズ形成素子を用いた、リングビーム方式光路切替装置において制御光411を断続する矩形波の周波数を0.1kHzないし20kHzに設定し、そのときの制御光411の断続に対応する光路切替信号光431の波形4310の振幅Lを測定した結果を図14に示す。制御光411を断続する矩形波の周波数を20Hz(応答速度25ミリ秒)とした場合(図示せず)、信号光の振幅Lは1であるが、200〜500Hz(同2.5〜1ミリ秒)では同0.97に減じ、更に周波数を高めると信号光の振幅Lは、図14に示すように漸減していく。以上、まとめると、溶剤#2を用いた場合、熱レンズ形成素子の応答速度は溶剤#1の場合の4分の1以下に減ずることが判った。この原因は、先に詳細に述べたように、温度が上昇したとき、溶剤#2の粘度が下がりにくいため、信号光収束・吸収部分の温度上昇に伴う低密度・低屈折率領域の膨張が妨げられ、熱レンズの形成に時間を要するものと推定される。
【0063】
[丸ビーム方式光路偏向への応用]
図5は本発明の熱レンズ形成素子1(または、後述する熱レンズ形成素子2または3)を用いた、丸ビーム方式光路偏向装置の一例の概略構成図である。丸ビーム方式光路偏向装置の詳細は特許文献3〜5に記載されている。概要として、入力側信号光・光ファイバー500から出射した入射信号光をコリメートレンズ50にてほぼ平行なビーム501に変換してダイクロイックミラー52を透過させ、更に集光レンズ53にて収束させ、収束光として熱レンズ形成素子1(または、後述する熱レンズ形成素子2または3)に入射させる。一方、制御光・光ファイバー510から出射した制御光をコリメートレンズ51にてほぼ平行なビーム511としてダイクロイックミラー52にて反射させ、信号光ビーム501とは平行ビームとして光軸中心間距離を30μm程度ずらし、更に集光レンズ53にて収束させ、収束光として熱レンズ形成素子1(または、後述する熱レンズ形成素子2または3)に入射させる。丸ビーム方式光路偏向装置および方法においては、制御光と信号光を熱レンズ形成素子の制御光吸収領域へ収束入射させ、更に、制御光および信号光双方の収束領域中心点が30μm程度離れて重なり合い、前記制御光吸収領域の信号光入射側近傍に位置するよう、光学系が微調整される。こうすると、熱レンズ形成素子・制御光吸収領域の信号光入射側近傍へ、僅かに離れて収束入射した制御光は、前記制御光吸収領域において光吸収されながら進行し、吸収された光エネルギーは熱に変わり、色素溶液の熱膨張に伴う密度減少および屈折率の低下を引き起こし、光の進行方向に特定の形状の熱レンズを形成させる。このように前記制御光吸収領域に形成された熱レンズ内部に、異なる収束位置で収束入射された信号光が広がりながら進行すると、入射時のガウス分布の丸ビーム断面のエネルギー分布を保ちながら進行方向が偏向され、制御光が照射されない場合の直進方向から数度偏向されて、熱レンズ形成素子1(または、後述する熱レンズ形成素子2または3)から出射する。この出射信号光を、受光レンズ54にて受光し、ほぼ平行なビームに変換し、制御光が照射されない場合、信号光521は直進し、結合レンズ56に入射し、収束され、直進出力側信号光・光ファイバー520に入射していく。一方、制御光が照射された場合は、熱レンズ効果によって丸ビームのまま偏向された信号光531として結合レンズ57に入射し、収束され、光路偏向出力側信号光・光ファイバー530に入射していく。
【0064】
ここで、信号光光源として波長1550nm、制御光光源として波長860nmのレーザーを用い、色素として5,9,14,18,23,27,32,36−オクタ−n−ブトキシ−2,3−ナフタロシアニンを溶剤#1に0.1重量%の濃度で溶解した溶液を本発明の熱レンズ形成素子1(光路長500μm)に充填し、図5に示す丸ビーム方式光路偏向装置に取り付け、光学系を調整した。制御光パワーを10.4、12.9、15.5mWとしたとき、熱レンズ効果によって丸ビームのまま偏向された信号光531の偏向角を、制御光が照射されない場合に信号光が熱レンズ形成素子1を出射する点を原点とし、制御光が照射されない場合の信号光出射方向を「0度」として測定した結果を図15に示す。制御光パワーを強くするに従い、偏向角は9.0度、11.0度、12.4度と大きくなった。
【0065】
[比較実施形態2]
信号光光源として波長1550nm、制御光光源として波長860nmのレーザーを用い、色素として5,9,14,18,23,27,32,36−オクタ−n−ブトキシ−2,3−ナフタロシアニンを溶剤#2に0.1重量%の濃度で溶解した溶液を用いた他は本実施形態と同様にして、制御光パワーを10.4、12.9、15.5、18.0mWとしたとき、熱レンズ効果によって丸ビームのまま偏向された信号光531の偏向角は、各々、6.7度、7.9度、9.3度、10.3度と、図15に示すように、溶剤#1を用いた場合よりも明らかに小さくなった。溶剤の相違によって、同一制御光パワーを継続的に照射した場合に誘起される熱レンズ効果、すなわち熱レンズの大きさに大小ができたものと推測される。
【0066】
(第2の実施の形態)
図2aおよび図2bは本発明の第2の実施の形態に係る熱レンズ形成素子2の概略構成図である。
【0067】
[熱レンズ形成素子の構成]
熱レンズ形成素子2はコイン型光学セル26の内部の第1の空間20および第2の空間23に色素を溶剤に溶解した溶液を充填し、蓋25を接着した構成である。ここで第1の空間20と第2の空間23は、リング状の堰27によって狭められた溶液導入路22を通じて連結している。なお、後に詳しく説明するように、第2の空間23の内部には不活性気体の気泡24も封印されている。以下、個々の構成要素について詳細に説明する。
【0068】
[光学セルおよび蓋]
コイン型光学セル26および蓋25の材質、板材の厚さ、無反射コート、については第1の実施の形態で説明した通りである。
【0069】
コイン型光学セル26の内部の第1の空間20の形状は、例えば、入射信号光201の光軸200を中心とする円柱20に外接する四角柱、五角柱、六角柱など、対称性の高いものが好ましい。加工しやすさを考慮すると、図2aおよび図2bに示すような円柱が最適である。更に、空間20の形状の特徴として、円柱20の直径D2と高さh2が同一であることが好ましい。このような形状の第1の空間20に色素溶液が充填され、制御光吸収領域を構成し、信号光201および制御光211は円柱20の一方の底面から入射し、他方の底面から出射する。このようにして、制御光吸収領域の形状の対称性を高めることによって、制御光吸収領域に形成される熱レンズ、すなわち、周辺よりも高温・低密度の領域が重力場において対流する状況が光学セル16の重力方向に対する方向に寄らずほぼ同一となるため、熱レンズ形成素子2の重力方向に対する向きに寄らず、ほぼ均一な熱レンズ効果が発揮される。また、制御光吸収領域に形成された熱レンズが制御光遮断で消滅する過程において、円柱20中の色素溶液が熱伝導率の高いガラス材質によって円柱20の2底面および側面全体を取り囲まれているため、冷却が効率良く行われ、結果的に、制御光の有無に対応する熱レンズ効果の応答速度が高速化される。
【0070】
実施の形態1で述べたように、制御光吸収領域における熱レンズ形成を効果的に行うには、特定の領域にある程度の熱エネルギーが蓄積される必要がある。すなわち、前記円柱20の直径D2を500μmで一定とし、円柱20の高さh2、すなわち色素溶液の厚さ(光路長)を25、50、100、200、500、および1000μmと変化させて、制御光の波長を例えば650ないし980nmとし、制御光強度と熱レンズ効果の大きさを比較すると、色素溶液の厚さ25ないし100μmの場合、制御光強度を高めても熱レンズ効果の大きさは飽和した。また、色素溶液の厚さを1000μmとした場合、特にメリットはなく、むしろ出射信号光のビーム形状への屈折の悪影響が顕著になった。従って、円柱20の高さh2は200ないし500μmが好適である。円柱20の直径D2については、円柱の高さh2と同一にすることが好ましいため、大きさの範囲は200ないし500μmが好適である。以上の検討において「熱レンズ効果の大きさ」は、リングビーム方式の場合、出射信号光断面のリングの大きさとして、また、丸ビーム方式の場合、熱レンズ形成素子を出射する信号光の偏向角度の大きさとして明確に検知・比較可能である。
【0071】
コイン型光学セル26は、構成する部材の一例として、厚さT3が500μmの石英ガラス板材を直径D3が8mmの円盤状に加工した部材2枚(1枚には直径1mmの色素溶液注入孔28を設ける)および外形D3が8mm、内径D4が7mmの石英ガラスパイプを高さh2,T4が500μmになるよう切断・研磨した部材、および、円柱型の堰27の高さh2'が495μmになるよう、外形D5が1.5mm、内径D2が0.5mmの石英ガラスパイプを切断・研磨した円柱型の部材(堰27)を融着加工することによって製造される。例えば、蓋25の厚さT5は500μm、直径D6は3mmである。コイン型光学セル26の内壁と円柱型の堰27の隙間は5μmであるが、色素溶液をこの間隔5μmの溶液導入路22を通じて、円柱型空間20へ充填するには、円柱型の堰27の外側の第2の空間23に色素溶液を充填した後、全体を微減圧し、常圧に戻す、という操作を繰り返せば良い。円柱型の第1の空間20へ色素溶液が満たされた後、第2の空間23内に、底面の辺の長さD8が約1mmの正方形で高さ500μmの直方体に内接する楕円体の形の気泡24が残るよう、第2の空間23内に充填する色素溶液の注入量を調整する。なお、気泡24が内接する直方体の正方形底面の辺の長さD8は、コイン型セル内の気泡を光軸200方向から観察した場合の円の直径である。そこで、気泡24が内接する直方体の正方形底面の辺の長さD8を「気泡24の直径」と呼ぶこととする。
【0072】
接着剤、色素、溶剤、不活性気体に関しては第1の実施の形態で説明した通りである。
【0073】
以下、信号光光源として波長1550nm、制御光光源として波長860nmのレーザーを用い、色素として5,9,14,18,23,27,32,36−オクタ−n−ブトキシ−2,3−ナフタロシアニンを溶剤#1に0.1重量%の濃度で溶解した溶液を本実施形態の熱レンズ形成素子2(光路長500μm)に充填したものを用いるものとする。
【0074】
[気泡の役割の検証]
本実施形態(図2に示す)の第2の空間23内に封入された不活性気体の気泡24の役割は、第1の実施の形態における気泡14と同様に、熱レンズ形成素子2全体の温度が上昇・下降した場合における、コイン型光学セル26と色素溶液の熱膨張率の差に起因するコイン型光学セル26内部圧力の増大・減少を緩衝することである。因みに、本実施形態(図2)の熱レンズ形成素子2に気泡24を封入しない場合、素子全体の温度を50℃程度まで加熱しただけで、コイン型光学セル26内部圧力は石英ガラスの許容曲げ応力(1.97MPa)を超え、ガラス接合部分の角にヒビが生じることが確認された。そこで、熱レンズ形成素子2の第2の空間23に封入された不活性気体の気泡24の直径D8を温度30〜70℃において顕微鏡で観察し、体積および内部圧力の温度変化を計算した結果を表2に示す。なお、熱レンズ形成素子2内部の第1の空間20および第2の空間23、溶液導入路22および色素溶液注入孔28の合計体積が19μLのコイン型光学セル26を用い、不活性気体の種類は窒素ガスとし、窒素雰囲気グローブボックス内で熱レンズ形成素子2内部に色素溶液を注入する際、直径D8が約1mmの気泡が残るようにし、室温硬化のエポキシ接着剤で蓋25を取り付け、密閉した後、実体顕微鏡下に設置したホットプレートにて温度を調整し、泡の直径を精密に測定した。なお、熱レンズ形成素子2の第2の空間23は高さが500μmであるため、直径1mm前後の気泡の形状は「球体」ではなく「楕円体」である。3辺の長さが2a,2b,2cの直方体に内接する楕円体の体積Vは式〔1〕で計算される:
[数1]
V=4πabc/3 … 〔1〕
【0075】
また、温度T[K]、体積Vの気泡の内部圧力はP、nを気体の分子数、Rを気体常数として式〔2〕で表される:
[数2]
P=nRT/V … 〔2〕
【0076】
【表2】

【0077】
表2の場合の温度と気泡の内部圧力の関係を図16に示すが、この関係は3次多項式で精度良く近似される。図16において太い曲線は実測値からの計算値、細い曲線は3次多項近似式による外挿曲線である。熱レンズ形成素子2の内部の第1の空間20および第2の空間23の圧力は、70℃のとき約4気圧、85℃のとき約7気圧まで上昇することが判る。気泡24の体積は30℃のとき、熱レンズ形成素子2内部の第1の空間20および第2の空間23、溶液導入路22および色素溶液注入孔28の合計体積(19μL)の約2%である。低温時の気泡のサイズを同5%程度まで大きくすると温度上昇時の内部圧力の上昇は、一段と低減させることができる。
【0078】
[熱レンズ素子の方位と特性]
第1の実施の形態における熱レンズ形成素子1の替わりに第2の実施の熱レンズ形成素子2を、図5に概略構成を示す丸ビーム方式光路偏向装置に取り付け、光学系の調整を行った。調整および特性測定は25℃において、信号光(および制御光)の光軸200が鉛直方向、すなわち重力の方向に直交するよう装置の方位を設定して実施した。このような方位設定において、コイン型の熱レンズ形成素子2は、「コインが立った」向きで動作する。制御光の波長860nm、強度7.3mW、信号光の波長1550nm、強度2mW、として、丸ビーム方式光路偏向装置に入射する信号光・光ファイバーから入射する信号光強度に対する、制御光の消灯・点灯に対応して出射する直進信号光521および偏向信号光531の強度を測定・比較した。結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
次いで、信号光(および制御光)の光軸200を回転軸として、熱レンズ形成素子2の方位が回転するよう、丸ビーム方式光路偏向装置の向きを45度ずつ変えて、上記の強度比を測定した。強度比の変動は僅かで、値の変動は±0.2dB以内であった。
【0081】
更に、コイン型の熱レンズ形成素子2を構成する円盤状平面に平行で、信号光(および制御光)の光軸200に直交する方向を回転軸とし、丸ビーム方式光路偏向装置の向きを45度ずつ変えて、上記の強度比を測定した。強度比の変動はやや大きくなったが、値の変動は±0.5dB以内であった。
【0082】
以上の方位を変える測定において、装置の特定の方位で強度比の変動が特に大きくなる現象は1回も観察されなかった。また、本実施形態のコイン型の熱レンズ形成素子2に替えて、第1の実施形態の、立方体型空間11を信号光が透過する熱レンズ形成素子1を用いて同様の測定を行ったところ、強度比の変動は±0.6dB以内であった。
【0083】
以上のように、本発明の熱レンズ形成素子は、熱レンズ形成素子の向きを重力の方向に対して変えた場合の熱レンズ効果の変動を極めて小さくすることができる。
【0084】
[比較実施形態3]
本比較例の熱レンズ形成素子3は、図3に示すように、第2の実施の形態における熱レンズ形成素子2(図2)から円柱型の堰27を取り除いたものである。すなわち、コイン型光学セル36の内部の、単純な円筒型空間33に、色素溶液および不活性気体の気泡34を封入し、色素溶液注入孔38をエポキシ接着剤にて蓋35で封印したものである。
【0085】
本比較実施形態の熱レンズ形成素子3を用いた以外は、第2の実施の形態の場合と同一の装置、色素、溶剤、調整・測定手順によって、信号光(および制御光)の光軸300が鉛直方向、すなわち重力の方向に直交するよう装置の方位を設定して、制御光の波長860nm、強度7.3mW、信号光の波長1550nm、強度2mW、として、丸ビーム方式光路偏向装置に入射する信号光・光ファイバーから入射する信号光強度に対する、制御光の消灯・点灯に対応して出射する直進信号光521および偏向信号光531の強度を測定・比較した。結果を表4に示す。
【0086】
【表4】

【0087】
表4を表3と比較して判るように、信号光の光軸300が鉛直方向、すなわち重力の方向に直交するよう装置の方位を設定した場合については、比較実施形態3の熱レンズ形成素子3は、本発明の第2の実施の形態の熱レンズ形成素子2の場合に遜色ない光スイッチ特性を発揮する。
【0088】
ところが、信号光(および制御光)の光軸300を回転軸として、熱レンズ形成素子3の方位が回転するよう、丸ビーム方式光路偏向装置の向きを45度ずつ変えて、上記の強度比を測定した。強度比の変動は大きく、1ないし2dBの変化が認められた。
【0089】
更に、コイン型の熱レンズ形成素子3を構成する円盤状平面に平行で、信号光(および制御光)の光軸300に直交する方向を回転軸とし、丸ビーム方式光路偏向装置の向きを45度ずつ変えて、上記の強度比を測定した。強度比の変動は一層大きくなり、値の変動は最大±5dBに達した。
【0090】
以上の方位を変える測定において、装置の特定の方位で強度比の変動が特に大きくなる現象が数回観察され、信号光強度比の変動は一時的に±10dBに達した。これは、コイン型光学セル36内の空間33に封印された不活性ガスの気泡34が空間33内部を自由に移動可能であるため、装置の方位を変える操作中に、制御光および信号光の光路をよぎったものと推測される。
【0091】
以上、本比較実施形態3が示唆するように、熱レンズ形成素子の光学セル内部が堰によって適度に仕切られていないと、色素溶液内部で温度が上昇した部分およびその周辺に引き起こされる「熱対流」が激しく起こり、素子の方位の変化に従って、熱レンズの形成に好ましくない影響を与える。一方、第2の実施の形態に詳しく記載したように、本発明の熱レンズ形成素子1および2の内部空間は、堰17または27によって、対称性の高い、適度な大きさの空間に仕切られているため、素子の方位が変化しても光スイッチ特性への影響を小さくすることができる。また、堰17または堰27によって、内部圧力上昇軽減のために封印する気泡14または気泡24が制御光および信号光の光路をよぎることを防ぐこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、光通信分野および光情報処理分野において有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1a】本発明の第1の実施の形態における熱レンズ形成素子の概略構成図である。
【図1b】図1aのC−C’線に沿った断面図である。
【図1c】図1bのB−B’線に沿った断面図である。
【図2a】本発明の第2の実施の形態における熱レンズ形成素子の概略構成図である。
【図2b】図2aのD−D’線に沿った断面図である。
【図3a】本発明の第2の実施の形態に対する比較例となる熱レンズ形成素子の概略構成図である。
【図3b】図3aのE−E’線に沿った断面図である。
【図4】本発明の熱レンズ形成素子を用いた光路切替装置の一例の概略構成図である。
【図5】本発明の熱レンズ形成素子を用いた光路偏向装置の一例の概略構成図である。
【図6】本発明の熱レンズ形成素子に用いられる溶剤#1の質量分析ガスクロマトグラムである。
【図7】本発明の熱レンズ形成素子に用いられる溶剤#1の屈折率・温度依存性を表すグラフである。
【図8】比較例に用いられる溶剤#2の屈折率・温度依存性を表すグラフである。
【図9】溶剤#1および溶剤#2の粘度・温度特性を表すグラフである。太い線が溶剤#1、細い線が溶剤#2の特性を示している。
【図10a】本発明の熱レンズ形成素子を出射した信号光ビームの断面形状と制御光パワーの対応を示す図であって、制御光を照射しない場合の信号光ビーム(ガウス分布の丸ビーム)断面である。
【図10b】本発明の熱レンズ形成素子を出射した信号光ビームの断面形状と制御光パワーの対応を示す図であって、制御光パワー2.2mWを照射した場合の信号光ビーム断面である。
【図10c】本発明の熱レンズ形成素子を出射した信号光ビームの断面形状と制御光パワーの対応を示す図であって、制御光パワー4.3mWを照射した場合の信号光ビーム断面である。
【図10d】本発明の熱レンズ形成素子を出射した信号光ビームの断面形状と制御光パワーの対応を示す図であって、制御光パワー7.6mWを照射した場合の信号光ビーム断面である。
【図11】オシロスコープで観察した制御光および信号光の波形を表した図である。
【図12】オシロスコープで観察した制御光および信号光の波形を表した図である。
【図13】制御光を断続する周波数と光路切替された信号光の強度(振幅)の関係を表した図である。
【図14】制御光を断続する周波数と光路切替された信号光の強度(振幅)の関係を表した図である。
【図15】本発明および比較例の熱レンズ形成素子を用いた丸ビーム方式光路偏向装置における偏向角と制御光パワーの関係を表した図である。
【図16】本発明の熱レンズ形成素子の温度を変化させたとき、内部に封入された気泡の体積変化から算出される素子内部圧力の変化の一例を表す図である。
【符号の説明】
【0094】
1,2,3 熱レンズ形成素子、10 第1の空間11に内接する円柱、11 直方体型の第1の空間、20 円柱型の第1の空間、12,22 溶液導入路、13,23 第2の空間、14,24,34 気泡、15,25,35 蓋、16 光学セル、17,27 堰、26,36 コイン型光学セル、28,38 色素溶液注入孔、33 円柱型空間、40,41、50,51 コリメートレンズ、42,52 ダイクロイックミラー、43,53 集光レンズ、44,54 受光レンズ、45 穴付ミラー、46,47,56,57 結合レンズ、100,200,300 直進信号光の光軸、101,201,301 入射信号光、111,211,311 入射制御光、121,221,321 出射信号光(直進)、400 入力側信号光・光ファイバー、401 入射信号光、410 制御光・光ファイバー、411 入射制御光、420 直進出力側信号光・光ファイバー、421 直進信号光、430 光路切替出力側信号光・光ファイバー、431 光路切替信号光、500 入力側信号光・光ファイバー、501 入射信号光、510 制御光・光ファイバー、511 入射制御光、520 直進出力側信号光・光ファイバー、521 直進信号光、530 光路偏向出力側信号光・光ファイバー、531 光路偏向信号光、4110 制御光の波形、4310 信号光の波形、D1 円柱10の直径、D2 円柱型空間20の直径(円柱型の堰27の内径)、D3 コイン型セル2,3の外径、D4 コイン型セル2,3の内径、D5 円柱型の堰27の外径、D6 蓋25,35の直径、D7 注入孔28,38の直径、D8 気泡24,34の直径、T1,T3,T4,T5 ガラス板材の厚さ、T2 ガラス板材の1辺の長さ、h1 円柱10の高さ、h1’堰17の高さ、h2円柱型空間20の高さ、h2’堰27の高さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光の波長の光を吸収せず、制御光の光を吸収する色素を溶剤に溶解させた溶液が充填された光学セルを備える熱レンズ形成素子であって、
前記光学セルは、少なくとも制御光が焦点を結ぶように配置された制御光吸収領域を有し、
前記溶剤の160℃以上における粘度が0ないし3mPa・sであり、かつ、前記溶剤の160℃における粘度の値で、前記溶剤の40℃における粘度の値を除した値が1以上、6以下であり、
前記制御光吸収領域には、前記制御光吸収領域が吸収する波長帯域から選ばれる波長の制御光と、前記制御光吸収領域が吸収しない波長帯域から選ばれる波長の信号光とが各々収束されて照射され、かつ前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が同一または相異なるように照射され、前記制御光吸収領域が前記制御光を吸収した領域およびその周辺領域に起こる温度上昇に起因して可逆的に形成される屈折率の分布に基づいた熱レンズが形成され、
前記制御光が照射されず熱レンズが形成されない場合は前記収束された信号光が通常の開き角度と直進方向で出射する状態と、
前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が同一になるよう制御光が照射されて熱レンズが形成される場合は前記収束された信号光が通常の開き角度よりも大きい開き角度で出射する状態、または、前記制御光および前記信号光の各々の収束点の位置が相異なるよう制御光が照射されて熱レンズが形成される場合は前記収束された信号光が通常の開き角度と異なる開き角度と直進方向とは異なる方向で出射する状態
とを、
前記制御光の照射の有無に対応させて実現させることを特徴とする熱レンズ形成素子。
【請求項2】
前記制御光吸収領域の形状が、前記制御光が照射されず前記信号光が直進する場合の光軸を中心軸とする円柱またはその円柱に外接するN角柱(Nは4以上の整数)であって、前記信号光は前記円柱またはその円柱に外接するN角柱の一方の底面から垂直に入射し、他方の底面から出射することを特徴とする請求項1に記載の熱レンズ形成素子。
【請求項3】
前記円柱またはその円柱に外接するN角柱の高さ、すなわち、底面間距離と前記円柱の直径が同一であることを特徴とする請求項2に記載の熱レンズ形成素子。
【請求項4】
前記円柱またはその円柱に外接するN角柱の高さである、底面間距離が200μmないし500μmであり、かつ、前記円柱の直径が200ないし500μmであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の熱レンズ形成素子。
【請求項5】
形状が円柱またはその円柱に外接するN角柱である前記制御光吸収領域が、内径10ないし50μmの細管または隙間間隔が5ないし20μmの堰を介して第2の空間に接続され、この第2の空間には前記色素溶液および不活性気体が充填されていることを特徴とする請求項2に記載の熱レンズ形成素子。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−175164(P2009−175164A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−1808(P2008−1808)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】