説明

熱交換器及びその製造方法

【課題】空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得る被膜を備えた熱交換器を提供する。
【解決手段】被膜が形成されたフィンを有する熱交換器であって、前記被膜は、前記フィン上に形成された親水性有機被膜と、前記親水性有機被膜の表層にTi、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を反応させた反応層と、前記反応層上に形成された無機微粒子からなる無機被膜とを有することを特徴とする熱交換器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器及びその製造方法に関し、特に、一般的な建築物の他、溶接や切断などの金属の加工現場、金属粉塵を取り扱う事業所、鉄道などの車両、その他の関連施設において使用される空気調和機の熱交換器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、冷媒が通るパイプに多数枚のフィン(例えば、アルミフィン)が取り付けられた構造を有しており、表面積が大きいフィンによって熱交換効率を高めている。このフィンの表面には、冷暖房時に凝結水が付着し易く、フィン間が凝結水によって封鎖される現象(以下、「ブリッジ現象」という。)によって通風抵抗が増大して熱交換効率が低下することがある。特に、ブリッジ現象は、粉塵などの汚れがフィンの表面に付着することによって起こり易くなるため、防汚性能に優れた有機系又は無機系の親水性被膜をフィンの表面に形成することによってブリッジ現象を一般に防止している。ここで、本明細書において「防汚性能」とは、汚れが付着し難い性能、及び付着した汚れが除去され易い性能を意味する。
【0003】
そこで、このような親水性被膜の防汚性能や親水性の低下を防止するために、様々な塗料を用いて親水性被膜を形成する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、変性ポリビニルアルコール及び架橋剤を含む塗料を用いて親水性被膜を形成する方法が提案されている。また、特許文献2では、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール及び各種架橋剤を含む塗料を用いて親水性被膜を形成する方法が提案されている。さらに、特許文献3では、シリカ超微粒子及びフッ素樹脂粒子を含む塗料を用いて親水性被膜を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−36757号公報
【特許文献2】特開平8−261688号公報
【特許文献3】国際公開第2008/087877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、フィンの表面は、凝結水、熱、光、空気などに曝されることから、これらの様々な要因によって、フィンの表面に形成された親水性被膜の防汚性能や親水性が低下したり、親水性被膜の劣化によってフィンが腐食したりすることがある。また、空気調和機は様々な環境下で使用されることが多く、空気中に汚染物質(例えば、鉄、銅又はこれらの合金の金属粒子、特に、鉄粉)が多い場合にはフィンに汚染物質が付着する。この汚染物質の付着もまた、親水性被膜の防汚性能及び親水性の低下やフィンの腐食を生じさせる要因となる。特許文献1〜3では、この汚染物質の付着による親水性被膜の防汚性能及び親水性の低下やフィンの腐食に関する問題を取り扱っていない。
【0006】
すなわち、特許文献1及び2の親水性被膜は、空気中に汚染物質が少ない通常の環境下においては、防汚性能及び親水性を保持することができるものの、空気中に汚染物質が多い環境下(例えば、溶接や切断などの金属の加工現場、金属粉塵を取り扱う事業所、鉄道などの車両、その他の関連施設)においては、汚染物質の付着によって防汚性能及び親水性が徐々に低下する。具体的には、特許文献1及び2の親水性被膜は有機系であるため、汚染物質が凝結水に溶解することによって生じた金属イオン成分が、触媒として作用し、有機成分の劣化を促進させる。その結果、親水性被膜の防汚性能及び親水性が低下すると共に、フィンの腐食なども起こる。
一方、特許文献3の親水性被膜は無機系であるため、汚染物質に起因する金属イオン成分による親水性被膜の劣化は生じないものの、金属イオン成分が被膜に浸透してフィンを腐食させることがある。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得る被膜を備えた熱交換器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、フィンに親水性有機被膜を形成した後、親水性有機被膜の表層にTi、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を反応させた反応層を形成することにより、汚染物質に起因する金属イオン成分の侵入を防止し、親水性有機被膜の劣化を抑制することができ、また、反応層上に無機微粒子からなる無機被膜を形成することにより、空気中に汚染物質が多い環境下においても親水性を保持させることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、被膜が形成されたフィンを有する熱交換器であって、前記被膜は、前記フィン上に形成された親水性有機被膜と、前記親水性有機被膜の表層にTi、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を反応させた反応層と、前記反応層上に形成された無機微粒子からなる無機被膜とを有することを特徴とする熱交換器である。
また、本発明は、被膜が形成されたフィンを有する熱交換器の製造方法であって、前記フィン上に親水性有機被膜を形成した後、無機微粒子と、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物とを含む塗料を前記親水性有機被膜に塗布及び乾燥して反応層及び無機被膜を形成することを特徴とする熱交換器の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得る被膜を備えた熱交換器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1の熱交換器のフィンの表面に形成された被膜の断面図である。
【図2】一般的な熱交換器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、図面を参照して本実施の形態の熱交換器及びその製造方法について説明する。
図1は、熱交換器のフィンの表面に形成された被膜の断面図である。図1において、フィン1上には、親水性有機被膜2、反応層3及び無機被膜4が順次形成されている。
【0013】
フィン1上に形成される親水性有機被膜2は、フィン1と被膜との密着性を高めると共に、被膜の親水性を担う被膜である。親水性有機被膜2としては、特に限定されず、当該技術分野において一般に用いられている親水性の有機被膜であればよい。具体的には、極性基(例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基など)を有し、水に溶解しないものであればよい。親水性有機被膜2の例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン若しくはポリアクリルアミドの単独重合体、共重合体又は変性体;アクリル酸若しくはメタクリル酸の単独重合体、共重合体又はその塩;エポキシ樹脂やウレタン樹脂などから形成される被膜が挙げられる。また、フッ素樹脂やシリコーン樹脂などの樹脂であっても、極性基を有するものであれば使用可能である。これらは、単独でも2種以上の成分を組み合わせて用いてもよい。2種以上の成分を組み合わせて用いる場合、2種以上の成分が均一に混合したものでも相分離したものであってもよい。また、親水性有機被膜2には、シリカ、チタニアなどの無機物を含有させてもよい。
【0014】
親水性有機被膜2の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.1μm以上15μm以下である。親水性有機被膜2の厚さが0.1μm未満であると、フィン1の腐食を十分に防止できないことがある。一方、親水性有機被膜2の厚さが15μmを超えると、熱交換効率が低下してしまうことがある。
【0015】
親水性有機被膜2は、上記のような親水性有機被膜2を与える成分を含む塗料(以下、「第1塗料」という。)をフィン1上に塗布及び乾燥することによって形成することができる。この第1塗料には、親水性有機被膜2の不溶化及び強度向上の観点から、架橋剤、ラジカル開始剤、反応性成分などの公知の添加剤を配合してもよい。これらの各成分の配合量は、特に限定されず、種類に応じて適宜調整すればよい。
第1塗料の塗布方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。第1塗料の塗布方法の例としては、刷毛塗り、スプレー塗布、浸漬、ロールコーターによる塗布などが挙げられる。
第1塗料の乾燥方法としては、特に限定されず、室温で放置すればよい。また、加熱することによって乾燥を促進させてもよい。
【0016】
親水性有機被膜2上に形成される反応層3は、親水性有機被膜2の表層にTi、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を反応させることによって形成される層である。
一般に、親水性有機被膜2中の極性基(例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基など)は、汚染物質(例えば、鉄、銅又はこれらの合金の金属粒子)が凝結水に溶解することによって生じた金属イオン成分と反応して結合し、親水性有機被膜2の分解を促進させる。そこで、金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を親水性有機被膜2の表層の極性基と予め反応させて結合することにより、親水性有機被膜2中の極性基と金属イオンと成分との反応を防止する。これにより、汚染物質に起因する金属イオン成分の親水性有機被膜2中への侵入を防止し、親水性有機被膜2の劣化を抑制することができる。また、この反応層3は、親水性有機被膜2の表層の強度を高め、親水性有機被膜2の耐水性及び親水性有機被膜2と無機被膜4との密着性も高めることができる。
【0017】
また、親水性有機被膜2を形成した後、親水性有機被膜2の表層のみを金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物と反応させて反応層3を形成することで、親水性有機被膜2のクラックなどの欠陥を防止し、親水性有機被膜2の柔軟性を確保することができる。そのため、フィン1と親水性有機被膜2との密着性が低下することもない。
【0018】
金属アルコキシ化合物としては、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有していれば特に限定されない。金属アルコキシ化合物のアルコキシ基の例としては、エトキシ基、ブトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、オクトキシ基、ベンゾキシ基、フェノキシ基などが挙げられる。また、このアルコキシ化合物の金属原子には、同種のアルコキシ基が結合していても、異種のアルコキシ基が結合していてもよい。金属アルコキシ化合物の例としては、テトラブトキシチタン、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの金属アルコキシ化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
金属キレート化合物としては、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有していれば特に限定されない。金属キレート化合物の配位子の例としては、クエン酸、シュウ酸、乳酸などの有機酸;トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどのアミン類;各種アミノ酸;トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA);ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG);エチレンジアミン四酢酸(EDTA);ニトリロ三酢酸(NTA);グルコン酸;1,3−プロパンジアミン四酢酸;1,3−ジアミノ−2−プロパノール四酢酸などが挙げられる。金属キレート化合物の例としては、チタンアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)などが挙げられる。これらの金属キレート化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
反応層3上に形成される無機被膜4は、防汚性能及び親水性に優れた被膜であり、無機微粒子から構成される。この無機被膜4は、親水性が高いため、ブリッジ現象を防止して通風抵抗の増大を抑制することができる。また、この無機被膜4は、熱交換器内に吸入される汚れ(例えば、粉塵や繊維などの汚れ)の付着を抑制する効果も高い。
無機被膜4を構成する無機微粒子としては、被膜を形成し得るものであれば特に限定されないが、鉄イオンや銅イオンなどの有機成分を劣化させる成分を放出しないものであることが好ましい。無機微粒子の例としては、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、チタン、セリウム、スズ、亜鉛、インジウム、アンチモンなどの元素の微粒子、又はこれらの元素の酸化物や窒化物の微粒子が挙げられる。また、これらの微粒子を親水化処理などの各種表面処理を行ったものを用いてもよい。これらの無機微粒子は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、無機被膜4の形成を容易にする観点から、シリカやアルミナなどの金属酸化物のゾル、ナトリウムシリケートやリチウムシリケートなどの各種シリケート、金属アルキレート、リン酸アルミやρ−アルミナなどの一般的なバインダーを無機微粒子と共に用いてもよい。なお、バインダーが無機微粒子を含有していれば、そのバインダーを単独で用いることも可能である。
【0021】
無機微粒子の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは3nm以上0.5μm以下、より好ましくは5nm以上0.2μm以下である。ここで、本明細書における「無機微粒子の平均粒径」とは、レーザー光散乱式又は動的光散乱式の粒度分布計で測定した時の無機微粒子の一次粒子の平均粒径の値を意味する。無機微粒子の平均粒径が3nm未満であると、塗料中に均一に分散させることが困難になると共に、無機被膜4に汚れが付着し易くなることがある。一方、無機微粒子の平均粒径が0.5μmを超えると、無機被膜4の表面の凹凸が大きくなりすぎることがある。その結果、凹凸に汚れが捕捉され易くなり、汚れが付着し易くなることがある。
【0022】
無機被膜4の厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.05μm以上0.5μm以下である。無機被膜4の厚さが0.05μmであると、所望の防汚性能及び親水性が得られない場合がある。一方、無機被膜4の厚さが0.5μmを超えると、無機被膜4にクラックやボイドなどの欠陥が生じ易く、汚れが捕捉され易い凹凸が表面に形成される結果、所望の防汚性能が得られないことがある。
【0023】
熱交換器のフィン1の表面には、気流と共に、砂塵などの親水性汚れや油煙などの親油性汚れのような特性が異なる種々の汚れが接触して付着することがある。したがって、これらの特性が異なる種々の汚れの付着を抑制するため、無機被膜4中にフッ素樹脂粒子を分散させることが好ましい。無機被膜4中のフッ素樹脂粒子の一部は無機被膜4の表面に露出し、このフッ素樹脂粒子に起因する疎水性部分と、無機被膜4に起因する親水性部分とによって、親水性汚れ及び疎水性汚れの両方の付着を抑制することが可能になる。
【0024】
フッ素樹脂粒子としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。フッ素樹脂粒子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、フルオロエチレン・ビニルエーテル共重合体、フルオロエチレン・ビニルエステル共重合体、これらの共重合体及び混合物、並びにこれらのフッ素樹脂に他の樹脂を混合したものなどから形成された粒子が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
フッ素樹脂粒子の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは50nm以上500nm以下、より好ましくは100nm以上200nm以下である。ここで、本明細書における「フッ素樹脂粒子の平均粒径」とは、レーザー光散乱式又は動的光散乱式の粒度分布計で測定した時の無機微粒子の一次粒子の平均粒径の値を意味する。フッ素樹脂粒子の平均粒径が50nm未満であると、塗料の安定性が得られなかったり、フッ素樹脂粒子が無機被膜4の表面に露出し難くなって所望の防汚性能が得られないことがある。一方、フッ素樹脂粒子の平均粒径が500nmを超えると、無機被膜4の凹凸が大きくなりすぎ、所望の防汚性能が得られないことがある。
【0026】
反応層3及び無機被膜4は、無機微粒子と、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物とを含む塗料(以下、「第2塗料」という。)を親水性有機被膜2に塗布及び乾燥することによって形成することができる。ここで、無機被膜4中にフッ素樹脂粒子を分散させる場合には、第2塗料にフッ素樹脂粒子を配合すればよい。
【0027】
金属アルコキシ化合物を用いる場合、第2塗料の溶媒には、アルコールを用いることが好ましく、金属アルコキシ化合物のアルコキシ基と同じ炭素数のアルコールを用いることがより好ましい。この第2塗料中の金属アルコキシ化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。金属アルコキシ化合物の含有量が0.01質量%未満であると、親水性有機被膜2の表層に金属アルコキシ化合物を十分に反応させることができず、反応層3が十分に形成されない場合がある。一方、金属アルコキシ化合物の含有量が5質量%を超えると、無機被膜4中に未反応の金属アルコキシ化合物が多く残り、無機被膜4の強度が低下してしまう場合がある。なお、この第2塗料には、アルコール以外にも蒸発速度や引火性などを調整する観点から、アルコール以外の公知の溶剤を配合してもよい。
【0028】
金属キレート化合物を用いる場合、第2塗料の溶媒には、水を用いることが好ましい。水としては、特に限定されないが、無機微粒子の分散安定性の観点から、カルシウムやマグネシウムイオンなどの2価以上のイオン性不純物が少ない方が好ましく、脱イオン水であることがより好ましい。この第2塗料中の金属キレート化合物の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%以上4質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。金属キレート化合物の含有量が0.01質量%未満であると、親水性有機被膜2の表層に金属キレート化合物を十分に反応させることができず、反応層3が十分に形成されない場合がある。一方、金属キレート化合物の含有量が4質量%を超えると、無機被膜4中に未反応の金属キレート化合物が多く残り、無機被膜4の強度が低下してしまう場合がある。
特に、金属キレート化合物を用いる場合は、金属アルコキシ化合物の場合と異なり、アルコールなどの有機溶剤を用いなくてもよいため、引火などの危険性や環境負荷を低減することができる。
【0029】
第2塗料中の無機微粒子の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.05質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上2.5質量%以下である。無機微粒子の含有量が0.05質量%未満であると、無機被膜4が薄くなりすぎてしまい、所望の親水性及び防汚性能が得られない場合がある。一方、無機微粒子の含有量が5質量%を超えると、無機被膜4が厚くなりすぎてしまい、着臭などの問題が起こる場合がある。また、無機被膜4の表面の凹凸が大きくなり易く、所望の防汚性能が得られない場合もある。
【0030】
第2塗料にフッ素樹脂粒子を配合する場合、無機微粒子とフッ素樹脂粒子との質量比は、特に限定されないが、好ましくは60:40〜98:2、より好ましくは70:30〜98:2である。フッ素樹脂粒子の比率が上記範囲よりも大きすぎると、無機被膜4の親水性が低くなりすぎる場合がある。また、フッ素樹脂粒子に起因する疎水性部分が表面に多く露出してしまい、親油性汚れが付着し易くなり、所望の防汚性能が得られないことがある。一方、フッ素樹脂粒子の比率が上記範囲よりも小さすぎると、フッ素樹脂粒子に起因する疎水性部分が無機被膜4の表面に十分に露出せず、親水性汚れが付着し易くなり、所望の防汚性能が得られないことがある。
【0031】
第2塗料の塗布方法としては、特に限定されず、第1塗料の塗布方法と同様に当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。
第2塗料の乾燥方法としては、特に限定されず、第1塗料の塗布方法と同様に室温で放置すればよい。また、加熱することによって乾燥を促進させてもよい。
【0032】
第2塗料の塗布及び乾燥後、反応層3の形成を十分に行うと共にフィン1と被膜との密着性を向上させる観点から、必要に応じて加熱処理を行ってもよい。加熱処理の方法は、特に限定されないが、40℃以上250℃以下のオーブン又は温風の吹き付けによって行うことが好ましい。加熱温度が40℃未満であると、加熱処理による効果が十分に得られない場合がある。一方、加熱温度が250℃を超えると、無機被膜4の親水性が低下してしまう場合がある。また、加熱時間は、特に限定されないが、15秒以上15分以下であることが好ましい。加熱時間が15秒未満では、加熱処理による効果が十分に得られない場合がある。一方、加熱時間が15分を超えると、量産性に欠けると共に、無機被膜4の親水性が低下してしまう場合がある。
【0033】
図2は、一般的な熱交換器の斜視図である。図2に示すように、熱交換器は、冷媒が通るパイプ11に多数枚のフィン10が取り付けられている。このような構造を有する熱交換器は、フィン10となる材料(以下、「フィン材」という。)を打ち抜き、プレス成形してフィン10を作製した後、フィン10をパイプ11に挿入することによって製造される。
本実施の形態の製造方法では、フィン1に被膜を形成しているため、熱交換器の製造工程の途中で被膜が損傷を受けてしまう場合がある。そのため、最表面の無機被膜4の損傷を防止する観点からは、フィン1への無機被膜4の形成は、冷媒が通るパイプ11にフィン1を接合することによって熱交換器を組み立てた後に行うことが好ましい。この場合、上記の第2塗料の塗布は、均一な塗布を行う観点から、スプレー塗布や浸漬により行うことが好ましい。また、各塗料を塗布した後は、熱交換器を回転させたり、気流によって過剰な塗料を除去することが好ましい。
【0034】
上記のようにしてフィン1に形成された被膜は、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィン1の腐食を防止し得るので、熱交換器の熱交換効率が低下することを抑制することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
3質量%のポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製ポリビニルアルコールZ−200)を含む水溶液100質量部に対して5質量部のグリオキザールを配合して混合することによって第1塗料を作製した。
次に、テトラブトキシチタン及びオルガノシリカゾル(日産化学工業株式会社製IPA−ST、シリカ微粒子の平均粒径:15nm)をブタノールに配合して混合することによって第2塗料を作製した。ここで、第2塗料中のテトラブトキシチタン及びシリカ微粒子の含有量は、それぞれ1質量%及び1.5質量%に調整した。
次に、アルミフィンに第1塗料をスプレー塗布した後、140℃で5分間加熱することによって親水性有機被膜(膜厚0.8μm)を形成した。次に、この親水性有機被膜に第2塗料をスプレー塗布した後、60℃で1時間加熱することによって、反応層及び無機被膜(膜厚0.15μm)を形成した。
【0036】
(実施例2)
テトラプロポキシチタン及びオルガノシリカゾル(日産化学工業株式会社製IPA−ST)をプロパノールに配合して混合することによって第2塗料を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した。ここで、第2塗料中のテトラプロポキシチタン及びシリカ微粒子の含有量は、それぞれ0.5質量%及び0.3質量%に調整した。なお、形成された無機被膜の膜厚は0.2μmであった。
【0037】
(実施例3)
テトラブトキシジルコニウム及びオルガノシリカゾル(日産化学工業株式会社製IPA−ST)をブタノールに配合して混合することによって第2塗料を作製したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した。ここで、第2塗料中のテトラブトキシジルコニウム及びシリカ微粒子の含有量は、それぞれ0.3質量%及び0.2質量%に調整した。なお、形成された無機被膜の膜厚は0.2μmであった。
【0038】
(比較例1)
実施例1で作製した第1塗料をアルミフィン上にスプレー塗布した後、60℃で1時間加熱することによって親水性有機被膜(膜厚0.8μm)を形成した。
(比較例2)
テトラブトキシチタンをブタノールに配合して混合することによって第2塗料を作製したこと以外は実施例1と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した。ここで、第2塗料中のテトラブトキシチタンの含有量は、2質量%に調整した。
【0039】
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた被膜について、接触角計PD−X型(協和界面科学)を用いて水の接触角を測定した。
また、各被膜を水で湿潤させた後、平均粒径45μmの鉄粉を吹き付け、気流で乾燥させた後に鉄粉の付着状態を目視にて観察することによって評価した。この評価において、鉄粉が全く付着していない被膜を0とし、6段階の基準によって評価した。
また、各被膜を鉄粉と接触させ、湿度90%で3日間放置した後、水流を吹き付け、鉄粉(鉄錆)の固着状態を目視にて観察した。次に、1%の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して鉄粉を除去し、鉄粉が固着していた部分の被膜の剥離の有無を観察した。
上記の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示されているように、実施例1〜3の被膜は、親水性が高いと共に、鉄粉の固着も少なく、鉄粉に起因する被膜の劣化なども見られなかった。
一方、比較例1の被膜は、乾燥状態での親水性が低く、鉄粉の固着も多かったことから、鉄粉などの汚染物質が付着し易いと考えられる。また、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させた後に被膜が溶解して剥離したことから、鉄粉から生じた鉄イオンによって被膜が劣化したと考えられる。
また、比較例2の被膜は、乾燥状態での親水性が低く、鉄粉の付着も多かったことから、鉄粉などの汚染物質が付着し易いと考えられる。
【0042】
(実施例4)
ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)及びシリカ微粒子(平均粒径:10nm)を水に配合して混合することによって第2塗料を作製した。ここで、第2塗料中のジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)及びシリカ微粒子の含有量はいずれも0.5質量%に調整した。
次に、実施例1と同様にしてアルミフィンに親水性有機被膜(膜厚0.8μm)を形成した後、銅パイプと接合して、幅25mm、高さ150mm、フィンピッチ2mmの熱交換器を作製した。次に、この熱交換器を第2塗料に約10秒間浸漬して引き上げ、気流で過剰の第2塗料を除去した後、120℃のオーブンで10分間加熱し、親水性有機被膜の表面に反応層及び無機被膜(膜厚0.15μm)を形成した。
【0043】
(実施例5)
ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム及びシリカ微粒子(平均粒径:10nm)を水に配合して混合することによって第2塗料を作製したこと以外は実施例4と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。ここで、第2塗料中のジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム及びシリカ微粒子の含有量はいずれも0.5質量%に調整した。なお、形成された無機被膜の膜厚は、0.2μmであった。
【0044】
(実施例6)
ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、シリカ微粒子(平均粒径:10nm)及びPTFE粒子(平均粒径:240nm)を水に配合して混合することによって第2塗料を作製したこと以外は実施例4と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。ここで、第2塗料中のジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、シリカ微粒子及びPTFE粒子の含有量は、それぞれ0.5質量%、0.5質量%及び0.2質量%に調整した。なお、形成された無機被膜の膜厚は、0.3μmであった。
【0045】
(実施例7)
ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、シリカ微粒子(平均粒径:10nm)及びPTFE粒子(平均粒径:240nm)を水に配合して混合することによって第2塗料を作製したこと以外は実施例4と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。ここで、第2塗料中のジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、シリカ微粒子及びPTFE粒子の含有量は、それぞれ0.5質量%、0.5質量%及び0.2質量%に調整した。なお、形成された無機被膜の膜厚は、0.25μmであった。
【0046】
(比較例3)
ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)を水に配合して混合することによって第2塗料を作製したこと以外は実施例4と同様にしてアルミフィン上に被膜を形成した熱交換器を作製した。ここで、第2塗料中のジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)の含有量は0.5質量%に調整した。
【0047】
実施例4〜7及び比較例3の熱交換器のアルミフィンに形成された被膜について、上記と同じ方法によって接触角を測定した。
また、熱交換器を水に浸漬した後、水を振り切り、約20m/秒の気流を流しながら平均粒径45μmの鉄粉を吹き付け、鉄粉の付着状態を目視にて観察することによって評価した。この評価において、鉄粉が全く付着していない被膜を0とし、6段階の基準によって評価した。
また、各被膜を鉄粉と接触させ、湿度90%で3日間放置した後、水流を吹き付け、鉄粉の固着状態を目視にて観察した。その後、1%の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬して鉄粉を除去し、鉄粉が固着していた部分の被膜の剥離の有無を観察した。
上記の結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示されているように、実施例4〜7の被膜は、親水性が高いと共に、鉄粉の固着も少なく、鉄粉に起因する被膜の劣化などもほとんど見られなかった。なお、実施例5の被膜は、一部剥離していたものの、実用可能な程度のものであった。
一方、比較例3の被膜は、乾燥状態での親水性が低く、鉄粉の固着も多かったことから、鉄粉などの汚染物質が付着し易いと考えられる。また、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させた後に被膜が溶解して剥離したことから、鉄粉から生じた鉄イオンによって被膜が劣化したと考えられる。
【0050】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、空気中に汚染物質が多い環境下においても防汚性能及び親水性を保持し得ると共にフィンの腐食を防止し得る被膜を備えた熱交換器及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 フィン、2 親水性有機被膜、3 反応層、4 無機被膜、10 フィン、11 パイプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜が形成されたフィンを有する熱交換器であって、
前記被膜は、前記フィン上に形成された親水性有機被膜と、前記親水性有機被膜の表層にTi、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物を反応させた反応層と、前記反応層上に形成された無機微粒子からなる無機被膜とを有することを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記無機被膜中にフッ素樹脂粒子が分散されていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
被膜が形成されたフィンを有する熱交換器の製造方法であって、
前記フィン上に親水性有機被膜を形成した後、無機微粒子と、Ti、Zr及びAlからなる群から選択される1種以上の金属を有する金属アルコキシ化合物及び/又は金属キレート化合物とを含む塗料を前記親水性有機被膜に塗布及び乾燥して反応層及び無機被膜を形成することを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項4】
前記塗料はフッ素樹脂粒子をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項5】
前記フィン上に親水性有機被膜を形成した後、前記塗料を前記親水性有機被膜に塗布及び乾燥する前に、冷媒が通るパイプに前記フィンを接合することを含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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