説明

熱交換器及びそれを備えた人工肺装置

【課題】伝熱細管の内腔における熱媒体液の流れを適切に制御して、熱交換領域の容積の増大を抑制しながら、熱交換効率を向上させる。
【解決手段】複数本の伝熱細管1が配列され積層された細管束からなる熱交換モジュール2と、細管束の長手方向中央部を横断して被熱交換液を流通させる熱交換流路5を形成し、細管束の両端は露出させて細管束を封止したシール部材3a〜3cと、細管束の両端部に熱媒体液を導入、導出するための伝熱細管ヘッダー6〜8を有し、熱交換流路の両端部に被熱交換液導入口、導出口9、10を有するハウジング4とを備える。熱交換モジュールは熱交換流路の流路方向において分割されて、各々が複数本の伝熱細管を含む複数段の細管束ユニット2a、2bが形成され、隣接する細管束ユニットとの間で各々に属する伝熱細管が互いに交差する。伝熱細管ヘッダーにより、熱媒体液が複数組の細管束ユニットを順次通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器、特に人工心肺装置等の医療機器に用いるのに適した熱交換器、及びそれを備えた人工肺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓手術においては、患者の心臓を停止させ、その間の呼吸及び循環機能を代行するために、人工心肺装置が用いられている。また、手術中は患者の酸素消費量を減少させるため、患者の体温を低下させ、それを維持する必要がある。このため、人工心肺装置には、患者から取り出した血液の温度を制御するための熱交換器が備えられている。
【0003】
このような医療用の熱交換器としては、従来、蛇腹管式の熱交換器や、多管式の熱交換器(例えば、特許文献1参照)が知られている。このうち、多管式の熱交換器は、蛇腹管式の熱交換器と装置容積が同じであるとすると、熱交換面積が大きく得られるため、蛇腹管式の熱交換器に比べて熱交換効率が高いという利点がある。
【0004】
従来例の多管式の熱交換器について、図8A〜図8Dを参照して説明する。図8Aは多管式の熱交換器上面図、図8Bは側面図、図8Cは正面図である。図8Dは、熱交換器のハウジング内部を示す斜視図であり、部分的に断面で示されている。
【0005】
この熱交換器は、熱媒体液である冷温水を流す複数本の伝熱細管101から構成される熱交換モジュール102と、熱交換モジュール102を封止したシール部材103a〜103cと、それらを収容したハウジング104とから構成されている。
【0006】
複数本の伝熱細管101は、平行に配列され積層されて細管束を形成している。図8A及び8Dに示すように、中央部のシール部材103cは、熱交換モジュール102の長手方向中央部に、各々の伝熱細管101の表面を横断して被熱交換液である血液を流通させるための熱交換流路として、円形断面を有する血液流路105を形成している。両端部のシール部材103a、103bは各々、熱交換モジュール102の両端を露出させている。
【0007】
ハウジング104には、血液流路105の両端に面して、血液をハウジング内に導くための血液導入口106と、血液をハウジングから導出するための血液導出口107とが設けられている。また、シール部材103a〜103cのそれぞれの間には、間隙108が設けられ、ハウジング104には、間隙108に対応する漏液排出孔109が設けられている。
【0008】
以上の構成において、血液を、血液導入口106から流入させて血液流路105を通り血液導出口107から流出するように流動させる。同時に、図8A、図8Bに示すように冷温水を、熱交換モジュール102の露出された一端から流入させて、露出された他端から流出するように流動させる。それにより、血液流路105において、血液と冷温水の間で熱交換が行われる。
【0009】
漏液排出孔109は、シール漏れによって血液あるいは冷温水が漏洩した場合に、適切に排出するために設けられている。例えば、第3のシール部材103cのシール漏れによって血液が漏洩した場合に、漏洩した血液が間隙108に一旦溜まった後、熱交換器の外部へと排出される。また、第1のシール部材103a又は第2のシール部材103bのシール漏れによって冷温水が漏洩した場合も、漏洩した冷温水は間隙108を通じて漏液排出孔109から熱交換器の外部へと排出される。これにより、血液が漏洩した場合、及び冷温水が漏洩した場合のいずれの場合においても、即座にシール漏れを検知でき、また、血液汚染の発生を防止できる。
【特許文献1】特開2005−224301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のような多管式の熱交換器に対して、熱交換効率を更に向上させることが要求されている。すなわち、血液流路105を含む熱交換領域における血液充填量を極力少なくし、しかも、十分な熱交換能を得るためには、熱交換効率を向上させる必要があるからである。
【0011】
本発明者らが検討した人工肺用の熱交換器の場合、実用上、熱交換効率が0.43以上であることが望ましいことが判った。この目標値をクリアするために必要な熱交換面積は、血液流量2L/minのときに0.014m2であった。これを、熱交換器の能力を血液流量7L/minに向上させた構造に適用した場合、熱交換面積シミュレーションの結果、0.43以上の熱交換効率を得るためには0.049m2の熱交換面積が必要であることが判った。
【0012】
例えば外径が1.25mmの伝熱細管1を用いた場合、計算によれば、伝熱細管101の積層数(細管層数)を6層にすれば、0.057m2の熱交換面積が得られることが算出された。しかし、そのような6層構成の熱交換モジュール102を用い、血液流路105の開口径を70mmとして熱交換効率を測定したところ、0.24という、目標値よりはるかに低い値しか得られなかった。
【0013】
そこで、外径が1.25mmの伝熱細管101を用い、血液流路105の開口径を70mmとして、細管層数を種々に増大させた熱交換モジュールを作製し、熱交換効率を測定したところ、熱交換効率0.43をクリアするためには、細管層数を18層以上にする必要があることが判った。なお、測定条件は、熱交換領域入口での血液温度を30±1℃、冷温水温度を40±1℃、冷温水流量を15L/min、血液流量を7L/minとした。しかし、上述の条件で細管層数を18層にすると、熱交換領域における血液充填量が42.3mLとなり、血液充填量の望ましい値である30mLをはるかに超えることになる。血液充填量を30mL以下にするためには、計算によれば、細管層数を13層以下にしなければならない。
【0014】
このように、単純に熱交換面積を大きくすることでは、所望の熱交換効率を得ることは困難である。そのため、熱交換効率を低下させると思われる原因について分析を行った。熱交換効率を低下させる原因としては、下記の5項目が考えられた。
【0015】
原因1:遠心力による針管のたわみ
原因2:血液の偏流
原因3:冷温水の偏流
原因4:シール部材の熱容量による放熱
原因5:冷温水流速の影響
(原因1)は、シール部材をポッティングにより形成する際に、遠心力により針管がたわんで伝熱細管の配列ピッチが不均一になることである。(原因2)及び(原因3)は、血液あるいは冷温水の流れが、熱交換領域における位置によって相違することである。(原因4)は、シール部材との接合に起因する伝熱細管からの放熱である。(原因5)は、伝熱細管の内腔を流れる冷温水の流速の影響である。
【0016】
実験の結果、(原因1)〜(原因4)については、熱交換効率の低下に対して、有意な程度の影響がないことが判った。(原因5)については、熱交換効率の低下に影響を与えることが判った。これは、冷温水の流速が境膜抵抗の変化に影響を与えることによるものと考えられる。
【0017】
そこで本発明は、伝熱細管の内腔における熱媒体液の流れを適切に制御して、熱交換領域の容積を小さく抑制しながら、熱交換効率を向上させることが可能な熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の熱交換器は、熱媒体液を流通させるための複数本の伝熱細管を配列し積層して形成された細管束により構成された熱交換モジュールと、前記細管束の長手方向中央部を横断して被熱交換液を流通させるための熱交換流路を形成し、かつ前記細管束の両端は露出させて前記細管束を封止したシール部材と、前記熱交換モジュール及び前記シール部材が収容され、前記細管束の両端に面して前記熱媒体液を導入または導出するための伝熱細管ヘッダーを有し、前記熱交換流路の両端に面して被熱交換液導入口および被熱交換液導出口を有するハウジングとを備える。
【0019】
上記課題を解決するために、前記熱交換モジュールは前記熱交換流路の流路方向において分割されて、各々が複数本の前記伝熱細管を含む複数段の細管束ユニットの積層構造が形成され、前記複数段の細管束ユニットは、隣接する前記細管束ユニットとの間で各々に属する前記伝熱細管が互いに交差するように配置され、前記伝熱細管ヘッダーは、前記熱媒体液が前記複数組の細管束ユニットを順次通過するように構成される。
【発明の効果】
【0020】
上記本発明の熱交換器の構成によれば、熱交換モジュールは熱交換流路の流路方向において分割されて、複数段の細管束ユニットの積層構造が形成され、熱媒体液が、複数組の細管束ユニットを順次通過するように構成されているので、各細管束ユニットの伝熱細管を流れる冷温水の流速を大きくすることができる。その結果、伝熱細管の内壁における境膜抵抗が低減され、熱交換領域の容積の増大を抑制しながら、熱交換効率を向上させることが可能となる。
【0021】
更に、隣接する細管束ユニットとの間で、各々に属する伝熱細管が互いに交差しているので、各細管束ユニットに対する伝熱細管ヘッダーの配置が容易である。すなわち、細管束ユニットの相互間隔を確保するためのスペーサを用いることなく、各ヘッダーを設けることが可能である。そのため、隣接する細管束ユニットの間で、伝熱細管の間隔を最小限にすることができ、熱交換流路の容積を小さくして、被熱交換液の充填量を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の熱交換器は、上記構成を基本として、以下のように変更された態様をとることができる。
【0023】
すなわち、前記細管束ユニットの前記熱交換流路の流路方向における端部に位置する前記伝熱細管と、隣接する前記細管束ユニットの前記熱交換流路の流路方向における端部に位置する前記伝熱細管の間の間隔は、前記伝熱細管の直径の2倍以下であることが好ましい。
【0024】
また、前記熱媒体液が、前記熱交換流路の下流側に配置された下流段の前記細管束ユニットから上流側に配置された上流段の前記細管束ユニットに向かって順次通過するように、前記伝熱細管ヘッダーが構成されることが好ましい。
【0025】
この場合に、前記熱媒体液を隣接する前記細管束ユニットに向けて導出するため、または隣接する前記細管束ユニットから導入するための前記伝熱細管ヘッダーは、当該隣接する前記細管束ユニットに隣接する側の側端部に導出口または導入口を有することが好ましい。
【0026】
また、前記熱交換モジュールは、2段または3段の前記細管束ユニットに分割されることが好ましい。
【0027】
上記いずれかの構成の熱交換器と、ガス流路と交差してガス交換を行うための血液流路を有する人工肺とを備え、前記熱交換器と前記人工肺とは積層されて、前記熱交換器の前記熱交換流路と前記人工肺の前記血液流路が連通している人工肺装置を構成することができる。
【0028】
以下、本発明の実施の形態における熱交換器について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、人工心肺装置等の医療機器用であって、患者から脱血した血液の温度調整に用いられる熱交換器を例として記述される。
【0029】
(実施の形態1)
図1Aは、実施の形態1における熱交換器を示す平面図である。図1Bは、図1AのA−A断面図である。この熱交換器は、熱媒体液として冷温水を流通させるための複数本の伝熱細管1から構成された熱交換モジュール2と、熱交換モジュール2を封止したシール部材3a〜3cと、それらを収容したハウジング4とから構成されている。熱交換モジュール2は、交差配列された2段の細管束ユニット2a、2bに分割されている。
【0030】
図2A、図2Bは、構造を理解し易く示するために、図1A、図1Bからハウジング4を除去して熱交換モジュール2とシール部材3a〜3cのみを示した図である。図2Aは平面図、図2Bは側面図である。同図に示すように、2段の細管束ユニット2a、2bは、各々3層の伝熱細管1を含む。細管束ユニット2a、2bの各々における複数本の伝熱細管1は、平行に配列され積層されて細管束を形成し、各段間では、互いに伝熱細管1の管軸方向が直交している。
【0031】
細管束ユニット2a、2bの各々の伝熱細管1の内腔には、冷温水が流される。中央部のシール部材3bは、熱交換モジュール2の長手方向中央部に、各々の伝熱細管1の表面を横断して被熱交換液である血液を流通させるための熱交換流路として、円形断面を有する血液流路5を形成している。両端部のシール部材3a、3cは、細管束ユニット2a、2bの各々の両端を露出させている。
【0032】
図1A、図1Bに示すように、ハウジング4は、細管束ユニット2a、2bの各々の両端に面して、冷温水を導入、導出するための伝熱細管ヘッダーを有する。すなわち、細管束ユニット2aの一端部に冷温水導入ヘッダー6が、他端部に冷温水導出ヘッダー7Aが設けられている。細管束ユニット2bの一端部には冷温水導入ヘッダー7Bが、他端部には冷温水導出ヘッダー8が設けられている。冷温水導出ヘッダー7Aと冷温水導入ヘッダー7Bは、互いに隣接する側の側端部にそれぞれ導出口及び導入口を有し、その導出口及び導入口間が連通部7Cにより連結されている。
【0033】
ハウジング4は更に、血液流路5の両端に面して血液導入口9、および血液導出口10(図1B参照)を有する。冷温水導入ヘッダー6、及び冷温水導出ヘッダー8にはそれぞれ、冷温水導入ポート11、及び冷温水導出ポート12が設けられている。また、シール部材3a〜3cのそれぞれの間には、間隙13が設けられ、ハウジング4には、間隙13に対応する漏液排出孔14が設けられている。
【0034】
冷温水導入ヘッダー6、7B、及び冷温水導出ヘッダー7A、8は、細管束ユニット2a、2bの両端部のシール部材3a、3bから露出した細管束の端部をそれぞれ包囲する空室6a、7b、7a、8aを形成している。空室7a、7bは、連通部7Cにより連通している。従って、導入され導出される冷温水は全て、冷温水導入ヘッダー6、7B、及び冷温水導出ヘッダー7A、8を経由して流動する。
【0035】
冷温水導入ポート11から冷温水導出ヘッダー6の空室6aに導入された冷温水は、細管束ユニット2aの伝熱細管1の内腔を通って、冷温水導出ヘッダー7Aの空室7aに流れ込む。そこから連通部7Cを経由して冷温水導入ヘッダー7Bの空室7bに流れ込み、細管束ユニット2bの伝熱細管1通って、冷温水導出ヘッダー8の空室8aに至り、冷温水導出ポート12から流出する。
【0036】
以上の構成において、血液を、血液導入口9から血液流路5に流入させて、血液導出口10から流出するように流動させる。同時に、冷温水を、冷温水導入ポート11から熱交換モジュール2に流入させて、冷温水導出ポート12から流出するように流動させる。それにより、血液流路5において、血液と冷温水の間で熱交換が行われる。また、血液が漏洩した場合、及び冷温水が漏洩した場合のいずれの場合においても、従来例と同様、間隙13により即座にシール漏れを検知でき、また、血液汚染の発生を防止できる。
【0037】
上述のとおり、冷温水導入ヘッダー6、7B、連通部7C、及び冷温水導出ヘッダー7A、8は、導入される冷温水が、2段の細管束ユニット2a、2bを順次通過するように構成されている。このように、導入される冷温水が、分割された複数組の細管束ユニットを順次通過する構成を、以降の記載においては分割通流と称する。これに対して従来例のように、導入される冷温水が冷温水導入ヘッダーにおいて全ての伝熱細管1に一斉に流入する構成を一斉通流と称する。
【0038】
分割通流を採用することにより、一斉通流の場合に比べて、冷温水流量が同一であれば、細管束ユニット2a、2bの各々の伝熱細管1を流れる冷温水の流速を大きくすることができる。それにより、伝熱細管1の内壁における境膜抵抗が低減され、熱交換効率を向上させることができる。
【0039】
また、本実施の形態においては、細管束ユニットの垂直折り返し構造、すなわち、熱交換モジュール2が血液の流通方向すなわち垂直方向において分割されて、複数段(2段)の細管束ユニットが形成された構造が採用されている。しかも冷温水は、血液流路5の下流側に配置された下流段の細管束ユニット2aから、上流段の細管束ユニット2bに向かって、順次経由して流動する。これにより、血流に対して冷温水の流れが向流になり、より高い熱交換効率を得るために効果的である。
【0040】
以上のように、分割通流により熱交換効率が向上する効果について実験した結果を、図3に示す。図3における「分割並流」及び「分割向流」が、本実施の形態による分割通流の場合を示す。「分割向流」は、図1Bに示したような、熱媒体液の流通方向に熱交換モジュールが分割され、熱媒体液が向流となるように設定された場合である。「分割並流」は、分割の態様は同様であるが、熱媒体液が血液の流通と同じ向きである並流となるように設定された場合を示す。いずれの場合も、血液流路5の開口径は70mm、伝熱細管1の層数は12層とした。
【0041】
図3から、一斉通流の場合に比べて、分割通流である分割並流及び分割向流の場合の熱交換効率が高いことが判る。これは、上述のように、分割通流の方が伝熱細管1を流れる冷温水の流速が大きいことにより、境膜抵抗が低減するためである。また、分割並流の場合よりも分割向流の場合の方が熱交換効率が高い結果が得られている。一斉通流に対して、分割並流の場合は熱交換効率が36%向上し、分割向流の場合は熱交換効率が54%向上している。
【0042】
図4は、細管束ユニットの分割および折り返し構造の態様と熱交換係数の関係を示す図である。本実施の形態の垂直折り返しの場合について、従来例の一斉通流(折り返しなし)、及び水平折り返し(2分割、及び3分割)の構成の熱交換係数と比較した結果を示す。水平折り返し(3分割)の場合は、3分割の中央部の細管束ユニットに冷温水を流入させて、両側の細管束ユニットから同時に流出させる構造とした。なお、いずれの場合も、血液流路5の開口径は70mm、伝熱細管1の層数は12層とした。
【0043】
図4に示されるとおり、折り返しなしの場合に比べて、水平折り返し(2分割)、水平折り返し(3分割)の場合は、熱交換係数がそれぞれ7%、11%向上した。更に、垂直折り返しの場合は、折り返しなしの場合に比べて熱交換係数が33%向上した。このように、垂直折り返しの場合は、水平折り返しと比べて冷温水を向流に流すことができるため、熱交換効率が向上する。
【0044】
また、本実施の形態によれば、熱交換モジュール2は垂直折り返し構造を有するとともに、細管束ユニット2a、2bは、各々に属する伝熱細管1が互いに交差するように配置されている。それにより、細管束ユニット2a、2bに属する伝熱細管1が全て平行に配置された場合に比べると、細管束ユニット2a、2bの相互間隔を確保するためのスペーサを用いることなく、各ヘッダーを設けることが可能である。そのため、血液流路5の流路方向における、細管束ユニット2a、2bの間で隣接する伝熱細管1の間隔を最小限にすることができる。例えば、細管束ユニット2a、2bの間で隣接する伝熱細管1の間隔を、伝熱細管1の直径の2倍以下にすることが可能である。従って、血液流路5の容積を小さくして、血液充填量を抑制することができる。また、スペーサが不要となることで、製造が容易であり、コストの面でも有利となる。
【0045】
なお、上述の実施の形態では、細管束ユニット2a、2bを、各々に属する伝熱細管1どうしが直交する配置の例を示したが、冷温水導入ヘッダー6、連通ヘッダー7、及び冷温水導出ヘッダー8の配置が可能な範囲であれば、より小さな角度で交差させた配置により、同様の効果を得ることも可能である。
【0046】
また、上述の図面には図示されていないが、ハウジング4は、例えばハウジング底部とハウジング上部のように分割して形成され、熱交換モジュール2等を収容して一体に結合させる構造を有する。
【0047】
本実施の形態において、伝熱細管1を構成する材料としては、例えばステンレス鋼等の金属材料が好適である。ハウジング4の材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂のような樹脂材料を用いることができる。シール部材3a〜3cを形成するための樹脂材料としては、例えば、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。このうち、伝熱細管1を構成する材料(例えば、金属材料)やハウジング4を構成する材料との接着性に優れている点からは、ポリウレタン樹脂やエポキシ樹脂が好ましい。
【0048】
(実施の形態2)
図5Aは、実施の形態2における熱交換器を構成する熱交換モジュール20を示す平面図である。図5Bは、図5AのB−B断面図である。実施の形態1の図1A等に示した要素と同様の要素については、同一の参照符号を付して、説明の繰り返しを省略する。
【0049】
本実施の形態における熱交換モジュール20は、実施の形態1と同様の垂直折り返し構造であり、3段の細管束ユニット2a〜2cが積層された構成を有する。なお、図5A、5Bでは、図の見易さのためハウジングを省略した状態が示されている。ハウジングに、冷温水導入ヘッダー、連通部、及び冷温水導出ヘッダーを設けて、細管束ユニット2a〜2cを連通させるために、実施の形態1と同様の構造を適用することは容易である。
【0050】
図5A、5Bに矢印で示すように、細管束ユニット2a〜2cを順次経由して冷温水を流すとともに、血液流路5に血液を流して、熱交換を行わせる。従って、実施の形態1と同様に、導入される冷温水が、分割された3段の細管束ユニット2a〜2cを順次通過する分割通流の形態が得られる。それにより、一斉通流の場合に比べて、伝熱細管1を流れる冷温水の流速を大きくすることができ、伝熱細管1の内壁における境膜抵抗が低減され、熱交換効率を向上させることができる。
【0051】
図6に、熱交換モジュール2を垂直折り返し構造にした場合の、細管束ユニットの段数、及び各細管束ユニットを構成する伝熱細管1の層数による効果の相違について検討した結果を示す。
【0052】
図6の(a)は、細管束ユニットの段数が2段、すなわち冷温水の流れを折り返す段数が2段の場合である。また、各段の細管束ユニットを構成する伝熱細管が3層(積層本数)、4層、5層、及び6層の場合の熱交換効率の測定結果を示す。図6の(b)は、折り返し細管束ユニットの段数が3段の場合である。各段の細管束ユニットを構成する伝熱細管が2層、3層、及び4層の場合の熱交換効率の測定結果を示す。横軸の下部に示したESAは、有効膜面積(Effective Surface Area)、Uは熱媒体の流速を示す。図6から、折り返し細管束ユニット段数は、(a)の2段の場合に比べて、(b)の3段の場合の方が高い熱交換効率を得易いことが判る。
【0053】
折り返し細管束ユニット段数が3段の場合、細管束ユニットを構成する伝熱細管の層数が2層、すなわち図3の(b)の左端の2−2−2層の構成の場合、3層、及び4層の場合に比べて若干熱交換効率が劣る。しかし、2段の場合に比べれば高い熱交換効率を得ることが可能である。しかも、3段を合計した伝熱細管の層数は6層であり、これに対応する伝熱細管層数を有する2段で3−3層の構成に比べれば、十分に高い熱交換効率が得られる。伝熱細管層数が同一ということは、血液充填量がほぼ同一であることを意味する。従って、2−2−2層の構成によれば、血液充填量を抑制しながら、熱交換効率を向上させることが可能であることが判る。
【0054】
また、3段の場合に、細管束ユニットを構成する伝熱細管の層数が3層と4層との間では、熱交換効率に有意な差は見られないことが判る。但し、4段以上はオーバースペックであり、圧損の増大のため、流量も増えない。この結果を考慮すれば、3層の伝熱細管により構成された細管束ユニットを3段に積層した場合に、実用上最も良好な構造が得られることが判る。
【0055】
(実施の形態3)
図7は、実施の形態3における人工心肺装置を示す断面図である。この人工心肺装置は、実施の形態1における構造の熱交換器30を人工肺40と組み合わせて構成されている。但し、熱交換器30に代えて、実施の形態2における熱交換器を備えた構成とすることもできる。
【0056】
熱交換器30は、人工肺40の上に積層されており、人工肺40のハウジング31に熱交換器30のハウジング4が結合されている。但し、熱交換器30のハウジング4と人工肺40のハウジング31が一体に形成された構造とすることもできる。人工肺40の領域には、酸素ガスを導入するためガス導入路32、血液中の二酸化炭素等を導出するためのガス導出路33が設けられている。
【0057】
人工肺40は、複数本の中空糸膜34と、シール部材35とを備えている。シール部材35は、ガス導入路32やガス導出路33に血液が侵入しないように、中空糸膜34をシールしている。シール部材35によるシールは、中空糸膜34を構成する中空糸の両端が露出するように行われている。ガス導入路32とガス導出路33とは、中空糸膜34を構成する中空糸によって連通している。
【0058】
また、人工肺40においてシール部材35の存在していない空間は、血液流路36を構成しており、血液流路36内には中空糸膜34が露出している。更に、血液流路36の血液入口側は、熱交換器30の血液流路5の出口側に連通している。
【0059】
以上の構成により、血液流路5を通って熱交換された血液は、血液流路36へと流れ込み、そこで、中空糸膜34に接触する。このとき、血液には、中空糸膜34を流れる酸素ガスが取り込まれる。また、酸素ガスが取り込まれた血液は、ハウジング31に設けられた血液導出口33から、外部に導出され、患者に返血される。一方、血液中の二酸化炭素は、中空糸膜34に取り込まれ、その後、ガス導出路33によって導出される。
【0060】
このように、図7に示す人工心肺装置においては、熱交換器30によって血液の温度調整が行われ、温度調整が行われた血液は人工肺40によってガス交換される。また、このとき、熱交換器30にシール漏れが発生し、伝熱細管1を流れる冷温水が流出しても、冷温水は間隙10に溜まり、その後、外部に排出される。このため、図7に示す人工心肺装置によれば、シール漏れを検知でき、又冷温水による血液の汚染を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、伝熱細管を流れる冷温水の流速を大きくできるので、伝熱細管の内壁における境膜抵抗を低減して、熱交換領域の容積の増大を抑制しながら、熱交換効率を向上させることが可能であり、人工心肺装置等に用いる熱交換器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1A】実施の形態1における熱交換器の構成を示す上面図
【図1B】同熱交換器のA−A断面図
【図2A】同熱交換器の熱交換モジュールの構成を示す上面図
【図2B】同熱交換モジュールの側面図
【図3】熱交換モジュールの分割通流による熱交換係数の向上効果を示す図
【図4】細管束ユニットの分割および折り返し構造の態様と熱交換係数の関係を示す図
【図5A】実施の形態2における熱交換器の構成を示す上面図
【図5B】同熱交換器の構成を断面で示した側面図
【図6】細管束ユニットの折り返し段数と熱交換係数の関係を示す図
【図7】実施の形態3における人工心肺装置を示す断面図
【図8A】従来例の熱交換器の構成を示す上面図
【図8B】同熱交換器の構成を示す側面図
【図8C】同熱交換器の構成を示す正面図
【図8D】同熱交換器におけるハウジング内部を一部断面で示す斜視図
【符号の説明】
【0063】
1、101 伝熱細管
2、20、102 熱交換モジュール
2a〜2c 細管束ユニット
3a〜3c、103a〜103c シール部材
4、104 ハウジング
5、105 血液流路
6、7B 冷温水導入ヘッダー
6a、7a、7b、8a 空室
7C 連通部
7a、7b 空室
8、7A 冷温水導出ヘッダー
8a 空室
9、106 血液導入口
10、107 血液導出口
11 冷温水導入ポート
12 冷温水導出ポート
13、108 間隙
14、109 漏液排出孔
30 熱交換器
31 ハウジング
32 ガス導入路
33 ガス導出路
34 中空糸膜
35 シール部材
36 血液流路
40 人工肺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体液を流通させるための複数本の伝熱細管を配列し積層して形成された細管束により構成された熱交換モジュールと、
前記細管束の長手方向中央部を横断して被熱交換液を流通させるための熱交換流路を形成し、かつ前記細管束の両端は露出させて前記細管束を封止したシール部材と、
前記熱交換モジュール及び前記シール部材が収容され、前記細管束の両端に面して前記熱媒体液を導入または導出するための伝熱細管ヘッダーを有し、前記熱交換流路の両端に面して被熱交換液導入口および被熱交換液導出口を有するハウジングとを備えた熱交換器において、
前記熱交換モジュールは前記熱交換流路の流路方向において分割されて、各々が複数本の前記伝熱細管を含む複数段の細管束ユニットの積層構造が形成され、前記複数段の細管束ユニットは、隣接する前記細管束ユニットとの間で各々に属する前記伝熱細管が互いに交差するように配置され、
前記伝熱細管ヘッダーは、前記熱媒体液が前記複数組の細管束ユニットを順次通過するように構成されたことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記細管束ユニットの前記熱交換流路の流路方向における端部に位置する前記伝熱細管と、隣接する前記細管束ユニットの前記熱交換流路の流路方向における端部に位置する前記伝熱細管の間の間隔は、前記伝熱細管の直径の2倍以下である請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記熱媒体液が、前記熱交換流路の下流側に配置された下流段の前記細管束ユニットから上流側に配置された上流段の前記細管束ユニットに向かって順次通過するように、前記伝熱細管ヘッダーが構成された請求項1または2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記熱媒体液を隣接する前記細管束ユニットに向けて導出するため、または隣接する前記細管束ユニットから導入するための前記伝熱細管ヘッダーは、当該隣接する前記細管束ユニットに隣接する側の側端部に導出口または導入口を有する請求項3に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記熱交換モジュールは、2段または3段の前記細管束ユニットに分割された請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱交換器と、
ガス流路と交差してガス交換を行うための血液流路を有する人工肺とを備え、
前記熱交換器と前記人工肺とは積層されて、前記熱交換器の前記熱交換流路と前記人工肺の前記血液流路が連通している人工肺装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【公開番号】特開2009−213550(P2009−213550A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57937(P2008−57937)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】