説明

熱交換器用アルミニウムフィン材

【課題】光源等の付帯設備を設ける必要がなく、臭気成分の吸着量の蓄積を抑制して優れた脱臭性能を得ることができる熱交換器用アルミニウムフィン材を提供する。
【解決手段】フィン材1Aは、AlまたはAl合金からなる基板2と、基板2上に設けられた下地処理層3と、下地処理層3上に設けられた膜厚が0.05〜5μmの樹脂系親水層4と、平均粒子径が樹脂系親水層4の膜厚よりも0.05〜100μm大きく、樹脂系親水層4の表面に露呈するように樹脂系親水層4に保持された脱臭粒子5とを備える。脱臭粒子5として、酸化還元作用を有する金属錯体、例えば、Feフタロシアニン錯体やCoフタロシアニン錯体からなる粒子と、中和作用を有する無機系化合物、例えば、ZrとPを含む無機化合物からなる粒子のいずれか一方または両方を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を基材としてなるフィン材に関し、特に、脱臭性能を有する熱交換機用アルミニウムフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅の気密性が向上し、また、健康や環境への関心が高まるにつれて、エアコンが、居室空間からタバコ臭やペット臭、建材から発生する揮発性有機化合物の臭気等を脱臭するために用いられるようになってきている。例えば、臭気成分を吸着する機能を有する活性炭にシリカゲルを組み合わせて、脱臭性を維持しつつ、湿気交換性を持たせたハニカム構造体からなる脱臭全熱交換器が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、光触媒を用いた技術として、熱交換器を構成しているアルミニウムフィン材の表面に、酸化チタン等の常温酸化触媒を塗布し、自然光または室内光をこの常温酸化触媒に照射する構造を有する熱交換器が知られている(例えば、特許文献2参照)。さらに、吸着作用と光触媒作用とを併せ持つ材料としてのチタンアパタイトを用いた熱交換器が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開昭58−182097号公報
【特許文献2】特許第3093953号公報
【特許文献3】特開2005−214469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、吸着作用を用いた技術では、脱臭剤への臭気成分の吸着量が蓄積するにしたがって脱臭性能が低下し、ついには吸着飽和となって脱臭性能がなくなり、逆に、脱臭剤が臭気の発生源となってしまうおそれがある。また、光触媒を用いた技術では、脱臭性能を発現させるために紫外線等の光が必要となるために、光照射のための光源を設けたり、光源導入穴を設けたりする必要がある等の問題がある。
【0004】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、光源等の付帯設備を設ける必要がなく、臭気成分の吸着量の蓄積を抑制して優れた脱臭性能を得ることができる熱交換器用アルミニウムフィン材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、前記基板上に設けられた下地処理層と、前記下地処理層上に設けられた膜厚が0.05〜5μmの樹脂系親水層と、平均粒子径が前記樹脂系親水層の膜厚よりも0.05〜100μm大きく、前記樹脂系親水層の表面に露呈するように当該樹脂系親水層に保持された脱臭粒子と、を備え、前記脱臭粒子は、酸化還元作用を有する金属錯体からなる粒子と、中和作用を有する無機系化合物からなる粒子のいずれか一方または両方であることを特徴とする。
【0006】
このような構成によれば、臭気成分を酸化還元作用または中和作用により無臭化するため、吸着による臭気成分の蓄積がなく、脱臭性能の低下が抑制され、脱臭粒子が臭気源となることを回避することができる。また、脱臭粒子は、光を必要とせずとも脱臭性能を発揮するため、光源等の付帯設備を設ける必要がない。また、脱臭機能を発現する脱臭粒子の外気への露出面積が広いために、使用初期の段階から優れた脱臭性能を示す。また、樹脂系親水層の厚さを前記の所定値とすることで、優れた加工性が得られる。
【0007】
本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材において、前記樹脂系親水層は、前記下地処理層側に設けられた難溶性の第1樹脂系親水層と、当該第1樹脂系親水層上に設けられた水溶性の第2樹脂系親水層とからなる層構造とすることができる。この場合に、前記脱臭粒子は、前記第2樹脂系親水層のみに保持された状態で前記第2樹脂系親水層の表面に露呈していてもよいし、前記第1樹脂系親水層に保持された状態で前記第2樹脂系親水層の表面に露呈していてもよい。さらに、前記脱臭粒子として、前記第1樹脂系親水層に保持された状態で前記第2樹脂系親水層の表面に露呈している粒子と、前記第2樹脂系親水層のみに保持された状態で前記第2樹脂系親水層の表面に露呈している粒子とを備えていてもよい。
【0008】
脱臭粒子が実質的に前記第2樹脂系親水層のみに保持されている状態では、外気に露呈する脱臭粒子の表面積が増えるために、高い脱臭性能が得られる。一方、脱臭粒子を第1樹脂系親水層に保持させることで、結果的に、第2樹脂系親水層の表面に露呈している脱臭粒子は第2樹脂系親水層にも保持されていることとなるため、脱臭粒子が強固に保持されて、耐久性が高められる。第1樹脂系親水層と第2樹脂系親水層のそれぞれに脱臭粒子を保持させることで、前記した各効果を同時に得ることができる。したがって、用途や要求に応じて、どの形態を選択するかを決定すればよい。水溶性の樹脂系親水層は潤滑性に優れるため、水溶性の樹脂系親水層を最表面に設けることによって、熱交換器用アルミニウムフィン材の加工性を向上させることができる。
【0009】
本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材においては、前記樹脂系親水層に保持されている脱臭粒子は、Feフタロシアニン錯体からなる粒子、Coフタロシアニン錯体からなる粒子、Zr及びPを含む無機化合物からなる粒子から選ばれた1種または複数種の粒子であることが好ましい。
【0010】
このような脱臭粒子を用いることにより、光の照射等を必要とすることなく、吸着作用と共に酸化還元作用や中和作用による高い脱臭性能を得ることができる。
【0011】
本発明に係る熱交換器用アルミニウムフィン材においては、前記樹脂系親水層に保持されている脱臭粒子に含まれるFe,Co,Zrの合計含有量は、前記樹脂系親水層1mあたり、0.1〜500mgであることが好ましい。
【0012】
これにより、脱臭粒子の脱臭性能を効果的に発揮させながら、熱交換器用アルミニウムフィン材として要求される結露防止等のための親水性を確保することができ、また、良好な加工性を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脱臭粒子を樹脂系親水層の表面に露呈させて、脱臭粒子が臭気物質と接触しやすくしているため、使用初期より優れた脱臭性が得られる。また、所定の化合物を備えた脱臭粒子を用いることにより、光照射を必要とすることなく、吸着作用と共に酸化還元作用や中和作用による優れた脱臭性能が得られる。さらに、脱臭粒子の平均粒子径と樹脂系親水層の厚さを所定値に設定することや、脱臭粒子に含まれる金属量を制御することにより、脱臭効果のみならず、フィン材の基本特性である親水性や加工性、耐食性を兼備させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
《第1実施形態》
図1に本発明の第1実施形態に係る熱交換器用アルミニウムフィン材(以下「フィン材」という)の概略構造を表した断面図を示す。このフィン材1Aは、アルミニウム(Al)またはAl合金からなる基板2と、基板2上に設けられた下地処理層3と、下地処理層3上に設けられた樹脂系親水層4とを備えており、樹脂系親水層4の表面に露呈するように、脱臭粒子5が樹脂系親水層4に保持されている。
【0015】
図1では基板2の片面にのみ、下地処理層3と樹脂系親水層4を設けた形態を示しているが、下地処理層3と樹脂系親水層4は基板2の両面に設けられていてもよい。また、フィン材1Aの耐食性の向上を目的として、下地処理層3と樹脂系親水層4との間に、疎水性耐食樹脂皮膜(図示せず)を設けることも可能である。以下、これらの各構成要素について説明する。
【0016】
<基板2>
基板2は、AlまたはAl合金よりなる板材であって、熱伝導性及び加工性に優れるJIS H4000規定の1000系のAl材料が好適に用いられ、より好ましくは合金番号1200のAl合金が用いられる。なお、フィン材1Aにおいては、強度、熱伝導性及び加工性等を考慮して、板厚が0.08〜0.3mm程度のものが好適に使用される。
【0017】
<下地処理層3>
下地処理層3は、フィン材1Aの耐食性を高めると共に、基板2と樹脂系親水層4との密着性を向上させる役割を担う層であり、無機酸化物または有機−無機複合化合物よりなる。無機酸化物としては、主成分としてクロム(Cr)またはジルコニウム(Zr)を含むものが好適に用いられ、例えば、リン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理を行うことにより形成されたものが挙げられる。
【0018】
下地処理層3は、耐食性を奏するものであれば、これらに限定されず、例えば、リン酸亜鉛処理あるいはリン酸チタン酸処理を行うことによって形成されたものであってもよい。また、有機−無機複合化合物としては、塗布型クロメート処理または塗布型ジルコニウム処理を行うことにより形成されたもので、アクリル−ジルコニウム複合体等が挙げられる。なお、下地処理層3を形成する前に、基板2の表面にアルカリ性脱脂液をスプレー等して、基板2の表面を予め脱脂することが好ましく、これにより基板2と下地処理層3との密着性を向上させることができる。
【0019】
下地処理層3は、基板2の単位面積(1m)あたりの塗布量で、CrまたはZrを1〜100mg/mの範囲で含有するものが好ましく、また、下地処理層3の膜厚は1〜100nmとすることが好ましい。但し、これらの設定値は、使用目的等に合わせて適宜変更が可能である。
【0020】
<樹脂系親水層4>
樹脂系親水層4は、フィン材1Aの表面の結露水の流動性を向上させる。これにより、フィン材1Aの表面に汚染物質が付着しても、この結露水で洗い落とすことが可能になる。樹脂系親水層4を構成する親水性樹脂としては、水酸基もしくは水酸基誘導体、カルボキシル基もしくはカルボキシル基誘導体またはスルホン酸基もしくはスルホン酸基誘導体等の官能基を有する親水性樹脂が挙げられる。これらの各官能基の誘導体には、ナトリウムやカリウム等の1価の金属塩、カルシウム等の2価の金属塩、アンモニウム塩等の有機塩基化合物の塩等が含まれる。これらの官能基を有する親水性樹脂であれば特に物質制限はない。
【0021】
特に、樹脂系親水層4がスルホン酸基もしくはスルホン酸基誘導体を含有する親水性樹脂からなる場合には、親水性樹脂の主鎖(炭素鎖)とスルホン酸基(もしくはスルホン酸基誘導体)との電気陰性度の差異により、極性の高い層となる。そのため、樹脂系親水層4に汚染物質が付着しても、結露水が樹脂系親水層4と汚染物質との間に割り込み、汚染物質が流れ落ちやすくなる。
【0022】
なお、樹脂系親水層4は、1種類の親水性樹脂から構成されたものであってもよく、2種以上の親水性樹脂を混合して構成されたものであってもよい。
【0023】
樹脂系親水層4の膜厚は、フィン材1Aの加工性や伝熱性、コストを考慮して、0.05〜5μmとされ、0.2〜2μmとすることがより好ましい。樹脂系親水層4は、その表面ができるだけ平坦であることが好ましい。樹脂系親水層4の表面が微細な凹凸を有していると、汚染物質の吸着面積が相対的に大きくなり、汚染物質の付着量が多くなるため、結露水で洗い落とす効果が小さくなる。
【0024】
前記した種々の官能基を有する親水性樹脂には、化学構造や官能基の数、官能基の種類に依存して、水溶性のものと難溶性(非水溶性)のものとがある。樹脂系親水層4としては、これら2種類の性質の異なる親水性樹脂のいずれを用いても脱臭性能には大差はない。非水溶性の親水性樹脂は、耐汚染性(すなわち、親水性を阻害する汚染物質を付着させない、あるいは、付着後結露水で洗い落とす性質)に優れ、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸/スルホン酸系モノマー共重合体、スチレンスルホン酸−マイレン酸の共重合体(コポリマー)等が用いられる。水溶性の親水性樹脂は潤滑性に優れているため、フィン材1Aの加工性を向上させ、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド等が用いられる。後記するように、これらの2種類の親水性樹脂で層構造を構成することも好ましい。
【0025】
<脱臭粒子5>
脱臭粒子5は、種々の臭気成分を化学反応により無臭化させる役割を担う。脱臭粒子5は、例えば、タバコ臭の成分であるアセトアルデヒド、アンモニア及び酢酸に対し、酸化還元作用を有する金属錯体や中和作用を有する無機系化合物からなり、臭気成分を化学変化させて脱臭する。金属錯体としては、Feフタロシアニン錯体(Feとフタロシアニンの配位化合物)またはCoフタロシアニン錯体(Coとフタロシアニンの配位化合物)が好適に用いられ、これらは酸化還元作用による脱臭効果が高い。また、無機系化合物としては、ジルコニウム(Zr)とリン(P)を含むものが好適に用いられ、これは中和作用による脱臭効果が高い。
【0026】
このように、脱臭粒子5は、吸着作用と共に酸化還元作用や中和作用による優れた脱臭効果を奏するが、臭気成分の吸着量の蓄積が酸化還元作用や中和作用によって抑制されるため、脱臭効果の低下や脱臭粒子が臭気源となることを回避することができる。また、脱臭効果には光を必要としないため、光源等の付帯設備を設ける必要がなく、さらに、フィン材1Aの周囲の構造に影響を与えないので、この周囲の構造の設計自由度を高めることができる。
【0027】
脱臭粒子5の平均粒子径は、樹脂系親水層4の膜厚に対し、0.05〜100μm大きくする。なお、脱臭粒子5の粒子径には通常分布があり、本発明における脱臭粒子5の平均粒子径とは、脱臭粒子5を水系溶媒等に分散させた状態で、レーザー回折式粒度分布測定器等で測定した積算体積50%粒子径をいう。これにより、脱臭粒子5が樹脂系親水層4の表面に初期状態から露出して臭気成分と接触することにより、優れた脱臭効果が得られる。また、脱臭粒子5に含まれるFe,Co,Zrの合計含有量が、樹脂系親水層4の単位面積(1m)あたり、0.1〜500mg(以下、例えば「0.1mg/m」のように記す)の範囲内となるように、樹脂系親水層4に含まれる脱臭粒子5の量を調整することが好ましい。この金属量が0.1mg/mに満たない場合は、十分な脱臭効果が得られず、一方、500mg/mを超えると、脱臭効果は得られるものの、樹脂系親水層4中に多量に存在する脱臭粒子5が、フィン材1Aの表面の親水性やフィン材1Aの加工性及び耐食性を低下させる。
【0028】
<疎水性耐食樹脂皮膜>
疎水性耐食樹脂皮膜(図示せず)は、フィン材1Aの耐食性の向上を目的として、下地処理層3と樹脂系親水層4との間に設けることができる。疎水性耐食樹脂皮膜としては、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂及びポリアクリル酸系樹脂のうちの少なくとも1種よりなる疎水性樹脂を用いることが可能であり、その膜厚は0.5〜5μmとすることが好ましい。
【0029】
ウレタン系樹脂とポリエステル系樹脂について、広義には、ポリエステル系樹脂の概念の中にウレタン系樹脂を含める場合もあるため、前記記載のウレタン系樹脂とポリエステル系樹脂との定義を以下に述べる。
【0030】
すなわち、ここでは、ウレタン系樹脂とは、組成中にウレタン結合を繰返し持つ化合物であり、イソシアネート基を2個以上持ったポリイソシアネート化合物(O=C=N−R−N=C=O)と、水酸基を2個以上持ったポリオール化合物(HO−R1−OH)、ポリアミン(HN−R2−NH)または活性水素(−NH、−NH、−CONH−等)を持った化合物等とが反応して得られるものである。なお、R、R1、R2は脂肪族アルキルまたは芳香族アルキル等を指す。
【0031】
一方、ポリエステル系樹脂とは、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)との重縮合体を指し、ポリアルコール(アルコール性の官能基−OHを複数有する化合物)と、多価カルボン酸(カルボン酸官能基−COOHを複数有する化合物)を反応(脱水縮合)させて合成されることを基本とする。
【0032】
《第2実施形態》
図2に本発明の第2実施形態に係るフィン材の概略構造を表した断面図を示す。このフィン材1Bは、基板2と、基板2上に設けられた下地処理層3と、下地処理層3上に設けられた第1樹脂系親水層4aと、第1樹脂系親水層4a上に設けられた第2樹脂系親水層4bとを備えている。第2樹脂系親水層4bの表面に露呈するように、脱臭粒子5が第2樹脂系親水層4bに保持されており、これにより、初期段階から良好な脱臭効果を得ることができる。フィン材1Bでは、第1樹脂系親水層4aと第2樹脂系親水層4bの合計膜厚を、先に説明したフィン材1Aと同様の理由で0.05〜5μmとし、0.2〜2μmとすることがより好ましい。これは、後記するフィン材1C,1Dについても同様である。
【0033】
フィン材1Bを構成する基材2、下地処理層3及び脱臭粒子5は、フィン材1Aで用いられているものと同じである。第1樹脂系親水層4aは前記した難溶性の親水性樹脂からなり、第2樹脂系親水層4bは前記した水溶性の親水性樹脂からなる。第2樹脂系親水層4bを最表面に設けることにより、加工性を高めることができる。フィン材1Bにおいては、第1樹脂系親水層4aは、親水性及び耐食性を持続させる役割を担う。
【0034】
《第3実施形態》
図3に本発明の第3実施形態に係るフィン材の概略構造を表した断面図を示す。このフィン材1Cは、基板2と、基板2上に設けられた下地処理層3と、下地処理層3上に設けられた第1樹脂系親水層4aと、第1樹脂系親水層4a上に設けられた第2樹脂系親水層4bとを備えており、第2樹脂系親水層4bの表面に露呈するように、脱臭粒子5が第1樹脂系親水層4aに保持されている。
【0035】
フィン材1Bを構成する基材2、下地処理層3及び脱臭粒子5は、フィン材1Aで用いられているものと同じである。第1樹脂系親水層4aは前記した難溶性の親水性樹脂からなり、第2樹脂系親水層4bは前記した水溶性の親水性樹脂からなる。フィン材1Cでは、第2樹脂系親水層4bを最表面に形成することにより、加工性を向上させることができる。また、第2樹脂系親水層4bを形成しても、第1樹脂系親水層4aに保持された脱臭粒子5が第2樹脂系親水層4bの表面に露呈した状態とすることで、初期段階から良好な脱臭効果を得ることができる。さらに、脱臭粒子5は、必然的に第2樹脂系親水層4bにも保持されているため、強固に保持されることとなり、成形の際の脱落および使用時の脱落を抑制することができる。
【0036】
《第4実施形態》
図4に本発明の第4実施形態に係るフィン材の概略構造を表した断面図を示す。このフィン材1Dは、基板2と、基板2上に設けられた下地処理層3と、下地処理層3上に設けられた第1樹脂系親水層4aと、第1樹脂系親水層4a上に設けられた第2樹脂系親水層4bとを備えている。脱臭粒子5には、第1樹脂系親水層4aに保持されて第2樹脂系親水層4bの表面に露呈しているものと、第2樹脂系親水層4aに保持されて第2樹脂系親水層4bの表面に露呈しているものとがある。
【0037】
フィン材1Bを構成する基材2、下地処理層3及び脱臭粒子5は、フィン材1Aで用いられているものと同じである。第1樹脂系親水層4aは前記した難溶性の親水性樹脂からなり、第2樹脂系親水層4bは前記した水溶性の親水性樹脂からなる。このフィン材1Dでも、第2樹脂系親水層4bを最表面に形成することにより、加工性を向上させることができる。また、第2樹脂系親水層4bに保持されてその表面に露呈した脱臭粒子5に加えて、第1樹脂系親水層4aに保持された脱臭粒子5の一部が第2樹脂系親水層4bの表面に露呈するため、初期段階から優れた脱臭効果を得ることができる。さらに、第1樹脂系親水層4aに保持された脱臭粒子5は、成形及び使用の際にも脱落し難いという利点がある。
【0038】
《フィン材の製造方法》
フィン材1Cを例に、その製造方法の一例について説明する。まず、基板2の片面または両面(下地処理層3を形成する面)にアルカリ性脱脂液をスプレー等することにより、その処理面を脱脂した後、リン酸クロメート処理またはリン酸ジルコニウム処理等を施すことにより、下地処理層3たる皮膜を形成する。ここで、リン酸クロメート処理等には、基板2に化成処理液をスプレー等により塗布する方法を用いることができる。続いて、脱臭粒子5を均一分散させた難溶性の親水性樹脂を下地処理層3上に、スプレー塗布やバーコーターやロールコーター等の公知の塗布方法で塗布し、その後、所定の温度で焼き付ける。こうして、第1樹脂系親水層4aが形成される。この焼き付け温度(基板温度)は、用いた親水性樹脂によって異なるが、大凡、200〜300℃とすることが好ましい。
【0039】
次に、所定の水溶性の親水性樹脂を、前記した各種方法により塗布し、焼き付けて、第2樹脂系親水層4bを形成する。このときの焼き付け温度は、第1樹脂系親水層4aを形成する際の焼き付け温度以下、例えば、大凡100〜200℃とすることが好ましい。また、第1樹脂系親水層4aに保持されている脱臭粒子5の平均粒子径を考慮し、第2樹脂系親水層4bが形成された後にも、脱臭粒子5が第2樹脂系親水層4bの表面に露出するように、第2樹脂系親水層4bの膜厚を調整する。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の効果を確認した実施例について説明するが、本発明がこれらの実施例の構成に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0041】
《試料作製》
表1に試料として作製したフィン材の構成を示す。実施例1〜7は図1に記載されたフィン材1Aの構造を有している。
実施例1〜7では、まず、基板2としてAl材(JIS H4000 A1200)からなり、厚さ0.10mmの板材を用い、その片面にアルカリ性脱脂液による脱脂処理を実施した後、リン酸クロメート処理を行い、下地処理層3としてのリン酸クロメート皮膜を形成した。アルカリ性脱脂液としては、日本ペイント株式会社製サーフクリーナー(登録商標)EC370を、化成処理液としては、日本ペイント株式会社製アルサーフ(登録商標)401KB−2/45KBを使用した。このとき、下地処理層3の塗布量は蛍光X線法にて測定し、リン酸クロメート皮膜を塗布量がCr換算で20mg/m(このときの厚さは約20nm)となるように形成した。なお、蛍光X線測定は、(株)島津製作所製の波長分散型蛍光X線装置(LAB CENTER XRF−1800)を使用した。次いで、下地処理層3上に親水性樹脂としてポリアクリル酸を用いて膜厚が0.05〜5μmの樹脂系親水層4を形成した。例えば、実施例1では、樹脂系親水層4の形成にあたって、平均粒子径が0.5μmのFeフタロシアニン錯体を、Fe量(塗布量)が0.1mg/mとなるように、樹脂系親水層4に保持させた。なお、Fe量は、下地処理層3のCr量と同様、予め検量線を作成し、蛍光X線法にて測定した。実施例2〜7について、樹脂系親水層4に保持させた脱臭粒子の詳細は、表1に示す通りである。なお、ポリアクリル酸は難溶性の親水性樹脂であり、後記の実施例の構成と対比する観点から、表1に示す通り、実施例1〜7で形成した樹脂系親水層4を、便宜上、第1樹脂系親水層として扱っている。また、Co量およびZr量については、Fe量と同様に、蛍光X線法により測定した。
【0042】
実施例8〜12は図2に示すフィン材1Bの構造を有する。実施例8〜12の各試料の作製における下地処理層3の形成までの工程は、実施例1〜7の各試料における下地処理層3の形成までの工程と同じである。下地処理層3上に親水性樹脂としてポリアクリル酸を用いて膜厚が1μmの第1樹脂系親水層4aを形成した後、親水性樹脂としてポリエチレンオキサイドを用いて、膜厚が0.1〜4μmであり、表1に示される所定の脱臭粒子を含む第2樹脂系親水層4bを、第1樹脂系親水層4a上に形成した。
【0043】
実施例13,14は図3に示すフィン材1Cの構造を有する。実施例13,14で用いた基板2、下地処理層3、第1樹脂系親水層4aを構成する親水性樹脂及び第2樹脂系親水層4bを構成する親水性樹脂は、実施例8で用いたものと同じである。第1樹脂系親水層4aと第2樹脂系親水層4bの各膜厚と第1樹脂系親水層4aが保持する脱臭粒子の詳細は、表1に示す通りである。
【0044】
実施例15,16は図4に示すフィン材1Dの構造を有する。実施例15,16で用いた基板2、下地処理層3、第1樹脂系親水層4aを構成する親水性樹脂及び第2樹脂系親水層4bを構成する親水性樹脂は、実施例8で用いたものと同じである。第1樹脂系親水層4aと第2樹脂系親水層4bの各膜厚と第1樹脂系親水層4aと第2樹脂系親水層4bがそれぞれ保持する脱臭粒子の詳細は、表1に示す通りである。
【0045】
比較例1として、脱臭粒子を含まないフィン材を作製した。比較例1で用いた基板2、下地処理層3、第1樹脂系親水層4aは、実施例1で用いたものと同じである。また、比較例2は実施例1〜7と同様に作製し、比較例3は実施例8〜12と同様に作製し、比較例4,5は実施例13,14と同様に作製し、比較例6〜8は実施例15,16と同様に作製した。第1樹脂系親水層4aと第2樹脂系親水層4bの各膜厚と用いた脱臭粒子の詳細は、表1に示す通りである。
【0046】
【表1】

【0047】
《試料の評価》
作製した各試料について、脱臭性評価、親水性評価、加工性評価、耐食性評価を、以下の通りに行った。その結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
[脱臭性評価]
各試料の脱臭性評価は、1L(リットル)の脱臭試験用袋に1枚の試料(10cm×10cm)を入れ、臭気成分としてアセトアルデヒド、アンモニア及び酢酸を各50ppm注入した後、初期および72時間後の各臭気成分の濃度を検知管により測定した。各臭気成分の初期濃度を100%とし、72時間後の濃度減少率を算出し、50%を超える濃度減少率を示したものを合格として表2に「○」で示し、50%以下の濃度減少率を示したものを不合格として表2に「×」で示す。
【0050】
[親水性評価]
親水性は、純水滴下時の接触角をゴニオメータにて測定することにより評価した。測定された接触角が20°以下である場合(表2において「○」)と接触角が20°を超え40°以下である場合(表2において「△」)とを合格とし、接触角が40°を超える場合(表2において「×」)を不合格とした。
【0051】
[加工性評価]
加工性評価は、実機フィンプレスにて、ドローレス加工を実施した際のカラー成形性を評価した。成形後のカラーに割れ等がなく、良好である場合(表2において「○」)とリフレア部のみのカラー割れの場合(表2において「△」)とを合格とし、リフレア部を超えた大きなカラー割れの場合(表2において「×」)を不合格とした。
【0052】
[耐食性評価]
耐食性評価は、JISZ2371に準じ、塩水噴霧試験を200時間実施した際の腐食面積率に応じたレイティングナンバーにて評価した。レイティングナンバーが9.5以上の場合(表2において「○」)とレイティングナンバーが9.0以上9.5未満の場合(表2において「△」)とを合格とし、レイティングナンバーが9.0未満の場合(表2において「×」)を不合格とした。
【0053】
[結果]
表2に示される通り、実施例1〜16のフィン材では、脱臭粒子が最表面に露呈しているため、良好な脱臭性が得られた。また、各樹脂系親水層と脱臭粒子について、「樹脂系親水層の膜厚が0.05〜5μmであり、脱臭粒子の平均粒子径が樹脂系親水層の膜厚よりも0.05〜100μm大きい」という条件を満たしているために、親水性、加工性及び耐食性についても良好な結果が得られた。
【0054】
一方、比較例1では、脱臭粒子を備えていないため、脱臭性能が得られなかった。比較例2,3では、各樹脂系親水層について、樹脂系親水層の膜厚よりもその樹脂系親水層に保持されている脱臭粒子の平均粒子径が小さいため、最表面に露呈する脱臭粒子の面積が小さくなって、良好な脱臭性が得られなかった。比較例4,5では、第2樹脂系親水層の膜厚が厚すぎるために、第1樹脂系親水層に保持された脱臭粒子が第2樹脂系親水層の表面に露呈することができず、このため、脱臭性が得られなかった。比較例6,7では、第1樹脂系親水層について、第1樹脂系親水層の膜厚よりもこれに保持されている脱臭粒子の平均粒子径が小さく、しかも、第2樹脂系親水層についても、第2樹脂系親水層の膜厚よりもこれに保持されている脱臭粒子の平均粒子径が小さいため、脱臭性が得られなかった。比較例8は、第2樹脂系親水層の膜厚が厚すぎるために、第1樹脂系親水層に保持された脱臭粒子が第2樹脂系親水層の表面に露呈することができず、かつ、第2樹脂系親水層の膜厚よりもこれに保持されている脱臭粒子の平均粒子径が小さくいため、脱臭性が得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1実施形態に係るフィン材の概略断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るフィン材の概略断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係るフィン材の概略断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係るフィン材の概略断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1A,1B,1C,1D フィン材
2 基板
3 下地処理層
4 樹脂系親水層
4a 第1樹脂系親水層
4b 第2樹脂系親水層
5 脱臭粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基板と、
前記基板上に設けられた下地処理層と、
前記下地処理層上に設けられた膜厚が0.05〜5μmの樹脂系親水層と、
平均粒子径が前記樹脂系親水層の膜厚よりも0.05〜100μm大きく、前記樹脂系親水層の表面に露呈するように当該樹脂系親水層に保持された脱臭粒子と、を備え、
前記脱臭粒子は、酸化還元作用を有する金属錯体からなる粒子と、中和作用を有する無機系化合物からなる粒子のいずれか一方または両方であることを特徴とする熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項2】
前記樹脂系親水層は、前記下地処理層側に設けられた難溶性の第1樹脂系親水層と、当該第1樹脂系親水層上に設けられた水溶性の第2樹脂系親水層とからなり、
前記脱臭粒子は、前記第2樹脂系親水層のみに保持された状態で前記第2樹脂系親水層の表面に露呈していることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項3】
前記樹脂系親水層は、前記下地処理層側に設けられた難溶性の第1樹脂系親水層と、当該第1樹脂系親水層上に設けられた水溶性の第2樹脂系親水層とからなり、
前記脱臭粒子は、前記第1樹脂系親水層に保持された状態で前記第2樹脂系親水層の表面に露呈していることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項4】
前記樹脂系親水層は、前記下地処理層側に設けられた難溶性の第1樹脂系親水層と、当該第1樹脂系親水層上に設けられた水溶性の第2樹脂系親水層とからなり、
前記脱臭粒子として、前記第1樹脂系親水層に保持された状態で前記第2樹脂系親水層の表面に露呈している粒子と、前記第2樹脂系親水層のみに保持された状態で前記第2樹脂系親水層の表面に露呈している粒子とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項5】
前記脱臭粒子は、Feフタロシアニン錯体からなる粒子、Coフタロシアニン錯体からなる粒子、Zr及びPを含む無機化合物からなる粒子から選ばれた1種または複数種の粒子であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。
【請求項6】
前記脱臭粒子に含まれるFe,Co,Zrの合計含有量が、前記樹脂系親水層1mあたり、0.1〜500mgであることを特徴とする請求項5に記載の熱交換器用アルミニウムフィン材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−243741(P2009−243741A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89903(P2008−89903)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】