説明

熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート

【課題】外部からの耐食性に優れ、高強度を維持する、薄肉化に対応した熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを提供する。
【解決手段】心材と、この心材の一面側に配置される犠牲陽極層と、他面側に配置されてAl−Si系合金からなるろう材層とを備えた熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートであって、心材は、Si:0.3〜1.5質量%、Mn:0.5〜1.8質量%、Mg:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.35質量%、Cu:1.0質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、犠牲陽極層は、Si:0.03〜1.5質量%、Mn:1.8質量%以下、Zn:2.5〜7.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、ろう材層は、Si:7.0〜13.0質量%、Cu:3.0質量%以下かつ心材のCu含有量以上を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の熱交換器等に使用されるブレージングシート、特にろう付け後強度および耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載されるコンデンサ、エバポレータ等の熱交換器は、アルミニウム合金からなるクラッド材またはブレージングシートを成形、組み立て、ろう付けされることにより形成される。近年、このアルミニウム合金ブレージングシートは、熱交換器の軽量化のために、例えばチューブ材用においては従来の板厚0.3〜0.5mmから板厚0.2mm以下へ薄肉化が進められており、それに伴って、より高強度化および高耐食性化が求められている。
【0003】
耐食性に優れた熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートに関する従来技術として、例えば、特許文献1には、Al−Mn−Cu合金からなる心材の一方の面にAl−Zn合金からなる犠牲陽極材を、他方の面にAl−Si合金からなるろう材を積層させ、Al−Zn合金の犠牲防食作用によって耐食性を向上させたものが開示されている。
【特許文献1】特開2005−232506号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術は、Al−Mn−Cu合金を心材として、腐食環境側にAl−Zn合金からなる犠牲陽極層が配されるように成形されることにより、犠牲防食作用を付与するものである。異なる組成の合金を重ねてクラッドすると、ブレージングシートの製造工程中における熱処理(熱延、軟化焼鈍)およびろう付け処理により含有元素(Cu,Zn)が拡散する。すなわち、犠牲陽極層のZnは心材へ、心材のCuは犠牲陽極層およびろう材層へ拡散するので、図3(a)に示すように、ブレージングシートの板厚方向において、Znは腐食環境側から一方向に減少または一定となり、Cuは心材板厚中心近傍を頂点として両方向にそれぞれ減少または一定となるような濃度分布を形成する。また、ろう材層は、ろう付け処理により流動してほとんどブレージングシート表面に残存しない。Cuはアルミニウム合金の電位を貴に、Znはアルミニウム合金の電位を卑にするので、このブレージングシートにおける電位勾配は、図3(b)に示すように、心材板厚中心近傍が最も貴な状態となる。この構造では犠牲陽極層側からの腐食(孔食)が心材板厚中心部に進展した場合、心材板厚中心部以深の電位が心材板厚中心部より卑になるため、腐食が急速に進展すると考えられる。そのため、このブレージングシートが薄肉化および激しい腐食環境に曝された場合には早期貫通孔形成に至る怖れがある。
【0005】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、薄肉化した場合にも、高耐食性、高強度を維持する熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明者らは、腐食環境である熱交換器外部側となる層を、従来技術と同様に電位を心材より卑にして心材に対する犠牲陽極層とし、一方、冷媒に接する熱交換器内部側となる層は逆に、電位を心材より貴にして、心材板厚中心部以深においても犠牲防食効果を備えることとした。その結果、各層を形成する材料であるアルミニウム合金中のCuおよびZnの濃度分布を制御することにより、外部側から内部側に向かって電位が貴になるように電位勾配を付与する方法を発明するに至った(図1参照)。
【0007】
すなわち、請求項1に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、心材と、この心材の一面側に配置される犠牲陽極層と、前記心材の他面側に配置されてAl−Si系合金からなるろう材層とを備えた熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートであって、前記心材は、Si:0.3〜1.5質量%、Mn:0.5〜1.8質量%、Mg:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.35質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、前記犠牲陽極層は、0.03〜1.5質量%、Mn:1.8質量%以下、Zn:2.5〜7.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、前記ろう材層は、Si:7.0〜13.0質量%、Cu:3.0質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0008】
このように、心材を、大気に曝される外部側に犠牲陽極層で、冷媒に接する内部側にろう材層で挟んだ3層の積層構造にし、各層を形成する材料であるアルミニウム合金中のCuおよびZnの濃度分布を制御したことにより、外部側から内部側に向かって電位が貴になるように電位勾配を付与することができる。その結果、従来技術に比較して、心材板厚中心部以深に孔食が達した場合でも犠牲防食効果を維持でき、長寿命化を図ることが可能である。
【0009】
さらに、請求項2に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいて、前記心材が、さらに、1.0質量%以下かつ前記ろう材層のCu含有量以下のCuを含有することを特徴とする。
【0010】
このように、心材がCuを規定量含有することにより、熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートの強度および耐食性をさらに向上させることができる。
【0011】
さらに、請求項3に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、請求項1または請求項2に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートの犠牲陽極層側の表面に、さらにろう材からなる層を備えることを特徴とする。
【0012】
このように、外部側にもろう材層を備えたことにより、ベアフィン材のようにろう材層を備えていない板材とのろう付け接合が可能である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートによれば、薄肉化しても、高耐食性、高強度を長期に亘って維持することができる。特に、コンデンサ、エバポレータ等大気側からの腐食防止が重要である場合に有効である。
【0014】
請求項2に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートによれば、薄肉化しても、高耐食性、高強度をさらに長期に亘って維持することができる。
【0015】
請求項3に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートによれば、薄肉化しても、高耐食性、高強度を長期に亘って維持することができ、さらに、ろう材層のない分だけ薄肉化された板材とろう付け接合することにより、より軽量化された熱交換器を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを実現するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおけるCu,Znの濃度分布および電位勾配を示す図であり、(a)はCu,Znの濃度分布図、(b)は電位勾配図である。
【0017】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいては、アルミニウム合金からなる心材の一方の面に犠牲陽極層がクラッドされ、他方の面にろう材層がクラッドされている。なお、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートで熱交換器を作製する際は、ろう材層が熱交換器内部側(冷媒通路側)、犠牲陽極層が熱交換器外部側(大気側)となる。
すなわち、図1(a)、(b)に示すように、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、その板厚方向(横軸)に、外部側から、犠牲陽極層、心材、ろう材層(ろう付け処理後流出)の順に積層された3層構造となる。そして、各層におけるCuおよびZnの濃度分布を、図1(a)に示すように、Cuは内部側から一方向に減少または一定となり、Znは外部側から一方向に減少または一定となるように制御したことで、図1(b)に示すように外部側から内部側に向かって電位が常に貴となる。なお、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを適用する熱交換器は非腐食性の冷媒を使用するため、内部側からの腐食はほとんど発生しない。
【0018】
以下に、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートを構成する各要素について説明する。
【0019】
〔心材〕
心材は、Si:0.3〜1.5質量%、Mn:0.5〜1.8質量%、Mg:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.35質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。また、心材は、さらに、1.0質量%以下かつろう材層のCu濃度以下のCuを含有してもよい。なお、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおける心材の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.05〜0.4mmである。
【0020】
(心材Si:0.3〜1.5質量%)
Siはろう付け後強度を向上させる効果があり、特にMg,Mnと共存させた場合、Mg−Si系金属間化合物、Al−Mn−Si系金属間化合物の形成により、さらにろう付け後強度を高めることができる。0.3質量%未満では効果が小さい。一方、1.5質量%を超えると心材の融点低下および低融点相増加により、心材の溶融が生じる。したがって、心材におけるSiの含有量は、0.3〜1.5質量%とする。
【0021】
(心材Mn:0.5〜1.8質量%)
Mnはろう付け後強度を向上させる効果があり、含有量増加によりろう付け後強度を高めることができる。また、電位を貴にする働きがあるため、耐食性を向上させる。0.5質量%未満ではこれらの効果が小さい。一方、1.8質量%を超えると粗大な金属間化合物が形成され、成形性の低下、耐食性低下を起こしやすい。したがって、心材におけるMnの含有量は、0.5〜1.8質量%とする。
【0022】
(心材Mg:0.05〜0.5質量%)
Mgはろう付け後強度を向上させる効果があり、0.05質量%未満では効果が小さい。しかし一方で、Mgはフラックスろう付け性を低下させる作用があるため、0.5質量%を超えると、ろう付けの際、ろう材層、および犠牲陽極層側のろう材までMgが拡散し、ろう付け性が著しく低下する。したがって、心材におけるMgの含有量は、0.05〜0.5質量%とする。
【0023】
(心材Ti:0.05〜0.35質量%)
Tiはアルミニウム合金中でTi−Al系化合物を形成して層状に分散する。Ti−Al系化合物は電位が貴であるため、腐食形態が層状化し、深さ方向への腐食(孔食)に進展し難くなる効果がある。0.05質量%未満では腐食形態の層状化効果が小さく、0.35質量%を超えると粗大な金属間化合物形成により、成形性および耐食性が低下する。したがって、心材におけるTiの含有量は、0.05〜0.35質量%とする。
【0024】
(心材Cu:1.0質量%以下かつろう材層のCu濃度以下)
Cuはろう付け後強度を向上させる効果がある。また、電位を貴にする働きがあるため、耐食性を向上させる。一方、1.0質量%を超えると、融点の低下に伴ってバーニングが発生する可能性がある。また、ろう材層のCu濃度を超えると、心材のろう材層側(内部側)に対して板厚中心近傍の電位が貴になるため、心材板厚中心部より内部側で孔食進展が促進される。したがって、心材におけるCuの含有量は、1.0質量%以下であり、かつろう材層のCu濃度以下である。なお、心材においては、積層されたろう材層からCuが拡散してくるので、心材としてCuは必須ではないが、0.05質量%未満では、ろう付け後強度および耐食性を向上させる効果が小さい。また、ろう材層のCu濃度との差が0.1質量%未満では耐食性を向上させる効果が小さい。したがって、心材における好ましいCuの含有量は、0.05〜1.0質量%かつろう材層のCu濃度以下で、より好ましくは、さらにろう材層のCu濃度−0.1質量%以下である。
【0025】
前記以外に、心材の電位貴化および強度向上のため、Cr,Ni,Zr等をそれぞれ0.3質量%以下添加してもよい。また、電位勾配調整用として、Zn:1.0質量%以下を添加してもよい。ろう付け時のZn拡散で、心材において犠牲陽極層側がろう材層側より電位が卑となることにより、犠牲陽極材となる領域が拡張され、防食効果を一層長く維持する効果がある。なお、不可避的不純物として、Fe,Sn,P,Be,B等をそれぞれ0.3質量%以下含有してもよい。
【0026】
〔犠牲陽極層〕
犠牲陽極層は、Si:0.03〜1.5質量%、Mn:1.8質量%以下、Zn:2.5〜7.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなる。なお、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおける犠牲陽極層の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.01〜0.1mmである。
【0027】
(犠牲陽極層Si:0.03〜1.5質量%)
Siはろう付け後強度を向上させる効果があり、特にMg,Mnと共存させた場合、Mg−Si系金属間化合物、Al−Mn−Si系金属間化合物の形成により、さらにろう付け後強度を高めることができる。0.03質量%未満では効果が小さい。一方、1.5質量%を超えると、犠牲陽極層の融点低下と低融点相増加により犠牲陽極層の溶融が生じる。したがって、犠牲陽極層におけるSiの含有量は、0.03〜1.5質量%とし、好ましくは0.03〜1.2質量%である。
【0028】
(犠牲陽極層Mn:1.8質量%以下)
Mnはろう付け後強度を向上させる効果があり、含有量増加によりろう付け後強度を高めることができる。また、電位を貴にする働きがあるため、耐食性を向上させる。一方、1.8質量%を超えると粗大な金属間化合物が形成され、成形性の低下、耐食性低下を起こしやすい。したがって、犠牲陽極層におけるMnの含有量は、1.8質量%以下とする。また、0.03質量%未満では効果が小さい。したがって、犠牲陽極層における好ましいMnの含有量は、0.03〜1.8質量%である。
【0029】
(犠牲陽極層Zn:2.5〜7.0質量%)
Znは電位を卑にする働きがあり、2.5質量%未満では、犠牲陽極として作用させるためには不十分である。一方、7.0質量%を超えると、ブレージングシート単板の耐食性は良好であるが、ろう付け接合部に形成されるフィレット(ろう付け部)中のZn濃度が増加するためにフィレットの優先腐食が起こる怖れがある。また圧延割れが発生するため生産性が低下する。したがって、犠牲陽極層におけるZnの含有量は、2.5〜7.0質量%とする。
【0030】
前記以外に、ろう付けへの悪影響が低いものとして、例えば犠牲陽極層の電位卑化およびろう付け後強度向上のために、Feを0.5質量%以下、Inを0.05質量%以下、犠牲陽極層の電位卑化および腐食形態の層状化のためにSnを0.05質量%以下添加してもよい。
【0031】
また、不可避的不純物として、Mgを0.1質量%以下含有してもよい。本発明ではノコロックろう付け法によるろう付け性重視のため、犠牲陽極層には積極的にMgを添加しない。Mgはフラックスろう付け性を低下させる作用があり、0.1質量%を超えると、ろう付け性が著しく低下する。したがって、犠牲陽極層における不可避的不純物としてのMgは、0.1質量%以下に制限する。なお、犠牲陽極層においてSiと化合するMgは主に心材から拡散するものである。
【0032】
〔ろう材層〕
ろう材層は、アルミニウム合金のろう付けにおいて通常用いられるAl−Si系合金に、3.0質量%以下かつ心材のCu濃度以上のCuを添加したものとする。なお、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおけるろう材層の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.01〜0.1mmである。
【0033】
(ろう材層Si:7.0〜13.0質量%)
Siは、アルミニウム合金ろう材の融点低下および流動性を高める作用がある。Si含有量が7.0質量%未満では、ろう付け時にろうの量が不足してろう付け性が低下する。一方、13.0質量%を超えると成形性が低下する。したがって、ろう材層におけるSiの含有量は、7.0〜13.0質量%である。
【0034】
(ろう材層Cu:3.0質量%以下かつ心材のCu濃度以上)
Cuは、ブレージングシートの製造工程中における熱延、軟化焼鈍、およびろう付け処理により心材へ拡散することで、心材内に外部側から内部側に向かって貴化する電位勾配を形成し、外部側からの耐食性を向上させる。心材のCu濃度未満であると、心材の内部側に対して板厚中心近傍の電位が貴になるため、心材板厚中心部より内部側で孔食進展が促進される。一方、3.0質量%を超えると、フィレット形成時にフィレットとその周辺との電位差が大きくなって、フィレット周辺に優先腐食が発生する可能性がある。したがって、ろう材層におけるCuの含有量は、3.0質量%以下かつ心材のCu濃度以上とする。また、Cuの含有量が、0.1質量%未満あるいは心材のCu濃度との差が0.1質量%未満では効果が小さい。したがって、ろう材層における好ましいCuの含有量は、0.1〜3.0質量%かつ心材のCu濃度以上で、より好ましくは、さらに心材のCu濃度+0.1質量%以上である。
【0035】
前記以外に、心材のろう材層側(内部側)における電位貴化のため、Cr,Ni,Zr等をそれぞれ0.3質量%以下添加してもよい。また、ろう材層がフィレットを形成した時の電位調整(卑化)用として電位勾配を崩さない(心材において、板厚中心部の電位がろう材層側の電位より貴とならない)範囲で、Zn:1.0質量%以下を添加してもよい。フィレットにZnが含有することにより、フィレットとその周辺との電位差を小さくし、優先腐食を防止することができる。
【0036】
また、本発明の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおいては、その用途に応じて、犠牲陽極層側の表面に、さらに、ろう材からなる層(犠牲陽極層側ろう材層)を積層してもよい。
【0037】
〔犠牲陽極層側ろう材層〕
犠牲陽極層側のろう材層は、本発明においては特にその組成を限定するものではないが、例えばAl−Si系合金である4000系合金が挙げられる。また、ろう材への拡散による犠牲陽極層のZn減少を抑制するため、4000系合金にZnを添加した合金が挙げられる。犠牲陽極層側ろう材層における好ましいZnの含有量は、1.0〜3.0質量%である。なお、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおける犠牲陽極層側のろう材層の厚さは特に限定されるものではなく、ろう付け処理に対応するものとするが、好ましくは0.01mm以上である。
【0038】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートは、公知のクラッド材の製造方法により製造される。以下にその一例を説明する。
【0039】
まず、心材用アルミニウム合金、犠牲陽極層用アルミニウム合金、ろう材層用アルミニウム合金、そして必要に応じて犠牲陽極層側ろう材層用アルミニウム合金を、連続鋳造にて溶解、鋳造し、必要に応じて面削、均質化熱処理して、心材用鋳塊、犠牲陽極層用鋳塊、ろう材層用鋳塊、および犠牲陽極層側ろう材層用鋳塊を得る。犠牲陽極層用鋳塊、ろう材層用鋳塊、および犠牲陽極層側ろう材層用鋳塊は、熱間圧延または切断によってそれぞれ所定厚さにして、犠牲陽極材、ろう材、および犠牲陽極層側ろう材を得る。
【0040】
次に、心材用鋳塊を、ろう材と犠牲陽極材とで挟み、さらに必要に応じて犠牲陽極層側ろう材をその外側に配置して、所定のクラッド率になるように重ね合わせ、400℃以上の温度で加熱した後、熱間圧延により圧着し、板材とする。その後、冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延を行うことにより所定の板厚とする。なお、圧着後、冷間圧延前に、合金中の元素分布を調整する目的で、熱処理を実施しても良い。また、中間焼鈍は350〜450℃で3時間以上実施するのが望ましく、最終の冷間加工率は30〜60%となるようにすることが好ましい。また、最終の板厚とした後、成型加工性を考慮して仕上げ焼鈍を実施してもよい。仕上げ焼鈍により、材料が軟化し、伸びが向上するため加工性が確保できる。
【実施例】
【0041】
以上、本発明を実施するための最良の形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と比較して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(供試材作製)
表1、表2、表3に示す組成を有する心材(C1〜C19)、犠牲陽極材(S1〜S13)、ろう材(F1〜F12)を作製し、表4に示す組合せで重ね合わせ、熱間圧延にて犠牲陽極層の厚さを板厚全体の10%で、ろう材層の厚さを板厚全体の10%でクラッドし、冷間圧延にて板厚0.3mmとした。その後、400℃で5時間の中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延を行うことで、板厚0.2mmとし、最後に仕上げ焼鈍を300℃で3時間行って、表4に示す3層材を作製した。
【0043】
同様に、表3に示す組成を有する犠牲陽極層側ろう材(F12,F13)を作製して、表5に示す組合せの、板厚全体の10%の厚さの犠牲陽極層側ろう材層、板厚全体の15%の厚さの犠牲陽極層、心材、板厚全体の10%の厚さのろう材層の順に重ね合わせてクラッドし、冷間圧延にて板厚0.3mmとした。その後、400℃で5時間の中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延を行うことで、板厚0.2mmとし、最後に仕上げ焼鈍を300℃で3時間行って、表5に示す4層材を作製した。
【0044】
作製した3層材および4層材を、その表面に市販の非腐食性のフラックス5g/mを塗布し、治具に吊り下げて、酸素濃度が200ppm以下の雰囲気において595℃で2分間保持することにより、ろう付け加熱を行い、ろう付け熱処理材を作製した。その後、ろう付け熱処理材を切り出して、所定の形状、サイズの試験材を作製し、ろう付け後強度測定および腐食試験を行った。
また、図2に示すように、波形に加工した板厚0.1mmのろう材付きフィン材を、前記の非腐食性のフラックスを塗布して、3層材(ブレージングシート)の犠牲陽極層側の面に取り付け、前記と同様の条件でろう付け加熱を行ってろう付け接合した。一方、4層材(ブレージングシート)は、犠牲陽極層側ろう材層の面に前記の非腐食性のフラックスを塗布して、板厚0.1mmのフィン材(ベアフィン材)を取り付け、3層材と同様にろう付け接合した。これらのフィン付き試験材で腐食試験を行った。ベアフィン材は、Zn:2質量%を含有するアルミニウム合金からなり、ろう材付きフィン材は、前記ベアフィン材の両面に、Si:10質量%を含有するアルミニウム合金からなるろう材を、それぞれ板厚全体の10%で積層したクラッド材とした。
なお、表4および表5において、成形性、融点等の問題から、板形状に作製できなかったものについては、結果欄に「−」で示した。
【0045】
(ろう付け後強度測定)
ろう付け後強度の測定は、ろう付け熱処理材からJIS5号試験材を切り出して引張試験を行い、引張強度を測定することにより行った。測定結果を表4および表5に示す。ろう付け後強度の合格基準は、引張強度が180MPa以上とした。
【0046】
(腐食試験)
腐食試験は、ろう付け熱処理材から60mm×50mmの試験材を切り出し、犠牲陽極層(4層材は犠牲陽極層側ろう材層)側が試験面となるように、ろう材層側の面および端面をシールテープによりシールして、CASS試験(JIS Z 2371)を1000時間実施した。試験後、最大腐食深さを測定し、最小残存板厚(=試験前の板厚−最大腐食深さ)を算出した。結果を表4および表5に示す。
一方、ブレージングシートが熱交換器として使用される際の耐食性を評価するため、フィン付き試験材について、ろう付け熱処理材と同様に、犠牲陽極層(4層材は犠牲陽極層側ろう材層)側すなわちフィン材を接合した面が試験面となるように、ろう材層側の面および端面をシールして、CASS試験を実施した。試験後、フィン材との接合部(フィレットおよびその周辺)に腐食の発生がないか目視にて確認した。腐食が発生した試験材については、表4および表5に備考欄を設けてその旨を示す。
耐食性の合格基準は、ろう付け熱処理材の最小残存板厚が80μm(板厚0.2mmの約40%)を超えること、かつ、フィン付き試験材のフィン材との接合部に腐食がないこととした。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
(心材組成による評価)
実施例1〜3は、心材におけるSi含有量が本発明の範囲内であるので、ろう付け後強度が十分に高い。これに対して、比較例25は心材のSi含有量が不足しているため、ろう付け後強度が十分に得られなかった。一方、比較例26は心材のSi含有量が過剰なため、ろう付け時に心材が溶融して良好な試験材が得られなかった。
【0053】
実施例1,4,5は、心材におけるMn含有量が本発明の範囲内であるので、ろう付け後強度が十分に高い。これに対して、比較例27は心材のMn含有量が不足しているため、ろう付け後強度が十分に得られなかった。一方、比較例28は心材のMn含有量が過剰なため、粗大なMn化合物の形成により成形性が低下して良好な試験材が得られなかった。
【0054】
実施例1,6,7は、心材におけるMg含有量が本発明の範囲内であるので、ろう付け後強度が十分に高い。これに対して、比較例29は心材のMg含有量が不足しているため、ろう付け後強度が十分に得られなかった。一方、比較例30は心材のMg含有量が過剰なため、ろう付け性が低下してフィン材とのろう付け接合が不十分となって、熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートとして不適合であった。
【0055】
実施例1,8は、心材におけるTi含有量が本発明の範囲内であるので、耐食性が十分に高い。これに対して、比較例32は心材のTi含有量が不足しているので、腐食形態の層状効果が不十分で、孔食が進展した。一方、比較例33は心材のTi含有量が過剰なため、粗大なTi化合物の形成により成形性が低下して良好な試験材が得られなかった。
【0056】
(犠牲陽極層組成による評価)
実施例1,9,10は、犠牲陽極層におけるSi含有量が本発明の範囲内であるので、ろう付け後強度が十分に高い。これに対して、比較例34は犠牲陽極層のSi含有量が不足しているため、ろう付け後強度が十分に得られなかった。一方、比較例35は犠牲陽極層のSi含有量が過剰なため、ろう付け時に犠牲陽極層が溶融して良好な試験材が得られなかった。
【0057】
実施例1,11〜13は、犠牲陽極層におけるMn含有量が本発明の範囲内であるので、ろう付け後強度が十分に高い。これに対して、比較例36は犠牲陽極層のMn含有量が過剰なため、粗大なMn化合物の形成により成形性が低下して良好な試験材が得られなかった。
【0058】
実施例1,14,15は、犠牲陽極層におけるZn含有量が本発明の範囲内であるので、犠牲防食効果が十分に高い。これに対して、比較例37は犠牲陽極層のZn含有量が不足しているため、犠牲防食効果が十分でなく、耐食性が低下した。一方、比較例38は犠牲陽極層のZn含有量が過剰なため、単板の耐食性は高いが、フィレットでZn濃度が増加して優先腐食が発生した。
【0059】
(ろう材層組成による評価)
実施例1,16,17は、ろう材層におけるSi含有量が本発明の範囲内であるので、十分なろう付け性が確保できている。これに対して、比較例39はろう材層のSi含有量が不足しているため、ろうの流動量が不足してろう付け性が低下し、フィン材とのろう付け接合が不十分であった。一方、比較例40はろう材層のSi含有量が過剰なため、ろう材の成形性が低下して圧延割れが生じ、試験材が得られなかった。
【0060】
(心材およびろう材層のCu含有量による評価)
実施例1,18〜23は、心材およびろう材層のそれぞれにおけるCu含有量が本発明の範囲内であるので、ろう付け後強度および耐食性が十分に高い。これに対して、比較例31は心材のCu含有量が過剰なため、バーニングを発生して良好な試験材が得られなかった。また、比較例42はろう材層のCu含有量が過剰なため、フィン付き試験材のフィレットとその周辺との電位差が大きくなって、試験材およびフィン材のフィレット周辺部で優先腐食が発生した。一方、比較例41は、心材およびろう材層の両層がCu無添加であるため、電位勾配が不十分で、耐食性が低下した。また、比較例43は、心材のCu含有量がろう材層のCu含有量を超えるため、試験材の板厚中心近傍すなわち心材の板厚中心部で電位勾配が貴となり(図3(b)参照)、心材板厚中心部以深での犠牲防食効果が得られず、腐食試験において試験材に穴が開いた(最小残存板厚0μm)。
【0061】
(4層材の評価)
実施例44,45は、それぞれ組成が本発明の範囲内である犠牲陽極層/心材/ろう材層の犠牲陽極層側の面にさらにろう材を積層したものであるので、ろう付け後強度および耐食性が十分に高い。特に、実施例45は、犠牲陽極層側ろう材層にZnを添加したため、このろう材層へ犠牲陽極層のZnが拡散して減少することが抑制されるので、犠牲陽極層の犠牲防食効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおけるCu,Znの濃度分布および電位勾配を示す図であり、(a)はCu,Znの濃度分布図、(b)は電位勾配図である。
【図2】ブレージングシートにフィン材を接合したフィン付き試験材の模式図である。
【図3】従来の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートにおけるCu,Znの濃度分布および電位勾配を示す図であり、(a)はCu,Znの濃度分布図、(b)は電位勾配図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材と、この心材の一面側に配置される犠牲陽極層と、前記心材の他面側に配置されてAl−Si系合金からなるろう材層とを備えた熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートであって、
前記心材は、Si:0.3〜1.5質量%、Mn:0.5〜1.8質量%、Mg:0.05〜0.5質量%、Ti:0.05〜0.35質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
前記犠牲陽極層は、Si:0.03〜1.5質量%、Mn:1.8質量%以下、Zn:2.5〜7.0質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
前記ろう材層は、Si:7.0〜13.0質量%、Cu:3.0質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項2】
前記心材が、さらに、1.0質量%以下かつ前記ろう材層のCu含有量以下のCuを含有することを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシートの犠牲陽極層側の表面に、さらにろう材からなる層を備えることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金ブレージングシート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−127121(P2009−127121A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−307291(P2007−307291)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)