説明

熱交換器

【課題】入口パスの扁平チューブの十分な耐圧性を確保しつつ軽量化を図ることができ、しかも熱交換性能の低下を防止しうる熱交換器を提供する。
【解決手段】ガスクーラ1は、1対のヘッダタンク2,3と、両ヘッダタンク2,3間に並列状に配置された複数のアルミニウム製扁平チューブ4A,4Bとを備えている。すべての扁平チューブ4A,4Bを、入口ヘッダ部8に接続された複数の扁平チューブ4Aからなる入口パスP1と、出口ヘッダ部9に接続された複数の扁平チューブ4Bからなる出口パスP2とに区分する。入口パスP1の扁平チューブ4Aの外表面部を、出口パスP2の扁平チューブ4Bの外表面部よりも電位的に貴とする。入口パスP1の扁平チューブ4Aの外表面部と、出口パスP2の扁平チューブ4Bの外表面部との電位差を40mV以上、好ましくは50〜300mVとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱交換器に関し、さらに詳しくは、たとえばCO(二酸化炭素)などの超臨界冷媒が用いられ、カーエアコンとして車両に搭載される超臨界冷凍サイクルのガスクーラに好適に使用される熱交換器に関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、「超臨界冷凍サイクル」とは、高圧側において、冷媒が臨界圧力を超えた超臨界状態となる冷凍サイクルを意味するものとし、「超臨界冷媒」とは、超臨界冷凍サイクルに用いられる冷媒を意味するものとする。
【0003】
また、この明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」という用語には、「アルミニウム合金」および「純アルミニウム」と表記しない限りは、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【背景技術】
【0004】
たとえば車両のカーエアコンに適用される超臨界冷凍サイクルのガスクーラに用いられる熱交換器として、互いに間隔をおいて配置された1対のヘッダタンクと、両ヘッダタンク間に間隔をおいて並列状に配置されかつ両端部が両ヘッダタンクに接続された複数の扁平チューブと、隣接する扁平チューブ間の通風間隙に配置されかつ扁平チューブにろう付されたフィンとを備えており、第1のヘッダタンクに、その長さ方向に並んだ2つのヘッダ部が設けられ、第2のヘッダタンクに、1つのヘッダ部が、第1ヘッダタンクの隣り合う2つのヘッダ部に跨るように設けられ、第1ヘッダタンクの一方のヘッダ部が入口ヘッダ部となっているとともに、同他方のヘッダ部が出口ヘッダ部となっており、すべての扁平チューブが、入口ヘッダ部に接続された扁平チューブからなる入口パスと、出口ヘッダ部に接続された扁平チューブからなる出口パスとに区分されている熱交換器が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
通常、車両のカーエアコンに適用される超臨界冷凍サイクルのガスクーラに用いられる熱交換器は、軽量、高熱伝導性、安価などの理由からアルミニウムやアルミニウム合金により形成されることが多く、特許文献1記載の熱交換器の扁平チューブもアルミニウム合金、たとえばJIS A3003からなる押出形材により形成されている。
【0006】
超臨界冷凍サイクルにおいては、圧縮機で圧縮された冷媒は高温高圧になって、ガスクーラの入口ヘッダに流入する超臨界冷媒の温度が150℃を超えることがあり、入口ヘッダ部に接続された入口パスの扁平チューブにも上述したような高温高圧の超臨界冷媒が流入する。そこで、特許文献1記載の熱交換器においては、入口パスの扁平チューブの上記温度域での強度を高くして入口パスの扁平チューブの耐圧性を向上させるために、扁平チューブの周壁の肉厚を、上述した温度域での強度を満たしうるように厚くすることが考えられている。
【0007】
しかしながら、この場合、熱交換器全体の重量が大きくなるという問題がある。また、入口パスの扁平チューブの高さが高くなるので、決められたスペースの中では扁平チューブの数を低減しなければならず、その結果伝熱面積が減少して熱交換性能が低下するおそれがある。
【特許文献1】特開2005−300135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明の目的は、上記問題を解決し、入口パスの扁平チューブの十分な耐圧性を確保しつつ軽量化を図ることができ、しかも熱交換性能の低下を防止しうる熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0010】
1)互いに間隔をおいて配置された1対のヘッダタンクと、両ヘッダタンク間に並列状に配置されかつ両端部がそれぞれ両ヘッダタンクに接続された複数のアルミニウム製扁平チューブとを備えており、すべての扁平チューブが、複数の扁平チューブからなりかつヘッダタンクの長さ方向に連続して並んだ複数のパスに区分され、ヘッダタンクの長さ方向の一端側のパスが入口パスとなされ、入口パスの扁平チューブが、いずれかのヘッダタンクに形成されかつ冷媒入口を有する入口ヘッダ部に接続されている熱交換器において、
入口パスの扁平チューブの外表面部が、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部よりも電位的に貴である熱交換器。
【0011】
2)入口パスの扁平チューブの外表面部と、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部との電位差が40mV以上である上記1)記載の熱交換器。
【0012】
上記2)の熱交換器において、入口パスの扁平チューブの外表面部と、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部との電位差を40mV以上としたのは、入口パスの扁平チューブの外表面部が、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部よりも電位的に貴であったとしても、両者の電位差が40mV未満の場合、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果が十分ではなくなるおそれがあるからである。
【0013】
3)入口パスの扁平チューブの外表面部と、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部との電位差が50〜300mVである上記2)記載の熱交換器。
【0014】
上記3)の熱交換器において、入口パスの扁平チューブの外表面部と、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部との電位差を50〜300mVとしたのは、入口パスの扁平チューブの外表面部が、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部よりも電位的に貴であったとしても、両者の電位差が50mV未満の場合、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果が少なくなり、300mVを超えた場合、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブにおける犠牲腐食させたい部分が短期間で腐食して喪失し、入口パスの扁平チューブの防食を長期的に行うことができないおそれがあるからである。
【0015】
4)入口パスの扁平チューブが、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともMnを含むアルミニウム合金から形成されており、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のMn含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のMn含有量よりも0.1質量%以上多くなっている上記1)〜3)のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【0016】
5)入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のMn含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のMn含有量よりも0.8〜1.7質量%多くなっている上記4)記載の熱交換器。
【0017】
6)入口パスの扁平チューブが、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともCuを含むアルミニウム合金から形成されており、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のCu含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のCu含有量よりも0.05質量%以上多くなっている上記1)〜5)のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【0018】
7)入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のCu含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のCu含有量よりも0.15〜0.5質量%多くなっている上記6)記載の熱交換器。
【0019】
8)入口パスの扁平チューブが、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともSiを含むアルミニウム合金から形成されており、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のSi含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のSi含有量よりも0.1質量%以上多くなっている上記1)〜7)のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【0020】
9)入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のSi含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のSi含有量よりも0.4〜1.7質量%多くなっている上記8)記載の熱交換器。
【0021】
上記4)〜9)の熱交換器において、Mn、CuおよびSiは、アルミニウム合金の電位を貴にする元素である。しかしながら、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のMn含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のMn含有量よりも0.1質量%未満しか多くなっていない場合、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のCu含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のCu含有量よりも0.05質量%未満しか多くなっていない場合、および入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のSi含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のSi含有量よりも0.1質量%未満しか多くなっていない場合には、それぞれ入口パスの扁平チューブの外表面部の電位が、入口パスに隣り合う扁平チューブの外表面部の電位よりも十分に貴にならず、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果が少なくなるおそれがある。また、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のMn含有量は入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のMn含有量よりも0.8質量%以上多くなっていることが好ましいが、1.7質量%を超えて多くなると粗大な金属間化合物が生成して加工性が悪くなるおそれがある。入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のCu含有量は入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のCu含有量よりも0.15質量%以上多くなっていることが好ましいが、0.5質量%を超えて多くなると耐食性が低下するおそれがある。入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のSi含有量は入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のSi含有量よりも0.4質量%以上多くなっていることが好ましいが、1.7質量%を超えて多くなると扁平チューブを形成するアルミニウム合金の融点が低下するおそれがある。
【0022】
10)入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともZnが含まれており、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のZn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のZn含有量よりも0.2質量%以上多くなっている上記1)〜9)のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【0023】
11)入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のZn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のZn含有量よりも0.3〜1.0質量%以上多くなっている上記10)記載の熱交換器。
【0024】
上記10)および11)の熱交換器において、Znは、アルミニウム合金の電位を卑にする元素である。しかしながら、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のZn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のZn含有量よりも0.2質量%未満しか多くなっていない場合には、入口パスに隣り合う扁平チューブの外表面部の電位が、入口パスの扁平チューブの外表面部の電位よりも十分に卑にならず、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果が少なくなるおそれがある。また、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のZn含有量は、入口パスの扁平チューブの外表面部のZn含有量よりも0.3質量%以上多くなっていることが好ましいが、1.0質量%を超えて多くなると耐食性が低下するおそれがある。
【0025】
12)扁平チューブがヘッダタンクにろう付されており、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブが、表面をZnで被覆した扁平チューブがヘッダタンクにろう付されたものであり、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量が、入口パスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量よりも多くなっている上記11)記載の熱交換器。
【0026】
13)入口パスに隣り合うパスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量が、入口パスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量よりも2g/m以上多くなっている上記12)記載の熱交換器。
【0027】
14)入口パスに隣り合うパスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量が、入口パスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量よりも2〜8g/m以上多くなっている上記13)記載の熱交換器。
【0028】
上記13)および14)の熱交換器において、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量が、入口パスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量よりも2g/m以上多くなっていると、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のZn含有量を、入口パスの扁平チューブの外表面部のZn含有量よりも0.3〜1.0質量%以上多くすることを、比較的簡単に行うことが可能になる。
【0029】
15)入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともSnが含まれており、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のSn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のSn含有量よりも0.1質量%以上多くなっている上記1)〜14)のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【0030】
16)入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともInが含まれており、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のIn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のIn含有量よりも0.01質量%以上多くなっている上記1)〜15)のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【0031】
上記15)および16)の熱交換器において、SnおよびInは、アルミニウム合金の電位を卑にする元素である。しかしながら、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のSn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のSn含有量よりも0.1質量%未満しか多くなっていない場合、および入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のIn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のIn含有量よりも0.01質量%未満しか多くなっていない場合には、それぞれ入口パスに隣り合う扁平チューブの外表面部の電位が、入口パスの扁平チューブの外表面部の電位よりも十分に卑にならず、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果が少なくなるおそれがある。
【0032】
17)第1のヘッダタンクに、その長さ方向に並んだ複数のヘッダ部が設けられ、第2のヘッダタンクに、第1ヘッダタンクのヘッダ部の数よりも1つ少ないヘッダ部が、第1ヘッダタンクの隣り合う2つのヘッダ部に跨るように設けられ、第1ヘッダタンクの長さ方向の一端部のヘッダ部が入口ヘッダ部となっているとともに、同他端部のヘッダ部が出口ヘッダ部となっており、すべての扁平チューブが第1ヘッダタンクのヘッダ数と同数のパスに区分されている上記1)〜16)のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【0033】
18)第1ヘッダタンクのヘッダ部の数が2であり、第2ヘッダタンクのヘッダ部の数が1であり、パスの数が2である上記17)記載の熱交換器。
【0034】
19)第1のヘッダタンクに、その長さ方向に並んだ複数のヘッダ部が設けられ、第2のヘッダタンクに、第1ヘッダタンクのヘッダ部と同数のヘッダ部がその長さ方向に並んで設けられ、第1ヘッダタンクの長さ方向の一端部のヘッダ部が入口ヘッダ部となっているとともに、第2ヘッダタンクにおける入口ヘッダ部とは反対側の端部のヘッダ部が出口ヘッダ部となっており、すべての扁平チューブが両ヘッダタンクのヘッダ数よりも1つ多い数のパスに区分されている上記1)〜16)のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【0035】
20)各ヘッダタンクのヘッダ部の数が2であり、パスの数が3である上記19)記載の熱交換器。
【0036】
21)圧縮機、ガスクーラ、エバポレータ、減圧器、およびガスクーラから出てきた冷媒とエバポレータから出てきた冷媒とを熱交換させる中間熱交換器を備えており、かつ超臨界冷媒を用いる冷凍サイクルであって、ガスクーラが上記1)〜20)のうちのいずれかに記載の熱交換器からなる超臨界冷凍サイクル。
【0037】
22)超臨界冷媒が二酸化炭素からなる上記21)記載の超臨界冷凍サイクル。
【0038】
23)上記21)または22)記載の超臨界冷凍サイクルがカーエアコンとして搭載されている車両。
【発明の効果】
【0039】
上記1)の熱交換器によれば、入口パスの扁平チューブの外表面部が、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部よりも電位的に貴であるから、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果により入口パスの扁平チューブの外表面部の腐食が防止され、その結果扁平チューブの周壁の肉厚の減少が防止される。したがって、熱交換器の使用温度域において入口パスの扁平チューブの十分な耐圧性を確保することができる。
【0040】
また、特許文献1記載の熱交換器のように、扁平チューブの周壁の肉厚を、熱交換器使用温度域での強度を満たしうるように厚くする必要はないので、熱交換器全体の重量の増大を防止することができる。しかも、扁平チューブの周壁の肉厚を、熱交換器使用温度域での強度を満たしうるように厚くする必要はないので、扁平チューブの高さを同一にした場合、流体通路の通路断面積を大きくすることができ、熱交換性能が向上する。さらに、入口パスの扁平チューブの高さが高くなることを防止できるので、決められたスペースの中でも扁平チューブの数を低減させる必要はなく、その結果伝熱面積の減少および伝熱面積の減少に起因する熱交換性能の低下が防止される。
【0041】
上記2)および3)の熱交換器によれば、入口パスの扁平チューブの外表面部が、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部よりも電位的に貴になって両者の電位差が十分に大きくなるので、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果が優れたものになり、入口パスの扁平チューブの外表面部の腐食を効果的に防止することができる。特に、上記3)の熱交換器によれば、入口パスの扁平チューブの防食を長期的に行うことができる。
【0042】
上記4)〜9)の熱交換器によれば、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部が、入口パスの扁平チューブの外表面部よりも電位的に卑になって両者の電位差が十分に大きくなるので、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果が優れたものになり、入口パスの扁平チューブの外表面部の腐食を効果的に防止することができる。特に、上記5)の熱交換器によれば、加工性の低下を防止することができる。また、上記7)の熱交換器によれば、耐食性の低下を防止することができる。さらに、上記9)の熱交換器によれば、融点の低下を防止することができる。
【0043】
上記10)〜16)の熱交換器によれば、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの犠牲腐食効果が優れたものになり、入口パスの扁平チューブの外表面部の腐食を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。この実施形態は、この発明による熱交換器用ヘッダタンクを超臨界冷凍サイクルのガスクーラに適用したものである。
【0045】
なお、以下の説明において、図1および図3の上下、左右をそれぞれ上下、左右という。また、図1および図3の紙面表側(図2および図4の左側)を前、これと反対側を後というものとする。
【0046】
実施形態1
この実施形態は図1および図2に示すものである。
【0047】
図1はこの発明による熱交換器を適用したガスクーラの全体構成を示し、図2はガスクーラに用いられる扁平チューブを示す。
【0048】
図1において、超臨界冷媒、たとえばCOを使用する超臨界冷凍サイクルのガスクーラ(1)は、左右方向に間隔をおいて平行に配置され、かつ上下方向に伸びるアルミニウム製ヘッダタンク(2)(3)と、両ヘッダタンク(2)(3)間に上下方向に間隔をおいて並列状に配置されかつ両端がそれぞれ両ヘッダタンク(2)(3)にろう付された複数のアルミニウム製扁平チューブ(4A)(4B)と、隣り合う扁平チューブ(4A)(4B)間の通風間隙(5)および上下両端の扁平チューブ(4A)(4B)の外側に配置されるとともに、扁平チューブ(4A)(4B)にろう付されたアルミニウム製コルゲートフィン(6)と、上下両端のコルゲートフィン(6)の外側に配置されてコルゲートフィン(6)にろう付されたアルミニウム製サイドプレート(7)とを備えている。
【0049】
右側の第1ヘッダタンク(2)には、高さの中程に位置する仕切部(10)を介して上下方向に並んだ複数、ここでは2つのヘッダ部(8)(9)が設けられている。左側の第2ヘッダタンク(3)には、第1ヘッダタンク(2)のヘッダ部(8)(9)よりも1つ少ない数、ここでは1つのヘッダ部(11)が、第1ヘッダタンク(2)の隣り合う2つのヘッダ部(8)(9)に跨るように設けられている。そして、第1ヘッダタンク(2)の上端部に冷媒入口(12)が設けられることにより、上側ヘッダ部(8)が入口ヘッダ部となり、第1ヘッダタンク(2)の下端に冷媒出口(13)が設けられることにより、下側ヘッダ部(9)が出口ヘッダ部となっている。
【0050】
すべての扁平チューブ(4A)(4B)は、右端部が第1ヘッダタンク(2)の入口ヘッダ部(8)内に通じるとともに左端部が第2ヘッダタンク(3)のヘッダ部(11)内の上部に通じる複数の扁平チューブ(4A)からなるチューブ群と、右端部が第1ヘッダタンク(2)の出口ヘッダ部(9)内に通じるとともに左端部が第2ヘッダタンク(3)のヘッダ部(11)内の下部に通じる複数の扁平チューブ(4B)からなるチューブ群とに分けられることにより、第1および第2の2つのパス(P1)(P2)(冷媒通路群)に区分されており、各パス(P1)(P2)を構成するすべての扁平チューブ(4A)(4B)における冷媒の流れ方向が同一となっているとともに、2つのパス(P1)(P2)の扁平チューブ(4A)(4B)における冷媒の流れ方向が異なっている。ここで、入口ヘッダ部(8)に接続された扁平チューブ(4A)からなるパス(P1)を入口パス、出口ヘッダ部(9)に接続された扁平チューブ(4B)からなるパス(P2)を出口パスというものとする。
【0051】
図2に示すように、扁平チューブ(4A)(4B)はアルミニウム押出形材からなり、その内部に複数の冷媒通路(4a)が幅方向に並んで形成され、その幅方向を前後方向に向けて配置されている。全扁平チューブ(4A)(4B)の周壁および隣り合う冷媒通路(4a)間の仕切壁(4b)の肉厚は等しくなっている。
【0052】
入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部は、これに隣り合うパス、すなわち出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部よりも電位的に貴となっている。ここで、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部と、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部との電位差は40mV以上であることが好ましく、当該電位差は50〜300mVであることが望ましい。
【0053】
入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部と、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部との電位的な関係を上述したとおりにする手段としては、たとえば次のような手段があげられる。その1は、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)を、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともMnを含むアルミニウム合金から形成するとともに、当該アルミニウム合金中のMn含有量を、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)を形成するアルミニウム中のMn含有量よりも0.1質量%以上、好ましくは0.8〜1.7質量%多くすることである。その2は、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)を、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともCuを含むアルミニウム合金から形成するとともに、当該アルミニウム合金中のCu含有量を、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)を形成するアルミニウム中のCu含有量よりも0.05質量%以上、好ましくは0.15〜0.5質量%多くすることである。その3は、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)を、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともSiを含むアルミニウム合金から形成するとともに、当該アルミニウム合金中ののSi含有量を、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)を形成するアルミニウム中のSi含有量よりも0.1質量%以上、好ましくは0.4〜1.7質量%多くすることである。上述した3つの手段において、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)を形成するアルミニウム合金には、Mn、CuおよびSiのうちの2種以上が含まれることがあるが、この場合にも、その含有量は上述したようにする。なお、上述した3つの手段において、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)を形成するアルミニウム中には、Mn、CuおよびSiのうちの少なくとも1つが含まれている場合もあるし、含まれていない場合もある。たとえば、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)は、JIS A3003や、JIS A1100などから形成される。
【0054】
また、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部と、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部との電位的な関係を上述したとおりにする手段としては、たとえば次のような手段もあげられる。その1は、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともZnを含有させるとともに、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部のZn含有量を、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部のZn含有量よりも0.2質量%以上、好ましくは0.3〜1.0質量%以上多くすることである。その1の手段を達成するためには、ろう付前の出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面を、たとえば溶射によって付着させたZnにより被覆しておき、扁平チューブのろう付前の表面Zn量を、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)のろう付前の表面Zn量よりも2g/m以上、好ましくは2〜8g/m以上多くしておくのが好ましい。その2は、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともSnを含有させるとともに、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部のSn含有量を、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部のSn含有量よりも0.1質量%以上多くすることである。その2の手段を達成するためには、ろう付前の出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面を、たとえば溶射によって付着させたAl−Sn合金により被覆しておくことが好ましい。その3は、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともInを含有させるとともに、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部のIn含有量を、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部のIn含有量よりも0.01質量%以上多くすることである。上述した3つの手段において、入口パス(P1)および出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)は、JIS A3003や、JIS A1100などから形成される。また、上述した3つの手段において、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面には、Zn、SnおよびInのうちの2種以上が含まれることがあるが、この場合にも、その含有量は上述したようにする。なお、上述した3つの手段において、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部には、Zn、SnおよびInのうちの少なくとも1つが含まれている場合もあるし、含まれていない場合もある。
【0055】
入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部と、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部との電位的な関係が上述したものである場合、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の犠牲腐食効果により入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部の腐食が防止され、その結果入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の周壁の肉厚の減少が防止される。したがって、ガスクーラ(1)の使用温度域において入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の十分な耐圧性を確保することができる。
【0056】
実施形態2
この実施形態は図3に示すものである。
【0057】
図3はこの発明による熱交換器を適用したガスクーラの全体構成を示す。
【0058】
この実施形態のガスクーラ(20)の場合、左側のヘッダタンクが第1ヘッダタンク(21)であり、右側のヘッダタンクが第2ヘッダタンク(22)である。第1ヘッダタンク(21)には、高さの中程よりも上方に位置する仕切部(23)を介して上下方向に並んだ複数、ここでは2つのヘッダ部(24)(25)が設けられている。第2ヘッダタンク(22)には、第1ヘッダタンク(21)のヘッダ部(24)(25)と同数のヘッダ部(27)(28)が、高さの中程よりも下方に位置する仕切部(26)を介して上下方向に並んで設けられている。そして、第1ヘッダタンク(21)の上端部に冷媒入口(12)が設けられることにより、上側ヘッダ部(24)が入口ヘッダ部となり、第2ヘッダタンク(22)の下端に冷媒出口(13)が設けられることにより、下側ヘッダ部(28)が出口ヘッダ部となっている。
【0059】
すべての扁平チューブ(4A)(4B)(4C)は、左端部が第1ヘッダタンク(21)の入口ヘッダ部(24)内に通じるとともに右端部が第2ヘッダタンク(22)の上側ヘッダ部(27)内の上部に通じる複数の扁平チューブ(4A)からなるチューブ群と、左端部が第1ヘッダタンク(21)の下側ヘッダ部(25)内の上部に通じるとともに右端部が第2ヘッダタンク(22)の上側ヘッダ部(27)内の下部に通じる複数の扁平チューブ(4C)からなるチューブ群と、左端部が第1ヘッダタンク(21)の下側ヘッダ部(25)内の下部に通じるとともに右端部が第2ヘッダタンク(22)の出口ヘッダ部(28)内に通じる複数の扁平チューブ(4B)からなるチューブ群とに分けられることにより、第1〜第3の3つのパス(P1)(P2)(P3)(冷媒通路群)に区分されており、各パス(P1)(P2)(P3)を構成する全ての扁平チューブ(4A)(4B)(4C)における冷媒の流れ方向が同一となっているとともに、隣り合う2つのパス(P1)(P3)および(P3)(P2)の扁平チューブ(4A)(4C)および(4C)(4B)における冷媒の流れ方向が異なっている。ここで、入口ヘッダ部(24)に接続された扁平チューブ(4A)からなるパス(P1)を入口パス、出口ヘッダ部(28)に接続された扁平チューブ(4B)からなるパス(P2)を出口パス、両パス(P1)(P2)間のパス(P3)を中間パスというものとする。
【0060】
この実施形態2において、入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部と、中間パス(P3)の扁平チューブ(4C)の外表面部との電位的な関係が、実施形態1のガスクーラ(1)におけるクーラ入口パス(P1)の扁平チューブ(4A)の外表面部と、出口パス(P2)の扁平チューブ(4B)の外表面部との電位的な関係と同一になっている。
【0061】
その他の構成は上記実施形態1と同様であり、同一物には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0062】
上記2つの実施形態においては、超臨界冷凍サイクルの超臨界冷媒として、COが使用されているが、これに限定されるものではなく、エチレン、エタン、酸化窒素などが使用可能である。
【0063】
図4〜図6は扁平チューブの変形例を示す。
【0064】
扁平チューブ(30)は、図4および図5に示すように、互いに対向する平らな上下壁(31)(32)(1対の平坦壁)と、上下壁(31)(32)の前後両側縁どうしにまたがる前後両側壁(33)(34)と、前後両側壁間(33)(34)において上下壁(31)(32)にまたがるとともに長さ方向に伸びかつ相互に所定間隔をおいて設けられた複数の補強壁(35)とよりなり、内部に幅方向に並んだ複数の冷媒通路(4a)を有するものである。
【0065】
前側壁(33)は2重構造であり、上壁(31)の前側縁より下方隆起状に一体成形されかつ扁平チューブ(4)の全高にわたる外側側壁用凸条(36)と、外側側壁用凸条(36)の内側において上壁(31)より下方隆起状に一体成形された内側側壁用凸条(37)と、下壁(32)の前側縁より上方隆起状に一体成形された内側側壁用凸条(38)とよりなる。外側側壁用凸条(36)は、下端部が下壁(32)の下面前側縁部に係合された状態で両内側側壁用凸条(37)(38)および下壁(32)にろう付されている。両内側側壁用凸条(37)(38)は、相互に突き合わされてろう付されている。後側壁(34)は、上下壁(31)(32)と一体に形成されている。下壁(32)の内側側壁用凸条(38)の先端面に、その長手方向に伸びる凸起(38a)が全長にわたって一体に形成され、上壁(31)の内側側壁用凸条(37)の先端面に、その長手方向に伸びかつ凸起(38a)が圧入される凹溝(37a)が全長にわたって形成されている。
【0066】
補強壁(35)は、上壁(31)より下方隆起状に一体成形された補強壁用凸条(40)(41)と、下壁(32)より上方隆起状に一体成形された補強壁用凸条(42)(43)とが、相互に突き合わされてろう付されることにより形成されている。上壁(31)および下壁(32)には、それぞれ突出高さの異なる高低2種の補強壁用凸条(40)(41)(42)(43)が前後方向に交互に形成されており、上壁(31)における突出高さの高い補強壁用凸条(40)と下壁(32)における突出高さの低い補強壁用凸条(43)とがろう付され、上壁(31)における突出高さの低い補強壁用凸条(41)と下壁(32)における突出高さの高い補強壁用凸条(42)とがろう付されている。以下、上下両壁(31)(32)の突出高さの高い補強壁用凸条(40)(42)をそれぞれ第1補強壁用凸条といい、同じく低い補強壁用凸条(41)(43)をそれぞれ第2補強壁用凸条というものとする。上下両壁(31)(32)の第2補強壁用凸条(41)(43)の先端面に、その長手方向に伸びかつ他方の壁(32)(31)の第1補強壁用凸条(42)(40)の先端部が嵌る凹溝(44)(45)が全長にわたって形成されており、上下両壁(31)(32)の第1補強壁用凸条(40)(42)の先端部が凹溝(45)(44)内に嵌め入れられた状態で、両補強壁用凸条(40)(43)および(41)(42)がろう付されている。
【0067】
扁平チューブ(30)は、図6(a)に示すような金属素板(50)を用いて製造される。金属素板(50)は上面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートに圧延加工を施すことにより形成されており、平らな上壁形成部(51)および下壁形成部(52)と、上壁形成部(51)および下壁形成部(52)を連結しかつ後側壁(34)を形成する連結部(53)と、上壁形成部(51)および下壁形成部(52)における連結部(53)とは反対側の側縁より上方隆起状に一体成形されかつ前側壁(33)の内側部分を形成する内側側壁用凸条(37)(38)と、上壁形成部(51)における連結部(53)とは反対側の側縁を外側方に延長することにより形成された外側側壁用凸条形成部(54)と、金属素板(50)の幅方向に所定間隔をおいて上壁形成部(51)および下壁形成部(52)よりそれぞれ上方隆起状に一体成形された複数の補強壁用凸条(40)(41)(42)(43)とを備えており、上壁形成部(51)の第1補強壁用凸条(40)と下壁形成部(52)の第2補強壁用凸条(43)、および上壁形成部(51)の第2補強壁用凸条(41)と下壁形成部(52)の第1補強壁用凸条(42)とが、それぞれ連結部(53)の幅方向の中心線に対して対称となる位置にある。下壁形成部(52)の内側側壁用凸条(38)の先端面に凸起(38a)が、上壁形成部(51)の内側側壁用凸条(37)の先端面に凹溝(37a)がそれぞれ形成されている。また、上壁形成部(51)および下壁形成部(52)の第2補強壁用凸条(41)(43)の先端面には、他方の壁形成部(52)(51)の第1補強壁用凸条(42)(40)の先端部が嵌る凹溝(44)(45)が形成されている。
【0068】
なお、上面にろう材がクラッドされたアルミニウムブレージングシートに圧延加工を施してその上面に側壁用凸条(37)(38)および補強壁用凸条(40)(41)(42)(43)が一体成形されていることにより、側壁用凸条(37)(38)および補強壁用凸条(40)(41)(42)(43)の両側面および先端面と、第2補強壁用凸条(41)(43)の凹溝(44)(45)の内周面と、上下壁形成部(50)(51)および外側側壁用凸条形成部(54)の上面とにろう材層(図示略)が形成される。
【0069】
そして、金属素板(50)を、ロールフォーミング法により、連結部(53)の両側縁で順次折り曲げていき(図6(b)参照)、最後にヘアピン状に折り曲げて内側側壁用凸条(37)(38)どうしを突き合わせるとともに、第1補強壁用凸条(40)(42)の先端部を第2補強壁用凸条(43)(41)の凹溝(45)(44)内に嵌め入れ、さらに凸起(38a)を凹溝(37a)内に圧入する。
【0070】
ついで、外側側壁用凸条形成部(54)を折り曲げていき、両内側側壁用凸条(37)(38)の外面に沿わせるとともに、その先端部を変形させて下壁形成部(52)に係合させて折り曲げ体(55)を得る(図6(c)参照)。
【0071】
その後、折り曲げ体(55)を所定温度に加熱し、内側側壁用凸条(37)(38)の先端部どうし、ならびに第1補強壁用凸条(40)(42)および第2補強壁用凸条(43)(41)の先端部どうしをそれぞれろう付するとともに、外側側壁用凸条形成部(54)と両内側側壁用凸条(37)(38)および下壁形成部(52)とをろう付することにより、扁平チューブ(30)が製造される。
【0072】
なお、扁平チューブ(30)の製造の際の内側側壁用凸条(37)(38)の先端部どうしのろう付、第1補強壁用凸条(40)(42)および第2補強壁用凸条(43)(41)の先端部どうしのろう付、ならびに外側側壁用凸条形成部(54)と両内側側壁用凸条(37)(38)および下壁形成部(52)とのろう付は、ガスクーラ(1)(20)を製造する際の他部品のろう付と同時に行われる。
【0073】
扁平チューブ(30)を実施形態1および2の入口パス(P1)に用いる場合、これを製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートの心材を、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともMnを含むアルミニウム合金から形成するとともに、当該アルミニウム合金中のMn含有量を、出口パス(P2)および中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)を製造するためのアルミニウムブレージングシートの心材を形成するアルミニウム中のMn含有量よりも0.1質量%以上、好ましくは0.8〜1.7質量%多くするのがよい。また、入口パス(P1)に用いる扁平チューブ(30)を製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートの心材を、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともCuを含むアルミニウム合金から形成するとともに、当該アルミニウム合金中のCu含有量を、出口パス(P2)および中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)を製造するためのアルミニウムブレージングシートの心材を形成するアルミニウム中のCu含有量よりも0.05質量%以上、好ましくは0.15〜0.5質量%多くするのがよい。さらに、入口パス(P1)に用いる扁平チューブ(30)を製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートの心材を、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともSiを含むアルミニウム合金から形成するとともに、当該アルミニウム合金中ののSi含有量を、出口パス(P2)および中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)を製造するためのアルミニウムブレージングシートの心材を形成するアルミニウム中のSi含有量よりも0.1質量%以上、好ましくは0.4〜1.7質量%多くするのがよい。これにより、入口パス(P1)に用いる扁平チューブ(30)の外表面部と、出口パス(P2)および中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)の外表面部との電位的な関係を、実施形態1および2で述べたとおりにすることができる。ここで、入口パス(P1)に用いる扁平チューブ(30)を製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートの心材を構成するアルミニウム合金には、Mn、CuおよびSiのうちの2種以上が含まれることがあるが、この場合にも、その含有量は上述したようにする。なお、出口パス(P2)および中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)を製造するためのアルミニウムブレージングシートの心材を形成するアルミニウム中には、Mn、CuおよびSiのうちの少なくとも1つが含まれている場合もあるし、含まれていない場合もある。
【0074】
また、扁平チューブ(30)を実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いる場合、これを製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートにおけるろう材層が形成されていない面を、たとえば溶射によって付着させたZnにより被覆しておき、折り曲げ体(55)のろう付前の表面Zn量を、入口パス(P1)に用いる扁平チューブ(30)を製造するための金属素板(50)からなる折り曲げ体(55)のろう付前の表面Zn量よりも2g/m以上、好ましくは2〜8g/m以上多くしておくことにより、実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いられるの扁平チューブ(30)の外表面部にZnを含有させるとともに、当該扁平チューブ(30)の外表面部のZn含有量を、入口パス(P1)に用いられる扁平チューブ(30)の外表面部のZn含有量よりも0.2質量%以上、好ましくは0.3〜1.0質量%以上多くすることができる。また、実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)を製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートにおけるろう材層が形成されていない面に、Al−Zn合金からなるシート材を圧延しておくことにより、実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いられる扁平チューブ(30)の外表面部にZnを含有させるとともに、当該扁平チューブ(30)の外表面部のZn含有量を、入口パス(P1)に用いられる扁平チューブ(30)の外表面部のZn含有量よりも0.2質量%以上、好ましくは0.3〜1.0質量%以上多くすることができる。また、実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)を製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートにおけるろう材層が形成されていない面を、たとえば溶射によって付着させたAl−Sn合金により被覆しておくことにより、実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いられるの扁平チューブ(30)の外表面部にSnを含有させるとともに、当該扁平チューブ(30)の外表面部のSn含有量を、入口パス(P1)に用いられる扁平チューブ(30)の外表面部のSn含有量よりも0.1質量%以上多くすることできる。さらに、実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)を製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートにおけるろう材層が形成されていない面に、Al−In合金からなるシート材を圧延によりクラッドしておくことにより、実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いられるの扁平チューブ(30)の外表面部にInを含有させるとともに、当該扁平チューブ(30)の外表面部のIn含有量を、入口パス(P1)に用いられる扁平チューブ(30)の外表面部のIn含有量よりも0.01質量%以上多くすることできる。これにより、入口パス(P1)に用いる扁平チューブ(30)の外表面部と、出口パス(P2)および中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)の外表面部との電位的な関係を、実施形態1および2で述べたとおりにすることができる。ここで、実施形態1の出口パス(P2)および実施形態2の中間パス(P3)に用いる扁平チューブ(30)を製造するための金属素板(50)を形成するアルミニウムブレージングシートの心材は、たとえばJIS A3003により形成される。なお、入口パス(P1)に用いられる扁平チューブ(30)の外表面部には、Zn、SnおよびInのうちの少なくとも1つが含まれている場合もあるし、含まれていない場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】この発明による熱交換器を適用したガスクーラの実施形態1を示す全体正面図である。
【図2】図1のガスクーラに用いられる扁平チューブの横断面図である。
【図3】この発明による熱交換器を適用した扁平チューブの実施形態2を示す全体正面図である。
【図4】実施形態1および2のガスクーラに用いられる扁平チューブの変形例を示す横断面図である。
【図5】図4の部分拡大図である。
【図6】図4に示す扁平チューブの製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
(1)(20):ガスクーラ(熱交換器)
(2)(21):第1ヘッダタンク
(3)(22):第2ヘッダタンク
(4A)(4B)(4C)(30):扁平チューブ
(8)(24):入口ヘッダ部
(9)(28):出口ヘッダ部
(11)(25)(27):ヘッダ部
(12):冷媒入口
(13):冷媒出口
(P1):入口パス
(P2):出口パス
(P3):中間パス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔をおいて配置された1対のヘッダタンクと、両ヘッダタンク間に並列状に配置されかつ両端部がそれぞれ両ヘッダタンクに接続された複数のアルミニウム製扁平チューブとを備えており、すべての扁平チューブが、複数の扁平チューブからなりかつヘッダタンクの長さ方向に連続して並んだ複数のパスに区分され、ヘッダタンクの長さ方向の一端側のパスが入口パスとなされ、入口パスの扁平チューブが、いずれかのヘッダタンクに形成されかつ冷媒入口を有する入口ヘッダ部に接続されている熱交換器において、
入口パスの扁平チューブの外表面部が、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部よりも電位的に貴である熱交換器。
【請求項2】
入口パスの扁平チューブの外表面部と、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部との電位差が40mV以上である請求項1記載の熱交換器。
【請求項3】
入口パスの扁平チューブの外表面部と、これに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部との電位差が50〜300mVである請求項2記載の熱交換器。
【請求項4】
入口パスの扁平チューブが、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともMnを含むアルミニウム合金から形成されており、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のMn含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のMn含有量よりも0.1質量%以上多くなっている請求項1〜3のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【請求項5】
入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のMn含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のMn含有量よりも0.8〜1.7質量%多くなっている請求項4記載の熱交換器。
【請求項6】
入口パスの扁平チューブが、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともCuを含むアルミニウム合金から形成されており、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のCu含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のCu含有量よりも0.05質量%以上多くなっている請求項1〜5のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【請求項7】
入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のCu含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のCu含有量よりも0.15〜0.5質量%多くなっている請求項6記載の熱交換器。
【請求項8】
入口パスの扁平チューブが、Mn、CuおよびSiのうちの少なくともSiを含むアルミニウム合金から形成されており、入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のSi含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のSi含有量よりも0.1質量%以上多くなっている請求項1〜7のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【請求項9】
入口パスの扁平チューブを形成するアルミニウム合金中のSi含有量が、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブを形成するアルミニウム中のSi含有量よりも0.4〜1.7質量%多くなっている請求項8記載の熱交換器。
【請求項10】
入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともZnが含まれており、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のZn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のZn含有量よりも0.2質量%以上多くなっている請求項1〜9のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【請求項11】
入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のZn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のZn含有量よりも0.3〜1.0質量%以上多くなっている請求項10記載の熱交換器。
【請求項12】
扁平チューブがヘッダタンクにろう付されており、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブが、表面をZnで被覆した扁平チューブがヘッダタンクにろう付されたものであり、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量が、入口パスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量よりも多くなっている請求項11記載の熱交換器。
【請求項13】
入口パスに隣り合うパスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量が、入口パスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量よりも2g/m以上多くなっている請求項12記載の熱交換器。
【請求項14】
入口パスに隣り合うパスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量が、入口パスの扁平チューブのろう付前の表面Zn量よりも2〜8g/m以上多くなっている請求項13記載の熱交換器。
【請求項15】
入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともSnが含まれており、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のSn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のSn含有量よりも0.1質量%以上多くなっている請求項1〜14のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【請求項16】
入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部に、Zn、SnおよびInのうちの少なくともInが含まれており、入口パスに隣り合うパスの扁平チューブの外表面部のIn含有量が、入口パスの扁平チューブの外表面部のIn含有量よりも0.01質量%以上多くなっている請求項1〜15のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【請求項17】
第1のヘッダタンクに、その長さ方向に並んだ複数のヘッダ部が設けられ、第2のヘッダタンクに、第1ヘッダタンクのヘッダ部の数よりも1つ少ないヘッダ部が、第1ヘッダタンクの隣り合う2つのヘッダ部に跨るように設けられ、第1ヘッダタンクの長さ方向の一端部のヘッダ部が入口ヘッダ部となっているとともに、同他端部のヘッダ部が出口ヘッダ部となっており、すべての扁平チューブが第1ヘッダタンクのヘッダ数と同数のパスに区分されている請求項1〜16のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【請求項18】
第1ヘッダタンクのヘッダ部の数が2であり、第2ヘッダタンクのヘッダ部の数が1であり、パスの数が2である請求項17記載の熱交換器。
【請求項19】
第1のヘッダタンクに、その長さ方向に並んだ複数のヘッダ部が設けられ、第2のヘッダタンクに、第1ヘッダタンクのヘッダ部と同数のヘッダ部がその長さ方向に並んで設けられ、第1ヘッダタンクの長さ方向の一端部のヘッダ部が入口ヘッダ部となっているとともに、第2ヘッダタンクにおける入口ヘッダ部とは反対側の端部のヘッダ部が出口ヘッダ部となっており、すべての扁平チューブが両ヘッダタンクのヘッダ数よりも1つ多い数のパスに区分されている請求項1〜16のうちのいずれかに記載の熱交換器。
【請求項20】
各ヘッダタンクのヘッダ部の数が2であり、パスの数が3である請求項19記載の熱交換器。
【請求項21】
圧縮機、ガスクーラ、エバポレータ、減圧器、およびガスクーラから出てきた冷媒とエバポレータから出てきた冷媒とを熱交換させる中間熱交換器を備えており、かつ超臨界冷媒を用いる冷凍サイクルであって、ガスクーラが請求項1〜20のうちのいずれかに記載の熱交換器からなる超臨界冷凍サイクル。
【請求項22】
超臨界冷媒が二酸化炭素からなる請求項21記載の超臨界冷凍サイクル。
【請求項23】
請求項21または22記載の超臨界冷凍サイクルがカーエアコンとして搭載されている車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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