説明

熱交換用フィン材

【課題】耐食性と親水性とを兼ね備え、フィンピッチが小さい熱交換器においても通風抵抗が増大しにくい熱交換用フィン材を実現する。
【解決手段】アルミニウム材からなるフィン本体と、このフィン本体の表面に形成され、平均粒径が1μm以上10μm以下の板状無機粒子が分散配置され、厚さが0.3μm以上3μm以下である耐食性皮膜と、この耐食性皮膜上に形成された親水性皮膜とを備え、前記板状無機粒子の一部が前記親水性皮膜上に露出している熱交換用フィン材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコンディショナーなどの熱交換器に用いられるフィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エアコンの熱交換器は、銅製のチューブとこのチューブに取り付けられた複数枚のフィンとによって構成され、チューブ内を流れる冷媒と外気との熱交換を行う。このような熱交換器では、熱交換器の小型化と熱交換性能とを両立させるために、各フィンの間隔が狭い方が有利である。
【0003】
しかしながら、熱交換器を冷却側で使用する場合、フィンに水が凝縮して水滴となり、隣り合うフィン間に水のブリッジが形成される場合がある。このような現象が発生すると、空気の通路が狭くなって通風抵抗が大きくなり、熱交換率が低下する。このため、フィンの表面に濡れ性(親水性)を付与する処理が施される。
【0004】
親水化処理方法としては、フィン材表面に、珪酸ナトリウム(水ガラス)を塗布して焼き付ける方法(特許文献1参照)、水ガラスやシリカ、水酸化アルミニウム、チタニア(二酸化チタン)などの無機粒子(無機フィラー)を混合した親水性樹脂を含む塗料を塗布して、無機フィラーが分散配置された親水性皮膜を形成する方法(特許文献2〜5参照)などが知られている。この場合、無機フィラーが皮膜の表面に凹凸形状を形成することにより、皮膜に親水性が付与される。
【0005】
また、アクリル樹脂やポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの親水性高分子を適宜組み合わせてフィン材の表面に塗布することにより、親水性高分子膜(親水性皮膜)を形成する方法も知られている。この方法では、無機物を使用せずに有機物のみで親水性を得ている。
【0006】
これらの親水性皮膜を備えるフィン材では、表面に付着した水が濡れ広がるので、水滴が発生しにくく、フィン間に水のブリッジが形成されることが少なく、通風抵抗を抑制できる。
【0007】
一方、エアコン用など屋外で使用される熱交換器のフィン材には、耐食性も要求される。たとえば、海浜地域などでは塩化物イオンの影響を大きく受けるため、また銅管と接触して腐食電池を形成するため、腐食しやすい。このようなフィン材において親水性と耐食性とを両立しようとする場合、一層目に耐食性皮膜(たとえばエポキシ系塗料、アクリル−アミノ樹脂系塗料、ポリエステル−アミノ樹脂系塗料など)を塗装し、その上に前述のような親水性皮膜を形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭55−1347号公報
【特許文献2】特公昭57−46000号公報
【特許文献3】特公昭59−8372号公報
【特許文献4】特開昭61−225044号公報
【特許文献5】特公昭62−61078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述のように珪酸ナトリウムを塗布して親水性皮膜を形成する場合、耐食性を有する樹脂塗膜に対して密着性が著しく劣るため、耐食性皮膜と親水性皮膜との間で層間剥離を起こしやすい。
【0010】
また、無機フィラーが分散配置された親水性皮膜を耐食性皮膜上に形成する場合、十分な親水性を備えるためには、凹凸のサイズを0.5μm以上と設定し、平均粒径が1μm以上の粒子を添加する必要がある。1μm以上の粒子を塗膜に保持させるには、およそ1μm以上の膜厚が必要となる。1μm以上の膜厚の塗膜を形成するには、塗布時の固形分にもよるが、一般的には、5μm以上のウェット膜厚で塗布されたものを乾燥、焼き付けする必要がある。つまり、耐食性塗装および親水性皮膜の2度の塗装工程が必要となるため、設備の大型化等が問題となる。また、塗膜が薄すぎると、添加したフィラーが脱落しやすく、プレス工程などで金型詰まりなどの不具合が発生するおそれがある。
【0011】
また、有機物からなる親水性高分子膜の場合、一般的にはアクリル酸を中心とした高分子体が用いられる。このような親水性高分子膜の場合も、1μmの膜厚を形成しないと十分な親水性を得ることができず、またこの系統の樹脂は200℃以上での焼き付けが必要であることから、設備の大型化等が必要になるという問題が生じる。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐食性と親水性とを兼ね備え、フィンピッチが小さい熱交換器においても通風抵抗が増大しにくい熱交換用フィン材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、アルミニウム材からなるフィン本体と、このフィン本体の表面に形成され、平均粒径が1μm以上10μm以下の板状無機粒子が分散配置され、厚さが0.3μm以上3μm以下である耐食性皮膜と、この耐食性皮膜上に形成された親水性皮膜とを備え、前記板状無機粒子の一部が前記親水性皮膜上に露出している熱交換用フィン材である。
【0014】
この熱交換用フィン材によれば、適切なサイズの板状無機粒子が分散配置されることにより、十分な親水性を実現する凹凸形状が塗膜表面に形成されるとともに、親水性皮膜が板状無機粒子を露出させるように表面を覆っているので、十分な親水性を備え、フィン間に水滴がブリッジ状に付着するのを抑制できる。また、耐食性皮膜を比較的厚く設定し、この耐食性皮膜に板状無機粒子を保持させることにより、親水性皮膜の膜厚を小さく抑えることができるので、親水性皮膜の乾燥工程を簡素な装置によって行うことができる。
【0015】
この熱交換用フィン材において、前記親水性皮膜の厚さが0.01μm以上かつ前記板状無機粒子の前記平均粒径の0.5倍以下であることが好ましい。膜厚が0.01μm未満であると、十分な親水性が得られにくい。また、膜厚が板状無機粒子の平均粒径の0.5倍を超えると、粒子が親水性皮膜に埋もれやすく、十分な親水性が得られにくい。
【0016】
また、前記親水性皮膜がポリビニルアルコール、またはメタクリル酸を含むアクリル樹脂のいずれかを含むことが好ましい。これらの樹脂を用いた場合は、親水性が良好であり、また乾燥させるのみで必要な密着性と硬度が得られ、加工時に塗膜剥離や塗膜崩れが起こらない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、大型の乾燥装置を必要とせずに、耐食性と親水性とを兼ね備えるとともにフィラーの脱落が抑制されるので、製造コストが抑えられ、フィン間の水滴のブリッジによる通風抵抗が抑えられて熱交換率に優れ、フィラーの脱落による不具合の発生を防止可能な熱交換用フィン材を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の熱交換用フィン材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る熱交換用フィン材について説明する。
この熱交換用フィン材10は、図1に示すように、アルミニウム材からなるフィン本体11と、フィン本体11の表面に形成され、平均粒径が1μm以上10μm以下の板状無機粒子(以下、「無機フィラー」)12が分散配置され、厚さが0.3μm以上3μm以下である耐食性皮膜13と、耐食性皮膜13上に形成された親水性皮膜14とを備えて、無機フィラー12の一部が親水性皮膜14上に露出している。
【0020】
フィン本体11を形成するアルミニウム材は、脱脂を施した未処理のものでもよく、またリン酸クロメートなどの表面処理を施したものでもよい。
【0021】
無機フィラー12としては、タルク、マイカ、カオリナイトなどを好適に用いることができる。無機フィラー12の添加量としては、特に限定しないが樹脂固形分100に対して30〜200重量部程度であることが好ましい。
【0022】
無機フィラー12の平均粒径は、1μm未満であると表面への露出が小さいため親水性が低く、また10μmを超えると表面に露出した粒子が剥落しやすくなる。なお、ここで、無機フィラー12の平均粒径とは、顕微鏡で粒子の平面部を上部から観察した際の、粒子の最長径とこの最長径方向に直交する方向の最長径との平均値を個々の粒子について測定し、それらを平均した数値を指す。また、無機フィラー12の板厚方向の断面におけるアスペクト比は、平均10以上とされる。
【0023】
無機フィラー12は、平均粒径を1μm以上10μm以下、耐食性皮膜の厚さを0.3μm以上3μm以下と設定すると、各粒子の面が塗膜中でフィン本体11の表面に対して平行に配向しやすい。このため、球状、針状、不定形の粉体を添加した場合に比べて、熱交換用フィン材の表面に占める無機フィラー12の面積が大きいので、粒子の添加量が少量であっても親水性が発現しやすい。
また、無機フィラー12が板状粒子であってフィン本体11の表面に対して平行に配向しやすいことにより、塗膜表面から下層への水分の透過が抑えられるので、同じ膜厚の板状粒子無添加品と比べて耐食性が向上する。
【0024】
耐食性皮膜13は、特に限定されないがエポキシ系、アクリル系、ポリウレタン系の塗料などが好適に用いられ、無機フィラー12を保持している。無機フィラー12を保持する耐食性被膜は、これら塗料が液体の状態の時に無機フィラー12を分散させた後、焼き付け硬化させることにより形成される。
【0025】
この耐食性皮膜13の膜厚が0.3μm未満であると、十分な耐食性を得られないとともに、無機フィラー12が塗膜に十分に固定されないため、擦れ等の物理的力で無機フィラー12の粒子が剥落しやすい。また、耐食性皮膜13の膜厚が3μmを超えると、無機フィラー12が表面に露出しにくく、平行に配向しにくくなるため、十分な親水性が得られない。
【0026】
耐食性皮膜13には本質的に撥水性の樹脂が多く用いられ、これに無機フィラー12を添加しただけでも、ある程度の親水性は付与できる。しかし、無機フィラー12を分散保持した耐食性皮膜13だけでは、フィンピッチが狭いと十分な親水性を得られない。そこで、この熱交換用フィン材10においては、より親水性の高い親水性皮膜14が表層に形成されている。
【0027】
親水性皮膜14は、無機フィラー12を保持する耐食性皮膜13上に、ポリビニルアルコール、メタクリル酸を含むアクリル樹脂などの親水性樹脂を、耐食性皮膜13表面から突出した無機フィラー12が完全に覆われない厚さで塗布することによって形成され、表面の親水性を向上させる。これらの親水性樹脂は、焼き付けが不要であり、溶液を乾燥させるだけである程度の皮膜強度を得られる。また、これらの親水性樹脂は単独では十分な親水性を得ることができないが、表面から無機フィラー12が突出して形成する凹凸形状によって、この親水性皮膜14は十分な親水性を備えている。
【0028】
親水性皮膜14を形成するために、親水性樹脂の塗装方法としては、ロールコーティングが一般的に用いられるが、非常に薄く塗工するだけでよいので、ディッピング、スプレーなどの方法で塗装することもできる。また、これらの樹脂は乾燥させるだけである程度の皮膜強度を得られるので、室温の風などでも乾燥させることができる。
【0029】
この親水性皮膜14の表面に加工性の向上のために滑り性を要する場合は、ポリエチレングリコールや固体状の各種界面活性剤など、水溶性で滑り性を要する物質を塗布することも可能である。これらの物質を塗布することによって、無機フィラー12が覆われてしまっても、使用中に結露水によってこれらが流出するので、無機フィラー12が表面に露出し、親水性を回復できる。
【0030】
ここで、本発明の熱交換用フィン材に係る実施例および比較例について説明する。
(板状無機粒子を分散した耐食性皮膜の作成)
まず、表1に示すように、各実施例および比較例の耐食性皮膜を形成した。すなわち、平均粒径の異なる各種板状無機粒子を各添加量で各種耐食性樹脂に分散させ、リン酸クロメート処理を施したA1050のアルミニウム板上に、各種塗膜厚で塗装し、240℃の雰囲気中に1分間保持して焼き付け、耐食性皮膜A〜G,s,tを作成した。また、板状無機粒子を添加せず、リン酸クロメート処理を施したA1050のアルミニウム板上に、各種耐食性樹脂を各種塗膜厚で塗装し、240℃の雰囲気中に1分間保持して焼き付け、耐食性皮膜p〜rを作成した。
【0031】
【表1】

【0032】
これらの耐食性皮膜A〜Gおよびp〜tのうち、A〜Gは膜厚が本発明に含まれる範囲の大きさである。一方、p〜rは板状無機粒子が無添加であることから本発明の範囲外であり、またs,tは膜厚の大きさが本発明の範囲外である。
【0033】
(親水性皮膜の作成)
次いで、前述のように作成した各耐食性皮膜A〜G,p〜t上に、各種親水性樹脂を塗布し、常温の風を吹き付けて乾燥させることにより、親水性皮膜を形成した。親水性皮膜を形成した各種親水性樹脂、塗装方法、膜厚と各耐食性被膜との組み合わせによる実施例1〜18および比較例1〜7の熱交換用フィン材における板状無機粒子の各親水性皮膜の表面からの突出の有無について、表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
(皮膜の評価)
そして、前述のように皮膜を形成した実施例1〜18および比較例1〜7の熱交換用フィン材について、接触角、水濡れ性、耐食性、および耐擦性について、表3に示すようにそれぞれ評価を行った。
【0036】
接触角については、前処理として水洗24時間を行った後、水接触角を測定し、30°未満を評価値1、30°以上40°未満を評価値2、40°以上を評価値3とした。熱交換用フィン材においては、評価値1,2であれば実用上良好なレベルと判断できる。
【0037】
水濡れ性については、湿度100%、40℃の環境下に、冷却器によって10℃に保持した熱交換用フィン材を10分間静置した後の結露状態を目視観察し、全面濡れた状態を評価値5、僅かにはじかれた状態を評価値4、半分程度の面積が濡れた状態を評価値3、僅かに濡れた状態を評価値2、ほぼ全面がはじかれた状態を評価値1とした。熱交換用フィン材においては、評価値4,5であれば、フィンピッチが狭い熱交換器でも使用できるレベルと判断できる。
【0038】
耐食性については、JIS Z2371 塩水噴霧試験を1000時間行った後の腐食状態を目視観察し、R.N. 9.8以上を評価値1、R.N. 9.0以上を評価値2、R.N. 9.0未満を評価値3とした。耐食性熱交換用フィン材としては、評価値1が求められる。
【0039】
耐擦性については、各熱交換用フィン材の塗膜上で、ティッシュペーパー4枚を介して直径7mmの鋼球に100gの荷重をかけた状態で、ティッシュペーパーおよび鋼球を10回往復させて擦った後、塗膜表面状態を目視観察し、変化なければ評価値1、塗膜が僅かに擦り取れている場合は評価値2、下地まで達している場合(フィン本体の表面が露出した場合)は評価値3とした。熱交換用フィン材においては、評価値1,2であれば、実用上問題ないレベルと判断できる。なお、全ての実施例および比較例の熱交換用フィン材において、耐擦性については実用レベルであった。
【0040】
【表3】

【0041】
表3に示すように、本発明の実施例1〜18に係る熱交換用フィン材においては、接触角、水濡れ性、耐食性および耐擦性のいずれも良好であった。
【0042】
一方、耐食性皮膜については本発明の範囲内であるが親水性皮膜を形成しなかった比較例1,2の熱交換用フィン材は、接触角および水濡れ性に劣ることが確認できた。
【0043】
また、板状無機粒子を分散していない耐食性皮膜上に親水性皮膜を形成した比較例3〜5の熱交換用フィン材も、接触角および水濡れ性に劣ることが確認できた。
【0044】
さらに、膜厚が本発明の範囲より小さい耐食性皮膜上に親水性皮膜を形成した比較例6の熱交換用フィン材は、接触角および水濡れ性は良好であったものの、耐食性に劣ることが確認できた。
【0045】
また、膜厚が本発明の範囲より大きい耐食性皮膜上に親水性皮膜を形成した比較例7の熱交換用フィン材は、耐食性および耐擦性は良好であったが、接触角が比較的大きく、また水濡れ性に劣ることが確認できた。
【0046】
以上説明したように、本発明の熱交換用フィン材によれば、親水性皮膜が薄いので、大型の乾燥装置を必要とせず、低コストでの製造が可能である。また、耐食性と親水性とを兼ね備えるので、屋外での使用が可能であり、フィン間の水滴のブリッジによる通風抵抗が抑えられ、熱交換に優れている。さらに、比較的厚い耐食性皮膜によって無機フィラーが保持されているので、無機フィラーの脱落が抑制され、無機フィラーの脱落による不具合の発生を防止できる。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 熱交換用フィン材
11 フィン本体
12 板状無機粒子(無機フィラー)
13 耐食性皮膜
14 親水性皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材からなるフィン本体と、
このフィン本体の表面に形成され、平均粒径が1μm以上10μm以下の板状無機粒子が分散配置され、厚さが0.3μm以上3μm以下である耐食性皮膜と、
この耐食性皮膜上に形成された親水性皮膜とを備え、
前記板状無機粒子の一部が前記親水性皮膜上に露出していることを特徴とする熱交換用フィン材。
【請求項2】
前記親水性皮膜の厚さが0.01μm以上かつ前記板状無機粒子の前記平均粒径の0.5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換用フィン材。
【請求項3】
前記親水性皮膜がポリビニルアルコール、またはメタクリル酸を含むアクリル樹脂のいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換用フィン材。

【図1】
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