説明

熱交換用プレートの元板材

【課題】核沸騰が発生し易くなると共に伝熱性を非常に優れたものとする。
【解決手段】本発明に係る熱交換用プレート4の元板材は、表面に微細な凸部が形成されたチタン製の平板材で構成され、後処理として当該平板材に対してプレス加工が施された後に熱交換用プレートとなる元板材であって、凸部5は複数の側壁7を備えている。凸部5に関し、一方の側壁7aとこの側壁7aに隣接する他方の側壁7bとの交差部分に、平面視で少なくとも1つ以上の頂部9を形成する。凸部5は、側壁7によって平面視で多角形に形成されている。一方の側壁7aと他方の側壁7bとから構成される頂部9の角度θは140度以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換用プレートの元板材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱交換器等に使用される熱交換プレートは高い伝熱性を有していることが望まれている。伝熱性を向上させるためには、プレートの表面にミクロンオーダの微細な凹凸を形成することが良く、このようにミクロンオーダの微細な凹凸を転写する方法として、例えば、特許文献1に示すような技術が数多く開発されている。
この特許文献1の金属板表面への転写方法では、移送ロールの回転によって金属シートを移送させ、移送している金属シートに対して転写ロールの外周面に転写された凹凸状の転写部を押圧することによって、金属シートの表面に転写ロールの転写部と略同じ凹凸の形状の被転写部を形成させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−239744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示した方法により製造した金属シートを、熱交換用の金属プレートに使用した場合、その伝熱性が十分とは言えないのが実情であり、さらに、伝熱性が向上することが望まれているのが実情である。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、核沸騰が発生し易く伝熱性が非常に優れた熱交換用プレートの元板材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明における熱交換用プレートの元板材は、表面に微細な凸部が形成されたチタン製の平板材で構成され、後処理として当該平板材に対してプレス加工が施された後に熱交換用プレートとなる元板材であって、前記凸部は複数の側壁を備えていると共に、平面視で少なくとも1つ以上の頂部が形成されおり、前記複数の側壁のうち、一の側壁とこの側壁に隣接する側壁との交差部分が前記頂部を形成していることを特徴とする。
【0006】
好ましくは、前記凸部は、平面視で多角形に形成されているとよい。
好ましくは、前記一の側壁とこの側壁に隣接する側壁とから構成される頂部の角度は、140度(deg)以下であるとよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、核沸騰が発生し易くなると共に伝熱性を非常に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】熱交換用プレートの製造方法を示したものである。
【図2】凸部の形状を説明する説明図である。
【図3】凸部の頂部と核沸騰との関係を示した関係図である。
【図4】凹凸の形状と伝熱効率との関係図である。
【図5】元板材の表面に形成した凸部の配置図である。
【図6】元板材の表面に形成した凸部の別の配置図である。
【図7】元板材の表面に凹凸形状を形成する装置の概略を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、熱交換用プレートの製造方法を示した概念図である。
図1に示すように、熱交換用プレートを製造するにあたっては、まず、図1(a)に示すように素材である平板材1を所定の大きさに形成する。そして、図1(b)に示すように、平板材1をプレス加工することによって平板材1の表面1aに微細な凹凸形状を形成したプレート元板(元板材)を作成する。次に、図1(c)に示すように、表面2aに微細な凹凸形状が形成されたプレート元板2(元板材)に、例えば、ヘリンボーンと言われる山形の溝3を形成することにより熱交換用プレート4を製造する。
【0010】
図1(a)に示す平板材1はチタン材であって、その寸法、板厚は最終製品である熱交換用プレート4にて所望される寸法、板厚を考慮して決定される。
この平板材1の表面1aに対して、後述する加工装置10を用いて微細な凹凸形状(複数の凸部5とこの凸部5に挟まれた凹部6)を形成することでプレート元板2が形成される。凹凸形状が形成されたプレート元板2は、伝熱性が非常によい(熱伝達率が非常に高い)ものとなっている。加えて、本発明のプレート元板2はチタン製とされているため、耐食性、強度、軽量化などの特性が他金属と比較し優れている。それゆえに、プレート式熱交換器のプレートなど耐食性、強度が必要となる製品に対して好適である。
【0011】
プレート元板2に形成されたヘリンボーン3は、骨格形状を呈した複数の山形溝であり、溝の大きさは、高さ数mm〜数cmとされている。この元板2は、熱交換器内へ組み込まれる。ヘリンボーン3などに代表される斜格子形状は、熱交換器内部の作動流体の流れが不均一である場合に関しても、どの方向からの流れに対しても凹凸が作動流体に対して直交する壁となり得て、乱流による伝熱性向上に寄与することとなる。本発明の熱交換用プレートは、後述するように、特に、液体から気体に変化させつつ熱伝達を行う蒸発熱交換用のプレートとして優れている。
【0012】
以降、プレート元板2の表面の凹凸形状の詳細について述べる。
図2(a)は凸部の斜視図であり、図2(b)は凸部の平面図(上から見た図)である。図2(a)、(b)に示すように、プレート元板2の表面2aに形成された凸部5は、平面視で多角形に形成されたものである。好ましくは、平面視で正多角形(例えば、正六角形など)に形成される。
【0013】
六角形の凸部5では、厚み方向(プレート元板2の厚み方向)に起立した6個の側壁7と、6個の側壁7のそれぞれの上端(上縁)を結ぶ上壁8とから構成されている。言い換えれば、凸部5の頂部(凸部5を側面視したときの頂きの部分)には平坦部が設けられている。なお、凸部5は、六角形に限らず、三角形でも五角形でもよく、七角形以外であってもよい。さらに、側壁7は底部に対して90度となるように起立するのが好ましいが、傾斜していてもよい。
【0014】
詳しくは、凸部5の形状を見てみると、複数の側壁7のうち、一方の側壁7a(第1側壁という)と、第1側壁7aに隣接する他方の側壁7b(第2側壁という)との交差部分には、平面視で見ると尖った部分(頂部9)が形成されている。この頂部9は、核沸騰を発生し易くするためのものであって、本発明では、プレート元板2の表面2aに形成された凸部5に、平面視で、少なくとも1つ以上の頂部9を設けることとしている。
【0015】
次に、頂部9について詳しく説明する。
図3は、頂部と核沸騰との関係を示したものである。
図3(a)に示すように、本発明のように、凸部5を複数の側壁7から構成して、側壁7同士が交差する交差部分に頂部9を形成して、全体として凸部5を六角形にしたとする。このような凸部5に通して沸騰させた場合、初期沸騰状態では各側壁7の底部に気泡Aが発生していき、次第に沸騰促進状態になる。
【0016】
沸騰促進状態では、各側壁7の底部に形成されたそれぞれの気泡Aが成長し核沸騰が発生し易い状態となる。ここで、隣り合う側壁7(第1側壁7aや第2側壁7b)に形成されたそれぞれの気泡Aは、頂部9が邪魔となる(障害となる)ために合体し難く、気泡A間にスペースができ、気泡Aによって核沸騰を維持することができる。
一方、図3(b)に示すように、凸部5を1つの側壁7、つまり、円形状に形成して頂部9を形成しなかった場合、初期沸騰状態では側壁7の周りに気泡Aが発生するものの、沸騰促進状態では、邪魔になるものが存在しないため側壁7の周りにできた気泡Aが合体して1つの大きなものとなる。その結果、凸部5が頂部9の無い円形状では、膜沸騰状態となってしまうため、核沸騰状態にすることができない。
【0017】
また、図3(c)に示すように、凸部5を長い形状(凹部6から見れば溝形状)にした場合、初期沸騰状態では長い側壁7の周りに気泡Aが発生するものの、沸騰促進状態では、長い側壁7の周りにできた気泡Aが合体して、円形状と同様に大きな気泡となる。その結果、凸部5に頂部9があったとしても、頂部9を構成する側壁7が非常に長いと、膜沸騰状態となってしまうため、核沸騰状態にすることができない。
【0018】
つまり、平面視において、凸部5の周長(凸部5の上縁の全長さ)を考えた場合、周長全体に対して頂部9が均等に配置されている(頂部9と頂部9との間が極端に離れていない)ようにするとよい。これにより、側壁7に大きな気泡Aをできるのを防止することができ、核沸騰が発生し易い状態にすることができる。なお、頂部9に関する均等配置は、幾何学的に厳密な均等に限定されるものではない。頂部9同士を結ぶ各辺の長さが若干異なっていてもよい。
【0019】
図4は、凹凸の形状と伝熱効率(蒸発の伝熱効率)とをまとめたものである。図4では、四角形の凸部5を備えたプレート(角形状)と、図3(b)に示した円形状の凸部5を備えたプレート(円形状)と、図3(c)に示した長い凸部5を備えたプレート(溝形状)の3種類を用意し、各プレートを用いて液体から気体に蒸発させたときの伝熱効率をまとめたものである。凹凸を全く形成していないプレート(平板)の伝熱効率を基準(図4の縦軸の0%)とした。
【0020】
図4に示すように、溝形状のプレートでは平板に対して19%の伝熱効率の向上があり、円形状のプレートでは平板に対して25%の伝熱効率あったものの、角形状のプレートは平板に対して37%もの伝熱効率の向上があり、最も伝熱効率が向上していて熱交換用プレートとして十分に伝熱性が非常に優れたものであった。角形状のプレートでは、伝熱効率が37%向上しているため、このプレートを用いて熱交換器を作成した場合、全体のプレートの材料を少なくすることができ、円形状のプレートと比べると12%(37%−25%=12もの材料低減をすることができる。しかも、蒸発用の熱交換用プレート(気液用の熱交換用プレート)は、少なくとも5%以上の伝熱効率が望まれていて、本発明のプレートは十分にその条件を満たしている。
【0021】
特に、頂部9を形成するに際しては、隣接する側壁7同士の気泡Aを合体しないようにするため、図2(a)に示すように、第1側壁7aと第2側壁7bとの交差部分において、その交差部分の下端から上端までの全域に亘って尖っている頂部9を形成することが好ましい。加えて、頂部9の角度φ(平面角度)は140度以下とすることが好ましい。言い換えれば、凸部5の上壁8を平面視したとき、上壁8の一辺(第1側壁7aの上端)と、この一辺に隣接する他辺(第2側壁7bの上端)とのなす角度φが140度以下とするのがよく、特に、120度以下にすると、伝熱性が非常に優れたものにすることができる。つまり、側壁7の数を増加させることによって各側壁7に数多くの気泡Aが発生するようにし、且つ、各側壁7に発生した気泡Aが近くの他の気泡Aと合体し難いように角度φを設定すれば、1つの凸部5における核沸騰の発生効率を向上させることができる。なお、上述した角度φは、幾何学的に定義されるものであって、第1側壁7aの上端と第2側壁7bの上端との全体を見たときに、両者で形成される辺の角度が140度以下であればよい。
【0022】
まとめると、凸部5に関し、第1側壁7aとこれに隣接する第2側壁7bとの交差部分に、平面視で少なくとも1つ以上の頂部9を形成することによって、核沸騰が発生し易くすると共に伝熱性が非常に優れたものとすることができる。
このように、凸部5に頂部9を形成することによって核沸騰をさせやすくすることができるが、プレート元板2の凸部5の全体を下記に示すようにすることによって、さらに伝熱性や加工性等の優れたプレートを構成することができる。
【0023】
図5は、プレート元板2に形成した凸部5の全体を示したものである。凸部5の直径Dは400μm以上とされている。凸部5の平面視での配置は、千鳥状とされている。ここで千鳥状の配置(千鳥配置)とは、縦方向及び横方向において、いずれか一方に隣り合う凸部5、5の中心が一直線上に並ばないという意味である。
具体的には、プレート元板2において、縦方向に隣接する凸部5、5は、横方向に半ピッチだけズレており、横方向に隣接する凸部5の中心同士を結んだ直線(一点鎖線)Aと、縦方向に隣接する凸部5の中心同士を結んだ直線(一点鎖線)Bとの配置角度θが60°となるように凸部5を配置してもよい。
【0024】
このように千鳥格子配列とすることで、熱交換器内の作動流体の流れが不均一である場合に関し、どの方向からの流れに対しても凹凸が作動流体に対して直交する壁となり得ることができ、乱流による伝熱性向上に寄与する。また、チタン等の異方性のある材料に対して、異方性起因の応力集中に対応できる。なお、凸部5の配置については、図6に示すように、横方向に隣接する凸部5の中心同士を結んだ直線(一点鎖線)Cと、縦方向に隣接する凸部5の中心同士を結んだ直線(一点鎖線)Dとの配置角度θが45°となるように凸部5を配置してもよいし、他の角度であってもよい。
【0025】
縦方向や横方向に隣り合う凸部5間の距離L(凹部6の幅L)は、200μm以上が好ましい。なお、凹部6の幅Lとは、横方向又は縦方向に隣接する凸部5同士の最短距離であって、「凹部6の幅L=隣り合う凸部5のピッチP−(凸部5の直径D/2)×2」により求めることができる。また、隣り合う凸部5のピッチPとは、横方向又は縦方向に隣接する最も近い凸部5同士の中心間の距離(最短距離にある凸部5同士の中心間距離)である。
【0026】
図5(a)に示した凹部6の幅Lは、縦方向及び横方向ともに同じ値である(縦方向に隣接する凸部5同士の距離と、横方向に隣接する凸部5同士の距離とが共に同じ値)。隣り合う凸部5のピッチP(凸部5の中心間距離)は600μm以上が好ましい。
図5(b)に示すように、十点平均粗さRzにて示される凸部5(側壁7)の高さ(以降、高さRzと示すことがある)は5μm以上であって、プレート元板2の板厚tの1/10(10分の1)以下となっている。凸部5の高さRzをこの範囲としているのは、板厚に対して凹凸形状が大きすぎると、後述する加工装置10での圧延転写の際に平坦度(形状)が確保できず圧延安定性が得られないためである。また、平坦度が確保できていない板では、後工程でのプレス成形時に応力分布が発生するため、応力が高い箇所において割れが発生するためである。すなわち、プレス加工の際に凸部5の高さRzが大きすぎると割れの原因(起点)となり、疵の原因となる。一方、高さRzが小さすぎる(5μm以下である)と、伝熱効率の向上を図ることができなくなる。したがって、凸部5の高さRzを十点平均粗さRzが5μm〜0.1×平板材の厚みμmにすることが好ましい。
【0027】
なお、上記したプレート元板2は、図7に示すような加工装置10を用いて形成することができる。この加工装置10は、移送ロール11と、加工ロール12と、支持ロール13とを備えている。移送ロール11は、平板材1を移送するためのものであって、加工ロール12から見て上流側及び下流側に配置されている。加工ロール12は、移送されている平板材1の表面にミクロンオーダ(数μm〜数百μm)の凹凸を形成するものである。
【0028】
具体的には、加工ロール12は加工後のプレート元板2において、平板材1の表面1aに凸部5及び凹部6を形成するものである。即ち、加工ロール12には、凸部5を形成させるための、凸部5の形状及び頂部9の形状、凸部5の高さRz、凹部6の幅L、隣り合う凸部のピッチP等が設定されている。
加工ロール12の外周面の全周には、凸状(台形の凸)となる加工部14がエッチングや放電ダルにより形成されている。加工部14の高さは、加工後におけるプレート元板2における凸部5の高さRzが5μm以上となり、且つ、0.1×平板材の厚みμm以下となるように設定されている。加工ロール12の表面層は、耐荷重性や耐摩耗性の観点より、Crメッキ又はタングステンカーバイト処理を行うとよい。
【0029】
この加工装置10では、加工ロール12を回転させながら、加工ロール12に設けた加工部14を、平板材1の表面に押しつけることによって、当該平板材1の表面に加工部14を反転した形状と同じ凸部5、凹部6を形成することができる。なお、凸部5の形成は、上記した加工装置10に限定されない。
ところで、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0030】
例えば、熱交換用のプレート4は、プレート元板2をプレス加工することにより製造されるが、プレート元板2のプレス加工は何でも良く、上述したようなヘリンボーンを形成するものでなくてもよい。
また、プレート元板2に形成した凹凸に関して、プレート元板2の全面に亘り形成されることが好ましいが、所望とする熱伝達率を得られるのであれば、プレート元板2の少なくとも一部に形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の熱交換用プレートの元板材は、核沸騰促進効果によって蒸発用のプレートの元板として好適である。
【符号の説明】
【0032】
1 平板材
1a 平板材の表面
2 プレート元板(元板材)
2a プレート元板の表面
3 溝
4 熱交換用プレート
5 凸部
6 凹部
7 側壁
8 上壁
9 頂部
10 加工装置
11 移送ロール
12 加工ロール
13 支持ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細な凸部が形成されたチタン製の平板材で構成され、後処理として当該平板材に対してプレス加工が施された後に熱交換用プレートとなる元板材であって、
前記凸部は複数の側壁を備えていると共に、平面視で少なくとも1つ以上の頂部が形成されおり、
前記複数の側壁のうち、一の側壁とこの側壁に隣接する側壁との交差部分が前記頂部を形成していることを特徴とする熱交換用プレートの元板材。
【請求項2】
前記凸部は、平面視で多角形に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱交換用プレートの元板材。
【請求項3】
前記一の側壁とこの側壁に隣接する側壁とから構成される頂部の角度は、140度以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱交換用プレートの元板材。

【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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