説明

熱交換装置

【課題】熱交換性能の低下を抑え、熱交換性能のさらなる向上を実現する。
【解決手段】本発明の熱交換装置は、ヒートシンク3と、ヒートシンク3と離間して配され、この離間部分の空気を介してヒートシンク3へ電子を付与する電子放出素子4とを備えている。電子放出素子4は、電極基板7と、薄膜電極9と、電極基板7と薄膜電極8との間に電圧を印加する電源10と、電源10による電圧印加によりその内部で電子を加速させて、薄膜電極9から放出させる電子加速層8とを備え、電子加速層8は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されており、熱交換装置は、エアフィルター24を備え、エアフィルター24を介して、薄膜電極9の表面に空気が流入するようになっている。これにより、電子放出素子4表面に付着するダストに起因する熱交換性能の低下を抑え、長期に渡って高い熱交換性能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子放出素子を用いた熱交換装置として、特許文献1に記載の熱交換装置が提案されている。この熱交換装置(発熱体放熱装置1)は、発熱体2と接触するヒートシンク3と、ヒートシンク3と離間して配され、この離間部分の空気を介してヒートシンク3へ電子を付与する電子放出素子4とを備えている。電子放出素子4は、電極基板7と、薄膜電極9と、電極基板7と薄膜電極8との間に電圧を印加する電源10と、電源10による電圧印加によりその内部で電子を加速させて、薄膜電極9から放出させる電子加速層8とを備え、電子加速層8は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されている。これにより、電界集中しやすい構造に依存せず、熱交換性能の維持及び向上が可能になる。
【0003】
また、特許文献2には、真空中で電子放出素子を使用する前処理として、メタンに素子を暴露した状態で、素子に通電して、電気特性を変えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4314307号公報(2009年8月12日発行)
【特許文献2】特開2001−195973号公報(2001年7月19日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の熱交換装置には、以下の課題が残されている。
【0006】
ずなわち、上記熱交換装置においては、電子放出素子を使用することにより、熱交換性能を向上させるものの、さらなる熱交換性能の向上が求められる。また、電子放出素子として、上下の電極間の電子加速層の一部が絶縁体で構成された電子放出素子を使用した場合、電子放出素子表面に、空気流中のダストが付着し、徐々に熱交換性能(冷却効率)が低下するという課題が残されている。
【0007】
また、電子放出素子表面に微量ガスが付着することにより、熱交換性能が低下するという課題も残されている。なお、微量ガスにより、電子放出素子の性能が変化または劣化する例としては、次のような例が挙げられる。すなわち、電子放出素子の作製時に有機溶媒としてトルエンやアルコール類を使用し、溶媒の揮発が不十分な場合、電子放出素子の性能が大きく変動・劣化する。また、作製した電子放出素子に対して、エタノールや水蒸気に暴露させると素子性能が大きく変動し劣化する。また、特許文献2に開示された電子放出素子は、メカニズムの詳細は不明であるが、微量ガスによって素子の特性が変化してしまう例である。
【0008】
本発明は、上記残された課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱交換性能の低下を抑え、熱交換性能のさらなる向上が可能な熱交換装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱交換装置は、上記の課題を解決するために、導電性の被熱交換体と離間して配され、この離間部分の空気を介して上記被熱交換体へ電子を付与する電子放出素子を備え、上記被熱交換体と空気との熱交換を行う熱交換装置であって、上記電子放出素子は、電極基板と、薄膜電極と、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加する第一の電圧印加手段と、第一の電圧印加手段による電圧印加によりその内部で電子を加速させて、当該薄膜電極から放出させる電子加速層とを備え、上記電子加速層は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されており、さらに、エアフィルターを備え、該エアフィルターを介して、上記薄膜電極の表面に空気が流入されることを特徴としている。
【0010】
本発明の熱交換装置は、導電性の被熱交換体と離間して配され、この離間部分の空気を介して上記被熱交換体へ電子を付与する電子放出素子を備え、上記被熱交換体と熱交換を行う構成である。そして、この電子放出素子は、電極基板と、薄膜電極と、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加する第一の電圧印加手段と、第一の電圧印加手段による電圧印加によりその内部で電子を加速させて、当該薄膜電極から放出させる電子加速層とを備え、上記電子加速層は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されている。この構成により、内部電場で電子放出可能な電子放出素子を実現することができる。すなわち、電子放出素子は、被熱交換体との離間部分に存在する空気を介して、被熱交換体へ電子を付与するようになる。この電子は、離間部分に存在する空気分子に衝突・付着する。この衝突・付着により、空気分子がイオン化される。そして、イオン化された空気分子が電界に沿って移動することによりイオン風が発生し、そのイオンが被熱交換体に到達することにより、被熱交換体表面の加熱された空気分子が撹拌され、被熱交換体と被熱交換体表面の空気との間で熱交換が起こる。その結果、被熱交換体が冷却される。
【0011】
このように上記の構成によれば、内部電場で電子放出可能な電子放出素子が、被熱交換体と離間するように配置された構成になっている。これにより、電子放出素子は、安定して大気中に電子を供給し、イオン風を発生させることができ、優れた熱交換性能が得られる。
【0012】
さらに、上記の構成によれば、上記熱交換装置は、さらに、エアフィルターを備え、該エアフィルターを介して、上記薄膜電極の表面に空気が流入されるので、電子放出素子表面におけるダストの付着を防止することができる。それゆえ、電子放出素子表面に付着するダストに起因する熱交換性能(冷却効率)の低下を抑え、長期に渡って高い熱交換性能(冷却効率)を得ることができる。
【0013】
以上のように、上記の構成によれば、熱交換性能の低下を抑え、熱交換性能のさらなる向上が可能な熱交換装置を実現することが可能になる。
【0014】
本発明の熱交換装置では、上記エアフィルターは、ダストを捕集・濾過するフィルターであることが好ましい。これにより、確実に電子放出素子表面におけるダストの付着を防止することができる。
【0015】
本発明の熱交換装置では、上記エアフィルターは、大気中の微量ガスを捕集・濾過するフィルターであってもよい。ここでいう「大気中の微量ガス」とは、揮発性有機化合物(VOC(volatile organic compounds))やオゾン、水蒸気等を意味する。VOCとは、揮発性を有し、大気中で気体となる有機化合物の総称であり、トルエン、キシレン、酢酸エチルなど多種多様な物質が挙げられる。このように、エアフィルター24が、大気中の微量ガスを捕集・濾過するフィルターであるので、この微量ガスが電界放出素子に吸着するのを軽減するという作用が働き、微量ガスの素子吸着による電界放出素子の性能劣化を防止するという効果を奏する。上記のように、大気中の微量ガスを捕集・濾過するという目的では、エアフィルター24は、活性炭、二酸化マンガン、及び酸化チタンのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。活性炭は種々の微量ガスを吸着し、二酸化マンガンは主にオゾンを分解するのに有効で、酸化チタンはVOC分解に有効である。
【0016】
本発明の熱交換装置では、上記電子加速層の少なくとも一部を構成する絶縁体物質には、粒子形状の絶縁性微粒子が含まれていることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、上記電子加速層の少なくとも一部を構成する絶縁体物質には、粒子形状の絶縁性微粒子が含まれているので、上記電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
【0018】
本発明の熱交換装置では、上記電子加速層の少なくとも一部を構成する絶縁体物質は、SiO、Al、及びTiOのうちの少なくとも1つを含んでいる、あるいは有機ポリマーを含んでいることが好ましい。
【0019】
上記絶縁体物質が、SiO、Al、及びTiOのうちの少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いことにより、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。
【0020】
本発明の熱交換装置では、上記薄膜電極は、金、炭素、ニッケル、チタン、タングステン、及びアルミニウムのうちの少なくとも1つを含んでいることが好ましい。
【0021】
このように、上記薄膜電極に、金、炭素、ニッケル、チタン、タングステン、及びアルミニウムのうちの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、微粒子層で加速された電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
【0022】
本発明の熱交換装置では、上記絶縁性微粒子の平均径は、10〜1000nmであることが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は、平均粒径に対してブロードであってもよく、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。
【0023】
上記絶縁性微粒子の平均径を、10〜1000nmとすることにより、上記絶縁体物質の大きさよりも小さい導電微粒子の内部から外部へと効率よく熱伝導させて、素子内を電流が流れるときに発生するジュール熱を効率よく逃すことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらには、上記電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることが可能になる。
【0024】
上記熱交換装置は、被熱交換体としての発熱体を冷却する冷却装置であってもよい。
【0025】
本発明の熱交換装置では、上記被熱交換体は、上記電子放出素子との対向面に凹凸部が形成されたヒートシンクであってもよい。このヒートシンクに装置の熱交換対象物を接触させて、ヒートシンクと熱交換対象物との熱交換を行う構成とすることにより、熱交換効果の向上を実現することができる。
【0026】
本発明の熱交換装置では、上記電子放出素子は、大気中で気流を発生させるようになっていることが好ましい。
【0027】
上記の構成によれば、電子放出素子は、大気圧中で気流を発生させるようになっており、このため、イオン風の気流速度が増加し、熱交換効果が増大する。
【0028】
本発明の熱交換装置では、上記薄膜電極の表面に空気流を供給するファンを備えたことが好ましい。
【0029】
これにより、イオン風による気流速度が不十分である場合(上記外部空間の電界が弱く、イオン風が弱い場合)であっても、熱交換効果を増大させることができる。
【0030】
本発明の熱交換装置では、上記被熱交換体に対向して配された羽を有し、該羽の回転により空気流を上記被熱交換体へ送風する回転羽式空気流発生器を備え、上記羽における被熱交換体と対向する面に、上記電子放出素子が設けられていることが好ましい。
【0031】
上記の構成によれば、電子放出素子は、回転羽式空気流発生器の羽における被熱交換体と対向する面に設けられているため、電子放出素子から放出された電子の衝突により発生したイオンは、上記被熱交換体へ送風される空気流に乗って、被熱交換体に到達することになる。すなわち、イオンは、空気の流れによる抵抗がない状態で、被熱交換体へ到達する。このため、上記の構成によれば、風力が増加し、電荷を持った気流による熱交換効果が増加するだけでなく、装置の小型化、低消費電力化することができる。
【0032】
本発明の熱交換装置では、上記電子放出素子は、メッシュ構造になっていることが好ましい。
【0033】
上記の構成によれば、電極基板の後方から空気を吸い込みやすくなるため、面全体から気流を接触部材へ送りやすくなる。その結果、風量が増加し、熱交換効果が増加する。
【0034】
本発明の熱交換装置では、上記被熱交換体と上記電子放出素子との間に電圧を印加する第二の電圧印加手段と備え、上記第二の電圧印加手段により印加される電圧が、0Vよりも大きく、+10kV以下であることが好ましい。
【0035】
上記の構成によれば、上記被熱交換体と上記電子放出素子との間に電圧を印加する第二の電圧印加手段と備え、上記第二の電圧印加手段により印加される電圧が、0Vよりも大きく、+10kV以下である、すなわち、第二の電圧印加手段により印加される電圧が、上記第一の電圧印加手段により印加された電圧よりも大きくなっている。それゆえ、上記の構成によれば、マイナスに帯電したイオンが上記被熱交換体に到達することができ、被熱交換体の放熱を行うことができる。
【0036】
本発明の熱交換装置では、上記被熱交換体と上記電子放出素子との間に発生する電界の電界強度が、1V/m〜10V/mであることが好ましい。
【0037】
上記の構成によれば、酸素の解離エネルギーである6エレクトロンボルトよりも低いエネルギーで、上記空気分子中の酸素分子に電子を与えることができる。このため、オゾンや窒素酸化物等の有害物質の発生を防ぐことができる。つまり、大気中での電子の平均自由行程が0.1μmであるため、例えば電界強度が10V/mである場合、電子のエネルギーは空気分子に衝突するまでに1エレクトロンボルトになる。したがって10V/mよりも低い電界強度にすることでオゾン、窒素酸化物の発生を防ぐことができる。
【0038】
本発明の熱交換装置では、上記被熱交換体は、アースに接続されていることが好ましい。
【0039】
これにより、被熱交換体が帯電することを防ぐことができる。
【0040】
本発明の熱交換装置では、上記被熱交換体と上記電子放出素子との離間距離が、100μm〜50cmであることが好ましい。
【0041】
これにより、上記被熱交換体と電子放出素子とを近づけることができるため、熱交換効果が高くなる。また、上記電子放出素子を酸化しにくい材料で構成することで、高温物体の近傍においても長時間駆動することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の熱交換装置は、以上のように、上記電子放出素子は、電極基板と、薄膜電極と、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加する第一の電圧印加手段と、第一の電圧印加手段による電圧印加によりその内部で電子を加速させて、当該薄膜電極から放出させる電子加速層とを備え、上記電子加速層は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されており、上記熱交換装置は、エアフィルターを備え、該エアフィルターを介して、上記薄膜電極の表面に空気が流入される構成である。
【0043】
このように、電子放出素子として、電極基板と薄膜電極との間に少なくとも一部が絶縁体物質で構成された電子加速層が設けられた電子放出素子を使用することにより、優れた熱交換性能を得ることができる。さらに、上記熱交換装置は、エアフィルターを備え、該エアフィルターを介して、上記薄膜電極の表面に空気が流入されるため、素子表面に付着するダストに起因する熱交換性能の低下を抑え、長期に渡って高い熱交換性能を得ることが可能になる。それゆえ、熱交換性能の低下を抑え、熱交換性能のさらなる向上が可能な熱交換装置を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の一形態の熱交換装置(冷却装置)の好ましい一例を示す断面図である。
【図2】図1に示された熱交換装置における、ヒートシンク及び電子放出素子の部分を拡大した要部拡大図である。
【図3】図1に示された熱交換装置における、電子加速層を拡大した要部拡大断面図である。
【図4】実施例1で用いた発熱体放熱装置の構成を示す断面図である。
【図5】実施例1における発熱体放熱装置を用いて、冷却効果を検証した結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の他の形態の熱交換装置(冷却装置)における、電子放出素子の構成を示す断面図である。
【図7】本発明の実施のさらに他の形態の熱交換装置(冷却装置)に備えられた、回転羽式空気流発生器の構成を示す平面図である。
【図8】本発明の実施のさらに他の形態の熱交換装置(冷却装置)における、電子放出素子の構成を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施のさらに他の形態の熱交換装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の熱交換装置は、被熱交換体にイオン風を当て、被熱交換体とその表面の空気と間の熱交換をする装置である。この熱交換は次のように起こる。イオン風が発生し、そのイオンが被熱交換体に到達することにより、被熱交換体表面の加熱された空気分子が撹拌され、被熱交換体と被熱交換体表面の空気との間で熱交換が起こる。
【0046】
なお、上記熱交換には、相対的に温度が高い被熱交換体から相対的に温度が低い空気へ熱を移動させる交換、及び、相対的に温度が高い空気から相対的に温度が低い被熱交換体へ熱を移動させる交換が含まれる。以下の実施の形態では、本発明の熱交換装置として、相対的に温度が高い被熱交換体から相対的に温度が低い空気へ熱を移動させる交換を行う発熱体放熱装置(冷却装置)を例示して説明する。
【0047】
また、本発明における「被熱交換体」とは、電子放出素子が電子を放出する電子放出対象を意味する。以下の実施の形態では、「被熱交換体」にヒートシンクを用い、イオン風により、ヒートシンクを冷却することで、ヒートシンクと直接接した発熱体を間接的に冷却する装置について説明する。つまり、以下の実施の形態では、熱交換が、ヒートシンクとヒートシンク表面の空気との間で起き、さらに、ヒートシンクと発熱体との間で起きる。
【0048】
なお、「被熱交換体」としての「発熱体」をイオン風により直接冷却する構成であってもよい。
【0049】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について図1ないし図9に基づいて説明すると以下の通りである。なお、以下に記述する構成は、本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。図1は、本実施形態の発熱体放熱装置(冷却装置)1の好ましい一例を示す断面図である。
【0050】
発熱体放熱装置1は、発熱体2から発する熱を外部へ放熱する装置であり、ヒートシンク(被熱交換体)3と、電子放出素子4と、電源(第二の電圧印加手段)5とを備えている。ヒートシンク3は、導電材で構成されており、発熱体2に接触している。そして、ヒートシンク3における発熱体2側と反対側の表面3aは、空気に接しており、その少なくとも一部の領域に複数の凸部3bが形成されている。また、電子放出素子4は、ヒートシンク3の表面3aと対向して配置されている。この電子放出素子4は、ヒートシンク3の表面3aと離間しており、この離間部の空気を介して、電子をヒートシンク3に付与する。なお、電子放出素子4とヒートシンク3の表面3aとの離間部へは、図示しないエアフィルターを介して空気が流入するようになっている。また、ヒートシンク3と電子放出素子4とは、電源5に繋がっている。この電源5により、ヒートシンク3と電子放出素子4との間に電圧が印加されるようになっている。このとき、電子放出素子4から電子が放出される。そして、この電子が、ヒートシンク3と電子放出素子4との離間部に存在する空気分子に衝突・付着する。この衝突・付着により、空気分子が、イオン化される。そして、イオン化された空気分子が、図1中の矢印の方向に従って(ヒートシンク3と電子放出素子4との間の電界に沿って)移動することにより、イオン風が発生する。そして、そのイオンがヒートシンク3に到達することにより、発熱体2を介して発熱している、ヒートシンク3表面に存在する空気分子が攪拌・交換される。また、イオンがヒートシンク3に到達するため、ヒートシンク3はチャージアップする。発熱体放熱装置1では、このチャージアップを抑制するために、アース6が接続されている。
【0051】
図2は、図1に示された発熱体放熱装置1における、ヒートシンク3及び電子放出素子4の部分を拡大した要部拡大図である。同図に示されるように、電子放出素子4は、電極基板7と、電子加速層8と、薄膜電極9と、電源(第一の電圧印加手段)10とを備えている。電子加速層8は、電極基板7と薄膜電極9とにより挟持されている。また、電源10は、電極基板7と薄膜電極9との間に電圧を印加する。電子加速層8は、少なくとも一部が絶縁体物質により構成されている。電子放出素子4は、電極基板7と薄膜電極9との間に電圧が印加されることで、電極基板7と薄膜電極9との間(すなわち、電子加速層8)で電子を加速し、薄膜電極9から電子を放出させる。
【0052】
上記のように、発熱体放熱装置1は、2つの電源5及び10を備えており、電源10は、電子放出素子4における電子加速層8内で電子を加速させ、薄膜電極9から電子を放出させるのに用いられる。一方、電源5は、薄膜電極9から放出された電子をヒートシンク3へ付与するのに用いられる。
【0053】
また、発熱体放熱装置1は、ヒートシンク3と電子放出素子4との離間部へ空気流を供給する空気供給手段としてのファン23と、エアフィルター24とを備えている。エアフィルター24は、ヒートシンク3と電子放出素子4との離間部と、ファン24との間に配置されている。ファン23により供給される空気流23aは、エアフィルター24を介して、ヒートシンク3と電子放出素子4との離間部へ流入する。エアフィルター24は、空気流23a中のダストを捕集・濾過するフィルターである。
【0054】
このように、発熱体放熱装置1によれば、空気流23aが、エアフィルター24を介して、ヒートシンク3と電子放出素子4との離間部へ流入するようになっている。これにより、薄膜電極9の表面に、ダストが除去された空気流23aが流入することになる。それゆえ、発熱体放熱装置1によれば、薄膜電極9の表面におけるダストの付着を防止することができる。それゆえ、発熱体放熱装置1によれば、電子放出素子4の表面に付着するダストに起因する冷却効率の低下を抑え、長期に渡って高い冷却効率を得ることができる。
【0055】
また、エアフィルター24は、大気中の微量ガスを捕集・濾過するフィルターであってもよい。ここでいう「大気中の微量ガス」とは、揮発性有機化合物(VOC(volatile organic compounds))やオゾン、水蒸気等を意味する。VOCとは、揮発性を有し、大気中で気体となる有機化合物の総称であり、トルエン、キシレン、酢酸エチルなど多種多様な物質が挙げられる。このように、エアフィルター24が、大気中の微量ガスを捕集・濾過するフィルターであるので、この微量ガスが電子放出素子4に吸着するのを軽減するという作用が働き、微量ガスの素子吸着による電界放出素子4の性能劣化を防止するという効果を奏する。上記のように、大気中の微量ガスを捕集・濾過するという目的では、エアフィルター24は、活性炭、二酸化マンガン、及び酸化チタンのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。活性炭は種々の微量ガスを吸着し、二酸化マンガンは主にオゾンを分解するのに有効で、酸化チタンはVOC分解に有効である。
【0056】
発熱体放熱装置1のように大気中の熱交換に電子放出素子4を利用する場合、エアーフィルター24により大気中の微量ガスを除去することが、電子放出素子4の性能を長期にわたり維持するのに非常に有効である。
【0057】
ヒートシンク3と薄膜電極9との離間距離は、薄膜電極9から放出された電子をヒートシンク3へ付与することができる距離であれば、特に制限されない。例えば、離間距離は、好ましくは100μm〜50cmであり、より好ましくは100μm〜10mmであり、特に好ましくは100μm〜1mmである。
【0058】
発熱体放熱装置1において、電子放出素子4の電極基板7は、例えばSUSやTi、Cu等の金属基板であってもよいし、例えばSiやGe、GaAs等の半導体基板であってもよい。また、例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層8側の界面に金属などの導電性物質を電極として付着させることによって、電極基板7として用いることができる。
【0059】
薄膜電極9は、電子加速層8内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層8内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、金、炭素、チタン、ニッケル、タングステン、アルミニウムなどが挙げられる。
【0060】
電子加速層8は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されていればよい。また、電子加速層8の少なくとも一部を構成する絶縁体物質に、粒子形状の絶縁性微粒子が含まれていることが好ましい。このような構成とすることにより、電子放出素子4は、電極基板7と薄膜電極9との間に電圧が印加されることで、電極基板7と薄膜電極9との間(すなわち、電子加速層8)で電子を加速し、薄膜電極9から電子を放出させることができる。
【0061】
なお、以下の本実施形態では、電子加速層8の構成例として、周囲に第一の誘電体物質が存在する導電体からなる導電微粒子と、上記導電微粒子の大きさよりも大きい第二の誘電体物質とを含んだ構成を説明する。ここで、上記第一の誘電体物質は上記導電微粒子を被膜する被膜物質であり、上記導電微粒子は、絶縁被膜された金属微粒子12として説明する。また、上記第二の誘電体物質は、絶縁被膜された金属微粒子12の平均径よりも大きい平均径である、絶縁体の微粒子11として説明する。しかしながら、電子加速層8の構成は、上記したものに限定されず、例えば、上記絶縁体物質が、シート状で電極基板7に積層されており、かつ、積層方向に貫通する複数の開口部を有しており、そして、この開口部には、被膜物質により誘電被膜された導電微粒子が収容されていている、というような形態であってもよい。
【0062】
図3は、発熱体放熱装置1における電子加速層8を拡大した要部拡大断面図である。同図に示されるように、電子加速層8には、第二の誘電体物質としての絶縁体の微粒子11と、周囲に第一の誘電体物質が存在する導電体からなる導電微粒子としての金属微粒子12とが含まれている。このように、電子加速層8に含まれる微粒子は、2種類存在し、1つは微粒子11であり、もう1つは金属微粒子12である。
【0063】
ここで、絶縁被膜された金属微粒子12の金属種としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような金属種でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、酸化しにくい金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、ニッケル、パラジウムいった材料が挙げられる。また、絶縁被膜された金属微粒子12の絶縁被膜としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁被膜でも用いることができる。ただし、絶縁被膜を金属微粒子の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまうおそれがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。弾道電子の生成の原理については後段で詳しく記載するが、その原理に従って考えると、絶縁被膜された金属微粒子12の直径は10nm以下であることが重要であり、その絶縁被膜の厚さは薄いほうが有利であることが言える。
【0064】
絶縁体の微粒子11の材料は、絶縁性も有する材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層8を構成する全材料に対する絶縁体の微粒子11の重量割合は80〜95%であることが望ましい。また、微粒子11と金属微粒子12との個数比は、微粒子11が1個に対し、金属微粒子12が2個から300個程度である、すなわち、1:2〜300であるときに、適度な抵抗率と放熱効果が得られる。また、微粒子11の大きさは、金属微粒子12に対して有意な放熱効果を得るため、金属微粒子12の直径よりも大きいことが好ましい。絶縁体の微粒子11の直径(平均径)は10〜1000nmであることが好ましい。従って、絶縁体の微粒子11の材料はSiO、Al、TiOといったものが実用的となる。
【0065】
電子加速層8は薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることが出来るが、絶縁体の微粒子11の平均径よりも薄くはならないため、その厚さは5〜1000nmであるのが好ましい。
【0066】
なお、金属微粒子11の周囲に第一の誘電体物質が存在する構成について説明したが、金属微粒子11は、この構成に限定されるものではない。発熱体放熱装置1においては、第一の誘電体物質が金属微粒子11の周囲に存在しない構成、または第一の誘電体物質が金属微粒子11の周囲に被膜せず、点在して付着した構成であってもよい。このような構成であっても、電極基板7と薄膜電極9との間(すなわち、電子加速層8)で電子を加速し、薄膜電極9から電子を放出させることができる。
【0067】
また、電子加速層8は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されていればよく、金属微粒子12を含まない構成であってもよい。このような電子加速層8としては、例えば特願2009−121455(出願時点で未公開)に記載の絶縁粒子と塩基性分散剤とを含む構成や、特願2009−121454(出願時点で未公開)に記載の絶縁粒子のみを含む構成が挙げられる。
【0068】
次に、電子放出の原理について説明する。例えばシリカのような絶縁材料の表面において、結晶の欠陥や表面処理が施されることにより、シリカ表面に電気抵抗が低い部分が存在し、電子が流れると考えられる。そして、シリカ表面の電子は、ホッピング伝導のような形で流れて、エネルギーが高いホットエレクトロンが形成され、薄膜電極9へ到達するが、このとき、薄膜電極9を構成する材料(例えば金)の仕事関数を超えたエネルギーを得ていると、電子は電子放出素子4の外部へ放出されると考えられるが、断定できていない。
【0069】
このように発熱体放熱装置1において、電子放出素子4から大気中に放出された電子は、瞬時に気体分子と衝突を繰り返し、短時間で主に酸素分子に付着(電子付着)し、酸素の負イオンを形成する。電子放出素子4の外部空間おいて、電子放出素子4側が負であり、ヒートシンク3側が正である電位勾配があると、酸素の負イオンは、電界に沿って電子放出素子4からヒートシンク3へ移動する。このとき、酸素の負イオンは、周辺の中性分子(帯電していない窒素分子及び酸素分子)と衝突するため、中性分子も電界に沿って移動する。この酸素の負イオンと中性分子との混合体の電界に沿った動きがイオン風である。したがって、発熱体放熱装置1では、電子放出素子4の外部空間に電位勾配を設ける(ヒートシンク3に、電子放出素子4に対して正の電圧を印加する)ことにより、イオン風を発生させることができる。電界が強いほど、強いイオン風を発生でき、効果的に熱交換が可能となる。
【0070】
このように発熱体放熱装置1では、真空中で気流を発生させていないので、イオン風の気流速度が増加し、冷却効果が増大する。なお、イオン風による気流速度が不十分である場合には、図2に示したように、ファン23を併用してもよい。
【0071】
また、発熱体放熱装置1におけるヒートシンク3は、少なくとも一部に凹部もしくは凸部を有している。ヒートシンクに少なくとも一部に凹部もしくは凸部が存在すると、より多くの気体分子に対して熱を伝達することができるため、放熱効果が増大する。ここで、電子放出素子4とヒートシンク3とを平行に設置することにより、電子放出素子内で電界集中せず、イオン風をヒートシンク3に伝達することが可能となる。これにより、ヒートシンク3の放熱面全体から発熱した気体分子を除去することができるため、放熱効果が増大する。
【0072】
また、電源5によりヒートシンク3と電子放出素子4の薄膜電極9との間に印加される電圧は、特に制限されないが、マイナスの電荷を持ったイオンを発熱体2に到達させる電圧であればよい。この電圧は、その下限は0Vよりも大きいことが好ましい。例えば、好ましくは+10V以上であり、より好ましくは+100V以上であり、特に好ましくは+200V以上である。また、印加する電圧の上限も特に制限されない。実用上、後述するような電界強度の制限を考慮すると+10kV以下であることが好ましく、より好ましくは+1kV以下である。
【0073】
また、ヒートシンク3と電子放出素子4の薄膜電極9との間の電界強度は、特に制限されないが、例えば1V/m以上であり、好ましくは10V/m以上であり、より好ましくは1000V/m以上である。また電界強度の上限は、オゾンの発生を防ぐために、107V/m以下であることが好ましく、より好ましく106V/mである。これによって、オゾンや窒素酸化物に代表される有害物質が発生しなくなる。
【0074】
本発明は、電子放出素子4から放出される気流を、発熱体2に接触するヒートシンク3に照射するのに先立って、ヒートシンク3をアースに接続することが好ましい。これによって発熱体2の帯電を防ぐことができる。
【0075】
また、電子放出素子4から発生する気流と回転羽式空気流発生器19による空気流とを組み合わせてもよいし、回転羽式空気流発生装器19を用いなくともよい。
【0076】
(実施例1)
実施例として、本実施形態の発熱体放熱装置において、放熱効果の検証した実験について図4及び図5を用いて説明する。なお、この実験は実施の一例であって、本発明の内容を制限するものではない。
【0077】
本実施例では、図4に示された発熱体放熱装置を用いて実験を行った。図4に示された熱交換装置では、ファン14が設けられており、ヒートシンク3に向かって空気流が送風されるようになっている。熱源としての発熱体2は、スイッチのオンオフにより、発熱を切り替える構成になっており、スイッチをオフにすると、発熱がオフになる。本実施例では、温度測定端子15による温度測定の開始と同時に、発熱体2を切断(オフ)した。温度測定端子15は、ヒートシンク3の表面温度を非接触で測定するものである。
【0078】
本実施例では、発熱体2を切断後、以下に示す第1及び第2の実験を行い、発熱体2の温度を経時的に測定した。両実験で、発熱体2の温度の経時的変化を比較することで、放熱効果の検証を行った。
【0079】
第1の実験では、電源5に電圧を印加しない(すなわち、ヒートシンク3と電子放出素子4との間に電圧が印加されない)状態で、ファン(空気流発生装置)14の気流のみで発熱体2を冷却した。第2の実験では、電源5に電圧を印加した状態で、ファン14の気流及び電子放出素子4から放出されるイオン16の組合せにより、発熱体2を冷却させた。
【0080】
なお、第1及び第2の実験で用いた装置では、ファン14の気流とイオン16とが混合されても、気流の流量が一定になるように、送風管13が設置されている。また、第1及び第2の実験では、流量を9L/minとしている。そして、第2の実験において、電圧印加時の電子放出に伴うヒートシンク3での回収電流は、10〜14μAであった。
【0081】
第1の実験及び第2の実験で、発熱体2の温度の経時的変化を測定した結果を図5に示す。図5に示されるように、第2の実験における発熱体2の温度は、第1の実験よりも急速に減少することがわかる。さらに、温度測定60秒後では、第2の実験による冷却での温度減少幅は、第1の実験による冷却での温度減少幅の約767%になっていることが明らかになった。
【0082】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について、図6に基づいて説明すると以下の通りである。
【0083】
本実施形態の発熱体放熱装置の基本的な駆動概念は、上記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。本実施形態の発熱体放熱装置において、第1の実施形態と異なる点は、電子放出素子の構成である。図6は、本実施形態の発熱体放熱装置における、電子放出素子周辺の構成を示した図である。
【0084】
図6に示されるように、電子放出素子16は、可撓性(フレキシブル)になっていることを特徴としている。電子放出素子16は、フレキシブル基材17と、基板薄膜電極18と、電子加速層8と、薄膜電極9とを備えている。基板薄膜電極18と薄膜電極9とは、電源10に繋がっている。電子放出素子16は、基板薄膜電極18と薄膜電極9との間に電圧を印加することで、基板薄膜電極18と薄膜電極9との間(すなわち、電子加速層8)で電子を加速し、薄膜電極9から電子を放出させる。
【0085】
〔実施の形態3〕
本発明のさらに他の実施形態について、図7に基づいて説明すると以下の通りである。
【0086】
本実施形態の発熱体放熱装置の基本的な駆動概念は、上記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。本実施形態の発熱体放熱装置において、第1の実施形態と異なる点は、回転羽式空気流発生器に電子放出素子が設けられた点である。図7は、本実施形態の発熱体放熱装置における回転羽式空気流発生器19を示した図である。
【0087】
同図に示されるように、回転羽空気流発生器19は、羽20を備えており、この羽20を回転させることにより、空気流を発熱体へ送るようになっている。なお、図7では、羽20が回転方向R(図中矢印の方向)に回転することで、紙面における裏面側から表面(手前)側へ空気流が送風されるようになっている。図7では、空気流送風方向Sとして示している。
【0088】
そして、本実施形態の発熱体放熱装置では、回転羽空気流発生器19における回転羽20の表面20aに対向して、ヒートシンク3が配されている。このヒートシンク3は、発熱体2と接触している。
【0089】
本実施形態の発熱体放熱装置では、この回転羽空気流発生器19に、実施の形態1の電子放出素子4または実施の形態2の電子放出素子16が備えられている。つまり、羽20の表面20aに、電極基板7またはフレキシブル基材17が設けられている。
【0090】
これにより、回転羽空気流発生器19からの空気流と、電子放出素子4(または16)からの電荷をもった気流(イオン)とを同時に、発熱体2に装着された導電部へ送ることが可能になる。
【0091】
〔実施の形態4〕
本発明のさらに他の実施形態について、図8に基づいて説明すると以下の通りである。
【0092】
本実施形態の発熱体放熱装置の基本的な駆動概念は、上記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。本実施形態の発熱体放熱装置において、第1の実施形態と異なる点は、電子放出素子がメッシュ構造になっている点である。図8は、本実施形態の発熱体放熱装置における電子放出素子を示した図である。なお、図8では、紙面における裏面側から表面(手前)側へ空気流が送風されるようになっており、空気流送風方向S’として示している。
【0093】
同図に示されるように、電子放出素子21は、メッシュ状になっている。電子放出素子21は、メッシュ基材22を備えている。このメッシュ基材22は、空気送風方向S’に貫通した複数の開口部22bを有している。そして、本実施形態の発熱体放熱装置では、メッシュ基材22の表面22aに対向して、ヒートシンク3が配されている。このヒートシンク3は、発熱体2と接触している。それゆえ、空気流送風方向S’へ送風される空気流は、開口部22bを介して、ヒートシンク3へ送られる。
【0094】
本実施形態の発熱体放熱装置では、このメッシュ基材22に、実施の形態1の電子放出素子4または実施の形態2の電子放出素子16が備えられている。つまり、メッシュ基材22の表面22aに、電極基板7またはフレキシブル基材17が設けられている。
【0095】
以上のように、本発明の熱交換装置は、電極間距離を狭くしても安定的にイオン風を放出することが可能であるため、冷却装置を小型化できる。
【0096】
電子源素子としての電子放出素子をフレキシブルな表面や、凹凸の存在する表面に塗布法によって形成することが可能であるため、テレビのキャビネット部に冷却機能を搭載することも可能であり、液晶テレビの薄型化とテレビの発熱部の冷却を同時に行うことができる。
【0097】
さらに、距離を狭くしても放電を伴わないため、オゾン、窒素酸化物の発生がなく、生活家電に搭載することが可能となる。たとえば、冷蔵庫の冷媒において、自然放熱時の冷却効果を増加させることで低消費電力化、コンプレッサの小型化になる。また、図4に示したように熱源近傍の熱を急速に除去できることを利用して、エアコンや、温風器の熱源にイオン風を与えることで、急速に温風をユーザーに提供することも可能となる。同時に効率的に温風が出るためにヒータ出力を下げることによる低消費電力化も可能になる。さらには洗濯乾燥機においても濡れた衣類に急速に温風を吹き付けることが可能になるため、ヒータ出力の低下による低消費電力化、装置の小型化を行うことが可能になる。洗濯乾燥機の場合、イオンを衣類に吹き付けるために、衣類の摩擦帯電に伴う衣類の絡みを抑制し、乾燥効率を向上でき、乾燥時間の低減に繋がる。
【0098】
〔実施の形態5〕
本発明のさらに他の実施形態について、図9に基づいて説明すると以下の通りである。
【0099】
本実施形態の発熱体放熱装置における電子放出素子及びエアーフィルターの構成は、上記第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。本実施形態の発熱体放熱装置において、第1の実施形態と異なる点は、「被熱交換体」としての「発熱体」を備え、発熱体と発熱体表面の空気との間で熱交換を行いイオン風により直接冷却する点である。すなわち、本実施形態の発熱体放熱装置は、ヒートシンクを備えた構成ではない。図9は、本実施形態の発熱体放熱装置の概略構成を示す図である。
【0100】
同図に示されるように、発熱体放熱装置1は、発熱体2’から発する熱を外部へ放熱する装置であり、電子放出素子4と、電源(第二の電圧印加手段)5’と、電子放出素子4における電極基板7と薄膜電極9との間に電圧を印加する電源(第一の電圧印加手段)10を備えている。
【0101】
電子放出素子4は、発熱体2’の表面2a’と離間しており、この離間部の空気を介して、電子を発熱体2’に付与する。また、発熱体2’と電子放出素子4とは、電源5に繋がっている。この電源5により、発熱体2’と電子放出素子4との間に電圧が印加されるようになっている。このとき、電子放出素子4から電子が放出される。そして、この電子が、発熱体2’と電子放出素子4との離間部に存在する空気分子に衝突・付着する。この衝突・付着により、空気分子が、イオン化される。そして、イオン化された空気分子が、発熱体2’と電子放出素子4との間の電界に沿って移動することにより、イオン風が発生する。そして、そのイオンが発熱体2’に到達することにより、発熱体2’表面に存在する空気分子が攪拌・交換される。また、イオンが発熱体2’に到達するため、発熱体2’はチャージアップする。発熱体放熱装置1では、このチャージアップを抑制するために、アース6が接続されている。
【0102】
上記のように、発熱体放熱装置1は、2つの電源5及び10を備えており、電源10は、電子放出素子4における電子加速層8内で電子を加速させ、薄膜電極9から電子を放出させるのに用いられる。一方、電源5は、薄膜電極9から放出された電子を発熱体2’へ付与するのに用いられる。
【0103】
また、発熱体放熱装置1は、発熱体2’と電子放出素子4との離間部へ空気流を供給する空気供給手段としてのファン23と、エアフィルター24とを備えている。エアフィルター24は、発熱体2’と電子放出素子4との離間部と、ファン24との間に配置されている。ファン23により供給される空気流23aは、エアフィルター24を介して、発熱体2’と電子放出素子4との離間部へ流入する。
【0104】
このように、発熱体放熱装置1によれば、空気流23aが、エアフィルター24を介して、ヒートシンク3と電子放出素子4との離間部へ流入するようになっている。これにより、薄膜電極9の表面に、ダストが除去された空気流23aが流入することになる。それゆえ、発熱体放熱装置1によれば、薄膜電極9の表面におけるダストや微量ガスの付着を防止することができる。
【0105】
(本発明の熱交換装置の加熱装置としての利用について)
上記の実施の形態に記載されたイオン風発生原理は、加熱装置にも適用できる。ここでは、本発明の熱交換装置の加熱装置としての利用について、説明する。
【0106】
本発明の熱交換装置を加熱装置として利用する場合、加熱装置の構成としては、効率よく熱風を発生させて低温体を加熱する構成(i)、及び高温の空気で低温の導電固体を加熱する構成(ii)が挙げられる。
【0107】
効率よく熱風を発生させて低温体を加熱する構成(i)である場合、上述した発熱体放熱装置1と全く同じ構成で、効率よく熱交換した高温の空気を普通に送風して、加熱に利用することができる。すなわち、上述した発熱体放熱装置1においては、被熱交換体(ヒートシンク3または発熱体2)と被熱交換体表面の空気との間で熱交換が起こることで、被熱交換体が冷却される。その一方で、被熱交換体表面から熱が放出され被熱交換体と電子放出素子4との間の空気は高温になる。構成(i)は、この被熱交換体と電子放出素子4との間の高温の空気を利用して、低温体を加熱する構成である。このような構成の加熱装置の用途として、例えば、効率良く温風を発生するファンヒーターのような用途が挙げられる。
【0108】
また、高温の空気で低温の導電固体(被熱交換体)を加熱する構成(ii)である場合、例えば、焼却炉で発生し廃熱となる高温気体を熱源として、暖房に利用するようなシステムに適用することができる。このシステムに、電子放出素子と導電性の被熱交換体とを同様に利用すれば、非常に効率のよい廃熱利用暖房システムを実現することができる。
【0109】
本発明は上述した各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の熱交換装置は、電極間距離を狭くしても安定的にイオン風を放出することが可能であるため、冷却装置を小型化できる。また狭いスペースで効率的に冷却することが必要であり、かつファンの風切騒音を抑制することが必要な、液晶テレビ、ノートパソコンに利用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1 発熱体放熱装置(熱交換装置、冷却装置)
2 発熱体
2’ 発熱体
3 ヒートシンク(被熱交換体)
4 電子放出素子
5 電源(第二の電圧印加手段)
5’ 電源(第二の電圧印加手段)
6 アース
7 電極基板
8 電子加速層
9 薄膜電極
10 電源(第一の電圧印加手段)
11 絶縁体の微粒子(絶縁体物質)
12 金属微粒子(導電微粒子)
13 送風管
14 ファン
15 温度測定端子
16 イオン
17 フレキシブル基材
18 薄膜電極
19 回転羽式空気流発生器
20 羽
20a 表面
21 電子放出素子
22 メッシュ基材
22a 表面
23 ファン(薄膜電極の表面に空気流を供給するファン)
24 エアフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の被熱交換体と離間して配され、この離間部分の空気を介して上記被熱交換体へ電子を付与する電子放出素子を備え、上記被熱交換体と空気との熱交換を行う熱交換装置であって、
上記電子放出素子は、
電極基板と、薄膜電極と、電極基板と薄膜電極との間に電圧を印加する第一の電圧印加手段と、第一の電圧印加手段による電圧印加によりその内部で電子を加速させて、当該薄膜電極から放出させる電子加速層とを備え、
上記電子加速層は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されており、
さらに、エアフィルターを備え、該エアフィルターを介して上記電子放出素子の表面に空気が流入されることを特徴とする熱交換装置。
【請求項2】
上記エアフィルターは、ダストを捕集・濾過するフィルターであることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項3】
上記エアフィルターは、大気中の微量ガスを捕集・濾過するフィルターであることを特徴とする請求項1に記載の熱交換装置。
【請求項4】
上記エアフィルターは、活性炭、二酸化マンガン、及び酸化チタンのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項3に記載の熱交換装置。
【請求項5】
上記電子加速層の少なくとも一部を構成する絶縁体物質には、粒子形状の絶縁性微粒子が含まれていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項6】
上記電子加速層の少なくとも一部を構成する絶縁体物質は、SiO、Al、及びTiOのうちの少なくとも1つを含んでいる、あるいは有機ポリマーを含んでいることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項7】
上記薄膜電極は、金、炭素、ニッケル、チタン、タングステン、及びアルミニウムのうちの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項8】
上記絶縁性微粒子の平均径は、10〜1000nmであることを特徴とする請求項5に記載の熱交換装置。
【請求項9】
上記被熱交換体としての発熱体を冷却する冷却装置であることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項10】
上記被熱交換体は、上記電子放出素子との対向面に凹凸部が形成されたヒートシンクであることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項11】
上記電子放出素子は、大気中で気流を発生させるようになっていることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項12】
上記薄膜電極の表面に空気流を供給するファンを備えたことを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項13】
上記被熱交換体に対向して配された羽を有し、該羽の回転により空気流を上記被熱交換体へ送風する回転羽式空気流発生器を備え、
上記羽における被熱交換体と対向する面に、上記電子放出素子が設けられていることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項14】
上記電子放出素子は、メッシュ構造になっていることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項15】
上記被熱交換体と上記電子放出素子との間に電圧を印加する第二の電圧印加手段と備え、
上記第二の電圧印加手段により印加される電圧が、0Vよりも大きく、+10kV以下であることを特徴とする請求項1〜14の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項16】
上記被熱交換体と上記電子放出素子との間に発生する電界の電界強度が、1V/m〜10V/mであることを特徴とする請求項15に記載の熱交換装置。
【請求項17】
上記被熱交換体は、アースに接続されていることを特徴とする請求項1〜16の何れか1項に記載の熱交換装置。
【請求項18】
上記被熱交換体と上記電子放出素子との離間距離が、100μm〜50cmであることを特徴とする請求項1〜17の何れか1項に記載の熱交換装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−100945(P2011−100945A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256347(P2009−256347)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】