説明

熱伝導性および電気絶縁性熱可塑性化合物

本発明は、電気絶縁性、熱伝導性充填剤、ならびにさらなる熱および電気伝導性充填剤を含む熱可塑性樹脂をベースとする熱可塑性成形材料と、その製造と、その使用とに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性、熱伝導性充填剤、ならびにさらなる熱および電気伝導性充填剤を含む熱可塑性プラスチックをベースとする熱可塑性成形組成物、およびそれらの製造、およびそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリマーは良好な電気絶縁性を有しており、そのために多くの電気産業用途のために使用される。しかしながら、それらの熱伝導性が低いために、それらは断熱材として機能し、そのために、電気部品として使用すると、比較的大量の熱が発生してそれを消散させなければならないような場合には、問題が生ずる。熱可塑性プラスチックの電気伝導性および熱伝導性は、添加剤を使用することによって、広い範囲で改質させることが可能である。例えば、グラファイトを添加すると、電気伝導性と熱伝導性の両方が高くなる。それとは対照的に、電気産業用途で要求される極めて低い電気伝導性を維持しながら、熱伝導性を高くする方法はいくつかしかない。
【0003】
(非特許文献1)には、配合ポリマー材料の電気絶縁性を維持しながら、その熱伝導性を上げることを可能とする添加剤の記載がある。そこには、ポリマーと、酸化アルミニウムと、さらなる有機添加剤とからなる組成物の記載があり、さらにそれらの熱的性質および電気的性質が記載されている。
【0004】
配合熱可塑性材料の熱伝導性を上げるために酸化アルミニウム(α−Al)を添加することは公知であり、多くの特許出願に記載されてきた。
【0005】
(特許文献1)には、酸化アルミニウムを添加することにより、ポリエステルを電気絶縁性かつ熱伝導性とすることができるとの記載がある。列挙されているさらなる添加剤は、低分子量および高分子量の有機化合物である。
【0006】
(特許文献2)には、電気機器、床材および熱交換器で使用するための、ナイロン−6およびさらにはナイロン−6,6と72.3%の酸化アルミニウムからなる配合材料(熱伝導度<0.5W/mK)の記載がある。
【0007】
(特許文献3)にも同様に、ナイロン6およびさらにはナイロン−6,6と酸化アルミニウムをベースとする、射出成形のための成形組成物と、熱伝導性が向上した成形物が得られたことについての記載がある。
【0008】
(特許文献4)では、ナイロン−4,6を含む酸化アルミニウム含有配合材料の群にまで拡張されていて、機械的性質を改良するために、充填剤に30%までのガラス繊維を組み合わせることが記載されている。
【0009】
(特許文献5)には、良好な熱伝導性を有する電気絶縁物として、酸化アルミニウム充填ポリアミドを使用することが教示されている。そうして得られた製品は、2000ボルトに50時間超の暴露をさせる条件下でもその性能を維持する、ケーブルシースへ使用することが特に記載されている。
【0010】
(特許文献6)には、シートのプレス加工に好適な、電気絶縁性および熱伝導性配合ポリアミド−水酸化アルミニウム材料の製造が記載されている。それから製造された部品は、特にコロナ抵抗性を特徴としている。
【0011】
配合ポリアミド材料の中でグラファイトを使用することは広く記載されており、この場合、得られる成形組成物の電気伝導性が強調されている。
【0012】
(特許文献7)には、1.0〜20%のグラファイトを含み、5.0〜7.0Ω/cmの抵抗値を有する、ポリアミドからなる組成物の記載がある。
【0013】
(特許文献8)では、グラファイトおよびガラス繊維を含む材料が示されており、その材料の表面抵抗値はわずか2.2×10Ωである。
【0014】
(特許文献9)には、モノマーにグラファイトを添加してインサイチュで製造したポリアミドの教示があり、その重合後に得られる製品は、0.027Ω/cmの電気抵抗値を有する。
【0015】
(特許文献10)には、グラファイトを添加しても、配合ポリアミド−ポリイミド材料における電気伝導性が上昇するとの記載がある。
【0016】
(特許文献11)では、ゴムを添加することによって得られる、特に良好な耐衝撃性を有する、配合されたグラファイト含有、電気伝導性ポリアミド材料が扱われている。
【0017】
(特許文献12)には、ガラス繊維−強化、グラファイト含有、電気伝導性成形組成物が提供されている。
【0018】
(特許文献13)に記載されている、ポリアミドおよびグラファイトをベースとする材料の電気伝導性は、センサーに好適に使用することを目的としている。
【0019】
(特許文献14)に記載されているように、配合ポリアミド材料中の添加剤としてのナノスケールグラファイトもまた電気伝導性を与える。そうして得られた材料は、静電場に関する遮蔽には特に適していると言われている。
【0020】
(特許文献15)には、グラファイトを含む組成物からなる電気伝導性ポリアミド繊維の製造が記載されている。
【0021】
(特許文献16)には、改良された熱伝導度(1.6W/mK)を有する、熱可塑性ポリマーと1〜50%のグラファイトとからなる組成物の記載がある。
【0022】
酸化アルミニウムは、良好な熱伝導性を有する安価な鉱物質であり、上述のように、熱伝導性の配合熱可塑性材料を製造するには適している。それとは対照的に、グラファイトは、電気伝導性成形組成物を製造するための添加剤として使用されている。グラファイトは、成形組成物の熱伝導性を上げるためにも使用されるが、電気伝導性があるために、電気絶縁性を有する熱伝導性配合材料には、今日にいたるまで使用されることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】独国特許出願公開第10260098A1号明細書
【特許文献2】国際公開第2003051971A2号パンフレット
【特許文献3】特開2004−059638A2号公報
【特許文献4】特開平03−079663A2号公報
【特許文献5】特開2005−112908A2号公報
【特許文献6】特開平06−108400A号公報
【特許文献7】特開平03−091556A号公報
【特許文献8】特開昭62−227952A号公報
【特許文献9】特開昭60−108428A号公報
【特許文献10】特開平07−292245A号公報
【特許文献11】特開2003−165904A号公報
【特許文献12】旧ソ連特許第1643568号明細書
【特許文献13】米国特許第6228288A号明細書
【特許文献14】中国特許出願公開第1900162A号明細書
【特許文献15】特開昭57−193512A号公報
【特許文献16】特開2007−016093A2号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Wolfgang Uebler、学位論文(University of Erlangen、2002)「Increasing the thermal conductivity of electrically insulating polymer materials」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、本発明の目的は、ポリアミドおよび/またはポリエステルをベースとし、高い熱伝導性を有するが、同時に電気絶縁性も特徴とする熱可塑性成形組成物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0026】
意外なことには、酸化アルミニウムを含む熱可塑性成形組成物にグラファイトを添加すると、電気伝導性ではなく、逆に電気絶縁性である成形組成物が得られることが見出された。この方法は、グラファイトを添加することによって、所望の電気絶縁性を保持しながらも、本発明の成形組成物の熱伝導性における増加を使用することができる。
【0027】
したがって、本発明は以下のものをベースとする熱可塑性成形組成物を提供する:
A)5〜95重量%の熱可塑性ポリマー、好ましくはポリアミドまたはポリエステル、
B)1〜95重量%、好ましくは20〜80重量%、特に好ましくは40〜70重量%の、電気絶縁性、熱伝導性充填剤、および
C)1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、特に好ましくは10〜15重量%の、熱および電気伝導性であるさらなる充填剤。
【0028】
本発明の成形組成物は、熱および電気伝導性であるさらなる充填剤、好ましくはグラファイトを添加しているにもかかわらず、電気絶縁物である。熱可塑性成形組成物に対する添加物として電気伝導性充填剤を使用する場合、その目的は通常、得られる成形組成物の電気伝導性を改良することであるので、これは予測することも不可能な発見である。しかしながら、意外なことには、電気絶縁性、熱伝導性充填剤、好ましくは酸化アルミニウムを、記載の濃度範囲で、好ましくはグラファイトと組み合わせて使用すると、熱および電気伝導性充填剤のその公知の効果が起きない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
したがって、本発明は、好ましくは、以下のものを含む熱可塑性成形組成物を提供する:
A)5〜95重量%の熱可塑性ポリマー、好ましくはポリアミドまたはポリエステル、特に好ましくはポリアミド、
B)1〜95重量%、好ましくは20〜80重量%、特に好ましくは40〜70重量%の、元素周期律表の第3主族の元素と第5もしくは第6主族の元素との化合物、またはそれらの混合物、好ましくはホウ素化合物またはアルミニウム化合物、特に好ましくは酸化アルミニウムまたは窒化ホウ素、
C)1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、特に好ましくは10〜15重量%の、熱および電気伝導性充填剤、好ましくは炭素の同素体、特に好ましくはグラファイト。
【0030】
本発明においては、その熱可塑性成形組成物には、成分A)として、少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含む。ポリアミドまたはポリエステルが好適である。m−クレゾール中での相対溶液粘度が2.0〜4.0であるナイロン−6(PA6)およびナイロン−6,6(PA66)が特に好適であり、m−クレゾール中での相対溶液粘度が2.3〜2.6のナイロン−6、およびポリブチレンテレフタレートも特に好ましい。本発明のポリマーは、各種のプロセスにより製造することが可能であり、各種の構成単位から合成することができ、特定の応用を目的とする場合には、単独か、または、加工助剤、安定剤、ポリマーアロイの相手(たとえば、エラストマー)もしくは補強用材料(たとえば、鉱物質充填剤またはガラス繊維)と組み合わせることで改質して、特別に調節した性能の組合せを有する材料を得ることができる。その他の適した材料は、他のポリマー、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、またはABSを一部含むブレンドであり、必要に応じて、1種または複数の相溶化剤をここで使用することもできる。必要に応じて、たとえば配合ポリマー材料の耐衝撃性の面で、エラストマーを添加することによって、ポリアミドの性質を改良することもできる。
【0031】
ポリアミドを製造するための公知の方法が多数存在し、ここでの所望の最終製品に合わせて、各種のモノマー単位または各種の鎖調節剤を使用して所望の分子量に調節するか、または所望の後処理プロセスのための反応性基を有するモノマーを使用する。
【0032】
ポリアミドを製造するための工業的プロセスのほとんどは、溶融状態での重縮合により進行する。この文脈においては、ラクタムの加水分解重合もまた重縮合とみなす。
【0033】
本発明においては、好ましいポリアミドは半晶質ポリアミドであって、それは、ジアミンとジカルボン酸、および/または少なくとも5員環のラクタムから、または対応するアミノ酸から製造することができる。使用することが可能な好適な出発物質は、脂肪族および/または芳香族ジカルボン酸、特に好ましくはアジピン酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、2,4,4−トリメチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸;脂肪族および/または芳香族ジアミン、特に好ましくはテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2,2,4−および2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、各種異性体のジアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノジシクロヘキシルプロパン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン;アミノカルボン酸、特にアミノカプロン酸;または相当するラクタムである。複数の上述のモノマーからなるコポリアミドも含まれる。
【0034】
カプロラクタムを使用するのが特に好ましく、ε−カプロラクタムを使用するのが極めて特に好ましい。
【0035】
本発明においては、さらに特に極めて好ましいのは、PA6またはPA66をベースとする配合材料のほとんど、ならびに脂肪族および/または芳香族ポリアミドおよびそれぞれコポリアミドをベースとするその他の配合材料で、ポリマー鎖のそれぞれのポリアミド基に3〜11個のメチレン基を有するものである。
【0036】
本発明においては、また別な好ましい実施態様において成分A)として使用される熱可塑性ポリマーは、ポリエステルの群から選択されるもの、好ましくはポリアルキレンテレフタレート、特に好ましくはポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート、極めて特に好ましくはポリブチレンテレフタレートである。
【0037】
好適なポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸(またはその反応性誘導体)と、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族もしくは脂環式ジオールとから、公知の方法を使用して製造することができる(Kunststoff−Handbuch[Plastics Handbook]、Vol.VIII、pp.695ff、Karl Hanser Verlag、Munich、1973)。
【0038】
好適なポリアルキレンテレフタレートには、ジカルボン酸を基準にして、少なくとも80モル%、好ましくは90モル%のテレフタル酸部分と、ジオール成分を基準にして、少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%のエチレングリコール部分および/または1,3−プロパンジオール部分および/または1,4−ブタンジオール部分が含まれる。
【0039】
好適なポリアルキレンテレフタレートには、テレフタル酸部分と共に、20モル%までの、8〜14個の炭素原子を有するその他の芳香族ジカルボン酸部分、または4〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸部分を含むことが可能であり、たとえば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンニ酢酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの部分が挙げられる。
【0040】
好適なポリアルキレンテレフタレートには、エチレン部分もしくは1,3−プロパンジオール部分もしくは1,4−ブタンジオール部分と共に、20モル%までの、その他の3〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジオールもしくは6〜21個の炭素原子を有する脂環族ジオールを含むことが可能であり、たとえば、1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサン1,4−ジメタノール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールおよび2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−ジ(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,4−ジヒドロキシ−1,1,3,3−テトラメチルシクロブタン、2,2−ビス(3−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、および2,2−ビス(4−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパンなどの部分が挙げられる。
【0041】
特に好ましいのは、テレフタル酸およびその反応性誘導体(たとえば、そのジアルキルエステル)と、エチレングリコールおよび/または1,3−プロパンジオールおよび/または1,4−ブタンジオールとだけから製造されたポリアルキレンテレフタレートであり、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートならびに前記ポリアルキレンテレフタレートの混合物が特に好ましい。
【0042】
その他の好適なポリアルキレンテレフタレートは、上述の酸成分の少なくとも2種と、および/または上述のアルコール成分の少なくとも2種とから製造されたコポリエステルであり、特に好ましいコポリエステルは、ポリ(エチレングリコール/1,4−ブタンジオール)テレフタレートである。
【0043】
ポリアルキレンテレフタレートの固有粘度は一般的に、いずれの場合もフェノール/o−ジクロロベンゼン(1:1、重量部)中25℃で測定して、約0.3cm/g〜1.5cm/g、好ましくは0.4cm/g〜1.3cm/g、特に好ましくは0.5cm/g〜1.0cm/gである。
【0044】
本発明において使用される熱可塑性ポリエステルは、他のポリエステルおよび/またはさらなるポリマーとの混合物の形で使用することもできる。
【0045】
本発明の一つの好ましい実施態様においては、成分B)を、微細針状物、ラメラ状物、球状物または不規則形状粒子などの形態で使用する。成分B)の好適な粒径は、0.1〜100μm、好ましくは1〜8μmである。前記成分B)の熱伝導度は、10〜400W/mK、好ましくは30〜250W/mKである。使用される成分B)に酸化アルミニウムを含んでいるのが特に好ましい。
【0046】
成分C)は、粉体、フレーク、ペレット、ペースト、圧縮物、押出し物、またはアグロメレートの形状で使用するのが好ましい。成分C)の粒径は、好ましくは5〜100μm、特に好ましくは10〜30μmである。
【0047】
使用される成分C)がグラファイトを含んでいるのが特に好ましい。
【0048】
一つの好ましい実施態様においては、本発明の成形組成物には、成分A)、B)およびC)に加えて、以下のものを含むこともできる:
D)0.01〜10.0重量%、好ましくは0.1〜5.0重量%のさらなる添加剤。成分D)のさらなる添加剤は、好ましくは安定剤であり、特に好ましくはUV安定剤、熱安定剤、ガンマ線安定剤、加水分解安定剤、さらには、帯電防止剤、乳化剤、成核剤、可塑剤、加工助剤、衝撃改質剤、染料または顔料である。上述の添加剤およびその他の適切な添加剤は、たとえば、Plastics Additives Handbook、5th Edition、Hanser−Verlag、Munich、2001、p.80〜84、546〜547、688、872〜874、938、966に記載されている。添加剤は、単独で、あるいは混合物の中で、あるいはマスターバッチの形態で使用することができる。
【0049】
本発明において好適な安定剤は、立体障害フェノールおよび/またはホスファイト、ヒドロキノン、芳香族二級アミンたとえばジフェニルアミン、置換レソルシノール、サリチレート、ベンゾトリアゾール、およびベンゾフェノン、ならびにさらには、前記の群および/またはそれらの混合物の各種の置換された典型物である。
【0050】
使用されるUV安定剤としては、好ましくは、各種の置換されたレソルシノール、サリチレート、ベンゾトリアゾールまたはベンゾフェノンが挙げられる。
【0051】
衝撃改質剤(エラストマー改質剤)は、極めて一般的には、コポリマーであり、好ましくは以下のモノマーの少なくとも2種からなるものである:エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブテン、イソプレン、クロロプレン、酢酸ビニル、スチレン、アクリロイルニトリル、ならびにそのアルコール成分の中に1〜18個の炭素原子を有するアクリレート、およびそれぞれメタクリレート。そのコポリマーは、相溶化基、たとえば、無水マレイン酸またはエポキシを含むこともできる。
【0052】
好適に使用される染料または顔料としては、無機顔料、特に好ましくは二酸化チタン、ウルトラマリンブルー、酸化鉄、硫化亜鉛もしくはカーボンブラック、あるいは有機顔料、特に好ましくはフタロシアニン、キナクリドン、ペリレン、あるいは染料、たとえばニグロシンおよびアントラキノン、あるいは他の着色剤が挙げられる。
【0053】
使用するに好適な成核剤には、フェニルホスフィン酸ナトリウムもしくはフェニルホスフィン酸カルシウム、酸化アルミニウムもしくは二酸化ケイ素もしくはタルクが挙げられるが、特に好ましいのはタルクである。
【0054】
また別な好ましい実施態様においては、本発明の成形組成物には、成分A)、B)、C)およびD)に加えてか、または成分D)に代えて、次のものを含むことができる:
E)0.01〜5.0重量%、好ましくは0.05〜1.0重量%の、潤滑剤および/または離型剤。好適な潤滑剤および/または離型剤は、長鎖脂肪酸(たとえば、ステアリン酸)、その塩(たとえば、ステアリン酸Caまたはステアリン酸Zn)、およびさらにはそのエステル誘導体もしくはアミド誘導体(たとえば、エチレンビスステアリルアミド)、モンタンワックス(たとえば、モンタン酸とエチレングリコールとのエステル)、およびさらには低分子量ポリエチレンワックスおよび低分子量ポリプロピレンワックスである。本発明において特に好ましい潤滑剤および/または離型剤は、8〜40個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和脂肪族カルボン酸と、2〜40個の炭素原子を有する飽和脂肪族アルコールもしくはアミンとのエステルもしくはアミドの群から選択されるものである。
【0055】
また別な好ましい実施態様においては、本発明の成形組成物には、成分A)、B)、C)、D)およびE)に加えてか、またはD)に代えてか、またはE)に代えてか、またはD)およびE)に代えて、次のものを含むことができる:
F)1〜60重量%、好ましくは5〜40重量%、特に好ましくは10〜30重量%の、充填剤または補強用材料、好ましくはガラス繊維。
【0056】
本発明の一つの特に好ましい実施態様には、以下のものを含む:
A)ポリアミドまたはポリエステル
B)酸化アルミニウムまたは窒化ホウ素
C)グラファイト
およびさらに、必要に応じて、F)ガラス繊維。
【0057】
特に好ましいのは、以下の組合せである:
A)ポリアミドまたはポリブチレンテレフタレート
B)酸化アルミニウム
C)グラファイト
およびさらに、必要に応じて、F)ガラス繊維。
【0058】
本発明はさらに、グラファイトを含み、同時に高い熱伝導性を有する、電気絶縁性成形組成物を製造するための方法も提供するが、それは以下のものを含むことを特徴としている:
A)5〜95重量%の熱可塑性ポリマー、好ましくはポリアミドまたはポリエステル、
B)1〜95重量%、好ましくは20〜80重量%、特に好ましくは40〜70重量%の、電気絶縁性、熱伝導性充填剤、および
C)1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、特に好ましくは10〜15重量%の、グラファイト。
【0059】
本発明はさらに、熱伝導性であると同時に電気絶縁性でもある熱可塑性成形組成物(好ましくはポリアミドまたはポリエステル、特に好ましくはポリアミドをベースとする)を製造するための、元素周期律表の第3主族の元素と第5もしくは第6主族の元素との化合物を組み合わせた、グラファイトの使用を提供する。酸化アルミニウムまたは窒化ホウ素を使用するのが好ましく、酸化アルミニウムを使用すれば特に好ましい。
【0060】
しかしながら、本発明はさらに、元素周期律表の第3主族の元素と第5もしくは第6主族の元素との化合物を含む熱可塑性成形組成物の、電気絶縁性を維持しながらもその熱伝導性を上げるためのグラファイトの使用も提供するが、その熱可塑性成形組成物中の前記成分の比率が少ないのが好ましい。
【0061】
本発明の成形組成物は、公知のプロセスにより、ポリマー溶融物中でそれらの成分を混合することによって製造する。適切な重量比で成分を混合する。その成分の混合(コンパウンディング)は、好ましくは、温度220〜360℃で実施し、成分を合わせて、組合せ、混合、混練、押出し加工またはロール加工することによって実施するが、異方向回転2軸スクリュー押出機またはBussニーダーでのコンパウンディングが特に好ましい。個々の成分をプレミックスしておくのが好都合である。室温(好ましくは0〜40℃)で、プレミックス成分および/または個々の成分を含む物理的混合物(ドライブレンド)から成形物または半製品を直接製造するとさらに好都合である。得られた成形用組成物は、押出成形または射出成形によって加工することができる。
【0062】
本発明においてその成形組成物から製造される成形物は、たとえば以下のようなところで使用することができる:自動車産業、電気産業、電子産業、電気通信産業、情報技術産業、もしくはコンピューター産業、または家庭用品もしくはスポーツ用品、または医療もしくは娯楽産業。特に、本発明の成形組成物は、高い熱伝導性を要求される用途において使用することができる。そのような用途の例としては、電子工学またはディスプレー技術(発光ダイオード)における構成要素のための使用が挙げられる。
【実施例】
【0063】
本発明において記載の改良を実証する目的で、まずコンパウンディングを使用して、適切なプラスチック成形組成物を調製した。個々の成分を、ZSK32コンパウンダー2軸スクリュー押出機(Coperion Werner & Pfleiderer(Stuttgart,Germany)製)の中で、260〜290℃の温度で混合し、水浴の中に押出し、ペレット化可能となるまで冷却して、ペレット化させた。そのペレットを乾燥させ(一般的には、真空オーブン中、70℃で2日間)、次いでArburg SG370−173732射出成形機中、270〜300℃の温度で加工して、60×40×4mmおよび60×60×2mmのサイズの試験片を得た。
【0064】
溶融物の流れ方向に対して直角とした60×60×2mmのサイズの試験片について、ASTM E1461に基づく方法により、Netzsch Geraetebau GmbH製のLaser Nanoflash LFA447を用い、ナノフラッシュ法を使用して熱伝導度および熱拡散度を測定した。
【0065】
60×40×4mmのサイズの試験片について、IEC 60093法を使用して、電気伝導度を測定した。適用した導電性銀ラッカー電極の間の距離は50mmであった。
【0066】
上述の方法により、以下の組成物を加工した。
【0067】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性成形組成物であって、
A)5〜95重量%の熱可塑性ポリマー、
B)1〜95重量%の電気絶縁性、熱伝導性充填剤、
および
C)1〜30重量%の熱および電気伝導性充填剤、
を含む熱可塑性成形組成物。
【請求項2】
使用される前記成分A)が、好ましくはポリアミドまたはポリエステルを含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項3】
使用される前記成分B)が、元素周期律表の第3主族の元素と第5もしくは第6主族の元素との化合物またはそれらの混合物、好ましくはアルミニウム化合物またはホウ素化合物、特に好ましくは酸化アルミニウムまたは窒化ホウ素、特別に好ましくは酸化アルミニウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項4】
使用される前記成分C)が、1種または複数の熱および電気伝導性充填剤、好ましくは炭素の同素体、特に好ましくはグラファイトを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項5】
さらに使用される成分D)が、さらなる添加剤、好ましくはUV安定剤、熱安定剤、ガンマ線安定剤、加水分解安定剤、帯電防止剤、乳化剤、成核剤、可塑剤、加工助剤、衝撃改質剤、染料、および顔料を、単独で、または混合物の形態で、またはマスターバッチの形態で含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項6】
追加の成分として、または成分D)の代わりとして使用される前記成分E)が、潤滑剤および/または離型剤を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項7】
追加の成分として、または成分D)および/もしくはE)の代わりとして使用される前記成分F)が、充填剤、好ましくはガラス繊維を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性成形組成物。
【請求項8】
成分A)、B)およびC)、さらに、必要に応じて成分D)および/またはE)および/またはF)が、上述の重量比で、組合されるか、混合されるか、混練されるか、押出し加工されるか、またはロール加工されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の熱可塑性成形組成物を製造するための方法。
【請求項9】
操作を220〜360℃の温度で実施することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
自動車産業、電気産業、電子産業、電気通信産業、情報技術産業、もしくはコンピューター産業におけるか、または家庭用品、スポーツ用品におけるか、または医療におけるか、または娯楽産業において、改良された熱伝導性を有する構成部品を製造するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の成形組成物の使用。
【請求項11】
電気絶縁性であると同時に高い熱伝導性を有するグラファイト含有成形組成物を製造するための方法であって、それらが、
A)5〜95重量%の熱可塑性ポリマー、好ましくはポリアミドまたはポリエステル、
B)1〜95重量%、好ましくは20〜80重量%、特に好ましくは40〜70重量%の、電気絶縁性、熱伝導性充填剤、および
C)1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、特に好ましくは10〜15重量%の、グラファイト、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項12】
熱伝導性であると同時に電気絶縁性でもあり、好ましくはポリアミドまたはポリエステル、特に好ましくはポリアミドをベースとする熱可塑性成形組成物を製造するための、元素周期律表の第3主族の元素と第5もしくは第6主族の元素との化合物を組み合わせたグラファイトの使用。
【請求項13】
酸化アルミニウムまたは窒化ホウ素、特に好ましくは酸化アルミニウムを使用することを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項14】
グラファイトを使用することを特徴とする、請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
元素周期律表の第3主族の元素を第5もしくは第6主族の元素と共に含む熱可塑性成形組成物の電気絶縁性を維持しながら、熱伝導性を向上させるための、グラファイトの使用。

【公表番号】特表2010−535876(P2010−535876A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519436(P2010−519436)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/060018
【国際公開番号】WO2009/019186
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】