説明

熱伝導性シリコーングリース組成物

【課題】ICパッケージの大きな反りに追従できる柔軟な熱伝導性シリコーングリース組成物を提供する。
【解決手段】(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(B)側鎖にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(C)両末端にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン(D)熱伝導性充填剤(E)白金及び白金化合物からなる群より選択される触媒(F)制御剤(G)R3aSiO(4-a)/2(R3は一価炭化水素基、aは1.8〜2.2)で表されるオルガノポリシロキサンを含有し、上記(B)と(C)の配合量は{(B)と(C)を合わせたSiH基の個数}/{(A)のアルケニル基の個数}が0.6〜1.5、(B)と(C)の割合は、{(C)由来のSiHの個数}/{(B)由来のSiHの個数}が1.0〜10.0である熱伝導性シリコーングリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に反りの大きいICパッケージにも追従できるだけでなく、かつポンピング・アウト現象も起き難い熱伝導性シリコーングリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体業界のみならず自動車業界や家電メーカーなどの様々な分野で電装化が進んでおり、半導体装置が分野に拘わらず導入され始めている。現在主流となっている半導体装置の構造は、ICパッケージとICパッケージの表面の熱を逃がすための放熱体とで構成されている。そして、その間に、熱伝導性シリコーン組成物を流し込み、圧力をかけた状態で熱硬化させて、ミクロ的に存在するICパッケージ表面や放熱体の表面にある凹凸を埋めながら発熱体と放熱体を接続している(特開2002−327116号公報:特許文献1)。この際、放熱シートや放熱グリースを用いることも可能である。しかしながら、放熱シートを用いた場合には、このミクロ的に存在する凹凸を完全には埋めることができないので、結果として断熱効果の大きい空気を一緒に挟み込んでしまうことになり、発熱量の大きいICパッケージでは十分な放熱効果は得られない。また、放熱シートの表面に粘着層を設けて、空気が入り込まないように工夫したものがあるが、これもまた発熱量の大きいICパッケージで使用される場合には同様な理由で不十分であると言える。このような空気を完全に排除するためには、液状である放熱グリースが向いているのであるが、この放熱グリースは上述した熱伝導性シリコーン組成物と異なり、装着後に硬化することはできないので、長時間使用すると成分であるシリコーンオイルが染み出てしまったり、最悪な場合には放熱グリース自体がICパッケージと放熱体の間から逃げ出してしまったりするという欠点がある。なお、このような問題を回避するために液状シリコーン組成物をポッティング剤や接着剤を用いて、発熱体と放熱体を接続する手法もあるが(特開昭61−157569号公報、特開平8−208993号公報:特許文献2,3)、この手法にも幾つか問題点がある。それは、熱伝導性を付与する充填剤含有量を上げることができないために組成物として熱伝導性が不足してしまうということや、硬化後に発熱体から受ける熱や外からの水分によって柔軟性を失い経時で剥離を起こしてしまうことなどである。このような上述した問題点を全て解決できる手法として現在主流となっているのが、液状の熱伝導性シリコーン組成物を発熱体と放熱体の間に流し込んだ後に硬化させるというものである。
【0003】
しかしながら、近年ICパッケージの構造が変化してきており、既存の熱伝導性シリコーン組成物では対応し切れなくなってきている。例えば、CPUの全体の面積が大きくなり、かつCPUを貼り付けているオーガニック基板が薄くなってきている。つまり、このような構造変化が生じると、今まで以上に加熱時と室温時での反りが大きくなってしまう。その結果、極端な場合、熱伝導性シリコーン組成物とヒートスプレッダとの界面あるいはCPUとの界面で剥離が生じたり、追随できなくなった結果、界面とは剥離せずとも熱伝導性シリコーン組成物内部で凝集破壊を起こしてしまう。このような問題を解決するために、従来では、追随性を向上させる目的で熱伝導性シリコーン組成物を柔らかくしようとして、充填剤を減量したり、架橋材を減量したりしていた。しかしながら、前者の手法では放熱性能を犠牲にすることになり、後者の手法では、柔らかくなった結果、その分放熱グリースに近づくため、ICパッケージと放熱体の間から逃げ出してしまうという、所謂ポンピング・アウト現象が起こってしまい、根本的な解決にはならない。そこで、放熱性能を維持し、ポンピング・アウト現象も起こさないといった特性を維持したまま、反りにも追従できるような熱伝導性シリコーン組成物の開発が切に望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特開2002−327116号公報
【特許文献2】特開昭61−157569号公報
【特許文献3】特開平8−208993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、液状の熱伝導性シリコーングリース組成物を発熱体と放熱体の間に流し込んだ後に、硬化させた後も、従来通り、放熱性能を下げることなく、ポンピング・アウト現象を引き起こさない特性を維持しつつ、ICパッケージの大きな反りに追従できる柔軟な熱伝導性シリコーングリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、可塑剤として下記成分(G)を添加することで、信頼性を落とすことなく、柔らかい材料を提供できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記熱伝導性シリコーングリース組成物を提供する。
請求項1:
成分(A):
1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する25℃の動粘度が10〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン 100質量部、
成分(B):
下記一般式(1)
【化1】


(式中、R1は互いに同一又は異種の炭素数1〜6のアルキル基、n、mは正数で、0.01≦n/(n+m)≦0.3を満足する。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
成分(C):
下記一般式(2)
【化2】


(式中、R2は互いに同一又は異種の炭素数1〜6のアルキル基、pは5〜1,000の範囲の正数である。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
成分(D):
10W/m℃以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填剤 800〜2,000質量部、
成分(E):
白金及び白金化合物からなる群より選択される触媒
白金原子として成分(A)の0.1〜500ppmとなる配合量、
成分(F):
アセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物より選択される制御剤 0.01〜1質量部、
成分(G):
下記平均組成式(3)
3aSiO(4-a)/2 (3)
(式中、R3は独立に非置換又は置換の炭素数1〜18の一価炭化水素基であり、aは1.8〜2.2の数である。)
で表される25℃における動粘度が10〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン 0.1〜100質量部
を含有し、上記成分(B)と成分(C)の配合量は{成分(B)と成分(C)を合わせたSi−H基の個数}/{成分(A)のアルケニル基の個数}が0.6〜1.5になる配合量であり、更には成分(B)と成分(C)の割合は、
{成分(C)由来のSi−Hの個数}/{成分(B)由来のSi−Hの個数}が1.0〜10.0になる割合であり、25℃の粘度が50〜1,000Pa・sであることを特徴とする熱伝導性シリコーングリース組成物。
請求項2:
更に、成分(H)として、下記一般式(4)で表されるオルガノシラン及び/又は下記一般式(5)で表されるオルガノポリシロキサンを成分(A)100質量部に対し0.01〜30質量部含有することを特徴とする請求項1記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
4b5cSi(OR64-b-c (4)
(式中、R4は炭素数6〜15のアルキル基、R5は炭素数1〜8の一価炭化水素基、R6は炭素数1〜6のアルキル基であり、bは1〜3の整数、cは0〜2の整数、b+cは1〜3の整数である。)
【化3】


(式中、R7は独立に非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R8は独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、qは5〜100の整数、dは1〜3の整数である。)
請求項3:
沸点80〜360℃の揮発性有機溶剤を成分(A)100質量部に対し0.1〜40質量部含有することを特徴とする請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、既存よりも遥かに反りの大きいICパッケージにおいても追従でき、かつ信頼性も高い熱伝導性シリコーングリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を構成する成分(A)のオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に直結したアルケニル基を1分子中に少なくとも2個有するもので、直鎖状でも分岐状でもよく、またこれら2種以上の異なる粘度の混合物でもよい。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基などが例示されるが、合成のし易さ、コストの面からビニル基が好ましい。ケイ素原子に結合する残余の有機基としては、脂肪族不飽和結合を有さないもので、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基などのアラルキル基が例示され、更にクロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などのハロゲン置換炭化水素基も例として挙げられる。これらのうち、合成のし易さ、コストの面からケイ素原子に結合する全有機基の90モル%以上がメチル基であることが好ましい。ケイ素原子に結合するアルケニル基は、オルガノポリシロキサンの分子鎖の末端、途中のいずれに存在してもよいが、柔軟性の面では両末端にのみ存在することが好ましい。25℃における粘度は10mm2/sより低いと組成物の保存安定性が悪くなるし、100,000mm2/sより大きくなると得られる組成物の伸展性が悪くなるため、10〜100,000mm2/sの範囲、好ましくは100〜50,000mm2/sがよい。なお、粘度はオストワルド粘度計による測定値である。
【0010】
成分(B)は、下記一般式(1)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【化4】


(但し、nとmが0.01≦n/(n+m)≦0.3(n、mは正数)の範囲にあり、R1は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0011】
成分(B)の式(1)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、n、mは正数で、n/(n+m)は0.01より小さいと架橋により組成を網状化できないし、0.3より大きいと初期硬化後の未反応Si−H基残存量が多くなり、水分などにより余剰の架橋反応が経時で進んでしまい組成物の柔軟性が失われるため、0.01〜0.3の範囲、好ましくは0.05〜0.2がよい。
【0012】
1としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等から選択されるアルキル基で、これらのうち、合成のし易さ、コストの面からR1の90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0013】
成分(C)は、下記一般式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【化5】


(但し、pは正数で、5〜1,000の範囲であり、R2は炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0014】
成分(C)の式(2)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンのpは5より小さいと揮発成分となり易く、電子部品に用いることは好ましくないし、1,000より大きいと粘度が高くなり、扱いが難しくなるため、5〜1,000の範囲、好ましくは10〜100の範囲がよい。
【0015】
2としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等から選択されるアルキル基で、これらのうち、合成のし易さ、コストの面からR2の90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0016】
成分(B)と成分(C)を合わせた配合量は、成分(A)中のアルケニル基の数に対し、成分(B)及び成分(C)中のSi−H基の数、即ち{成分(B)と成分(C)を合わせたSi−H基の個数}/{成分(A)のアルケニル基の個数}が0.6より小さいと十分な網状構造をとれず、硬化後必要な硬さが得られず、1.5より大きいと未反応のSi−H基が水分などにより余剰の架橋反応を起こし硬くなり、組成物の柔軟性が失われるため、0.6〜1.5の範囲がよい。好ましくは0.7〜1.4である。
【0017】
また、成分(B)と成分(C)の割合は、{成分(C)由来のSi−Hの個数}/{成分(B)由来のSi−Hの個数}が1.0より小さいと硬化後の適切な柔軟性が得られず、10.0より大きいと硬化が不十分となるため、1.0〜10.0の範囲、好ましくは1.5〜5.0である。
【0018】
成分(D)の充填剤は、本発明に熱伝導性を付与するためのものである。本発明の充填剤は、その充填剤のもつ熱伝導率が10W/m℃より小さいと、放熱用シリコーングリース組成物の熱伝導率そのものが小さくなるため、充填剤の熱伝導率は10W/m℃以上である。熱伝導性充填剤としては、アルミニウム粉末、銅粉末、銀粉末、ニッケル粉末、金粉末、アルミナ粉末、酸化亜鉛粉末、酸化マグネシム粉末、窒化アルミニム粉末、窒化ホウ素粉末、窒化珪素粉末、ダイヤモンド粉末、カーボン粉末、インジウム、ガリウムなどが挙げられるが、熱伝導率が10W/m℃以上であれば如何なる充填剤でもよく、1種あるいは2種以上を混ぜ合わせてもよい。
【0019】
熱伝導性充填剤(D)の充填量は、成分(A)100質量部に対し、800質量部より少ないと所望する熱伝導率が得られないし、2,000質量部より大きいとグリース状にならず、伸展性の乏しいものとなるため、800〜2,000質量部の範囲、好ましくは1,000〜1,900質量部の範囲である。
【0020】
熱伝導性充填剤の平均粒径は、0.1μmより小さいとグリース状にならず伸展性に乏しいものとなる場合があるし、100μmより大きいと放熱グリースの均一性が乏しくなる場合があるため、0.1〜100μmの範囲がよい。充填剤の形状は、不定形でも球形でも如何なる形状でも構わない。なお、この平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における体積平均値D50(即ち、累積体積が50%になるときの粒子径又はメジアン径)として測定することができる。
【0021】
成分(E)の白金及び白金化合物から選ばれる触媒は、成分(A)のアルケニル基と成分(B)及び成分(C)のSi−H基との間の付加反応の促進成分である。この成分(E)は例えば白金の単体、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−アルコール錯体、白金配位化合物などが挙げられる。
【0022】
成分(E)の配合量は、成分(A)の質量に対し、白金原子として0.1ppmより小さくても触媒としての効果がなく、500ppmを超えても特に硬化速度の向上は期待できないため、0.1〜500ppmの範囲である。
【0023】
成分(F)の制御剤は、室温でのヒドロシリル化反応の進行を抑え、シェルフライフ、ポットライフを延長させるものである。反応制御剤としては公知のものを使用することができ、アセチレン化合物、各種窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物等が利用できる。
【0024】
成分(F)の配合量は、成分(A)100質量部に対し、0.01質量部より小さいと十分なシェルフライフ、ポットライフが得られず、1質量部より大きいと硬化性が低下するため、0.01〜1質量部の範囲である。これらはシリコーン樹脂への分散性をよくするためにトルエン、キシレン、イソプロピルアルコール等の有機溶剤で希釈して使用することもできる。
【0025】
成分(G)の可塑剤は、下記平均組成式(3)
3aSiO(4-a)/2 (3)
(式中、R3は独立に非置換又は置換の炭素数1〜18の一価炭化水素基であり、aは1.8〜2.2の正数である。)
で表される25℃における動粘度が10〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサンである。動粘度が10mm2/s未満であると、硬化後組成物から抜け易くなってしまい、柔らかさが維持できなくなって、追随性を保てなくなってしまい、また、100,000mm2/sを超えると組成物自身の粘度が高くなってしまい、吐出性が悪化してしまうため、25℃における動粘度は10〜100,000mm2/sであり、より好ましくは50〜10,000mm2/sのオルガノポリシロキサンがよい。
【0026】
成分(G)の配合量は、成分(A)100質量部に対し、0.1〜100質量部、好ましくは0.5〜90質量部、更に好ましくは1.0〜80質量部である。配合量が少なすぎると、ICパッケージの大きな反りに追従できなくなり、配合量が多すぎると、ポンピング・アウト現象が起きてしまう。
【0027】
本発明には、上記成分(A)〜(G)に加えて、必要により成分(H)として、充填剤とシリコーン成分の濡れ性を向上させる添加剤を用いることが有効である。濡れ性を向上させることができる添加剤ならいずれのものでもよいが、下記一般式(4)で表されるオルガノシランや下記一般式(5)で表されるオルガノポリシロキサンが特に有用である。
一般式(4)で示されるオルガノシラン:
4b5cSi(OR64-b-c (4)
(式中、R4は炭素数6〜15のアルキル基、R5は炭素数1〜8の一価炭化水素基、R6は炭素数1〜6のアルキル基であり、bは1〜3の整数、cは0〜2の整数、b+cは1〜3の整数である。)
一般式(5)で示されるオルガノポリシロキサン:
【化6】


(式中、R7は独立に非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R8は独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、qは5〜100の整数、dは1〜3の整数である。)
【0028】
ここで、R4の具体例としては、例えばヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基等が挙げられる。炭素数が6より小さいと充填剤との濡れ性が十分でなく、15より大きいとオルガノシランが常温で固化するので、取扱いが不便な上、得られた組成物の低温特性が低下する。またbは1、2あるいは3であるが、特に1であることが好ましい。また、R5は炭素数1〜8、特に1〜6の飽和又は不飽和の一価炭化水素基であり、このような基としてはアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基等を挙げることができる。具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等のアラルキル基、3,3,3−トリフロロプロピル基、2−(ナノフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基、p−クロロフェニル基等のハロゲン化炭化水素基が挙げられるが、特にメチル基、エチル基が好ましい。R6は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの炭素数1〜6の1種もしくは2種以上のアルキル基であり、特にメチル基、エチル基が好ましい。
【0029】
上記一般式(4)で表されるオルガノシランの具体例としては、下記のものを挙げることができる。
613Si(OCH33、1021Si(OCH33、C1225Si(OCH33
1225Si(OC253、C1021Si(CH3)(OCH32
1021Si(C65)(OCH32、C1021Si(CH3)(OC252
1021Si(CH=CH2)(OCH32
1021Si(CH2CH2CF3)(OCH32
【0030】
一方、濡れ性向上剤として用いられるオルガノポリシロキサンにおいて、上記一般式(5)のR7は、独立に非置換又は置換の一価炭化水素基であり、好ましくは炭素数が1〜18のもので、その例としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基等が挙げられる。R7は好ましくはメチル基、フェニル基である。R8は独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基で、好ましくは炭素数1〜5である。アルキル基としては、例えば、R7について例示したのと同様の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基が挙げられる。アシル基としては、例えば、アセチル基、オクタノイル基が挙げられる。R8はアルキル基であることが好ましく、特にはメチル基、エチル基であることが好ましい。qは5〜100の整数である。dは1〜3の整数であり、好ましくは3である。
【0031】
上記一般式(5)で表されるオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【0032】
【化7】

(Meはメチル基を示す。)
【0033】
成分(H)の配合量は、成分(A)100質量部に対し、0.01質量部より少ないと濡れ性の乏しいものとなるし、30質量部より多くしても効果が増大することがなく、不経済であるので、0.01〜30質量部の範囲がよく、より好ましくは10〜25質量部である。
【0034】
また、前記成分(A)〜(G)、更に成分(H)を分散又は溶解する沸点80〜360℃の有機溶剤を配合し得、かかる溶剤としては特に制限はなく、例えば、トルエン、キシレン、イソパラフィンなどが挙げられるが、作業性の点から、イソパラフィン系の溶剤が好ましい。なおそのイソパラフィンの沸点は80〜360℃であるものが有効で、より好ましくは沸点260〜360℃、更に好ましくは沸点260〜300℃のものである。この場合、イソパラフィン系溶剤の沸点が80℃未満であると、揮発が速くなりすぎて作業中に組成物の粘度が上昇する不具合が生じる。一方、沸点が360℃を超えるとシリコーングリース組成物中に溶剤が残存し易くなり、ボイドが発生する等して熱特性が低下する。
【0035】
上記溶剤の配合量は、成分(A)100質量部に対し、0.1〜40質量部であることが好ましく、より好ましくは10〜30質量部である。配合量が0.1質量部未満であると、シリコーングリース組成物の粘度を十分に下げることができない場合があり、40質量部を超えると、硬化しにくくなる場合がある。
【0036】
ところで、放熱用シリコーングリース組成物の熱伝導率は、基本的に熱伝導性充填剤の配合量と相関があり、熱伝導性充填剤の配合量を多くするほど熱伝導率が向上する。一方で、熱伝導性充填剤の配合量が多いと放熱用シリコーングリース組成物自体の粘度が高くなるため、作業性や取扱い性等を考慮すると、熱伝導性充填剤の配合量には上限がある。そこで、少量の溶剤成分を配合することで、放熱用シリコーングリース組成物の粘度を急激に下げ、従来の組成物より熱伝導性充填剤の配合量が多くても作業性、取扱い性を確保することができる。
【0037】
また、本発明には、上記した成分(A)〜(G)、更には、成分(H)の一般式(4)のオルガノシランや一般式(5)のオルガノポリシロキサン及び揮発性溶剤以外に必要に応じて、CPUなどのICパッケージとヒートシンク等の放熱体とを化学的に接着、固定するために接着助剤等を入れてもよいし、劣化を防ぐために酸化防止剤等を入れてもよい。
【0038】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、上記成分(A)〜(G)、更には成分(H)、その他の任意成分を混合し、1液付加タイプとして長期低温保存できる。また、これらに揮発性溶剤を加えたものも同様に1液付加タイプとして長期低温保存できる。
【0039】
本発明において、半導体装置組立て時には、この熱伝導性シリコーン組成物は市販されているシリンジに詰めてCPU等のICパッケージ表面上に塗布、貼り合わせられる。このため、粘度が50Pa・sより低いと塗布時に液垂れを起こしてしまうし、1,000Pa・sより高いと塗布効率が悪くなるため、50〜1,000Pa・sの範囲で使用可能であるが、好ましくは100〜400Pa・sがよい。なお、この粘度は、マルコム粘度計による測定値である。
【0040】
ディスペンスされた後、ICパッケージからの発熱によって硬化し、硬化後はこの組成物はタック性を有するので、基材からずれたり、また経時においても安定した柔軟性を持つことから基材から剥がれたりすることはない。またディスペンス後、積極的に加熱硬化させてもよく、硬化条件は、120℃で90分間加熱することが好ましい。
【0041】
なお、製造方法は、ゲートミキサー(井上製作所(株)製、商品名:プラネタリミキサー)に成分(A)、(B)、(C)、(D)、(G)を取り、必要に応じて成分(H)のオルガノシランやオルガノポリシロキサンを加え、室温で1時間混合し、次に成分(F)を加え、例えば15分間室温にて混合し、その後更に成分(E)を加え、均一になるように例えば15分間室温にて混合する方法を採用し得るが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を掲げて本発明を更に詳述するが、本発明は下記の実施例に限られるものではない。
まず、本発明組成物を形成する以下の各成分を用意した。なお、下記例中Meはメチル基を示す。
【0043】
成分(A):
A−1
両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が600mm2/sのジメチルポリシロキサン
【0044】
成分(B):
下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化8】

【0045】
成分(C):
下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化9】

【0046】
成分(D):
下記のアルミニウム粉末、アルミナ粉末及び酸化亜鉛粉末を、5リットルゲートミキサー(井上製作所(株)製、商品名:5リットルプラネタリミキサー)を用い、下記表1の混合比で室温にて15分間混合し、D−1〜3を得た。
平均粒径4.9μmのアルミニウム粉末
平均粒径15.0μmのアルミニウム粉末
平均粒径15.0μmのアルミナ粉末
平均粒径1.0μmの酸化亜鉛粉末
【0047】
【表1】

【0048】
成分(E):
E−1
白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のA−1溶液、白金原子として1質量%含有
【0049】
成分(F):
F−1
1−エチニル−1−シクロヘキサノールの50質量%トルエン溶液
【0050】
成分(G):
G−1
動粘度500mm2/sのジメチルオルガノポリシロキサン
G−2(比較用)
動粘度5mm2/sのジメチルオルガノポリシロキサン
G−3(比較用)
動粘度1,000,000mm2/sのジメチルオルガノポリシロキサン
【0051】
成分(H):
(使用したオルガノシラン)
H−1
オルガノシラン〈1〉:C613Si(OCH33
H−2
オルガノシラン〈2〉:C1021Si(OCH33
(使用したオルガノポリシロキサン)
H−3
オルガノポリシロキサン〈1〉
【化10】

【0052】
(使用した溶剤)
IPソルベント2835(イソパラフィン系溶剤、出光興産(株)製、商品名)沸点270〜350℃
【0053】
上記成分を以下のように混合して実施例1〜9及び比較例1〜11の組成物を得た。
即ち、5リットルゲートミキサー(井上製作所(株)製、商品名:5リットルプラネタリミキサー)に成分(A)、(B)、(C)、(G)及び溶剤を取り、表2、表3に示す配合量で成分(D)を更に量り取り、必要に応じて成分(H)としてオルガノシランやオルガノポリシロキサンを加え、室温で1時間混合した。次に成分(F)をそれぞれ表2、表3に示す配合量で加え、15分間室温にて混合した。その後更に成分(E)をそれぞれ表2、表3に示す配合量で加え、均一になるように15分間室温にて混合した。
【0054】
熱伝導率:
直径12.5mm×厚さ1.0mmの2枚のアルミニウム板に上記実施例及び比較例で得た組成物を挟んで試験片を作製し、試験片の厚みをマイクロメータ((株)ミツトヨ製)で測定し、予め測定してあったアルミニウム板2枚分の厚みを差し引いて、該組成物の厚みを算出した。このような方法で試験片の厚みが異なるサンプルをそれぞれ数点作製した。その後、それぞれのサンプルを125℃中で90分間放置することで硬化させ、よく冷えるのを待ってから再度該組成物の厚みを算出した。上記試験片を用いて該組成物の熱抵抗(単位:mm2−K/W)をレーザーフラッシュ法に基づく熱抵抗測定器(ネッチ社製、キセノンフラッシュアナライザー;LFA447 NanoFlash)により25℃において測定した。それぞれ厚みの異なる熱抵抗値を組成物ごとにプロットし、そこから得られた直線の傾きの逆数から熱伝導率を算出した。
【0055】
粘度:
組成物の絶対粘度は25℃における値を示し、その測定はマルコム粘度計(タイプPC−1T)を用いた。
【0056】
硬度測定(高分子計器(株)製AskerC使用(低硬さ用)):
組成物の経時での柔軟性を硬度測定することで評価した。10mm厚の型に流し込み、125℃で1時間加熱して、厚み10mmのシート状のゴム成形物を調製した。その後、25℃に戻して初期硬度を測定した。更に温度130℃、湿度100%、2気圧の条件下に100時間放置後、25℃に戻して再び硬度を測定した。
【0057】
信頼性評価:
シリコンウェーハー(2cm×2cm)とガラスの間に熱伝導性シリコーングリース組成物を挟み込んだ後、125℃中で90分間放置して硬化させた。その後、ヒートサイクル条件下[−45℃(30分)⇔125℃(30分)を1,000サイクル]に放置し、ポンピング・アウトが起こっているかどうかを確かめた。ポンピング・アウトが起こっていなかったものを信頼性○とし、起きてしまったものを×とした。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):
1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する25℃の動粘度が10〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン 100質量部、
成分(B):
下記一般式(1)
【化1】


(式中、R1は互いに同一又は異種の炭素数1〜6のアルキル基、n、mは正数で、0.01≦n/(n+m)≦0.3を満足する。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
成分(C):
下記一般式(2)
【化2】


(式中、R2は互いに同一又は異種の炭素数1〜6のアルキル基、pは5〜1,000の範囲の正数である。)
で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
成分(D):
10W/m℃以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填剤 800〜2,000質量部、
成分(E):
白金及び白金化合物からなる群より選択される触媒
白金原子として成分(A)の0.1〜500ppmとなる配合量、
成分(F):
アセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物、有機クロロ化合物より選択される制御剤 0.01〜1質量部、
成分(G):
下記平均組成式(3)
3aSiO(4-a)/2 (3)
(式中、R3は独立に非置換又は置換の炭素数1〜18の一価炭化水素基であり、aは1.8〜2.2の数である。)
で表される25℃における動粘度が10〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン 0.1〜100質量部
を含有し、上記成分(B)と成分(C)の配合量は{成分(B)と成分(C)を合わせたSi−H基の個数}/{成分(A)のアルケニル基の個数}が0.6〜1.5になる配合量であり、更には成分(B)と成分(C)の割合は、
{成分(C)由来のSi−Hの個数}/{成分(B)由来のSi−Hの個数}が1.0〜10.0になる割合であり、25℃の粘度が50〜1,000Pa・sであることを特徴とする熱伝導性シリコーングリース組成物。
【請求項2】
更に、成分(H)として、下記一般式(4)で表されるオルガノシラン及び/又は下記一般式(5)で表されるオルガノポリシロキサンを成分(A)100質量部に対し0.01〜30質量部含有することを特徴とする請求項1記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
4b5cSi(OR64-b-c (4)
(式中、R4は炭素数6〜15のアルキル基、R5は炭素数1〜8の一価炭化水素基、R6は炭素数1〜6のアルキル基であり、bは1〜3の整数、cは0〜2の整数、b+cは1〜3の整数である。)
【化3】


(式中、R7は独立に非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R8は独立にアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、qは5〜100の整数、dは1〜3の整数である。)
【請求項3】
沸点80〜360℃の揮発性有機溶剤を成分(A)100質量部に対し0.1〜40質量部含有することを特徴とする請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。

【公開番号】特開2010−150399(P2010−150399A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330273(P2008−330273)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】