説明

熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた成形品

【課題】成形加工性に優れるとともに、高い熱伝導性および優れた機械的特性を有する成形品を与える熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供する。
【解決手段】少なくとも、熱可塑性樹脂40vol%以上と、偏平状で平均アスペクト比が2以下である熱伝導性フィラー10vol%以上と、ガラス繊維5vol%以上とを含み、熱伝導性フィラーとガラス繊維の体積比が熱伝導性フィラー/ガラス繊維=2/1〜10/1である熱伝導性樹脂組成物と当該樹脂組成物を成形してなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関し、さらに詳しくは、成形加工性に優れ、優れた熱伝導性および機械的特性を有する成形品を与える熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の半導体素子の集積密度増大と動作の高速化、そして電子部品の高密度実装に伴い、発熱源となる電子部品に対する放熱対策が大きな問題となっている。例えば、電子部品のハウジングには、従来、熱伝導率の高い金属やセラミックスが使われてきたが、近年、形状選択の自由度が大きく小型・軽量化の容易な樹脂系材料が用いられている。
【0003】
樹脂系材料としては、従来、マトリックスとなる樹脂中に熱伝導性フィラー、例えば、カーボンファイバー(CF)、黒鉛粉末、金属粉末あるいはセラッミクス粉末等を分散し、同時に機械的特性を向上させる目的で通常ガラス繊維が配合された樹脂組成物が用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−89652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機械的特性を向上させる目的でガラス繊維を配合した樹脂組成物では、成形時のガラス繊維の配向に伴う線膨張係数の異方性が現れる。すなわち流れ方向と流れ方向に直角方向とでは異なった線膨張係数を示し、成形して得られた成形品は反りや変形を生じ、高精度を要求される電子部品には適用できないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決し、成形加工性に優れるとともに、高い熱伝導性および優れた機械的特性を有する成形品を与える熱伝導性樹脂組成物およびそれを用いた成形品を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、少なくとも、熱可塑性樹脂40vol%以上と、偏平状で平均アスペクト比が2以下である熱伝導性フィラー10vol%以上と、ガラス繊維5vol%以上とを含み、熱伝導性フィラーとガラス繊維の体積比が熱伝導性フィラー/ガラス繊維=2/1〜10/1であることを特徴とする。
【0008】
本発明の樹脂組成物においては、上記熱伝導性フィラーが、鱗状黒鉛、銅フレーク、アルミフレーク、銀フレークおよび窒化ホウ素からなる群から選択された1種以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の樹脂組成物においては、上記熱可塑性樹脂が液晶ポリマーであることが好ましい。
【0010】
本発明の成形品は、上記の本発明の熱伝導性樹脂組成物を成形して成るものである。
【0011】
本発明の成形品は、熱伝導率が2W/(m・k)以上で、線膨張係数の異方性(TD−MD)が±10ppm/℃以下であることが好ましい。
【0012】
ここで、線膨張係数の異方性(TD−MD)とは、成形品の流れ方向の線膨張係数をMDとし、流れ方向と直交する方向の線膨張係数をTDとしたとき、(TD−MD)の式で示される線膨張係数の差を成形品の異方性をあらわす指標として定義される。
【0013】
また、本発明の成型品は光ピックアップベースが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガラス繊維とともに、偏平状で平均アスペクト比が2以下である熱伝導性フィラーを、熱伝導性フィラーとガラス繊維の体積比が熱伝導性フィラー/ガラス繊維=2/1〜10/1となるように配合した樹脂組成物を用いることにより、成形品の線膨張係数の異方性を抑制することが可能となり、成形加工性に優れた熱伝導性樹脂組成物を提供することが可能となる。また、優れた機械的特性および熱伝導性を有する成形品を提供することが可能となる。また、成形品は、環境温度の変化や周辺部品の発熱等の影響により熱変形が抑制され、優れた寸法安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の熱伝導性樹脂組成物に用いる鱗状黒鉛の形状を示す走査型電子顕微鏡写真の一例である。
【図2】本発明の熱伝導性樹脂組成物を用いて作製した光ピックアップベースを用いた光ディスク駆動装置の構造の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の熱伝導性樹脂組成物を用いて作製した光ピックアップベースの構造の一例を示す模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明に用いる熱可塑性樹脂は、JIS K 7191で規定する荷重たわみ温度が100℃以上の耐熱性樹脂であれば特に限定されない。具体的には、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリカーボネイト、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフタールアミドおよびポリアミド等を挙げることができるが、液晶ポリマー(LCP)が好ましい。液晶ポリマーは耐熱性が高く、高流動で薄肉充填性が良好であり、さらに衝撃吸収性などに優れることから、電子部品のハウジングや、電子部品からの熱を外部に逃がすためのヒートシンクやファン等の放熱対策用途に適しているからである。
【0017】
ここで、液晶ポリマーとは、光学異方性を有する溶融相を形成する性質を有するポリマーである。光学異方性を有する溶融相は、直交偏光子を利用した偏光顕微鏡観察による偏光検査法により確認することができる。液晶ポリマーの種類は特に限定されないが、芳香族ポリエステルまたは芳香族ポリエステルアミドが好ましい。
【0018】
熱可塑性樹脂の体積含有率は、成形加工性を確保するため、樹脂組成物に対して40vol%以上、好ましくは40〜85vol%である。
【0019】
本発明に用いる熱伝導性フィラーは、偏平状で、平均アスペクト比が2以下、好ましくは1.1〜1.9である。熱伝導性フィラーの平均アスペクト比が2より大きいと、成形品の線膨張係数の異方性が大きくなり、反りや熱変形が発生するからである。本発明に用いる熱伝導性フィラーは、球状粒子等の嵩高い粒子に比べ、成形体へより高濃度に充填させることが可能となり、成形品の線膨張係数の異方性を低減することができる。
ここで、本発明における偏平状の熱伝導性フィラーとは、長軸と短軸を有する形状の熱伝導性フィラーであって、完全な球ではないものをいい、例えば、鱗状、一部の塊状形状等が含まれる。そして、アスペクト比は、長軸長さ/短軸長さで定義される。平均アスペクト比は、熱伝導性フィラーを走査型電子顕微鏡で観察し、視野内の各偏平状フィラーについて、長軸長さと短軸長さとをそれぞれ計測し、50個のフィラーのアスペクト比を平均して平均アスペクト比とした。また、熱伝導性フィラーの長軸長さは20〜100μm、短軸長さは10〜90μmの範囲にあることが好ましい。
【0020】
また、本発明に用いる熱伝導性フィラーの熱伝導率は、100W/(m・k)以上、好ましくは200W/(m・k)以上である。
【0021】
本発明に用いる熱伝導性フィラーの具体例として、鱗状黒鉛、銅フレーク、アルミフレーク、銀フレーク、窒化ホウ素等を挙げることができる。これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、鱗状黒鉛、銅フレークまたはアルミフレークの少なくとも1種、より好ましくは鱗状黒鉛である。
【0022】
図1は、本発明に用いる鱗状黒鉛の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。その鱗状黒鉛の平均アスペクト比は、約1.6である。
【0023】
熱伝導性フィラーの体積含有率は、樹脂組成物に対して10vol%以上、好ましくは、10〜40vol%である。10vol%より小さいと熱伝導率が低下し、40vol%より大きいと樹脂組成物の成形加工性が低下し、機械的強度も低下するからである。
【0024】
熱伝導性フィラーは、平均アスペクト比が2以下となるように製造されたものだけでなく、平均アスペクト比が2以下となるようにジェットミル、ヘンシェルミキサーあるいはタンブラー等を用いて加工・篩い分けしたものも用いることができる。
【0025】
本発明に用いるガラス繊維は、熱可塑性樹脂用の充填材として通常使用されているものであれば特に限定されないが、カット長が3〜6mm、繊維径が10〜13μm、平均アスペクト比(カット長/繊維径)が230〜600であるものが好ましい。
【0026】
ガラス繊維の体積含有率は、機械的強度を確保するため、樹脂組成物に対して5vol%以上、好ましくは5〜20vol%である。
【0027】
本発明では、熱伝導性フィラーとガラス繊維の体積比が、熱伝導性フィラー/ガラス繊維=2/1〜10/1、好ましくは5/2〜10/1である。体積比が、2/1よりも小さいと、熱伝導性フィラーが少なく線膨張係数の異方性を抑制する効果が十分ではなく、また10/1よりも大きいと、熱伝導性フィラーが多く樹脂組成物の成形加工性が著しく低下するからである。
【0028】
また、本発明の樹脂組成物は、原料粉を所定量混合して混練し、所定の金型を有する、射出成形機や圧縮成形機、そして押出成形機等を用いて、所望形状に成型することができる。特に、成形サイクルが短く生産性に優れる射出成形法が好ましい。
【0029】
本発明の成形品は、熱伝導率が2W/(m・k)以上、好ましくは6W/(m・k)以上であり、かつ線膨張係数の差(TD−MD)が15ppm/℃以下、好ましくは10ppm/℃以下である。
【0030】
本発明の成形品の例としては、電子部品のハウジングや、電子部品からの熱を外部に逃がすためのヒートシンクやファン等を挙げることができる。具体例としては、光ピックアップにおいて半導体レーザを収容する放熱体である光ピックアップベース、半導体素子用のパッケージ材料やヒートシンク材、ファンモータのケーシング、モータコア用のハウジング、二次電池用のケース、さらには、パソコンや携帯電話の筐体等を挙げることができる。
【0031】
図2は、本発明の光ピックアップベースを用いた光ディスク駆動装置の構造の一例を示す模式図である。光ディスク駆動装置は、シャーシ10と、シャーシ10に取付けられた主軸11と副軸12と、主軸11と副軸12に摺動自在に取付けられた光ピックアップ13とを備えている。光ピックアップ13は、制御系(不図示)により制御された駆動モータ(不図示)の駆動力により、主軸11と副軸12に沿って光ディスクDの半径方向に移動し、情報の記録と再生を行う。
【0032】
ここで、光ピックアップ13は、図3に示す本実施例の光ピックアップベース14とレーザダイオードホルダ(不図示)を介して取付けられたレーザダイオード(不図示)とから成る。光ピックアップベース14は、基体14aと、基体14aの一端に所定の間隔で配置され基体14aと一体的に成形された2つの主軸受14b,14bを有する一方、基体14aの他端には基体14aと一体的に成形された副軸受14cを有している。主軸受14b,14bと副軸受14cは、それぞれ、主軸11と副軸12に遊挿されている。また、レーザダイオードホルダはレーザダイオードホルダ取付け部14dに取付けられる。レーザダイオードからの出射光は、図示しない光学素子により光ディスクDに向けて出射される。
【0033】
本発明の光ピックアップベースは、従来の金属製の光ピックアップベースに比べ軽量であり、光ディスクに対するアクセス速度をより高速にできるだけでなく、2W/(m・k)以上の高い熱伝導率を有しており、レーザダイオードからの発熱を逃がすことができる放熱性を有している。
【実施例】
【0034】
(試料作製)
熱可塑性樹脂には液晶ポリマー(Zenite7000、デュポン社製)、熱伝導性フィラーには、鱗状黒鉛(平均アスペクト比:約1.6)、銅フレーク(平均アスペクト比:約1.7)、またはアルミフレーク(平均アスペクト比:約1.9)を、ガラス繊維には、平均直径が13μm、平均繊維長が3mmのものを用いた。
【0035】
表1の組成に配合した原料混合粉を混練押出し機に投入し、温度310〜340℃で混練し、押出して成形用ペレットを作製した。この成形用ペレットを熱プレスにより成形し、切削加工して、直径10mm、厚さ1.5mmの円柱形状の評価用成形試料を得た。また、比較として、熱伝導性フィラーに球状の黒鉛粉末(平均アスペクト比:約1.1)を用いたもの(試料9)と、炭素繊維(平均アスペクト比:約600)を用いたもの(試料10)と、2種の熱伝導性フィラーを組み合わせたもの(試料11)を、上記の方法と同様にして評価用成形試料を作製した。
【0036】
【表1】

【0037】
(熱伝導率測定)
Xeフラッシュ法を用いて熱伝導率を算出した。熱拡散率は、NETZSCH社製 Xeフラッシュアナライザー(型式LFA447)を用いて測定し、比熱は株式会社島津製作所製熱流束示差走査熱流計(型式DSC-50)を用いて測定し、密度は水中置換法によって測定し、それらを掛け合わせて、熱伝導率を算出した。熱伝導率の測定結果を表2に示す。
【0038】
(線膨張係数測定)
成形品の流れ方向の線膨張係数(MD)と、流れ方向と直交する方向の線膨張係数(TD)は、前記と同様にして得られた成形用ペレットを射出成形機よりISO 3167(JIS K7139)に準拠した多目的試験片を成形し、切削加工により流れ方向及び流れ方向と直交する方向に切り出し測定用サンプルとした。この各サンプルを株式会社リガク製 熱機械分析装置(TMA、型式CN8098F1)を用いて、JIS K7197に準拠し、温度変化に対する試料長の変化量を測定した。測定値を10-6/℃ = ppm/℃で表し、その差(TD-MD)を線膨張係数の異方性とした。
【0039】
(曲げ強さ測定)
曲げ強さは、東洋ボールドウィン株式会社製 大型万能試験機(テンシロン、型式UTM-5T)を用いて,ISO 178(JIS K7171)に準拠した試験方法にて実施し求めた。試験片は、ISO 3167(JIS K7139)に準拠した多目的試験片を用いた。結果を、表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示すように、本発明の樹脂組成物を用いて作製した試料3,4,5,6,8,11では、熱伝導率が2W/(m・k)以上であり、線膨張係数の異方性(TD−MD)が15ppm/℃以下であった。また、曲げ強さも実用には十分な強度が得られた。一方、熱伝導性フィラーを添加しなかった場合(試料1)や、熱伝導性フィラーに球状粒子や平均アスペクト比が2より大きいフィラーを用いた場合(試料9,10)には、線膨張係数の異方性(TD−MD)が20以上であった。
【0042】
(光ピックアップベースの作製)
表1の試料4の組成に配合した原料混合粉を混練押出し機に投入し、温度310〜340℃で混練し押出して成形用ペレットを作製した。この成形用ペレットを射出成形機に投入し、温度310〜340℃で射出成形することにより、図3に示す形状を有する光ピックアップベースを製作した。
この光ピックアップベースは、2W/(m・k)以上の熱伝導率と、15ppm/℃以下の線膨張係数の異方性(TD−MD)であり、その高い熱伝導性により、レーザダイオードからの発熱を逃がすことができる十分な放熱性を有している。
【0043】
以上、説明したように、本発明によれば、成形品の線膨張係数の異方性を抑制することができる成形加工性に優れた熱伝導性樹脂組成物を提供することができる。これにより、優れた機械的特性および熱伝導性を有する成形品を提供できる。例えば、光ピックアップベースに用いた場合、レーザ等の発光素子の発光特性を維持するのに十分な放熱性を有している。さらに、金属製のものに比べ軽量で高速移動が可能であり、光ディスクに対するアクセス速度を大幅に向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
10 シャーシ
11 主軸
12 副軸
13 光ピックアップ
14 光ピックアップベース
14a 基体
14b 主軸受
14c 主軸受
14d レーザーダイオードホルダ取付け部
D 光ディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、熱可塑性樹脂40vol%以上と、偏平状で平均アスペクト比が2以下である熱伝導性フィラー10vol%以上と、ガラス繊維5vol%以上とを含み、熱伝導性フィラーとガラス繊維の体積比が熱伝導性フィラー/ガラス繊維=2/1〜10/1である射出成形用熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
上記熱伝導性フィラーが、鱗状黒鉛、銅フレーク、アルミフレーク、銀フレークおよび窒化ホウ素からなる群から選択された1種以上である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
上記熱可塑性樹脂が液晶ポリマーである請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載の熱伝導性樹脂組成物から成る成形品。
【請求項5】
熱伝導率が2W/(m・k)以上で、線膨張係数の異方性(TD−MD)が±10ppm/℃以下である、請求項4記載の成形品。
【請求項6】
成形品が光ピックアップベースである請求項4または5に記載の成形品。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−116842(P2011−116842A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274618(P2009−274618)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(394026471)日本科学冶金株式会社 (13)
【Fターム(参考)】