説明

熱伝導性樹脂組成物

【課題】表面処理されていない金属酸化物粒子を用いても沈降せず、分散安定性が良好な熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂(A)、表面処理されていない金属酸化物粒子(B)、および金属水酸化物粒子(C)を含み、(A)〜(C)の質量が、[{(B)+(C)}/{(A)+(B)+(C)}]=0.6〜0.9(質量比)および[(C)/{(B)+(C)}]=0.4〜0.9(質量比)の関係を満たし、25℃における粘度が10Pa・s以上である熱伝導性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物粒子の分散安定性が良好な熱伝導性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のパワーデバイスの発展は目覚しく、電力、産業、鉄道分野等のインフラを支える電力変換装置にとって必要不可欠なものである。特に、電気自動車、ハイブリッド自動車といったモーターを動力とする自動車の制御基板でのパワーデバイスの存在は、重大である。車載用モーター駆動に使用されるパワーデバイスの素子が制御する電流は100〜150A程度であり、このとき素子にはおよそ200〜300W/cmの損失熱が発生するといわれている。この損失熱は素子の寿命に影響を与えるため、発生した熱を効率よく外部に放熱する必要がある。
【0003】
一般に、素子と基板との間には、放熱促進のための熱伝導性樹脂が充填されている。素子以外の部分に漏電することを防ぐため、充填材は絶縁性である必要がある。
【0004】
前記充填材は、通常、熱硬化性樹脂に熱伝導性である金属酸化物粒子を含んだ液状物を硬化して成形される。しかしながら、熱硬化性樹脂に金属酸化物粒子を含ませると沈殿や分離が生じるため、金属酸化物粒子の表面を化学的に修飾して沈降を抑制し、分散安定性を向上させることがおこなわれている。
【0005】
例えば、特許文献1では、金属酸化物粒子を塩基性物質およびシランカップリング剤で表面処理したものを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−171208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の熱伝導性樹脂を素子と基板の間の充填材として用いた場合、素子が高温になると、熱伝導性樹脂中の金属酸化物粒子の表面処理剤が分解し、ボイドやクラックが発生するという問題があった。また、表面処理剤を用いないものに比べて絶縁性が低いという問題があった。
【0008】
本発明は、これらの問題を解決するものであり、金属酸化物粒子の分散安定性が良好で、かつ耐熱性、熱伝導性、絶縁性に優れた熱伝導性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討の結果、表面処理されていない金属酸化物粒子と、金属水酸化物粒子を併用することにより、熱伝導性、絶縁性に加えて、金属酸化物粒子の分散安定性や、耐熱性が優れた熱伝導性樹脂組成物を得ることができることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)熱硬化性樹脂(A)、表面処理されていない金属酸化物粒子(B)、および金属水酸化物粒子(C)を含み、(A)〜(C)の質量が、[{(B)+(C)}/{(A)+(B)+(C)}]=0.6〜0.9(質量比)および[(C)/{(B)+(C)}]=0.4〜0.9(質量比)の関係を満たし、25℃における粘度が10Pa・s以上である熱伝導性樹脂組成物。
(2)金属酸化物が酸化アルミニウムである(1)記載の熱伝導性樹脂組成物。
(3)金属水酸化物が水酸化マグネシウムである(1)または(2)記載の熱伝導性樹脂組成物。
(4)熱硬化性樹脂(A)がエポキシ樹脂である(1)〜(3)いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
(5)エポキシ樹脂が、ジシクロペンタジエン骨格を含むものである(4)記載の熱伝導性樹脂組成物。
(6)金属水酸化物粒子の平均粒子径が1〜5μmである(1)〜(5)いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
(7)金属酸化物粒子の平均粒子径が3〜25μmである(1)〜(6)いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
(8)(1)〜(7)いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を硬化してなる成形体。
(9)(1)〜(7)いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を硬化してなる被膜。
(10)(1)〜(7)いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を硬化してなるシート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面処理されていない金属酸化物粒子を用いても、沈降が抑制され、3ヶ月以上の長期間にわたって、分散安定性が良好な熱伝導性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明の熱伝導性樹脂組成物から得られる成形体、被膜やシートは、表面処理されていない金属酸化物粒子を用いているため、熱伝導性と絶縁性に加えて、耐熱性に優れ、高温に曝されてもボイドやクラックが発生しにくい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)、表面処理されていない金属酸化物粒子(B)および金属水酸化物粒子(C)を含有する。
【0012】
熱硬化性樹脂(A)としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられ、中でも、絶縁性が高くなることから、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、ビスフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格、オキセタン骨格、またはジシクロペンタジエン骨格を有することが好ましく、中でも、耐熱性が高くなることから、ジシクロペンタジエン骨格を有することがより好ましい。
【0013】
熱硬化性樹脂(A)の25℃における粘度は、100〜4000mPa・sであることが好ましく、200〜2000mPa・sであることがより好ましい。(A)の粘度を200〜2000mPa・sとすることで、(B)の分散安定性を向上させやすい。
【0014】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、表面処理されていない金属酸化物粒子(B)を含有させる必要がある。(B)を含有させることで、本発明の樹脂組成物に熱伝導性および絶縁性を付与することができる。(B)は表面処理されていないことが必要である。(B)として表面処理された金属酸化物粒子を用いた場合、耐熱性、絶縁性が低下するので好ましくない。なお、「表面処理されていない」とは、金属酸化物粒子の表面が有機物によって改質されていないことを言い、例えば、500℃で10時間加熱した際に質量減少率が0.3質量%以下になることを指す。表面処理としては、エポキシシランやシラノールエステル等による表面処理が挙げられる。(B)の金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化銅、酸化ジルコニウム、炭酸マグネシム等が挙げられ、中でも、絶縁性が高くなることから、酸化アルミニウムが好ましい。これらは無機物でコーティングされたものであってもよい。(B)の粒子形状は、球状であるか、鱗片状であることが好ましい。(B)の形状が球状である場合、(B)の粒子径は3〜25μmであることが好ましい。一方、(B)の形状が鱗片状である場合、(B)の粒子径は0.6〜10μmであること好ましい。(B)の粒子径をこの範囲とすることで、(B)の分散安定性を向上させやすい。
【0015】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物には、金属水酸化物粒子(C)を含有させる必要がある。(C)を含有させることで、(B)の分散安定性を向上させることができる。熱伝導性樹脂組成物に(C)が含まれていない場合、金属酸化物粒子(B)の分散安定性を維持することができない。(C)としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化鉄、水酸化銅(II)等が挙げられ、中でも、絶縁性が高くなることから、水酸化マグネシウムが好ましい。理由は定かではないが、(C)は表面処理なしに熱硬化性樹脂への良好な分散安定性を有しており、表面処理は特に必要としない。(C)の形状は、球状であるか、鱗片状であることが好ましく、中でも、鱗片状であることが好ましい。(C)の形状が鱗片状である場合、その粒子径は1〜5μmであることが好ましく、1〜3μmであることがより好ましい。粒子径を1〜5μmとすることで、(B)の分散安定性を向上させやすい。
【0016】
(A)〜(C)の合計に対する、(B)と(C)の合計の含有比率は、60〜90質量%とすることが必要で、80〜90質量%とすることが好ましい。(B)と(C)の合計の含有比率が60質量%未満である場合、熱伝導性や絶縁性が低くなるので好ましくない。一方、(B)と(C)の合計の含有比率が90質量%を超える場合、絶縁性が低くなるので好ましくない
【0017】
また、(B)と(C)の合計に対する(C)の含有比率は、40〜90質量%とすることが必要で、60〜90質量%とすることが好ましい。(C)の含有比率が40質量%未満の場合、(B)の分散安定性が低下するので好ましくない。一方、(C)の含有比率が90質量%を超える場合、熱伝導性が低下するので好ましくない。
【0018】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、(A)〜(C)の合計100質量部に対して10質量部を超えない範囲で、(B)および(C)以外の熱伝導性物質を含んでいてもよい。そのような熱伝導性物質としては、金属シリコン粒子、窒化アルミナ、窒化ホウ素、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0019】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、粘度を下げるため、有機溶媒が含まれていてもよい。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、フェネトール等のエーテル化合物、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、3,4−ジクロロトルエン等のハロゲン化芳香族化合物、ニトロベンゼン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられ、中でも、熱硬化性樹脂との相溶性が高いことから、エーテル化合物が好ましい。有機溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、(A)〜(C)の合計100質量部に対して10質量部を超えない範囲で、熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリイミド、ベンゾオキサジン、ポリベンゾオキサゾールとベンゾオキサジンとの反応物等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物には硬化剤や硬化触媒を含んでいてもよい。硬化剤としては、脂環式酸無水物、シクロヘキサントリカルボンサン酸無水物、ポリアリルアミン、ドデカメチレンジアミン、トリグリシジルイソシアネート、ポリイソシアネート、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミン、ダイアセトンアクリルアマイド、多官能チオール化合物、ポリアミノアミド、イソシアネートモノマー、有機ジルコニウム、有機チタン、アルキルフェノン系、ビズイミダゾール、マレイド等が挙げられる。硬化触媒としては、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリスエチルヘキシル酸塩等が挙げられる。
【0022】
熱伝導性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂(A)と硬化剤の配合比率は、硬化剤の活性水素量が、(A)の末端基量に対して、0.8〜2.0倍当量となるようにすることが好ましく、1.2〜1.7倍当量とすることがより好ましい。前記配合比率を0.8〜2.0倍当量の範囲とすることで、速やかに硬化させることができる。
【0023】
本発明の熱伝導性樹脂組成物には、特性を損なわない範囲において、さらに、可塑剤、分散剤、レベリング剤等を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の25℃における粘度は10Pa・s以上であることが必要であり、10〜20Pa・sであることが好ましい。粘度が10Pa・s未満の場合、金属酸化物粒子の沈降速度が大きくなり、本発明で要求される分散安定性を達成できなくなるため好ましくない。
【0025】
本発明の熱伝導性樹脂組成物をパワーデバイス等の用途に用いるためには、熱伝導率は1W/(m・K)以上とすることが好ましく、2W/(m・K)以上とすることがより好ましい。熱伝導率は金属酸化物粒子や金属水酸化物粒子の種類や量を変更することで制御することができる。また、絶縁破壊電圧は、30kV/mm以上とすることが好ましく、50kV/mm以上とすることがより好ましい。絶縁破壊電圧は金属酸化物粒子や金属水酸化物粒子の種類や量を変更したり、分散性を調整したりすることで制御することができる。
【0026】
熱伝導性樹脂組成物の製造方法は、(A)、(B)および(C)が混合できれば、特に限定されない。例えば、(A)、(B)および(C)を同時に混合してもよいし、(B)と(C)を混合した後(A)を混合してもよいし、また、(A)と(B)を混合した後(C)を混合してもよいし、(A)と(C)を混合した後(B)を混合してもよい。
【0027】
混合方法としては、攪拌翼、振動攪拌、ディゾルバーによって攪拌する方法等が挙げられる。中でも、振動攪拌によってプレミックスをおこない、ディゾルバーによってさらに攪拌する方法が、(B)の分散安定性をより向上させることができ、好ましい。
【0028】
振動攪拌によって混合する場合、30〜50Hzの振動を与えることが好ましい。この範囲の振動を与えることで、攪拌熱による発熱を抑制しながら速やかに熱伝導性樹脂組成物を分散することができる。
【0029】
また、ディゾルバーによって混合する場合、攪拌熱による発熱を抑制するため、チラーを用いてもよい。発熱を抑制することで硬化を抑制することができ、流動性を保ちながら混合することができる。
【0030】
混合した熱伝導性樹脂組成物は、さらに、ハイブリッドミキサー等によって、攪拌脱泡することが好ましい。熱伝導性樹脂組成物を脱泡することで、これを成形体や被膜やシートとした際、それらの中の気泡を減らすことができ、絶縁性や熱伝導性が向上する。
【0031】
熱伝導性樹脂組成物は、金型に流し込み加熱硬化させることで各種成形品に加工することができる。
【0032】
熱伝導性樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、繊維状補強材等を添加してもよい。繊維状補強材としては、ガラス繊維や炭素繊維等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、基材に塗工し加熱硬化することで、被膜を形成させることができる。
【0034】
塗工方法は、特に限定されないが、ワイヤーバーコーター塗り、フィルムアプリケーター塗り、はけ塗りやスプレー塗り、グラビアロールコーティング法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング法、リップコーティング、エアナイフコーティング法、カーテンフローコーティング法、浸漬コーティング法等が挙げられる。
【0035】
被膜の厚みは、熱伝導性樹脂組成物の粘度や塗工方法により異なるが、例えば、アプリケーターを用いた場合、アプリケーターの隙間幅を変更することで調整でき、また、ワイヤーバーコーターの場合、バーコーターに巻きつけられた針金直径を変更することで調整することができる。
【0036】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、押出成形法または溶媒キャスト法によりシートとすることができる。
【0037】
押出成形法とは、熱伝導性樹脂組成物を押出機に投入し、溶融樹脂をTダイから基材上に押出し、その後、加熱硬化して熱伝導性シートを得る方法である。一方、溶媒キャスト法とは、熱伝導性樹脂組成物を有機溶媒と混合した後、その溶液を基材に塗工し、加熱硬化して熱伝導性シートを得る方法である。
【0038】
押出成形法、溶媒キャスト法において用いる基材としては、離型性のフィルムが好ましく、例えば、フッ素系樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、シリコーンやフッ素化合物をコートしたフィルム等が挙げられる。溶媒キャスト法において用いられる有機溶媒としては、粘度を下げるために用いる前述の有機溶媒が挙げられる。シートは、離型性のフィルムを剥がすことで得ることができる。なお、シートは両面に離型フィルムを貼り付けることで、長期間保存することができる。
【0039】
成形時、被膜作製時、シート作製時いずれの場合においても、硬化温度は60〜180℃とすることが好ましい。硬化温度をこの範囲とすることで、それらの中の気泡を減らすことができる。硬化時間は30分〜5時間とすることが好ましい。3〜30分で半硬化状態になり、30分〜2時間で完全硬化状態となる。
【0040】
本発明のシートの厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、50〜200μmとすることができる。
【0041】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、表面処理されていない金属酸化物粒子を用いるため、従来に比べて耐熱性が向上しており、熱伝導性シートや熱伝導性被膜として用いた場合においてクラックや気泡が発生しない。そのため、パワーデバイス、パソコン、家庭用ゲーム機等のコンピュータ類の部品、DVDプレーヤー、DVDレコーダーの部品、HDDレコーダーの部品、家庭用テレビ、プラズマディスプレイ、液晶テレビ等のディスプレイ電源ユニット等の部品、携帯電話、各種AV機器、OA機器等の部品、カーステレオ、カーナビゲーションシステム、インバーター、照明、自動車電装部材の部品に好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0043】
1.測定方法
(1)平均粒子径
第一測範製作所社製グラインドゲージを用いて、JIS K5600−2−5に準拠して測定した。
【0044】
(2)粘度
Brookfield社製DV−Iを用いて、回転開始後2分後の値を読み取り、その値を粘度とした。なお、スピンドルはS64を用い、回転速度は3rpm、温度は25℃±1℃でおこなった。
【0045】
(3)分散安定性
熱伝導性樹脂組成物25mLを、容量70mLのサンプル瓶に入れ静置した。静置後3ヵ月後、6ヵ月後の外観を目視で確認し、以下の基準で評価した。なお、少しでも金属酸化物粒子または金属水酸化物粒子が沈降している場合は「分離している」と判断し、沈降していない場合は、「安定している」と判断した。
◎:静置直後、3ヵ月後、6ヵ月後、いずれも安定していた。
○:静置直後、3ヵ月後は安定していたが、静置後6ヵ月後には分離していた。
×:静置直後は安定していたが、3ヵ月後には分離していた。
【0046】
(4)絶縁破壊電圧
熱伝導性樹脂組成物中の熱硬化性樹脂100質量部に対し、硬化剤としてポリアミドアミン系硬化剤(アデカ社製GM650、活性水素量:105g/当量)を、硬化剤の活性水素量が熱硬化性樹脂の末端基量に対して1.5倍当量になるように混合し、ハイブリッドミキサー(THNKY社製ARE250)を用いて2000rpmで5分間脱泡攪拌をおこなった。
硬化剤入りの熱伝導性樹脂組成物を、安田精機製フィルムアプリケーター(No.542−A13)を用い、シリコーンコートしたPETフィルム上に塗工した後、熱風乾燥機を用いて、150℃で1時間硬化し、厚さが200μmの熱伝導性シートを作製した。
得られた熱伝導性シートを用いて、JIS C2110に準拠して測定した。
【0047】
(5)熱伝導率(光交流法)
(4)と同様の操作をおこなって厚さ100μmのシートを作製し、アルバック理工社製LaserPITを用いて、以下の条件で熱拡散率を測定し、下記式により熱伝導率を求めた。なお、比熱は、パーキンエルマー社製ダイアモンドDSCを用いて、JIS K7123に準拠して測定した値を用いた。
交流光の周波数:0.1Hz
雰囲気:減圧下(0.01Pa以下)
温度条件:25℃
熱伝導率(W/(m・K))=熱拡散率(m/s)×比熱(J/(g・K))×密度(g/m
【0048】
(6)耐熱性
(4)で得られた脱泡攪拌した熱伝導性組成物組成物を、金型に入れ、100℃、24時間硬化し、0.5cm×0.5cm×5cmのサンプルを作製した。
得られたサンプルを、150℃の恒温槽にいれ、168時間の熱処理をおこない、熱処理前後のサンプルについて、島津製作所社製オートグラフを用いて、引張強度を測定した。処理前の引張強度の値を基準として、下記式により強度保持率を算出し、以下の基準で評価した。なお、測定は、23℃、湿度50%RHの環境下、引張速度0.5mm/秒でおこなった。
強度保持率(%)=(熱処理後の引張強度/熱処理前の引張強度)×100
○:強度保持率が95%以上
△:強度保持率が50%以上95%未満
×:強度保持率が50%未満
【0049】
2.使用材料
<熱硬化性樹脂>
(1)エポキシ樹脂A
アデカ社製エポキシ樹脂 EP4088S、ジシクロペンタジエンとエピクロロヒドリンの重合体、エポキシ当量:170g/当量、粘度:200Pa・s
(2)エポキシ樹脂B
アデカ社製エポキシ樹脂 EP4500A、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの重合体、エポキシ当量:175g/当量、粘度:200Pa・s
(3)フェノール樹脂
DIC社製フェノール樹脂 1196、フェノール当量:175g/当量、粘度:200Pa・s
【0050】
<表面処理された酸化アルミニウム粒子>
球状の酸化アルミニウム粒子(マイクロン社製AX3−32)100質量部とエポキシシラン(信越化学社製KBM403)5質量部を混合し、10分間攪拌した。その後、攪拌しながら、100℃に加熱し、粒子表面にシロキサン結合を形成させ、表面処理された酸化アルミニウム粒子を得た。
【0051】
実施例1
エポキシ樹脂A14質量部に対し、表面処理されていない鱗片状の水酸化マグネシウム粒子(宇部マテリアルズ社製)74質量部と表面処理されていない球状の酸化アルミニウム粒子(マイクロン社製)12質量部を混合し、振動攪拌機を用いて、25℃で10分間浸盪させた。その後、ディゾルバー(HEIDON社製 BL1200)を用いて、内温を30〜40℃に保ちながら、回転数1000rpmで1時間攪拌をおこない、熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0052】
実施例2〜16、比較例1〜8
表1に示すように、熱硬化性樹脂と金属酸化物粒子や金属水酸化物粒子の種類と含有量を変更した以外は、実施例1と同様に熱伝導性組成物組成物を作製した。
【0053】
熱伝導性組成物組成物の樹脂組成およびその特性値を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1〜16は、表面処理されていない金属酸化物粒子に加えて、金属水酸化物粒子を用いていたため、分散安定性が良好で、耐熱性、絶縁性、熱伝導性に優れていた。
実施例1〜6、8〜12は、(A)としてジシクロペンタジエン−エピクロロヒドリンからなるエポキシ樹脂を用いていたため、耐熱性が特に良好であった。
実施例1〜7、12〜16は、(B)および(C)の粒子径が本発明における好ましい粒子径の範囲であったため、実施例8〜11に比べて分散安定性が良好であった。
実施例1〜11は、好ましい熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、好ましい金属酸化物粒子である酸化アルミニウム、好ましい金属水酸化物粒子である水酸化マグネシウムを用いたため、実施例12〜16に比べて絶縁性が良好であった。
【0056】
比較例1は、(A)〜(C)の合計に対する、(B)と(C)の合計の含有比率が60質量%未満であったため、分散安定性悪く、絶縁性、熱伝導性が悪かった。
比較例2は、(A)〜(C)の合計に対する、(B)と(C)の合計の含有比率が90質量%を超えていたため、分散安定性、絶縁性が劣っていた。
比較例3は、粘度が低かったため、分散安定性が劣っていた。
比較例4は、金属酸化物粒子としてエポキシシランで表面処理された酸化アルミニウムを用いていたため、耐熱性が劣っていた。
比較例5、8は、金属水酸化物粒子を含んでいなかったため、分散安定性が劣っていた。
比較例6は、(B)と(C)の合計に対する(C)の含有比率が40質量%未満であったため、分散安定性が劣っていた。
比較例7は、金属酸化物粒子を含んでいなかったため、熱伝導性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂(A)、表面処理されていない金属酸化物粒子(B)、および金属水酸化物粒子(C)を含み、(A)〜(C)の質量が、[{(B)+(C)}/{(A)+(B)+(C)}]=0.6〜0.9(質量比)および[(C)/{(B)+(C)}]=0.4〜0.9(質量比)の関係を満たし、25℃における粘度が10Pa・s以上である熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
金属酸化物が酸化アルミニウムである請求項1記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
金属水酸化物が水酸化マグネシウムである請求項1または2記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
熱硬化性樹脂(A)がエポキシ樹脂である請求項1〜3いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
エポキシ樹脂が、ジシクロペンタジエン骨格を含むものである請求項4記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
金属水酸化物粒子の平均粒子径が1〜5μmである請求項1〜5いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項7】
金属酸化物粒子の平均粒子径が3〜25μmである請求項1〜6いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を硬化してなる成形体。
【請求項9】
請求項1〜7いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を硬化してなる被膜。
【請求項10】
請求項1〜7いずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を硬化してなるシート。

【公開番号】特開2012−211304(P2012−211304A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22484(P2012−22484)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】