説明

熱伝導性組成物

【課題】熱伝導性、分散性に優れる熱伝導性成形体を得るのに適した熱伝導性組成物を提供すること。
【解決手段】ポリカーボネート、マトリクス成分からなる熱伝導性組成物であって、特定の形状を有するピッチ系黒鉛化短繊維と特定の平均粒子径を有するマトリクス成分を含む特定の安息角を有する熱伝導性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピッチ系黒鉛化短繊維及び粒子状のマトリクス成分を含む熱伝導性組成物に関わるものである。さらに詳しくは、ピッチ系黒鉛化短繊維が特定の形状、マトリクス成分が特定の平均粒子径を有することにより、特定の安息角を有する熱伝導性組成物であり、電子部品の放熱部材や熱交換器に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
高性能の炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)を原料とするPAN系炭素繊維と、一連のピッチ類を原料とするピッチ系炭素繊維に分類できる。そして炭素繊維は強度・弾性率が通常の合成高分子に比較して著しく高いという特徴を利用し、航空・宇宙用途、建築・土木用途、産業用ロボット、スポーツ・レジャー用途など広く用いられている。また、PAN系炭素繊維は、主として、その強度を利用する分野に、そしてピッチ系炭素繊維は、弾性率を利用する分野に用いられることが多い。
【0003】
近年、省エネルギーに代表されるエネルギーの効率的使用方法が注目されている一方で、高速化されたCPUや電子回路のジュール熱による発熱が重篤な問題として認識されつつある。また、電子注入を発光原理とするエレクトロルミネッセンス素子においても同様に重篤な問題として顕在化している。一方、各種素子を形成するプロセスに目を向けると環境配慮型プロセスが求められており、その対策として鉛が添加されていない所謂鉛フリー半田への切り替えがなされている。鉛フリー半田は融点が通常の鉛含有半田に比較して高いため、プロセスの熱の効率的な使用が要求されている。そして、このような製品・プロセスが内包する熱に由来する問題を解決するためには、熱の効率的な処理(サーマルマネジメント)を達成する必要がある。
【0004】
一般に炭素繊維は、他の合成高分子に比較して熱伝導率が高いと言われているが、サーマルマネジメント用途に向けた、さらなる熱伝導の向上が検討されている。ところが、市販されているPAN系炭素繊維の熱伝導率は通常200W/(m・K)よりも小さい。これは、PAN系炭素繊維が所謂難黒鉛化炭素繊維であり、熱伝導を担う黒鉛性を高めることが非常に困難なことに由来している。これに対して、ピッチ系炭素繊維は易黒鉛化炭素繊維と呼ばれ、PAN系炭素繊維に比べて、黒鉛性を高くすることができるため、高熱伝導率を達成しやすいと認識されている。よって、効率的に熱伝導性を発現できる形状にまで配慮がなされた高熱伝導性フィラーにできる可能性がある。
【0005】
ただ、炭素繊維単体での熱伝導性部材への加工は困難であり、非常に特殊な手法を用いる必要がある。そこで、金属性フィラー等と同様に、何らかのマトリクスと炭素繊維を複合材化し、その組成物の熱伝導度を向上させることが求められる。
【0006】
次に、サーマルマネジメントに用いる成形体の特徴について考察する。一般的に炭素繊維を用いた成形体は、成形体に含まれる炭素繊維のアスペクト比が高い程、優れた熱伝導率を有する。しかし、マトリクス成分と炭素繊維を混合する際に、ルーダー等の混練機を用いると、混練の際のせん断力により、炭素繊維が破砕されアスペクト比が低下し、熱伝導率が低下する傾向にある。特許文献1、2には、マトリクス混練後のガラス繊維の残存繊維長を長く維持する手法が提案されている。しかし、炭素繊維、特に高い熱伝導率を有するピッチ系炭素繊維は一般的に表面処理が困難であり、特許文献1、2に記載される技術を応用するのは困難と言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−117839号公報
【特許文献2】特開2003−285323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、熱伝導率に優れる熱伝導性成形体を提供することであり、それを達成するのに好適な熱伝導性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、熱伝導性に優れる熱伝導性成形体を得ようと鋭意検討を重ねた結果、特定の粒子径を有するマトリクス成分と、特定の繊維径、繊維長、アスペクト比を有するピッチ系黒鉛化短繊維を混合することで、目的とする組成物を得ることが可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
本発明は、平均粒子径が0.6〜3.0mmのマトリクス成分とピッチ系黒鉛化短繊維とを含む熱伝導性組成物であって、該ピッチ系黒鉛化短繊維が、メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜15μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が3〜15%であり、平均繊維長が50〜350μmであり、アスペクト比が10〜25であり、該熱伝導性組成物の安息角が25〜50度である熱伝導性組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱伝導性組成物は、特定の粒子径を有するマトリクス成分と、特定の繊維径、繊維長、アスペクト比を有するピッチ系黒鉛化短繊維を使用することで、特定の安息角を有する熱伝導性組成物を得、該熱伝導性組成物を成形することで熱伝導率に優れた熱伝導性成形体を得ることを可能にせしめている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。
本発明の熱伝導性組成物は、特定の粒子径を有するマトリクス成分とピッチ系黒鉛化短繊維とを含む熱伝導性組成物であって、マトリクス成分とピッチ系黒鉛化短繊維とを含む熱伝導性組成物であって、該ピッチ系黒鉛化短繊維が、メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜15μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が3〜15%であり、平均繊維長が50〜350μmであり、アスペクト比が10〜25であり、該マトリクス成分の平均粒子径が0.6〜3.0mmであり、該熱伝導性組成物の安息角が25〜50度である熱伝導性組成物である。好ましくはピッチ系黒鉛化短繊維の六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、かつ走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦である。
【0013】
ピッチ系黒鉛化短繊維を熱可塑性樹脂を初めとするマトリクス成分と混練し、熱伝導性成形体を作成する際、ルーダーやニーダーなどの混練機を用いることが多い。しかし、ニーダーなど比較的強いせん断力を用いて、マトリクス成分とピッチ系黒鉛化単繊維を混練すると、そのせん断力により、ピッチ系黒鉛化短繊維の繊維長が短縮化し、熱伝導率成形体の熱伝導率が低下することになる。
【0014】
そのため、熱伝導率成形体の熱伝導率を向上させるには、弱いせん断力を用いてマトリクス成分とピッチ系黒鉛化短繊維を混練するのが望ましい。しかし、弱いせん断力を用いて混練すると、マトリクス成分とピッチ系黒鉛化短繊維の分散性が低下する傾向にあるため、均一な性能を有する熱伝導性成形体を得るのが困難になる。
【0015】
そこで、熱伝導率成形体を得るための原料である熱伝導性組成物は、マトリクス成分とピッチ系黒鉛化短繊維が分散しやすい状態にあることが必要である。従って、マトリクス成分は粒子状/粉末状であることが求められる。また、均一な分散性を得るためにその平均粒子径は0.6〜3.0mmであることが必要である。ここで平均粒子径とは、重量平均粒子径を指す。平均粒子径が0.6mmを下回る場合、マトリクス成分同士の隙間が小さくなり、マトリクス成分の隙間にピッチ系黒鉛化短繊維が分散するのが困難になり、高い分散性を有する熱伝導性組成物を得るのが困難になる。逆に粒子径が3.0mmを超える場合、局所的にマトリクス成分が多くなり、高い分散性を有する熱伝導性組成物が得るのが困難になる。マトリクス成分の平均粒子径は好ましくは0.6〜2.0mmである。マトリクス成分の形状はとくに限定はなく、球状、円柱状、角柱状、板状などが挙げられるが、球状や円柱状など、比較的アスペクト比が小さいものが好ましい。
【0016】
マトリクス成分に特に限定は無いが、具体的には熱可塑性樹脂を用い、ポリオレフィン類及びその共重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体など)、ポリメタクリル酸類及びその共重合体(ポリメタクリル酸メチル等のポリメタクリル酸エステルなど)、ポリアクリル酸類及びその共重合体、ポリアセタール類及びその共重合体、フッ素樹脂類及びその共重合体(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリエステル類及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6ナフタレート、液晶性ポリマーなど)、ポリスチレン類及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂など)、ポリアクリロニトリル類及びその共重合体、ポリフェニレンエーテル(PPE)類及びその共重合体(変性PPE樹脂なども含む)、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体、ポリカーボネート類及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド類及びその共重合体、ポリサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルニトリル類及びその共重合体、ポリエーテルケトン類及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン類及びその共重合体、ポリケトン類及びその共重合体、エラストマー、液晶性ポリマー等が挙げられる。中でも、該マトリクス成分が、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン−2、6−ナフタレート類、脂肪族ポリアミド類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂が好ましく、さらにはポリカーボネート類及びその重合体が、耐衝撃性に優れるなど好ましく用いられる。
【0017】
また、分散性に優れる熱伝導性組成物を得るために、ピッチ系黒鉛化短繊維はある特定の形状をとる必要がある。
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測した平均繊維径が5〜15μmである。平均繊維径が5μmを下回る場合、ピッチ系黒鉛化短繊維が凝集する傾向が高くなり、熱伝導性組成物の分散性が低下する。逆に平均繊維径が15μmを超えると、マトリクス成分と複合する際に、マトリクス成分の隙間に、該ピッチ系黒鉛化短繊維が入りにくくなり、熱伝導性組成物の分散性が低下する。平均繊維径のより好ましい範囲は7〜13μmである。
【0018】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、光学顕微鏡で観測したピッチ系黒鉛化短繊維における繊維径分散の平均繊維径に対する百分率(CV値)は3〜15%である。CV値は繊維径のバラツキの指標であり、小さい程、工程安定性が高く、製品のバラツキが小さいことを意味している。CV値が3%より小さい時、繊維径が極めて揃っているため、ピッチ系黒鉛化短繊維同士のパッキング性が低下し、マトリクス成分同士の隙間に多くの繊維が入るのが困難になり、熱伝導性組成物がかさ高くなり、ハンドリング性が低下する。逆にCV値が15%より大きい場合、繊維径のばらつきが大きくなり、均一な性能を有する熱伝導性組成物を得ることが困難になる。CV値は好ましくは、5〜13%である。CV値は、紡糸時の溶融メソフェーズピッチの粘度を調節すること、具体的には、メルトブロー法にて紡糸する際は、紡糸時のノズル孔での溶融粘度を5.0〜25.0Pa・sに調整することで実現できる。
【0019】
ピッチ系黒鉛化短繊維は、一般的には平均繊維長1mm未満からなるミルドファイバーと平均繊維長1mm以上10mm未満からなるカットファイバーの2種類がある。ミルドファイバーの外観は粉状のため分散性に優れ、カットファイバーの外観は繊維状に近いため、繊維同士の接触が得られやすい特徴がある。
【0020】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維はミルドファイバーに該当し、その平均繊維長は、50〜350μmである。ここで、平均繊維長は個数平均繊維長とし、光学顕微鏡下で測長器を用い、複数の視野において所定本数を測定し、その平均値から求めることができる。平均繊維長が80μmより小さい場合、当該短繊維同士が接触しにくくなり、高い熱伝導率を有する熱伝導性組成物及び成形体を得るのが期待しにくくなる。逆に350μmより大きくなる場合、ピッチ系黒鉛化短繊維が非常にかさ高くなり、マトリクス成分とピッチ系黒鉛化短繊維が分離しやすくなり、熱伝導性組成物の分散性が低下する。より好ましくは、80〜280μmの範囲である。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法として特に制限はないがミリングの条件、すなわちカッター等で粉砕する際の、カッターの回転速度、ボールミルの回転数、ジェットミルの気流速度、クラッシャーの衝突回数、ミリング装置中の滞留時間を調節することにより平均繊維長を制御することができる。また、ミリング後のピッチ系炭素短繊維から、篩等の分級操作を行って、短い繊維長または、長い繊維長のピッチ系炭素短繊維を除去することにより調整することができる。
【0021】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、アスペクト比は10〜25である。アスペクト比は繊維長と繊維径の比を示す。アスペクト比がこの範囲にある時、マトリクス成分との分散性、及び熱伝導性に優れたものとなる。アスペクト比が10より小さい場合、ピッチ系黒鉛化短繊維の繊維軸方向に熱を輸送する能力が低下し、熱伝導性組成物及び成形体を得るのが困難になる。逆にアスペクト比が25を超える時、ピッチ系黒鉛化短繊維がマトリクス成分の隙間に入りにくくなり、熱伝導性組成物の分散性が低下する。
【0022】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、充填させたときの成形性や熱伝導性の発現等の観点から、特定のピッチ系黒鉛化短繊維を用いることが好ましい。
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、黒鉛結晶からなり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であることが好ましい。結晶子サイズは六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化度に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求めることができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては学振法が好適に用いられる。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いて求めることができる。
【0023】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は、透過型電子顕微鏡による繊維末端観察において、グラフェンシートの端面が閉じていることが好ましい。グラフェンシートの端面が閉じている場合、余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化が起こり難い。このため、ピッチ系黒鉛化短繊維に活性点が生じず、熱伝導性組成物にした時、マトリクスの劣化、例えば加水分解を抑制し、湿熱耐久性能を向上することが可能となる。50万〜400万倍に拡大した透過型電子顕微鏡による視野範囲で、グラフェンシートの端面は80%超閉じていることが好ましい。80%以下であると余分な官能基の発生や、形状に起因する電子の局在化を引き起こし、マトリクスとの反応を促進する可能性があるため好ましくない。グラフェンシート端面の閉鎖率は90%以上が好ましく、更には95%以上が更に好ましい。
【0024】
グラフェンシート端面構造は、黒鉛化の前に粉砕を実施するか、黒鉛化の後に粉砕を実施するかにより、大きく異なる。すなわち、黒鉛化後に粉砕処理を行った場合、黒鉛化で成長したグラフェンシートが切断破断され、グラフェンシート端面が開いた状態になり易い。一方、黒鉛化前に粉砕処理を行った場合、黒鉛の成長過程でグラフェンシート端面がU字上に湾曲し、湾曲部分がピッチ系黒鉛化短繊維端部に露出した構造になり易い。このため、グラフェンシート端面閉鎖率が80%を超えるようなピッチ系黒鉛化短繊維を得るためには、粉砕を行った後に黒鉛化処理することが好ましい。
【0025】
本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維は走査型電子顕微鏡での側面の観察表面が実質的に平坦であることが好ましい。ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸をピッチ系黒鉛化短繊維に有しないことを意味する。ピッチ系黒鉛化短繊維の表面に激しい凹凸のような欠陥が存在する場合には、マトリクスとの混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸のような欠陥はできるだけ小さい状態が望ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡において1000倍で観察した像での観察視野に、凹凸のような欠陥が10箇所以下であることとする。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法としては、ミリングを行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。
【0026】
本発明における熱伝導性組成物の安息角は、25〜50度である。ここで、安息角は注入法によって求め、熱伝導性組成物を自然落下させ積み上げた時に、水平面との間にできる角度を差す。安息角がこの範囲にある時、熱伝導性組成物の分散性及び流動性に優れるため、熱伝導性に優れ、分散性に優れる熱伝導性成形体を得ることができる。安息角が25度を下回る場合、マトリクス成分がピッチ系黒鉛化短繊維と分離していることを示し、熱伝導性組成物の分散性が低下する。逆に、安息角が50度を上回る場合、熱伝導性組成物の流動性が低下し、熱伝導性成形体を得る時に均等にフィードすることが困難になり、結果としてピッチ系黒鉛化短繊維の残存繊維長をコントロールするのが困難になり、熱伝導性に優れる熱伝導性成形体を得るのが困難になる。熱伝導性組成物の安息角は、好ましくは25〜40度である。熱伝導性組成物の安息角を制御する方法として特に限定はないが、具体的にはピッチ系黒鉛化短繊維の繊維径、繊維長、アスペクト比及びマトリクス成分の粒子径、粒子径分布、形状を制御することで達成できる。一般的には、ピッチ系黒鉛化短繊維の繊維径が小さく、繊維長が長く、アスペクト比が大きいほど安息角は大きくなる。また、マトリクス成分の粒子径が大きいほど、安息角は大きくなる。また、ピッチ系黒鉛化短繊維の繊維径、繊維長、アスペクト比及びマトリクス成分の粒子径の分布が広いほど安息角が小さくなる傾向にある。
【0027】
本発明の熱伝導性組成物は、該マトリクス成分100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維の含有量が50〜200重量部含むことが好ましい。ピッチ系黒鉛化短繊維の含有量が50重量部未満だと、熱伝導性が期待できない。逆にピッチ系黒鉛化短繊維の含有量が200重量部を超えると、熱伝導性成形体の成形性が低下する傾向にあり、好ましくない。好ましくはマトリクス成分100重量部に対し、ピッチ系黒鉛化短繊維の含有量が60〜120重量部含むことが好ましい。
【0028】
以下本発明の組成物を構成するピッチ系炭素短繊維の好ましい製造法について述べる。
本発明で用いられるピッチ系炭素短繊維の原料としては、例えば、ナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物、石油系ピッチや石炭系ピッチといった縮合複素環化合物等が挙げられる。その中でもナフタレンやフェナントレンといった縮合多環炭化水素化合物が好ましく、特にメソフェーズピッチが好ましい。メソフェーズピッチのメソフェーズ率としては少なくとも90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上である。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで確認出来る。
【0029】
更に、原料ピッチの軟化点としては、230℃以上340℃以下が好ましい。不融化処理は、軟化点よりも低温で処理する必要がある。このため、軟化点が230℃より低いと、少なくとも軟化点未満の低い温度で不融化処理する必要があり、結果として不融化に長時間を要するため好ましくない。一方、軟化点が340℃を超えると、紡糸に340℃を超える高温が必要となり、ピッチの熱分解を引き起こし、発生したガスで糸に気泡が発生するなどの問題を生じるため好ましくない。軟化点のより好ましい範囲は250℃以上320℃以下、更に好ましくは260℃以上310℃以下である。なお、原料ピッチの軟化点はメトラー法により求めることが出来る。原料ピッチは、二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。組み合わせる原料ピッチのメソフェーズ率は少なくとも90%以上であり、軟化点が230℃以上340℃以下であることが好ましい。
メソフェーズピッチは溶融法により紡糸され、その後不融化、炭化、粉砕、黒鉛化によってピッチ系黒鉛化短繊維となる。場合によっては、粉砕の後、分級工程を入れることもある。
【0030】
以下各工程の好ましい態様について説明する。
紡糸方法には、特に制限はないが、所謂溶融紡糸法を適応することができる。具体的には、口金から吐出したメソフェーズピッチをワインダーで引き取る通常の紡糸延伸法、熱風をアトマイジング源として用いるメルトブロー法、遠心力を利用してメソフェーズピッチを引き取る遠心紡糸法などが挙げられる。中でもピッチ系炭素繊維前駆体の形態の制御、生産性の高さなどの理由からメルトブロー法を用いることが望ましい。このため以下本発明におけるピッチ系黒鉛化短繊維の製造方法に関してはメルトブロー法について記載する。
【0031】
ピッチ系炭素繊維前駆体を形成する紡糸ノズルの形状はどのようなものであっても良い。通常真円状のものが使用されるが、適時楕円などの異型形状のノズルを用いても何ら問題ない。ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)としては、2〜20の範囲が好ましい。LN/DNが20を超えると、ノズルを通過するメソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造が発現する。ラジアル構造の発現は、黒鉛化の過程で繊維断面に割れを生じさせることがあり、機械特性の低下を引き起こすことがあるため好ましくない。一方、LN/DNが2未満では、原料ピッチにせん断を付与することが出来ず、結果として黒鉛の配向が低いピッチ系炭素繊維前駆体となる。このため、黒鉛化しても黒鉛化度を十分に上げることが出来ず、熱伝導性を向上させ難く好ましくない。機械強度と熱伝導性の両立を達成するには、メソフェーズピッチに適度のせん断を付与する必要がある。このため、ノズル孔の長さ(LN)と孔径(DN)の比(LN/DN)は2〜20の範囲が好ましく、更には3〜12の範囲が特に好ましい。
【0032】
紡糸時のノズルの温度、メソフェーズピッチがノズルを通過する際のせん断速度、ノズルからブローされる風量、風の温度等についても特に制約はなく、安定した紡糸状態が維持できる条件、即ち、メソフェーズピッチのノズル孔での溶融粘度が1〜100Pa・sの範囲にあれば良い。
【0033】
ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度が1Pa・s未満の場合、溶融粘度が低すぎて糸形状を維持することが出来ず好ましくない。一方、メソフェーズピッチの溶融粘度が100Pa・sを超える場合、メソフェーズピッチに強いせん断力が付与され、繊維断面にラジアル構造を形成するため好ましくない。メソフェーズピッチに付与するせん断力を適切な範囲にせしめ、かつ繊維形状を維持するためには、ノズルを通過するメソフェーズピッチの溶融粘度を制御する必要がある。このため、メソフェーズピッチの溶融粘度を1〜100Pa・sの範囲にするのが好ましく、更には3〜30Pa・sの範囲にすることが好ましく、5〜25Pa・sの範囲にすることが更に好ましい。
【0034】
本発明のピッチ系黒鉛化短繊維は、平均繊維径(D1)が2〜20μm以下であることを特徴とするが、ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径の制御は、ノズルの孔径を変更する、あるいはノズルからの原料ピッチの吐出量を変更する、あるいはドラフト比を変更することで調整可能である。ドラフト比の変更は、100〜400℃に加温された毎分100〜20000mの線速度のガスを細化点近傍に吹き付けることによって達成することができる。吹き付けるガスに特に制限は無いが、コストパフォーマンスと安全性の面から空気が望ましい。
【0035】
ピッチ系炭素繊維前駆体は、金網等のベルトに捕集されピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとなる。その際、ベルト搬送速度により任意の目付量に調整できるが、必要に応じ、クロスラップ等の方法により積層させてもよい。ピッチ系炭素繊維前駆体ウェブの目付量は生産性及び工程安定性を考慮して、150〜1000g/mが好ましい。
【0036】
このようにして得られたピッチ系炭素繊維前駆体ウェブは、公知の方法で不融化処理し、ピッチ系不融化繊維ウェブにする。不融化は、空気、或いはオゾン、二酸化窒素、窒素、酸素、ヨウ素、臭素を空気に添加したガスを用いた酸化性雰囲気下で実施できるが、安全性、利便性を考慮すると空気中で実施することが望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すると連続処理が望ましい。不融化処理は150〜350℃の温度で、一定時間の熱処理を付与することで達成される。より好ましい温度範囲は、160〜340℃である。昇温速度は1〜10℃/分が好適に用いられ、連続処理の場合は任意の温度に設定した複数の反応室を順次通過させることで、上記昇温速度を達成できる。昇温速度のより好ましい範囲は、生産性及び工程安定性を考慮して、3〜9℃/分である。
【0037】
ピッチ系不融化繊維ウェブは、600〜2000℃の温度で、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気中で炭化処理され、ピッチ系炭素繊維ウェブになる。炭化処理は、コスト面を考慮して、常圧かつ窒素雰囲気下での処理が望ましい。また、バッチ処理、連続処理のどちらでも処理可能であるが、生産性を考慮すれば連続処理が望ましい。
【0038】
炭化処理されたピッチ系炭素繊維ウェブは、所望の繊維長にするために、切断、破砕・粉砕等の処理が実施される。また、場合によっては、分級処理が実施される。処理方式は所望の繊維長に応じて選定されるが、切断にはギロチン式、1軸、2軸及び多軸回転式等のカッターが好適に使用され、破砕、粉砕には衝撃作用を利用したハンマ式、ピン式、ボール式、ビーズ式及びロッド式、粒子同士の衝突を利用した高速回転式、圧縮・引裂き作用を利用したロール式、コーン式及びスクリュー式等の破砕機・粉砕機等が好適に使用される。所望の繊維長を得るために、切断と破砕・粉砕を多種複数機で構成してもよい。処理雰囲気は湿式、乾式のどちらでもよい。分級処理には、振動篩い式、遠心分離式、慣性力式、濾過式等の分級装置等が好適に使用される。所望の繊維長は、機種選定のみならず、ロータ・回転刃等の回転数、供給量、刃間クリアランス、系内滞留時間等を制御することによっても得ることができる。また、分級処理を用いる場合には、所望の繊維長は篩い網孔径等を調整することによっても得ることができる。
【0039】
上記の切断、破砕・粉砕処理、場合によっては分級処理を併用して作成したピッチ系炭素短繊維は、2000〜3500℃に加熱し黒鉛化して最終的なピッチ系黒鉛化短繊維とする。黒鉛化は、アチソン炉、電気炉等にて実施され、真空中、或いは窒素、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスを用いた非酸化性雰囲気下等で実施される。
【0040】
本発明においてピッチ系黒鉛化短繊維は、マトリクスであるポリカーボネート系高分子との親和性をより高め、ハンドリング性の向上を目的として、表面処理やサイジング処理をしても良い。また、必要に応じて表面処理した後にサイジング処理をしても良い。表面処理の方法として特に限定は無いが、具体的には、電着処理、めっき処理、オゾン処理、プラズマ処理、酸処理などが挙げられる。サイジング処理に用いるサイジング剤に特に限定は無いが、具体的にはエポキシ化合物、水溶性ポリアミド化合物、飽和ポリエステル、不飽和ポリエステル、酢酸ビニル、アルコール、グリコールを単独又はこれらの混合物で用いることができる。サイジング剤はフィラーに対し0.01〜10重量%、付着させても良い。しかし、サイジング剤付着ピッチ系炭素繊維フィラーは活性点を持つ可能性もあることから、サイジング処理は極力少ないことが好ましい。好ましい付着量は0.1〜2.5重量%である。
【0041】
本発明の熱伝導性組成物は、ピッチ系黒鉛化短繊維とマトリクス成分とを混合して作製するが、混合の際には、ルーダーなどの混合装置又は混練装置が好適に用いられる。中でも、単軸ルーダーは低いせん断力で混練をすることが可能であり、好ましい。
【0042】
本発明の熱伝導性組成物の熱伝導率をより高めるために、ピッチ系黒鉛化短繊維、金属ケイ素以外のフィラーを必要に応じて添加してもよい。具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸化窒化アルミニウムなどの金属酸窒化物、炭化珪素などの金属炭化物、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属もしくは金属合金、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられる。これらを機能に応じて適宜添加してもよい。また、2種類以上併用することも可能である。
【0043】
ただ、上記化合物は、密度がピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
また、必要に応じて他の添加剤を複数、組成物に添加しても構わない。他の添加剤としては離型剤、難燃剤、乳化剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤を挙げることができる。
【0044】
本発明の熱伝導組成物の用途は、電子部品の放熱部材等がある。例えば、本発明の熱伝導性組成物は、MPUやパワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を放出する、放熱フィンや放熱ファン等の放熱部品に使用される。これによって、発熱性電子部品からの熱の拡散が良好となり、長期的に発熱性電子部品の誤作動を軽減させることができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系黒鉛化短繊維の個数平均繊維長は、光学顕微鏡下において測長器で2000本(10視野、200本ずつ)測定し、その平均値から求めた。
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維の結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は、透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大し、グラフェンシートを確認した。
(5)ピッチ系黒鉛化短繊維の表面は、走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察し、凹凸を確認した。
(6)マトリクス成分の粒子径は、シスメックス製マスターサイザー2000を用いて重量平均値を求めた。
(7)熱伝導性組成物の安息角は、ホソカワミクロン製パウダテスタPT−Sを用いて注入法により求めた。
(8)熱伝導性成形体の分散性は、射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて50mm×10mm×2mmの熱伝導性成形体を作成し、三菱アナリテック製ロレスタEPを用いて長辺方向に1cmごとの電気抵抗を測定し、そのCV値(分散値/平均値)を求めた。
(9)熱伝導性成形体の熱伝導率は、4mm厚の熱伝導性組成物の成形体から3mm×10mmの短冊状にサンプルを切り出し、横に並べて一体化させ、ネッチ製LFA−447を用いて面内方向の熱伝導率を求めた。
【0046】
[参考例1]
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmφの孔のキャップを使用し、スリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径14.5μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は328℃であり、溶融粘度は13.5Pa・S(135poise)であった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付400g/mのピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から320℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化、更に800℃で焼成を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブをカッター(ターボ工業製)を用いて780rpmで粉砕し、3000℃で黒鉛化した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は9.8μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は9%であった。個数平均繊維長は130μm、アスペクト比は12.4であった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは70nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0047】
[実施例1]
目開き100μmの篩で分級したポリカーボネート(帝人化成製:L−1225WP、粉末状、分級後粒子径:0.7mm)100重量部と参考例1で作成したピッチ系黒鉛化短繊維80重量部とを混合し、熱伝導性組成物を得た。熱伝導性組成物の安息角は32度だった。得られた熱伝導性組成物を一軸押出機を用いて混合し、射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて熱伝導性成形体を得た。この熱伝導率は13.5W/m・Kであった。電気抵抗のCV値は35%であった。
【0048】
[参考例2]
カッターの回転数を830rpmに変更した以外は、参考例1と同様にピッチ系黒鉛化短繊維を作成した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は9.8μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は9%であった。個数平均繊維長は105μm、アスペクト比は10.7であった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは70nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0049】
[実施例2]
ピッチ系黒鉛化短繊維を参考例2で作成したものに変更した以外は、実施例1と同様に熱伝導性製成形体を作成した。熱伝導性組成物の安息角は26度であった。この熱伝導率は11.7W/m・Kであった。電気抵抗のCV値は30%であった。
【0050】
[参考例3]
カッターの回転数を460rpmに変更した以外は、参考例1と同様にピッチ系黒鉛化短繊維を作成した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は9.8μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は9%であった。個数平均繊維長は380μm、アスペクト比は38.8であった。六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは70nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0051】
[比較例1]
ピッチ系黒鉛化短繊維を参考例3で作成したものに変更した以外は、実施例1と同様に熱伝導性製成形体を作成した。熱伝導性組成物の安息角は54度であった。この熱伝導率は15.8W/m・Kであった。電気抵抗のCV値は150%であった。
【0052】
[参考例4]
カッターの回転数を1200rpmに変更した以外は、参考例1と同様にピッチ系黒鉛化短繊維を作成した。
ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は9.8μm、平均繊維径に対する繊維径分散の比(CV値)は9%であった。個数平均繊維長は40μm、アスペクト比は4.1、六角網面の成長方向に由来する結晶サイズは70nmであった。
ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。また、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平滑であった。
【0053】
[比較例2]
ピッチ系黒鉛化短繊維を参考例4で作成したものに変更した以外は、実施例1と同様に熱伝導性製成形体を作成した。熱伝導性組成物の安息角は16度であった。この熱伝導率は4.2W/m・Kであった。電気抵抗のCV値は90%であった。
【0054】
[比較例3]
ポリカーボネートを分級しない(粒子径:0.3mm)で用いた以外は、実施例1と同様に熱伝導性成形体を作成した。熱伝導性組成物の安息角は23度であった。この熱伝導率は13.2W/m・kであった。電気抵抗のCV値は80%であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の熱伝導性組成物は、熱伝導性に優れた熱伝導性成形体を作成するのに適し、MPUやパワートランジスタ、トランス等の発熱性電子部品からの熱を拡散する放熱フィンや放熱ファン等の高い放熱特性が要求される場所に用いることが可能であり、サーマルマネージメントを確実なものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.6〜3.0mmのマトリクス成分とピッチ系黒鉛化短繊維とを含む熱伝導性組成物であって、該ピッチ系黒鉛化短繊維が、メソフェーズピッチを原料とし、平均繊維径が5〜15μmであり、平均繊維径に対する繊維径分散の百分率(CV値)が3〜15%であり、平均繊維長が50〜350μmであり、アスペクト比が10〜25であり、該熱伝導性組成物の安息角が25〜50度である熱伝導性組成物。
【請求項2】
該ピッチ系黒鉛化短繊維の、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが30nm以上であり、透過型電子顕微鏡によるフィラー端面観察においてグラフェンシートが閉じており、かつ走査型電子顕微鏡での観察表面が実質的に平坦である請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
該マトリクス成分が、ポリカーボネート類、ポリエチレンテレフタレート類、ポリブチレンテレフタレート類、ポリエチレン−2、6−ナフタレート類、脂肪族ポリアミド類、ポリプロピレン類、ポリエチレン類、ポリエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合樹脂類からなる群より選ばれる少なくとも一種の樹脂である請求項1〜2のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
該マトリクス成分が、ポリカーボネート類である請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
該マトリクス成分100重量部に対し、該ピッチ系黒鉛化短繊維が50〜200重量部含まれている請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導性組成物を、成形してなる熱伝導性成形体。

【公開番号】特開2012−82295(P2012−82295A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228587(P2010−228587)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】