説明

熱処理木材の製造方法

【課題】大きな断面を有する熱処理木材であっても、割れ、変形及び反りの発生が防止されると共に、腐朽耐久性、防蟻性及び安全性が向上された熱処理木材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、並びに、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材を過熱水蒸気、マイクロ波及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を50〜130℃に維持しながら含水率12%以下に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を前記過熱水蒸気及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐朽耐久性、防蟻性、及び、安全性が向上された熱処理木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄、プラスチック、及び、コンクリートは、建築材料として使用されてきたが、1)鉄は腐食に弱いので、その表面に耐腐食性塗料で塗装することが不可欠とされており、2)プラスチックは耐候性が弱いので、その屋外使用での耐用年数が短いものとされており、そして、3)コンクリートは、アルカリ骨材反応等により期待されていた耐用年数が予想外に短い場合があるものとされている。したがって、鉄、プラスチック、及び、コンクリートについては、長く使用するために、それらに、適切な保護処理が施されたり、また、適切な維持管理が行われている。
【0003】
木材は、金属、コンクリート、及び、プラスチックよりも比強度に優れているので、加工しやすいこと、二酸化炭素を固定できること、再生を可能とすること、等の特性を有しているので、今後、継続使用できる唯一の建築材料といえるが、生物資源であるという性質上、腐朽菌やシロアリの餌になりやすく、他の材料と同様に適切な保護処理を施されなければ、耐用年数が非常に短いという欠点を有している。そこで、従来においては、木材の耐用年数を延長するために、減圧方法、加圧方法等の方法により、木材に薬剤を注入して浸潤させているが、これらの方法が最も木材の期待耐用年数を長くする技術として世界的に認知されている。
【0004】
前記木材の処理においては、現在、安全性に優れた新薬が世界的な規模で使用されているが、このような新薬は、化学物質であるので、住宅部材、デッキ、フェンス、外構材等の木材製品を使用する顧客の中には、薬剤で処理された木材の耐久性が良好であるということを理解しながらも、敢えて処理木材を避けて、天然の高耐久性樹種を使用する事例が増えてきている。特に、欧州ではこの傾向が強く、薬剤処理木材よりも、カラマツ心材及び高耐久性広葉樹で形成された製品が使用されている。また、所謂、殺菌剤、防虫剤及び防蟻剤として分類されている薬剤以外の成分、即ち、無水酢酸やフルフリルアルコールを木材に注入した後、化学反応させて固着させる、アセチル化処理、フルフリル化処理等の木材処理が商業化され始めている。しかしながら、液体を木材に注入する方法には、従来の薬剤注入と同じ問題、即ち、木材の浸透性の難易に製品の耐久性能が大幅に影響を受けるという問題を抱えている。
【0005】
これらの液体を木材に注入する以外の方法で注目を浴びているのが熱処理木材(特許文献1,2を参照。)である。この「熱処理木材」は、木材乾燥に通常使用されていた温度域(120℃まで)よりも遙かに高い木材温度を180〜250℃に維持しながら木材を長時間処理すると、木材中のヘミセルロースが改質されると共に、セルロースの結晶化が促進されて、木材が腐朽菌により腐朽されなくなる、という理論を商業化したものである。このような従来の熱処理木材の製造においては、植物油、高温窒素、水蒸気等の加熱媒体が用いられている。また、このような熱処理木材の製造においては、木材を加熱するだけではなく、木材の過剰な炭化を抑制するために酸素を遮断する方法も同時に考慮されている。熱処理木材の生産は、欧州において、2001年頃から本格的になり、最近では、約20万立方メートルの生産量になっている。
【特許文献1】特開平3−162902号公報
【特許文献2】特許2717713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
木材は、伐採直後では、多量の水分をその組織中に保持しているので、木材を用材として使用する場合には、水分を乾燥により除去して最も寸法の安定する平衡含水率(地域、季節により変動するが、関東地方では、平均して15%である。)までに調整する必要がある。木材が乾燥する場合、木材全体に不均一に存在する自由水が組織内部から組織外部へ移動することが必要である。この自由水が組織から無くなり、結合水のみになった時点を繊維飽和点という。木材の含水率がこの繊維飽和点以下になった時点から割れ、捻れ、反り等の欠点が各部分で発生してくる。これらは、木材組織が長さ方向、半径方向、接線方向により収縮率が異なるので、応力を発生させて組織上のひずみを解消しようとして発生する欠点である。木材を乾燥させる技術とは、このような乾燥過程で発生する欠点を最小限にして最大の経済性を生もうとする努力から発達してきたものである。
【0007】
従来においては、最小辺が50mm未満の小断面木材では、含水率12%以下に割れを発生させないで乾燥させることができたが、最小辺が50mm以上の角材や、芯持ち材や、直径が50mm以上の丸太では、割れを発生させないで乾燥することは、極めて困難であって、実質的に不可能とされていた。
【0008】
従来の熱処理木材の製造においては、断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、及び、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材に木材温度を180〜250℃に維持しながら長時間にわたり加熱処理を施して熱処理木材とすると、得られた熱処理木材に割れ、捻れ、反り等が発生するので、製品化できないという問題があった。それ故、従来においては、木材温度を180〜250℃に維持しながら長時間にわたり加熱処理を施しても、割れ、捻れ、反り等が発生しない比較的小断面の熱処理木材しか実用化されてこなかった。よって、このような小断面の熱処理木材の用途としては、断面が10〜40mmのデッキ板、フラワーポット、住宅の外壁材、窓枠、浴槽、木製浴室ユニット材等のものに限定されていた。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決することを目的としている。
【0010】
即ち、本発明は、大きな断面を有する熱処理木材であっても、割れ、変形及び反りの発生が防止されると共に、腐朽耐久性、防蟻性及び安全性が向上された熱処理木材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、並びに、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材を過熱水蒸気、マイクロ波及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を50〜130℃に維持しながら含水率12%以下に乾燥し、続いて、前記乾燥した木材を前記過熱水蒸気及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理したところ、大きな断面を有する熱処理木材であっても、割れ、変形及び反りの発生が防止されると共に、腐朽耐久性、防蟻性及び安全性が向上された熱処理木材を製造することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、並びに、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材を過熱水蒸気、マイクロ波及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を50〜130℃に維持しながら含水率12%以下に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を前記過熱水蒸気及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理する第2工程と、を順次有することを特徴とする熱処理木材の製造方法である。
【0013】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記第2工程における加熱媒体として過熱水蒸気を用いることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記第2工程における加熱媒体として加熱オイルを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された本発明によれば、断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、並びに、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材を過熱水蒸気、マイクロ波及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を50〜130℃に維持しながら含水率12%以下に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を前記過熱水蒸気及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理する第2工程と、を順次有しているので、大きな断面を有する熱処理木材であっても、割れ、変形及び反りの発生が防止されると共に、腐朽耐久性、防蟻性及び安全性が向上された熱処理木材の製造方法を提供することができる。
【0016】
請求項2に記載された本発明によれば、前記第2工程における加熱媒体として過熱水蒸気を用いるので、ほとんど無酸素雰囲気で木材の熱処理が可能となり、しかも、非常に熱効率が良いので、200〜250℃の温度範囲で4〜12時間という短い時間で熱処理木材の製造が可能になる。
【0017】
請求項3に記載された本発明によれば、前記第2工程における加熱媒体として加熱オイルを用いるので、熱効率が良くなり、そのために、短時間で熱処理木材を製造することができる。例えば、200〜250℃の温度範囲で4〜12時間という短い時間で熱処理木材の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の熱処理木材の製造方法は、断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、並びに、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材を過熱水蒸気、マイクロ波及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を50〜130℃に維持しながら含水率12%以下に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を前記過熱水蒸気及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理する第2工程と、を順次有している。
【0019】
このように、断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、並びに、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材を過熱水蒸気、マイクロ波及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を50〜130℃に維持しながら含水率12%以下に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を前記過熱水蒸気及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理する第2工程と、を順次有していると、大きな断面を有する熱処理木材であっても、割れ、変形及び反りの発生が防止されると共に、腐朽耐久性、防蟻性及び安全性が向上された熱処理木材の製造方法を提供することができる。
【0020】
本発明のように、水分を含有している木材(通常の未乾燥木材)を、例えば、6〜12kwの条件で15〜30分間程度マイクロ波照射すると、木材組織に閉じこめられている水分が100℃に以上に加熱されて、高圧(加圧)水蒸気になり、これが木材の外部に排出される結果、木材の含水率が急速に低下して木材が乾燥されることになる。この組織内で発生した水蒸気は、組織内部に閉じこめられるので、圧力が高くなり、そのために、加圧水蒸気又は高圧水蒸気になって木材を加熱することになる。木材は、前記圧力に応じて発生した100℃以上の温度で乾燥されることとなる。
【0021】
本発明においては、前記第2工程における加熱媒体として好ましくは過熱水蒸気を用いる。ここでいう過熱水蒸気は、加圧条件化で温度を上昇させる加圧過熱水蒸気ではなくて、ボイラーで発生させた水蒸気を更に常圧でヒータ等により2次的に加熱して温度を高めたものであり、最高1200℃まで温度を上昇させることができる画期的な加熱媒体である。この過熱水蒸気を利用した製品は、最近電子レンジに代わる加熱調理器具として市販されているが、木材関連業界では、過熱水蒸気を利用した機械装置は、まだまだ開発・商業化されていない。このように、前記第2工程における加熱媒体として好ましくは過熱水蒸気を用いると、通常のボイラーから発生させた水蒸気よりも水滴になりにくいので、木材に与える熱量が大きくなり非常に短時間で熱処理木材の製造が可能になる。
【0022】
また、本発明においては、ボイラーで生産された水蒸気を第2次的に加熱する熱源の種類には制限されるものではないが、電気による温度制御の容易なIHヒータが望ましい。熱処理木材の木材腐朽菌に対する腐朽阻止効果に関与している木材構成成分として、ヘミセルロースが関与していることが報告されている。ヘミセルロースの大幅な減少或いは消失は、木材腐朽菌の菌腐朽阻止効果に関連があるとされている。
【0023】
本発明者の実験結果では、熱処理木材の処理温度と処理時間とが木材腐朽菌の腐朽阻止効果に影響を与えることが、直接的に把握されている。前記第2工程の温度が200℃以上であれば媒体の熱効率(単位時間及び木材の単位面積当たりの付与熱量)にしたがって4〜96時間の処理を行えば、未処理のスギ辺材が通常30〜50%腐朽による質量減少がある条件で全く質量減少が0%になることを把握している。
【0024】
熱媒体の中でも、熱効率が最も良いのが加熱水蒸気であるが、加熱水蒸気は、本発明の過熱媒体の中でも同じ温度による処理で最も短い時間で熱処理木材の製造ができる。
【0025】
本発明においては、前記第2工程における加熱媒体として好ましくは加熱オイルを用いる。本発明で用いる好ましい加熱オイルは、加熱した場合に、加熱油から煙が発生する温度域ができるだけ高温であることである。できれば、発煙温度が200℃以上であることが望ましい。また、高温に長時間維持して、空気中の酸素にによる酸化や木材からの排出成分の影響で高粘度の流動性のない液体になりにくい性質のオイルが望ましい。一般の植物油も使用することができるが、原料とする植物の種類により熱酸化に対する安定性や発煙温度が異なるが、ヒマワリ油や菜種油又はこれらをエステル化した油が望ましい。工業的に合成された熱安定性に優れた不活性油も使用することができる。加熱オイルは、過熱水蒸気に次いで熱効率が良いので、同じ温度でも比較的短い時間で熱処理木材の製造が可能である。本発明によれば、200〜250℃、4〜12時間で十分な木材腐朽菌の腐朽阻止性能を付与された熱処理木材が製造できる。
【0026】
(実施例1)
平均初期含水率98%の120mm×120mm×2000mmの大きな断面を有するスギ角材20本を10KWマイクロ波を用いて30分間照射した後養生室に移して60℃で30分間保温する、というサイクルを5回繰り返して、仕上がり平均含水率11.5%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材をヒマワリ油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0027】
(実施例2)
平均初期含水率102%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ丸太10本を過熱水蒸気を用いて130℃の温度で8時間、120℃の温度で4時間、及び、100℃の温度で4時間、順次加熱して仕上がり平均含水率10%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0028】
(実施例3)
平均初期含水率87%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するヒノキ丸太15本を菜種油に浸漬して130℃の温度で24時間加熱して仕上がり平均含水率8.3%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を菜種油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0029】
(実施例4)
平均初期含水率110%の150mm×150mm×2000mmの大きな断面を有するヒノキ角材10本を12KWマイクロ波を用いて30分間照射した後養生室に移して60℃で30分間保温する、というサイクルを5回繰り返して、仕上がり平均含水率11.3%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で12時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0030】
(実施例5)
平均初期含水率87%の120mm×120mm×2000mmの大きな断面を有するカラマツ角材20本をヒマワリ油に浸漬して130℃の温度で24時間加熱して仕上がり平均含水率11%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0031】
(実施例6)
平均初期含水率98%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するカラマツ丸太15本を過熱水蒸気を用いて130℃の温度で8時間、120℃の温度で4時間、及び、100℃の温度で2時間、順次加熱した後、9KWマイクロ波を用いて30分間照射して仕上がり平均含水率10%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を菜種油を用いて220℃の温度で48時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0032】
(実施例7)
平均初期含水率105%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ丸太10本を過熱水蒸気を用いて130℃の温度で8時間、120℃の温度で4時間、及び、100℃の温度で4時間、順次加熱した後、9KWマイクロ波を用いて30分間照射して仕上がり平均含水率10.3%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0033】
(実施例8)
平均初期含水率85%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するヒノキ丸太15本をヒマワリ油に浸漬して130℃の温度で24時間加熱して仕上がり平均含水率9.8%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材をヒマワリ油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0034】
(実施例9)
平均初期含水率90%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するカラマツ丸太15本を菜種油に浸漬して130℃の温度で24時間加熱して仕上がり平均含水率11.5%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0035】
(実施例10)
平均初期含水率95%の150mm×150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ角材10本を過熱水蒸気を用いて130℃の温度で8時間、120℃の温度で4時間、及び、100℃の温度で4時間、順次加熱して仕上がり平均含水率11.5%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を菜種油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0036】
(実施例11)
平均初期含水率88%の150mm×150mm×2000mmの大きな断面を有するヒノキ角材10本を10KWマイクロ波を用いて30分間照射した後養生室に移して60℃で30分間保温する、というサイクルを5回繰り返して、仕上がり平均含水率11.3%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材をヒマワリ油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0037】
(実施例12)
平均初期含水率90%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するカラマツ丸太15本を10KWマイクロ波を用いて30分間照射した後養生室に移して60℃で30分間保温する、というサイクルを5回繰り返して、仕上がり平均含水率10.5%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で12時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0038】
(実施例13)
平均初期含水率90%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ丸太15本を過熱水蒸気を用いて130℃の温度で8時間、120℃の温度で4時間、及び、100℃の温度で2時間、順次加熱して仕上がり平均含水率10%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0039】
(実施例14)
平均初期含水率88%の直径150mm×2000mmの大きな断面を有するヒノキ丸太15本を10KWマイクロ波を用いて30分間照射した後養生室に移して60℃で30分間保温する、というサイクルを5回繰り返して、仕上がり平均含水率9.8%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で4時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0040】
以上、実施例1〜14における第1工程で乾燥して得た木材の外観(割れ)を検査した。前記「割れ」については、0.5mmを越えるものを割れと判定した。
【0041】
次に、実施例1〜14において得られた木材について、(1)第1工程で乾燥して得た木材の外観(割れ)、及び、(2)木材の外観(割れ)について試験し、(3)木材の中央部分の切断面について試験し、そして、次に示す(4)腐朽耐久性試験及び(5)防蟻試験をした。
【0042】
腐朽耐久性試験
「腐朽耐久性試験」については、JISK1571に基づいて測定した。即ち、加熱処理を終了した全ての木材から5本ずつの試験材(2×2×9cm)を採取して60℃で3日間乾燥させて質量を測定した。全ての熱処理試験材に対して同数の無処理のスギ辺材試験材(2×2×9cm)を準備し、同様に60℃で3日間乾燥して質量を測定した。処理試験材と無処理試験材をステイプラーで2箇所固定し、450mLの培養瓶にスギ辺材(4×1×7cm)を収め、水道水を100mL注加して試験材(処理無処理のペア1組)を収め、蓋を閉め蒸気滅菌して放冷後、オオウズラタケを接種して、恒温器内で3ヶ月間培養した。培養期間を終了した培養瓶から試験材を取出し、余分な菌糸等の共雑物を取除き、60℃で3日間乾燥して質量を測定した。腐朽試験前後の質量の差から質量減少率を算出した。
【0043】
防蟻試験
「防蟻試験」については、JISK1571に基づいて測定した。即ち、加熱処理を終了した全ての木材から5個ずつの試験材(2×2×1cm)を採取して60℃で3日間乾燥させて質量を測定した。蓋付きのコンテナーにJISK1571で使用する海砂を厚さ1cmになるように均一に敷き、水を散布した。この上に厚さ1cmのアカマツ辺材を置き、試験材を設置した。処理試験材50個に対して無処理試験材を10個ランダムに並べる方法で設置した。イエシロアリは巣から約1万頭集め、コンテナーに放した。3ヶ月経過してから試験材を取除き、共雑物を試験材からきれいにした後、水洗いして60℃で3日間乾燥し質量を測定した。シロアリ食害試験前後の質量の差から質量減少率を算出した。
【0044】
前記試験においては、前記「割れ」については、0.5mmを越えるものを割れと判定した。そして、JISK1571においては、質量減少率が3.4%までは、誤差と看做すとされているので、前記「腐朽耐久性試験」及び「防蟻試験」においては、質量減少率が3%以下の試験木材を合格と判定した。
【0045】
試験結果は、次の表1に示される。
【0046】
【表1】

【0047】
次ぎに、比較例1〜11を記載するが、これらの比較例1〜11は、第1工程における加熱処理条件を、次の表1〜3に示されるスケジュール1(中温条件)、スケジュール2(中高温条件)、及び、スケジュール3(高温条件)として行ったものである。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
(比較例1)
120mm×120mm×2000mmの大きな断面を有するスギ角材20本をスケジュール1に基づいて水蒸気加熱して平均含水率21.5%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を加熱水蒸気を用いて220℃の温度で48時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0052】
(比較例2)
直径150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ丸太10本をスケジュール3に基づいて水蒸気加熱して平均含水率15.5%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0053】
(比較例3)
直径150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ丸太15本をスケジュール3に基づいて水蒸気加熱して平均含水率13.5%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を菜種油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0054】
(比較例4)
150mm×150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ角材10本をスケジュール2に基づいて水蒸気加熱して平均含水率12.8%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で12時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0055】
(比較例5)
120mm×120mm×2000mmの大きな断面を有するカラマツ角材20本をスケジュール1に基づいて水蒸気加熱して平均含水率15.8%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で12時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0056】
(比較例6)
直径150mm×2000mmの大きな断面を有するカラマツ丸太15本をスケジュール3に基づいて水蒸気加熱して平均含水率12.3%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材をヒマワリ油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0057】
(比較例7)
直径150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ丸太10本をスケジュール3に基づいて水蒸気加熱して平均含水率18.7%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で12時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0058】
(比較例8)
直径150mm×2000mmの大きな断面を有するヒノキ丸太15本をスケジュール3に基づいて水蒸気加熱して平均含水率16.8%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材をヒマワリ油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0059】
(比較例9)
直径150mm×2000mmの大きな断面を有するカラマツ丸太10本をスケジュール3に基づいて水蒸気加熱して平均含水率12.7%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を過熱水蒸気を用いて220℃の温度で12時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0060】
(比較例10)
150mm×150mm×2000mmの大きな断面を有するスギ角材10本をスケジュール2に基づいて水蒸気加熱して平均含水率12.0%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材をヒマワリ油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0061】
(比較例11)
150mm×150mm×2000mmの大きな断面を有するヒノキ角材10本をスケジュール2に基づいて水蒸気加熱して平均含水率12%に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を菜種油に浸漬して220℃の温度で8時間熱処理する第2工程と、を順次経て熱処理木材を得た。
【0062】
以上、比較例1〜11における第1工程で乾燥して得た木材の外観(割れ)を検査した。前記「割れ」については、0.5mmを越えるものを割れと判定した。
【0063】
次ぎに、実施例1〜11において得られた木材について、(1)第1工程で乾燥して得た木材の外観(割れ)、及び、(2)木材の外観(割れ)について試験し、(3)木材の中央部分の切断面について試験し、そして、(4)腐朽耐久性試験及び(5)防蟻試験を前記実施例1〜11と同様にして試験した。
【0064】
試験結果は、次の表5に示される。
【0065】
【表5】

【0066】
表1からみると、実施例1〜14では、断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、及び、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材は、これらを過熱水蒸気、マイクロ波及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を50〜130℃に維持しながら含水率10%前後までに乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を前記過熱水蒸気、高圧水蒸気(加圧水蒸気)及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理する第2工程と、を順次経て処理されるので、割れの発生が防止されると共に、腐朽耐久性及び防蟻性が向上された熱処理木材を製造できることがわかる。また、実施例1〜14では、180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理すると、加熱媒体の種類にかかわりなく、木材腐朽菌による腐朽がほとんどなくなっていること(質量減少率が3%以下)がわかる。
【0067】
しかしながら、表5からみると、比較例1〜14では、従来から使用されている蒸気式乾燥機を用いたので、断面における直径が120mm以上である丸太、断面における最小の辺が120mm以上である角材、及び、断面における最小の辺が120mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材は、これらを乾燥すると、割れの発生が著しいので、熱処理木材の製造における原材料として全く使用できないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面における直径が50mm以上である丸太、断面における最小の辺が50mm以上である角材、並びに、断面における最小の辺が50mm以上である板材から選ばれる大きな断面を有する含水率15%以上の木材を過熱水蒸気、マイクロ波及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を50〜130℃に維持しながら含水率12%以下に乾燥する第1工程と、前記第1工程で乾燥した木材を前記過熱水蒸気及び加熱オイルから選ばれる少なくとも1種の加熱媒体を用いて木材温度を180〜250℃に維持しながら4〜24時間熱処理する第2工程と、を順次有することを特徴とする熱処理木材の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程における加熱媒体として過熱水蒸気を用いることを特徴とする請求項1に記載の熱処理木材の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程における加熱媒体として加熱オイルを用いることを特徴とする請求項1に記載の熱処理木材の製造方法。