説明

熱処理装置

【課題】 運転開始時における炉内への原料薄層シートの導入や、シート切断時における炉内への原料薄層シートの再度導入を容易に行うことができる熱処理装置を提供する。
【解決手段】 炉本体2と、原料薄層シート入口部4と、炭素繊維シート出口部8と、炉本体2内に設けられた1以上の接圧ローラー12a、12b、12c、12d、12eと、前記接圧ローラーの軸方向片端若しくは両端に設けられたベルトローラー16a、16b、16c、16d、16eと、前記ベルトローラーの表面に形成した溝18a、18b、18c、18d、18eに架けられ、炉本体2外の上流側から前記炉内のベルトローラーを経て炉本体2外の下流側まで通されたベルト20とを有する熱処理装置2とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維、耐炎繊維等を原料とする薄層シートから炭素繊維シートを製造する際に使用する熱処理装置において、薄層シートの切断時や、運転立上げ時に薄層シートを簡単に誘導する手段を有する熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維シートは、導電性、通気性が良いため、導電材や電極としての用途が期待されている。特に、電池用電極材としての用途は重要である。
【0003】
炭素繊維シートを電極材用として用いる場合、近年電池の小型化、軽量化が進む中でこれらに対応できるように、炭素繊維シート自体の厚さを小さくすることが求められている。
【0004】
従来より薄層の炭素繊維シートの製造方法としては、炭素繊維、耐炎繊維等の原料繊維を紙、不織布、フェルト、織物等の薄層シートに加工し、これを連続的に熱処理(焼成)する方法が知られている。しかし、従来の炭素繊維シートの製造方法では、焼成中のシートが熱収縮することにより皺やうねりが発生し易い問題がある。
【0005】
この薄層の炭素繊維シートの製造方法に関し、焼成収縮に起因する表面品位(皺、うねり)改善を目的とした製造装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、運転開始時に、複雑な炉内構造を有し且つ高温の炉内へ薄層シートを誘導することや、シート切断が起こった際に、再度炉内へ薄層シートを誘導することは容易ではない問題がある。なお、特許文献1、2には薄層シートの導入方法、導入装置に関する記述は無い。
【特許文献1】特開2004−256959号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0010]、[0017]〜[0020])
【特許文献2】特開2004−308098号公報 (段落番号[0029]〜[0044])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薄層炭素繊維シートの製造には温度域500〜1000℃における熱処理(前処理)と温度域1500〜2000℃における熱処理(炭素化処理)の2回の熱処理を行うことが好ましい。
【0007】
本発明者の属する研究グループは、熱処理時に「皺」や「うねり」等の形状変化を起こさない炭素繊維シートの製造方法を検討しているうちに、2回の熱処理のうちの前処理における温度分布を適正にし、更にこの前処理炉内にローラーを設けて原料の薄層シートにテンションを付与し、ローラー上で接圧を負荷しながら薄層シートを熱処理することにより、収縮による皺やうねり等の問題を生ずることなく炭素繊維シートを連続生産できることを知得し、先に出願した(特願2004−166002)。
【0008】
本発明者は、上記前処理炉及び炭素化処理炉の何れにおいても接圧を150Pa以上にすることにより、熱処理時に「皺」や「うねり」等の形状変化を起こさないアイロン効果が得られることが解った。
【0009】
しかし、上記先願特許においては特に前処理炉内にローラーを設けていることから、運転開始時に炉内へ薄層シートを導入することや、何らかの事故により薄層シートの切断時に再度炉内へ薄層シートを導入することが容易ではない問題がある。
【0010】
本発明者は、薄層シートの導入方法、導入装置について検討を重ねるうちに、炉内に設けられた接圧ローラーの軸方向片端若しくは両端にベルトローラーが設けられ、ローラー表面に形成した誘導溝に焼成温度以上の耐熱性を有するベルトが架けられ、そのベルトが炉外の上流側から前記炉内のベルトローラーを経て炉外の下流側まで導かれてなる熱処理装置を考え出した。
【0011】
この熱処理装置によれば、ベルトが炉外の上流側から前記炉内のベルトローラーを経て炉外の下流側まで導かれているので、例えば炉の運転開始時に炉外の上流側において薄層シートの先頭とベルトとを連結糸で繋いで、ベルトを炉内のベルトローラーを経て炉外の下流側まで通過させることにより、炉を室温まで降温することなく、ベルト、連結糸と共に薄層シートを容易に、複雑な構造を有する炉内を通過させることができることを知得し、本発明を完成するに到った。従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0013】
〔1〕 炉本体と、炉本体の上流側炉壁に形成されてなる原料薄層シート入口部と、炉本体の下流側炉壁に形成されてなる炭素繊維シート出口部と、炉本体内に設けられた1以上の接圧ローラーと、前記接圧ローラーの回転軸と軸心を一致させて接圧ローラーの片端若しくは両端に設けられたベルトローラーであって、その周方向に沿ってベルト係合用溝を形成したベルトローラーと、前記ベルトローラーのベルト係合用溝に架けられ、炉本体外の上流側から前記炉内のベルトローラーを経て炉本体外の下流側まで通されたベルトとを有する熱処理装置。
【0014】
〔2〕 ベルトローラーが接圧ローラーの軸方向端部に一体に形成されてなる〔1〕に記載の熱処理装置。
【0015】
〔3〕 ベルトローラーが接圧ローラーの軸方向端部に回転自在に設けられてなる〔1〕に記載の熱処理装置。
【0016】
〔4〕 ベルトローラーが接圧ローラーの軸方向端部と離間され、炉側壁に支持手段を介して固定されてなる〔1〕に記載の熱処理装置。
【0017】
〔5〕 ベルトが、その両端が接続された環状体である〔1〕に記載の熱処理装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱処理装置によれば、炉内に設けられた接圧ローラーの軸方向片端若しくは両端にベルトローラーが設けられ、ローラー表面に形成した誘導溝にC/Cベルト等の耐熱性を有するベルトが架けられ、そのベルトが炉外の上流側から前記炉内のベルトローラーを経て炉外の下流側まで導かれているので、炉外の上流側において薄層シートの先頭とベルトとを連結糸で繋いで、ベルトを炉内のベルトローラーを経て炉外の下流側まで通過させることができる。
【0019】
これにより、炉を室温まで降温することなく、ベルト、連結糸と共に薄層シートを容易に炉内を通過させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の熱処理装置の一例を示す概略側面図である。2は内部中空の炉本体で、炉壁は断熱材を用いて形成されている。
【0022】
炉本体2の最上流には、原料薄層シート入口部4を有する上流側炉壁6が設けられている。炉本体2の最下流には、炭素繊維シート出口部8を有する下流側炉壁10が設けられている。
【0023】
原料薄層シート入口部4及び炭素繊維シート出口部8は、不図示のシール手段で窒素ガス等の不活性ガスを用いてガスシールされており、これにより炉本体2内に空気が混入することの無いように構成されている。
【0024】
炉本体2内には、複数(本図においては5本)の接圧ローラー12a、12b、12c、12d、12eが上流側から下流側に向かって順次配設されている。原料薄層シート14は炉本体2外の上流側から原料薄層シート入口部4を通って炉本体2内に供給されている。
【0025】
炉本体2内に供給された原料薄層シート14は、次いで接圧ローラー12a、12b、12c、12d、12e間をジグザグに張り渡され、前記ローラーにより接圧を受けながら炭素化し、炭素繊維シート出口部8を通って炉本体2外に収縮による皺やうねり等の無い炭素繊維シート14として取り出される。
【0026】
上記接圧ローラー12a、12b、12c、12d、12eの軸方向に沿って各端部にはベルトローラー16a、16b、16c、16d、16eがそれぞれ設けられている。本例においては、各接圧ローラーの片端だけにベルトローラーが設けられている。
【0027】
ベルトローラー16a、16b、16c、16d、16eのベルト係合用溝18a、18b、18c、18d、18eにはベルト20が架けられている。このベルト20は、炉本体2外の上流側に配設されたガイドローラー22を経て炉本体2内に導入され、ベルトローラー16a、16b、16c、16d、16eを経て炉本体2外の下流側に配設されたガイドローラー24に通されている。
【0028】
図1の装置において、56a、56bは上部ヒーターボックスで、上部ヒーターボックス56aには上部ヒーター58a、58bが収納され、上部ヒーターボックス56bには上部ヒーター58c、58dが収納されている。60a、60bは下部ヒーターボックスで、下部ヒーターボックス60aには下部ヒーター62a、62bが収納され、下部ヒーターボックス60bには下部ヒーター62c、62dが収納されている。
【0029】
炉本体2内は、隔壁64で水平方向に上流部66と下流部68とに仕切られている。前記隔壁64にはシート搬送窓70が形成されている。72は炉本体2内で発生する排ガスを燃焼処理する排ガス処理室である。
【0030】
この構成により、運転開始時における炉本体2内への原料薄層シート14の導入や、切断時における炉本体2内への原料薄層シート14の再度導入を容易に行うことができる。
【0031】
図2は、図1の装置におけるA〜A線に沿った正面断面部分拡大図であり、本発明に用いるベルトローラー16e(16a、16b、16c、16dも同様であり、本図では代表して16eについて説明する)の一形態及びその付近を示している。図3は、図1の装置において、炉本体2内へ原料薄層シート14を導入する方法の一形態を示す概略部分斜視図である。
【0032】
炉本体2内へ原料薄層シート14を導入する図3に示す方法では、炉本体2外の上流側において原料薄層シート14の先頭部26とベルト20とを、誘導ジグ28を介して連結糸30で繋いでベルト20を矢印Xの方向に引き出すことにより、ベルト20を炉本体2内のベルトローラー16a、16b、16c、16d、16eを経て炉本体2外の下流側まで通過させるに伴い、炉本体2内へ原料薄層シート14を導入することができる。
【0033】
なお、原料薄層シート14が脆弱な場合は、誘導ジグ28のように三角構造部材32と底辺延長部材34とからなり原料薄層シート14の幅方向に均一な張力が掛かる誘導ジグを用いることが好ましい。
【0034】
図2に示されるように周部に凹型18eが形成されたベルトローラー16eは、接圧ローラー12eの端部36eに接続されて接圧ローラー12eと一体化され、回転軸38eを共有し、接圧ローラー12eと共に回転する。この構造により、熱処理装置の運転中ベルト20は原料薄層シート14と共に、炉本体2外の上流側から炉本体2内に導入され、炉本体2内を走行後、炉本体2外の下流側に通されている。そのため、原料薄層シート14が炉本体2内で切断しても、ベルト20は常時炉本体2外の下流側に通されているので、原料薄層シート14切断時における炉本体2内への原料薄層シート14の再度導入を容易に行うことができる。
【0035】
ベルト20及び連結糸30は、使用する温度において切断等の問題が無ければ特に規定は無いが、一般的には原料繊維に樹脂を含浸させて炭素化した炭素/炭素複合材料ベルト(C/Cベルト)及びC/C連結糸を用いることが好ましい。
【0036】
図4は、本発明に用いるベルトローラーの他の形態及びその付近を示す正面断面拡大図である。
【0037】
図4に示されるように周部に凹型40eが形成されたベルトローラー42eは、接圧ローラー44eの端部46e及び回転軸48eから離間され、炉側壁50に支持手段52e、54eを介して固定されている。
【0038】
図1の装置において、通常生産中は炉本体2内の接圧ローラー12a、12b、12c、12d、12eは駆動されるが、凹型18a、18b、18c、18d、18eとベルト20との摩擦を低減させるためにはベルトローラー16a、16b、16c、16d、16eは停止させることが好ましい。
【0039】
このため、図4のようにベルトローラーを接圧ローラーの端部及び回転軸から独立させると、通常生産中に発生するベルトと凹型との摩擦を抑制でき、好適である。
【0040】
図5は、図4のベルトローラーにおいて支持手段52e、54eを取り除いて接圧ローラー44eとベルトローラー42eとを互いに独自に回転自在した形態のベルトローラー及びその付近を示す正面断面拡大図である。このベルトローラーの形態にすることによりベルトの引出し抵抗は少なくなり、更に好適である。
【0041】
図6は本発明の熱処理装置の他の例を示す概略側面図である。
【0042】
図6の熱処理装置82において、ベルト84は、その両端が接続された環状体であり、炉本体2外の上流側ではガイドローラー22を、炉本体2内では、ベルトローラー16a、16b、16c、16d、16eを、炉本体2外の下流側ではガイドローラー24を、炉本体2外の上流側下方ではガイドローラー86、88、90を、炉本体2外の上流側下方ではガイドローラー92を通されている。
【0043】
図6において熱処理装置82、ベルト84、ガイドローラー86、88、90、92以外の構成は図1と同様であるので、同一箇所に同一参照符号を付してその説明を省略する。
【0044】
図6の構成にすることにより、通常生産中も駆動させる方法も採用できるが、その際の焼成条件として、多本数の接圧ローラーの回転速度が同一であることが必要である。また、熱損失の面では、ベルトローラーの端部及び回転軸を、接圧ローラーの端部及び回転軸から独立させた構成にし、通常生産中は停止させておき、必要なときのみ手動又はモーターにて駆動させる運転方法が好ましい。また、各接圧ローラーの両端ともベルトローラーが設けられても良い。更に、排ガス処理室72は図1の例では1個を設置したが、これに限らず焼成条件により上方、下方に複数個設置することも可能である。
【0045】
なお、本発明の熱処理装置の形態は図1〜6の形態だけではなく、本発明の要旨を変更しない限り、適宜変形して差支えない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の熱処理装置の一例を示す概略側面図である。
【図2】図1の装置におけるA〜A線に沿った正面断面図であり、本発明に用いるベルトローラーの一形態及びその付近を示す拡大図である。
【図3】図1の装置において、炉本体2内へ原料薄層シート14を導入する方法の一形態を示す概略部分斜視図である。
【図4】本発明に用いるベルトローラーの他の形態及びその付近を示す正面断面拡大図である。
【図5】図4のベルトローラーにおいて炉側壁との支持手段を取り除いた形態のベルトローラー及びその付近を示す正面断面拡大図である。
【図6】本発明の熱処理装置の他の例を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0047】
2、82 炉本体
4 原料薄層シート入口部
6 原料薄層シート入口部を有する上流側炉壁
8 炭素繊維シート出口部
10 炭素繊維シート出口部を有する下流側炉壁
12a、12b、12c、12d、12e、44e 接圧ローラー
14 薄層シート
16a、16b、16c、16d、16e、42e ベルトローラー
18a、18b、18c、18d、18e、40e 凹型
20、84 ベルト
22、24、86、88、90、92 ガイドローラー
26 原料薄層シートの先頭部
28 誘導ジグ
30 連結糸
32 誘導ジグの三角構造部材
34 誘導ジグの底辺延長部材
36e、46e 接圧ローラーの端部
38e、48e 回転軸
50 炉側壁
52e、54e 支持手段
56a、56b 上部ヒーターボックス
58a、58b、58c、58d 上部ヒーター
60a、60b 下部ヒーターボックス
62a、62b、62c、62d 下部ヒーター
64 隔壁
66 炉本体内の上流部
68 炉本体内の下流部
70 シート搬送窓
72 排ガス処理室
X ベルトを引き出す方向を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉本体と、炉本体の上流側炉壁に形成されてなる原料薄層シート入口部と、炉本体の下流側炉壁に形成されてなる炭素繊維シート出口部と、炉本体内に設けられた1以上の接圧ローラーと、前記接圧ローラーの回転軸と軸心を一致させて接圧ローラーの片端若しくは両端に設けられたベルトローラーであって、その周方向に沿ってベルト係合用溝を形成したベルトローラーと、前記ベルトローラーのベルト係合用溝に架けられ、炉本体外の上流側から前記炉内のベルトローラーを経て炉本体外の下流側まで通されたベルトとを有する熱処理装置。
【請求項2】
ベルトローラーが接圧ローラーの軸方向端部に一体に形成されてなる請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
ベルトローラーが接圧ローラーの軸方向端部に回転自在に設けられてなる請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項4】
ベルトローラーが接圧ローラーの軸方向端部と離間され、炉側壁に支持手段を介して固定されてなる請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項5】
ベルトが、その両端が接続された環状体である請求項1に記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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