説明

熱処理装置

【課題】別個の装置を必要とせず、簡単な構成で軸受を冷却することが可能であり、設備コストおよび運転コストの削減を可能とした熱処理装置を提供する。
【解決手段】この発明の熱処理装置1は、熱処理炉2、攪拌翼4、軸受5,6、および回転翼7を備える。熱処理炉2は被処理物を収容する。攪拌翼4は、熱処理炉2の炉壁を貫通して熱処理炉2の内部と外部とにわたって配置される駆動軸18の先端に取付けられ、炉内の雰囲気ガスを攪拌する。軸受5,6は、熱処理炉外に軸受保持部材14,16を用いて取付けられ、駆動軸18を軸承する。回転翼7は、駆動軸18に固定される。この構成において、駆動軸18により回転翼7が回転されることにより生ずる空気流により軸受保持部材14,16および軸受5,6が冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ウエハなどの被処理物を熱処理炉内に収容して加熱処理する熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウエハなどの被処理物を熱処理炉内に収容して加熱処理する熱処理装置では、炉内の温度を均一にするために、炉内に配置された攪拌翼により炉内の雰囲気を攪拌するようにしている(特許文献1、2参照。)。攪拌翼は、熱処理炉を貫通する駆動軸の先端に取付けられる。駆動軸は、熱処理炉の外部に軸受を用いて軸承される。
【0003】
加熱処理の間、炉内の温度は900〜1000℃にも達する。このとき、炉内に配置される攪拌翼から駆動軸を伝って軸受に炉内の熱が伝熱する。軸受は精密部品であるため、使用可能温度範囲が規格で定められている。したがって、安定して炉内の雰囲気を攪拌するためには、軸受の温度が使用可能温度の上限を上回らないように、駆動軸や軸受を冷却する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1、2には冷却水を循環させる水冷式の駆動軸または軸受の冷却機構が開示されている。具体的には、特許文献1には、軸受を保持する軸受保持部材に水冷ジャケットを構築することが開示され、特許文献2には駆動軸の周囲に螺旋状の水パイプを巻き付けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平2−118748号公報
【特許文献2】特開2003−21472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような水冷式の冷却機構では、熱処理装置とは別個に冷却水の循環装置が必要であることに加えて水の取り回しの配管が必要であったりして設備コストが高くなる。
【0007】
また、設備の運休や点検などで熱処理装置の運転を停止させた後でも、熱処理炉の余熱で軸受が熱を持つので、しばらくは冷却水を循環させておく必要がある。冷却水の循環装置と熱処理装置の制御系統とは別々であるため、冷却水を止めるために別途作業が必要となり、運転コストも高くなる。
【0008】
この発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、別個の装置を必要とせず、簡単な構成で軸受を冷却することが可能であり、設備コストおよび運転コストの削減を可能とした熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の熱処理装置は、熱処理炉、攪拌翼、軸受、および回転翼を備える。熱処理炉は被処理物を収容する。攪拌翼は、熱処理炉の炉壁を貫通して熱処理炉の内部と外部とにわたって配置される駆動軸の先端に取付けられ、炉内の雰囲気ガスを攪拌する。軸受は、熱処理炉外に軸受保持部材を用いて取付けられ、前記駆動軸を軸承する。回転翼は、前記駆動軸に固定される。この構成において、前記駆動軸により前記回転翼が回転されることにより生ずる空気流により前記軸受保持部材および前記軸受が冷却される。
【0010】
この構成によれば、駆動軸および軸保持部材の空冷が可能となる。冷却水の循環装置が不要で、水の取り回しの配管も不要となる。
【0011】
また、この発明の熱処理装置は、前記軸受保持部材、前記軸受、および前記回転翼を包囲するダクトを備える。この構成によれば、ダクト内に空気流を引き込んで軸保持部材および軸受を確実に冷却することが出来る。
【0012】
なお、前記軸受保持部材に放熱フィンを周設しても良い。これによると、放熱フィンを介して軸受保持部材および軸受の熱を放熱出来るので、冷却効率が向上する。この場合、該放熱フィンを前記ダクトに接触させると、いっそう冷却効率が向上する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、別個の装置を必要とせず、簡単な構成で軸受を冷却することが可能となる。これにより、設備コストおよび運転コストの削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態に係る熱処理装置の要部を示す斜視断面図である。
【図2】図2(a)は駆動軸右回転時の空気流の流通方向を説明する上記熱処理装置の要部の拡大図である。図2(b)は駆動軸左回転時の空気流の流通方向を説明する上記熱処理装置の要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、この発明の実施の形態に係る熱処理装置を説明する。図1はこの発明の一実施形態に係る熱処理装置の要部を示す斜視断面図である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態に係る熱処理装置1は、主として、熱処理炉2、駆動モータ3、攪拌翼4、第1,第2軸受5,6、および回転翼7を有する。なお、この図において、熱処理炉2は、全体の図示を省略し、攪拌翼4が配置された天井部のごく一部のみを図示している。
【0017】
熱処理炉2は、図示しない被処理物を収容する。被処理物は特に限定されないが、例えば、半導体ウエハや液晶パネルのガラス基板などが挙げられる。熱処理炉2の材質は、耐熱性の金属や合金、例えば、スチールやステンレスなどの板金が好適である。熱処理炉2の内壁には二層の断熱材8,9が配置されている。
【0018】
熱処理炉2の上部には円筒状の外筒10が固定される。外筒10は、後述する回転翼7の回転に伴い、駆動軸18方向に生ずる空気流の流路を規定するものである。外筒10は熱処理炉2の天井壁を貫通して断熱材8の上部に差し込まれている。外筒10の上端及び下端にはそれぞれリング状円盤であるモータ支持部材11および第1軸受支持部材12が固定されている。
【0019】
駆動モータ3は、モータ支持部材11上に固定されている。駆動モータ3のモータ軸3Aは、外筒10の軸心に挿入されている。第1軸受支持部材12上には、上端のフランジ13Aを用いてカップ状の第2軸受支持部材13が取付けられる。第2軸受支持部材13の底面には、第1軸受保持部材14が支持される。第1および第2軸受支持部材12,13は、第1軸受保持部材14を介して第1軸受5を支持している。
【0020】
第1軸受保持部材14は、上下2段の階段状に形成された筒状体であり、その上段部に第1軸受5を保持している。第1軸受保持部材14の上部開口はキャップ15で蓋がされ、内部の第1軸受5を保護している。第1軸受保持部材14の材質は、例えば、銅、アルミなど熱伝導性の良い金属が望ましい。
【0021】
第1軸受保持部材14の外周には複数の放熱フィン14Aが放射状に一体的に設けられている。なお、放熱フィン14Aを設けるにあたり、別体として第1軸受保持部材14の周囲に接着や溶接等で取付けても構わない。放熱フィン14Aの枚数は限定されないが、例えば、6〜36枚が好適である。放熱フィン14Aの材質は、上述した第1軸受保持部材14の材質と同様に、例えば、銅、アルミなど熱伝導性の良い金属が望ましい。
【0022】
外筒10の内側には、外筒10内の空間を上下に二分するリング状円盤である第2軸受保持部材16が取付けられている。第2軸受保持部材16の中央部に第2軸受6が保持(支持)されている。第2軸受保持部材16の周辺部には、複数の長穴からなる連通口16Aが円周方向に並んで開口している。これら連通口16Aを介して第2軸受保持部材16で仕切られた外筒10内の上下の空間が連通される。
【0023】
外筒10の第2軸受保持部材16よりも上側には、2つの矩形の第1通気口10A(図1には1つのみを図示。)が窓状に開口している。外筒10の第2軸受保持部材16よりも下側には、2つの矩形の第2通気口10B(図1では、手前側の窓枠がカットされた断面で示している。)が窓状に開口している。第1,第2通気口10A,10Bともに2つの通気口は、外筒10の円周方向において180°の方向に対向して配置されている。また、第1通気口10Aと第2通気口10Bとの間の相対位置は、外筒10の円周方向において略90°ずれている。これにより、外筒10の内外で空気流がショートカットするのを抑制することができ、好ましい。
【0024】
なお、第1および第2通気口10A,10Bの数、形状(大きさ)、配置、第1と第2通気口間の相対位置は上記に限定されない。
【0025】
駆動モータ3のモータ軸3Aには駆動軸18が固定されている。駆動軸18は上記第1、第2軸受5,6に軸承されている。駆動軸18は駆動モータ3の動作時にモータ軸3Aとともに回転する。駆動軸18は、熱処理炉2の炉壁、断熱材8,9を貫通して熱処理炉2の内部と外部とにわたって配置される。駆動軸18の先端に攪拌翼4が取付けられている。攪拌翼4は、駆動軸18により回転され、炉内の雰囲気ガスを攪拌する。
【0026】
回転翼7は、リング状の軸部7Aの周囲に複数の板状の羽根7Bが一体に設けられた構成である。回転翼7は、軸部7Aを用いて駆動軸18に固定される。回転翼7の軸方向における位置は、第1、第2軸受5,6の間であって、図示のごとく第1軸受保持部材14のキャップ15の直上である。これにより、第1軸受保持部材14、第1軸受5、および回転翼7が軸方向に集約してコンパクトに配設される。そして、これら第1軸受保持部材14、第1軸受5、および回転翼7を包囲するように円筒状のダクト17が設けられる。このダクト17は外筒10内の第2軸受保持部材16よりも下側の空間を同心円状に区画し、第1軸受保持部材14の周囲に確実に空気流を引き込む働きを有する。
【0027】
回転翼7の羽根7Bの水平に対する傾きは限定されないが、例えば、10〜45°とするのが好ましい。羽根7Bの枚数は限定されないが、例えば、4〜10枚とするのが好ましい。羽根7Bの先端からダクト17の内壁までの隙間は限定されないが、例えば、10mm以下とするのが好ましい。回転翼7全体の直径は限定されないが、例えば、駆動軸18の直径の2倍以上とするのが好ましい。
【0028】
ダクト17の外周には複数の取付フィン17Aが、例えば90°の間隔で放射状に周設されている。ダクト17は、これらの取付フィン17Aを用いて第2軸受支持部材13のフランジ13A上に懸架される。ダクト17の下端はカップ状の第2軸受支持部材13の底面から持ち上げられた状態に固定されている。これにより、ダクト17の下端開口を通じた空気の流通が妨げられないようになっている。
【0029】
放熱フィン14Aはダクト17の内周面と第2軸支持部材13の底面に接触している。これにより、ダクト17や第2軸受支持部材13を伝熱させて第1軸受5の熱を放熱させることが出来る。
【0030】
次に、上記のように構成される熱処理装置の動作について図2を参照して説明する。図2(a)は駆動軸右回転時の空気流の流通方向を説明する上記熱処理装置の要部の拡大図である。図2(b)は駆動軸左回転時の空気流の流通方向を説明する上記熱処理装置の要部の拡大図である。
【0031】
図2(a)に示すように、駆動軸18が右回転(白塗り矢印参照。)されるとき、回転翼7の回転によって第2通気口10Bが吸気口、第1吸気口10Aが排気口となるように、外筒10内に駆動軸18方向の空気流が生じる(黒塗り矢印参照。)。すなわち、図示の如く、第2通気口10Bから外筒10外部の空気が外筒10内に吸気され、ダクト17の外周面に沿って上から下へ流れ、ダクト17の下側へ潜り込んでV字反転してダクト17の下端開口から引き込まれてダクト17内を下から上へ流れ、ダクト17の上端開口から出た後、第2軸受保持部材16の連通口16Aを通じてさらに上へ流れ、第1通気口10Aから外筒10外部へ排気される。
【0032】
他方、図2(b)に示すように、駆動軸18が左回転(白塗り矢印参照。)されるとき、回転翼7の回転によって第1通気口10Aが吸気口、第2吸気口10Bが排気口となるように、外筒10内に駆動軸18方向の空気流が生じる(黒塗り矢印参照。)。すなわち、図示の如く、第1通気口10Aから外筒10外部の空気が外筒10内に吸気され、第2軸受保持部材16の連通口16Aを通じて下へ流れ、さらにダクト17の上端開口から引き込まれてダクト17内を上から下へ流れ、ダクト17の下端開口から出た後、ダクト17の下側でV字反転して、ダクト17の外周面に沿って下から上へ流れ、第2通気口10Bから外筒10外部へ排気される。
【0033】
つまり、駆動軸18が右回転か左回転かで気流の方向は逆転するものの、空気流の流路に置かれた第1および第2軸受保持部材14,16が空気流により冷却される。駆動軸18を通じて炉内の熱が各軸受5,16に伝熱する。つまり、各軸受保持部材14,16には、各軸受5,6からの熱が伝熱している。換言すれば、上記のように軸受保持部材14,16を冷却することにより、軸受5,6も間接的に冷却することが出来る。特に、熱処理炉2に近い位置にあり、高温になりやすい第1軸受5については、第1軸受保持部材14の放熱フィン14Aを通じて効果的に放熱されるので、冷却を効率よく行うことが可能となる。
【0034】
本実施の形態によれば、駆動軸および軸保持部材の空冷が可能となる。冷却水の循環装置が不要で、水の取り回しの配管も不要となる。したがって、別個の装置を必要とせず、簡単な構成で軸受を冷却することが可能となる。これにより、設備コストおよび運転コストの削減が可能となる。
【0035】
なお、本発明は、熱処理炉として代表される浸炭炉は勿論であるが、炉内雰囲気を攪拌翼により強制攪拌するような構成を採用している熱処理炉を備える加熱装置全般に対して適用可能である。
【0036】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、この発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0037】
1−熱処理装置
2−熱処理炉
3−駆動モータ
4−攪拌翼
5−第1軸受
6−第2軸受
7−回転翼
10−外筒
14−第1軸受保持部材
14A−放熱フィン
16−第2軸受保持部材
17−ダクト
18−駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を収容する熱処理炉と、
熱処理炉の炉壁を貫通して熱処理炉の内部と外部とにわたって配置される駆動軸の先端に取付けられ、炉内の雰囲気ガスを攪拌する攪拌翼と、
熱処理炉の外部に軸受保持部材を用いて取付けられ、前記駆動軸を軸承する軸受と、
を有する熱処理装置において、
前記駆動軸に固定された回転翼を備え、
前記駆動軸により前記回転翼が回転されることにより生ずる空気流により前記軸受保持部材および前記軸受を冷却する熱処理装置。
【請求項2】
前記軸受保持部材、前記軸受、および前記回転翼を包囲するダクトを備える請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記軸受保持部材に放熱フィンを周設した請求項1または2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記軸受保持部材に放熱フィンを周設し、該放熱フィンを前記ダクトに接触させた請求項2に記載の熱処理装置。
【請求項5】
前記回転翼の回転に伴い、前記駆動軸方向に生ずる空気流の流路を規定する外筒が前記熱処理炉に固定され、該外筒に軸方向に間隔を離して第1通気口および第2通気口が開口し、これら第1および第2通気口は、前記外筒の円周方向において互いに略90°ずれている請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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