説明

熱処理装置

【課題】安全管理基準の溶剤濃度を爆発下限値(LEL)の25%以下になるように、排気量に対応した必要な給気量を供給できる熱処理装置を提供する。
【解決手段】熱処理室12内部に設けられた熱風を供給する上下のダクト20,26に上面開口部50と下面開口部をそれぞけ設け、これら開口部50から熱風の一部を排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺状の基材を乾燥又は熱処理させる熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱処理室内部の長尺状の基材の走行路の上下に沿ってノズルが複数個配され、これら上下ノズルから吹き出される熱風によって、この熱処理室の内部に搬入された基材をフローティング状態で熱処理又は乾燥を行う熱処理装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−234070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記熱処理装置において、塗工液に含まれている有機溶剤が乾燥により蒸発するが、安全管理基準の溶剤濃度を爆発下限値(LEL)の25%以下になるように熱処理室からの空気の排気量を設定する必要がある。
【0005】
一方、基材に塗工された塗工液を乾燥させる場合に、塗工直後は、塗工部の表面が波立たないようにするために、上下ノズルの風速を抑える必要がある。
【0006】
しかし、上記で説明した必要な排気量を設定すると、この上下ノズルの風速を抑えることができないという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、上下ノズルからの風速を抑えても、必要な排気量を確保できる熱処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱処理室と、前記熱処理室の内部に設けられた長尺状の基材の走行路の上方であって、前記走行路に沿って配され、前記基材の上面に熱風を吹き出す複数の上ノズルと、前記走行路の下方であって、前記走行路に沿って配され、前記基材の下面に熱風を吹き出す複数の下ノズルと、前記複数の上ノズルの上部に設けられ、前記各上ノズルに熱風をそれぞれ供給する上ダクトと、前記複数の下ノズルの下部に設けられ、前記各下ノズルに熱風をそれぞれ供給する下ダクトと、前記熱処理室の内部の空気を外部に排気するための排気口と、前記上ダクトに開口した上開口部と、前記下ダクトに開口した下開口部と、を有することを特徴とする熱処理装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上ダクトに開口した上開口部と、下ダクトに開口した下開口部から熱風が吹き出すことにより、上下ノズルの風速を上げることなく、排気量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示す熱処理装置の斜視図である。
【図2】熱処理装置の縦断面図である。
【図3】熱処理装置の横断面図である。
【図4】熱処理装置における空気の流れを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態の熱処理装置10について、図1〜図4に基づいて説明する。
【0012】
熱処理装置10は、一定の速度で前後方向に走行する長尺状の基材1の上下両面に塗工液が塗工された塗工部2を乾燥させるものであって、本実施形態の熱処理装置10は、熱風を循環させる循環方式である。基材1としては、フィルム、リチウム二次電池の電極に使用される金属箔、孔が開いた金属箔、金属製の網等である。また、塗工液は、有機溶剤を含んでいる。この有機溶剤としては、例えば、沸点が202℃のN−メチル−2−ピロリドン(N-methylpyrrolidone、NMP)、110℃のトルエン、79.5℃のメチルエチルケトン(methyl ethyl ketone、MEK)である。
【0013】
(1)熱処理装置10の構造
熱処理装置10の構造について、図1〜図3に基づいて説明する。
【0014】
熱処理装置10は、長方体よりなる熱処理室12を有する。この熱処理室12は、断熱性を有し、前面に基材1の搬入口14が開口し、後面に搬出口16が開口し、基材1が搬入口14から搬出口16に向かって前後方向に走行する走行路が設けられている。走行路の上方には、走行路に沿って上ダクト20が設けられている。この上ダクト20の下面、すなわち、走行路の上方には、上ノズル22が所定間隔毎に設けられている。この上ノズル22は、基材1の幅方向に沿って上ダクト20の下面に取り付けられ、上ノズル22の下面には、熱風を吹き出すためのスリット状の吹き出し口24が、平行に2個設けられている。
【0015】
走行路の下方には、下ダクト26が、走行路に沿って設けられ、この下ダクト26の上部には、下ノズル28が所定間隔毎に設けられている。また、上ノズル22と下ノズル28とは、図2に示すように、千鳥状に配されている。さらに、下ノズル28は、基材1の幅方向に沿って設けられている。また、下ノズル28の上面にも、スリット状の吹き出し口24が平行に2個設けられている。
【0016】
熱処理室12の外部において、空気を送風するための送風機30が設けられている。
【0017】
送風機30の下流側において、ガスバーナ等によって空気を加熱するヒータ32が設けられている。このヒータ32は、送風機から送風された空気を加熱する。このヒータ32も熱処理室12の外部に設けられている。
【0018】
ヒータ32によって加熱された熱風を上ダクト20と下ダクト26にそれぞれ送るための給気ダクト34が設けられている。この給気ダクト34は、熱処理室12を貫通し、上ダクト20と下ダクト26に直接連結されている。
【0019】
送風機30に新しい空気を送るための取り込み口36が送風機30と熱処理室12との間に設けられている。この取り込み口36には、取り込み量を調整するための取り込みダンパー38が設けられている。
【0020】
熱処理室12の側面であって、送風機30が取り付けられている側には、循環口40が開口している。この循環口40と、送風機30の入口を結ぶ循環ダクト42が設けられている。この循環ダクト42には、取り込み口36における取り込みダンパー38が設けられ、循環ダクト42には、循環口40から循環した空気と取り込み口36から取り込みダンパー38を経て取り込まれた新しい空気とが混合して流れる。循環ダクト42と送風機30の入口との間には、循環ダンパー44が設けられている。
【0021】
熱処理室12の天井面には、排気口46が設けられ、この排気口46には排気ダンパー48が取り付けられている。
【0022】
(2)上ダクト20と下ダクト26の構造
上ダクト20と下ダクト26の構造について詳しく説明する。
【0023】
上ダクト20は、基部(後部側)において、上面と下面が平行であり、中央部分から上面が下方に傾斜し、先端部(前部側)にいくほど、上ダクト20内部の容積が小さくなっている。この傾斜した上面には、上面開口部50が設けられ、この上面開口部50には、開閉量を調整できる上面ルーバー52が設けられている。
【0024】
この上ダクト20の基部(後部)には、上記で説明した給気ダクト34が連結されている。そして、給気ダクト34から給気された熱風は、上ダクト20の下部に取り付けられた複数の上ノズル22に供給されると共に、上面ルーバー52から排気される。
【0025】
下ダクト26は、上ダクト20と上下対称の構造を有し、下面には下面開口部54が開口し、この下面開口部54には、開閉量を調整する下面ルーバー56が設けられている。また、この下ダクト26の基部にも、上記で説明した給気ダクト34が連結されている。
【0026】
(3)熱処理装置10の動作状態
次に、熱処理装置10の動作状態について図1〜図3に基づいて説明する。
【0027】
熱処理室12の搬入口14から長尺状の基材1が搬入される。この基材1の上下面にはそれぞれ有機溶剤を含んだ塗工液が塗工されている。
【0028】
送風機30とヒータ32を動作させると、送風機30は取り込み口36から取り込んだ新しい空気をヒータ32に送風し、ヒータ32はこの空気を加熱して、給気ダクト34によって上ダクト20と下ダクト26に熱風を給気する。
【0029】
上ダクト20に給気された熱風は、上ダクト20内部を通り、各上ノズル22に供給される。各上ノズル22から供給された熱風は、上ノズル22の下面にある吹き出し口24から、基材1の幅方向に沿って下方に吹き出される。一方、下ダクト26に供給された熱風は、下ノズル28に供給され、下ノズル28の吹き出し口24から上方に吹き出される。走行路を走行する基材1は、図2に示すようにほぼ正弦波のフローティング状態で上下方向から熱風が吹き付けられて塗工部2が加熱され、塗工液から有機溶剤が蒸発する。
【0030】
この蒸発した有機溶剤を含んだ熱風は、熱処理室12の天井面にある排気ダンパー44を経て排気口46から排気され、また、循環口40に流れ込み、取り込み口36から取り込まれた新しい空気と混合して、送風機30に送られる。このように、熱処理装置10においては、一部の空気を循環させつつ、基材1の上下面に熱風を当てて、塗工液を乾燥させる。
【0031】
(4)上面開口部50と下面開口部54の効果
次に、上面開口部50と下面開口部54を設けた理由及びその効果について図4に基づいて説明する。
【0032】
基材1を乾燥させる場合には、上記のような熱処理装置10を複数個並べて乾燥を行っている。この場合に、塗工直後の基材1を乾燥させる場合には、上ノズル22と下ノズル28から吹き出される熱風のノズル風速を抑えて、塗工面が波立たないようにする必要がある。しかし、この場合であっても、有機溶剤の蒸発に伴い、安全管理基準の溶剤濃度を爆発下限値(LEL)の25%以下にする必要がある。この場合の上面開口部50と下面開口部54の役割について説明する。
【0033】
(4−1)定義
この説明で使用する符号A〜Fの定義について図4に基づいて説明する。
【0034】
まず、取り込み口36から取り込まれる取り込み量をAとする。この取り込み量Aは、取り込みダンパー38によって調整する。
【0035】
次に、ヒータ32から上ダクト20及び下ダクト26に給気される熱風の給気量をBとする。
【0036】
次に、熱処理室12の排気口46から排気される空気の排気量をCとする。この排気量Cは、排気ダンパー48によって調整する。そして、取り込み量A=排気量Cになるように取り込みダンパー38と排気ダンパー48で調整する。
【0037】
次に、熱処理室12の循環口40から循環ダクト42に循環する空気の循環量をDとする。
【0038】
次に、上ダクト20及び下ダクト26から吹き出される熱風の総吹き出し量をFとする。
【0039】
次に、上面開口部50と下面開口部54から排出される排出量をEとする。
【0040】
(4−2)従来の熱処理装置の説明
まず、上面開口部50と下面開口部54がない従来の熱処理装置の動作について説明する。
【0041】
従来は、ノズル風速を抑えるためには、総吹き出し量Fを減らす必要があり、そのためには、給気量Bを小さくする必要がある。この給気量Bを小さくすると、排気量Cより小さくなることがある。そのため、取り込み口36から取り込まれた新しい空気が、循環口40の方向に逆流し、循環口40付近にある有機溶剤を含んだ熱風が冷却されて、循環口40の回りに結露を生じる場合がある。
【0042】
(4−3)本実施家板の熱処理装置10の説明
次に、上面開口部50と下面開口部54を有する熱処理装置10の動作について説明する。
【0043】
本実施形態では、ノズル風速を抑えるために給気量Bが小さくする必要はない。その理由は、上面開口部50及び下面開口部54が、上面ルーバー52と下面ルーバー56によって開口し、上ノズル22と下ノズル28のノズル風速を低いままの状態で(総吹き出し量Fを小さくした状態)、給気量Bを増加させることができるからである。すなわち、上面開口部50と下面開口部54から熱風が排出されるため、総吹き出し量Fを小さくした維持したまま、その排出量Eの分だけ給気量Bを増加させることができるからである。すると、給気量Bが排出量Cよりも大きくなり、循環ダクト42側に循環量Dの熱風が流れ、循環ダンパー44を経て送風機30に送られる。そのため、循環口40に逆流する空気がなくなり、循環口40付近に有機溶剤の結露が生じない。
【0044】
これを式で表すと、
A=C ・・・(1)
B=E+F ・・・(2)
B=C+D ・・・(3)
B>C ・・・(4)
となる。但し、A,B,C,D,E,F>0である。
【0045】
(5)効果
本実施形態によれば、上ノズル22と下ノズル28からの風速を押さえても、上面開口部50と下面開口部54の開閉量を上面ルーバー52と下面ルーバー56によって調整して排出量Eを増加させて、給気量Bを排出量Cよりも常に大きくする。これによって、循環口40における逆流がなくなる。
【0046】
また、上ノズル22と下ノズル28からの風速を上げる場合は、上面ルーバー52と下面ルーバー56を閉じて上面開口部50と下面開口部54の開閉量を少なくすればよい。
【0047】
(6)変更例
上記実施形態の熱処理装置10においては、熱風を循環させる循環方式で示したが、この循環方式に限らず、熱処理室12に給気された空気を全て排気する方式の熱処理装置10においても、上ダクト20と下ダクト26に上面開口部50と下面開口部54を設けることにより、送風機30からの送風量を増大させつつ、上ノズル22と下ノズル28の風速を小さくすることができる。この理由は、上面開口部50と下面開口部54からの熱風の排出があるからである。
【0048】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
10・・・熱処理装置、12・・・熱処理室、20・・・上ダクト、22・・・上ノズル、26・・・下ダクト、28・・・上ノズル、30・・・送風機、32・・・ヒータ、34・・・給気ダクト、36・・・取り込み口、40・・・循環口、42・・・循環ダクト、46・・・排気口、50・・・上面開口部、54・・・下面開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理室と、
前記熱処理室の内部に設けられた長尺状の基材の走行路の上方であって、前記走行路に沿って配され、前記基材の上面に熱風を吹き出す複数の上ノズルと、
前記走行路の下方であって、前記走行路に沿って配され、前記基材の下面に熱風を吹き出す複数の下ノズルと、
前記複数の上ノズルの上部に設けられ、前記各上ノズルに熱風をそれぞれ供給する上ダクトと、
前記複数の下ノズルの下部に設けられ、前記各下ノズルに熱風をそれぞれ供給する下ダクトと、
前記熱処理室の内部の空気を外部に排気するための排気口と、
前記上ダクトに開口した上開口部と、
前記下ダクトに開口した下開口部と、
を有することを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記熱処理室の外部に設けられた送風機と、
前記熱処理室の外部に設けられ、前記送風機から送風された空気を加熱するヒータと、
前記ヒータで加熱された熱風を、前記熱処理室の内部に設けられた前記上ダクトと前記下ダクトにそれぞれ給気する給気ダクトと、
前記熱処理室の外部に設けられた空気を取り込む取り込み口と、
前記熱処理室内部の空気を前記送風機に循環させるための循環口と、
前記取り込み口から取り込んだ空気と。前記循環口から循環した空気とを混合して前記送風機に循環させる循環ダクトと、
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記上開口部と前記下開口部の開口面積がそれぞれ可変である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−7532(P2013−7532A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140843(P2011−140843)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000240341)株式会社ヒラノテクシード (58)
【Fターム(参考)】