説明

熱分析方法

【課題】試料容器に加えられた熱を被検試料に素早く伝導させることによって検検出温度のばらつきを抑制し、安全で高精度の熱分析方法を提供する。
【解決手段】本発明によって提供される熱分析方法は、試料容器60を加熱または冷却することによって該容器の内部に収容した被検試料30を昇温または降温させて該試料の熱分析を行う方法であって、上記被検試料を収容した上記試料容器内の空隙を熱伝導率(W/m・K)が酸化物セラミックスよりも高い非酸化物セラミックスから成る非酸化物フィラー70によって充填することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析方法に関する。特に、電池の電極を被検試料とする熱分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の温度を一定のプログラムによって変化させながらその物質のある物理的性質を温度の関数として測定する熱分析には、種々の分析法が知られている。その一例として、温度を変化させながら試料の重量変化を測定する熱重量分析(TGA)、試料および基準物質の温度差を測定する示差熱分析(DTA)、試料および基準物質の温度の熱量の差を温度の関数として測定する示差走査熱量測定(DSC)、機械的性質の変化を測定する熱機械分析(TMA)および動的熱機械測定(DMA)等が挙げられる。上記分析法は、被検試料の物理的性質または化学的性質によって好ましい方法を適宜選択することができ、例えば、上記DSCによる熱分析では、融解、ガラス転移、結晶化といった転移をはじめ、熱履歴の検討、比熱容量等を測定することができる。
【0003】
また、熱分析は、高分子材料や有機化合物、あるいは金属、セラミックス等の無機化合物に至る広範囲な材料が被検試料となり得、このような試料の各種物性の変化をみるのに広く利用されている。例えば、電池(典型的には繰り返し充放電可能な二次電池)は、電極の種類や構成または電池の充電状態(SOC)によって発熱挙動が異なるため、電極を被検試料として熱分析されることがあり、その分析は高精度であることが望まれている。
【0004】
この種の熱分析に関する関連技術として、特許文献1〜4が挙げられる。特許文献1に記載の技術では、被検試料の熱伝導速度を上げるため、窒化アルミニウム製の試料容器に被検試料を入れて熱分析する方法について開示されている。また、特許文献2では、温度検出素子近傍にセラミック材粉末を含有する樹脂を塗布し、試料への熱伝導性を高める技術について開示されている。特許文献3では、均熱性に優れた加熱炉を備える熱分析装置について開示されている。さらに、特許文献4では、熱伝導性に優れる樹脂として、窒化アルミニウム粉末を含む樹脂組成物について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−22546号公報
【特許文献2】特開2000−321149号公報
【特許文献3】特開平7−190967号公報
【特許文献4】特開2008−7590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1〜4に記載の方法および分析装置では、被検試料と試料容器との間に空隙ができるため、試料容器から試料への熱伝導が低下してしまう。また、かかる空隙が大きいほど熱伝導の低下が顕著になり、検出温度に誤差が発生し分析の精度を低下させるため好ましくない。さらに、試料容器と被検試料の昇温速度が異なると検出温度にタイムラグが出るため、分析装置の発熱量の検出感度を上回ったり、あるいは試料容器の耐圧限界を超える虞がある。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、試料容器に加えられた熱を被検試料に素早く伝導させることによって、検出温度のばらつきを抑制し、安全で高精度の熱分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によって提供される熱分析方法は、試料容器を加熱または冷却することによって該容器の内部に収容した被検試料を昇温または降温させて該試料の熱分析を行う方法であって、上記被検試料を収容した上記試料容器内の空隙を熱伝導率(W/m・K)が酸化物セラミックスよりも高い非酸化物セラミックスから成る非酸化物フィラーによって充填することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る熱分析方法は、被検試料を収容した試料容器内を酸化物セラミックスよりも高い非酸化物セラミックスから成る非酸化物フィラー(例えば、窒化物、炭化物およびケイ化物等のセラミックス粒子)で充填することによって、被検試料と試料容器との間の空隙を該非酸化物フィラーで満たした状態で被検試料を熱分析するというものである。かかる方法によると、熱伝導率に優れた非酸化物フィラーは試料容器に与えられた熱をすぐさま放出または吸収することができるため、該容器の内部に収容された被検試料を高速で昇温または降温させることができる。これにより、該容器と該試料は略同じ昇温または降温速度で加熱または冷却するため、検出温度のばらつきが抑制される。また、このように検出感度が向上するため、試料容器の耐圧限界を超えて加熱し続ける虞がない。その結果、安全で高精度の熱分析が可能となる。
【0010】
また、ここで開示される熱分析方法に用いられる上記非酸化物フィラーは、好ましくは窒化ホウ素、窒化アルミニウムおよび炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種により構成されている。
窒化ホウ素、窒化アルミニウムおよび炭化ケイ素はセラミックス粒子の中でも熱伝導率が高く、アルミナの熱伝導率である31(W/m・K)の凡そ2〜5倍の熱伝導率を有する。そのため、被検試料を収容した試料容器内をかかる非酸化物フィラーで充填することによって、試料容器に与えられた熱を非酸化物フィラーは被検試料にタイムラグなく伝導し、該被検試料を素早く昇温または降温させることができる。これにより、より高精度の熱分析が可能となる。
また、好ましくは、上記非酸化物フィラーは、粒状の窒化アルミニウムである。窒化アルミニウムは熱伝導率が高く、加えて反応性の低いセラミックスであるため好ましく用いられ得る。
【0011】
また、好ましくは、上記試料容器内への上記被検試料および上記非酸化物フィラーの収容作業は、不活性ガス雰囲気下または実質的に水分を含まない乾燥空気中で行う。反応性の高い被検試料の場合、測定雰囲気下の空気(典型的には水)と反応し、該被検試料の表面が被膜されたりするなどして、測定値にばらつきを生じさせる虞がある。そのため、該被検試料および非酸化物フィラーの収容作業は、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、あるいは実質的に水分を含まない乾燥空気中(RH10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下)で行うことにより、極めて安定的な状態の環境下で熱分析することができる。
【0012】
本発明によって提供される熱分析方法の好ましい他の一態様では、上記被検試料は、二次電池用の電極である。二次電池は、電極の種類や構成または電池の充電状態(SOC)によって発熱挙動が異なるため、電極を被検試料として熱分析することが望まれている。
本発明によると、金属製の電極を被検試料とすることによって、上記試料容器内に充填された熱伝導率に優れた非酸化物フィラーが電極を素早く昇温または降温させるため、様々な状態の二次電池の発熱挙動をシミュレートすることができ、高精度な分析が可能となる。
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子(物理電池)を包含する用語である。
また、本明細書において「SOC(State Of Charge)」とは、満充電状態における容量(100%)に対する所定時点における容量を%で示したものをいう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、従来の熱分析方法を用いた分析装置を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、一実施形態に係る熱分析方法を用いた分析装置を模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、被検試料に用いた電極を備えるリチウム二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。
【図4】図4は、被検試料に用いた電極を構成する正負極およびセパレータを示す断面図である。
【図5】図5は、リチウム二次電池を備えた車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【図6】図6は、従来の熱分析方法を用いて被検試料を測定した結果を示すグラフである。
【図7】図7は、一実施形態に係る熱分析方法を用いて被検試料を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
ここに開示される熱分析方法は、試料容器を加熱または冷却することによって該容器の内部に収容した被検試料を昇温または降温させて該試料の熱分析する態様の方法に好ましく適用され得る。また、本発明の好適な実施形態の一つの典型例として、二次電池用の電極(具体的には、リチウム二次電池用の正極)を被検試料として用いた熱分析方法を詳細に説明するが、本発明の熱分析方法の対象をかかる電池の電極に限定することを意図したものではない。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
図1は、従来の熱分析方法を用いた分析装置を模式的に示す断面図であり、図2は、本発明の一実施形態に係る熱分析方法を用いた分析装置を模式的に示す断面図である。
まず、ここに開示される熱分析方法が適用される分析装置の概要について説明すると、図1および図2に示されるように、大まかにいって、被検試料30を収容するための試料容器60と、該試料容器60を加熱または冷却する電気炉またはヒータ等の熱源となる炉体(図示しない)と、該試料容器60の温度および発熱量を検出する検出部62とを備える。かかる装置80は、上記熱源が所定のプログラムに従って試料容器60を加熱または冷却し、試料容器60内に収容された被検試料30を昇温または降温させる態様で作動し得るものである。また、検出部62は、試料容器60の壁面の一部に配置され、該試料容器60の温度等を逐次測定することができ、該測定温度は試料容器60内に収容される被検試料30の反応熱とみなされる。なお、分析装置自体は本発明を特徴付けるものではなく、従来の熱分析方法を用いた分析装置80(図1)と同様の分析装置80(図2)を用いることができ、詳細な説明は省略する。
【0017】
ここに開示される熱分析方法は、図2に示されるように、上記構成の分析装置80を用いて熱分析する際に、被検試料(本実施形態では、正極30)を収容した試料容器60内の空隙を非酸化物フィラー70によって充填する。非酸化物フィラー70は、熱伝導率(W/m・K)が酸化物セラミックスよりも高い熱伝導率を有する非酸化物セラミックスから構成され、例えば、金属元素または非金属元素の窒化物、炭化物、ケイ化物等のセラミック粒子が好ましい。かかる非酸化物フィラーの好適例としては、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)および炭化ケイ素(SiC)等が挙げられる。また、特に好ましい非酸化物フィラーは、粒状の窒化アルミニウムである。
窒化ホウ素、窒化アルミニウムおよび炭化ケイ素は、非酸化物フィラーの中でも特に熱伝導率が高く、酸化物フィラーの一例であるアルミナ(Al)の熱伝導率31(W/m・K)の凡そ2〜5倍の熱伝導率を有し、且つ高温高圧下で安定的に存在するため、被検試料と化学反応するなどして測定に影響を及ぼすことがない。そのため、被検試料30と試料容器60との間の空隙を該非酸化物フィラー70で満たした状態で熱分析することができる。
【0018】
ここで、従来の熱分析方法では、試料容器60に被検試料30を収容すると、被検試料30と試料容器60との間に空隙が生じるため、試料容器60に与えられた熱が被検試料30に伝わるまでに時間を要し、熱伝導が低下してしまう虞があった。また、試料容器60の検出温度と実際の被検試料30の温度とに誤差が発生し、高精度の分析を行うのが困難であった。
しかしながら、ここに開示される熱分析方法によると、図2に示されるように、被検試料30を収容した試料容器60内の空隙をかかる非酸化物フィラー70で充填することによって、試料容器60に与えられた熱はすぐさま非酸化物フィラー70に伝わるため、該容器60の内部に収容された被検試料30を高速で昇温または降温させることができる。これにより、該試料容器60と該被検試料30は略同じ昇温または降温速度で加熱または冷却することが可能となり、従来の熱分析方法に比べて検出温度のばらつきが抑制される。また、熱伝導が向上する結果、試料容器60の検出温度と実際の被検試料30の温度の誤差が小さくなるため検出感度が向上し、試料容器の耐圧限界を超えて加熱し続ける虞がなくなる。その結果、安全かつ高精度の熱分析が可能となる。
【0019】
次に、被検試料について説明する。本実施形態では、被検試料としてリチウム二次電池100用の正極30を用いている。図3は、かかるリチウム二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。また、図4は、被検試料に用いた電極を構成する正負極およびセパレータを示す断面図である。
図3に示されるように、リチウム二次電池100は、電池100の外装を形成する円柱状の電池ケース10と、該ケース10の開口部を塞ぐ蓋体14とを備え、その内部には、捲回電極体20(図4)と電解質が収容されている。
また、図4に示されるように、捲回電極体20は、長尺シート状の正極集電体32の表面に正極活物質層34が形成された正極シート30、長尺シート状の負極集電体42の表面に負極活物質層44が形成された負極シート40、及び長尺シート状のセパレータ50からなり、正極シート30及び負極シート40を2枚のセパレータ50と共に重ね合わされて捲回され円柱状に成形されている。
【0020】
また、捲回される正極シート30において、その長手方向に沿う一方の端部には正極活物質層34が形成されずに正極集電体32が露出しており、一方、捲回される負極シート40においても、その長手方向に沿う一方の端部は負極活物質層44が形成されずに負極集電体42が露出している。そして、正極集電体32の該露出端部に正極端子(図示しない)が、負極集電体42の該露出端部には負極端子(図示しない)がそれぞれ接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体20の正極シート30または負極シート40と電気的に接続されている。
【0021】
次に、被検試料として用いる上記リチウム二次電池100の正極30の構成要素を説明する。
上記正極(正極シート30)は、長尺シート状の正極集電体32(例えばアルミニウム箔)の上に正極活物質層34が形成された構成を備える。正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が用いられ、従来からリチウム二次電池に用いられる物質(例えば層状構造の酸化物やスピネル構造の酸化物)の一種または二種以上が特に限定することなく使用される。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物等のリチウム含有遷移金属酸化物が挙げられる。
ここで、リチウムニッケル系複合酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)とを構成金属元素とする酸化物のほか、リチウムおよびニッケル以外に他の少なくとも一種の金属元素(すなわち、LiとNi以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を典型的にはニッケルよりも少ない割合(原子数換算。LiおよびNi以外の金属元素を二種以上含む場合にはそれらの合計量としてNiよりも少ない割合)で構成金属元素として含む酸化物をも包含する意味である。また、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物についても、上記と同様の意味である。
また、一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素;例えばLiFePO、LiMnPO)で表記されるオリビン型リン酸リチウムを上記正極活物質として用いられていてもよい。
【0022】
上記導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末等が用いられる。また、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅、ニッケル等の金属粉末類およびポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを単独又はこれらの混合物として含ませることができる。なお、これらのうち一種のみを用いられていても二種以上が併用されていてもよい。
【0023】
上記結着材としては、以下に掲げるポリマーから適宜選択される一種または二種以上のポリマー材料を好適に用いられる。例えば、有機溶剤に対して可溶性であり且つ水に対して不溶性である非水溶性ポリマーが好ましい。この種のポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(PEO−PPO)等が挙げられる。
他方、有機溶剤に対して不溶性であり且つ水に可溶又は分散する水溶性ポリマーまたは水分散性ポリマーが用いられていてもよい。例えば、水に溶解するポリマーとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)等、種々のセルロース誘導体が挙げられる。また、水に分散するポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)等が挙げられる。なお、上記例示したポリマーから適宜選択される一種または二種以上のポリマー材料は結着材として用いられる他、増粘材、各種添加材として使用されることもあり得る。
【0024】
上記正極活物質層34は、正極活物質および必要に応じて添加される導電材、結着材、増粘材等の各種添加材を適当な溶媒(水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒)に添加し、分散または溶解させて調製したペーストまたはスラリー状の組成物を、塗布装置(グラビアコーター、ダイコーター等)を用いて正極集電体32の表面に付与し、該組成物に含まれる溶媒を乾燥させることにより形成される。また、必要に応じて、上記乾燥後にプレス圧縮することにより、所望の厚みに調整される。
【0025】
なお、リチウム二次電池100を構成するその他の材料および部材自体は、従来同種の電池に備えられるものと同様でよく特に制限はないが、その他の構成要素についてそれぞれ簡単に説明すると、例えば、負極(負極シート40)は、長尺シート状の負極集電体42(例えば銅箔)の上に負極活物質層44が形成された構成であり得る。上記負極活物質層44は、負極活物質、および必要に応じて添加される導電材、結着材、増粘材等の各種添加材を適当な溶媒に混合されてなる組成物を負極集電体42に塗布し、該溶媒を乾燥させて圧縮成形することにより形成される。
【0026】
上記負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用され、例えば、好適な負極活物質としてカーボン粒子が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。
【0027】
上記セパレータ50は、正極シート30および負極シート40の間に介在するシートであって、正極シート30と負極シート40における両電極活物質層34,44の接触に伴う短絡防止や、該セパレータ50の空孔内に電解質を含浸させることにより電極間の伝導パス(導電経路)を形成する役割を担っている。かかるセパレータ50の構成材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の微多孔質ポリオレフィン系樹脂が用いられる。
【0028】
また、上記電解質は、従来からリチウム二次電池に用いられる電解質と同様のものを特に限定なく使用される。かかる電解質は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択される一種または二種以上を用いられる。また、上記支持塩としては、例えばリチウム電池の場合、LiPF、LiBF、LiClO等の一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)が用いられる。
【0029】
上記正極シート30および負極シート40を2枚のセパレータ50と共に積重ね合わせて捲回し、得られた捲回電極体20を電池ケース10に収容するとともに、上記電解質を注入して封止することによってリチウム二次電池100を構築することができる。こうして構築されたリチウム二次電池100は、図5に示されるように、当該二次電池100を複数個直列に接続して形成される組電池の形態で電源として備える車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)に好適に使用され得る。
【0030】
次いで、本実施形態に係る熱分析方法を上記構成のリチウム二次電池100の正極30を被検試料として用いて説明する。
まず、上記リチウム二次電池100から正極を取り出す工程を行う。即ち、蓋体14で封止したリチウム二次電池100を開封し、内部に収容されている捲回電極体20を取り出す。そして、取り出した該電極体20の捲回を解き(解体し)、セパレータ50を介して負極(負極シート40)と重ね合わされた正極(正極シート30)を取り出す。電池内から取り出した正極30は、該正極30が収容されていたリチウム二次電池100の電解質(非水電解液)と同じ組成の電解質で洗い流して乾燥させた後、被検試料として用いる。
なお、被検試料となるリチウム二次電池100の正極30は、如何なるSOC(充電状態、即ち電池の残容量)の電池から取り出してもよい。即ち、SOCが実質的に100%以上(過充電状態)、あるいはゼロ%(完全放電状態)でもあり得、様々な充電状態の電池の電極の発熱挙動を熱分析の被検試料として用いることができる。
【0031】
次に、被検試料としての上記正極30を熱分析するため、該正極30および上記非酸化物フィラー70を試料容器60に収容する工程を行う。この時、試料容器内60への該正極30および該非酸化物フィラー70の収容作業は、不活性ガス雰囲気下または実質的に水分を含まない乾燥空気中で行う。反応性の高い被検試料の場合、測定雰囲気下の空気(典型的には水)と反応し、該被検試料の表面が被膜されたりするなどして、測定値にばらつきを生じさせる虞がある。例えば、二次電池用の電極の場合、電池の充電状態によって電極の発熱挙動は変動し、また、本実施形態に係るリチウム二次電池100の正極30の場合、正極集電体32表面に酸化被膜が形成されたり、電荷担体の吸蔵状態によっては空気中の水と反応して発熱したりするなどの問題を生じる虞があり得る。そのため、該正極30および該非酸化物フィラー70の収容作業は、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下、あるいは実質的に水分を含まない乾燥空気中(RH10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下)で行うことにより、極めて安定的な状態の環境下で熱分析することができる。
【0032】
上記測定環境下において、試料容器60に上記取り出した被検試料の正極30と非酸化物フィラー70とを収容する工程を行う。かかる非酸化物フィラー70は、正極30を収容した試料容器60内の空隙を充填するように配置する。また、正極30が試料容器60の内壁に直接接触しないように、該容器の底面に予め非酸化物フィラー70を敷き詰めて置いてもよい。
なお、このとき、該正極30が収容されていたリチウム二次電池100の電解質52(非水電解液)と同じ組成の電解質52を投入して測定するのが好ましい。これにより、測定対象とするリチウム二次電池100内と略同一の環境(ガス雰囲気下)を形成することができ、上記正極30表面への被膜形成が抑制される。
【0033】
そして、正極30および非酸化物フィラー70を収容した後、上記試料容器60を炉体で加熱または冷却して正極30の発熱挙動を熱分析する。該試料容器60を加熱または冷却すると、容器60内に充填された非酸化物フィラー70に熱が伝導し、該非酸化物フィラー70は被検試料の正極30を高速で昇温または降温させる。その結果、正極は素早く加熱または冷却するため、本実施形態に係る方法によると温度等の検出温度のばらつきが抑制され、高精度の熱分析を行うことができる。
【0034】
以下、本発明に関する試験例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0035】
被検試料として用いたリチウム二次電池の正極は、以下のとおりである。SOCが150%の充電状態のリチウム二次電池から、捲回電極体を取り出して捲回状態を解き、シート状の正極(4cm×5cm)を得た。こうして得られた正極を電解質で洗浄し、乾燥することにより被検試料として用いた。なお、上記電解質は、プロピレンカーボネート(PC)溶媒に1mol/LのLiPFを溶解させた組成の非水電解液を用いた。
【0036】
そして、上記正極の発熱挙動を観測するため、分析装置(カルベ式熱量計C500型、株式会社リガク製)を用いて熱分析した。すなわち、不活性ガス雰囲気下で該正極を試料容器に収容し、上記同組成の電解質を120μL投入した後、該試料容器を加熱して熱分析を行った(図1参照)。分析装置の測定温度域は110−250℃とし、昇温速度は0.2℃/minとした。
かかる方法を用いて測定した結果グラフを比較例として図6に示す。また、該被検試料の最高到達温度を表1の比較例に示す。
【0037】
一方、比較例と同様の環境下で正極および電解質を収容した後、試料容器内の空隙を粒状の窒化アルミニウムで充填し、該正極の発熱挙動について同様の条件で熱分析を行った(図2参照)。かかる方法を用いて測定した結果グラフを実施例として図7に示す。また、該被検試料の最高到達温度を表1の実施例に示す。
なお、図6および図7の横軸は時間[sec]を表す。また、左軸は温度[℃]を、右軸は発熱量[mW]をそれぞれ表わしている。
【0038】
まず、図6および図7の測定結果のグラフに示されるように、粒状の窒化アルミニウムを試料容器内に充填せずに熱分析を行った比較例(図6)では、2000−3000secのピークがブロードになっているが、一方、窒化アルミニウムを試料容器に充填した実施例(図7)では、2000−3000secの上記ピークに対応する部分のピークがシャープに出現し、発熱開始の温度および発熱量の値が明瞭に読み取ることができた。このことから、窒化アルミニウムは試料容器内に収容された被検試料である正極を素早く昇温させることが示された。その結果、被検試料への熱伝導が向上し、従来の方法では分離できなかったピークをそれぞれ異なるピークとして分離できることが確認できた。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示されるように、実施例の最高到達温度の測定値は、比較例の最高到達温度の測定値よりもばらつきが小さいことが確認された。
以上の結果から、粒状の窒化アルミニウムを試料容器に充填することによって、被検試料を素早く昇温することができるため、高精度の熱分析が可能であることが示された。
【0041】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。例えば、被検試料はリチウム二次電池用の正極に限るものではなく、電池の種類およびその他の構成についても適切に変更することができる。また、本発明は二次電池用の電極のみを被検試料に限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によると、試料容器に加えられた熱を被検試料に素早く伝導させることによって検出温度のばらつきを抑制し、安全で高精度の熱分析方法を提供することが可能となる。特に、二次電池用の電極の発熱挙動を分析する際に、本発明に係る熱分析方法は好適に使用され得る。
【符号の説明】
【0043】
1 車両
10 電池ケース
14 蓋体
20 捲回電極体
30 正極シート(正極)、被検試料
32 正極集電体
34 正極活物質
40 負極シート(負極)
42 負極集電体
44 負極活物質
50 セパレータ
52 電解質
60 試料容器
62 温度検出部
70 非酸化物フィラー
80 分析装置
100 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器を加熱または冷却することによって該容器の内部に収容した被検試料を昇温または降温させて該試料の熱分析を行う方法であって、
前記被検試料を収容した前記試料容器内の空隙を熱伝導率(W/m・K)が酸化物セラミックスよりも高い非酸化物セラミックスから成る非酸化物フィラーによって充填することを特徴とする、熱分析方法。
【請求項2】
前記非酸化物フィラーは、窒化ホウ素、窒化アルミニウムおよび炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種により構成されている、請求項1に記載の熱分析方法。
【請求項3】
前記非酸化物フィラーは、粒状の窒化アルミニウムである、請求項1または2に記載の熱分析方法。
【請求項4】
前記試料容器内への前記被検試料および前記非酸化物フィラーの収容作業は、不活性ガス雰囲気下または実質的に水分を含まない乾燥空気中で行う、請求項1〜3のいずれかに記載の熱分析方法。
【請求項5】
前記被検試料は、二次電池用の電極である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱分析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−217094(P2010−217094A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66272(P2009−66272)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】