説明

熱分析装置のセンサユニットおよびその製造方法

【課題】測定試料と標準試料との間の熱伝導を抑えつつ、炉体と試料との間の熱伝導を維持し、試料間の温度差を高感度で検知することができる熱分析装置のセンサユニットおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】各試料容器に内の測定試料Sと標準試料Rとの温度差を検出する熱分析装置1のセンサユニット30であって、絶縁体で形成され、温度制御される炉体ユニットの近傍に設けられたベース部31と、2種の熱電対素線を交互に接合することにより形成され、熱電対素線の特定部分は、ベース部に接合されている多対熱電対32と、絶縁体で形成され、各試料容器が載置される載置面を有し、多対熱電対の接点が接合されている一対の感熱部35、36と、を備え、一対の感熱部35、36は、ベース部31から離間して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定試料と標準試料との温度差を検出する熱分析装置のセンサユニットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、DTA(Differential Thermal Analyzer)、DSC(Differential Scanning Calorimeter)等の熱分析装置には、一対の熱電対を備えた温度差センサが一般的に用いられている。このような温度差センサは、各熱電対により測定試料の温度と標準試料の温度をそれぞれ検出し、温度差を出力する。熱分析装置1において、試料容器を載置する各載置板には、通常、熱伝導性に優れ高温でも熱電対材料と反応しないコンスタンタン等の金属が使用され、熱電対の接点が接続されている(特許文献1参照)。
【0003】
その一方で、感度の高い温度差センサとして、熱電対の素線を直列に接続した多対熱電対を用いた温度差センサが提案されている。多対熱電対用いる場合には、各接点のショートを防止するため、絶縁性の載置板が用いられている(特許文献2および3参照)。
【0004】
たとえば、特許文献3の熱分析センサーは、セラミック基板上の測定位置に2つの異なる熱電対材料によって連続的に接続された熱電対配列部と、熱電対配列部の上に重ねられた絶縁層を備えている。この熱分析センサーでは、基板に熱電対と絶縁層とを重ね、絶縁層上の互いに離れた位置に試料容器を置いて試料温度を検出している。炉体からの熱は基板、熱電対、絶縁層を介して試料へ伝わることになる。また、試料により発熱や吸熱があった時の温度変化は、絶縁層を介して熱電対の接点で検知される。
【特許文献1】特開平5−223764号公報
【特許文献2】米国特許第5033866号明細書
【特許文献3】特開2005−134397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のセンサーでは、絶縁層上の互いに離れた位置に試料容器を置いているだけであり、測定試料と標準試料との間に十分な熱抵抗が形成されていない。そのため、測定試料に変化があっても試料間に十分な温度勾配が生じず、センサ感度が低くなる。このように、熱抵抗が不十分であると測定感度に影響するため、上記のような熱分析装置では、試料の温度変化を高感度で検知することができない。
【0006】
また、熱分析装置では、同時に熱時定数を小さく維持し、ヒートシンクの温度制御に対して試料の応答性を向上させることが重要となる。したがって、炉体から試料までの熱伝導を高く維持しておく必要がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、測定試料と標準試料との間の熱伝導を抑えつつ、炉体と試料との間の熱伝導を維持し、試料間の温度差を高感度で検知することができる熱分析装置のセンサユニットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、各試料容器内の測定試料と標準試料との温度差を検出する熱分析装置のセンサユニットであって、絶縁体で形成され、温度制御される炉体ユニットの近傍に設けられたベース部と、2種の熱電対素線を交互に接合することにより形成され、前記熱電対素線の特定部分は、前記ベース部に接合されている多対熱電対と、絶縁体で形成され、前記各試料容器が載置される載置面を有し、前記多対熱電対の接点が接合されている一対の感熱部と、を備え、前記一対の感熱部は、前記ベース部から離間して設けられていることを特徴としている。上記の近傍とは、熱的相互作用がある範囲をいう。
【0009】
このように、本発明の熱分析装置のセンサユニットは、感熱部をベース部から離間して設けている。したがって、感熱部とベース部との間に適度な熱抵抗が設けられていることになる。これにより、測定試料に変化があった場合には、測定試料と標準試料との間に急な温度勾配が生じ、熱起電力が増大する。その結果、センサの感度やS/N比が向上する。また、感熱部に伝わる熱を逃がさず試料の温度変化を高感度で検知することができる。
【0010】
その一方で、ベース部と感熱部とは多対熱電対により連結されている。したがって、多対熱電対が熱をベース部から各感熱部へ伝え、試料温度の時定数を小さく維持することができる。その結果、測定試料の吸熱や発熱等の変化を十分に検知することができる。
【0011】
(2)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記熱電対素線が、平板状であり、前記多対熱電対の接点で重ねて接合されていることを特徴としている。このように、本発明の熱分析装置のセンサユニットは、平板状の熱電対素線により形成された多対熱電対が平板状となるため、炉体への収容性が向上する。
【0012】
(3)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記平板状の熱電対素線が、幅方向に屈曲する屈曲部を有していることを特徴としている。これにより、熱電対素線が平板状に薄くても、厚さ方向に屈曲しにくくなり、十分に感熱部を支持することができる。また、熱電対素線は平板状であるため、細いワイヤー形状を束ねたものよりも酸化による影響を受け難い。
【0013】
(4)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記多対熱電対が、4対の熱電対により構成されていることを特徴としている。このように、複数の熱電対を用いて各試料の温度検知の感度を高くする一方で、熱電対数を抑えることによりS/N比の増大を抑制している。また、多対熱電対の接点数を制限することでセンサユニットを小型化し炉体への収容性を高めている。
【0014】
(5)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記多対熱電対が、クロメルの熱電対素線とコンスタンタンの熱電対素線とを接合することにより形成されていることを特徴としている。この組合せにより、温度差の信号として最も高い電圧を得ることができ、小さな電圧の変化を捉えることができる。
【0015】
(6)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記感熱部が、前記多対熱電対の接点がそれぞれ電気的に独立して接合されていることを特徴としている。各接点が電気的に独立していることにより、それぞれの接点の温度を反映することとなり、接点の数の分だけ精度が向上する。
【0016】
(7)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記感熱部が、高熱伝導性を有するセラミックスにより形成されていることを特徴としている。これにより、試料と多対熱電対の接点との間の熱伝導性が向上し、試料の温度を高感度で検出することができる。
【0017】
(8)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記ベース部が、前記炉体ユニットに対向する面に前記熱電対素線を嵌め込むための溝を有していることを特徴としている。これにより、熱電対素線がベース部に収容されるため、センサをコンパクトにすることができる。そして、所定位置に熱電対素線が固定されるため、バランスのとれた均一な構造にすることができる。また、熱電対素線が炉体ユニットに直接接触するのを防止できる。
【0018】
また、溝により、溝内から接合用のロウ材が流れるのを防止することができる。そして、炉体ユニットに対向する面に溝を設けているため、ベース部が炉体ユニットに接触する場合には、接触面の炉体ユニットとの接触面積を小さくし熱膨張により炉体ユニットとベース部との間に発生する応力を緩和することができる。
【0019】
(9)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記ベース部の溝が、前記嵌め込む熱電対素線の材料に応じて異なる溝の深さを有することを特徴としている。これにより、各材料の熱電対素線をベース部の溝に密着させて収めることができる。
【0020】
(10)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記ベース部が、長板状に形成され、前記感熱部の外形に沿って窪んだ側面を有することを特徴としている。これにより、センサユニットの炉体への収容性を高めるとともに、感熱部をベース部から離間させている。
【0021】
(11)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットは、前記多対熱電対の接点と前記感熱部との接合、前記接点における前記多対熱電対の熱電対素線同士の接合、および前記多対熱電対の熱電対素線の特定部分と前記ベース部との接合のうち、少なくとも一つの接合が、接合部材表面に形成した金属層同士を接合することによりなされていることを特徴としている。
【0022】
このように、センサ部の接合は、金属層同士を接合することによりなされている。したがって、用いるロウ材の量を測定試料側と標準試料側とでほぼ均一にし、対称な位置で接合することが可能になる。その結果、測定試料と標準試料との間で、構造上のバランスをとり、熱的な対称性を得ることができる。そして、構造上の影響を排除して測定試料の温度変化を捉えることができる。
【0023】
(12)また、本発明に係る熱分析装置のセンサユニットの製造方法は、それぞれ異なる熱電対材料により形成された2枚の平板を多対熱電対用のパターンに形成する工程と、絶縁体で形成され、温度制御される炉体ユニットの近傍に配置されるベース部、絶縁体で形成され、各試料容器が載置される載置面を有する一対の感熱部および前記2枚の平板の接合用部分の表面に接合用金属の金属層を形成する工程と、前記パターン形成された2枚の平板を重ねて多対熱電対の接点となる部分を密着させ、さらに前記2枚の平板を前記ベース部および一対の感熱部に密着させる工程と、前記2枚の平板、ベース部および一対の感熱部を金属層同士で接合する工程と、を含むことを特徴としている。上記の近傍とは、熱的相互作用がある範囲をいう。
【0024】
このように、本発明のセンサユニットの製造方法では、接合を金属層同士の接合により行っている。したがって、用いるロウ材の量を測定試料側と標準試料側とでほぼ均一にし、対称な位置で接合することが可能になる。その結果、測定試料と標準試料との間で、構造上のバランスをとり、熱的な対称性を得ることができる。そして、構造上の影響を排除して測定試料の温度変化を捉えることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、測定試料に変化があった場合には、測定試料と標準試料との間に急な温度勾配が生じ、熱起電力が増大する。その結果、センサの感度やS/N比が向上する。また、感熱部に伝わる熱を逃がさず試料の温度変化を高感度で検知することができる。
【0026】
その一方で、多対熱電対が熱をベース部から各感熱部へ伝え、試料温度の時定数を小さく維持することができる。その結果、測定試料の吸熱や発熱等の変化を十分に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0028】
図1は、熱分析装置1を模式的に示す断面図である。熱分析装置1は、炉体ユニット10の温度を制御して測定試料Sと標準試料Rとの温度差を検出し、熱流差を出力する熱流束DSCと呼ばれるものである。熱分析装置1は、その他、単に温度差を検出するDTAとして用いることも可能である。
【0029】
図1に示すように、熱分析装置1は、大きく分けて炉体ユニット10、炉体温度制御回路20、センサユニット30および出力回路40から構成されている。炉体ユニット10は、さらに炉体11、ヒータ線12、炉体カバー13、センサ台14、および絶縁シート15から構成されている。
【0030】
炉体11は、銀製であり、中心軸に対称で断面がH形である。そして、H形の一方の凹状空間が、試料を設置するための試料室11aとなっている。炉体11は、ヒータ線12から伝達される熱を試料室内全体に均一に伝えている。ヒータ線12は、炉体11の周囲を巻き回され、発熱により炉体11を加熱する。ヒータ線12は、後述の炉体温度制御回路20により給電が調整され、発熱が制御されている。
【0031】
炉体カバー13は、銀製で円筒形状を有しており、炉体11およびヒータ線12を覆っている。センサ台14は、銀製で長板状をしている。センサ台14の端面は炉体内壁に沿って円周面の形状を有しており、中央には後述する感熱板35、36の外周に沿って内側に窪んだ側面を有している。センサ台14は、炉体11内の試料室11aの底面にネジ止めされている。絶縁シート15は、センサ台14の上面と同じ外形を有しており、センサ台14の上面を覆って配置されている。絶縁シート15は、熱電対素線が銀製のセンサ台14との間でショートしないように両者を電気的に絶縁している。また、ベース板31の底面と熱電対素線との間に十分な空隙があれば、絶縁シート15を設けなくてもよい。
【0032】
炉体温度制御回路20は、炉体温度センサ21、温度測定回路22、ヒータ温度制御回路23および給電回路24により構成されている。炉体温度センサ21には、たとえば熱電対を用いることができる。炉体温度センサ21は、炉体の温度を表す信号を温度測定回路22に送る。温度測定回路22は、炉体温度センサ21からの信号を温度値として出力する。ヒータ温度制御回路23は、得られた炉体温度の値を参照し、炉体温度を設定された温度パターンに従わせて給電を制御する。給電回路24は、ヒータ温度制御回路23の制御の下で、ヒータ線12に給電する。このように、炉体温度制御回路20は、炉体ユニット10の温度を制御する。
【0033】
センサユニット30は、ベース板31(ベース部)、多対熱電対32、測定試料用の感熱板35(感熱部)および標準試料用の感熱板36(感熱部)から構成されている。センサユニット30は、炉体11から熱を試料に伝えるとともに、試料の温度を検出する機能を有している。
【0034】
ベース板31(ベース部)は、窒化アルミニウム製であり長板状である。ベース板31もセンサ台14と概略同様の外形を有している。ベース板31は、溝等の形状に特徴を有しており、これについては後述する。ベース板31(ベース部)は、絶縁シート15を挟んでセンサ台14にネジ止めされている。このようにベース板31は炉体ユニット10に接触しているが、ベース板31と炉体ユニット10との間に空隙を設ける構成としてもよい。いずれにしてもベース板31は、炉体ユニット10の近傍に設けられている。近傍とは、熱的相互作用がある範囲をいう。
【0035】
ベース板31に用いられている窒化アルミニウムは、絶縁体であり、熱伝導率が金属並みに高く、金属との接合性に優れている。ベース板31の材料としては、熱伝導性の高いセラミックスが好適であり、これを用いることで測定感度を高くさせることができる。なお、熱伝導性の高いセラミックスとしては、窒化アルミニウムの他、炭化珪素も適している。なお、ベース板31は、ヒートシンクとしても機能し、各試料容器に熱を伝えることで、両者を熱的に同じ条件に置いている。
【0036】
多対熱電対32は、2種の熱電対材料の素線を交互に接合することにより形成されており、4対の熱電対が形成されている。2種の熱電対材料としては、温度差に対して高い電圧を発生するコンスタンタン−クロメルの組み合わせが好適である。ただし、ロジウムの成分比が異なる白金ロジウムの組合せ、白金−白金ロジウムの組合せ、ナイシル−ナイクロシルの組合せ、アルメル−クロメルの組合せ、コンスタンタン−鉄の組合せ、コンスタンタン−銅の組合せ等であってもよく、組合せは限定されない。
【0037】
また、多対熱電対32は、各熱電対材料の平板状素線を接点で重ねて接合することにより形成されており、接合による段差が生じているが、概ね平板状である。これにより、炉体11への収容性が向上する。また、多対熱電対32は、細いワイヤー形状に比べ酸化による影響を受け難い。各素線のうち、ベース板31と重なる領域(特定部分)は、ベース板31に接合されている。この接合により、多対熱電対32は、ベース板31により下面が浮かされ、絶縁シート15との間に空隙が生じる。したがって、炉体11の熱は、主にベース板31を介し、ベース板31と熱電対素線の接合部分から多対熱電対32に伝えられる。
【0038】
一対の感熱板35、36(感熱部)は、窒化アルミニウム製の円板であり、その一方の主面には試料容器それぞれが載置される載置面が存在する。そして、他方の主面には、多対熱電対の接点がそれぞれ電気的に独立して接合されている。電気的に独立しているとは、互いに干渉することなく電位に影響を及ぼさないということである。少なくとも、各接点は感熱板35、36上で導通しないように構成されている。感熱板35、36は、多対熱電対32によりベース板31から離間して支持されている。したがって、感熱板35、36とベース板31との間に適度な熱抵抗が存在し、測定試料Sに変化があった場合には、測定試料Sと標準試料Rとの間に急な温度勾配が生じ、熱起電力が増大する。その結果、センサの感度やS/N比が向上する。また、感熱板35、36に伝わる熱を逃がさず、試料の温度変化を高感度で検知することができる。
【0039】
その一方で、ベース板31と感熱板35、36とは多対熱電対32により接続されている。したがって、多対熱電対32が熱をベース板31から各感熱板35、36へ伝え、試料温度の時定数を小さく維持することができる。たとえば、試料温度に対してレスポンスが悪すぎて測定試料Sの変化が終わっているにもかかわらず引き続いてピークが検知されるといったことが防止される。多対熱電対によりベース板31と感熱板35、36とが接続されるため、センサ感度を鈍らせることがない。その結果、測定試料Sの吸熱や発熱等の変化を十分に検知することができる。
【0040】
ベース板31の熱は、多対熱電対32および感熱板35、36を介して各試料容器に伝えられる。その一方で、感熱板35、36は、試料の温度変化を高感度で熱電対に伝えている。感熱板35、36の材料としては熱伝導性の高いセラミックスが好適である。たとえば、窒化アルミニウムの他に炭化珪素も適している。
【0041】
出力回路40は、標準試料用熱電対41、引き出し線42、43、ベースライン補正回路45、熱量演算回路46、および出力装置47から構成されている。出力回路40は、多対熱電対32からの信号を補正して温度差を熱量に換算し、画面や紙等に出力する。
【0042】
標準試料用熱電対41は、ベースライン補正用に標準試料Rの近傍に設けられた熱電対である。標準試料用熱電対41は、標準試料Rの温度の信号をベースライン補正回路45に送る。引き出し線42、43は、一端を多対熱電対32に、他端をベースライン補正回路45に接続され、両試料間の温度差をベースライン補正回路45に送る。炉体11には、アルミナ管を挿通させた孔が開けられており、引き出し線42、43は、この孔を通ってベースライン補正回路45に接続されている。ベースライン補正回路45は、測定試料Sと標準試料Rとの温度差から標準試料Rの温度値に所定の比率を掛けた値を差し引くことで、ベースラインを補正している。熱量演算回路46は、ベースラインを補正された温度差の値を熱量(熱流差)に換算する。出力装置47は、たとえば表示装置や印刷装置であり、熱流差を画面に表示したり、紙に印刷したりする。熱分析装置1は、このように構成されており、特にセンサユニット30は、温度差検知の感度を高めるための特徴を有している。
【0043】
図2は、センサユニット30を示す(a)平面図、(b)、正面図および(c)底面図である。図2に示すように、センサユニット30は、多対熱電対32が、ベース板31および各感熱板35、36に接合されることで形成されている。センサユニット30は、測定試料側と標準試料側とで対称な形状に設計されており、構造的にバランスがとれている。これにより、熱的な対称性が得られ、測定試料Sの熱的挙動のみを抽出して検知することが可能となる。
【0044】
ベース板31および感熱板35、36は、多対熱電対32の同じ側に配置されている。ただし、ベース板31は、感熱板35、36とは接触せず、ベース板31から感熱板35、36には熱が直接伝わらないように配置されている。感熱板35、36は、ベース板31より薄く形成されており、温度検知に好適な形状となっている。また、多対熱電対32は、ベース板31の溝31b、31cに嵌めこまれており、多対熱電対32と炉体ユニット10との間にはわずかに隙間を生じる。その結果、多対熱電対32は、一対の感熱板35、36を炉体ユニット10およびベース板31から離間させて支持している。
【0045】
また、熱電対素線がベース板31に収容されるため、センサをコンパクトにすることができる。そして、所定位置に熱電対素線が固定されるため、構造上のバランスをとり均一な構造にすることができる。なお、炉体ユニット10からの熱伝達を高く設定すべき場合には、上記の隙間をなくし、多対熱電対32と炉体ユニット10とを密着させてもよい。
【0046】
また、溝31b、31cにより、溝内の接合用のロウ材が流出するのを防止することができる。また、平面領域31dの炉体ユニット10との接触面積を小さくし熱膨張により炉体ユニット10とベース板31との間に発生する応力を緩和することができる。
【0047】
多対熱電対32と溝31b、31cとの接触面は、金のロウ材により接合されている。多対熱電対32を構成するそれぞれの熱電対素線のうち、両端の熱電対素線は、その端部がベース部31に接合されており、それ以外の熱電対素線は、その中央部分がベース部31に接合されている。また、多対熱電対の1つおきの接点が4つずつ集められて測定試料側の感熱板35と標準試料側の感熱板36に接合されている。
【0048】
図3は、ベース板31を示す(a)平面図、(b)正面図および(c)底面図である。ベース板31は、センサ台14にセンサユニット30ごと固定するためのネジ孔31aを有している。ベース板31のセンサ台14側の底面、すなわち炉体ユニット10に対向する面には、深い溝31bおよび浅い溝31cが交互に形成されている。これにより、各材料の熱電対素線をベース板31の溝31b、31cに密着させて収めることができる。その結果、センサユニット30をコンパクトにすることができる。
【0049】
溝の深さに応じて、異なる材料の熱電対素線が嵌めこまれる。センサ台14側の底面で、溝が形成されていない平面領域31dは、絶縁シート15に接触し、そこから炉体11の熱が伝わる。ベース板31は、側面の中央部分が窪んで、括れた形状を有している。この内側に窪んだ側面31eは、感熱板35、36の円周に沿って円周より少し大きい曲率半径で形成されており、ベース板31と感熱板35、36とは互いに接触することはない。これにより、センサユニット30を小型化し炉体11への収容性を高めるとともに、感熱板35、36をベース板31から離間させている。ベース板31の端面31fは、炉体の試料室11aの内壁に沿って収まり易いように、円周面に形成されている。
【0050】
図4は、試料載置側から見た多対熱電対32を示す平面図である。多対熱電対32は、コンスタンタンの熱電対素線とクロメルの熱電対素線とを交互に直列に接合することで、4対の熱電対として形成されている。多対熱電対32は、接点において平板状の熱電対素線を重ねて接合されることで形成されている。両端の熱電対素線の端部には、引き出し線42が接続されている。このように、複数の熱電対を用いて各試料の温度検知の感度を高くする一方で、熱電対数を抑えることによりS/N比の増大を抑制している。また、多対熱電対32の接点数を制限することでセンサユニット30を小型化し炉体11への収容性を高めている。
【0051】
素線同士はスポット溶接されるか、または金等のロウ材を用いて接合されている。図4では、材料の違いが白地とハッチング地の違いで示されている。重ねられた熱電対素線のうち試料載置側の熱電対素線32a(白地)の材料は、コンスタンタンであり、炉体側の熱電対素線32b(ハッチング地)の材料はクロメルである。なお、コンスタンタンとクロメルの組合せは好適であるが、これに限定されるものではない。それぞれの素線は長手方向にまっすぐな平板ではなく、幅方向に屈曲する屈曲部Cを有している。これにより、熱電対素線が平板状に薄くても、厚さ方向に屈曲しにくくなり、炉体ユニット10から離間させて感熱板35、36を支持しやすくなる。
【0052】
感熱板35、36は、窒化アルミニウム製で薄い円板形状を有している。感熱板35、36の試料載置面の反対面において、多対熱電対32の1つおきの4つの接点の集合が、それぞれ金のロウ材で接合されている。センサユニット30は、このようにして構成されている。
【0053】
次に、センサユニット30の製造工程および熱分析装置1の組み立て工程を説明する。図5は、センサユニット30の製造工程を示す斜視図である。
【0054】
まず、クロメルおよびコンスタンタンの各熱電対材料により形成された2枚の平板60、70をエッチングにより所定のパターンに形成する。形成方法は、エッチングに限定されない。パターンは、平板を型抜きした形状としておき、各平板の外枠61、71および外枠と熱電対素線32b、32aとのつなぎ部分63、73を残しておく。また、外枠61、71の四つの角には位置合わせのための孔62、72を空けておく。これにより、接合や組み立てが容易になる。
【0055】
続いて、パターン形成された2枚の平板60、70、ベース板31および一対の感熱板35、36の所定部分の表面に接合用金属の金属層を形成する。所定部分とは、熱電対素線32bと熱電対素線32aとが接点を形成する部分の各接触面65、75、熱電対素線32b、32aとベース板31との接触面66、76、80、および熱電対素線32aと感熱板35、36との接触面77、81である。両端の熱電対素線では、その端部がベース板31と密着し、接合されている。両端以外の熱電対素線は、その中央部がベース板31と密着し、接合されている。多対熱電対32のそれぞれの4つの接点は、感熱板35、36と接合されている。金属層の材料としては、金または銀が好適であるが、これに限定されない。また、金属層は、メッキや蒸着等により形成すればよく、特に形成方法は限定されない。
【0056】
次に、ベース板31および一対の感熱板35、36に、パターン形成された2枚の平板60、70を重ねて密着させる。重ねる際には、外枠61、71の角の孔62、72を重ねて位置合わせを行う。そして、密着部分に圧力を加え、所定の温度まで上げて接合する。このように金属層形成処理と接合を行うことにより、接合部分がいずれも均一になる。その結果、測定試料Sと標準試料Rとの間で、熱的な対称性を得ることができ、構造上の影響を排除して測定試料Sの温度変化を捉えることができる。最後に、熱電対材料の平板60、70の外枠61、71およびつなぎ部分63、73を除去する。このようにして、センサユニット30を作製することができる。
【0057】
さらに、熱分析装置1は、炉体ユニット10とセンサユニット30とをネジ止めにより組み立てることで作製できる。図6は、熱分析装置1の組み立て工程を示す斜視図である。まず、2つのネジ91により炉体11に、センサ台14を固定する。そして、絶縁シート15をセンサ台14の上に配置し、センサユニット30を重ねて、2つのネジ92により固定する。このようにして、熱分析装置1を組み立てることができる。なお、上記の締結はネジにより行っているが、それ以外の締結手段を用いてもよい。
【0058】
また、上記の実施形態では、接合用のロウ材として金が用いられているが、銀等その他のロウ材であってもよい。その他のロウ材としては、金属層形成処理や接合金属の表面材に適したものが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】熱分析装置を模式的に示す断面図である。
【図2】(a)本発明に係るセンサユニットを示す平面図である。(b)本発明に係るセンサユニットを示す正面図である。(c)本発明に係るセンサユニットを示す底面図である。
【図3】(a)ベース板を示す平面図である。(b)ベース板を示す正面図である。(c)ベース板を示す底面図である。
【図4】試料載置側から見た多対熱電対を示す平面図である。
【図5】本発明に係るセンサユニットの製造工程を示す斜視図である。
【図6】熱分析装置の組み立て工程を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1 熱分析装置
10 炉体ユニット
11 炉体
11a 試料室
12 ヒータ線
13 炉体カバー
14 センサ台
15 絶縁シート
30 センサユニット
31 ベース板(ベース部)
31a ネジ孔
31b、31c 溝
31e 内側に窪んだ側面
31f 端面
31d 平面領域
32 多対熱電対
32a、32b 熱電対素線
35、36 感熱板(感熱部)
40 出力回路
41 標準試料用熱電対
42、43 引き出し線
60、70 平板
61 外枠
62 孔
63 つなぎ部分
C 屈曲部
R 標準試料
S 測定試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各試料容器内の測定試料と標準試料との温度差を検出する熱分析装置のセンサユニットであって、
絶縁体で形成され、温度制御される炉体ユニットの近傍に設けられたベース部と、
2種の熱電対素線を交互に接合することにより形成され、前記熱電対素線の特定部分は、前記ベース部に接合されている多対熱電対と、
絶縁体で形成され、前記各試料容器が載置される載置面を有し、前記多対熱電対の接点が接合されている一対の感熱部と、を備え、
前記一対の感熱部は、前記ベース部から離間して設けられていることを特徴とする熱分析装置のセンサユニット。
【請求項2】
前記熱電対素線は、平板状であり、前記多対熱電対の接点で重ねて接合されていることを特徴とする請求項1記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項3】
前記平板状の熱電対素線は、幅方向に屈曲する屈曲部を有していることを特徴とする請求項2記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項4】
前記多対熱電対は、4対の熱電対により構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項5】
前記多対熱電対は、クロメルの熱電対素線とコンスタンタンの熱電対素線とを接合することにより形成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項6】
前記感熱部は、前記多対熱電対の接点がそれぞれ電気的に独立して接合されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項7】
前記感熱部は、高熱伝導性を有するセラミックスにより形成されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項8】
前記ベース部は、前記炉体ユニットに対向する面に前記熱電対素線を嵌め込むための溝を有していることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項9】
前記ベース部の溝は、前記嵌め込む熱電対素線の材料に応じて異なる溝の深さを有することを特徴とする請求項8記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項10】
前記ベース部は、長板状に形成され、前記感熱部の外形に沿って窪んだ側面を有することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項11】
前記多対熱電対の接点と前記感熱部との接合、前記接点における前記多対熱電対の熱電対素線同士の接合、および前記多対熱電対の熱電対素線の特定部分と前記ベース部との接合のうち、少なくとも一つの接合は、接合部材表面に形成した金属層同士を接合することによりなされていることを特徴とする請求項1から請求項10記載の熱分析装置のセンサユニット。
【請求項12】
それぞれ異なる熱電対材料により形成された2枚の平板を多対熱電対用のパターンに形成する工程と、
絶縁体で形成され、温度制御される炉体ユニットの近傍に配置されるベース部、絶縁体で形成され、各試料容器が載置される載置面を有する一対の感熱部および前記2枚の平板の接合用部分の表面に接合用金属の金属層を形成する工程と、
前記パターン形成された2枚の平板を重ねて多対熱電対の接点となる部分を密着させ、さらに前記2枚の平板を前記ベース部および一対の感熱部に密着させる工程と、
前記2枚の平板、ベース部および一対の感熱部を金属層同士で接合する工程と、を含むことを特徴とする熱分析装置のセンサユニットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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