説明

熱分析装置

【課題】 試料からの電磁波データを、より少ない記憶容量で取りこぼしなく取得し、電磁波検出結果と熱分析結果の関連付けが容易に行える熱分析装置を提供する。
【解決手段】 電磁波データ取得トリガ設定手段7により設定されたトリガ条件に合致するかを電磁波データ取得制御手段6にて判定し、合致する時電磁波データを取得する。トリガが発生した時の熱分析データ上の位置と電磁波データを電磁波データ関連付け手段10が関連付けを行い、その結果を使用して指定された熱分析データ上の位置に対応する電磁波データを電磁波データ特定手段14が特定し、熱分析データ近傍に電磁波データを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析中の試料画像や試料スペクトル等の試料からの電磁波データを、より少ない記憶容量で取りこぼしなく取得し、電磁波検出結果と熱分析結果の関連付けが容易に行える熱分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析は試料の温度を一定のプログラムに従って変化させながら、その試料のある物理的性質を温度の関数として測定する技法である。温度の変化に伴い、試料は融解や気化などの相変化や、膨張や収縮などの形状変化が起こる。この相変化や形状変化の前後の試料画像などの試料からの電磁波データを保存し、熱分析データと併せ分析することにより、試料の状態変化をより深く解析することは広く行われている。
【0003】
従来の熱分析装置においては、試料画像はビデオテープレコーダ等連続的に記録される媒体に収められ、記憶容量や熱分析結果の関連付けとの関連付けは特別の考慮はされていなかった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−327573(2頁〜3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱分析では、一般に1時間以上の長時間に渡る測定を行うが、この中で試料の状態変化解析の鍵となる相変化や形状変化は離散的に数回起こるのみである。したがって電磁波データの保存は、その熱分析の測定時間の全域にわたり連続的に行う必要はない。
【0005】
従来の熱分析装置にあっては、試料画像等はビデオテープレコーダ等に記憶されていたため、測定時間の全域にわたり記録されていた。この画像を熱分析のデータと組み合わせて扱いやすくするためにディジタル化すると非常に大容量な記憶となり、試料画像等と熱分析データを扱うコンピュータの資源および処理能力を圧迫するという問題があった。試料画像等と熱分析データを組み合わせて報告書等を作成する場合、複数の市販ソフトウエアを組み合わせて使わなければならず、大容量の試料画像と相まって、非常に作業が手間であるという問題点もあった。一方画像の記録容量を抑えるために、測定中の試料画像を目視しながら必要な箇所を指定して記憶するという方法もあるが、長時間試料画像を目視し続けなければならないため、ユーザに対して非常な負荷となるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決し、1時間以上の長時間に渡る測定を行ったときであっても、ユーザの画像取得負荷が少なく、試料画像等を取りこぼしなくかつより少ない容量で取得する熱分析装置を提供することを課題とする。さらに、測定後に試料画像と熱分析データを組み合わせて報告書等を作成する場合であっても、多くの試料画像の中から着目する熱分析データ上の点に関連した試料画像を迅速に抽出し、報告書が容易に実現できる熱分析装置を提供することを課題とする。
【0007】
また、試料画像に限らず上記課題は、熱分析中の試料の組成や構造を表す波長スペクトルや周波数スペクトルの取得など、熱分析と温度などの変化に伴う電磁波の分析を行う場合も共通の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の熱分析装置においては、試料を加熱する加熱炉と、試料の温度を検出する温度センサーと、温度変化に伴って変化する試料の物理量を検出する物理量センサーと、加熱炉の温度を制御する温度コントローラと、温度センサーと物理量センサーからの信号を1組として適当な時間間隔でサンプリングしたものを熱分析データとして保存する熱分析データ保存手段という一般の熱分析装置の構成に加え、試料からの電磁波を検出しデータ化した電磁波データを取得する電磁波データ取得手段と、電磁波データを取得するトリガを設定する電磁波データ取得トリガ設定手段と、電磁波データ取得トリガ設定手段で設定されたトリガに従い電磁波データ取得を制御する電磁波データ取得制御手段および取得した電磁波データを保存する電磁波データ保存手段を設けた。
【0009】
電磁波データ取得手段にて取得する試料からの電磁波の波長対象と電磁波データは、可視光を対象とした試料画像であったり、赤外光など可視光より長い波長を対象とした試料画像であったり、あるいは紫外光のなど可視光より短い波長を対象とした試料画像であったりする。
【0010】
また、電磁波データ取得手段が取得する電磁波データが、各波長成分あるいは各周波数成分の強度を出力するいわゆるスペクトルの場合もある。
【0011】
トリガは、電磁波データの取得タイミングを規定するものであり、電磁波データの変化を捉えたりや熱分析データ上のある点での電磁波データの確認を行うタイミングを設定する。具体的にはトリガには以下のようなものを設定する。
(a)測定開始からの特定の時間あるいは時間間隔毎。この場合、電磁波データ取得トリガ設定手段においてトリガは、“測定開始後10分、測定開始後12分、測定開始から5分間隔”等と入力され、複数のトリガを設定できる。
(b)温度センサーの出力が特定の温度あるいは温度間隔毎。この場合、電磁波データ取得トリガ設定手段においてトリガは、“100、150℃、257℃、100℃から250℃の範囲を5℃間隔“等と入力され、複数のトリガを設定できる。
(c)物理値センサーの出力が特定の値あるいは間隔の時。たとえば熱分析装置の一種である熱機械的分析装置では、物理値センサーで捕らえられる値は試料長さまたは伸張・収縮率であり、電磁波データ取得トリガ設定手段においてトリガは、“500μm、750μm、800μmから1500μmの範囲を100μm間隔“または”90%、100%、130%、150%から200%の範囲を10%間隔“等と入力される。また、他の熱分析装置の一種である示差走査型熱量計では、物理値センサーで捉えられる値は試料に出入りする熱量と基準物質に出入りする熱量の差であり、電磁波データ取得トリガ設定手段においてトリガは、”100μW、150μW、300μWから800μWの範囲を50μW間隔“等と入力され、複数のトリガを設定できる。
(d)物理値センサー出力の微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時。たとえば熱機械的分析装置では、微分の単位はμm/sであり、電磁波データ取得トリガ設定手段において微分の範囲と一定期間は、“±0.02μm/s以内に1min以上”等と入力される。示差走査型熱量計では、微分の単位はμW/sであり、電磁波データ取得トリガ設定手段において微分の範囲は、“±0.02μW/s以内に1min以上”等と入力される。
【0012】
さらに上記手段に加え、トリガが発生したときに保存した電磁波データとトリガが発生した熱分析データ上の位置を関連付ける電磁波データ関連付け手段と、熱分析データ保存手段に保存された熱分析データをCRT等上へグラフ等の形で表示する熱分析データ表示手段と、熱分析データ表示手段に表示された熱分析データグラフ等の任意位置を指定する熱分析データ位置指定手段と、電磁波データ保存手段上に保存された電磁波データのうち、熱分析データ位置指定手段で指定された位置と電磁波データ関連付け手段の関連付けから、指定された熱分析データグラフ等の位置近傍の電磁波データを特定する電磁波データ特定手段と、特定した電磁波データを試料画像や周波数スペクトル等として、熱分析データグラフ等の近傍に合成出力する電磁波データ合成出力手段を備えることもできる。
【0013】
この時、電磁波データ関連付け手段においては、電磁波データを保存したときの時間あるいは試料温度等を熱分析データへの関連づけのためのキーとして記憶するとともに、それに対応する電磁波データを特定するために、電磁波データ保存手段での記憶単位識別子、たとえばファイルシステムであればファイル名、データベースであればレコードの主キーを記憶する。
【0014】
またこの時、熱分析データ位置指定手段は、CRT等に表示された熱分析データの位置を指定するマウスやキーボード等のユーザインターフェースと、そのユーザインターフェースからの入力を熱分析データ上の試料温度や時間に変換する手段とから構成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0016】
試料の電磁波データを取得する熱分析装置に、電磁波データ取得トリガ設定手段と電磁波データ取得制御手段を備えることにより、熱分析の測定時間の全域で電磁波データを保存することなく、着目したい電磁波データ変化を捉えることができる。
【0017】
また、電磁波データが可視光の試料画像または赤外光など可視光以外の試料画像であると、熱分析の測定時間の全域で試料画像を保存することなく、着目したい試料画像の変化を捉えることができる。
【0018】
また、電磁波データがスペクトルであると、熱分析の測定時間の全域でスペクトルを保存することなく、着目したい試料スペクトルの変化を捉えることができる。
【0019】
さらに、電磁波データ取得トリガ設定手段に設定するトリガが、分析開始から複数の特定の時間あるいは時間間隔毎である場合は、電磁波データの変化が試料温度や物理値の変化に結びつかない試料や、あるいは試料からの電磁波の変化と試料温度や物理値の変化が未確認の試料においても、熱分析の測定時間の全域で電磁波データを保存することなく、電磁波データ変化を捉えることができる。
【0020】
また、電磁波データ取得トリガ設定手段に設定するトリガが、試料温度が特定の温度を示したときまたは温度間隔である場合は、電磁波データの変化が特定の温度で起こる試料において、熱分析の測定時間の全域で電磁波データを保存することなく、着目したい電磁波データ変化を捉えることができる。
【0021】
また、電磁波データ取得トリガ設定手段に設定するトリガが、物理値センサーの信号が特定の値または間隔である場合は、電磁波データの変化が特定の試料の物理値で起こる試料において、熱分析の測定時間の全域で電磁波データを保存することなく、着目したい電磁波データ変化を捉えることができる。
【0022】
また、電磁波データ取得トリガ設定手段に設定するトリガが、物理値センサーの信号の微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時である場合、電磁波データの変化が試料の物理値の変化で起こる試料において、熱分析の測定時間の全域で電磁波データを保存することなく、着目したい電磁波データ変化を捉えることができる。この場合、特定の物理値を確定しなくても、電磁波データ取得がなされるので、複数の電磁波データの変化が試料の物理値の変化で起こる場合や未知の変化箇所がある場合でも、一つのトリガで電磁波データ取得ができる。
【0023】
さらに、電磁波データ関連付け手段と熱分析データ表示手段と熱分析データ位置指定手段と電磁波データ特定手段と電磁波データ合成出力手段を備えることにより、測定後に試料画像と熱分析データを組み合わせて報告書等を作成する場合であっても、多くの試料画像の中から着目する熱分析データ上の点に関連した試料画像を迅速に抽出し、報告書が容易に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
上記のように構成された熱分析装置において、試料からの電磁波に変化が起こりそうなトリガを設定することにより、試料からの電磁波の変化を捉える。
【0025】
特定の温度で試料からの電磁波の変化が起こる場合は、その温度の前後の温度をトリガとして設定する。
【0026】
また、熱機械的分析装置において、試料長さの変化に伴い試料からの電磁波の変化が起こる場合等は、特定の試料長さあるいは試料長さの間隔、または特定の伸張・収縮率あるいは伸張・収縮率の間隔で複数のトリガを設定する。
【0027】
また、熱機械的分析装置において、試料長さが一定の速度で膨張していく中で、その膨張速度に変化があった時に試料からの電磁波の変化が起こる場合等は、試料長さの微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時をトリガとして設定する。試料長さが一定の速度で膨張していくところでは、試料長さの微分は一定の値で安定している。その膨張速度に変化があった場所で微分の値が変動するが、再び膨張速度が安定するとともに微分は一定の値で安定する。膨張速度変化前の微分安定領域の終了と膨張速度変化後の微分安定領域の開始をトリガとして設定すれば、試料膨張速度の変化前と変化後の電磁波データ取得可能である。示差走査熱量計において、試料の融解に伴い試料からの電磁波の変化が起こる場合は、熱量差の微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時をトリガとして設定する。試料の融解前に熱量差は平衡を保っており、熱量差の微分もある範囲に安定している。融解が開始されると熱量差も試料に熱が流入する方向に変化し熱量差は増大し、熱量差の微分も変動する。融解の終了とともに熱量差は平衡状態へ戻り、熱量差の微分もある範囲に再び安定する。融解前の微分安定領域の終了と融解後の微分安定領域の開始をトリガとして設定すれば、融解前後の電磁波データ取得可能である。
【0028】
また、全く試料からの電磁波の変化が、試料温度や物理値の変化に結びつかない、または予想できない場合は適当な間隔の時間をトリガとして設定する。
【0029】
このような試料からの電磁波データの変化に対応したトリガを電磁波データ取得トリガ設定手段に設定しておくと、測定中トリガに合致する条件となっているかを電磁波データ取得制御手段にて判定し、設定されているトリガに合致する場合は、電磁波データ取得制御手段が電磁波データ取得手段に試料からの電磁波データの取得を指示し、取得した電磁波データは電磁波データ保存手段に送られ保存されることにより、電磁波データの変化を捉えられる。
【0030】
さらに、電磁波データ取得トリガ設定手段にて設定されたトリガに合致したとき、電磁波データ取得制御手段は電磁波データ取得手段に電磁波データの取得を指示するとともに、電磁波データ関連付け手段に電磁波データの取得を伝える。それを受けて電磁波データ関連付け手段は、現在の時間または温度センサーから出力されている試料温度と電磁波データ保存手段上の電磁波データを識別するファイル名等を関連付け記憶する。熱分析データを分析する際には、熱分析データ保存手段に保存された熱分析データをCRT上に表示する。熱分析データ上の特異点、たとえば示差走査熱量計で捉えられた試料の融解近傍の電磁波データを確認したい場合には、ユーザは熱分析データ位置指定手段を使って特異点を指定する。熱分析データ位置指定手段はその特異点を試料温度や時間に変換し、電磁波データ特定手段へ伝える。電磁波データ特定手段は入力された試料温度や時間と電磁波データ関連付け手段上の試料温度や時間を対比させ、もっとも近い試料温度や時間に対応づけられた電磁波データ保存手段上の電磁波データの識別子を電磁波データ合成出力手段に送る。電磁波データの識別子を受け取った電磁波データ合成出力手段は、識別子から識別される電磁波データ保存手段上の保存された電磁波データつまり、試料画像やスペクトルなどを表示することにより、熱分析データ上の特異点に対応した電磁波データが表示される。
【0031】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明による熱分析装置の構成図である。ユーザは試料4を加熱炉2内に置き、温度コントローラ8において加熱炉2の温度を制御することにより、試料4に所望の温度変化をさせる。試料4の温度は温度センサー5により捉え、温度変化に伴う物理量の変化は物理量センサー3により捉えられる。捉える物理量は熱分析手法ごとに異なり、たとえば熱機械的分析装置においては捉える物理量は試料長さであり、示差走査熱量分析においては捉える物理量は試料に出入りする熱量と基準物質に出入りする熱量との差である。また、複数の熱分析手法を同時測定する場合は、物理量センサー3は複数設け、複数の物理値を同時測定する。温度センサー5と物理量センサー3から出力される信号は、熱分析データ保存手段9にて、ユーザが指定した時間間隔またはシステムが判断する適当な時間間隔等でサンプリングを行い、試料温度と物理値の一組として系列または温度系列に並べた熱分析データとして、ファイルシステムやデータベースシステムなどに保存を行う。
【0032】
電磁波データ取得手段1は、温度変化に伴う試料が発する電磁波や試料に励起電磁波を照射することにより発生する電磁波を検出し、その電磁波を波長強度等のデータとして取得するものである。検出する電磁波は、温度の変化に伴う試料のどのような変化を捉えるかによって違う。外観的な変化を捉える場合には、可視光を試料に照射し、反射される試料からの可視光を検出して、試料画像を取得する。また、分子構造および組成の変化を捉える場合には、赤外光を試料に照射し、反射または透過される赤外光の波長と強度で表される赤外スペクトルを取得する。図2に電磁波データとして可視光の試料画像を取得する場合の電磁波データ取得手段の構成例を示す。照明21で試料23に可視光を照射し、カメラ20で試料23から反射される可視光を検出しキャプチャー装置22へ伝える。キャプチャー装置22はカメラ20からの入力を電磁波データ取得制御手段からの指示に応じて、デジタル化された試料画像データに変換し、この試料画像データを電磁波データ保存手段へ出力する。
【0033】
電磁波データ取得トリガ設定手段7は、電磁波データの捕捉のタイミングや、熱分析データ上のある点での電磁波データの確認を行うタイミングをユーザに設定させるものである。ここで入力されるトリガは熱分析データの値がある条件に合致したときに電磁波データを取得することを表し、電磁波データの変化を予期させる熱分析データの変化の条件を使用する。
【0034】
電磁波データと試料温度との関係を調べたり、特定の温度で電磁波データの変化が起こることがわかっている場合には、トリガとして試料温度を使用する。その場合、“100℃、150℃、257℃で取得”といったような特定の温度の羅列で指定したり、“100℃から250℃の範囲を5℃おきに取得”といった間隔を指定できる。
【0035】
電磁波データと物理量センサー3で得られる物理量との関係を調べたり、特定の物理量で電磁波データの変化が起こることがわかっている場合には、トリガとして物理量を使用する。たとえば、熱機械的分析において伸張率150%にその試料の降伏点があり、降伏点前は粗く、降伏点以降は細かく試料形状を確認するために試料画像を取得する場合には、“140%以下を25%間隔で取得、140%超える場合は5%間隔で取得”といった設定を入力する。
【0036】
電磁波データの変化が物理量の温度または時間あたりの変化量の変化との関係を調べたり、電磁波データの変化と物理量の温度または時間あたりの変化量の変化に関連があることがわかっている場合には、トリガとして物理量の微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時を使用する。たとえば、図3は熱機械的分析における、高分子が昇温過程でガラス状態からゴム状態へ変化するガラス転移点の前後の熱分析データと図示したものであり、ガラス転移前後では何らかの電磁波データの変化が現れると考えられる。図3中、試料温度D3のように昇温したとき、熱機械的分析での物理量センサーからの出力である試料長さD2の変化量がガラス転移点P3の前後で変化する。この時、試料長さD2の微分D1はステップ状に変化する。微分D1のある区間での平均を中心として、微分範囲L1内に一定期間A2以上微分D1が収まっている場合、ガラス転移前微分安定領域A1とガラス転移後微分安定領域A3のように微分が安定している領域と判断する。そして、トリガとして、微分が安定した領域開始時または終了時が指定されている場合、ガラス転移前微分安定領域終了点P1とガラス転移後微分安定領域開始点P4に対応し、一定期間A2分遅れたP2とP5にて電磁波データが取得される。このP1とP2、P4とP5のずれは微分安定しているまたは安定していないの判定に一定期間A2が必要なために生じるものである。熱機械的分析において、トリガとして試料長さの微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時を使用する場合は、“±0.02μm/s以内に1min以上の開始点と終了点”といったような設定を電磁波データ取得トリガ設定手段7にて行う。図4は示差走査熱量分析における高分子が昇温過程で固相から液相へ変化する融解の前後の熱分析データと図示したものであり、融解の前後では何らかの電磁波データの変化が表れると考えられる。特に試料画像の変化、たとえば粒状の固体が液状になるような変化が捉えられる。図4中、試料温度D22のように昇温したとき、示差走査熱量分析での物理量センサーからの出力である熱量差D23は融解領域A23の間、試料へ熱が流入する吸熱ピークが出現する。この時、熱量差D23の微分D21は安定領域から減少に転じた後増加し再び安定領域に入る。微分D21のある区間での平均を中心として、微分範囲L21内に一定期間A22以上微分D21が収まっている場合、融解前微分安定領域A21と融解後微分安定領域A24のように微分が安定している領域と判断する。そして、トリガとして、微分が安定した領域開始時または終了時が指定されている場合、融解前微分安定領域終了点P21と融解後微分安定領域開始点P23に対応し、一定期間A22分遅れたP22とP24にて電磁波データが取得される。示差走査熱量分析において、トリガとして熱量差の微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時を使用する場合は、“±0.02μW/s以内に1min以上の開始点と終了点”といったような設定を電磁波データ取得トリガ設定手段7にて行う。
【0037】
電磁波データと試料温度や物理量または物理量の微分の関係がまったくわからない場合にはトリガとして時間を使用する。その場合、“測定開始後10分、測定開始後12分に取得”といったような特定の時間の羅列で指定したり、“測定開始から5分間隔おきに取得”といった間隔を指定できる。
【0038】
電磁波データ取得制御手段6は、測定中温度センサー5と物理量センサー3の出力と電磁波データ取得トリガ設定手段7で設定されたトリガを比較し、現在トリガで設定された条件に合致するかを判定する。合致する場合は電磁波データ取得制御手段6が電磁波データ取得手段1に試電磁波データの取得を指示するとともに、電磁波データ関連付け手段10に電磁波データの取得とその際の試料温度と測定開始からの時間を送る。
【0039】
電磁波データ保存手段11は電磁波データ取得手段1から送られた電磁波データを取得毎に保存する。保存先がファイルシステムの場合には、取得毎に一つのファイルに電磁波データを保存し、保存先がデータベースシステムの場合には、取得毎に一つのレコードに電磁波データを保存する。通常、一回の熱分析測定中に複数、しかも数十個にも上る電磁波データを保存することがあるため、同一の熱分析測定中の電磁波データであることを示す約束を設けることができる。たとえば保存先がファイルシステムの場合に下記のような約束を設けることができる。
(a)電磁波データのファイル名として熱分析データ保存手段9上に保存する熱分析データのファイルにその熱分析測定での電磁波データの取得回数を付加したものを使用する。
(b)電磁波データの保存先のディレクトリ名として熱分析データ保存手段9上に保存する熱分析データのファイル名を使用する。
【0040】
電磁波データ関連付け手段10は、電磁波データ取得制御手段6から送られてきた電磁波データ取得の際の試料温度および測定開始からの時間と、電磁波データ保存手段11での記憶単位識別子とを一組として後に熱分析データ上の試料温度または時間から電磁波データが関連付けできるように関連付けデータを作成し記憶する。記憶単位識別子は電磁波データの保存先がファイルシステムであればファイル名、データベースであればレコードの主キーである。たとえば、ファイルシステムの場合電磁波データ関連付け手段10での関連付けデータは、“100℃ 10min 電磁波データファイル名”等といった形で作成される。さらにこれら関連付けデータは、熱分析データからたどれるように下記のような場所で記憶する。
(a)熱分析データ保存手段9へ関連付けデータを送り、熱分析データの一部とし記憶する。
(b)関連付けデータの保存に熱分析データからたどれるような約束をつけ保存する。たとえば、関連付けデータの保存先としてある決まったディレクトリー下に、熱分析データのファイルの名前を持ったディレクトリーを作成し、そこに関連付けデータを保存する。
【0041】
熱分析データ表示手段12は、熱分析データ保存手段9に保存された熱分析データをCRT等の表示デバイスに横軸に試料温度または時間、縦軸に物理量の2次元グラフの形で表示する。
【0042】
熱分析データ位置指定手段13は、熱分析データ表示手段12に表示された熱分析データ上を指定するマウスやキーボード等のユーザインターフェースを備え、そのユーザインターフェースから入力された位置情報を熱分析データ上の試料温度や時間に変換し、電磁波データ特定手段14へ試料温度や時間を送る。指定する位置は複数箇所を指定することができる。
【0043】
電磁波データ特定手段14は、熱分析データ位置指定手段13で複数の指定された試料温度や時間と、表示された熱分析データから特定される複数の電磁波データ関連付け手段10で記憶された関連付けデータ上の温度や時間を対比させ、指定された試料温度や時間に近い関連付けデータが指し示す電磁波データ保存手段上11の電磁波データの識別子を特定する。たとえば、図5の熱分析データにおいて、P31とP32の2点で電磁波データが取得されていた場合、A31の範囲を熱分析データ位置指定手段13にて指定した場合、P31で取得した電磁波データを特定し、A32の範囲を熱分析データ位置指定手段13にて指定した場合、P32で取得した電磁波データを特定する。
【0044】
電磁波データ合成出力手段15は、電磁波データ特定手段14で特定された複数の電磁波データと熱分析データを合成してCRTやプリンタ等の表示デバイスや出力デバイスに表示するものでたとえば、下記のような形式で出力する。
(a)図6に例を挙げるように、熱分析データ中に電磁波データを取得した熱分析データの位置(P41とP42)の近傍に電磁波データ(D41とD42)に合成出力する。
(b)図7に例を挙げるように、熱分析データ外に電磁波データ(D51とD52)を配置し、電磁波データを取得した熱分析データの位置(P51とP52)の近傍に電磁波データとの関連を示す吹き出し(I51とI52)に合成出力する。
【0045】
次に前述した電磁波データ取得トリガ設定手段7にて、トリガに物理量の微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時を使用したときに、図3中のP1とP2、P4とP5のずれが起こるように、実際の微分安定領域の終了点と電磁波データ取得点がずれることを改良する工夫について説明する。
【0046】
このずれの対策のために、先ずある一定周期で電磁波データを取得し、取得した電磁波データを次々と一時的なバッファに保存する。微分の安定した領域の開始点と終了点は、一定期間後に判明するため、その期間分以上の電磁波データはとりあえずバッファに保存しておき、判明後にバッファから必要な電磁波データを取り出し、取り出されなかった電磁波データは一定期間後に削除するようにする。
【0047】
たとえばこのバッファを電磁波データ保存手段11に設けた場合について説明する。
【0048】
バッファを電磁波データ保存手段11に設けるためには、電磁波データ取得制御手段6に工夫を加えた電磁波データ取得制御手段31に変える。このときの構成を図8に示す。電磁波データ取得制御手段31が電磁波データ保存手段11と接続されたことを除けば、電磁波データ取得トリガ設定手段7と電磁波データ関連付け手段10と電磁波データ保存手段11の機能やそれ以外の機能や接続関係は変わらない。
【0049】
電磁波データ取得制御手段31は常に一定周期で電磁波データ取得手段1に電磁波データの取得を指示する。したがって、電磁波データ保存手段11には次々と電磁波データが保存されていく。そのために、電磁波データが保存されてから一定期間以上経過後、電磁波データ取得トリガ設定手段7で設定されたトリガに対応しない電磁波データを電磁波データ取得制御手段31は削除することとした。また、トリガに物理量の微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時を使用したときに、微分の安定した領域の開始点、終了点を時間的にさかのぼり、安定からはずれ始める場所または安定に入り始める場所をトリガに合致する点とするようにした。
【0050】
図9を使い、熱機械的分析でのガラス転移点前後での電磁波データ取得制御手段31の動きを説明する。電磁波データ取得制御手段31は図3中、一定周期A55のように常に
電磁波データ取得手段1に電磁波データの取得を指示している。微分範囲L51外に一定期間A52以上微分D52が外れた点P52を電磁波データ取得制御手段31が検出したとき、微分範囲L51から外れ始めた点P51までさかのぼり、そこをガラス転移前微分安定領域終了点P56とする。また、微分範囲L51外に一定期間A52以上微分D52が収まっている点P55を電磁波データ取得制御手段31が検出したとき、微分範囲L51に収まり始めた点P54までさかのぼり、そこをガラス転移後微分安定領域終了点P57とする。そして、現在から一定期間A52以上経過し、トリガに認定されていない一定周期A55で取得された電磁波データを削除する。電磁波データ関連付け手段10には、ガラス転移前微分安定領域終了点P56とガラス転移後微分安定領域終了点P57のようなトリガに合致する点を検出した時点で必要な情報を送る。
【0051】
このようにするとガラス転移前微分安定領域終了点P56とガラス転移後微分安定領域終了点P57において電磁波データが取得され、図3中のP1とP2、P4とP5のようなずれはなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の構成図
【図2】試料画像を取得する電磁波データ取得手段の構成図
【図3】熱機械的分析における物理値の微分トリガー説明図
【図4】示差走査熱量分析における物理値の微分トリガー説明図
【図5】熱分析データ位置指定と特定される電磁波データ説明図
【図6】電磁波データ合成出力例その1説明図
【図7】電磁波データ合成出力例その2説明図
【図8】本発明の別の電磁波データ取得制御手段を用いた場合の構成図の一部
【図9】図8の構成における熱機械的分析での物理値の微分トリガー説明図
【符号の説明】
【0053】
1 電磁波データ取得手段
2 加熱炉
3 物理量センサー
4 試料
5 温度センサー
6 電磁波データ取得制御手段
7 電磁波データ取得トリガ設定手段
8 温度コントローラ
9 熱分析データ保存手段
10 電磁波データ関連付け手段
11 電磁波データ保存手段
12 熱分析データ表示手段
13 熱分析データ位置指定手段
14 電磁波データ特定手段
15 電磁波データ合成出力手段
31 電磁波データ取得制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を加熱する加熱炉と、
前記加熱炉の温度を制御する温度コントローラと、
前記試料の温度を検出する温度センサーと、
温度変化に伴って変化する前記試料の物理量を検出する物理量センサーと、
前記温度センサーと前記物理量センサーからの信号を熱分析データとして保存する熱分析データ保存手段と、
前記試料からの電磁波を検出しデータ化した電磁波データを取得する電磁波データ取得手段と、
前記電磁波データを取得するトリガを設定する電磁波データ取得トリガ設定手段と、
前記電磁波データ取得トリガ設定手段での設定に従い前記電磁波データの取得を制御する電磁波データ取得制御手段と、
前記電磁波データを保存する電磁波データ保存手段とからなる熱分析装置。
【請求項2】
前記電磁波データ取得手段にて取得する前記電磁波データが可視光の試料画像、または赤外光など可視光以外の試料画像である請求項1記載の熱分析装置。
【請求項3】
前記電磁波データ取得手段にて取得する前記電磁波データがスペクトルである請求項1記載の熱分析装置。
【請求項4】
前記トリガが分析開始から複数の特定の時間あるいは時間間隔毎である請求項1から3のいずれかに記載の熱分析装置。
【請求項5】
前記トリガが前記温度センサーの出力である試料温度が複数の特定の温度あるいは温度間隔である請求項1から3のいずれかに記載の熱分析装置。
【請求項6】
前記トリガが前記物理値センサーの信号が複数の特定の値あるいは間隔である請求項1から3のいずれかに記載の熱分析装置。
【請求項7】
前記トリガが前記物理値センサーの信号の微分が一定期間以上ある範囲に安定した領域の開始時または終了時である請求項1から3のいずれかに記載の熱分析装置。
【請求項8】
前記トリガが発生したときに保存した前記電磁波データと前記トリガが発生した前記熱分析データ上の位置を関連付ける電磁波データ関連付け手段と、
前記熱分析データ保存手段に保存された前記熱分析データを表示する熱分析データ表示手段と、
前記熱分析データ表示手段に表示された前記熱分析データ上の任意位置を指定する熱分析データ位置指定手段と、
前記電磁波データ保存手段上に保存された前記電磁波データのうち、前記熱分析データ位置指定手段で指定された位置と前記電磁波データ関連付け手段の関連付けから、指定された前記熱分析データ上の位置近傍の前記電磁波データを特定する電磁波データ特定手段と、
特定した前記電磁波データを前記熱分析データ表示手段中に合成出力する電磁波データ合成出力手段と備えた請求項1から7のいずれかに記載の熱分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−71541(P2006−71541A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257133(P2004−257133)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】