説明

熱分析装置

【課題】熱分析装置において、測定試料の観察窓を設けた場合は、該観察窓部からの熱の出入りによる影響により、測定精度に対して影響を受ける。
【解決手段】観察窓11aを透明部材による積層構造とし、更に該積層間に間隙層を設けて熱の出入りをしにくくする。また、この間隙層に断熱性の高い気体や固体を採用し、該観察窓11aの断熱性を更に向上させる。熱分析装置における測定試料の加熱等による変化を目視で観察しつつ、より精度の高い熱的な変化あるいは物理的な変化を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化に伴って変化する、試料の熱物性の測定と、試料像を撮像および表示することができる熱分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分析装置の中で、示差走査熱量計は、加熱炉内に収容された試料及び基準物質の温度を一定速度プログラムに従って変化させ、両者の温度差を検出し熱流差として測定する熱分析装置である。このような示差走査熱量計に、加熱炉内の試料像を撮像する手段を組み合わせ、測定中の試料の熱量変化と合わせて試料状態の変化を撮像した画像データとして記録し、試料物質の変化をより詳細に解析できるようにしたものが知られている。(特許文献1)
特許文献1は、通常は透明でない金属材料等で構成される加熱炉上部の蓋部に、新たに石英ガラス製の透明な一層の観察窓を設け、さらに加熱炉内の試料の像を撮像する撮像手段を組合せ、昇降温中の試料の状態をDSC曲線とともに画像データとして記録できるようにしている。これにより、DSC曲線からのみでは判断のつきにくい試料の状態変化を、より正確に知ることができる。
【0003】
また同様の撮像手段を備えた示差走査熱量計において、加熱炉の蓋に加えて、加熱炉の周囲を覆う加熱炉カバー上部にも透明観察窓を設け、更に各透明観察窓にパージガスを供給することで、低温域での観察窓への結露や霜着きを抑える様にしたものがある(特許文献2)。
【0004】
また基準物質及び試料を収容するための試料筒と、その外筒の側壁を透明材料で構成し、試料筒内の状態を可視可能にした示差熱分析装置が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−327573号公報
【特許文献2】特開2001−183319号公報
【特許文献3】特開2001−33410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本来の熱分析装置における加熱炉蓋部としては熱伝導率が高く均一な温度状態となるものが好ましいところ、特許文献1に記載の熱分析装置においては、試料観察用の加熱炉上部の蓋に設けた透明観察窓が石英ガラスであるため、熱伝導性が悪く、該窓部分において加熱炉外の環境における外乱の影響を受け温度分布が生じやすくなっている。さらにその透明観察窓は一層で構成されているため、観察窓に生じた前述の温度分布は容易に加熱炉内に伝わり、加熱炉内や加熱炉内の気体の温度分布にも外乱の影響が現れやすい。一方、加熱炉内に設置された示差熱流検出部は、試料および参照物質の間の微小な温度差を検出できるよう高感度に構成されており、そのため固体熱伝導や気体熱伝導もしくは輻射等を介して、鋭敏に加熱炉蓋や加熱炉内部もしくは加熱炉内気体の温度に現れた外乱の影響を、信号として検出してしまう。このため前記の一層の透明観察窓に、環境温度の外乱により生じた温度分布は、結果としてDSC曲線に歪みや揺らぎ等を生じさせる。これにより安定した精度の良いDSC曲線が得られにくいという課題があった。
【0007】
特許文献2に記載の技術の場合は、加熱炉蓋に加えて、加熱炉を覆う加熱炉カバーの上部に透明観察窓が設けられており、透明窓は二層に存在するが、熱分析測定のための精密な温度制御が行われ安定な温度分布を保つべき加熱炉部分の上部に設置された加熱炉蓋の観察窓は一層で形成されており、特許文献1と同様の課題が存在する。
【0008】
特許文献3においての、試料筒の側壁に形成された透明材料部分についても一層で形成されており同様である。
【0009】
本発明は上記のように、加熱炉蓋部等の測定試料の収容部に設けた透明観察窓の熱伝導に係わる課題を解決するためになされたものであり、加熱炉内の試料状態を観察するための透明観察窓および撮像手段を備えながら、同時に歪みや揺らぎの少ない、良好な熱分析データを取得可能な熱分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の熱分析装置は、測定試料を収納する収納部を有する加熱炉と、前記加熱炉内に試料を載置した状態で、前記加熱炉の温度を昇降温させたときに試料に生じる熱的変化を測定する検出部と、前記加熱炉内に載置した試料像を撮像する試料撮像手段と、前記熱量変化を記録した熱分析データを収集する熱分析データ収集手段と、前記熱分析と同時に試料像を撮像した画像データを収集する画像データ収集手段と、前記熱分析データ収集手段及び画像データ収集手段において収集した各データを試料の熱物性解析のための情報として記録または表示する熱物性解析表示手段と、から成る熱分析装置において、前記測定試料が確認可能な範囲の前記収納部の壁部のうち少なくとも一部を透明体で形成し、該透明体が少なくとも二重以上の積層構造であって、該積層間が断熱層であることによって特徴づけられる。よって、熱分析装置全般に係わるものである。
【0011】
前記収納部の少なくとも一部に形成された透明観察窓には、例えば石英ガラスや硼珪酸ガラスなどのように耐熱性と硬質性を有した透明材料を用いることができる。ここで透明材料によって形成される観察窓は、少なくとも二重以上の構造となっているため、装置内であって加熱炉の外側の気体温度による温度外乱は、直接には主として透明観察窓を構成する透明体の加熱炉外側層が受けることとなる。さらに各透明体の間に設けられた断熱層は、前述の加熱炉外側層の透明体に生じた温度分布の影響を、加熱炉内側層の透明体へ伝わりにくくする効果を有し、これにより加熱炉内や加熱炉内の気体の温度分布への外乱の影響は小さく抑えられる。結果として、加熱炉内には外乱の影響の少ない安定な温度分布が保たれることになり、前記加熱炉内に設置された熱的変化の検出部は外乱の影響を信号として検出することなく、安定した精度の良い熱的変化の検出及びその際の試料状態の撮像が可能になる。
【0012】
なお、前記透明体及び断熱層は、使用する熱分析装置の都合に合せて、本発明の効果が得られる範囲であれば、その面積や部材の厚さ、層間距離などを適宜設計すればよい。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明においては、試料状態を撮像可能にするため加熱炉蓋の一部に設けられた透明観察窓が、二重以上の構造となっており、各透明体の間には断熱効果のある層を設けてあるため、加熱炉外部の外乱温度の影響が加熱炉内温度に対する不安定要素になりにくくする。その結果、加熱炉内に設置した熱的変化の検出部における前記外乱温度による影響を回避し、純粋なる試料の熱的変化の計測を行う環境を形成する。その結果、歪みや揺らぎの少ない安定した精度のよい熱分析データを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における加熱炉蓋の構成図である。
【図3】従来におけるDSC曲線例を示す図である。
【図4】本発明の一実施例装置によるDSC曲線例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、本実施の形態において、説明が重複するものは、再度の説明を省略する場合がある。
【実施例】
【0016】
図1に本発明の熱分析装置の一例として、示差走査熱量計(DSC)の構成を示す。示差走査熱量計は加熱炉1を有し、その周囲には該加熱炉1を加熱するためのヒーター線1aが巻きつけられている。ここで図示しないが前記加熱炉1周囲には該ヒーター線1aが露出しないようカバーが装着されている。前記加熱炉1の内部には、それぞれ測定試料および参照試料を収容するための試料ホルダー2および参照試料ホルダー3が配置されており、各ホルダーには熱電対が接続されホルダー相互の温度差を検出するように示差熱流検出部4を構成している。示差熱流検出部4から引き出された熱電対線7は測定回路に接続され、検出された信号は増幅されたのちDSC曲線として記録される。
【0017】
前記加熱炉1の上部には加熱炉蓋5が着脱可能に設置されており、該加熱炉蓋5は試料観察のための透明観察窓6を有している。前記加熱炉5の周囲には、該加熱炉5全体を覆うように加熱炉カバー10が設置され、上部の加熱炉カバー蓋11も透明観察窓11aを有する。これにより示差走査熱量計の上方から加熱炉内に設置された試料の状態が観察可能となっている。
【0018】
図2に前記加熱炉蓋5の構造図を示す。該加熱炉蓋5は熱伝導の良い材質、例えばアルミニウムで形成され、中央の一部分には貫通穴を有し、該貫通穴に石英ガラスなどの透明体を観察窓として嵌め込むことで、透明観察窓部6を構成する。該透明観察窓部6は二枚の透明体(透明体Aおよび透明体B)で構成され、各透明体の間にはスペーサ5aを挟み、積層間に間隙層を設けて窓押さえ部材5bで前記加熱炉蓋5に取り付けられている。前記間隙層には気体層とし、気体熱伝導が通常固体熱伝導に比べて小さいことから、前記透明観察窓部6は、一層で形成された場合に比して熱を伝えにくく断熱性を持つ断熱層となる。
【0019】
ここで、前記間隙層は、試料観察が可能な様に透明であり、外乱の影響を遮断するための断熱性を付与できる性質を有するものであれば、気体以外のものであっても良い。例えば真空や、石英ガラス等より更に小さな熱伝導率をもつ固体もしくは液体材料で形成してもよい。
【0020】
また、上記の構成に加えて、加熱炉蓋5および加熱炉カバー蓋11に設けられた透明観察窓6の上方に、加熱炉5内に設置された試料の像を撮像するためのカメラ8と、撮像に必要な明るさを確保するための照明9が配置されているとともに、そのカメラからの画像信号を、画像データとして表示し保存できるためのデータ処理手段を備えている。
【0021】
図3及び図4には、上記の構成における熱的変化としての示差熱の検出結果を示す。図3は、透明観察窓が一層の場合のDSC曲線の測定例を示した図である。図4は、透明観察窓6が二層の場合のDSC曲線の測定例を示した図である。それぞれ縦軸を熱流差、横軸を温度とし一定速度で昇温した場合の例を表示している。なお、各軸のスケールは同一である。
【0022】
図3に示す透明観察窓が一層の場合、DSC曲線は高温になるにしたがって湾曲し、また揺らぎを生じる。一方、図4に示す本発明の構成である透明観察窓を二重の構造とし各透明体の間に気体による断熱層を設けた場合、湾曲や揺らぎは低減される。この結果より、示差走査熱量分析装置の蓋部5に設ける観察窓部6を、本発明に係わる構成とすることにより、当該装置の内部に備えた示差熱流検出部が受ける熱的な外乱の影響は、明らかに小さくなり、安定した結果を得ることができた。
【0023】
なお、上記の実施例では、一例として示差走査熱量分析装置の場合について説明をしたが、本発明の趣旨である熱的な外乱の影響を回避した熱分析装置としては、参照試料が不要な熱機械分析(TMA)、動的粘弾性分析(DMA)、あるいは参照試料を必要とする熱重量分析(TG)、示差熱分析(DTA)等も適応可能である。
【符号の説明】
【0024】
1・・・加熱炉
1a・・・ヒーター線
2・・・試料ホルダー
3・・・基準物質ホルダー
4・・・示差熱流検出部
5・・・加熱炉蓋
5a・・・スペーサ
5b・・・窓押さえ部材
6・・・透明観察窓部
6a・・・透明体A
6b・・・透明体B
7・・・熱電対線
8・・・カメラ
9・・・照明
10・・・加熱炉カバー
11・・・加熱炉カバー蓋
11a・・・加熱炉カバー蓋透明観察窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料を収納する収納部を有する加熱炉と、
前記加熱炉内に試料を載置した状態で、前記加熱炉の温度を昇降温させたときに測定試料に生じる物理量を測定する検出部と、
前記加熱炉内に載置した試料像を撮像する試料撮像手段と、
前記熱量変化を記録した熱分析データを収集する熱分析データ収集手段と、
前記熱分析と同時に試料像を撮像した画像データを収集する画像データ収集手段と、
前記熱分析データ収集手段及び画像データ収集手段において収集した各データを試料の熱物性解析のための情報として記録または表示する熱物性解析表示手段と、から成る熱分析装置において、
前記測定試料が確認可能な範囲の前記収納部の壁部のうち少なくとも一部を透明体で形成し、該透明体が少なくとも二重以上の積層構造であって、該積層間が断熱層であることを特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
前記断熱層が気体である請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項3】
前記加熱炉内に、更に参照試料を収容する第二の収容部を設けた請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項4】
前記検出部が前記測定試料の長さ変化量を検出するものである請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項5】
前記検出部が前記測定試料と前記参照試料との示差熱流を検出するものである請求項3に記載の熱分析装置。
【請求項6】
前記検出部が雰囲気温度の変化に伴う前記測定試料と前記参照試料との相対的な重量変化を検出するものである請求項3に記載の熱分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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