説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム

【課題】高透明かつ玉虫色の金属光沢性を有するとともに、PETボトルなどの容器に貼り付け可能な熱収縮性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供する。
【解決手段】エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)からなる平均厚み0.05〜3.5μmの第1の層と、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)からなる厚み0.005〜1.0μmの第2の層とを交互に31層以上1001層以下の範囲で積層してなるフィルムであり、全フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が80%以上86%以下で、かつ第1の層の各層厚みが厚み方向に連続的に変化しており、該フィルムのヘーズが0.1〜10%で、波長400〜800nmの範囲の反射率曲線において反射率25%以上の反射ピークを少なくとも一つ有し、80℃の温水中に10秒間放置したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向のいずれか一方において30%以上、該方向と直交方向において絶対値で0%以上10%未満である熱収縮性ポリエステル系フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の波長の光を反射する意匠性に富んだ熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくは、高透明で、かつ特定の波長の光を反射して玉虫色の金属光沢性も兼ね備える意匠性に富むと同時に、PETボトルなどの容器や電線の外面に貼り付け可能な熱収縮性を有し、シュリンクラベルや電線被覆等に用いられる熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料容器の包装、例えば、金属缶のラミネートフィルムや、PETボトルの外面に貼り付け可能なシュリンクフィルムとして種々のポリエステルフィルムが用いられている。また包装用袋などにおいては、より高品質な意匠性を付与するため印刷品位に優れたグラビアなどによる印刷を施したフィルムを熱融着により貼り合せたフィルムを包装用の袋などとして使用する方法などが提案されている。
最近シュリンクラベルに対しても、従来の熱収縮率性、ハンドリング性、耐薬品性などの改良だけでなく、ますます美麗なものが求められつつある。
【0003】
シュリンクラベル用フィルムとして、ポリエステル系からなるフィルムが種々検討されてきており、例えば特許文献1には熱風型の収縮トンネルでの収縮ムラの発生を抑制するために、ナフタレンジカルボン酸残基を含有する熱収縮性ポリエステル系フィルムが開示されている。また、特許文献2においてラベル化した際のミシン目カット性、接着部の強度、耐衝撃性、ボトル装着時の意匠性の全てに優れる熱収縮性ポリエステル系フィルムとして多層積層の熱収縮性ポリエステルフィルムが提案されており、ブレンド比の異なるポリエステルをそれぞれの層に用いることが開示されている。一方、特許文献2で検討されている意匠性とは角型のボトルに装着した際に縦引けによって意匠性が損なわれないことであり、熱収縮性に起因した表面外観性についてであって、透明性や金属光沢性といった美麗な意匠性については検討されていない。
【0004】
一方、光沢性を有するフィルムとして、光干渉性に着目したポリエステル系多層フィルムが検討されてきており、例えば特許文献3にはポリエチレンナフタレート層と共重合ポリエチレンナフタレート層などの他層とを交互に積層し、これらの層間の構造的な光干渉によって特定の波長を選択的に反射する多層積層フィルムが開示されている。しかしながら特許文献3は、反射偏光子またはミラーに適した偏光および反射特性の向上を目的とするものであり、意匠性に着目したものではないため、高透明性かつ金属光沢性をも兼備するフィルムについては検討されておらず、またシュリンクラベルとしての熱収縮特性について何ら検討されていない。
【0005】
また特許文献4には任意の波長帯の光を選択的に反射させる目的でポリエチレン−2,6−ナフタレート層とポリエチレン−2,6−ナフタレートよりも屈折率が低い熱可塑性樹脂からなる層が交互に少なくとも11層積層された多層積層フィルムが開示されており、それぞれの層の厚みに勾配をつけて厚みの最大値と最小値の比を制御することにより、任意の波長帯の光を選択的にかつ広範囲に反射することが提案されているものの、特許文献4の構成では透明性が十分ではなく、また熱収縮性について何ら検討されていない。
【0006】
このように、シュリンクラベルに対して従来から求められている熱収縮性、ハンドリング性等を有する現状の熱収縮性ポリエステルフィルムは、フィルム自体がまだ十分な意匠性は満足しておらず、シュリンクラベルとしての熱収縮性、ハンドリング性に加え、さらにフィルム自体が透明光沢な意匠性を有している熱収縮性ポリエステルフィルムが求められているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平9−174684号公報
【特許文献2】特開2007−152943号公報
【特許文献3】特表平9−506837号公報
【特許文献4】特開2002−160339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、高透明かつ特定の波長の光を反射する玉虫色の金属光沢性の意匠性に富むことにより、フィルムに施される絵柄印刷の視認性に優れ、かつ玉虫色の金属光沢性を付与するとともに、PETボトルなどの容器に貼り付け可能な熱収縮性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、屈折率の異なる樹脂を交互に多層積層し、またそれら両樹脂の各層厚みが一定の厚みの範囲内であることによって玉虫色の金属光沢性が発現する一方で、PETボトルのシュリンクラベルを収縮させる80℃近傍での熱収縮性を高めるためには、該加工温度に近いガラス転移温度を有する樹脂を一定量以上含む必要があり、単に交互積層構成にするだけでは難しいことを鑑み、加工温度に近いガラス転移温度を有する樹脂を多量に含む組成のフィルムであっても熱収縮性および玉虫色の金属光沢性を有し、しかも高透明性も有するためには、両層を構成する樹脂の種類および割合と、多量に含有する樹脂の各層の厚みが厚み方向に連続的に変化していることが関係していることを見出し本発明を完成するに至った。
【0010】
具体的には、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、第1の層の各層の厚みが厚み方向に連続的に変化しており、かつ、第1の層と第2の層が一定の厚みの範囲内になるため可視光域に反射ピークが出現し、可視光での反射色が発現するとともに、第1の層を構成する樹脂の割合がある一定量を超えない範囲であれば、表面近くの層構成の乱れが小さいため、フィルム表面平滑性が高く、高透明性が発現するものである。
【0011】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)からなる平均厚み0.05〜3.5μmの第1の層と、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)からなる厚み0.005〜1.0μmの第2の層とを交互に31層以上1001層以下の範囲で積層してなるフィルムであり、全フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が80%以上86%以下で、かつ第1の層の各層厚みが厚み方向に連続的に変化しており、該フィルムのヘーズが0.1〜10%で、波長400〜800nmの範囲の反射率曲線において反射率25%以上の反射ピークを少なくとも一つ有し、80℃の温水中に10秒間放置したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向のいずれか一方において30%以上、該方向と直交方向において絶対値で0%以上10%未満である熱収縮性ポリエステル系フィルムによって達成される。
【0012】
また本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、その好ましい態様として、エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)が70℃を超え100℃以下の範囲であること、エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)と、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)のガラス転移温度(Tg)との差が下記式(1)を満足すること、
−55℃<(Tg−Tg)<−20℃ ・・・(1)
第1の層または第2の層の少なくともいずれか一方の層が粒子を0重量%以上0.1重量%未満の範囲で含有すること、第1の層および第2の層のみから構成されること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
【0013】
また本発明によれば本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムからなるシュリンクラベルが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高透明かつ特定の波長の光を反射する光沢性の意匠性に富むことにより、フィルムに施される絵柄印刷の視認性に優れ、かつ玉虫色の金属光沢性を付与するとともに、PETボトルなどの容器に貼り付け可能な熱収縮性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することができ、PETボトルのシュリンクラベルに好適に用いることができる他、熱収縮性および意匠性を求められる電線被覆等にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[第1の層]
本発明における第1の層は、エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)からなる。ここで「主たる」とは、ポリエステル(A)を構成する全酸成分を基準として80モル%以上100モル%以下を指す。ポリエステル(A)を構成する主たる成分の割合の下限は、好ましくは全酸成分を基準として85モル%以上である。本発明の第1の層を構成するポリエステル(A)は、エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステルであることにより、シュリンクラベルとしてシュリンク加工を施す際に十分な収縮特性を発現することができる。
第1の層を構成するポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレート単独でもよく、小割合の他の種類のポリエステル樹脂とブレンドしたもの、又は他の共重合成分を共重合したものであってもよい。ここで小割合とは、ポリエステル(A)を構成する全酸成分を基準として0モル%以上20モル%以下の割合を指し、好ましい上限は15モル%以下である。
【0016】
共重合成分のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸を例示することができる。共重合成分のジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールの如き脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらの共重合成分の中でも、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、これら共重合成分を単独で用いても2成分以上用いてもよい。イソフタル酸を共重合成分として用いる場合は第2の層を構成するポリエステルとの屈折率差が2,6−ナフタレンジカルボン酸を使用した場合よりも大きくなるため金属光沢性が強くなる利点がある。また2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として用いる場合は第2の層を構成するポリエステルと成分が近いため、製膜性、層構造の制御がしやすくなる利点がある。さらにイソフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として併用することにより双方の特徴を兼備することができる。
【0017】
小割合の他のポリエステル樹脂をブレンドする場合、ブレンド成分として、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレートを例示することができる。
【0018】
第1の層を構成するエチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)は、ガラス転移温度(Tg)が70℃を超え100℃以下の範囲であることが好ましい。ポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)の下限は、より好ましくは75℃以上であり、一方ポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)の上限は、より好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下、特に好ましくは85℃以下である。ポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)が下限に満たない場合、金属光沢性を発現するための交互積層層を構成するもう一方の層、すなわち第2の層を構成するエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)とのガラス転移温度差が大きくなりすぎ、フィルム製膜性が低下することがある。一方、ポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)が上限を超える場合、シュリンクラベルとしてシュリンク加工を施す80℃近傍で十分な収縮率特性を得られないことがある。
【0019】
第1の層を構成するポリエステル(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒、紫外線吸収剤などをごく少量含有しても良い。
【0020】
エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)は、公知の方法を適用して製造することができる。例えば、テレフタル酸、エチレングリコールおよび必要に応じて共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。
【0021】
第1の層を構成するポリエステル(A)の固有粘度は、好ましくは0.55〜0.80dl/gであり、更には0.55〜0.75dl/gの範囲であることが好ましい。第1の層を構成するポリエステル(A)の固有粘度がかかる範囲内にない場合、第2の層を構成するポリエステル(B)の固有粘度との差が大きくなることがあり、その結果交互積層構成とした場合に層構成が乱れたり、製膜はできるものの製膜性が低下することがある。
【0022】
[第2の層]
本発明における第2の層は、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)からなる。ここで「主たる」とは、ポリエステル(B)を構成する全酸成分を基準として80モル%以上100モル%以下を指す。ポリエステル(B)を構成する主たる成分の割合の下限は、好ましくは全酸成分を基準として85モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。本発明の第2の層を構成するポリエステル(B)は、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステルであることにより、第1の層との屈折率差が0.05以上であるため、後述する交互積層構造とした場合に波長400〜800nmの範囲の反射率曲線において反射率25%以上の反射ピークが出現し、金属光沢性が発現する。なお、第1の層を構成するポリエステル(A)の屈折率は1.60〜1.70の範囲であり、第2の層を構成するポリエステル(B)の屈折率は1.70〜1.80の範囲であり、かつ第2の層の屈折率が第1の層の屈折率よりも0.05以上大きいことが好ましい。
第2の層を構成するポリエステル(B)は、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート単独でもよく、小割合の他の種類のポリエステル樹脂とブレンドしたもの、又は他の共重合成分を共重合したものであってもよい。ここで小割合とは、ポリエステル(B)を構成する全酸成分を基準として0モル%以上20モル%以下の割合を指し、好ましい上限は15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
【0023】
共重合成分のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸を例示することができる。共重合成分のジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールの如き脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。これらの共重合成分の中でも、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましいが、テレフタル酸は第1の層を構成するポリエステルと成分が近いため、製膜性、層構造の制御がしやすくなる利点がある。
【0024】
小割合の他のポリエステル樹脂をブレンドする場合、ブレンド成分として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレートを例示することができる。
【0025】
第2の層を構成するエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)は、ガラス転移温度(Tg)が95℃以上125℃以下の範囲であることが好ましい。ポリエステル(B)のガラス転移温度(Tg)の下限は、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは105℃以上であり、一方ポリエステル(B)のガラス転移温度(Tg)の上限は、より好ましくは120℃以下である。ポリエステル(B)の主たる成分および共重合成分の構成上、ポリエステル(B)のガラス転移温度(Tg)の下限は自ずと上述の範囲に限定される。一方、ポリエステル(B)のガラス転移温度(Tg)が上限を超える場合、第1の層を構成するエチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)とのガラス転移温度差が大きくなりすぎ、フィルム製膜性が低下し、また熱収縮性が低下することがある。
【0026】
第2の層を構成するポリエステル(B)は、本発明の目的を損なわない範囲で着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒、紫外線吸収剤などをごく少量含有しても良い。
【0027】
エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)は、公知の方法を適用して製造することができる。例えば、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸、エチレングリコールおよび必要に応じて共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。
【0028】
第2の層を構成するポリエステル(B)の固有粘度は、好ましくは0.40〜0.65dl/gであり、更には0.45〜0.62dl/gの範囲であることが好ましい。第2の層を構成するポリエステル(B)の固有粘度がかかる範囲内にない場合、第1の層を構成するポリエステル(A)の固有粘度との差が大きくなることがあり、その結果交互積層構成とした場合に各層内での厚みのばらつきが生じやすく、層構成が乱れて製膜性の低下につながることがある。
【0029】
[ガラス転移温度]
本発明のエチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)と、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)のガラス転移温度(Tg)との差は、下記式(1)を満足することが好ましい。
−55℃<(Tg−Tg)<−20℃ ・・・(1)
【0030】
ポリエステル(A)とポリエステル(B)とのガラス転移温度差(Tg−Tg)の下限は、より好ましくは−50℃以上、さらに好ましくは−45℃以上である。またポリエステル(A)とポリエステル(B)とのガラス転移温度差(Tg−Tg)の上限は、より好ましくは−25℃以下である。かかるガラス転移温度差(Tg−Tg)が下限に満たない場合、交互積層層を構成するポリエステル(A)とポリエステル(B)とのガラス転移温度差が大きくなりすぎ、フィルム製膜性が低下することがある。また各層のポリエステル成分の構成上、ガラス転移温度差(Tg−Tg)の上限はかかる範囲に制限される。
【0031】
かかるガラス転移温度差とするためには、第1の層を構成するポリエステル(A)および第2の層を構成するポリエステル(B)の主たる成分の種類、小割合の成分の種類およびそれらの成分量について、それぞれ既述の範囲のものを用いることによって達成される。
【0032】
[フィルム積層構成]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)からなる第1の層と、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)からなる第2の層とを交互に積層してなるフィルムである。
【0033】
かかる積層構造は、第1の層の1層あたりの平均厚みが0.05〜3.5μm、第2の層の1層あたりの厚みが0.005〜1.0μmの範囲であり、かつ第1の層と第2の層とが交互に31層以上1001層以下の範囲で積層されることが必要である。
後述するように第1の層の各層厚みは厚み方向に連続的に変化していることから、第1の層の1層あたりの平均厚みとは、各層の厚みの合計を層数で割った値で求められる。また第1の層の各層厚みが、フィルム両表層から中心層にかけて連続的に層厚みが減少していく態様の場合は、フィルム表層付近が最大厚み、フィルム中心層が最小厚みとなることから、最大となる層厚みと最小となる層厚みの平均値で求められる。
【0034】
第1の層の1層あたりの平均厚みの下限は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、特に好ましくは0.4μm以上である。また第1の層の1層あたりの平均厚みの上限は、好ましくは3.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下である。なお、第1の層の1層あたりの平均厚みは、層数の増加に応じて薄くなり、また層数の減少に応じて厚くなる関係にある。
【0035】
積層数の下限は、好ましくは45層以上、さらに好ましくは75層以上である。また積層数の上限は1001層以下であれば金属光沢性の点で特に制限されないが、工業的観点で好ましくは701層以下、より好ましくは501層以下、さらに好ましくは201層以下である。
【0036】
第1の層および第2の層それぞれの1層あたりの厚みがかかる範囲にあり、かつ第1の層が厚み勾配を有することにより、波長400〜800nmの範囲において反射ピークが出現し、可視光での反射色を発現する。各層の厚みがそれぞれ下限に満たない場合、反射波長が紫外線領域になるために発色しない。一方、各層の厚みがそれぞれ上限を超える場合、反射波長が赤外線領域になるために発色しない。積層数が下限に満たない場合は、光の干渉が十分でないため十分に発色せず、積層数が上限を超える場合、各層の厚みが1層あたりの厚みの下限よりも薄く、反射波長が紫外線領域となってしまう。
【0037】
また本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、全フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が80%以上86%以下であり、かつ第1の層の各層厚みが厚み方向に連続的に変化していることが必要である。
第1の層はエチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)からなり、ポリエステル(A)はPETボトルのシュリンクラベルを収縮させる80℃近傍の加工温度に近いガラス転移温度を有する樹脂である。ポリエステル(A)からなる第1の層の層厚みの総計が全フィルム厚みに対して下限に満たない場合、シュリンク加工温度において十分な収縮が得られない。一方、ポリエステル(A)からなる第1の層の層厚みの総計が全フィルム厚みに対して上限を超える場合、フィルム表面近くの層構成に乱れが生じてフィルム表面に凹凸が形成され、透明性が低下し、すりガラス調外観となる。
【0038】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、全フィルム厚みに対する第2の層の層厚みの総計が14%以上20%以下であることが必要である。ポリエステル(B)からなる第2の層の層厚みの総計が全フィルム厚みに対して下限に満たない場合、フィルム表面近くの層構成に乱れが生じてフィルム表面に凹凸が形成され、透明性が低下し、すりガラス調外観となる。一方、ポリエステル(B)からなる第2の層の層厚みの総計が全フィルム厚みに対して上限を超える場合、シュリンク加工温度において十分な収縮が得られない。
【0039】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、第1の層の各層厚みが厚み方向に連続的に変化していることが必要である。第1の層の各層厚みが厚み方向に連続的に変化しておらず均一な場合、光学的厚みの規則性から極めて狭い幅の波長域しか選択的に反射しないため、反射ピークを可視光域にコントロールするのが難しい。
ここで「厚み方向に連続的に変化している」とは、フィルム厚み方向のフィルム断面を観察した場合に、一方のフィルム表層から他方のフィルム表層にかけて、第1の層の各層が徐々に連続的に変化していることを指し、具体的には一方のフィルム表層から他方のフィルム表層にかけて連続的に各層厚みが増加または減少しているか、あるいはフィルム両表層から内部にかけて連続的に各層厚みが増加または減少している状態を指す。なお、「連続的に変化」には、等割合の変化、階段状の変化、傾きを持った変化が含まれる。
このような厚み変化を厚みの分布曲線で表わした場合、厚み分布の極大値および最小値はそれぞれ1つに限られず、複数であってもよい。なお、本発明では、厚みの分布曲線の最大値を最大厚み、厚みの分布曲線の最小値を最小厚みと称することがある。
かかる態様の中でも、第1の層の各層厚みはフィルム両表層から中心層にかけて連続的に層厚みが減少していく態様が好ましく、その場合、フィルム表層付近が最大厚み、フィルム中心層が最小厚みとなる。
また最大厚みを最小厚みで割った比は1.0を越え3.0以下であることが好ましく、さらに好ましい下限は1.1以上、またさらに好ましい上限は2.0以下である。最大厚みを最小厚みで割った比が上限を超えると、反射波長帯が広くなりすぎ、十分な反射率が得られないことがある。第1の層の各層厚みは、フィードブロックの各層厚みを制御して調整される。
【0040】
第1の層の平均厚みで均一に積層された状態では、反射ピークを可視光域にコントロールするのが難しかったところ、本発明では、均一に積層された状態と同じ平均厚みであっても、第1の層の各層厚みを厚み方向に連続的に変化させることにより反射ピークの波長域を広げ、かつ1次干渉、2次干渉、3次干渉も含めた少なくともいずれかのピークが可視光域に生じることにより、金属光沢感のある発色が生じているものと考えられる。
【0041】
本発明のフィルムが有する透明外観は、第1の層を構成する樹脂の割合がシュリンク特性が発現する範囲内において、ある一定量を超えない範囲であれば、フィルム表面近くの層構成の乱れが小さく、フィルム表面平滑性を保てるため高透明性が発現するものであり、第1の層の層厚みの総計及び第2の層の層厚みの総計が上述の範囲内にない場合、透明外観が得られなくなる。
【0042】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの全フィルム厚みは30〜80μmであることが好ましく、更に好ましくは35〜60μmである。全フィルム厚みが下限に満たない場合、フィルムにコシがなくなり、加工時のハンドリング性に劣ることがある。一方、全フィルム厚みが上限を超える場合、フィルムが硬すぎて加工時のハンドリング性が低下することがある。
【0043】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、透明外観で金属光沢感のある意匠性を有し、しかも熱収縮性も有するために、各層のポリエステル種類および各層の層構成を上述のように制御することが重要であり、本発明で規定する以外の層、例えば厚み調整層などの層を含むことにより、このような意匠性と熱収縮性のいずれかの特性が低下する場合は、第1の層および第2の層のみから構成されることが好ましい。
【0044】
[粒子]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの透明性を高める観点から、粒子を含有しないか、フィルムへの滑り性付与等を目的として粒子を含有させるとしてもごく少量の範囲で添加させることが好ましく、具体的には、第1の層または第2の層の少なくともいずれか一方の層が、粒子を0重量%以上0.1重量%未満の範囲で含有することが好ましい。粒子含有量の下限は、より好ましくは0.005重量%以上、さらに好ましくは0.01重量%以上である。また粒子含有量の上限は、より好ましくは0.08重量%以下、さらに好ましくは0.06重量%以下である。
かかる粒子含有量は、粒子含有層の重量を基準として、該層に含まれる粒子の重量の比(%)で表わされる。
【0045】
粒子の種類として、例えば炭酸カルシウム、シリカ、タルク、クレーなどの無機粒子、シリコーン、アクリルなどの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれかからなる有機粒子などを少なくとも1種用いることができ、これらの中でも真球状シリカ粒子が好ましい。粒子の平均粒径は0.001〜5μmの範囲であれば特に限定されないが、0.01〜3μmであることがより好ましい。
【0046】
[フィルム特性]
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、各層がかかる樹脂成分からなり、かつ上述の層構成を有することにより、波長400〜800nmの範囲の反射率曲線において反射率25%以上の反射ピークが少なくとも1つ観察される。反射ピークの反射率は、好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上であり、反射率が高くなるほど金属光沢発色性が鮮明になる。反射ピークの反射率はより高い方が好ましいが、上限は90%以下、さらには80%以下である。
【0047】
反射ピークが波長400nmに満たない範囲に存在する場合、または反射ピークが波長800nmを超える範囲に存在する場合は、可視光領域からはずれるため、金属光沢発色性が発現しない。また反射ピークの反射率が下限に満たない場合、十分に反射色を認識することができない。
【0048】
ここで反射率曲線とは、分光光度計を用い、主配向方向(収縮率の大きい方向または主収縮方向と称することがある)に合わせてフィルムと受光部の間に偏光板を挟み、400〜800nmの各波長でのアルミ蒸着したミラーとの相対鏡面反射率を測定して得られる曲線であり、反射率曲線において反射率25%以上とは、波長ごとに測定された反射率の中でピークとなる反射率が25%以上であることを指す。
【0049】
かかる反射率特性を達成する手段について、第1の層と第2の層の各層が屈折率の異なる樹脂として、エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)とエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)を交互に31層以上1001層以下の範囲で積層し、またそれら両樹脂の各層厚みが、第1の層は平均厚みが0.05〜3.5μmの範囲内で、また第2の層は0.005〜1.0μmの範囲内で、かつ第1の層の各層厚みが厚み方向に連続的に変化していることによって達成される。
【0050】
また本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の温水中に10秒間放置したときの熱収縮率がフィルム長手方向及び幅方向のいずれか一方において30%以上の特性を有する。80℃の温水中に10秒間放置したときの収縮率の大きい方向における熱収縮率が下限に満たない場合、シュリンクラベルの加工温度域での収縮量が小さく、シュリンクラベルとしてPETボトルと十分な密着性を示さない。80℃の温水中に10秒間放置したときの熱収縮率はかかる範囲内でより大きい方が密着性の観点から好ましいが、シュリンク後の外観を考慮して上限は高々70%程度である。
【0051】
かかる熱収縮率特性を達成する手段として、ポリエステル(A)からなる第1の層の層厚みの総計が全フィルム厚みに対して80%以上であり、2.5〜4.5倍の所定の延伸倍率で主収縮方向に延伸することにより達成される。
【0052】
また本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の温水中に10秒間放置したときの熱収縮率が30%以上である方向と直交方向において絶対値で0%以上10%未満の特性を有する。80℃の温水中に10秒間放置したときの収縮率の小さい方向における熱収縮率の絶対値が上限を超える場合、タテヒケと呼ばれる収縮斑部分が発生する。80℃の温水中に10秒間放置したときの収縮率の小さい方向における熱収縮率の絶対値はかかる範囲内でより小さい方が好ましく、その下限は0%であるが、通常は5%以下、さらには4%以下である。
かかる熱収縮率特性を達成する手段は、上述の収縮率の大きい方向と直交方向については、収縮率を下げるためにフィルムを延伸しないのが好ましく、フィルム強度を高める場合には1.5倍以下の低倍率で延伸することによって達成される。
なお80℃の温水中に10秒間放置したときの熱収縮率とは、サンプルを10cm×10cmの正方形に切り出して80℃の温水に10秒間浸漬し、その後冷水中で冷却して標線間の長さを測定し、原寸法に対する収縮量の割合を熱収縮率として求めた値である。
【0053】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムのヘーズ(曇り度)はJIS規格K7136に準じて測定され、0.1%以上10%以下である。フィルムのヘーズの好ましい下限は0.2%以上、より好ましくは0.3%以上である。本発明のフィルムのヘーズの上限は、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは7%以下、特に好ましくは6%以下である。
フィルムのヘーズを下限より小さくすることは、本発明で使用するポリエステル系樹脂の性質上困難である。一方、フィルムのヘーズが上限を超える場合、フィルムの透明性が低下してフィルムが曇って見え、金属光沢感の減少につながったり、フィルム下地に意匠を施している際に意匠の視認性が低下することがある。
かかるヘーズ特性を達成する手段は、第1の層と第2の層の各層厚みが、第1の層は平均厚みとして0.05〜3.5μmの範囲内で、また第2の層は0.005〜1.0μmの範囲内で、かつ全フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が80%以上86%以下であることによって達成される。
【0054】
[製造方法]
次に、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法の一例について詳述する。
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、第1の押出機より供給された第1の層用ポリエステル(A)と、第2の押出機より供給された第2の層用ポリエステル(B)とを、多層フィードブロック装置を用いて溶融状態で交互に少なくとも31層以上重ね合わせた状態を形成し、ダイを用いてこれを回転するドラム上にキャストすることにより、多層未延伸フィルムとする。なおフィードブロックは、第1の層の各層厚みが所望の厚み勾配となるよう制御され、第2の層の各層厚みがそれぞれ均一な厚みとなるように制御される。その結果、第1の層については厚み勾配を有し、第2の層については各層厚みのばらつきをなくすことができる。積層構造の最外層は特に規定されないが、第1の層を奇数層、第2の層を偶数層とすることが好ましい。
【0055】
このようにして得られた多層未延伸フィルムは、製膜方向またはその直交方向である幅方向のいずれか1軸方向に延伸される。延伸温度は、第1の層を構成するポリエステル(A)のガラス転移点の温度(Tg)〜Tg+50℃の範囲が好ましい。このときの面積倍率は2〜6倍、更に好ましくは2.5〜5倍であることが好ましい。延伸倍率が大きい程、第1の層および第2の層の個々の層における層厚みのバラツキが、延伸による薄層化により小さくなり、多層延伸フィルムの光干渉が面方向に均一になる一方、収縮特性に対しては、延伸倍率が高すぎると、結晶化により主収縮方向の収縮率が得られないばかりか、主収縮方向の直交方向の収縮率も大きくなってしまうことから、延伸倍率は主収縮方向について2.5〜4.5倍の範囲とする必要があり、主収縮方向の直交方向は延伸しないか、最大でも1.5倍以下の範囲で延伸する必要がある。また収縮率の精度を高めるために、さらに70℃以上80℃未満の温度で熱処理を施してもよい。
上記工程中にプライマー層などを塗設する場合は、例えば縦延伸後にフィルムの片面ないし両面に、水分散性の塗剤を塗布し、横延伸の前に乾燥してフィルムに皮膜を形成させることが好ましい。塗工法は限定されないが、リバースロールコーターによる塗工が好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例において用いた特性の測定方法ならびに評価方法は、次のとおりである。
【0057】
(1)熱収縮率
フィルムサンプルを10cm×10cmの正方形に切り出し、80℃の温水に浸漬し、10秒後に引き上げて冷水に入れた。標線間の長さを測定し、フィルムの収縮量を原寸法に対する割合として百分率で表した。
S=100×(L−L)/L
(上式中、Sは熱収縮率(単位:%)、Lは熱処理後の標線間長さ(単位:mm)、Lは熱処理前の標線間長さ(単位:mm)をそれぞれ表わす)
【0058】
(2)光線反射率
分光光度計(島津製作所製、MPC−3100)を用い、主配向方向(収縮率の大きい方向または主収縮方向)に合わせてフィルムと受光部の間に偏光板を挟み、各波長でのアルミ蒸着したミラーとの相対鏡面反射率を波長400nmから800nmの範囲で測定する。その測定された反射率の中で最大のものを最大反射率とし、その波長を反射波長とした。
更に意匠性について、目視評価により以下の基準で評価した。
○: 金属光沢の色調が観察される
×: 金属光沢の色調が観察されない
【0059】
(3)収縮(シュリンク)フィルムとしての評価
フィルムサンプルを収縮ラベルとして円筒形にした後、PETボトルに被せ、設定温度85℃のシュリンクトンネルを通過させて収縮させた。トンネル通過後、該フィルムが十分にPETボトルに密着しているかを目視評価により以下の基準で評価した。
○: PETボトルの形状に密着しており、PETボトルとの間に隙間が観察されない
×: PETボトルとの間に一部隙間が観察される
またシュリンクトンネル通過後のフィルムの収縮斑について、上端部又は下端部が収縮後に斜めになったり歪んでいないかを目視評価により以下の基準で判定した。
○: 上端部または下端部のいずれかに収縮斑により斜めになったり歪んだ部分が観察されない
×: 上端部または下端部のいずれにも収縮斑により斜めになったり歪んだ部分が観察される
さらに、シュリンクトンネル通過後のフィルムの意匠性について、透明性および金属光沢性を目視評価により以下の基準で評価した。
○: フィルムに濁りがなく、金属光沢の色調が観察される
×: フィルムに濁りが発生したか、または金属光沢の色調が観察されない
【0060】
(4)各層厚み、層数
フィルムサンプルの断面を株式会社日立サイエンスシステムズ製の走査電子顕微鏡(S−4300SE/N形)で観察し、第1の層についてはフィルム表層付近と、厚さ方向で略中心付近のについてそれぞれ3層ずつn=3で測定し、両測定位置における平均値より両測定位置における平均厚みを求めた。なお本発明ではフィルム表層付近の層が最大厚み、中心付近の層が最小厚みであった。
また第2の層については厚さ方向で略中心付近について各層の厚みを3層それぞれn=3で測定し、平均値より求めた。
また、層数についても、同様にフィルムサンプルの断面を株式会社日立サイエンスシステムズ製の走査電子顕微鏡(S−4300SE/N形)で観察して求めた。
【0061】
(5)全フィルム厚み
フィルムの全フィルム厚みは、電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにて10箇所測定し、それらの平均値より求めた。
【0062】
(6)全フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計
(4)の方法で得られた第1の層の最大厚みと最小厚みの平均値に第1の層数を乗じて第1の層厚みの総計を求めた。一方、全フィルム厚みは(5)の方法に準じて求め、全フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計(%)を算出した。
【0063】
(7)ヘーズ
JIS K7136に準じ、日本電色工業社製のヘーズ測定器(NDH−2000)を使用してフィルムのヘーズ値を測定した。
【0064】
(8)ガラス転移温度
フィルムサンプル約10mgを測定用のアルミニウム製パンに封入して示差熱量計(デュポン社製・V4.OB2000型DSC)に装着し、25℃から20℃/分の速度で300℃まで昇温させ、300℃で5分間保持した後取出し、直ちに氷の上に移して急冷する。このパンを再度示差熱量計に装着し、25℃から20℃/分の速度で昇温させてガラス転移温度(Tg:℃)を測定した。
【0065】
(9)固有粘度
固有粘度([η]dl/g)は、25℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。
【0066】
(10)ポリエステル成分量
フィルムサンプルの各層について、H−NMR測定よりポリエステルの成分および共重合成分及び各成分量を特定した。
【0067】
[実施例1]
第1の層用のポリエステル(A)として、固有粘度0.70dl/g、ガラス転移温度(Tg)83℃のポリエチレンテレフタレート−ナフタレート共重合体(2,6−ナフタレンジカルボン酸含有量:12モル%)を用意し、第2の層用のポリエステル(B)として、固有粘度0.51dl/g、ガラス転移温度(Tg)117℃のポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートホモポリマーを用意し、それぞれペレットを攪拌しながら110℃で10時間加熱し表面を結晶化させたものを用意した。
【0068】
ポリエステル(A)およびポリエステル(B)を、それぞれ170℃で4時間乾燥後、ポリエステル(A)を第1の押出機に、またポリエステル(B)を第2の押出機に供給し、290℃まで加熱して溶融状態とし、ポリエステル(A)を第1の層として101層、ポリエステル(B)を第2の層として100層に分岐させた後、第1の層と第2の層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して、積層状態の溶融体とし、その積層状態を保持したまま、キャスティングドラム上にキャストして、第1の層と第2の層が交互に積層された総数201層の未延伸多層積層フィルムを作成した。なお押出量の比は第1の層用ポリエステル(A)を82%、第2の層用ポリエステル(B)を18%に調整した。またフィードブロックの第1の層の厚み勾配は、フィルム両表層から中心層にかけて連続的に層厚みが減少し、その厚み比が1.30となるよう制御し、第2の層の各層厚みは均一層となるように制御した。
この多層未延伸フィルムを80℃の温度で連続製膜方向は延伸せずに、幅方向に3.0倍延伸し、75℃で3秒間熱処理を行い、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0069】
[実施例2]
ポリエステル(A)の固有粘度を0.65dl/g、ガラス転移温度(Tg)79℃のポリエチレンテレフタレートホモポリマーとし、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を85%、第2の層用ポリエステル(B)を15%とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0070】
[実施例3]
ポリエステル(A)の固有粘度を0.71dl/g、ガラス転移温度(Tg)74℃のポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体(イソフタル酸含有量:12モル%)とし、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を81%、第2の層用ポリエステル(B)を19%とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0071】
[実施例4]
ポリエステル(B)の固有粘度を0.58dl/g、ガラス転移温度(Tg)109℃のポリエチレンナフタレート−テレフタレート共重合体(テレフタル酸含有量:8モル%)とし、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を85%、第2の層用ポリエステル(B)を15%とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0072】
[実施例5]
実施例1と同じポリエステル樹脂を用い、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を94%、第2の層用ポリエステルを6%とし、第1の層用ポリエステルを16層、第2の層用ポリエステルを15層に分岐させた以外は実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0073】
[比較例1]
ポリエステル(A)の固有粘度を0.71dl/g、ガラス転移温度(Tg)74℃のポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体(イソフタル酸含有量:12モル%)とし、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を76%、第2の層用ポリエステル(B)を24%とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0074】
[比較例2]
実施例1と同じポリエステル樹脂を用い、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を88%、第2の層用ポリエステル(B)を12%とした以外は、実施例1と同様にして厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0075】
[比較例3]
第1の層用のポリエステル(A)を、固有粘度0.51dl/g、ガラス転移温度(Tg)117℃のポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートホモポリマーとし、第2の層用のポリエステル(B)を、固有粘度0.71dl/g、ガラス転移温度(Tg)74℃のポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体(イソフタル酸含有量:12モル%)とし、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を85%、第2の層用ポリエステル(B)を15%とした以外は実施例1と同様にして製膜したところ、第2の層用ポリエステル(B)の層をダイの幅方向に均一に押出すことができず、フィルムを製膜することができなかった。
【0076】
[比較例4]
実施例1と同じポリエステル樹脂を用い、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を82%、第2の層用ポリエステル(B)を18%とし、ポリエステル(A)を第1の層として11層に、ポリエステル(B)を第2の層として10層に分岐させた以外は実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0077】
[比較例5]
実施例1と同じポリエステル樹脂を用い、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を82%、第2の層用ポリエステルを18%とし、厚み方向の層厚みに分布を設けなかった(各層の厚みが厚さ方向で各々均一とした)以外は、実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0078】
[比較例6]
比較例3と同じポリエステル樹脂を用い、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を56%、第2の層用ポリエステル(B)を44%とし、ポリエステル(A)を第1の層として31層に、ポリエステル(B)を第2の層として30層に分岐させ、また延伸条件として、150℃の温度で連続製膜方向に3.5倍に延伸し、更に155℃の延伸温度で幅方向に5.5倍に延伸し、230℃で3秒間熱固定処理を行った以外は実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。なお第1の層の両表層の厚みと中心層との厚み比は2.0とした。得られたフィルムは、金属光沢性を有するものの、十分な熱収縮性は有していなかった。
【0079】
[比較例7]
実施例1と同じポリエステル樹脂を用い、押出量の比を第1の層用ポリエステル(A)を76%、第2の層用ポリエステル(B)を24%とした以外は、実施例1と同様にして、厚さ60μmのフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0080】
本発明の実施例1〜5および比較例1、2、4、6及び7における第1の層の厚みは、いずれもフィルム両表層から中心層にかけて連続的に層厚みが減少しており、フィルム表層付近が最大厚み、フィルム中心層が最小厚みであった。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、高透明かつ特定の波長の光を反射する光沢性の意匠性に富むことにより、フィルムに施される絵柄印刷の視認性に優れ、かつ玉虫色の金属光沢性を付与するとともに、PETボトルなどの容器に貼り付け可能な熱収縮性を有する熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することができ、PETボトルのシュリンクラベルに好適に用いることができる他、熱収縮性および意匠性を求められる電線被覆にも好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)からなる平均厚み0.05〜3.5μmの第1の層と、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)からなる厚み0.005〜1.0μmの第2の層とを交互に31層以上1001層以下の範囲で積層してなるフィルムであり、全フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が80%以上86%以下で、かつ第1の層の各層厚みが厚み方向に連続的に変化しており、該フィルムのヘーズが0.1〜10%で、波長400〜800nmの範囲の反射率曲線において反射率25%以上の反射ピークを少なくとも一つ有し、80℃の温水中に10秒間放置したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向のいずれか一方において30%以上、該方向と直交方向において絶対値で0%以上10%未満であることを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)が70℃を超え100℃以下の範囲である請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
エチレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステル(A)のガラス転移温度(Tg)と、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とするポリエステル(B)のガラス転移温度(Tg)との差が下記式(1)を満足する、請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
−55℃<(Tg−Tg)<−20℃ ・・・(1)
【請求項4】
第1の層または第2の層の少なくともいずれか一方の層が、粒子を0重量%以上0.1重量%未満の範囲で含有する請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
第1の層および第2の層のみから構成される、請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムからなるシュリンクラベル。

【公開番号】特開2009−78535(P2009−78535A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107847(P2008−107847)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】