説明

熱可塑性エラストマー組成物、発泡体及びその製造方法

【課題】3倍以上の高発泡倍率で、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れた発泡体を得ることが可能な、柔軟性、及び成形加工性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体と、(B)結晶性ポリエチレン系樹脂と、(C)特定のブロック構造を有するブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体とを含有し、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が5.0cN以上、210℃で引き取った場合に切断される引取速度が10m/min以上、及びJIS K6262に準拠して、70℃、22時間で測定した圧縮永久歪みが80%以下の熱可塑性エラストマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物、発泡体、及びその製造方法に関する。更に詳しくは、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性等に優れた発泡体を得ることが可能な熱可塑性エラストマー組成物、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性等に優れた発泡体、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の内装部品、外装部品、家電製品、又は情報機器等の振動及び騒音に対する緩衝材やソフトな触感部品等として、発泡成形品が多くの製品分野において使用されている。特に、成形し易く、かつ発泡も容易である原料として、熱可塑性エラストマー組成物が注目されている。このような熱可塑性エラストマー組成物として、動的架橋し得る熱可塑性エラストマー組成物を挙げることができる(例えば、特許文献1参照)。なお、この熱可塑性エラストマー組成物を用いて、発泡体が得られることが知られている。
【0003】
しかし、かかる動的架橋し得る熱可塑性エラストマー組成物に含有される架橋ゴム成分を均一に発泡させることは困難であり、結晶性ポリオレフィンのみが均一に発泡し、全体としては不均質な発泡成形品になる。また、成形品の表面から発泡ガスが抜けるため、表面が平滑にならず、表面外観に劣る。
この他、この熱可塑性エラストマー組成物は、臭気及び変色を十分に防止することが困難であるとともに、製造プロセスが複雑であり、かつ、使用可能な架橋剤が高価であるといった解決すべき課題を有していた。更には、使用する架橋材等による汚染のため、用途が限定される等の問題もあった。一方、オレフィン系の非架橋熱可塑性エラストマー組成物は、溶融させることで均一に発泡させることが可能となる。しかしながら、得られる発泡体は架橋構造を有しないものであり、その圧縮永久歪みは大きいものであった。また、高発泡倍率(例えば、3倍以上)の高発泡体を得ることは困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開平6−73222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高発泡倍率で、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れた発泡体を得ることが可能な、柔軟性、成形加工性、及び表面外観に優れた熱可塑性エラストマー組成物、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れた発泡体、並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、(1)エチレン・α−オレフィン系共重合体中において、結晶性ポリエチレン系樹脂が化学架橋によらない三次元網目構造を構成し得ること、(2)この三次元網目構造により、化学架橋を有する熱可塑性エラストマーに匹敵する弾性回復性が得られること、及び(3)溶融時には結晶性ポリエチレン系樹脂による三次元網目構造が完全溶融し得ること、を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、以下に示す熱可塑性エラストマー組成物、発泡体、及び発泡体の製造方法が提供される。
【0008】
[1](A)エチレン・α−オレフィン系共重合体と、(B)結晶性ポリエチレン系樹脂と、(C)下記水添ブロック共重合体と、を含有し、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が5.0cN以上、210℃で引き取った場合に切断される引取速度が10m/min以上、及びJIS K6262に準拠して、70℃、22時間で測定した圧縮永久歪みが80%以下である熱可塑性エラストマー組成物。
(C)水添ブロック共重合体:両末端に1,2−ビニル結合含量が25%以下の(c1)共役ジエン重合体ブロックを有するとともに、中間に1,2−ビニル結合含量が25%超の(c2)共役ジエン重合体ブロックを有するブロック共重合体、を水素添加してなる水添ブロック共重合体。
【0009】
[2]前記(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体からなるマトリックス中で、前記(B)結晶性ポリエチレン系樹脂及び前記(C)水添ブロック共重合体が三次元網目構造を形成している前記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0010】
[3]前記ブロック共重合体に含まれる前記(c1)共役ジエン重合体ブロックと前記(c2)共役ジエン重合体ブロックの合計を100質量部とした場合に、前記(c1)共役ジエン重合体ブロックの含有割合が5〜90質量部、及び前記(c2)共役ジエン重合体ブロックの含有割合が10〜95質量部であり、前記(C)水添ブロック共重合体の、水素添加率が80%以上、数平均分子量(Mn)が5万〜70万である前記[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
[4]前記(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体の含有量が10〜94質量%、前記(B)結晶性ポリエチレン系樹脂の含有量が5〜80質量%、及び前記(C)水添ブロック共重合体の含有量が1〜80質量%(但し、(A)+(B)+(C)=100質量%)である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
[5]前記(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体、前記(B)結晶性ポリエチレン系樹脂、及び前記(C)水添ブロック共重合体の合計100質量部に対して、200質量部以下の鉱物油系軟化剤を更に含有する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を発泡させることにより得られる発泡体。
【0014】
[7]溶融させた前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物に不活性ガスを注入した後、発泡させることを含む発泡体の製造方法(以下、「第一の発泡体の製造方法」ともいう)。
【0015】
[8]前記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、化学発泡剤0.01〜100質量部を配合して化学発泡剤混合原料を得、得られた前記化学発泡剤混合原料を発泡させることを含む発泡体の製造方法(以下、「第二の発泡体の製造方法」ともいう)。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、高発泡倍率で、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れた発泡体を得ることが可能であるという効果を奏するものである。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、及び成形加工性に優れているという効果を奏するものである。
【0017】
本発明の発泡体は、高発泡倍率で、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れているという効果を奏するものである。
【0018】
また、本発明の第一及び第二の発泡体の製造方法によれば、高発泡倍率で、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れた発泡体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。なお、以下、単に「本発明(本実施形態)の発泡体の製造方法」というときは、第一の発泡体の製造方法と第二の発泡体の製造方法のいずれをも指し示す。
【0020】
1.熱可塑性エラストマー組成物
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の一実施形態は、(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体(以下、「(A)成分」ともいう)と、(B)結晶性ポリエチレン系樹脂(以下、「(B)成分」ともいう)と、(C)下記水添ブロック共重合体(以下、「(C)成分」ともいう)と、を含有し、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が5.0cN以上、210℃で引き取った場合に切断される引取速度が10m/min以上、及びJIS K6262に準拠して、70℃、22時間で測定した圧縮永久歪みが80%以下である熱可塑性エラストマー組成物である。以下、その詳細について説明する。
(C)水添ブロック共重合体:両末端に1,2−ビニル結合含量が25%以下の(c1)共役ジエン重合体ブロックを有するとともに、中間に1,2−ビニル結合含量が25%超の(c2)共役ジエン重合体ブロックを有するブロック共重合体、を水素添加してなる水添ブロック共重合体。
【0021】
((A)エチレン・α−オレフィン系共重合体)
(A)成分は、エチレンに由来する構成単位(a1)と、α−オレフィンに由来する構成単位(a2)とを含む共重合体であれば特に限定されない。従って、(A)成分は、構成単位(a1)と構成単位(a2)とを含む二元共重合体の他に、他の単量体に由来する構成単位(a3)を更に含む三元共重合体であってもよい。更には、構成単位(a1)、及び構成単位(a2)を含むものであれば、4以上の異なる構成単位を含む多元共重合体であってもよい。なお、(A)成分は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
(A)成分に含まれる構成単位(a1)の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、35mol%以上であることが好ましい。構成単位(a1)の割合が35mol%未満であると、機械的強度が不十分となる傾向にある。なお、構成単位(a1)の割合が多過ぎる場合には、柔軟性が不十分となる傾向にある。従って、(A)成分に含まれる構成単位(a1)の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、40〜90mol%であることが更に好ましく、45〜85mol%であることが特に好ましい。
【0023】
構成単位(a2)を構成するα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、3−メチルブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ウンデセン等を挙げることができる。なかでも、プロピレン、1−ブテンが好ましい。これらのα−オレフィンを一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(A)成分に含まれる構成単位(a2)の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、5〜65mol%であることが好ましく、10〜45mol%であることが更に好ましく、15〜40mol%であることが特に好ましい。構成単位(a2)の割合が5mol%未満であると、所望とするゴム弾性を発揮し難くなる傾向にある。一方、構成単位(a2)の割合が65mol%超であると、耐久性が低下する傾向にある。
【0025】
(A)成分が、構成単位(a3)を含むものである場合に、この構成単位(a3)を構成する単量体としては、非共役ジエン化合物を挙げることができる。非共役ジエン化合物の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン化合物;5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチルオクタ−1,6−ジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチルオクタ−1,6−ジエン、ジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン化合物;テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプタ−2,5−ジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン等の脂環式ジエン化合物等を挙げることができる。なかでも、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましい。これらの非共役ジエン化合物を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
(A)成分が、構成単位(a3)を含むものである場合に、この(A)成分に含まれる構成単位(a3)の割合は、全構成単位を100mol%とした場合に、10mol%以下であることが好ましく、1〜8mol%であることが更に好ましい。構成単位(a3)の割合が10mol%超であると、耐久性が低下する傾向にある。
【0027】
また、(A)成分として、これまで述べてきた(A)成分分子中の水素原子の一部が塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換されたハロゲン化共重合体を用いることもできる。
【0028】
更に、(A)成分として、これまで述べてきた(A)成分に不飽和モノマーを重合して得られるグラフト重合体を用いることもできる。不飽和モノマーとしては、塩化ビニル;酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸誘導体;マレイン酸;無水マレイン酸、マレイミド、マレイン酸ジメチル等のマレイン酸誘導体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン化合物等を挙げることができる。
【0029】
(A)成分の、X線回折測定による結晶化度は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることが更に好ましい。(A)成分の結晶化度が20%超であると、柔軟性が低下する傾向にある。
【0030】
また、(A)成分として、これまで述べてきた(A)成分に鉱物油系軟化剤が添加された油展ゴムを用いることもできる。このような油展ゴムは、取り扱いが容易なものである。従って、油展ゴムを(A)成分として用いると、熱可塑性エラストマー組成物の製造が容易になるために好ましい。なお、油展ゴムに含有される(A)成分と鉱物油系軟化剤の割合は、油展ゴム全体を100質量%とした場合に、それぞれ20〜80質量%であることが好ましく、25〜75質量%であることが更に好ましく、30〜70質量%であることが特に好ましい。
【0031】
(A)成分の極限粘度(デカリン溶媒中、135℃で測定)は、2.0dl/g以上であることが好ましい。(A)成分の極限粘度が2.0dl/g未満であると、例えば、(A)成分として前述の油展ゴムを用いた場合に、熱可塑性エラストマー組成物から鉱物油系軟化剤がブリードアウトし、ゴム弾性が低下する傾向にある。一方、(A)成分の極限粘度が大き過ぎると、成形加工性が低下する傾向にある。従って、(A)成分の極限粘度は、2.5〜7.0dl/gであることが更に好ましく、3.0〜6.0dl/gであることが特に好ましい。
【0032】
((B)結晶性ポリエチレン系樹脂)
(B)成分は、エチレンを主構成成分とする結晶性ポリエチレン樹脂であり、エチレン含有量は90〜100mol%である。この(B)成分を、沸騰n−ヘキサンに溶解させた場合における不溶分の割合は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。なお、不溶分の割合は、通常、95質量%以下である。不溶分の割合が10質量%未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度、成形加工性が損なわれる場合がある。更に、DSCによる結晶の融解ピークが100℃以上であることが好ましい。
【0033】
(B)成分としては、ポリエチレン、エチレン含有量が90mol%以上である、プロピレン、ブテン−1、4−メチル−ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等の、炭素数が3〜6であるα−オレフィンとの共重合体等を挙げることができる。なお、ポリエチレンは、高圧法及び低圧法のいずれの方法により得られたものであってもよい。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
((C)水添ブロック共重合体)
(C)成分は、両末端に1,2−ビニル結合含量が25%以下の(c1)共役ジエン重合体ブロック(以下、「(c1)ブロック」ともいう)を有するとともに、中間に1,2−ビニル結合含量が25%超の(c2)共役ジエン重合体ブロック(以下、「(c2)ブロック」ともいう)を有するブロック共重合体、を水素添加してなる水添ブロック共重合体である。即ち、(c1)ブロック及び(c2)ブロックは、水素添加前のブロックである。
【0035】
(ブロック共重合体(水添前共重合体))
(c1)ブロックは、ブタジエンを主成分とする1,3−ブタジエン重合体ブロックであることが好ましい。なお、「ブタジエンを主成分とする」とは、(c1)ブロック全体の90質量%以上、好ましくは95質量%以上がブタジエンに由来する構成単位であることをいう。また、(c1)ブロックの1,2−ビニル基含量は、25%以下、好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下である。(c1)ブロックの1,2−ビニル基含量が25%超であると、水素添加後の結晶の融点の降下が著しく、機械的強度が低下し易くなる。
【0036】
(c1)ブロックの数平均分子量(Mn)は、25000〜630000であることが好ましく、100000〜480000であることが更に好ましい。(c1)ブロックの数平均分子量(Mn)が25000未満であると、機械的物性が低下する傾向にある。一方、(c1)ブロックの数平均分子量(Mn)が630000超であると、加工性が低下する傾向にある。なお、(C)成分中において、(c1)ブロックは水素添加されており、低密度ポリエチレンに類似の構造を示す。
【0037】
(c2)ブロックは、共役ジエン化合物に由来する構成単位を有する共役ジエン重合体ブロックである。この共役ジエン化合物としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレン等を挙げることができる。なかでも、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンが好ましく、1,3−ブタジエンが更に好ましい。なお、(c2)ブロックは、二種以上の単量体単位から構成されていてもよい。
【0038】
また、(c2)ブロックの1,2−ビニル結合含量は、25%以上、好ましくは25〜95%、更に好ましくは25〜85%である。(c2)ブロックの1,2−ビニル結合含量が25%未満であると、樹脂状の性状となり柔軟性が低下し易くなる。更に、(c2)ブロックに含有される1,2−ビニル結合含量は、(c1)ブロックの1,2−ビニル基含量よりも多い。(c2)ブロックに含有される1,2−ビニル結合含量が、(c1)ブロックに含有される1,2−ビニル結合含量を下回ると、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性が低下し易い。
【0039】
(c2)ブロックの数平均分子量(Mn)は、5000〜665000であることが好ましく、20000〜540000であることが更に好ましい。(c2)ブロックの数平均分子量(Mn)が5000未満であると、機械的物性が低下する傾向にある。一方、(c2)ブロックの数平均分子量(Mn)が665000超であると、加工性が低下する傾向にある。
【0040】
(c2)ブロック中には、ビニル芳香族重合体ブロックが含有されていてもよい。(c2)ブロック中にビニル芳香族重合体ブロックが含有されている場合、ビニル芳香族重合体ブロックの含有量は、(c2)ブロック全体を100質量%とした場合に、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。ビニル芳香族重合体ブロックを含有させることによりガラス転移温度が上昇し、低温特性及び柔軟性が低下し易い。この(c2)ブロックは、水素添加によりゴム状のエチレン−ブテン−1共重合体ブロック、又はビニル芳香族化合物−エチレン−ブテン−1共重合体と類似の構造を示す重合体ブロックとなる。
【0041】
ビニル芳香族化合物としては、スチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等を挙げることができる。なかでも、スチレンが好ましい。
【0042】
水添前共重合体であるブロック共重合体に含まれる(c1)ブロックと(c2)ブロックの合計を100質量部とした場合に、(c1)ブロックの含有割合は5〜90質量部であることが好ましく、10〜80質量部であることが更に好ましい。また、(c1)ブロックと(c2)ブロックの合計を100質量部とした場合に、(c2)ブロックの含有割合は10〜95質量部であることが好ましく、20〜90質量部であることが更に好ましい。(c1)ブロックの含有割合が5質量部未満((c2)ブロックの含有割合が95質量部超)であると、マトリックスとなる(A)成分に対して相対的に十分な結晶性を呈し難く、三次元網目構造を形成し難くなる傾向にある。一方、(c1)ブロックの含有割合が90質量部超((c2)ブロックの含有割合が10質量部未満)であると、過度に硬度が上昇する傾向にある。
【0043】
ブロック共重合体は、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;又はベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒等の不活性有機溶媒中、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物、又はビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とこれらと共重合可能な他の単量体を、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤としてリビングアニオン重合することにより得ることができる。なお、得られたブロック共重合体を水素添加することにより、(C)成分を容易に得ることができる。
【0044】
重合開始剤として用いられる有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物、有機ナトリウム化合物等を挙げることができる。なかでも、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等の有機リチウム化合物が好ましい。有機アルカリ金属化合物の使用量については特に限定はない。通常は、モノマー100質量部に対して、0.02〜15質量部、好ましくは0.03〜5質量部が用いられる。
【0045】
重合温度は、通常は、−10〜150℃、好ましくは0〜120℃である。更に、重合系の雰囲気は、窒素ガス等の不活性ガスにより置換することが好ましい。重合圧力は、モノマー及び溶媒を液相に維持するのに十分な圧力の範囲で行えばよく、特に限定されるものではない。
【0046】
単量体を重合系に投入する方法としては特に限定されないが、例えば、一括、連続的、間欠的、又はこれらを組み合わせた方法を挙げることができる。更には、重合に際しての、その他の共重合成分の添加量、極性物質の添加量、重合容器の個数と種類等、及び上記単量体の投入方法は、得られる水添ジエン系共重合体、及びその組成物、並びにその組成物を用いた成形体等の物性が好ましくなるよう適宜選択すればよい。
【0047】
なお、水添前共重合体(ブロック共重合体)は、複数の共重合体分子鎖がカップリング残基を介して結合した共重合体であってもよい。このような共重合体は、上述の方法で得られたブロック共重合体に対してカップリング剤を使用することにより調製可能である。
【0048】
使用することのできるカップリング剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、1,2,4−トリビニルベンゼン、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、ベンゼン−1,2,4−トリイソシアナート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、テレフタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,4−ビス(トリクロロメチル)ベンゼン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、テトラクロロシラン、(ジクロロメチル)トリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロスズ、1,3−ジクロロ−2−プロパノン等を挙げることができる。なかでも、ジビニルベンゼン、エポキシ化1,2−ポリブタジエン、トリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、テトラクロロシランが好ましい。
【0049】
(水素添加)
(C)成分は、上述のようにして得られたブロック共重合体を部分的又は選択的に水素添加することにより、得ることができる。水素添加の方法、反応条件については特に限定はなく、通常、20〜150℃、0.1〜10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で行われる。
【0050】
水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、又は反応時間等を変えることにより任意に選定することができる。水添触媒として、通常は、元素周期表Ib、IVb、Vb、VIb、VIIb、VIII族金属のいずれかを含む化合物、例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を用いることができる。具体的には、例えば、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン系化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の担体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rh等の有機金属化合物又は錯体;及び水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。なかでも、Ti、Zr、Hf、Co、Niのいずれかを含むメタロセン化合物は、不活性有機溶媒中、均一系で水添反応できる点で好ましい。更に、Ti、Zr、Hfのいずれかを含むメタロセン化合物が好ましい。特に、チタノセン化合物とアルキルリチウムとを反応させた水添触媒は安価で工業的に特に有用な触媒であるので好ましい。なお、上記水添触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。水添後は、必要に応じて触媒の残渣を除去し、又はフェノール系又はアミン系の老化防止剤を添加した後、(C)成分を単離する。(C)成分は、例えば、水添ジエン系共重合体溶液にアセトン又はアルコール等を加えて沈殿させる方法、水添ジエン系共重合体溶液を熱湯中に撹拌下投入し、溶媒を蒸留除去する方法等により単離することができる。
【0051】
(C)成分の水素添加率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましく、95〜100%であることが特に好ましい。(C)成分の水素添加率が80%未満であると、熱安定性及び耐久性が低下し易くなる傾向にある。
【0052】
(C)成分の数平均分子量(Mn)は、5万〜70万であることが好ましく、10万〜60万であることが更に好ましい。(C)成分の数平均分子量(Mn)が5万未満であると、耐熱性、強度、流動性、及び加工性が低下し易くなる傾向にある。一方、70万超であると、流動性、加工性、及び柔軟性が低下し易くなる傾向にある。なお、(C)成分は、例えば、特開平3−1289576号公報に開示される方法によって得ることができる。
【0053】
上述のようにして得られた複数の水添ブロック共重合体が、カップリング剤残基を介して連結されたものを、(C)成分として用いることもできる。即ち、(C)成分として、[(c1)−(c2)−(c1)−X]n−((c1)−(c2)−(c1))(但し、nは2〜4の整数、Xはカップリング剤残基を示す)であってもよい。更に、カップリング剤残基が、(c1)ブロック及び(c2)ブロックに対して分子量が十分に小さく、(C)成分の結晶性に影響しない範囲であれば[(c1)−(c2)−X]n−((c2)−(c1))(但し、nは2〜4の整数、Xはカップリング剤残基を示す)であってもよい。即ち、相対的に小さなカップリング剤残基を略して記載した場合に、[(c1)−(c2)]n−(c1)であってもよい。
【0054】
カップリング剤としては、アジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、テトラクロロケイ素、ブチルトリクロロケイ素、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、ジメチルクロロケイ素、テトラクロロゲルマニウム、1,2−ジブロムエタン、1,4−クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロロシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4−ベンゼントリイソシアネート等を使用することができる。
【0055】
また、(C)成分は、官能基で変性された変性水添ブロック共重合体であってもよい。この官能基としては、カルボキシル基、酸無水物基、ヒドロキシル基、エポキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、イソシアネート基、スルホニル基、及びスルホネート基からなる群より選択される少なくとも一種を使用することができる。変性方法は、公知の方法を使用することができる。この変性水添ブロック共重合体中の官能基の含有量は、水添ブロック共重合体を構成する構成単位全体を100mol%とした場合に、0.01〜10mol%であることが好ましく、0.1〜8mol%であることが更に好ましく、0.15〜5mol%であることが特に好ましい。官能基を導入するために使用できる好ましい単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等を挙げることができる。
【0056】
(熱可塑性エラストマー組成物)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる(A)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計を100質量%とした場合に、10〜94質量%であることが好ましく、15〜80質量%であることが更に好ましく、20〜80質量%であることが特に好ましい。(A)成分の含有量が10質量%未満であると、十分なゴム弾性を有する熱可塑性エラストマー組成物を得難くなる傾向にある。一方、(A)成分の含有量が94質量%超であると、十分な成形加工性を有する熱可塑性エラストマー組成物を得難くなる傾向にある。
【0057】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる(B)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計を100質量%とした場合に、5〜80質量%であることが好ましく、10〜75質量%であることが更に好ましく、15〜70質量%であることが特に好ましい。(B)成分の含有量が5質量%未満であると、十分なゴム弾性を有する熱可塑性エラストマー組成物を得難くなる傾向にある。一方、(B)成分の含有量が80質量%超であると、十分な弾性を有する熱可塑性エラストマー組成物を得難くなる傾向にある。
【0058】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる(C)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計を100質量%とした場合に、1〜80質量%であることが好ましく、2〜50質量%であることが更に好ましく、3〜40質量%であることが特に好ましい。(C)成分の含有量が1質量%未満であると、十分なゴム弾性を有する熱可塑性エラストマー組成物を得難くなる傾向にある。一方、(C)成分の含有量が80質量%超であると、十分な成形加工性を有する熱可塑性エラストマー組成物を得難くなる傾向にある。
【0059】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の、210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力は、5.0cN以上、好ましくは7.0cN以上、更に好ましくは8.0cN以上である。溶融張力が5.0cN未満であると、発泡させた場合に、発泡倍率が低く、また、破泡により独立した気泡が形成され難く、形成される気泡の形状が均一になり難い。従って、溶融張力が上記数値以上である本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を用いれば、高発泡倍率で、独立気泡性が高く、発泡気泡形状が均一である発泡体を得ることが可能となる。
【0060】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の、210℃で引き取った場合に切断される引取速度(溶融延展性)は、10m/min以上、好ましくは15m/min以上、更に好ましくは20m/min以上である。溶融延展性の指標となる引取速度が10m/min未満であると、発泡させた場合に、発泡倍率が低く、また、破泡により独立した気泡が形成され難く、形成される気泡の形状が均一になり難い。従って、引取速度が上記数値以上である本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を用いれば、高発泡倍率で、独立気泡性が高く、発泡気泡形状が均一である発泡体を得ることが可能となる。
【0061】
また、本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の、JIS K6262に準拠して、70℃、22時間で測定した圧縮永久歪みは、80%以下、好ましくは70%以下である。圧縮永久歪みが80%超であると、発泡させた場合に、得られる発泡体のゴム弾性、及び柔軟性が劣る。従って、圧縮永久歪みが上記数値以上である本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物を用いれば、ゴム弾性、及び柔軟性に優れた発泡体を得ることが可能となる。
【0062】
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物は、(A)成分からなるマトリックス中で、(B)成分及び(C)成分が三次元網目構造を形成していることが、より高発泡倍率で、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れた発泡体を得ることが可能となるために好ましい。なお、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計を100質量%とした場合に、(A)成分の含有量が、好ましくは20〜94質量%、(B)成分と(C)成分の合計の含有量が、好ましくは6〜80質量%、且つ、(B)成分と(C)成分の合計を100質量%とした場合に、(B)成分の含有量が、好ましくは20〜80質量%である場合に、特に安定して三次元網目構造とすることができる。
【0063】
(結晶性α−オレフィン系重合体)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物には、結晶性α−オレフィン系重合体を添加することができる。この結晶性α−オレフィン系重合体を添加することにより、得られる熱可塑性エラストマー組成物の表面をより平滑にすることができる。結晶性α−オレフィン共重合体としては、炭素数3以上のα−オレフィンを主成分とするものが好ましい。具体的には、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチル−ペンテン−1、ポリヘキセン−1、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体等を挙げることができる。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
結晶性α−オレフィン系重合体の添加量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び結晶性α−オレフィン系重合体の合計量を100質量%とした場合に、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、4質量%以下であることが特に好ましい。結晶性α−オレフィン系重合体の添加量を10質量%以下とすることにより、特に安定した三次元網目構造を得ることができ、また、特に圧縮永久歪みの小さい熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0065】
(鉱物油系軟化剤)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物には、鉱物油系軟化剤を含有させることができる。この鉱物油系軟化剤を含有させることにより、加工性及び柔軟性を向上させることができる。鉱物油系軟化剤としては、ナフテン系、パラフィン系の鉱物油等を挙げることができる。鉱物油系軟化剤の含有割合は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対して、200質量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることが更に好ましく、50質量部以下であることが特に好ましい。なお、鉱物油系軟化剤の添加方法及び添加する工程は、特に限定されない。
【0066】
(造核剤)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物には、造核剤を更に含有させることができる。含有させることのできる造核剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シリカ、チタニア等の無機化合物の粉末を挙げることができる。これらの造核剤を含有させることにより、セル径を容易に調整することができ、適度な柔軟性等を有する発泡体を得ることができる。造核剤の粒径は特に限定されないが、2〜50μmであることが好ましく、5〜20μmであることが更に好ましい。造核剤の粒径が2μm未満であると、造核剤としての効果が得られ難くなり、セル径が大きくなる傾向にある。一方、造核剤の粒径が50μm超であると、セルが粗大、かつ少数となり、発泡体が柔軟になり過ぎ、クッション性に劣る傾向にある。
【0067】
造核剤の含有割合は、熱可塑性エラストマー組成物に含まれる重合体成分の全量を100質量部とした場合に、0〜20質量部であることが好ましく、0.01〜15質量部であることが更に好ましく、0.1〜10質量部であることが特に好ましい。なお、造核剤は、例えば、ポリプロピレン系樹脂等を用いてマスターバッチとして成形機に添加することも好ましい。
【0068】
(添加剤)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物には、必要に応じて、各種の添加剤を含有させることができる。含有させることのできる添加剤としては、例えば、発泡剤、滑剤、老化防止剤、熱安定剤、HALS等の耐光剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、銅害防止剤等の安定剤、防菌剤、防黴剤、分散剤、可塑剤、難燃剤、粘着付与剤、酸化チタン、カーボンブラック及び有機顔料等の着色剤、フェライト等の金属粉末、ガラス繊維、金属繊維等の無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の有機繊維、複合繊維、チタン酸カリウムウィスカー等の無機ウィスカー、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、ポリマービーズ、ポリオレフィンワックス、セルロースパウダー、ゴム粉、木粉等の充填剤又はこれらの混合物、イソブチレン・イソプレン共重合体、シリコーンゴム等のゴム、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
【0069】
(熱可塑性エラストマー組成物の製造方法)
本実施形態の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、(A)成分と(B)成分を良好に分散することができる方法であれば、特に限定されない。例えば、密閉型混練機(ロールミル、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等)、一軸押出機、二軸押出機、及び連続式混練機等により、適宜の温度に加熱し、その後、適宜のせん断応力を与えながら混練し、十分に均一に混合することにより得ることができる。混練温度は、少なくとも(C)成分が溶融する温度以上とすることが好ましく、120〜280℃とすることが好ましい。溶融混練時間は、溶融混練する機械にもよるが10秒〜60分とすることが好ましい。
【0070】
2.発泡体
次に、本発明の発泡体の一実施形態について説明する。本実施形態の発泡体は、前述のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物を発泡させることにより得られるものである。本実施形態の発泡体は、化学架橋によらない三次元網目構造を有するものであり、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一である。また、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れたものである。
【0071】
本実施形態の発泡体は、後述の如く、不活性ガス又は発泡剤を用いて発泡させることにより得られるものであり、その発泡倍率は、好ましくは3倍以上、更に好ましくは5倍以上である。但し、不活性ガスを用いて発泡させた発泡体は、発泡剤を用いて発泡させた発泡体と比較して、発泡剤残渣がないために臭気がなく、またリサイクル性及びクッション感に優れている。
【0072】
本実施形態の発泡体の内部に形成される気泡の平均径(平均セル径)は、1〜200μmであることが好ましく、3〜150μmであることが更に好ましい。この範囲を外れると、クッション感が低下する傾向にある。なお、気泡の平均セル径は、発泡体の断面の拡大鏡写真より求めた値である。
【0073】
本実施形態の発泡体は、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れたものである。従って、本実施形態の発泡体は、例えば、インスツルメントパネルやグローブボックス等の自動車内装部品、ウェザーストリップ等の自動車外装部品、弱電部品、電化製品用防振材、その他の工業部品、建材、スポーツ用品等として好適である。
【0074】
3.発泡体の製造方法
(第一の発泡体の製造方法)
次に、本発明の第一の発泡体の製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態の第一の発泡体の製造方法は、溶融させた、前述のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物に不活性ガスを注入した後、押出発泡することを含む製造方法である。
【0075】
本実施形態の第一の発泡体の製造方法では、先ず、溶融状態の熱可塑性エラストマー組成物に、不活性ガスを注入する。不活性ガスとしては、気体、又は超臨界流体が好適に用いられる。
【0076】
超臨界流体としては、二酸化炭素や、窒素を超臨界状態としたものを使用することが好ましい。例えば、二酸化炭素であれば、温度31℃以上、圧力7.3MPa以上とすることにより、超臨界状態とすることができる。二酸化炭素は、比較的低い温度、圧力で超臨界状態となり、また溶融状態の熱可塑性エラストマー組成物中への含浸速度が速い。さらに、高濃度の混入が可能なために、発泡成形に適しており、微細な気泡を得ることができる。気体としては、二酸化炭素、窒素、空気等を使用することが好ましい。
【0077】
本発明の第一の発泡体の製造方法としては、前記熱可塑性エラストマー組成物を用いて発泡成形できる方法であれば特に限定されず、バッチ法、連続法のいずれの方法で行っても良い。具体的な製造方法としては、押出成型、射出成型、プレス成型等を挙げることができる。
【0078】
気体又は超臨界流体を、溶融状態の熱可塑性エラストマー組成物に注入して均一に混合すると、見掛け粘度が低下するために、流動性が向上する。更に、気体や超臨界流体を用いて熱可塑性エラストマー組成物を発泡させると、好ましくは3倍以上、更に好ましくは5倍以上の高発泡倍率とすることができる。従って、得られる発泡体の平均セル径をコントロールし易い。また、得られる発泡体のクッション感のコントロールもし易い。更に、気体又は超臨界流体を使用すると、得られる発泡体の平均セル径を小さくすることが可能となる。
【0079】
通常の気体を用いた場合には、超臨界流体を用いた場合に比べて、発泡倍率を上げることが困難である。但し、通常の気体を用いると、安価な設備により発泡体を製造することが可能である。
【0080】
(第二の発泡体の製造方法)
次に、本発明の第二の発泡体の製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態の第二の発泡体の製造方法は、前述のいずれかの熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、化学発泡剤0.01〜100質量部を配合して化学発泡剤混合原料を得、得られた化学発泡剤混合原料を発泡させることを含む製造方法である。
【0081】
本実施形態の第二の発泡体の製造方法では、先ず、熱可塑性エラストマー組成物に対して化学発泡剤を配合して化学発泡剤混合原料を得る。化学発泡剤は、樹脂材料の発泡成形に通常用いられるものであれば、特に限定されない。熱分解型発泡剤、揮発型発泡剤、中空粒子型発泡剤等が挙げられ、発泡体作製方法により適宜選択して用いることができる。これらの化学発泡剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。具体的には、商品名「ビニホールAC#3」(永和化成工業社製)、商品名「ポリスレンEE205」(永和化成工業社製)、商品名「エクスパンセル−092(DU)−120」(エクスパンセル社製)等を挙げることができる。
【0082】
化学発泡剤の配合量は、熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、0.01〜100質量部、特に好ましくは0.1〜100質量部とする。化学発泡剤の配合量が、熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して0.01未満であると、少な過ぎるために、十分な発泡倍率の発泡体を得ることが困難になる。一方、化学発泡剤の配合量を、熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対し100質量部超とすると、表面外観が劣るために好ましくない。
【0083】
次に、得られた化学発泡剤混合原料を発泡させる。発泡方法は特に限定されないが、押出発泡、射出発泡等の方法により、好ましくは3倍以上、更に好ましくは5倍以上の高発泡倍率で好適に発泡させることができる。これにより、本実施形態の発泡体を製造することができる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0085】
[諸特性の評価]:ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を使用して、メルトフローレート、及び溶融張力の測定を行った。また、射出成形機(商品名「N−100」、日本製鋼所社製)を使用し、熱可塑性エラストマー組成物を射出成形することによって、120mm×120mm×2mmの寸法の試験片を得、得られた試験片を使用して、硬度(デュロA)、引張応力、引張破断強度、引張破断伸び、及び圧縮永久歪みの測定を行った。
【0086】
[硬度(デュロA)]:JIS K6253に準拠して測定し、柔軟性の指標とした。
【0087】
[引張応力、引張破断強度、引張破断伸び]:JIS K6251に準拠して測定した。
【0088】
[メルトフローレート(MFR)]:JIS K7210に準拠して、230℃、98N荷重の条件下で測定し、流動性の指標とした。
【0089】
[圧縮永久歪み]:JIS K6262に準拠して、70℃、22時間で測定し、ゴム弾性の指標とした。
【0090】
[溶融張力、溶融延展性]:メルトテンションテスターII型(東洋精機製作所社製)を使用し、下記の条件で溶融張力、及び溶融延展性(引取速度)を測定した。
測定温度:210℃
オリフィス径:2mmφ
押出速度:10.0mm/min
【0091】
[三次元網目構造の有無の確認]:シート状の熱可塑性エラストマー組成物を使用し、ミクロトームを用いて厚み方向の薄膜片を作製した。この薄膜片をRuO4等により染色した後、透過型電子顕微鏡により2000倍の写真を撮影した。この写真に基づき、三次元網目構造の形成の有無を確認した。
【0092】
[発泡倍率]:熱可塑性エラストマー組成物の、発泡前の比重と発泡後の比重をそれぞれ測定し、下記式(1)に従って算出した。
発泡倍率=発泡前比重/発泡後比重 (1)
【0093】
[発泡性]:算出した発泡倍率から、以下に示す基準に従って評価した。
◎:発泡倍率3倍以上
○:発泡倍率1.5以上〜3倍未満
×:発泡倍率1.5倍未満
【0094】
[発泡体表面]:表面外観を目視にて評価した。
【0095】
[発泡セル状態]:拡大鏡を使用して発泡体の拡大写真(×100)を撮影し、目視にて評価した。
【0096】
1.熱可塑性エラストマー組成物
(水添ブロック共重合体の製造)
窒素置換された内容積50リットルの反応容器に、シクロヘキサン24kg、テトラヒドロフラン1g、1,3−ブタジエン1200g、及びn−ブチルリチウム3.3gを加え、70℃からの断熱重合を行った。反応完結後、温度を5℃としてテトラヒドロフラン340g、及び1,3−ブタジエン2800gを添加して断熱重合を行った。30分後、メチルジクロロシラン2.3gを添加し、15分反応を行った。反応完結後、水素ガスを0.4MPa−Gの圧力で供給し、20分間撹拌し、リビングアニオンとして生きているポリマー末端リチウムと反応させ、水素化リチウムとした。反応溶液を90℃とし、テトラクロロシラン7.2gを添加し、約20分間撹拌した後、チタノセン化合物を主体とした水添触媒を加え、水素圧0.8MPaで2時間水添反応を行った。水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、次いで、反応溶液を水中に撹拌投入して溶媒を水蒸気蒸留により除去することによって、水添ジエン系重合体である(c1)−(c2)−(c1)構造の水添ブロック共重合体を得た。
【0097】
得られた水添ブロック共重合体の水添率は99%、重量平均分子量(Mw)は30万、水添前共重合体の1段目のポリブタジエンブロック((c1)ブロック)のビニル結合含量は15%(片末端当たり)、水添前共重合体の2段目のポリブタジエンブロック((c2)ブロック)のビニル結合含量は78%であった。また、水添ブロック共重合体の230℃、21.2Nで測定したメルトフローレートは、2.5g/10minであった。
【0098】
(実施例1)
エチレン・α−オレフィン系共重合体(エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体、エチレン含量:66%、プロピレン含量:29.5%、5−エチリデン−2−ノルボルネン含量:4.5%、ムーニー粘度(ML1+4(125℃)):64、鉱物油系軟化剤含有量:100PHR)23部、結晶性ポリエチレン系樹脂(低密度ポリエチレン、商品名「ノバテックLE120」、日本ポリエチレン社製、密度:0.923g/cm3、MFR(温度230℃、荷重21.2N):0.3g/10分)42部、前記水添ブロック共重合体35部、及び老化防止剤(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、商品名「イルガノックス1010」、チバスペシャルティケミカルズ社製)0.1部をヘンシェルミキサーで混合した後、予め150℃に加熱した加圧型ニーダー(容量10リットル、モリヤマ社製)に投入した。結晶性ポリエチレン系樹脂が溶融して各成分が均一に分散するまで、32rpm(ずり速度200/sec)で15分間混練することにより、溶融状態の混練物を得た。得られた溶融状態の混練物を、フィーダールーダー(モリヤマ社製)を使用してペレット化することにより、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(実施例1)を得た。
【0099】
得られた熱可塑性エラストマー組成物の硬度(デュロA)は84、引張応力は4.0MPa(100%モジュラス)及び5.1MPa(300%モジュラス)、引張破断強度(TB)は12.5MPa、引張破断伸び(EB)は990%、MFRは4.8g/min、溶融張力は14.0cN、溶融延展性(引取速度)は13m/min、並びに圧縮永久歪みは51%であった。
【0100】
(実施例2)
エチレン・α−オレフィン系共重合体(エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体)23部、結晶性ポリエチレン系樹脂(低密度ポリエチレン、商品名「ノバテックLE120」、日本ポリエチレン社製)35部、前記水添ブロック共重合体35部、結晶性α−オレフィン共重合体(プロピレン・エチレンブロック共重合体、商品名「ノバテックBC5CW」、日本ポリプロ社製、密度:0.90g/cm3、MFR(温度230℃、荷重21.2N):3.0g/10分)7部、及び老化防止剤0.1部を用いて実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(実施例2)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物の各種物性値の測定結果を表1に示す。
【0101】
(実施例3)
エチレン・α−オレフィン系共重合体(エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体)23部、結晶性ポリエチレン系樹脂(低密度ポリエチレン、商品名「ノバテックLE120」、日本ポリエチレン社製)42部、前記水添ブロック共重合体25部、鉱物油系軟化剤(商品名「ダイアナプロセスオイルPW90」、出光興産社製、流動点:−15℃、動粘度(40℃):95.54cSt)10部、及び老化防止剤0.1部を用いて実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(実施例3)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物の各種物性値の測定結果を表1に示す。
【0102】
(比較例1)
実施例1において、結晶性ポリエチレン系樹脂(低密度ポリエチレン、商品名「ノバテックLE120」、日本ポリエチレン社製)を結晶性α−オレフィン共重合体(プロピレン・エチレンブロック共重合体、商品名「ノバテックBC5CW」、日本ポリプロ社製)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(比較例1)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物の各種物性値の測定結果を表1に示す。
【0103】
(比較例2)
エチレン・α−オレフィン系共重合体(エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体)65部、結晶性α−オレフィン共重合体(プロピレン・エチレンブロック共重合体、商品名「ノバテックBC5CW」、日本ポリプロ社製)35部、及び老化防止剤0.1部を用いて実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(比較例2)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物の各種物性値の測定結果を表1に示す。
【0104】
(比較例3)
エチレン・α−オレフィン系共重合体(エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体)65部、結晶性ポリエチレン系樹脂(低密度ポリエチレン、商品名「ノバテックLE120」、日本ポリエチレン社製)35部、及び老化防止剤0.1部を用いて実施例1と同様の操作を行い、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(比較例3)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物の各種物性値の測定結果を表1に示す。
【0105】
(比較例4)
エチレン・α−オレフィン系共重合体(エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体)65部、結晶性α−オレフィン共重合体(プロピレン・エチレンブロック共重合体、商品名「ノバテックBC5CW」、日本ポリプロ社製)35部、及び老化防止剤0.1部を用いて実施例1と同様の操作を行い、ペレット化した。ペレット化した混練物100.1部に対して、架橋剤(5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、商品名「パーヘキサ25B−40」、日本油脂社製)0.5部、及び架橋助剤(ジビニルベンゼン、新日鉄化学社製、純度:81%)0.5部をヘンシェルミキサーに投入し、30秒間混合した。その後、二軸押出機(同方向完全噛み合い型スクリュー、スクリューフライト部の長さ(L)とスクリュー直径(D)との比(L)/(D)=33.5、商品名「PCM45」、池貝社製)を使用し、180℃、滞留時間1分30秒、300rpm、ずり速度400/secの処理時間で動的熱処理を行いながら押し出して、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物(比較例4)を得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物の各種物性値の測定結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
表1に示すように、実施例1〜3の熱可塑性エラストマー組成物は、5.0cN以上の高溶融張力、10m/min以上の高溶融延展性を示していることが分かる。また、圧縮永久歪みが非常に小さいことが明らかである。更に、実施例1〜3ではいずれにおいても電子顕微鏡写真で三次元網目構造が確認された。これに対して、比較例1〜4の熱可塑性エラストマー組成物では、三次元網目構造が確認されなかった。また、比較例1、2の熱可塑性エラストマー組成物は圧縮永久歪みが大きく、比較例2〜4の熱可塑性エラストマーは溶融延展性が低いものであった。
【0108】
2.発泡体
(1)超臨界流体発泡
[方法A]:20kgの熱可塑性エラストマー組成物を、下記の条件で作動する超臨界流体供給装置付きタンデム型押出発泡成形装置のホッパから投入し、押出発泡させることにより発泡体を得た。
第1成形機:ホッパ投入量20kg、回転数70rpm、ヒータ温度(シリンダ内温度)200℃、シリンダ内圧力15MPa
超臨界流体:二酸化炭素、超臨界流体供給量(超臨界流体濃度):3質量%
第2成形機:回転数10rpm、ヒータ温度(シリンダ内温度)最上流側160℃、最下流側130℃、シリンダ内圧力8MPa
ダイ:ダイ温度130℃、圧力差8MPa
【0109】
(2)化学発泡
[方法A]:熱可塑性エラストマー組成物100部に対して、湿潤剤1部、及び化学発泡剤を添加して撹拌混合し、マスターバッチを得た。得られたマスターバッチを、直径40mmの単軸押出機(田辺プラスチック社製、L/D=28、幅20mm、高さ1.5mmの口金T−ダイ、発泡温度220℃、回転数20rpm、フルフライトスクリュー)に入れ、押出発泡させることにより発泡体を得た。
【0110】
[方法B]:熱可塑性エラストマー組成物100部に対して、湿潤剤1部、及び化学発泡剤を添加して撹拌混合し、マスターバッチを得た。得られたマスターバッチを、射出成型機(型式「IS−90B」、東芝機械社製、平板金型=長さ100mm、幅100mm、高さ3.5〜6.5mm、発泡温度220℃)に入れ、射出成形発泡させることにより発泡体を得た。
【0111】
[方法C]:熱可塑性エラストマー組成物100部に対して、160℃に設定した電熱ロール(関西ロール社製)を用いて化学発泡剤を添加するとともにシート状に成形し、発泡剤を含有する熱可塑性エラストマー組成物からなるシートを得た。得られたシートを、10cm×10cm、厚さ0.5cmの金型に入れ、220℃の電熱プレス成形機で10分加熱加圧して金型発泡させることにより発泡体を得た。
【0112】
(実施例4)
実施例1の熱可塑性エラストマー組成物を使用し、超臨界流体発泡[方法A]に従って発泡させることにより、発泡体(実施例4)を得た。得られた発泡体の発泡倍率は5倍、発泡性は「◎」、発泡体表面は「平滑」、発泡セル状態は「均一」であった。
【0113】
(実施例5)
実施例1の熱可塑性エラストマー組成物100部に対して、湿潤剤1部、及び以下に示す発泡剤(1)10部を添加して、化学発泡[方法A]に従って発泡させることにより、発泡体(実施例5)を得た。得られた発泡体の発泡倍率は10倍、発泡性は「◎」、発泡体表面は「平滑」、発泡セル状態は「均一」であった。
【0114】
(実施例6〜11、比較例5〜8)
表2に示すそれぞれの熱可塑性エラストマー組成物を使用するとともに、表2に示す発泡方法に従って発泡させることにより、発泡体(実施例6〜11、比較例5〜8)を得た。得られた発泡体の発泡性、発泡体表面、及び発泡セル状態の評価結果を表2に示す。なお、表2に示す発泡剤(1)〜(3)は、以下に示すものである。
【0115】
発泡剤(1):熱分解型発泡剤、商品名「ビニホールAC#3」(永和化成工業社製、熱分解温度:208℃)
発泡剤(2):熱分解型発泡剤、商品名「ポリスレンEE206」(永和化成工業社製、熱分解温度:200℃)
発泡剤(3):中空粒子型発泡剤、商品名「エクスパンセル−092(DU)−120」(エクスパンセル社製、最大熱膨張温度:180℃)
【0116】
【表2】

【0117】
表2に示すように、超臨界流体発泡方法を用いた実施例4の発泡体の発泡気泡は、独立気泡性が高く、その大きさ及び形状が均一であり、かつ表面外観に優れていることが分かる。また、発泡体の全体にわたって均一に発泡しており、かつ、3倍以上の高倍率で発泡していることも分かる。
【0118】
また、表2に示すように、化学発泡方法を用いた実施例5の発泡体の発泡気泡は、独立気泡性が高く、その大きさ及び形状が均一であり、かつ表面外観に優れていることが分かる。また、発泡体の全体にわたって均一に発泡しており、かつ、3倍以上の高倍率で発泡していることも分かる。
【0119】
また、表2に示すように、実施例6〜11の発泡体は、発泡倍率が高く、発泡セル状態が均一であるとともに表面が平滑であり、表面外観に優れたものであることが明らかである。これに対して、比較例4〜6では良好な発泡体は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、独立気泡性が高く発泡気泡形状が均一であるとともに、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れた発泡体を得ることが可能な、柔軟性、成形加工性、及び表面外観に優れたものである。従って、この熱可塑性エラストマー組成物を発泡させることにより得られる本発明の発泡体は、ゴム弾性、柔軟性、及び表面外観に優れたものであり、例えば、インスツルメントパネルやグローブボックス等の自動車内装部品、ウェザーストリップ等の自動車外装部品、弱電部品、電化製品用防振材、その他の工業部品、建材、スポーツ用品等として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体と、
(B)結晶性ポリエチレン系樹脂と、
(C)下記水添ブロック共重合体と、を含有し、
210℃、引取速度2.0m/minにおける溶融張力が5.0cN以上、
210℃で引き取った場合に切断される引取速度が10m/min以上、及び
JIS K6262に準拠して、70℃、22時間で測定した圧縮永久歪みが80%以下である熱可塑性エラストマー組成物。
(C)水添ブロック共重合体:両末端に1,2−ビニル結合含量が25%以下の(c1)共役ジエン重合体ブロックを有するとともに、中間に1,2−ビニル結合含量が25%超の(c2)共役ジエン重合体ブロックを有するブロック共重合体、を水素添加してなる水添ブロック共重合体。
【請求項2】
前記(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体からなるマトリックス中で、
前記(B)結晶性ポリエチレン系樹脂及び前記(C)水添ブロック共重合体が三次元網目構造を形成している請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記ブロック共重合体に含まれる前記(c1)共役ジエン重合体ブロックと前記(c2)共役ジエン重合体ブロックの合計を100質量部とした場合に、
前記(c1)共役ジエン重合体ブロックの含有割合が5〜90質量部、及び
前記(c2)共役ジエン重合体ブロックの含有割合が10〜95質量部であり、
前記(C)水添ブロック共重合体の、水素添加率が80%以上、数平均分子量(Mn)が5万〜70万である請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体の含有量が10〜94質量%、
前記(B)結晶性ポリエチレン系樹脂の含有量が5〜80質量%、及び
前記(C)水添ブロック共重合体の含有量が1〜80質量%(但し、(A)+(B)+(C)=100質量%)である請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記(A)エチレン・α−オレフィン系共重合体、前記(B)結晶性ポリエチレン系樹脂、及び前記(C)水添ブロック共重合体の合計100質量部に対して、
200質量部以下の鉱物油系軟化剤を更に含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物を発泡させることにより得られる発泡体。
【請求項7】
溶融させた請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物に不活性ガスを注入した後、発泡させることを含む発泡体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物100質量部に対して、化学発泡剤0.01〜100質量部を配合して化学発泡剤混合原料を得、得られた前記化学発泡剤混合原料を発泡させることを含む発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2007−169527(P2007−169527A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370984(P2005−370984)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】