説明

熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法

【課題】柔軟性、弾性回復性等の機械的特性と成形加工性とのバランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物をより安定的に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、未架橋ゴムと、熱可塑性樹脂と、架橋剤とを含有する原料組成物を、上流に連続式異方向回転二軸混練機、及び、下流に同方向回転二軸押出機を直列に配設した押出装置の該連続式異方向回転二軸混練機の原料導入部より供給し、該連続式異方向回転二軸混練機により該原料組成物を混合分散させ、その後、該連続式異方向回転二軸混練機による混練物を該同方向回転二軸押出機へ供給して、動的架橋された熱可塑性エラストマー組成物を製造する方法であり、上記押出機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは80〜100%であり、且つ、上記混練機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは、上記架橋度Zの85%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、弾性回復性等の機械的特性と成形加工性のバランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物に関する。また、本発明は、この熱可塑性エラストマー組成物を安定して製造できる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
未架橋ゴムとポリオレフィン系樹脂とを架橋剤の存在下で動的に熱処理して得られた熱可塑性エラストマー組成物は、成形品への加工が容易である。この熱可塑性エラストマー組成物は、各種技術分野への応用が広まっている。
【0003】
この熱可塑性エラストマーの製造方法は、例えば、下記特許文献1及び2に開示されている。特許文献1には、直列に連結された二機の混練機を用いて、連続的に製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、平均粒子径が小さく、粒子径分布の狭い架橋ゴムを含む熱可塑性エラストマー組成物の製造方法が開示されている。この方法は、未架橋ゴムと、ポリオレフィン系樹脂と、を含有する原料組成物を混合分散する混合工程及び混練物を動的に架橋する架橋工程を連続して行う。この方法は、架橋工程の前に、混合工程で得られた混練物の温度を、用いられる有機過酸化物(架橋剤)の1分間半減期温度の±30℃以内に制御することを特徴とする。
【0004】
【特許文献1】特開平11−310646号公報
【特許文献2】特開2002−201313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、上記の製造方法により製造された熱可塑性エラストマー組成物と同等又はそれ以上に柔軟性、弾性回復性等の機械的特性と成形加工性とのバランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物の開発が望まれている。また、この熱可塑性エラストマーを、より一層安定して製造する方法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものである。本発明は、柔軟性、弾性回復性等の機械的特性と成形加工性のバランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、この熱可塑性エラストマー組成物を安定して製造できる熱可塑性エラストマー組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示される。
(1)未架橋ゴム(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、架橋剤(C)とを含有する原料組成物を、上流に連続式異方向回転二軸混練機及び下流に同方向回転二軸押出機を直列に配設した押出装置の該連続式異方向回転二軸混練機の原料導入部より供給し、該連続式異方向回転二軸混練機により該原料組成物を混合分散させ、その後、該連続式異方向回転二軸混練機による混練物を該同方向回転二軸押出機へ供給して、動的架橋された熱可塑性エラストマー組成物を得る熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは80〜100%であり、且つ、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは、上記架橋度Zの85%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(2)上記熱可塑性樹脂(B)の融点をTmとした場合、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物の温度が、Tm(℃)以上〔Tm+100〕(℃)以下である上記(1)記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(3)上記架橋剤(C)は有機過酸化物を含有し、上記熱可塑性樹脂(B)の融点をTm、上記有機過酸化物の1分間半減期温度をTとした場合、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物の温度が、Tm(℃)以上〔Tm+100〕(℃)以下であり、且つ、〔T−30〕(℃)以上〔T+30〕(℃)以下である上記(1)又は(2)記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(4)上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物が、ゴム成分/熱可塑性樹脂を海/島構造とする相構造、ゴム成分/熱可塑性樹脂を島/海構造とする相構造、又はゴム成分/熱可塑性樹脂を各々、両連続構造とする相構造を備え、且つ、上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物が、架橋ゴム成分/熱可塑性樹脂を島/海構造とする相構造を備える上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(5)上記連続式異方向回転二軸混練機のシリンダーの温度がTm(℃)以下である上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(6)上記同方向回転二軸押出機のシリンダーの温度が〔Tm−30〕(℃)以上〔Tm+200〕(℃)以下である上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(7)上記熱可塑性樹脂(B)はポリオレフィン系樹脂であり、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物の温度はTm(℃)以上〔Tm+100〕(℃)以下、上記連続式異方向回転二軸混練機のシリンダーの温度がTm(℃)以下であり、且つ該出口の混練物の温度と該シリンダーの温度との差が100℃以下であり、上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物の温度は、〔Tm+10〕(℃)以上〔Tm+200〕(℃)以下、上記同方向回転二軸押出機のシリンダーの温度が〔Tm−30〕(℃)以上〔Tm+200〕(℃)以下であり、且つ該出口の混練物の温度と該シリンダーの温度との差が100℃以下である上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(8)上記ポリオレフィン系樹脂の融点は60〜200℃であり、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物の温度は60〜200℃、上記連続式異方向回転二軸混練機のシリンダーの温度は30〜100℃、且つ該出口の混練物の温度と該シリンダーの温度との差が100℃以下であり、
上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物の温度は70〜400℃、上記同方向回転二軸押出機のシリンダーの温度は20〜400℃であり、且つ該出口の混練物の温度と該シリンダーの温度との差が100℃以下である請求項7記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(9)上記連続式異方向回転二軸混練機の比エネルギーE1が0.01〜2.0kW・hr/kg、上記同方向回転二軸押出機の比エネルギーE2が0.1〜10kW・hr/kgであり、且つE1<E2である上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(10)上記連続式異方向回転二軸混練機及び上記同方向回転二軸押出機で加える剪断力は、ずり速度で100〜20,000/秒であることを特徴とする上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(11)上記未架橋ゴム(A)が、クラム状及び/又は粉末状の未架橋ゴムであることを特徴とする上記(1)乃至(10)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
(12)上記(1)乃至(11)のいずれかに記載の方法により得られたことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法によれば、所望の架橋度を有する熱可塑性エラストマー組成物を効率よく製造することができる。また、上記成分の混合分散及び動的架橋を連続して行うことにより、機械的物性と成形加工性のバランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0009】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、動的に架橋されているので、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、真空成形、積層成形、カレンダー成形等による加工が容易となる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いると、ゴム弾性等機械的物性に優れた熱可塑性エラストマー成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、未架橋ゴム(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、架橋剤(C)とを含有する原料組成物を、上流に連続式異方向回転二軸混練機、及び、下流に同方向回転二軸押出機を直列に配設した押出装置の該連続式異方向回転二軸混練機の原料導入部より供給し、該連続式異方向回転二軸混練機により該原料組成物を混合分散させ、その後、該連続式異方向回転二軸混練機による混練物を該同方向回転二軸押出機へ供給して、動的架橋された熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であり、上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは80〜100%であり、且つ、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは、上記架橋度Zの85%以下であることを特徴とする。
【0011】
尚、上記架橋度Z及びZはゴムのシクロヘキサン不溶解分を意味する。このゴムのシクロヘキサン不溶分の測定方法は後述する。また、上記熱可塑性樹脂(B)の融点Tmは、JIS K7121に準じて測定される融点である。上記熱可塑性樹脂(B)が2種以上の熱可塑性樹脂を含む場合、上記Tmは高い方とする。
【0012】
(1)原料組成物
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に用いる原料組成物は、未架橋ゴム(A)、熱可塑性樹脂(B)、及び架橋剤(C)を含有する。
【0013】
(1−1)未架橋ゴム(A)
上記未架橋ゴム(A)は、架橋剤により架橋構造を形成することができるものであれば、その種類、構造等には特に限定はない。尚、上記未架橋ゴム(A)は、エラストマーを含む広い意味に用いる。
【0014】
上記未架橋ゴム(A)として具体的には、例えば、エチレン共重合ゴム(エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム、エチレン・アクリレートゴム等)、ジエン系ゴム(イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、イソブチレン−イソプレン共重合ゴム(ブチルゴム)、ノルボルネンゴム、1,2−ポリブタジエン等)、ニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、及びホスファゼンゴム等が挙げられる。これらのうち、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムが好ましく用いられる。また、上記未架橋ゴム(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0015】
上記「エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム」(以下、単に「共重合ゴム」ともいう)は、エチレン単量体単位と、エチレンを除く炭素数が3以上のα−オレフィンからなる単量体単位とを含む共重合体である。上記エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記エチレン単量体単位の含有量は、共重合ゴムを構成する単量体単位の全量を100モル%とした場合、好ましくは30〜95モル%、より好ましくは35〜90モル%、特に好ましくは45〜85モル%である。エチレン単量体単位の含有量を上記範囲とすると、十分な柔軟性及び機械的強度を有する熱可塑性エラストマー組成物が得られるので好ましい。
【0017】
この共重合ゴムを構成するα−オレフィンの炭素数は、通常3〜12、好ましくは3〜10、更に好ましくは3〜8である。上記α−オレフィンとして具体的には、例えば、プロペン(以下「プロピレン」という。)、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、及び1−ウンデセン等が挙げられる。上記α−オレフィンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記α−オレフィンとしてプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン及び1−オクテンが好ましく、プロピレン及び1−ブテンがより好ましい。
【0018】
上記α−オレフィンからなる単量体単位の含有量は、共重合ゴムを構成する単量体単位の全量を100モル%とした場合、好ましくは5〜55モル%、より好ましくは10〜53モル%、特に好ましくは15〜45モル%である。上記α−オレフィンの含有量が上記範囲であると、必要なゴム弾性を有し、耐久性の高い熱可塑性エラストマー組成物を得ることができるので好ましい。
【0019】
この共重合ゴムは、必要に応じて、更に非共役ジエンからなる単量体単位を含んでいてもよい。上記非共役ジエンとして具体的には、例えば、(1)1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、及び1,6−ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン化合物、(2)5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、5,7−ジメチルオクタ−1,6−ジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、7−メチルオクタ−1,6−ジエン、及びジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン化合物、並びに(3)テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]−ヘプタ−2,5−ジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、及び5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン等の脂環式ジエン化合物等が挙げられる。上記非共役ジエンは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記非共役ジエンとして、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、及び5−エチリデン−2−ノルボルネン等が好ましい。
【0020】
上記非共役ジエンからなる単量体単位の含有量は、共重合ゴムを構成する単量体単位の全量を100モル%とした場合、好ましくは0〜15モル%、より好ましくは0〜12モル%、特に好ましくは0〜10モル%である。
【0021】
上記共重合ゴムとして、エチレン・α−オレフィン二元共重合体及びエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン三元共重合体、並びに更に他のモノマーを共重合させて得られた四元共重合体等が好ましく用いられる。上記エチレン・α−オレフィン二元共重合体としては、エチレン・プロピレン二元共重合体(以下、単位「EPM」という)及びエチレン・1−ブテン二元共重合体(以下、単に「EBM」という)が特に好ましく用いられる。また、上記エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン三元共重合体としては、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン三元共重合体、エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体、エチレン・1−ブテン・ジシクロペンタジエン三元共重合体、及びエチレン・1−ブテン・5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体が特に好ましく用いられる。
【0022】
上記共重合ゴムは、上記二元共重合体及び上記三元共重合体等の他、これらの重合体を変性させた変性共重合体を用いることができる。該変性共重合体としは、例えば、上記二元共重合体及び上記三元共重合体等の重合体の水素原子を、ハロゲン原子、エポキシ基、又はカルボキシル基等で置換した重合体、及び他の種々のモノマーをグラフト重合させた重合体等が挙げられる。上記変性共重合体としてより具体的には、例えば、〔1〕上記重合体の有する水素原子の一部が塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子に置換されているハロゲン化共重合体、〔2〕塩化ビニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の誘導体〔(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリルアミド等〕、マレイン酸、マレイン酸の誘導体(無水マレイン酸、マレイミド、マレイン酸ジメチル等)、及び共役ジエン(ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等)等の不飽和モノマーを上記二元共重合体、上記三元共重合体及び上記ハロゲン化共重合体等に対してグラフト重合したグラフト共重合体等が挙げられる。上記変性共重合体は1種単独で用いてもよく、2種以上併用することもできる。
【0023】
上記エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムの極限粘度[η](デカリン溶媒中、135℃で測定)は、好ましくは2.0〜7.0dl/gであり、より好ましくは3.0〜6.8dl/g、更に好ましくは4.0〜6.5dl/gである。上記極限粘度が上記範囲内であると、鉱物油系軟化剤のブリードアウトを抑制すると共に、必要なゴム弾性及び成形加工性を有する熱可塑性エラストマー組成物を得ることができるので好ましい。上記極限粘度[η]は、共重合体ゴムを製造する際に、触媒量及び分子量調整剤量(例えば水素)等の条件を調整することにより、上記範囲内に制御することができる。
【0024】
また、上記エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムのX線回折による結晶化度は、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。上記結晶化度が上記範囲内であると、得られる成形部(A)の柔軟性の低下を抑制できるので好ましい。
【0025】
更に、上記エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムのヨウ素価は、好ましくは5〜30、より好ましくは7〜20である。上記ヨウ素価が上記範囲であると、得られる成形部(A)における架橋密度を適切な範囲とすることができ、成形部(A)の機械的物性を向上させることができる。
【0026】
上記エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムは、例えば、中・低圧法による重合方法により得ることができる。上記中・低圧法による重合方法として具体的には、例えば、チーグラー・ナッタ触媒と、可溶性バナジウム化合物と、有機アルミニウム化合物とを含む溶媒からなる触媒の存在下で、単量体(エチレン及びα−オレフィン、必要に応じて非共役ジエン)を、必要に応じて分子量調節剤として水素を供給しつつ重合する方法等が挙げられる。また、その重合は気相法(流動床又は攪拌床)、液相法(スラリー法又は溶液法)でも行うことができる。
【0027】
上記可溶性バナジウム化合物として具体的には、例えば、VOCl及びVClの少なくとも一方とアルコールとの反応生成物を用いることが好ましい。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−デカノール及びn−ドデカノール等を用いることができるが、これらのうち、炭素数3〜8のアルコールが好ましく用いられる。
【0028】
また、上記有機アルミニウム化合物として具体的には、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロリド、ジイソブチルアルミニウムモノクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジクロリド、及びトリメチルアルミニウムと水との反応生成物であるメチルアルミノキサン等が挙げられる。これらのうち、特にエチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリドとトリイソブチルアルミニウムとの混合物、トリイソブチルアルミニウムとブチルアルミニウムセスキクロリドとの混合物が好ましく用いられる。
【0029】
更に、上記溶媒としては、炭化水素系溶媒が好ましく用いられる。上記炭化水素系溶媒としては、特にn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、及びシクロヘキサンが好ましく用いられる。上記溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記未架橋ゴム(A)として、上記未架橋ゴム(A)に鉱物油系軟化剤を添加した油展ゴムを使用することもできる。例えば、上記共重合ゴムとして、上記共重合ゴムに鉱物油系軟化剤を添加した油展ゴムを使用することもできる。該油展ゴムは、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造する上で取り扱いが容易であるために好ましい。上記油展ゴム中の上記未架橋ゴム(A)と上記鉱物油系軟化剤の含有割合は、それぞれ20〜80質量%であることが好ましく、25〜75質量%であることが更に好ましく、30〜70質量%であることが特に好ましい。尚、上記鉱物油系軟化剤については後述する。
【0031】
上記未架橋ゴム(A)(上記共重合ゴム及び上記油展ゴム等)の形態には特に限定はない。上記未架橋ゴム(A)は、ベール、クラム、ペレット、及び粉体(ベール粉砕品を含む)のうちのいずれの形態でもよい。上記「クラム」とは、クラム状又は粒状のゴムである。クラムサイズとしては、数平均粒子径が5cm以下、より好ましくは4cm以下、更に好ましくは3cm以下である。また、数平均粒子径が通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは1mm以上である。上記数平均粒子径が5cm以下のクラムでは、熱可塑性エラストマー組成物を製造時に安定的・定量的に異方向連続式混練機へ供給することができるので好ましい。また、粉末状ゴムとは、ゴムを凝固、乾燥したままで得られる状態のゴムでもよいし、クラム又はクラムを固めたベールゴムを機械的に砕いたゴムであってもよい。
【0032】
上記未架橋ゴム(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)の合計を100質量部とした場合、該未架橋ゴム(A)の配合量は、20〜95質量部であり、好ましくは40〜94質量部、より好ましくは60〜93質量部である。上記未架橋ゴム(A)の配合量が20質量部以上であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性及び弾性を向上させることができるので好ましい。また、上記未架橋ゴム(A)の配合量が95質量部以下であると、最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物の流動性が向上し、成形加工性を高めることができるので好ましい。
【0033】
(1−2)熱可塑性樹脂(B)
上記熱可塑性樹脂(B)として具体的には、例えば、ポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリスチレン及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアセタール樹脂;ウレタン系樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド及びポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂;ポリエーテルケトン及びポリエーテルエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン及びポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキサイド;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;ポリビニルブチラール;ポリ塩化ビニル及びポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;アイオノマー樹脂等が挙げられる。該アイオノマー樹脂は、エチレン単位及び不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等)からなる単位を含み、このカルボキシル基が多価(Mg、Ca、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Pb等)及び/又は一価(Li、Na等)の金属イオンにより所定割合で中和された樹脂である。該アイオノマー樹脂は、必要に応じて他の単位((メタ)アクリル酸アルキル(メチル、エチル等)エステル、酢酸ビニル等からなる単位)を含んでいてもよい。上記各種の樹脂は、通常用いられているものを用いることができる。上記熱可塑性樹脂(B)としては、ポリオレフィン系樹脂等が好ましい。尚、上記熱可塑性樹脂(B)は、結晶性の有無に関わりなく用いることができる。上記熱可塑性樹脂(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0034】
上記ポリオレフィン系樹脂は、炭素数が2以上のオレフィンからなる単位を1種以上含む樹脂であれば、その構造等に特に限定はない。上記ポリオレフィン系樹脂は、結晶性ポリオレフィン系樹脂単独でもよいし、非晶質ポリオレフィン系樹脂単独でもよいし、両者を組み合わせたものでもよい。上記ポリオレフィン系樹脂として好ましくは、両者を組み合わせたものである。
【0035】
上記「結晶性ポリオレフィン系樹脂」(以下、単に「結晶性重合体(b1)」ともいう)の構造等には特に限定はない。上記結晶性重合体(b1)として、α−オレフィン単量体単位を主成分とする重合体が好ましく用いられる。即ち、上記結晶性重合体(b1)を構成する単量体単位の全量を100モル%とした場合に、α−オレフィン単量体単位を80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有する重合体が好ましい。上記結晶性重合体(b1)は、α−オレフィンの単独重合体でもよく、2種以上のα−オレフィンの共重合体でもよく、α−オレフィンではない単量体との共重合体でもよい。また、これらの異なる2種以上の重合体及び/又は共重合体の混合物でもよい。
【0036】
上記結晶性重合体(b1)を構成するα−オレフィンとしては、炭素数3以上のα−オレフィンを用いることが好ましく、上記共重合ゴムと同様に、炭素数3〜12、好ましくは3〜10、更に好ましくは3〜8のα−オレフィンを用いることがより好ましい。尚、上記結晶性重合体(b1)がエチレンとの共重合体である場合、この共重合体を構成する単量体単位の全量を100モル%とした場合に、エチレン単量体単位の含有量は40モル%以下(より好ましくは20モル%以下)、即ち、α−オレフィン単量体単位の含有量は60モル%以上(より好ましくは80モル%以上)であることが好ましい。
【0037】
上記結晶性重合体(b1)が共重合体である場合、この共重合体は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれでもよい。但し、ランダム共重合体では、下記の結晶化度の共重合体を得るために、ランダム共重合体を構成する単量体単位の全量を100モル%とした場合、α−オレフィンを除く単量体単位の合計含量を15モル%以下、更には10モル%以下とすることが好ましい。このようなランダム共重合体は、例えば上記共重合ゴムと同様な方法により得ることができる。また、ブロック共重合体では、下記の結晶化度の共重合体を得るために、ブロック共重合体を構成する単位の全量を100モル%とした場合、α−オレフィンを除く単量体単位の合計含量を40モル%以下、更には20モル%以下とすることが好ましい。このようなブロック共重合体は、チーグラー・ナッタ触媒を用いるリビング重合により得ることができる。
【0038】
上記結晶性重合体(b1)は結晶性を有する。この結晶性は、X線回折測定による結晶化度で表すことができる。上記結晶性重合体(b1)のX線回折測定による結晶化度は50%以上、より好ましくは53%以上、更に好ましくは55%以上とすることができる。また、上記結晶化度は、密度と密接に関係している。例えば、ポリプロピレンの場合、α型結晶(単斜晶形)の密度は0.936g/cm、スメチカ型微結晶(擬六方晶形)の密度は0.886g/cm、非晶質(アタクチック)成分の密度は0.850g/cmである。更に、ポリ−1−ブテンの場合、アイソタクチック結晶成分の密度は0.91g/cm、非晶質(アタクチック)成分の密度は0.87g/cmである。従って、結晶化度が50%以上の上記結晶性重合体(b1)を得ようとすると、密度は0.89g/cm以上(より好ましくは0.90〜0.94g/cm)とすることが好ましい。この結晶化度が50%以上、密度が0.89g/cm以上であると、耐熱性及び強度等の低下を抑制できるので好ましい。
【0039】
上記結晶性重合体(b1)の示差走査熱量測定法による最大ピーク温度、即ち、融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上である。上記結晶性重合体(b1)の示差走査熱量測定法による最大ピーク温度は、JIS K7121に準じて測定された温度である。上記融点が100℃以上であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物が十分な耐熱性及び強度を発揮するので好ましい。また、上記融点は、構成される単量体により異なるが120℃以上であることが好ましい。尚、上記結晶性重合体(b1)を2種以上含む場合、上記「融点」は、各成分の含有割合及び融点から計算される平均温度である。
【0040】
また、温度230℃、荷重2.16kgにおける上記結晶性重合体(b1)のメルトフローレート(以下、単に「MFR」という)は、通常0.1〜100g/10分、好ましくは0.5〜80g/10分である。上記MFRが0.1g/10分以上であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の混練加工性及び押出加工性が十分となるので好ましい。一方、上記MFRが100g/10分以下であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の強度低下を抑制できるので好ましい。
【0041】
従って、上記結晶性重合体(b1)としては、結晶化度が50%以上、密度が0.89g/cm以上、エチレン単位の含有量が20モル%以下、Tmが100℃以上、MFRが0.1〜100g/10分、融点が140〜170℃であるポリプロピレン及び/又はプロピレンとエチレンとの共重合体を用いることが特に好ましい。
【0042】
上記「非晶質ポリオレフィン系樹脂」(以下、単に「非晶質重合体(b2)」ともいう。)の構造等には特に限定はない。上記非晶質重合体(b2)として、α−オレフィン単量体単位を主成分とする重合体が好ましく用いられる。即ち、上記非晶質重合体(b2)を構成する単量体単位の全量を100モル%とした場合に、α−オレフィン単量体単位を50モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有する重合体が好ましい。上記非晶質重合体(b2)は、α−オレフィンの単独重合体でもよく、2種以上のα−オレフィンの共重合体でもよく、α−オレフィンではない単量体との共重合体でもよい。また、これらの異なる2種以上の重合体及び/又は共重合体の混合物であってもよい。
【0043】
上記非晶質重合体(b2)を構成するα−オレフィンとしては、炭素数3以上のα−オレフィンを用いることが好ましく、上記共重合ゴムと同様に、炭素数3〜12、好ましくは3〜10、更に好ましくは3〜8のα−オレフィンを用いることがより好ましい。
【0044】
上記非晶質重合体(b2)として具体的には、例えば、アタクチックポリプロピレン及びアタクチックポリ−1−ブテン等の単独重合体、プロピレン(50モル%以上含有)と他のα−オレフィン(エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等)との共重合体、並びに1−ブテン(50モル%以上含有)と他のα−オレフィン(エチレン、プロピレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン等)との共重合体等が挙げられる。上記非晶質重合体(b2)としては、アタクチックポリプロピレン(プロピレン含量50モル%以上)、プロピレン(50モル%以上含有)とエチレンとの共重合体、プロピレンと1−ブテンとの共重合体を用いることが特に好ましい。尚、このアタクチックポリプロピレンは、上記結晶性重合体(b1)として用いることができるポリプロピレンの副生成物として得ることができる。また、アタクチックポリプロピレン及びアタクチックポリ−1−ブテンは、ジルコノセン化合物−メチルアルミノキサン触媒を用いる重合によっても得ることができる。
【0045】
上記結晶性重合体(b2)が共重合体である場合、この共重合体はランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれでもよい。但し、ブロック共重合体の場合、主成分となるα−オレフィン単量体単位(上記共重合体ではプロピレン単位、1−ブテン単位)は、アタクチック構造で結合している必要がある。また、上記非晶質共重合体(b2)が炭素数3以上のα−オレフィンとエチレンとの共重合体の場合、上記非晶質共重合体(b2)を構成する単量体単位の全量を100モル%とすると、α−オレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60〜100モル%である。上記ランダム共重合体は、上記共重合ゴムと同様な方法により得ることができる。また、上記ブロック共重合体は、チーグラー・ナッタ触媒を用いるリビング重合により得ることができる。
【0046】
また、上記非晶質重合体(b2)の190℃における溶融粘度は、好ましくは50Pa・s以下、より好ましくは0.1〜30Pa・s、更に好ましくは0.2〜20Pa・sである。この粘度が50Pa・s以下であると、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーと射出融着する場合に、被着体との接着強度が低下することを抑制できるので好ましい。また、上記非晶質重合体(b2)のX線回折測定による結晶化度は、好ましくは50%未満、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下である。この結晶化度は、前記と同様に密度と密接に関係している。該密度は好ましくは0.85〜0.89g/cm、より好ましくは0.85〜0.88g/cmである。更に、上記非晶質重合体(b2)の数平均分子量Mは、好ましくは1000〜20000、より好ましくは1500〜15000である。溶融粘度が50Pa・s以下の場合、結晶化度が50%以下の場合、及び密度が0.89g/cm以下の場合は、加硫ゴム又は熱可塑性エラストマーと射出融着する場合に、被着体との接着強度が低下することを抑制できるので好ましい。
【0047】
上記熱可塑性樹脂(B)の配合量は、上記未架橋ゴム(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)の合計を100質量部とした場合、好ましくは5〜80質量部であり、より好ましくは6〜60質量部、更に好ましくは7〜40質量部である。上記熱可塑性樹脂(B)の配合量が5質量部以上では、最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物の相構造(モルホロジー)が、動的架橋型熱可塑性エラストマーの特徴である良好な海/島構造〔熱可塑性樹脂が海(マトリックス)、架橋ゴムが島(ドメイン)〕になり、成形加工性及び機械物性を向上させることができるので好ましい。一方、上記熱可塑性樹脂(B)の配合量が80質量部以下であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性とゴム弾性を向上させることができるので好ましい。
【0048】
(1−3)架橋剤(C)
上記架橋剤(C)は、少なくとも上記未架橋ゴム(A)を架橋することが可能なものであれば、その種類に特に限定はない。上記架橋剤(C)として具体的には、例えば、有機過酸化物、フェノール樹脂、硫黄、硫黄化合物、p−キノン、p−キノンジオキシムの誘導体、ビスマレイミド化合物、エポキシ化合物、シラン化合物、アミノ樹脂、ポリオール、ポリアミン、トリアジン化合物、及び金属石鹸等を挙げることができる。上記架橋剤(C)は、1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。上記架橋剤(C)として、有機過酸化物及び/又はフェノール樹脂が好ましく、特に有機過酸化物が好ましい。
【0049】
上記有機過酸化物は、1分間半減期温度Tが、Tm(上記熱可塑性樹脂(B)の融点)≦T≦Tm+90(℃)の範囲である有機過酸化物が好ましい。上記Tが上記Tm以上であると、上記未架橋ゴム(A)と上記熱可塑性樹脂(B)の溶融混練りが十分に行われてから架橋反応が始まり、上記未架橋ゴム(A)を十分に架橋させることができるので、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性及び機械的強度を向上させることができる。
【0050】
上記有機過酸化物として具体的には、例えば、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキセン−3、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,2’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−イソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシド、p−メンタンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジラウロイルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジ(t−ブチルパーオキシ)パーベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が挙げられる。上記有機過酸化物としては、分解温度が比較的高い有機過酸化物が好ましく用いられる。分解温度が比較的高い有機過酸化物としては、例えば、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。尚、上記有機過酸化物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
上記架橋剤(C)として有機過酸化物を使用する場合、その使用量は、上記未架橋ゴム(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、0.05〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部とすることができる。上記有機過酸化物の使用量が0.05質量部以上であると、架橋度を高め、最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性及び機械的強度を向上させることができる。また、上記フェノール樹脂の使用量が10質量部以下であると、最終的に得られる熱可塑性エラストマーの成形加工性及び機械的物性を向上させることができる。
【0052】
更に、上記架橋剤(C)が有機過酸化物を含有する場合、架橋助剤と併用することにより、架橋反応が穏やかに進み、特に均一な架橋を形成することができる。上記架橋助剤としては、硫黄又は硫黄化合物(粉末硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、表面処理硫黄、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等)、オキシム化合物(p−キノンオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム等)、及び多官能性モノマー類(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−トルイレンビスマレイミド、無水マレイン酸、ジビニルベンゼン、ジ(メタ)アクリル酸亜鉛等)等が挙げられる。上記架橋助剤として、特に、p,p’−ジベンゾイルキノンオキシム、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、及びジビニルベンゼンが好ましく用いられる。上記架橋助剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。尚、上記架橋助剤のうち、N,N’−m−フェニレンビスマレイミドは、架橋剤としての作用を有するため、上記架橋剤(C)として使用することもできる。
【0053】
上記架橋助剤の使用量は、上記未架橋ゴム(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、10質量部以下、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.2〜5質量部である。上記架橋助剤の使用量を上記範囲とすることにより、架橋度を適切な範囲とすることができる。その結果、得られる熱可塑性エラストマー組成物の成形加工性の悪化及び機械的物性の低下を抑制することができる。
【0054】
上記フェノール樹脂として具体的には、例えば、下記一般式(I)で示されるp−置換フェノール系化合物、o−置換フェノール−アルデヒド縮合物、m−置換フェノール−アルデヒド縮合物、及び臭素化アルキルフェノール−アルデヒド縮合物等が挙げられる。上記フェノール樹脂として、特にp−置換フェノール系化合物が好ましく用いられる。上記p−置換フェノール系化合物は、アルカリ触媒の存在下においてp−置換フェノールとアルデヒド(好ましくはホルムアルデヒド)との縮合反応により得られる。尚、上記フェノール樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0055】
【化1】

【0056】
上記一般式(I)中、nは0〜10の整数である。Xはヒドロキシル基、ハロゲン化アルキル基及びハロゲン原子の少なくともいずれかである。Rは炭素数1〜15の飽和炭化水素基である。
【0057】
上記フェノール樹脂の使用量は、上記原料組成物100質量部に対して、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。上記フェノール樹脂の使用量が0.2質量部以上であると、架橋度を高め、最終的に得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性及び機械的強度を向上させることができる。また、上記フェノール樹脂の使用量が10質量部以下であると、最終的に得られる熱可塑性エラストマーの成形加工性を向上させることができる。
【0058】
上記フェノール樹脂は単独でも使用できるが、架橋速度を調節するため、架橋促進剤を併用することができる。上記架橋促進剤としては、金属ハロゲン化物(塩化第一すず、塩化第二鉄等)、有機ハロゲン化物(塩素化ポリプロピレン、臭化ブチルゴム、及びクロロプレンゴム等)等が挙げられる。また、架橋促進剤の他、更に、酸化亜鉛等の金属酸化物やステアリン酸等の分散剤を併用することがより望ましい。
【0059】
(1−4)添加剤
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法に用いる原料組成物は、その性能を損なわない限り、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、例えば、軟化剤、老化防止剤、滑剤、充填剤、紫外線吸収剤、フッ素パウダー、シリコーンパウダー、顔料、加工助剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤、防カビ剤、着色剤、及び熱安定剤等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの内容については後述する。
【0060】
(2)熱可塑性エラストマー組成物の製造方法
本発明では、上流に連続式異方向回転二軸混練機(以下、「上流側混練機」ともいう。)、下流に同方向回転二軸押出機(以下、「下流側押出機」ともいう。)を直列に配設した押出装置を用いる。本発明では、上流側混練機の原料導入部に供給された原料組成物の混合分散を行い、その後、混練物を下流側押出機に供給して、動的に架橋させる。尚、「動的に架橋する」とは、剪断力を加えること及び加熱することの両方を行って架橋することをいう。
【0061】
上記連続式異方向回転二軸混練機は、シリンダー内の混練軸に、ローター、スクリュー、パドル(送り及び戻し)、及びディスク等が配設された装置である。上記シリンダーは、加熱装置及び冷却装置を備えることができる。また、上記連続式異方向回転二軸混練機には、2本のスクリューが噛み合うタイプと、噛み合わないタイプとがあるが、いずれのタイプの混練機を用いてもよい。また、この混練機において、スクリュー有効長Lと外径Dとの比(L/D)は、好ましくは2〜20、より好ましくは2〜15である。上記連続式異方向回転二軸混練機としては、例えば、市販品である、日本製鋼所社製高速二軸連続ミキサー「CIM」(商標名)及び神戸製鋼所社製「ミクストロンFCM/NCM/LCM/ACM」(商標名)等を用いることができる。
【0062】
上記同方向回転二軸押出機は、内部の回転軸にスクリューが配設されたシリンダー、ホッパー、ベント口等を有する装置である。上記同方向回転二軸押出機は、加熱装置及び冷却装置を備えることができる。上記同方向回転二軸押出機は、2本のスクリューが噛み合うタイプと、噛み合わないタイプとがあるが、いずれのタイプの押出機を用いてもよい。また、この押出機において、スクリュー有効長Lと外径Dとの比(L/D)は、好ましくは30以上、より好ましくは36〜60である。上記同方向回転二軸押出機としては、例えば、市販品である、池貝社製「GT/PCMシリーズ」(商標名)、神戸製鋼所社製「KTX」(商標名)、日本製鋼所社製「TEX」(商標名)、東芝機械社製「TEM」(商標名)、及びワーナー社製「ZSK」(商標名)等を用いることができる。
【0063】
上記押出装置において、上記上流側混練機と上記下流側押出機とは、連結されずに直接接続されてもよい。また、上記上流側混練機と上記下流側押出機とは、搬送用配管により連結されてもよく、上流側混練機と下流側押出機の間に配設される二軸コーンスクリュー式フィーダーにより連結されてもよい。上記上流側混練機と上記下流側押出機とは、通常、搬送用配管により連結される。該搬送用配管の長さは、通常、5m以下、好ましくは0.3〜3m程度である。上記搬送用配管は、密閉系であることが好ましい。また、上記搬送用配管は、加熱装置及び冷却装置を備えてもよい。
【0064】
本発明では、通常、上記各原料成分の各所定量を予め混合することにより、上記原料組成物を得る。上記混合方法には特に限定はない。上記混合方法は、上記未架橋ゴム(A)の性状(クラム状、ベール状等)、並びに架橋剤及び架橋助剤等の種類によって選択することができる。上記混合方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ドラム型タンブラー等による混合が挙げられる。
【0065】
上記上流側混練機への原料組成物の投入方法には特に限定はない。例えば、上記原料組成物の全部を同時に投入してよく、上記原料組成物を分割(間欠等)して投入してもよい。上記上流側混練機では、上記原料組成物を投入後、混練軸及びローターの回転に伴い、パドルにより、高い剪断力をもって十分な攪拌が行われる。その結果、上記未架橋ゴム(A)及び上記架橋剤(C)が高度に微分散された混練物を得ることができる。
【0066】
上記上流側混練機での上記原料組成物の混合分散は、シリンダーを加熱しながら行ってもよい。しかし、上記原料組成物の混合分散を行うと、加熱を行わなくても、上記原料組成物に含まれる上記原料成分の摩擦熱により、混合物の温度が上昇する。そして、混合物の温度が上昇しすぎると、上記架橋剤(C)による架橋反応速度が大となり、架橋性重合体成分の架橋度が高くなりすぎる。よって、上記上流側混練機での上記原料組成物の混合分散を行う場合、通常、シリンダーを冷却する。具体的には、例えば、上流側混練機のシリンダーの温度を、好ましくはTm(℃)以下、より好ましくは〔Tm−10〕(℃)以下、更に好ましくは〔Tm−20〕(℃)以下(通常30℃以上)に制御する。
【0067】
上記上流側混練機での上記原料組成物の混練時間は、上記未架橋ゴム(A)、上記熱可塑性樹脂(B)、及び上記架橋剤(C)等の種類、上記原料組成物の処理量、並びにシリンダーの容積、ローターの回転数、混練温度、及び比エネルギー等により調整することができる。
【0068】
上記上流側混練機の比エネルギー(駆動動力(kW)を押出量(kg/hr)で除した値)E1は、好ましくは0.01〜2.0kW・hr/kg、より好ましくは0.05〜1.5kW・hr/kg、更に好ましくは0.1〜1.0kW・hr/kgである。上記E1が上記範囲内であると、生産性が上がると共に、混合分散性が向上し、上記下流側押出機側の吐出量が安定するので好ましい。
【0069】
上記上流側混練機の出口の混練物の温度は、好ましくはTm(℃)以上〔Tm+100〕(℃)以下、より好ましくはTm(℃)以上〔Tm+90〕(℃)以下、更に好ましくはTm(℃)以上〔Tm+80〕(℃)以下である。上記温度がTm(℃)未満では、未溶融の上記熱可塑性樹脂(B)が組成物中に混ざり、混合分散性が悪化する可能性がある。一方、上記温度が〔Tm+100〕(℃)を超えると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性が悪化する場合がある。上記上流側混練機の出口の混練物の温度として具体的には、例えば、60〜300℃(好ましくは70〜280℃、特に好ましくは80℃〜250℃)とすることができる。また、上記上流側混練機の出口の混練物の温度は、使用する上記熱可塑性樹脂(B)のTmに依存する。より具体的には、例えば、上記熱可塑性樹脂(B)としてポリオレフィン系樹脂、特にTmが60〜200℃のポリオレフィン系樹脂を用いた場合、上記上流側混練機の出口の混練物の温度を上記範囲とすることができる。
【0070】
上記上流側混練機の出口の混練物の温度は、上記上流側混練機のシリンダーの温度との関係で一定の範囲とすることができる。本発明では、上記上流側混練機の出口の混練物の温度と上記上流側混練機のシリンダーの温度との差を100℃以下(好ましくは95℃以下、特に好ましくは90℃以下〔例えば0〜90℃〕)とすることができる。尚、「上流側混練機の出口の混練物の温度と上流側混練機のシリンダーの温度との差」は、上記上流側混練機の出口の混練物の温度から上記上流側混練機のシリンダーの温度を引いた値である。例えば、本発明では、上記上流側混練機の出口の混練物の温度を60〜200℃(好ましくは70〜180℃、特に好ましくは80℃〜150℃)、上記上流側混練機のシリンダーの温度を30〜100℃(好ましくは35〜95℃、特に好ましくは40〜90℃)、且つ上記上流側混練機の出口の混練物の温度と上記上流側混練機のシリンダーの温度との差を100℃以下(好ましくは95℃以下、特に好ましくは90℃以下。)とすることができる。より具体的には、例えば、上記熱可塑性樹脂(B)としてポリオレフィン系樹脂、特にTmが60〜200℃のポリオレフィン系樹脂を用いた場合に、上記上流側混練機の出口の混練物、上記上流側混練機のシリンダーの温度、及び上記上流側混練機の出口の混練物の温度と上記上流側混練機のシリンダーの温度との差を上記範囲とすることができる。
【0071】
上記上流側混練機の出口の混練物は、上記未架橋ゴム(A)、上記熱可塑性樹脂(B)、及び上記架橋剤(C)等の種類、並びに上記原料組成物の処理量及び混練条件等によって、種々の相構造を形成している。本発明において、上記上流側混練機の出口の混練物は、上記未架橋ゴム(A)及び架橋ゴムを含むゴム成分と上記熱可塑性樹脂(B)とが、海/島構造、島/海構造、及び、両連続構造のいずれかの相構造を形成する(各構造の模式図を図1(a)、(b)及び(c)に示す)。尚、相構造において島に相当する部分の形状及び大きさは、特に限定されないが、形状は、通常、球状、楕円球状、及び棒状等である。
【0072】
その後、上記混練物は、上記下流側押出機に導入される。例えば、上記上流側混練機と上記下流側押出機とが搬送用配管により接続されている押出装置では、搬送用配管を通って上記下流側押出機に導入される。
【0073】
上記下流側押出機のシリンダーの温度は、好ましくは〔Tm−30〕(℃)以上〔Tm+200〕(℃)以下、より好ましくは〔Tm−20〕(℃)以上〔Tm+180〕(℃)以下、更に好ましくは〔Tm−10〕(℃)以上〔Tm+150〕(℃)以下に制御することができる。上記温度が〔Tm−30〕(℃)以上では、混合分散性を向上させることができる。また、上記温度が〔Tm+200〕(℃)以下であると、得られる熱可塑性エラストマーの熱劣化を抑制することができる。
【0074】
上記下流側押出機の比エネルギーE2は、好ましくは0.1〜10kW・hr/kg、より好ましくは0.15〜8.0kW・hr/kg、更に好ましくは0.2〜6.0kW・hr/kgである。上記E2が上記範囲内であると、生産性が上がると共に、混合分散性が向上し、上記下流側押出機側の吐出量が安定するので好ましい。また、本発明では、上記E2は、上記E1より大きい値とすることができる(E1<E2)。これにより、上記原料組成物が良好に分散した混練物を得ることができるので好ましい。
【0075】
上記下流側押出機の出口の混練物の温度は、好ましくは〔Tm+30〕(℃)以上〔Tm+200〕(℃)以下、より好ましくは〔Tm+40〕(℃)以上〔Tm+180〕(℃)以下、更に好ましくは〔Tm+50〕(℃)以上〔Tm+150〕(℃)以下である。上記温度を上記範囲とすることにより、混練物の熱劣化を抑えることができるため好ましい。上記下流側押出機の出口の混練物の温度として具体的には、例えば、本発明において、上記下流側押出機の出口の混練物の温度を70〜400℃(好ましくは80〜350℃、特に好ましくは100〜300℃)とすることができる。また、上記下流側押出機の出口の混練物の温度もまた、使用する上記熱可塑性樹脂(B)のTmに依存する。より具体的には、例えば、上記熱可塑性樹脂(B)としてポリオレフィン系樹脂、特にTmが60〜200℃のポリオレフィン系樹脂を用いた場合、上記下流側押出機の出口の混練物の温度を上記範囲とすることができる。
【0076】
上記下流側押出機の出口の混練物の温度は、上記下流側押出機のシリンダーの温度との関係で一定の範囲とすることができる。本発明では、上記下流側押出機の出口の混練物の温度と上記下流側押出機のシリンダーの温度との差を100℃以下(好ましくは95℃以下、特に好ましくは90℃以下〔例えば0〜90℃〕)とすることができる。尚、「下流側押出機の出口の混練物の温度と下流側押出機のシリンダーの温度との差」は、上記下流側押出機の出口の混練物の温度から上記下流側押出機のシリンダーの温度を引いた値である。例えば、本発明では、上記下流側押出機の出口の混練物の温度を70〜400℃(好ましくは80〜350℃、特に好ましくは100〜300℃)、上記下流側押出機のシリンダーの温度は20〜400℃(好ましくは50〜380℃、特に好ましくは80〜350℃)、且つ上記下流側押出機の出口の混練物の温度と上記下流側押出機のシリンダーの温度との差は100℃以下(好ましくは95℃以下、特に好ましくは90℃以下〔例えば0〜90℃〕)とすることができる。より具体的には、例えば、上記熱可塑性樹脂(B)としてポリオレフィン系樹脂、特にTmが60〜200℃のポリオレフィン系樹脂を用いた場合に、上記下流側押出機の出口の混練物、上記下流側押出機のシリンダーの温度、及び上記下流側押出機の出口の混練物の温度と上記下流側押出機のシリンダーの温度との差を上記範囲とすることができる。
【0077】
上記上流側混練機及び上記下流側押出機で加える剪断力は、ずり速度で100〜20,000/秒とすることが好ましく、150〜15,000/秒とすることがより好ましく、更には200〜10,000/秒が好ましい。上記ずり速度を上記範囲とすると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度を向上させることができるので好ましい。
【0078】
本発明では、優れた性能の熱可塑性エラストマー組成物を得るために、上流側混練機及び下流側押出機の上記各比エネルギー、上記シリンダー温度、及び上記出口の温度等を適宜組み合わせることができる。上記各要素を適宜組み合わせることより、本発明の製造方法を、より目的及び効果に適合した製造方法とすることができる。
【0079】
本発明では、下流側押出機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは80〜100%、好ましくは85〜100%、特に好ましくは90〜100%であり、且つ、上流側混練機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは、上記架橋度Zの85%以下、好ましくは80%以下、特に好ましくは75%以下(例えば30〜75%)である。上記架橋度Zが80%未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物のゴム弾性や機械的強度に劣る傾向にあるので好ましくない。また、上記架橋度Zが上記架橋度Zの85%を超えると、熱可塑性エラストマー組成物中のゴム成分が粗大な架橋ゲルとなり、成形品の外観が悪化する場合があるので好ましくない。
【0080】
上記架橋度Z及びZはゴムのシクロヘキサン不溶解分を意味し、このシクロヘキサン不溶解分の測定方法は、下記の通りである。
得られた熱可塑性エラストマー組成物を約200mg秤量して細かく裁断する。次いで、得られた細片を密閉容器中にて100mlのシクロヘキサンに23℃で48時間浸漬する。この浸漬後の試料をろ紙上に取り出し、真空乾燥機にて105℃で1時間減圧下で乾燥する。シクロヘキサン不溶解分は、乾燥残渣の質量から熱可塑性樹脂や充填剤等のシクロヘキサン不溶成分の質量を減じた乾燥残渣質量と浸漬前の試料中の理論ゴム質量より、下記の式により求められる。
シクロヘキサン不溶解分[質量%]=〔乾燥残渣質量÷浸漬前理論ゴム質量〕×100
【0081】
本発明において、上流側混練機及び下流側押出機の各運転条件の具体的組合せは、例えば、以下の(1)〜(5)の通りである。
(1)上流側混練機;出口の混練物の温度が60〜200℃(好ましくは70〜180℃、特に好ましくは80〜150℃)、シリンダー温度が30〜100℃(好ましくは35〜95℃、特に好ましくは40〜90℃)、且つ出口の混練物の温度とシリンダー温度との差が100℃以下(好ましくは95℃以下、特に好ましくは90℃以下〔例えば0〜90℃〕)である。
下流側押出機;出口の混練物の温度が70〜400℃(好ましくは80〜350℃、特に好ましくは100〜300℃)、シリンダー温度が20〜400℃(好ましくは50〜380℃、特に好ましくは80〜350℃)、且つ出口の混練物の温度とシリンダー温度との差が100℃以下(好ましくは95℃以下、特に好ましくは90℃以下〔例えば0〜90℃〕)である。
尚、上記括弧外の数字と括弧内の数字とを適宜組み合わせることができる。
(2)上記(1)の運転条件に、更に、以下の運転条件を組み合わせることができる。
上流側混練機の比エネルギーE1が0.01〜2.0kW・hr/kg(好ましくは0.05〜1.5kW・hr/kg、特に好ましくは0.1〜1.0kW・hr/kg)であり、下流側押出機;比エネルギーE2が0.1〜10kW・hr/kg(好ましくは0.15〜8.0kW・hr/kg、特に好ましくは0.2〜6.0kW・hr/kg)であり、且つ、E1<E2である。
尚、上記括弧外の数字と括弧内の数字とを適宜組み合わせることができる。
(3)上記(1)及び/又は(2)の運転条件に、更に、以下の運転条件を組み合わせることができる。
上流側混練機及び下流側押出機で加える剪断力が、ずり速度で100〜20,000/秒(好ましくは150〜15,000/秒、更に好ましくは200〜10,000/秒)である。
尚、上記括弧外の数字と括弧内の数字とを適宜組み合わせることができる。
(4)上記(1)乃至(3)のうちの1つ又は2以上の運転条件に、更に、以下の運転条件を組み合わせることができる。
上記熱可塑性樹脂は、上記に示すポリオレフィン系樹脂であり、そのTmは60〜200℃、好ましくは70〜200℃である。
(5)上記(1)乃至(4)のうちの1つ又は2以上の運転条件に、更に、以下の運転条件を組み合わせることができる。
下流側押出機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは80〜100%(好ましくは85〜100%、特に好ましくは90〜100%)、且つ、上流側混練機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは、上記架橋度Zの85%以下(好ましくは80%以下、特に好ましくは75%以下)である。
尚、上記括弧外の数字と括弧内の数字とを適宜組み合わせることができる。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法では、上流側混練機の出口の混練物が、上記3種のうちのどの相構造を有しても、得られる熱可塑性エラストマー組成物は、架橋ゴムと熱可塑性樹脂とが、島/海構造である相構造を有している。特に、上流側混練機の出口の混練物が、未架橋ゴム及び架橋ゴムを含むゴム成分と熱可塑性樹脂とが海/島構造である相構造の場合には、相反転したこととなり、この態様において極めて優れた性能を有する。
【0083】
(3)熱可塑性エラストマー組成物
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法により得られることを特徴とする。上記のように、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、架橋ゴムと熱可塑性樹脂とが、島/海構造である相構造を有している。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、弾性回復性等の機械的特性と成形加工性のバランスに優れている。
【0084】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよい。該添加剤としては、例えば、軟化剤、老化防止剤、滑剤、充填剤、紫外線吸収剤、フッ素パウダー、シリコーンパウダー、顔料、加工助剤、離型剤、難燃剤、帯電防止剤、防カビ剤、着色剤、及び熱安定剤等の1種又は2種以上が挙げられる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物に上記添加剤を含有させる方法には特に限定はない。通常、上記添加剤を上記原料組成物に配合して製造することにより、上記添加剤を含有させることができる。また、上記原料組成物とは別に上記上流側混練機又は上記下流側押出機に供給して製造することにより、上記添加剤を含有させることができる。
【0085】
上記軟化剤の種類には特に限定はない。上記軟化剤として具体的には、例えば、植物油(やし油、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、大豆油等)、脂肪酸と高級アルコールとのエステル類(ジオクチルフタレート等のフタル酸ジエステル類、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート等)、ロウ類(蜜ロウ、カルナウバロウ、ラノリン等)、リン酸トリエステル類、鉱物油(パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油、芳香族系鉱物油)、高分子物質(石油樹脂、クマロンインデン樹脂、アタクチックポリプロピレン等)等が挙げられる。上記鉱物油として、プロセスオイル、潤滑油、石油アスファルト、及びワセリン等が挙げられる。上記軟化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記軟化剤として、プロセスオイルが好ましく、特に、パラフィン系(パラフィン、流動パラフィン等)、ナフテン系、芳香族系の鉱物油系軟化剤が好ましい。尚、上記パラフィン及び上記流動パラフィンは、滑剤としても作用する。また、上記鉱物油系軟化剤は、一般に、芳香族環、ナフテン環、及びパラフィン鎖の三者の混合物である。パラフィン系鉱物油はパラフィン鎖の炭素数が全炭素数中の50%以上を占める鉱物油、ナフテン系鉱物油はナフテン環の炭素数が全炭素数中の30〜45%の鉱物油、芳香族系鉱物油は芳香族環の炭素数が全炭素数中の30%以上の鉱物油を意味する。
【0086】
上記軟化剤の配合量は、上記未架橋ゴム(A)100質量部あたり200質量部以下とすることができ、好ましくは180質量部以下、より好ましくは150質量部以下とすることができる。上記軟化剤の配合量が上記範囲内であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物からの軟化剤のブリードアウトを抑制し、熱可塑性エラストマー組成物の機械的物性及びゴム弾性を向上させることができるので好ましい。
【0087】
上記軟化剤を配合する方法として、例えば、上記未架橋ゴム(A)に上記軟化剤を添加させて油展ゴムとし、これを上記原料組成物に配合する方法、上記未架橋ゴム(A)とは別途配合(後添加)する方法、及びその両者を組み合わせた方法等が挙げられる。上記油展ゴムとして、例えば、上記未架橋ゴム(A)として上記エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムを用い、これに上記軟化剤を添加して調製することができる。かかる油展ゴムを用いると、熱可塑性エラストマー組成物の製造上、取り扱いが容易となる場合があるので好ましい。上記油展ゴムの調製方法としては、例えば、エチレン・α−オレフィン系共重合ゴム等の重合溶液に軟化剤を添加した後、脱溶媒する方法;エチレン・α−オレフィン系共重合ゴムと、軟化剤とを混練する方法等が挙げられる。
【0088】
上記老化防止剤として具体的には、例えば、ナフチルアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物、p−フェニレンジアミン系化合物、キノリン系化合物、ヒドロキノン誘導体、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、トリスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、チオビスフェノール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、及び亜リン酸エステル系化合物等が挙げられる。上記老化防止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記老化防止剤の配合量は、上記未架橋ゴム(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.05〜1質量部である。
【0089】
上記滑剤として具体的には、例えば、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、脂肪酸エステル(脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル等)、炭化水素樹脂、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪族アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、及び金属石鹸等が挙げられる。上記滑剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記滑剤の配合量は、上記未架橋ゴム(A)及び上記熱可塑性樹脂(B)の合計100質量部に対して、好ましくは0.01〜3質量部、より好ましくは0.05〜1質量部、更に好ましくは0.1〜0.5質量部である。
【0090】
上記充填剤として具体的には、例えば、カーボンブラック、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、湿式シリカ、乾式シリカ、天然ケイ酸、合成ケイ酸、炭酸マグネシウム、及び硫酸バリウム等が挙げられる。上記充填剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0092】
(1)原料成分
(1−1)未架橋ゴム(A)
本実施例では、未架橋ゴム(A)として、三元共重合体ゴムに鉱物油系軟化剤を配合した油展ゴムを用いた。具体的には、三元共重合体ゴムとして、エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン三元共重合体ゴム(エチレン単位量が66モル%、5−エチリデン−2−ノルボルネン単位量が4.5モル%)を用いた。この三元共重合体ゴムのポリマー溶液に鉱物油系軟化剤(商品名「ダイアナプロセスオイルPW−380」、出光興産社製)を添加し、その後に脱溶媒することにより、本実施例で用いた油展ゴムを調製した。尚、上記三元共重合体ゴム100部に対する上記鉱物油系軟化剤の油展量は100部である。また、上記三元共重合体ゴムはクラム状である。
【0093】
(1−2)熱可塑性樹脂(B)
ポリオレフィン樹脂(PO−1);プロピレン・エチレンランダム共重合体とプロピレン・1−ブテン共重合体の混合物(宇部興産社製、商品名「宇部CAP350」、密度;0.88g/cm、MFR(230℃、2.16kg);12g/10分、融点142℃(1ピーク))
ポリオレフィン樹脂(PO−2);プロピレン・エチレンブロック共重合体(日本ポリケム社製、商品名「ノバテックBC5CW」、密度;0.90g/cm、MFR(230℃、2.16kg);5g/10分、融点151℃)
ポリオレフィン系樹脂(PO−3);プロピレン・エチレンランダム共重合体(日本ポリケム社製、商品名「ノバテックFL02A」、密度;0.90g/cm、MFR(230℃、2.16kg);20g/10分、融点145℃)
ポリオレフィン樹脂(PO−4);1−ブテン共重合体(サンアロマー社製、商品名「PB8640」、密度0.91g/cm、メルトフローレート(230℃、2.16kg);4g/10分、融点110℃)
【0094】
(1−3)架橋剤(C)及び架橋助剤
架橋剤;2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(日本油脂社製、商品名「パーヘキサ25B−40」、純度;40%、1分間半減期温度;179.8℃)
架橋助剤(1);ジビニルベンゼン(三共化成社製、純度;55%)
架橋助剤(2);N,N’−m−フェニレンビスマレイミド(商品名「バルノックPM」、大内新興化学工業社製)
【0095】
(1−4)その他の成分
軟化剤として、上記未架橋ゴム(A)の調製に用いた鉱物油系軟化剤を用いた。老化防止剤として、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名「イルガノックス1010」)を用いた。滑剤として、シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、商品名「SH−200、粘度100cSt」)を用いた。
【0096】
(2)熱可塑性エラストマー組成物の製造
熱可塑性エラストマー組成物の製造装置は、連続式異方向回転二軸混練機(神戸製鋼所社製、型名「ミクストロンLCM50」、異方向噛み合い型2ローター、L/D=10、スクリュー直径49mm、シリンダー内径54mm、モーター駆動力37kw)に、同方向回転二軸押出機(日本製鋼所社製、型名「TEX44αII」、同方向非噛み合い型スクリュー、L/D=52.5、スクリュー直径46mm、シリンダー内径47mm、モーター駆動力132kw)を直結で連結した装置である。
【0097】
上記製造装置を用い、以下に記載の方法により、実施例1〜8及び比較例1〜4の熱可塑性エラストマー組成物の製造を行った。尚、実施例1〜8及び比較例1〜4で用いた原料組成物に含まれる上記原料成分の種類及び割合を表1に示す。また、熱可塑性エラストマー組成物の製造条件を表2に示す。
【0098】
〔実施例1〕
油展ゴム80部、ポリオレフィン樹脂(PO−1)15部、架橋剤1部、架橋助剤(1)1.25部、老化防止剤0.1部、及び滑剤0.2部を、ヘンシェルミキサーに投入した。上記各原料成分を30秒間混合し、原料組成物を得た。次いで、該原料組成物を、重量式フィーダー(クボタ社製、型名「KF−C88」)2台を用い、吐出量40kg/hで上記連続式異方向二軸混練機(上流側混練機)の原料導入口より投入した。
【0099】
そして、上流側混練機のシリンダーの設定温度が80℃、スクリュー回転数が500rpm、及び比エネルギーE1が0.925kW・hr/kgになるように設定し、上記原料組成物の混合分散を行った。尚、上記原料成分のうちの鉱物油系軟化剤11部は、上流側混練機の第1混練ローター部のシリンダーから圧入した。上流側混練機による混練は、上記熱可塑性樹脂(B)を溶融させた状態で進めた。また、上流側混練機の出口の混練物の温度T1(℃)を、オプテックス社製非接触温度計(型名「PT−3LF」)を用いて測定した。上記T1は173℃であった。
【0100】
その後、上記混練物を、搬送用配管から上記同方向回転二軸押出機(下流側押出機)に導入し、この下流側押出機のシリンダーの設定温度が210℃、スクリューの回転数が400rpm、及び比エネルギーE2が3.3kW・hr/kgになるように設定し、動的熱処理による架橋反応を行うことにより、熱可塑性エラストマー組成物を得た。尚、下流側混練機の出口の混練物の温度T2(℃)を、オプテックス社製非接触温度計(型名「PT−3LF」)を用いて測定した。上記T2は234℃であった。
【0101】
上流側混練機の出口の混練物のモルホロジーを見るため、上流側混練機の出口の混練物を所定量を採取した。採取した混練物を凍結ミクロトームにて薄片化し、四酸化ルテニウムにより染色した。この染色された薄片物に含まれる未架橋ゴム、架橋ゴム及び熱可塑性樹脂について、日立製作所社製透過型電子顕微鏡(型名「H−7500」)を用いて、倍率2000倍で観察した(図2参照)。また、下流側押出機の出口の混練物のモルホロジーを見るため、上記と同様の前処理を行い、上記電子顕微鏡を用いて、倍率2000倍で観察した(図3参照)。
【0102】
〔実施例2〕
油展ゴム70部、ポリオレフィン樹脂(PO−1)5部及び(PO−1)25部、架橋剤0.5部、架橋助剤(2)0.5部、老化防止剤0.1部、及びシリコーンオイル0.2部を、ヘンシェルミキサーに投入した。上記各原料成分を30秒間混合し、原料組成物を得た。該原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は176℃であり、上記T2は243℃であった。
【0103】
〔実施例3〕
油展ゴム80部、ポリオレフィン樹脂(PO−2)20部、架橋剤1部、架橋助剤(1)1.25部、老化防止剤0.1部、及び滑剤0.2部を、ヘンシェルミキサーに投入した。上記各原料成分を30秒間混合し、原料組成物を得た。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、上流側混練機への上記原料組成物の吐出量が30kg/h、比エネルギーE1が1.23kW・hr/kg、下流側押出機のシリンダーの設定温度が230℃、スクリューの回転数が400rpm、比エネルギーE2が4.4kW・hr/kgであり、その他は実施例1と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は167℃であり、上記T2は254℃であった。
【0104】
〔実施例4〕
原料組成物として、実施例3と同じ原料組成物を用いた。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、下流側押出機のシリンダーの設定温度が230℃であり、その他は実施例1と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は163℃であり、上記T2は276℃であった。
【0105】
〔実施例5〕
原料組成物として、実施例3と同じ原料組成物を用いた。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、上記上流側混練機への上記原料組成物の吐出量が50kg/h、比エネルギーE1が0.74kW・hr/kg、下流側押出機のシリンダーの設定温度が230℃であり、その他は実施例4と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は161℃であり、上記T2は276℃であった。
【0106】
〔実施例6〕
原料組成物として、実施例3と同じ原料組成物を用いた。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、上流側混練機のスクリュー回転数が350rpmであり、その他は実施例4と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は168℃であり、上記T2は264℃であった。
【0107】
〔実施例7〕
原料組成物として、実施例3と同じ原料組成物を用いた。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、上流側混練機のスクリュー回転数が700rpmであり、その他は実施例4と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は193℃であり、上記T2は242℃であった。
【0108】
〔実施例8〕
油展ゴム70部、ポリオレフィン樹脂(PO−4)30部、架橋剤1部、架橋助剤(2)1部、老化防止剤0.1部、及び滑剤0.2部を、ヘンシェルミキサーに投入した。上記各原料成分を30秒間混合し、原料組成物を得た。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、下流側押出機のスクリューの回転数が700rpmであり、その他は実施例4と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は177℃であり、上記T2は267℃であった。
【0109】
〔比較例1〕
油展ゴム70部、ポリオレフィン樹脂(PO−2)30部、架橋剤1部、架橋助剤(1)1.25部、老化防止剤0.1部、及び滑剤0.2部を、ヘンシェルミキサーに投入した。上記各原料成分を30秒間混合し、原料組成物を得た。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、上流側混練機のスクリュー回転数が900rpmであり、その他は実施例4と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は213℃であり、上記T2は256℃であった。
【0110】
〔比較例2〕
原料組成物として、比較例1と同じ原料組成物を用いた。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、上流側混練機への上記原料組成物の吐出量が10kg/h、上流側混練機の比エネルギーE1が3.7kW・hr/kg、下流側押出機の比エネルギーE2が13.2kW・hr/kgであり、その他は実施例1と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は183℃であり、上記T2は231℃であった。しかし、上流側混練機出口において混練物の吐出量が安定せず、熱可塑性エラストマー組成物を得ることができなかった。
【0111】
〔比較例3〕
原料組成物として、比較例1と同じ原料組成物を用いた。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、上流側混練機のシリンダー設定温度が270℃であり、その他は実施例1と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は290℃であり、上記T2は228℃であった。しかし、上流側混練機から供給される混練物の溶融粘度は著しく低く、上記混練物が装置周辺に粘着した。そのため、上記混練物を安定的に下流側押出機へ供給することができず、熱可塑性エラストマー組成物を得ることができなかった。
【0112】
〔比較例4〕
原料組成物として、比較例1と同じ原料組成物を用いた。熱可塑性エラストマー組成物の製造条件は、上流側混練機のスクリュー回転数が100rpmであり、その他は実施例1と同じである。そして、上記原料組成物を用い、実施例1と同様の方法により、熱可塑性エラストマー組成物を製造した。しかし、上流側混練機において、上記オレフィン樹脂は未溶融、上記油展ゴムは粉末状で排出された。また、上記T1及び上記T2を、実施例1と同様の方法により測定した。上記T1は110℃であり、上記T2は220℃であった。そのため、上記混練物を安定的に下流側押出機へ供給することができず、熱可塑性エラストマー組成物を得ることができなかった。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
(3)評価
上記方法により得られた実施例1〜8及び比較例1の各熱可塑性エラストマー組成物のメルトフローレート、硬度、引張破断強度、引張破断伸び、圧縮永久歪み及び押出加工性を、下記方法に従って測定した。また、実施例1〜8及び比較例1の各熱可塑性エラストマー組成物について、下記方法に従ってブツの有無を調べた。更に、実施例1〜8及び比較例1の各熱可塑性エラストマー組成物の製造において、上流側混練機の出口の混練物の架橋度Z及び下流側押出機の出口の混練物の架橋度Zを、本文中に記載の方法で測定した。これらの結果を表3に示す。
(A)メルトフローレート(MFR)
流動性の指標として、230℃、荷重10kgで測定した。
(B)硬度
JIS K6252に準じ、デュロA硬度を測定した。
(C)引張破断強度及び引張破断伸び
JIS K6251に準じて測定した。
(D)圧縮永久歪み
JIS K6262に準じて測定した。
(E)押出加工性
押出機(東洋精機社製、商品名「ラボプラストミル」、外径;20mm、L/D=25、)を用いて、下記条件にて平板押出(口金部幅25mm、厚み1.5mm)を行い、その外観を目視で評価した。表面が平滑でエッジあるものは「○」、それ以外は全て「×」とした。
〔押出機の設定〕
シリンダーC1;180℃、シリンダーC2;190℃、シリンダーC3;210℃、ダイ;205℃、スクリュー回転数;40rpm
(F)ブツの有無
前記(E)押出加工性のサンプル表面を目視で観察し、ブツの有無を調べた。表面に「ブツ」が無いものは「○」、「ブツ」があるものは全て「×」とした。尚、上記「ブツ」とは、熱可塑性エラストマー組成物を架橋剤存在下で動的熱処理した時に、ゴム成分が上手く混練りされなかった場合や架橋反応が急激に進行した場合にできる、目視可能な巨大な架橋ゴム粒子である。
【0116】
【表3】

【0117】
表2及び表3より、本発明の製造方法により得られた実施例1〜8の各熱可塑性エラストマー組成物は、硬度、引張破断強度、引張破断伸び及び圧縮永久歪みが大きく、ゴム弾性及び機械的強度に優れている。また、実施例1〜8の各熱可塑性エラストマー組成物は、押出加工性に優れ、押出加工後の熱可塑性エラストマー組成物に「ブツ」が認められなかった。よって、本発明の製造方法により、機械的特性と成形加工性のバランスに優れた熱可塑性エラストマー組成物が得られることが分かる。
【0118】
一方、表2及び表3より、上記架橋度Zが上記架橋度Zの85%を超える値である比較例1では、実施例1〜8よりも引張破断伸びが低く、押出加工性に劣り、押出加工後の熱可塑性エラストマー組成物に「ブツ」が生じていた。また、表2及び表3より、上流側混練機の出口の混練物の温度(T1)と上記熱可塑性樹脂(B)の融点(Tm)との関係が、本発明の範囲外である比較例3及び4は、いずれも上記混合物を安定的に上記下流側混練機に供給することができず、熱可塑性エラストマー組成物を得ることができなかった。更に、表2及び表3より、上記連続式異方向回転二軸混練機の比エネルギーE1及び上記同方向回転二軸押出機の比エネルギーE2が高い比較例2でも、吐出量が安定せず、熱可塑性エラストマー組成物を得ることができなかった。
【0119】
また、図2より、実施例1では、上流側混練機の出口の混練物が、ゴム成分/熱可塑性樹脂を各々、両連続相構造とする相構造を備えることが分かる。更に、図3より、実施例1では、下流側押出機の出口の混練物が、ゴム成分/熱可塑性樹脂を島/海構造(ゴム成分が島構造、熱可塑性樹脂が海構造である海島構造)であることが分かる。即ち、実施例1では、ゴム成分/熱可塑性樹脂の相反転が生じていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の製造方法により得られる熱可塑性エラストマー組成物は、特に射出融着部を有する様々な複合加工品に利用することができる。また、本発明の製造方法により得られる熱可塑性エラストマー組成物は、一般加工品にも幅広く利用することができる。該一般加工品としては、例えば、自動車のバンパー、外装用モール、ウィンドシール用ガスケット、ドアシール用ガスケット、トランクシール用ガスケット、ルーフサイドレール、エンブレム、内外装表皮材、ウェザーストリップ等、航空機・船舶用のシール材及び内外装表皮材等、土木・建築用のシール材、内外装表皮材又は防水シート材等、一般機械・装置用のシール材等、弱電部品・フラットパネルディスプレイ・液晶パネル・燃料電池・インクジェトプリンター部品のパッキン又ハウジング等、日用雑貨品、及びスポーツ用品等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造において、連続式異方向回転二軸混練機から排出された混練物の相構造を示す模式図である((a);ゴム成分/熱可塑性樹脂が海/島構造、(b);ゴム成分/熱可塑性樹脂が島/海構造、(c);ゴム成分/熱可塑性樹脂が両連続構造)。
【図2】実施例1において、連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物のモルホロジーを示すTEM画像を示す図である。
【図3】実施例1において、同方向回転二軸押出機の出口の混練物のモルホロジーを示すTEM画像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未架橋ゴム(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、架橋剤(C)とを含有する原料組成物を、上流に連続式異方向回転二軸混練機及び下流に同方向回転二軸押出機を直列に配設した押出装置の該連続式異方向回転二軸混練機の原料導入部より供給し、該連続式異方向回転二軸混練機により該原料組成物を混合分散させ、その後、該連続式異方向回転二軸混練機による混練物を該同方向回転二軸押出機へ供給して、動的架橋された熱可塑性エラストマー組成物を得る熱可塑性エラストマー組成物の製造方法であって、
上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは80〜100%であり、且つ、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物における架橋した重合体成分の架橋度Zは、上記架橋度Zの85%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂(B)の融点をTmとした場合、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物の温度が、Tm(℃)以上〔Tm+100〕(℃)以下である請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項3】
上記架橋剤(C)は有機過酸化物を含有し、
上記熱可塑性樹脂(B)の融点をTm、上記有機過酸化物の1分間半減期温度をTとした場合、上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物の温度が、Tm(℃)以上〔Tm+100〕(℃)以下であり、且つ、〔T−30〕(℃)以上〔T+30〕(℃)以下である請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項4】
上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物が、ゴム成分/熱可塑性樹脂を海/島構造とする相構造、ゴム成分/熱可塑性樹脂を島/海構造とする相構造、又はゴム成分/熱可塑性樹脂を各々、両連続構造とする相構造を備え、且つ、上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物が、架橋ゴム成分/熱可塑性樹脂を島/海構造とする相構造を備える請求項1乃至3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項5】
上記連続式異方向回転二軸混練機のシリンダーの温度がTm(℃)以下である請求項1乃至4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項6】
上記同方向回転二軸押出機のシリンダーの温度が〔Tm−30〕(℃)以上〔Tm+200〕(℃)以下である請求項1乃至5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項7】
上記熱可塑性樹脂(B)はポリオレフィン系樹脂であり、
上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物の温度はTm(℃)以上〔Tm+100〕(℃)以下、上記連続式異方向回転二軸混練機のシリンダーの温度がTm(℃)以下であり、且つ該出口の混練物の温度と該シリンダーの温度との差が100℃以下であり、
上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物の温度は、〔Tm+10〕(℃)以上〔Tm+200〕(℃)以下、上記同方向回転二軸押出機のシリンダーの温度が〔Tm−30〕(℃)以上〔Tm+200〕(℃)以下であり、且つ該出口の混練物の温度と該シリンダーの温度との差が100℃以下である請求項1乃至6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項8】
上記ポリオレフィン系樹脂の融点は60〜200℃であり、
上記連続式異方向回転二軸混練機の出口の混練物の温度は60〜200℃、上記連続式異方向回転二軸混練機のシリンダーの温度は30〜100℃、且つ該出口の混練物の温度と該シリンダーの温度との差が100℃以下であり、
上記同方向回転二軸押出機の出口の混練物の温度は70〜400℃、上記同方向回転二軸押出機のシリンダーの温度は20〜400℃であり、且つ該出口の混練物の温度と該シリンダーの温度との差が100℃以下である請求項7記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項9】
上記連続式異方向回転二軸混練機の比エネルギーE1が0.01〜2.0kW・hr/kg、上記同方向回転二軸押出機の比エネルギーE2が0.1〜10kW・hr/kgであり、且つE1<E2である請求項1乃至8のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項10】
上記連続式異方向回転二軸混練機及び上記同方向回転二軸押出機で加える剪断力は、ずり速度で100〜20,000/秒であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項11】
上記未架橋ゴム(A)が、クラム状及び/又は粉末状の未架橋ゴムであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の方法により得られたことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−211184(P2007−211184A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−34326(P2006−34326)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】