説明

熱可塑性エラストマ樹脂組成物および成形体

【課題】柔軟で弾性に富み成形加工性や耐傷付き性に優れると共に、ポリエステル系樹脂やスチレン系樹脂等の他の熱可塑性樹脂との熱接着性にも優れた熱可塑性エラストマ樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、融点が180℃以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)60〜98重量部と、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点より20〜55℃高い融点を有する熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)2〜40重量部との合計100重量部からなることを特徴とするものであり、また成形体は、前記熱可塑性エラストマ樹脂組成物を成形したことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟で弾性に富み成形加工性や耐傷付き性に優れると共に、ポリエステル系樹脂やスチレン系樹脂などの他の熱可塑性樹脂との熱接着性にも優れた熱可塑性エラストマ樹脂組成物および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステルエラストマは、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、高温特性に優れ、さらに熱可塑性で成形加工が容易であることから、自動車、電気・電子部品、消費材などの分野に広く使用されている。また、他の熱可塑性樹脂組成物との熱融着性にも比較的優れることから、ABS樹脂やHIPS樹脂などのスチレン系樹脂や、PBTやPCなどのポリエステル系樹脂と2色成形や超音波溶着などで接合された成形体として使用されている。しかし、このような熱可塑性ポリエステルエラストマは、優れた特性を有する反面、耐傷付き性が不十分であるという問題があった。
【0003】
熱可塑性ポリエステルエラストマの耐傷付き性を改善するために、従来から種々の検討がなされており、例えば熱可塑性ポリエステルエラストマにポリイソシアネート化合物を配合してなる熱可塑性エラストマ樹脂組成物(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、熱可塑性ポリエステルエラストマ、熱可塑性ポリウレタンエラストマ、ポリイソシアネート化合物からなる熱可塑性エラストマ樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)、熱可塑性ポリエステルエラストマにチタン酸カリウムウィスカーと置換アマイド類を含有させた熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物(例えば、特許文献4参照)、熱可塑性ポリエステルエラストマと熱可塑性ポリオレフィンエラストマからなる熱可塑性エラストマ樹脂組成物(例えば、特許文献5、特許文献6参照)、熱可塑性ポリエステルエラストマに液状オレフィン系重合体及び/又は液状ジエン系共重合体を配合した熱可塑性エラストマ組成物(例えば、特許文献7、特許文献8参照)、熱可塑性ポリエステルエラストマに共重合ポリエーテルを配合した熱可塑性エラストマ組成物(例えば、特許文献9参照)が提案されている。
【0004】
しかしながら、これら従来の技術では、十分な耐傷付き性効果を得るには熱可塑性エラストマ樹脂組成物が硬くなり、エラストマの特徴である柔軟性が失われ実用に耐えないばかりか、耐傷付き性の効果が一時的で恒久的な効果が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−290248号公報
【特許文献2】特開2005−097458号公報
【特許文献3】特開2005−325220号公報
【特許文献4】特開2007−146076号公報
【特許文献5】特開2003−292745号公報
【特許文献6】特開2003−292744号公報
【特許文献7】特開2001−106884号公報
【特許文献8】特開2001−172483号公報
【特許文献9】特開2001−106885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上述した従来技術における問題点を解決し、柔軟で弾性に富み成形加工性や耐傷付き性に優れると共に、ポリエステル系樹脂やスチレン系樹脂などの他の熱可塑性樹脂との熱接着性にも優れた熱可塑性エラストマ樹脂組成物およびそれを使用した成形体、特に複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明によれば、融点が180℃以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)60〜98重量部と、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点より20〜55℃高い融点を有する熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)2〜40重量部との合計100重量部からなることを特徴とする熱可塑性エラストマ樹脂組成物が提供される。
【0008】
なお、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物においては、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の融点より20℃高い温度で測定した、剪断速度1216/secでの溶融粘度が、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の値より前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の値の方が低いこと、
前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)が、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であって、前記高融点結晶性重合体セグメント(a1)が、2種以上の酸成分と、1種以上のグリコール成分とから形成される結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメントであること、および
前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)が、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(b1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(b2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であって、前記低融点重合体セグメント(b2)の共重合量が15〜55重量%であること、
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0009】
また、本発明の成形体は、上記の熱可塑性エラストマ樹脂組成物を成形したことを特徴とし、特に、この成形体の少なくとも一部が、他の熱可塑性樹脂または他の熱可塑性樹脂組成物を成形した成形体と接合している複合成形体である場合に最良の効果を発揮する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、柔軟で弾性に富み成形加工性や耐傷付き性に優れた熱可塑性エラストマ樹脂組成物が得られ、この熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、その特徴を活かして、自動車、電子・電気機器、精密機器、および一般消費材用途の各種成形品で人の手などが触れる部分で有用なものであり、特に他の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体との熱融着性にも優れることから、2色成形や振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着などの方法により、硬質な熱可塑性樹脂との複合成形体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例で熱接着性評価のために成形したABS樹脂製L字形状成形品の平面図(イ)および側面図(ロ)である。
【図2】図1のL字形状成形品(a)と評価用樹脂組成物からなるL字形状成形品(b)とが接合している複合成形体(c)について、熱接着性の評価を行う際の引張試験方向を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。
【0013】
本発明の特徴は、柔軟で弾性に富み成形加工性や耐傷付き性に優れ、ポリエステル系樹脂やスチレン系樹脂などの他の熱可塑性樹脂からなる成形体との熱接着性にも優れた熱可塑性エラストマ樹脂組成物を得るという課題を達成するために、特定の異なる融点を有する熱可塑性ポリエステルエラストマを特定の割合で配合して樹脂組成物を構成することにある。
【0014】
本発明に用いられる融点が180℃以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)とは、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が180℃以下で、好ましくは主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点セグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であり、高融点結晶性重合体セグメント(a1)は、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルである。
【0015】
前記芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4' −ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4' −ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、および3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4' −ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。さらに、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0016】
本発明においては、上記酸成分を2種以上使用することが好ましく、例えばテレフタル酸とイソフタル酸、テレフタル酸とドデカンジオン酸、テレフタル酸とダイマー酸などの組み合わせが挙げられる。酸成分を2種以上使用することで高融点結晶性重合体セグメントの結晶化度を下げることができ、柔軟性を付与することも可能で、かつ他の熱可塑性樹脂との熱接着性も改善される。
【0017】
次に、前記ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2' −ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4' −ジヒドロキシ−p−ターフェニル、および4,4' −ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0018】
かかる高融点結晶性重合体セグメント(a1)の好ましい例は、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるもの、およびその両者の共重合体が好ましく用いられ、特に好ましくはテレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートとイソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート/イソフタレート単位からなるものが使用される。
【0019】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の低融点重合体セグメント(a2)は、脂肪族ポリエーテルである。
【0020】
かかる脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましく用いられる。
【0021】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の低融点重合体セグメント(a2)の共重合量は、通常、45〜95重量%、好ましくは50〜90重量%であり、このように(a1)と(a2)の共重合比を設定することにより、融点を180℃以下にすることが重要である。
【0022】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、およびジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0023】
本発明に用いられる前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点より20〜55℃高い融点を有する熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)とは、DSCにより測定される融点が、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点よりも20〜55℃高いポリマであることを意味し、好ましくは25〜50℃高いポリマである。融点が前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)より20℃以上高くない場合には、得られる熱組成エラストマ組成物の成形性改善効果や耐傷付き性が不十分であり、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)より55℃以上高い場合には、得られる熱可塑性エラストマ組成物の溶融状態が不均一になり、物性が低下したり成形性が劣ったりするなどの問題が発生するため好ましくない。
【0024】
本発明に用いられる前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)は、好ましくは主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(b1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点セグメント(b2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であり、高融点結晶性重合体セグメント(b1)は、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルである。
【0025】
前記芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4' −ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4' −ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、および3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4' −ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。さらにジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0026】
次に、前記ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2' −ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4' −ジヒドロキシ−p−ターフェニル、および4,4' −ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。
【0027】
これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0028】
かかる高融点結晶性重合体セグメント(b1)の好ましい例としては、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位からなるものが好ましく用いられる。
【0029】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)で使用される低融点重合体セグメント(b2)には、必要に応じ脂肪族ポリエーテルを使用することができる。
【0030】
かかる脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましく用いられる。
【0031】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の低融点重合体セグメント(b2)の共重合量は、通常、15〜55重量%、好ましくは20〜50重量%であり、このように(b1)と(b2)の共重合比を設定することにより、熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の融点を熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点より20〜55℃高くすることが重要である。ここで、(b2)の共重合量が55重量%より多くなると成形性改善効果や耐傷付き性が不十分となり、(b2)が15重量%より小さくなると得られる熱可塑性エラストマ組成物の溶融状態が不均一になり、物性が低下したり成形性が劣ったりするなどの問題が発生する。
【0032】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、およびジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などのいずれの方法をとってもよいが、融点が180度以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)より、溶融粘度を低くすることが必要であり、重合時間をコントロールする等により分子量を低くすることが重要である。
【0033】
また、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の性能を損なわない範囲で、他の共重合可能な単量体を共重合することが可能である。かかる他の単量体としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル等のα,β−不飽和カルボン酸エステル類、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物類、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミドなどのα,β−不飽和カルボン酸のイミド化合物類等が挙げられる。
【0034】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物100重量部中の、融点が180℃以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)は60〜98重量部、好ましくは65〜96重量部であり、60重量部未満では他の熱可塑性樹脂との熱接着性や柔軟性が不十分となり、98重量部を超えると成形加工性や耐傷付き性が劣る。
【0035】
また、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点より20〜55℃高い融点を有する(B)の配合割合は、熱可塑性エラストマ樹脂組成物の合計100重量部中2〜40重量部、好ましくは4〜35重量部であり、2重量部未満では成形加工性や耐傷付き性が劣り、40重量部を超えると柔軟性や他の熱可塑性樹脂との熱接着性が不十分となる。
【0036】
本発明においては、融点が180℃以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)と、熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点より20〜55℃高い融点を有する熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)との同じ温度、同じ剪断速度条件下で測定した溶融粘度の関係が、熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の方が低い値を示すことが好ましく、具体的な溶融粘度の測定条件としては温度が熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の融点より20℃高い温度、剪断速度が1216/secの条件である。このように、熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の溶融粘度が熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の溶融粘度より低いことで、熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物を射出成形する時に溶融樹脂が剪断の影響を受け、熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)成分が選択的に成形品表面部分に多く存在する様になり、さらに結晶化度を向上させる効果もあり耐傷付き性に優れる。
【0037】
本発明で、熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)と熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の混合方法は制限がなく、(A)と(B)を一括混合し、バンバリミキサーや押出機等の公知の方法で溶融混合する方法を採用することができる。
【0038】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、離型剤等の添加剤や、タルク、マイカ、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維などの補強材を添加することができる。
【0039】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、柔軟で弾力性に富み成形加工性に優れるポリエステルエラストマの特徴を保持していることから、そのまま射出成形品とすることができるが、さらにスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの他の熱可塑性樹脂との熱接着性に優れるため、これらの硬質樹脂との複合成形体とすることができ、これらの複合成形体は、二色成形を始めとする多色射出成形法、インサート成形法、オーバーモールド成形法や、熱板溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着などの溶着加工技術などを用いて製造される。そして、これらの成形体および複合成形体は、各種筐体、カバー、コネクター、グリップ、ローラー、キャスターなどに応用することができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、ことわりのない場合すべて重量基準である。また、例中に示される物性は次の測定方法により測定したものである。
【0041】
[融点測定]
ティー・エイ・インスツルメント社製DSC Q100を使用し、10℃/分の昇温速度で常温から240℃まで加熱し融点を測定した。さらに、240℃で3分か保持した後10℃/分の降温速度で40℃まで冷却し結晶化温度を測定した。
【0042】
[溶融粘度測定]
(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1Cを使用し、任意の温度条件でキャピラリーサイズがφ1mm×長さ10mmを使用しJIS K7199にしたがって測定した。
【0043】
[硬度(デュロメーターD)]
JIS K7215 デュロメーターD硬さにしたがって測定した。
【0044】
[機械的特性]
JIS K7113にしたがって、引張破断強度と引張破断伸度を測定した。
【0045】
[耐傷付き性]
(株)オリエンテック社製摩擦摩耗試験器EFM−III−EN/F型を使用して、射出成形で得た角板から直径40mm×厚さ2mmの円板を試験片上に、JIS K7218に記載されたA法にしたがって、中空円筒状の金属で荷重かけて回転させて滑り摩耗試験を行った。試験速度30mm/秒、試験荷重3kg、滑り距離1.8mの条件で試験を行った後、試験片の摩擦面を肉眼で観察して傷の有無を確認し、○を傷がない、△をかすかに傷がある、×を明確に傷があると判定した。
【0046】
[熱接着性]
まず、ABS樹脂(東レ(株)製トヨラック100)を図1に示す幅20mm、長さ60mm、厚み3mmのL字形状成形品(a)を、シリンダ温度230℃、金型温度50℃の条件で射出成形により作成する。この成形されたL字形状成形品(a)を、図2に示す形状となる金型にセットした後、評価用樹脂組成物を、シリンダ温度220℃、金型温度50℃の条件で射出成形することにより、上記L字形状成形品(a)と、評価用樹脂組成物からなるL字形状成形品(b)とが接合している複合成形体(c)を得た。この複合成形体(c)について、室温にて1日放置後図2に示す方法により歪み速度50mm/分の条件で引張試験を行い、得られる最大引張力を接着力として測定した。
【0047】
[射出成形離型時の変形度合い]
成形性として、評価用樹脂組成物にてJIS 2号ダンベル試験片と、縦75mm×横125mm×厚み2mmの角板を、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、冷却時間10秒の条件で成形し、エジェクターにより金型から離型させたJIS 2号ダンベル試験片の変形度合いを以下のように判定した。
変形度合い判定 ○:変形なし ×:変形大
【0048】
[参考例]
[融点180℃以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−1)の製造]
テレフタル酸33.0部、イソフタル酸10.0部、1,4−ブタンジオール40.3部、および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール46.5部を、チタンテトラブトキシド0.04部とモノ−n−ブチル−モノヒドロキシスズオキサイド0.02部を共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜220℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物にテトラ−n−ブチルチタネート0.15部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.05部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。得られた熱可塑性ポリエステルエラストマの融点は162℃で、温度218℃で測定した剪断速度1216/secの溶融粘度は204Pa・sec、227℃で測定した剪断速度1216/secの溶融粘度は181Pa・sec、228℃で測定した剪断速度1216/secの溶融粘度は180Pa/sec、243℃で測定した剪断速度1216/secの溶融粘度は154Pa・secであった。
【0049】
[熱可塑性ポリエステルエラストマ(B−1)の製造]
テレフタル酸42.0部、1,4−ブタンジオール40.0部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール47.5部を、チタンテトラブトキシド0.03部とモノ−n−ブチル−モノヒドロキシスズオキサイド0.01部を共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、200〜235℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物にテトラ−n−ブチルチタネート0.15部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.05部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。 得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。得られた熱可塑性ポリエステルエラストマの融点は198℃で、温度218℃で測定した剪断速度1216/secの溶融粘度は180Pa・secであった。
【0050】
[熱可塑性ポリエステルエラストマ(B−2)の製造]
テレフタル酸50.5部、1,4−ブタンジオール43.8部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール35.4部を、チタンテトラブトキシド0.04部とモノ−n−ブチル−モノヒドロキシスズオキサイド0.02部を共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物にテトラ−n−ブチルチタネート0.2部を追添加し、”イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.05部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。得られた熱可塑性ポリエステルエラストマの融点は207℃で、温度227℃で測定した剪断速度1216/secの溶融粘度は144Pa・secであった。
【0051】
[熱可塑性ポリエステルエラストマ(B−3)の製造]
熱可塑性ポリエステルエラストマ(B−2)のペレットを回転可能な反応容器に仕込み、系内の圧力を27MPaの減圧とし、170〜180℃で72時間回転しながら固相重合を行った。得られた熱可塑性ポリエステルエラストマの融点は208℃で、温度228℃で測定した剪断速度1216/secの溶融粘度は263Pa・secであった。
【0052】
[熱可塑性ポリエステルエラストマ(B−4)の製造]
東レ(株)製PBT樹脂トレコン1401X31を使用した。融点は223℃で、温度243℃で測定した剪断速度1216/secの溶融粘度は122Pa・secあった。
【0053】
[実施例1〜8]および[比較例1〜9]
参考例で得た融点180℃以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−1)、(A−1)より20〜55℃高い融点を有する熱可塑性ポリエステルエラストマ(B−1)、(B−2)、(B−4)、PBT樹脂(B−3)を、表1に示す配合比率(重量%)でV−ブレンダーを用いて混合し、直径45mmで3条ネジタイプのスクリューを有する2軸押出機を用いて230℃で溶融混練し、ペレット化した。
【0054】
得られたペレットを80℃で5時間乾燥後、220℃に設定したインラインスクリュー型射出成形機を用いて、50℃の金型温度(金型キャビティ表面)において、JIS2号ダンベル試験片と、縦120mm×横70mm×厚み2mmの角板成形品と、ABS樹脂との熱接着性試験用複合成形品を射出成形した。各々試験について特性を調べた結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
以上の結果より、実施例1〜8に示した本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、柔軟で弾力性に富んだポリエステルエラストマの特徴を有し、耐傷付き性、ABS樹脂との接着性に優れ、成形性においても結晶化温度が高くなり成形性が改善され離型後の変形度合いも良好になった。ただし、溶融粘度が高い(B−3)を使用した実施例7、8は、溶融粘度の低い(B−2)を使用した実施例4、6と比べると耐傷付き性が若干劣り、引張破断伸びも小さくなる。
【0057】
比較例1の(A−1)単体では、耐傷付き性や成形性の目安となる離型後の変形度合いが悪い。また、比較例2、3、4の(B−1)、(B−2)、(B−3)単体からなる熱可塑性エラストマでは、ABS樹脂との接着力が悪い。(A−1)に(B−1)、(B−2)を1wt%配合した比較例5、比較例7は、耐傷付き性と成形性の改善効果が不十分であり、(B−1)、(B−2)を50wt%配合した比較例6、比較例8ではABS樹脂との接着性力が不十分である。また、(A−1)の融点から55℃以上高い融点を有する(B−4)を配合した比較例9では、(A−1)との相溶性が不十分で融点と結晶化温度が2つあり、物性が低く十分な成形性改良効果も得られず耐傷付き性も良くない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、上記した優れた特性を活かして、自動車、電子・電気機器、精密機器、および一般消費財用途の各種成形体として利用することができ、特に人の手などが触れる部分で良好な感触を得ながら傷付きを防止する用途に好適である。また、他の熱可塑性樹脂との熱接着性にも優れることから、2色成形や振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着などの方法により硬質な熱可塑性樹脂との複合成形体としても好適である。
【符号の説明】
【0059】
(a)・・・ABS樹脂製L字形状成形品
(b)・・・評価用樹脂組成物からなるL字形状成形品
(c)・・・複合成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が180℃以下の熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)60〜98重量部と、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点より20〜55℃高い融点を有する熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)2〜40重量部との合計100重量部からなることを特徴とする熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の融点より20℃高い温度で測定した、剪断速度1216/secでの溶融粘度が、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の値より前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)の値の方が低いことを特徴とする請求項1記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)が、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であって、前記高融点結晶性重合体セグメント(a1)が、2種以上の酸成分と、1種以上のグリコール成分とから形成される結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメントであることを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(B)が、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(b1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント(b2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であって、前記低融点重合体セグメント(b2)の共重合量が15〜55重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物を成形したことを特徴とする成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の成形体の少なくとも一部が、他の熱可塑性樹脂または他の熱可塑性樹脂組成物を成形した成形体と接合している複合成形体であることを特徴とする請求項5記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−24439(P2010−24439A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134821(P2009−134821)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】