説明

熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体とその製造方法

【課題】海藻あるいは魚介類、食品加工残滓を主原料とし、可食性副原料のみを使用し、保形性、摂食性、成形加工性に優れ、保管の容易な熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体を廉価に提供する。
【解決手段】海藻0〜60重量%、魚粉などを含む魚介類0〜60重量%、食品加工残滓0〜60重量%、デンプンなどの多糖類10〜80重量%、可食性の可塑剤1〜50重量%からなる組成物に無機塩類を添加し、押出反応機内の100℃以上の炭酸ガス超臨界又は亜臨界条件下で殺菌又は滅菌後、熱可塑樹脂化し、気泡を減少させたアワビの餌料として適度な水分量になるように圧縮成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性有機物に関し、特に栄養素材、デンプンなどの多糖類又は脂肪酸のエステルなどの可塑剤、塩化マグネシウムなどの無機塩類を含有する原料を使用した熱可塑性有機物とその製造方法に関するものである。また、本発明は、この熱可塑性有機物からなる餌料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家畜や魚介類の飼育には各種餌料が用いられるが、給餌対象生物の飼育特性に的確に応じた飼料を与えることで給餌効率を高め、いかに低い生産コストで飼育できるかが重要な課題となっている。例えば、アワビ養殖において、餌は海藻類が用いられるが、季節的に海藻が枯渇するなど周年に渡り餌の安定的確保が困難であり、アワビ養殖業の普及拡大の支障となっている。海藻類を繁茂期に採取し、乾燥保管して枯渇期に用いても時間の経過により海水中で変質・腐敗するのでアワビは摂食できない。
【0003】
現在、陸上施設養殖用に市販されているアワビ用人工飼料は、高価であり、海水中で容易に崩壊・溶出しやすく、給餌効率が悪い欠点を有している。また、海水中に長時間放置すると変質・腐敗し、捕食したアワビは生理障害・斃死に至るという課題がある。一部で、海藻の枯渇期にサツマイモ等を餌として使用している養殖漁業者もいるが、その場合、基礎代謝分しか食さずに成長は望めない。
【0004】
アワビの行動研究報告(非特許文献1)からアワビは餌の匂いに誘引されないことが知られており、動き回って餌に触れて確認してから摂食すると考えられている。
飼料の含水量は、生海藻の含水量が80〜90%であることから、なるべくそれに近い湿潤状態にした方が嗜好性に優れている。しかし、含水量を増やせば保形性が低下し、取り扱いが不便となり、また、黴が発生しやすいなど保存性の問題が生ずる。したがって、アワビを含む巻貝類の餌料では嗜好性は劣るものの保存性の面からみてその含水量を10%程度に抑えざるを得ないのが現状である。そこで、一定の含水量を有しながら腐敗し難い水分活性に調整されたものにする必要がある。
【0005】
アワビ養殖用餌料において、配合飼料はコンブに比べ給餌作業の負担が少なく、確保が容易であり、成長が良いという利点があるので、現在普及が進んでいる。しかし、実用の配合飼料は、海水中での保形性が悪く1〜2日で崩壊してしまう。また、陸上水槽で養殖する場合は、崩壊した餌料により水質悪化を招くことから回収する作業を繰り返さなければならない。したがって、給餌作業に大きな労力を要するという欠点があり、水中での保形性に優れ、餌料成分が水に溶出しないものにする必要がある。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1では、原料中の残存水分を固定化し、さらに水中での再分散性を改善する目的で、吸水性の物質、例えば、澱粉、吸水性パルプ、ポリビニルアルコールなどを混練時に混入し、型に充填し、加熱成形固形化する方法で提案されている。しかし、この方法では製品魚餌中の水分比率が大きく、腐敗、黴発生が起こりやすい欠点がある。また、型に充填した後、加熱するため、生産効率が低く経済的に不利である。
【0007】
特許文献2には、本発明者らの先の発明である水産廃棄物を魚餌に加工する方法が記載されている。この方法は主原料の水産廃棄物と副原料の多糖類などからなる熱可塑性を有するハイブリッド組成物を炭酸ガスの超臨界又は亜臨界条件下で滅菌し、水分率が30重量%未満の固形状の魚餌にするものである。しかし、魚餌中の水分量が多いため魚餌自体の強度が低く、水にも膨潤し易いという問題があった。
【0008】
例えば、特許文献3には、糊状とした飼料を、アワビ類の網地等の付着板に塗布又は接着して固着させたものが記載されているが、水中保形性の問題を解決でできるものではない。また、アルギン酸ナトリウムは高価で調製が煩雑になるばかりでなく、含水率の高いゲルは保存性に問題がある。また、特許文献3〜7に開示されたものは、栄養価は高いがエクストルーダ等で製造される餌料では水中保形性に問題がある。
【0009】
なお、巻貝類の餌料組成物は予備的試験を行ったところ、コンブ含量5重量%で日間摂食率は5.9%(15℃)しかなかった。酒井らの報告(非特許文献2及び3)によるとワカメでは17.6%、アナアオサで12.4%(20.3℃)であることから海藻含有割合を増やすことが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】川村軍蔵・加世堂照男・尾上敏幸(2009,7,28):アワビの人工餌食効果試験▲6▼ エゾアワビの化学感覚器と摂食行動 報告書.
【非特許文献2】猪野 峻・酒井誠一(1971):アワビの生物学的研究.浅海完全養殖(今井丈夫監修),恒星社厚生閣,東京,pp.265−274.
【非特許文献3】酒井誠一(1962):エゾアワビの生態学的研究−▲1▼,食性に関する実験的研究.日本水産学会誌,28(8),766−779.
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−103789号公報
【特許文献2】特願2003−373214号公報
【特許文献3】特開平11−046696号公報
【特許文献4】実開2005−006525号公報
【特許文献5】特開2008−306970公報
【特許文献6】特開2006−223217号公報
【特許文献7】特開平10−248497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般的に樹脂成形する場合、接着性のない材料を大量に混合すると満足な強度の成形体を作ることは困難である。本ハイブリッド餌料もアワビ養殖用餌料については、今後摂食率、成長率向上のために海藻含有量を大幅に増加する必要があるが、海藻を大量配合しても、海水中で崩壊しない成形体を如何にして成形するかが押出成形上の重要な課題である。
【0013】
炭酸ガスの超臨界又は亜臨界条件でのデンプン樹脂化とは、本出願人がかねてより研究開発を行ってきた炭酸ガスを水に溶解させ、特殊押出機内で超臨界又は亜臨界状態とし、デンプンの加水分解、脱水縮合、架橋反応を経て、デンプンを熱可塑性樹脂化する技術である。さらに「樹脂成形加工に用いる樹脂材料、成形条件の選定技術」によって、各種デンプン、可塑剤、添加剤の選定やデンプン樹脂化の押出成形条件の選定を行い、熱可塑化デンプン樹脂をマトリックス材料(つなぎ剤)とする海藻とのハイブリッド成形加工することによって、餌料として要求される十分な性能を持つ成形体を実現する。そして、アワビの摂食と成長に適し、常温で長期保存でき、海水中で崩壊・変質しない新規ハイブリッド餌料成形体の製造技術は、「デンプンの炭酸ガス超臨界又は亜臨界条件での押出成形加工技術」と「樹脂成形加工に用いる樹脂材料、成形条件の選定技術」によって達成されるものであるが、以下の技術的課題が残っている。
【0014】
すなわち、アワビ養殖用餌料については、アワビの摂食率、成長率向上のために海藻含有量を大幅に増加する必要があるが、海藻を大量配合しても、海水中で崩壊せず、また、アワビの摂食行動から餌として認識させるために海藻同等の物性にする必要がある。しかし、現状は海藻のような柔軟性を持たせるために含水率を高くしており、成形加工性、常温保存性の獲得に課題がある。
【0015】
本発明は、以上のような従来技術の課題に鑑み、種々の餌料の嗜好性や保存性などを調整し、アワビ養殖用では餌である海藻類の枯渇期の餌不足を補うべく、繁茂期の海藻類をマトリックス材料でつなぎ、アワビが摂食しやすい形状及び柔軟性などの物性を持ち、水中での保形性、非腐敗性、保存性、成長性に優れた餌料を作出することなど、各種用途に対応した熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このため本発明の熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体は、海藻0〜60重量%、魚介類0〜60重量%、食品加工残滓0〜60重量%、デンプンなどの多糖類10〜80重量%、可食性の可塑剤1〜50重量%からなる組成物に無機塩類を添加し、熱可塑樹脂化することを第1の特徴とする。そして、その製造方法を、海藻0〜60重量%、魚介類0〜60重量%、食品加工残滓0〜60重量%、デンプンなどの多糖類10〜80重量%、可食性の可塑剤1〜50重量%からなる組成物に無機塩類を添加し、100℃以上の炭酸ガスの超臨界又は亜臨界条件の殺菌又は滅菌工程、脱水縮合工程、押出し熱可塑工程により熱可塑樹脂化することを第2の特徴とする。さらに、熱可塑化した樹脂をブロック状、平板状、塊状、ペレット状、粒状の型枠で圧縮成形し、加熱工程時に発生する餌料内の気泡を減少させたことを第3の特徴とする。また、シェルター機能を有する形状に成形加工したことを第4の特徴とする。
【0017】
例えば、アワビ餌料成形体の好適な要件については、以下の通り列挙する。
(1)アワビの摂食・成長を促進させる組成であること。
(2)アワビが餌として認識できるような海藻同等の物性を有すること。
(3)海水中で崩壊せずに形状を保持できる強度を有すること。
(4)海水中で変質・腐敗せず、常温で長期間保存できること。
【0018】
すなわち、餌料素材の選定、炭酸ガス超臨界又は亜臨界状態でのデンプン樹脂化条件、押出成形条件の選定によって要求される形状や強度、保存性等を改善でき、一般的なEP飼料に用いられるエクストルーダ(高温高圧造粒機)などの他の製造方法ではできなかった新規餌料が製造できることになり、
(1)アワビの摂食性、成長性の促進については、ハイブリッド餌料成形体中の海藻含有量を増加させ、大量の海藻を含有しても海水中で崩壊せずに形状を保持できる強度を持つデンプン熱可塑性樹脂化条件(脱水縮合度など)、海藻混合条件(混合する海藻の大きさ)、押出成形条件(温度、圧力、スクリュー回転数)を最適化することで可能となり、また、必須栄養素や誘引物質等の添加もできる。
(2)海藻同様の形状と柔軟性については、アワビに忌避作用がない可塑剤とデンプンを選定した上で、薄板状に引き伸ばしても十分な強度を持ち、かつ水分を比較的保持した成形体の組成と成形条件調製で解決できる。
(3)海水中でも崩壊し難い強度については、餌料の圧縮や熱可塑性樹脂化デンプンの分子量を増大させるためにデンプン熱可塑性化条件(脱水縮合工程)の調整によって解決できる。
(4)保存性、非変質性については、加工時の滅菌、水分活性調整効果があるので、押出成形条件(温度)調整や無機塩、糖アルコールなどの可塑性・添加剤種の選定、組成検討によって解決できる。 また、熱可塑化デンプン樹脂は、石油由来の合成樹脂とは異なり、生体への毒性がなく、可食性、生分解性を持ち、餌料のマトリックス材料としての適正が高いことを確認している。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、作出される餌料は栄養組成、嗜好性、保存性、保形性などを各種飼育動物の飼育特性に対応させ、調整し、加工することができる。
例えば、本発明により、作出したアワビ用餌料には以下の優れた効果がある。
(1)餌料効率の良い餌料
高成長の餌料を与えることにより、餌料コストの削減や飼育期間短縮による人件費等の削減に繋がる。
(2)保存性の良い餌料
常温で長期間保存できることにより、設備コストや餌料コストの削減に繋がる
(3)海水中の逸散が少ない餌料
餌料を効率的に摂食させることで餌料コストの削減に繋がる。
(4)海水中の安定性が良い餌料
アワビ養殖で主要な作業である給餌・残餌回収等の作業が省力化され、人件費等の削減に繋がる。
(5)加工性が良い餌料
熱可塑性樹脂であるため、餌料のサイズや形状は自由に変化させることができ、対象とする用途の目的に応じた様々な形状に加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】押出し成形直後及び圧縮成形後の餌料の状態を示す写真である。
【図2】浸水試験の結果を示す平板状の餌料成形体を示す写真である。
【図3】本発明に係る熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体の形状の例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体による箱状体の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る熱可塑性デンプンハイブリッド海藻餌料成形体の製造方法としては、ワカメ、コンブ等の海藻粉末0〜60重量%、魚粉などを含む魚介類0〜60重量%、食品加工残滓0〜60重量%、デンプンなどの多糖類10〜80重量%、可食性のグリセリン等の可塑剤1〜50重量%からなる組成物に塩化マグネシウム等の無機塩を添加したものを破砕混合工程、100℃以上の炭酸ガスの超臨界又は亜臨界条件の殺菌又は滅菌工程、脱水縮合工程、押出し熱可塑工程により熱可塑樹脂化する。
【0022】
海藻のつなぎ材料として多糖類を使用することにより、餌料の強度の向上、膨潤速度および崩壊速度を低下させることができる。多糖類としてはデンプン、セルロース、ヘミセルロースなどを使用する。多糖類が多く含まれるイモ類、穀類(小麦由来が好ましい)などをそのまま使用することもできる。多糖類の配合量は使用する海藻の種類により異なる。この多糖類の重量配合量については、原材料全体の10重量%〜80重量%であることが望ましい。さらに好ましくは30重量%〜70重量%であることが望ましい。また、このように、つなぎ材料として石油由来のプラスチック樹脂ではなく植物由来の安価な澱粉等の多糖類を使用することは、経済的に有利であり、また自然環境に対しても優しい。
【0023】
また、本発明の餌料の強度の向上、膨潤速度および分解・崩壊速度を低下させるために生分解性の樹脂を使用することもできる。生分解性樹脂としては脂肪族、芳香族のポリエステル又はそれらの共重合ポリエステルなどを使用することができる。
【0024】
本発明の熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体は、海藻、魚介類、食品加工残滓と多糖類を混合し、押出し機により熱可塑化することにより樹脂化し、これを冷却して固化させることにより固形状の餌料とするものである。熱可塑化する場合、可塑剤を加えることにより、熱可塑性を向上させることができる。また、可塑剤の配合量を増加させることにより、さらに熱可塑性を向上させることができる。可塑剤には可食性のグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、キシリトールなどが使用できる。
【0025】
また、可塑剤の添加は熱可塑性を向上させるだけでなく、熱可塑化した樹脂に柔軟性を持たせることができる。例えば、本発明の餌料をアワビ養殖に使用する場合、アワビが餌料を摂食した際の感触は天然のワカメやコンブと同様の状態にすることが好ましい。すなわち、天然の海藻に近似した適度な硬度と柔軟性を持たせることが好ましい。本発明の餌料は可塑剤の配合量を多くすることにより優れた柔軟性を持たせることができる。経済性を考慮すると、可食性可塑剤の重量配合量は原材料全体の1重量%〜50重量%であることが望ましい。さらに好ましくは1重量%〜35重量%であることが望ましい。
【0026】
また、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等の無機塩類の添加は、無機塩類による水分活性調整作用で、嗜好性(高水分)と保存性(低自由水)の両立を図ることができる。ここで、水分活性とは、食品中の自由水の割合を表す数値で食品の保存性の指標であり、食品中で微生物が繁殖するためには適切な量の自由水が存在することが不可欠であり、0.6以下ではすべての微生物が繁殖不可能となる。
【0027】
また、上記の各可塑剤を配合する際に、魚油、肝油、エビ油、イカ油を併用すると、餌料に可塑性や柔軟性を持たせるだけでなく、摂餌成分としての働きを持たせることができる。また、その他に、摂餌成分として各種アミノ酸ならびにアミノ酸混合物、ビタミン、ミネラル、色素、脂肪などの許可された添加剤、水産動物エキスや精製魚油(油脂)等を必要に応じて配合し使用することもできる。
【0028】
本発明の製造工程は、100℃以上の炭酸ガス超臨界又は亜臨界条件の殺菌又は滅菌工程、脱水縮合工程、押出し可塑成形工程からなる一貫連続工程が好ましい。ちなみに、炭酸ガスは温度31.1℃以上、圧力7.48MPa以上の条件下で超臨界状態となり、温度31.1℃以上、圧力7.48MPa未満の条件下および温度31.1℃未満、圧力7.48MPa以上の条件下で亜臨界状態となる。これらの工程により殺菌又は滅菌され、熱可塑樹脂化された固形状餌料を得ることができる。
【0029】
腐敗とは細菌により蛋白質、炭水化物、脂肪などが分解された状態を意味する。腐敗したものを摂取すると分解物が動物の生体に悪影響を及ぼし生理障害が発生する。しかし、本発明の餌料の場合、100℃以上の炭酸ガス超臨界又は亜臨界条件で殺菌又は滅菌した後、脱水縮合工程で再縮合されるため、加工後の腐敗を防止することができ、アワビに害はなく、そのアワビを摂取する人体にも害は及ばない。
【0030】
海藻には水分が多く含まれているが、これらの水は可塑剤として作用し、必要のない水分については脱水縮合工程で30重量%以下に調整される。含水率の測定は常温加熱、直接法(※五訂 日本食品標準成分表分析マニュアル)で求めた。
【0031】
本発明の餌料は押出し成形、圧縮成形により製造するため、その形状およびサイズは金型等を用いて自由に変化させることができ、対象動物の成長度合いにより調節することが可能である。例えば、図3に示すように押出し時に、成形体1を筒状または半筒状等に形成して凹部2を設けることにより、夜行性であるアワビに対する遮光と避難場所となるシェルター機能を付与することができる。また、成形体1の外層3と内層4に厚みの差や硬度差を持たせることで、保形性の高い外殻と柔軟で摂食が容易な内面を持たせることもでき、アワビをより安定した環境で肥育することができる。
【0032】
すなわち、海水に対する膨潤速度を遅くしたい場合については、外層3を硬く厚くする割合を多くすることで膨潤する速度を遅めにコントロールすることができる。また、海水中において部分的に強度を持たせたい場合においても同様で、海水の膨潤を抑制させ強度を保持することができる。一方、被覆しない部位については、すぐに摂食される柔軟性を持たせ、全体として餌料の膨潤速度に幅を持たせることで長い期間にわたり、アワビが摂食することで良好な成長を得ることができる。
【0033】
さらに、図4に示すように、アワビなどの水棲生物を放流する場合に、開閉自在な蓋5aを備え、各側面に複数の通水孔5bが形成された箱状の餌料成形体5を作り、これに種苗を入れて海中に投入沈下することで、食害生物による捕食を避けるとともに、放流後の餌の補給を併せて行うことで生残率を向上させることもできる。
【実施例1】
【0034】
ワカメ粉末7.4重量%、コンブ粉末7.4重量%、小麦デンプン37.0重量%、小麦粉27.8重量%、グリセリン3.7重量%、塩化マグネシウム16.7重量%の餌料原料混合物100重量部に飽和炭酸水(pH=5.4)46.0重量部を投入し、混合工程で混合したスラリー(かゆ状の混合物)をせん断力下、145℃、1MPaで滅菌処理を行った。その後、連続した減圧状態での脱水縮合工程を経て、縦3mm、横50mmのノズルからダイス圧力0.3MPaで押出し、平板状の金型を装着したプレス機を使用して厚み2〜3mmの平板状に成形した。製造した餌料には適度の弾力性、柔軟性があり、アワビが摂餌したことを確認できた(図1参照)。
【0035】
成形した直後の餌料の水分、水分活性の測定、細菌検査を実施した結果、水分14.4%、水分活性0.50、一般細菌数300個/g以下、カビ陰性(−)であった。
【0036】
さらに、ポリエチレン製チャック付き袋に25℃で60日間保管した餌料の水分、水分活性の測定、細菌検査も実施した。結果は、水分14.1%、水分活性0.50で変化せず、また、一般細菌数300個/g以下、カビ陰性(−)であり、黴の発生、腐敗は認められなかった。結果を表1及び表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
図2に示すように、実施例1において製造した平板状の餌料成形体を、水中に浸漬して腐敗性試験(一般細菌数、かび)を実施した結果、陸上水槽、海面生簀への浸漬1日、3日経過後も腐敗は認められなかった。
【0040】
実施例1において製造した平板状の餌料成形体を、8〜11℃の海水中に浸漬して崩壊状態を調査した結果、7日経過後も保形していた。これにより、餌料が崩壊するまでにアワビが摂取するのに十分な時間があることが確認できた。結果を図2、表3及び表4に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【実施例2】
【0043】
実施例1と同様にして主原料をワカメ粉末3.5重量%、コンブ粉末2.6重量%、小麦デンプン45.6重量%、小麦粉17.5重量%、グリセリン3.5重量%、塩化マグネシウム21.9重量%、ビタミン混合物4.3重量%、タラ肝油0.7重量%、大豆レシチン0.4重量%の餌料原料混合物100重量部に飽和炭酸水(pH=5.3)43.0重量部を投入し、混合工程で混合したスラリー(かゆ状の混合物)をせん断力下、140℃、1MPaで滅菌処理を行った。その後、連続した減圧状態での脱水縮合工程を経て、縦3mm、横50mmのノズルからダイス前圧力0.2MPaで押出し、厚み2〜3mmの平板状に成形された餌料を製造した。
【0044】
成形した直後の餌料の水分、水分活性の測定、細菌検査を実施した結果、水分15.7%、水分活性0.52、一般細菌数300個/g以下、カビ陽性(+)(実数30個/g)であった。
【0045】
さらに、ポリエチレン製チャック付き袋に25℃で60日間保管した餌料の水分、水分活性の測定、細菌検査も実施した。結果は、水分15.1%、水分活性0.50で変化せず、また、一般細菌数300個/g以下、カビ陰性(−)であり、黴の発生、腐敗は認められなかった。結果を表5及び表6に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
実施例2において製造した平板状の餌料成形体を、水中に浸漬して腐敗性試験(一般細菌数、かび)を実施した結果、陸上水槽、海面生簀への浸漬1日、3日経過後も腐敗は認められなかった。結果を表7及び表8に示す。
【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
上記各実施例において、塩化マグネシウムを添加することにより、水分が14〜18%、水分活性が約0.5というアワビに対する嗜好性と保存性に優れた餌料が得られた。
【符号の説明】
【0052】
1 餌料
2 凹部
3 外層
4 内層
5 箱体
5a 蓋
5b 通水孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻0〜60重量%、魚介類0〜60重量%、食品加工残滓0〜60重量%、デンプンなどの多糖類10〜80重量%、可食性の可塑剤1〜50重量%からなる組成物に無機塩類を添加し、熱可塑樹脂化して形成したことを特徴とする熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体。
【請求項2】
請求項1からなる組成物を100℃以上の炭酸ガスの超臨界又は亜臨界条件の殺菌又は滅菌工程、脱水縮合工程、押出し熱可塑工程により熱可塑樹脂化することを特徴とする熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2からなる餌料成形体を、ブロック状、塊状、平板状、ペレット状、粒状の型枠内で圧縮成形し、餌料内の気泡を減少させたことを特徴とする熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかからなる餌料成形体を、シェルター機能を有する形状に成形加工したことを特徴とする熱可塑性デンプンハイブリッド餌料成形体。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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