説明

熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物およびそれからなる成形体

【課題】柔軟で弾性に富み屈曲疲労性に優れると共に、射出成形、押出成形、ブロー成形などの各種成形加工性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供する。
【解決手段】本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)100重量部に対し、ポリオレフィン樹脂(B)0.1〜25重量部、およびグリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1〜15重量部、さらに結晶核剤(D)0.01〜5.0重量部を溶融混合してなり、下記式(1)で定められる温度To(℃)において、ASTM D−1238にしたがって、荷重2160gで測定したメルトフローレートが0.5g/10分以上、10g/10分以下であることを特徴とする。
To=R(Tm)+20・・・(1)
(ただし、Tmは熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点、R(Tm)はTmを10の位まで切り上げた値と定義する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟で弾性に富み屈曲疲労性に優れると共に、射出成形、押出成形、ブロー成形性に優れた熱可塑性エラストマ樹脂組成物およびそれからなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステルエラストマは、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、高温特性に優れ、さらに熱可塑性で成形加工が容易であることから、自動車、電気・電子部品、消費材などの分野に広く使用されている。
【0003】
熱可塑性ポリエステルエラストマの成形加工方法としては、射出成形、押出成形、ブロー成形などが使用されているが、各々の成形加工方法の違いにより異なった材料特性が施されている。例えば射出成形では、固化を早くすることで成形サイクルを短くし、寸法精度を向上させている。また、押出成形やブロー成形では、溶融時の賦形性を考慮して、溶融弾性を高めて固化速度を遅くさせた材料設計を施している。
【0004】
例えば、等速ジョイント駆動装置のカバーブーツ、エーアーダクト、フューエルチューブなどの成形品には、ブロー、押出成形が活用されている。中でも、自動車の等速ジョイント駆動装置のカバーブーツは、熱可塑性ポリエステルエラストマが幅広く使用されている用途であり、一般的にはプレスブロー成形が使用されている。しかし、プレスブロー成形以外に、射出成形とブロー成形方法を併せ持つインジェクションブロー成形での検討が進められているが、前述した成形加工方法の違いにより材料設計が異なるために、射出成形とブロー成形に適した特性を併せ持つ材料がなく、成形性を満足する材料が得られていないという問題があった。
【0005】
そこで、成形性を改良するために種々の検討がなされており、例えば、グリシジル基および/またはイソシアネート基を含有し重量平均分子量が200以上50万以下である反応性化合物を含むポリエステル樹脂用改質剤(例えば、特許文献1参照)、ポリエステル樹脂の粒状体を流動条件下に、ポリオレフィン樹脂又はポリアミド樹脂に接触させることにより、ポリエステル樹脂にポリオレフィン樹脂又はポリアミド樹脂を微量含有させた改質ポリエステル樹脂の製造方法(例えば、特許文献2参照)、および融点が180〜220℃の熱可塑性エラストマと該熱可塑性エラストマの融点より20〜55℃低い融点を有する熱可塑性エラストマからなる熱可塑性エラストマ樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0006】
しかしながら、これら従来の技術では、十分に成形加工技術を改質するまでには至っておらず、特に射出成形時のヒケ、ブロー成形時のブロー成形性、屈曲疲労性を両立することは困難な状態であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−272680号公報
【特許文献2】特開2006−152315号公報
【特許文献3】特開2010−18697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上述した従来技術における問題点を解決することにあり、その目的とするところは、柔軟で弾性に富み屈曲疲労性に優れると共に、射出成形、押出成形、ブロー成形性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物およびそれを使用した成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、熱可塑性ポリエステルエラストマに、ポリオレフィン樹脂、グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂、および結晶核剤を組み合わせて配合し、所定の温度におけるメルトフローレートが特定の範囲を満たすようにすることによって、上記の目的が効果的に達成することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、上記目的を達成するために本発明によれば、熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)100重量部に対し、ポリオレフィン樹脂(B)0.1〜25重量部、グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1〜15重量部、および結晶核剤(D)0.01〜5.0重量部を溶融混合してなり、下記式(1)で定められる温度To(℃)において、ASTM D−1238にしたがって、荷重2160gで測定したメルトフローレートが0.5g/10分以上、10g/10分以下であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物。
To=R(Tm)+20・・・(1)
(ただし、Tmは熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点、R(Tm)はTmを10の位まで切り上げた値と定義する。)
【0011】
なお、本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物においては、
前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)が、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント20〜70重量%と、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント80〜30重量%とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であること、
前記グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)が、α−オレフィン、α,β−不飽和酸およびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルからなる3元共重合体であること、
前記結晶核剤(D)が無機物であること、
前記メルトフローレートが1.0g/10分以上、8.0g/10分以下、好ましくは1.0g/10分以上、5.0g/10分以下であること、
が、いずれも好ましい条件であり、これらの条件を適用することにより、一層優れた効果の取得を期待することができる。
【0012】
また、本発明の成形体は、前記熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物が成形されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、柔軟で弾性に富み屈曲疲労性に優れると共に、射出成形、押出成形、ブロー成形性などの各種成形方法においても優れた加工性を有する熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物およびそれからなる成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
【0015】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)は、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメントと、主として脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点セグメントとを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であり、高融点結晶性重合体セグメントは、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルである。
【0016】
前記芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4' −ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4' −ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、および3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4' −ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。さらにジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0017】
前記ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2' −ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4' −ジヒドロキシ−p−ターフェニル、および4,4' −ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。
【0018】
これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0019】
かかる高融点結晶性重合体セグメントの好ましい例は、テレフタル酸またはジメチルテレフタレートと、1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位からなるものである。高融点結晶性重合体セグメントの共重合量は通常20〜80重量%、好ましくは30〜75重量%である。
【0020】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)で使用される低融点重合体セグメントは、必要に応じ脂肪族ポリエーテルを使用することができる。
【0021】
かかる脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましく用いられる。
【0022】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の低融点重合体セグメントの共重合量は、通常、80〜20重量%、好ましくは70〜25重量%である。
【0023】
本発明に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)は、溶融重縮合により得られる。溶融重縮合は公知の方法で実施することができる。例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、および低融点重合体セグメント成分を、触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、およびあらかじめ高融点結晶性セグメントを作っておき、これに低融点セグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0024】
溶融重縮合で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)は、次いで細粒化される。細粒化はガット状またはシート状に取り出した熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)を、カッターでペレタイズするコールドカット方によってもよいし、ガット状やシート状にすることなくペレタイズするホットカット方によってもよい。また、塊状に取り出した熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)を粉砕してもよい。
【0025】
溶融重縮合で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)は、次いで固相重縮合してもよい。固相重縮合は、溶融重縮合後に細粒化した熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)が融着しない温度で実施するが、通常は140℃〜220℃の温度範囲で行う。固相重縮合の前には、予備結晶化と乾燥工程を経ることが望ましい。また、固相重縮合は、高真空下または不活性気流下で実施する。高真空下の場合は、好ましくは665Pa以下、さらに好ましくは133Pa以下の減圧下で行う。不活性気流下の場合は、代表的には窒素気流下で行うことが好ましく、圧力は特に限定されないが大気圧が好ましい。反応容器としては、回転可能な真空乾燥機や、不活性ガスを流すことのできる塔式乾燥機などを使用することが好ましい。
【0026】
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂(B)とは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体などが挙げられるが、なかでもポリエチレンが好ましい。ポリオレフィン樹脂(B)の配合量は、熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)100重量部に対して0.1〜25重量部、好ましくは0.5〜20重量部である。0.1重量部未満では目的とする効果の改良度合いが小さく、25重量部を越えると熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)と相分離して屈曲疲労性が悪くなるだけでなく、成形品の表面に層状剥離を起こし成形品の外観を損なうため好ましくない。
【0027】
本発明に用いられるグリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)としては、α−オレフィン、α,β−不飽和酸およびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルからなる3元共重合体が好ましい。α−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1などが挙げられるが、なかでもエチレンが好ましく使用される。また、α,β−不飽和酸としては、ビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアクリル酸およびメタクリル酸のエステル類、アクリロニトリルおよびスチレンなどが挙げられるが、なかでもブチルアクリル酸エステル、メチルメタクリル酸エステルが好ましく使用される。さらに、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、およびエタクリル酸グリシジルエステルなどが挙げられるが、なかでもメタクリル酸グリシジルエステルが好ましく使用される。グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)の配合量は、熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)100重量部に対して1〜15重量部、好ましくは1〜10重量部である。0.1重量部未満では目的とする効果の改良度合いが小さく、25重量部を越えると耐油性と耐グリース性と屈曲疲労性が悪くなるため好ましくない。
【0028】
本発明に用いられる結晶核剤(D)は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となる得るものであれば、特に限定されないが、無機物が好ましく、中でもタルク、炭酸カルシウムが特に好ましい。結晶核剤(D)の配合量は、熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)100重量部に対して0.01〜5.0重量部である。0.01重量部未満では目的とする効果の改良度合いが小さく、5.0重量部を越えると屈曲疲労性が悪くなるため好ましくない。
【0029】
本発明における熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物は、
To=R(Tm)+20・・・(1)
(ただし、Tmは熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点、R(Tm)はTmを10の位まで切り上げた値と定義する。)
で定められる温度Toにおいて、ASTM D−1238にしたがって、荷重2160gで測定したメルトフローレートが0.5g/10分以上、10g/10分以下、好ましくは1.0g/10分以上、8.0g/10分以下、さらに好ましくは1.0g/10分以上、5.0g/10分以下であることが重要である。本発明における熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物の上記方法で測定したメルトフローレートが0.5g/10分未満では、射出成形時に成形下限圧を高くする必要があり、成形機への負担が大きくなる。また、成形下限圧を高くしなければ、薄肉成形品や大型成形品では樹脂の未充填部が発生しやすくなることから、射出成形性が悪くなるため好ましくない。逆に、上記方法で測定したメルトフローレートが10.0g/10分を超える場合には、ブロー成形時にパリソンが変形して、ブロー後の形状に不具合が出るなどブロー成形性が悪くなるとともに、屈曲疲労性も悪くなるため好ましくない。
【0030】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で必要に応じて、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系、芳香族アミン系などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、HALSなどの光安定剤、帯電防止剤、金属石鹸、脂肪酸アミドなどの滑剤、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどポリエーテル類や液状ポリブタジエンなどの潤滑剤、可塑剤、染料、顔料、難燃剤、離型剤等の添加剤や、マイカ、ガラスフレーク、クレー、硫酸バリウム、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭素繊維などの補強材を添加することができる。
【0031】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物は、柔軟で弾力性に富み屈曲疲労性に優れると共に、射出成形、押出成形、ブロー成形などの異なった成形加工方法にも適用可能であることから、射出成形とブロー成形を合わせたインジェクションブロー成形などの複数の成形加工技術を合わせた成形方法に好適である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、ことわりのない場合すべて重量基準である。また、例中に示される物性は次の測定方法により測定したものである。
【0033】
[硬度(デュロメーターD)]
JIS K7215 デュロメーターD硬さにしたがって測定した。
【0034】
[融点および結晶化温度]
ティー・エイ・インスツルメント社製DSC Q100を使用し、10℃/分の昇温速度で常温から240℃まで加熱し融点を測定した。さらに、240℃で3分間保持した後10℃/分の降温速度で40℃まで冷却し結晶化温度を測定した。
【0035】
[屈曲疲労性]
80℃で5時間乾燥した評価用樹脂組成物の各ペレットを、温度250℃でプレス成形して得た厚み2mmのシートから、縦80mm×横20mm×厚み2mmの短冊を切り出し、(株)東洋精機製作所製ディマチャ屈曲疲労試験機を用いて、120℃の雰囲気下にて、チャック間距離25mmから5mmの間でストロークさせて亀裂が発生するまでの屈曲回数を測定した。
【0036】
[メルトフローレート]
熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点から、式(1)で定められる温度Toにおいて、ASTM D−1238にしたがって、荷重2160gで測定した。
To=R(Tm)+20・・・(1)
(ただし、Tmは熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点、R(Tm)はTmを10の位まで切り上げた値と定義する。)
【0037】
[射出成形性]
射出成形性として、80℃で5時間乾燥した評価用樹脂組成物の各ペレットにてJIS 2号ダンベル試験片と、縦75mm×横125mm×厚み2mmの角板を、シリンダー温度を240℃、金型温度を50℃の条件で成形し、樹脂が金型に充填する下限圧を調べた。下限圧が50MPa未満の場合を○、50MPa以上の場合を×とした。
【0038】
[ブロー成形性]
ブロー成形性として、80℃で5時間乾燥した評価用樹脂組成物の各ペレットにて、オズバーガー社製プレスブロー成形機を使用して、重量70g、山部外径φ75mm、谷部外径φ65mm、肉厚1.5mmの5山4谷の蛇腹部を有する中空パイプを温度250℃で成形し、山部と谷部のエッジ形状の形成度合いを目視観察して、金型寸法通りにエッジが形成されているものを○、金型寸法通りにエッジが形成されていないもの、あるいはパリソンが変形して蛇腹部の樹脂が折り重なる箇所があるものを×とした。
【0039】
[参考例1]
[熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−1)の製造方法]
テレフタル酸44.4部、1,4−ブタンジオール38.6部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール43.9部を、チタンテトラブトキシド0.04部とモノ−n−ブチル−モノヒドロキシスズオキサイド0.02部と共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物にテトラ−n−ブチルチタネート0.2部を追添加し、“イルガノックス”1098(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.05部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。得られた熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−1)は、硬度50D、融点は203℃、メルトフローレートは18g/10分であった。
【0040】
[熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−2)の製造方法]
熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−1)のペレットを回転可能な反応容器に仕込み、系内の圧力を27Paの減圧とし、170から180℃で48時間回転させながら加熱して固相重縮合を行った。得られた熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−2)は、硬度50D、融点は203℃、メルトフローレートは2.0g/10分であった。
【0041】
[熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−3)の製造方法]
熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−1)のペレットを回転可能な反応容器に仕込み、系内の圧力を27Paの減圧とし、170から180℃で72時間回転させながら加熱して固相重縮合を行った。得られた熱可塑性ポリエステルエラストマ(A−3)は、硬度50D、融点は203℃、メルトフローレートは0.5g/10分であった。
【0042】
これらA−1〜3の熱可塑性ポリエステルエラストマペレット単独の融点、結晶化温度、屈曲疲労性、メルトフローレートの物性を評価した結果を、表1に参考例1から3として示した。
【0043】
また、ポリオレフィン樹脂(B)、グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)、および結晶核剤(D)としては下記のものを準備した。
【0044】
[ポリオレフィン樹脂(B)]
実施例において使用したポリオレフィン樹脂は以下のとおりである。
B−1:日本ポリエチレン社製ノバテック LF585M
B−2:プライムポリマー社製ハイゼックス 7000F
【0045】
[グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)]
C−1:住友化学社製ボンドファースト 7M
【0046】
[結晶核剤(D−1)]
竹原化学工業製タルク
【0047】
[実施例1〜4]
参考例で得られた熱可塑性ポリエステルエラストマを、ポリオレフィン樹脂、グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂、および結晶核剤とともに、表1に示す配合比率(重量部)でV−ブレンダーを用いて混合し、直径45mmで3条ネジタイプのスクリューを有する2軸押出機を用いて250℃で溶融混練し、ペレット化した。
【0048】
[比較例1〜5]
表1に示す配合比で、実施例1〜4と同様にして、比較例1〜5のペレットを得た。
【0049】
上記実施例および比較例で得られた各ペレットを用いて、融点、結晶化温度、屈曲疲労性、メルトフローレートの物性を評価した。また成形性として、射出成形性およびブロー成形性を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
以上の結果より、実施例1〜4に示した本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物は、柔軟で弾力性に富み耐屈曲疲労性に優れると共に、射出成形性、押出成形性も良好であった。一方、比較例の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物は、これらをすべて満足去ることはなく、それに対し、メルトフローレートの値の大きい比較例1、4では屈曲疲労性が悪く、ブロー成形性に劣る。一方、メルトフローレートの値の小さい比較例2では射出成形性が悪い。オレフィン樹脂および結晶核剤が未配合である比較例3は、ブロー成形はできるものの、射出成形するためには成形下限圧を高くする必要があることから、射出成形性は悪い結果となった。オレフィン樹脂が未配合である比較例5は、屈曲疲労性が悪く、射出成形性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物は、上記した優れた特性を活かして、自動車、電子・電気機器、精密機器、および一般消費財用途の各種成形体として利用でき、射出成形、押出成形、ブロー成形などの各種成形加工方法を複合する成形加工方法を使用する用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)100重量部に対し、ポリオレフィン樹脂(B)0.1〜25重量部、グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)0.1〜15重量部、および結晶核剤(D)0.01〜5.0重量部を溶融混合してなり、下記式(1)で定められる温度To(℃)において、ASTM D−1238にしたがって、荷重2160gで測定したメルトフローレートが0.5g/10分以上、10g/10分以下であることを特徴とする熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物。
To=R(Tm)+20・・・(1)
(ただし、Tmは熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)の融点、R(Tm)はTmを10の位まで切り上げた値と定義する。)
【請求項2】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマ(A)が、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント20〜70重量%と、脂肪族ポリエーテル単位からなる低融点重合体セグメント80〜30重量%とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂(B)がポリエチレンであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物。
【請求項4】
前記グリシジル基変性ポリオレフィン樹脂(C)が、α−オレフィン、α,β−不飽和酸およびα,β−不飽和酸のグリシジルエステルからなる3元共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物。
【請求項5】
前記結晶核剤(D)が無機物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物。
【請求項6】
前記メルトフローレートが1.0g/10分以上、8.0g/10分以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物。
【請求項7】
前記メルトフローレートが1.0g/10分以上、5.0g/10分以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性ポリエステルエラストマ樹脂組成物が成形されてなることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2011−207926(P2011−207926A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74180(P2010−74180)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】