説明

熱可塑性ポリマー材料に埋め込まれた金属強化材を含む複合製品

本発明は、少なくとも1つの金属強化材が埋め込まれたポリマー材料を備えた複合製品に関する。金属強化材とポリマー材料との間には接着促進層が位置する。この接着促進層には、有機官能性シランとハイパーブランチポリマーとが含まれている。また、本発明は、この複合製品を製造する方法と、この複合製品の金属強化製品としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの金属強化材が埋め込まれた熱可塑性ポリマー材料を備えた複合製品に関する。また、本発明は、複合製品の製造方法、および複合製品の強化製品としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
金属強化樹脂材料は、高強度で且つ軽量であることから、多くの用途に対して魅力的な材料である。しかしながら、金属強化樹脂材料、特にポリオレフィンなどの非極性熱可塑性ポリマー材料に関するよく知られた問題として、金属強化材と熱可塑性ポリマー材料との間に良好な接着を得るのが困難という問題がある。
【0003】
多くの研究者が、金属とポリマー材料の接着を促進することを試みてきた。それらの試みは、例えば、バルクポリマーの改質や、一方もしくは両方の構成成分の表面の物理化学的な改質がある。例えば、マレイン酸無水物は、スチールとポリマーの接着を強化するために、ポリマーの官能性を高めるものとして工業的に使用されている。シランなどのカップリング剤は、金属とポリマー材料の接着を改良すると提案されてきた。また、エポキシおよびクロムをベースとするコーティングも、耐食性を向上すること、および金属表面とポリマーコーティングの接着を促進することが、当技術分野において知られている。
【0004】
しかしながら、これらのコーティングには多くの問題がある。例えば、エポキシをベースとするコーティングは水分を容易に吸収する。吸収された水はエポキシとスチールの界面に拡散するため、界面接着強度が低下する可能性がある。また、クロムをベースとするコーティングは毒性が高いので、これらの塗布は避けることが好ましい。
【0005】
多くの用途に対しては高い耐食性が望まれているので、追加の処理が必要とされる。
【発明の開示】
【0006】
本発明の目的は、このような先行技術の課題を解決することである。本発明の別の目的は、接着促進層によって金属とポリマー材料の結合を改良することである。本発明のさらに別の目的は、経年劣化に対する耐久性、耐腐食性、動的負荷に対する耐久性、および界面に垂直に作用する剪断力に対する耐久性を改良することである。本発明のさらにまた別の目的は、金属強化材とポリマーマトリックスとの間に高靭性の中間層を作り出すことである。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも1つの金属強化材が埋め込まれたポリマー材料を備えた複合製品が提供される。この金属強化材は、少なくとも部分的に接着促進層で被覆されている。この接着促進層は、金属強化材とポリマー材料との間に位置する。接着促進層は、第1成分と第2成分とを少なくとも含む。第1成分は有機官能性シラン(organofunctional silanes)を含み、第2成分はハイパーブランチポリマーを含む。接着促進層は、第1成分と第2成分との反応生成物をさらに含んでもよい。第2成分は20重量%未満の濃度で存在することが好ましい。第2成分の濃度は、15重量%未満がより好ましく、例えば10重量%または5重量%である。
【0008】
(有機官能性シラン)
有機官能性シランは、以下の式で示される化合物である。
Y−(CH2n−SiX3
式中、Yは、−NH2、R−NH−、CH2=CH−、CH2=C(CH3)COO−、2,3−エポキシプロポキシ、HS−およびCl−から選択される有機官能基を表す。
Xは、−OR、−OC(=O)R’、−Cl(RおよびR’は互いに独立してC1−C4アルキルから選択され、好ましくは−CH3、−C25である)から選択されるケイ素官能基を表す。
nは、0から20、好ましくは0から10、および最も好ましくは0から3の整数である。
【0009】
好ましいシランは、少なくとも1つのアミノ官能基を有するアミノ有機官能性シランである。
【0010】
(ハイパーブランチポリマー)
ハイパーブランチポリマーは、一般に樹状構造を有する三次元の高度に枝分かれした分子であると説明できる。それらは、適合性および反応性を保証するように調整した基を用いて官能化できる極めて多数の末端基を特徴とする。
【0011】
末端基は、例えばヒドロキシル基、チオール基、アミン基、またはエポキシ基である。
【0012】
本発明の目的において、用語「ハイパーブランチポリマー」には、ハイパーブランチポリマーの単分散の変形例であるデンドリマーが含まれる。
【0013】
ハイパーブランチポリマーは、通常、1つまたは複数の反応部位を有するイニシエーターもしくは核と、鎖伸長分子の多数の枝分かれ層と、任意の1つまたは複数の鎖停止分子の層とから構成される。これらの層は、通常、世代と呼ばれる。
【0014】
ハイパーブランチポリマーは、好ましくは1世代から5世代を有する。
【0015】
一般に、ハイブランチポリマーは、2世代の材料において、1分子当たり平均して少なくとも16個の末端基を有しており、次の世代になるに従って、少なくとも2倍ずつ増加する。例えば、2世代のハイパーブランチポリマーの数平均モル質量は、通常、約1,500g/molより大きく、そしてこのモル質量は、世代もしくは擬世代が増えるとともに指数関数的に増加し、4擬世代のポリマーでは約8,000g/molに達する。典型的には、デンドリマーの分子量は1末端基当たり約100g/molであろうが、これは分子構造によって変動するであろう。
【0016】
鎖停止は、少なくとも1つのモノマーもしくはポリマーの鎖停止剤をハイブランチポリマーへ加えることによって実施することが好ましい。鎖停止剤は、1〜24個の炭素原子を有する脂肪族もしくは脂環式の飽和もしくは不飽和の単官能のカルボン酸もしくはカルボン酸無水物、1〜24個の炭素原子を有する芳香族の単官能のカルボン酸もしくはカルボン酸無水物、ジイソシアネート、オリゴマーもしくはそれらの付加化合物、単官能のカルボン酸もしくはカルボン酸無水物のグリシジルエステル、1〜24個の炭素原子を有する単官能のアルコールのグリシジルエーテル、1〜24個の炭素原子を有する脂肪族もしくは脂環式の飽和もしくは不飽和の単官能、二官能、三官能もしくは多官能のカルボン酸もしくはカルボン酸無水物の付加化合物、芳香族の単官能、二官能、三官能もしくは多官能のカルボン酸もしくはカルボン酸無水物の付加化合物、および不飽和モノカルボン酸のエポキシドもしくは対応するトリグリセリドであって、酸が3〜24個の炭素原子と1つのアミノ酸を有するものからなる群から選択されるものが好ましい。
【0017】
(金属強化材)
金属強化材としては、金属ワイヤ、金属コード、金属ストリップまたは金属リボンを用いることができる。金属ワイヤは、円形の断面、楕円形の断面、または平坦な(長方形の)断面などの任意の断面を有していてよい。金属材の引っ張り強度は、好ましくは1,500N/mm2より高い。引っ張り強度の範囲は、例えば1,500から4,000N/mm2である。構造伸びを有する金属コードを使用することが望ましいであろう。
【0018】
また、金属強化材として、複数の金属ワイヤを備えた構造を使用することもできる。この構造の例としては、複数の金属材を備えた束構造、組紐構造、溶接構造、または織構造がある。
【0019】
本発明に係る複合製品の金属強化材には、いずれの金属または合金を使用できる。金属または合金としては、鉄、チタン、アルミニウム、銅およびそれらの合金から選択することが好ましい。好ましい合金としては、高炭素綱またはステンレススチールの合金がある。
【0020】
複数の金属材を備えた金属強化材または構造は、接着促進層を塗布する前に、1つまたは複数の金属または合金のコーティングで被覆してもよい。好ましい金属または合金のコーティングとしては、亜鉛や、亜鉛−銅、亜鉛−アルミニウム、亜鉛−マンガン、亜鉛−コバルト合金、亜鉛−ニッケル合金、亜鉛−鉄合金または亜鉛−スズ合金のコーティングなどの亜鉛合金コーティングがある。好ましい亜鉛−アルミニウムのコーティングとしては、2〜10%のAlと、任意の0.1〜0.4%のLaおよび/またはCeなどの希土類元素とを含む亜鉛コーティングがある。
【0021】
一部の用途には、ハイブリッド構造、すなわち2つ以上の異なる材料を含む構造を使用することが望ましいことがある。例えば、2つ以上の異なる金属もしくは合金からなる金属ワイヤを含む構造や、ポリマーフィラメントもしくはガラスフィラメントなどの非金属フィラメントとの組み合わせの金属ワイヤを含む構造などがある。第1の実施例としては、インナーフィラメントとしてポリマーコアと、アウターフィラメントとしてスチールワイヤなどの金属ワイヤとを備えたコードがある。また別の実施例としては、金属フィラメントとポリマーフィラメントとを含む織構造がある。
【0022】
(ポリマー材料)
ポリマー材料としては、いずれのポリマーも用いることができる。好ましいポリマーとしては熱可塑性ポリマーがある。適切なポリマーの例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト化ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレンなどのポリオレフィンや、ポリアミドや、ポリウレタンや、ポリエステルや、ポリイソプレン、クロロプレン、スチレンブタジエン、ブチルゴム、ニトリルおよび水素化ニトリルゴム、EPDM、ABS(アクリルニトリルブタジエンスチレン)などのゴムや、PVCがある。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、複合製品の製造方法が提供される。本方法は、
金属強化材を提供する工程と、
この金属強化材の少なくとも一部の上に、有機官能性シランを含む第1成分と、ハイパーブランチポリマーを含む第2成分とを含む接着促進層を塗布する工程と、
この接着促進層を被覆した金属強化材を、ポリマー材料中に埋め込む工程と
を含む。
【0024】
接着促進層は、前加水分解または非加水分解の形で塗布することができる。
【0025】
本方法は、接着促進層を塗布する前に、金属または合金のコーティングを塗布する工程をさらに含むことができる。
【0026】
本発明の第3の態様によれば、金属強化樹脂を必要とするあらゆる種類の用途への上述した複合製品の使用が提供される。本発明に係る複合製品は、例えばホースまたはケーブルの素材に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
接着促進層としてシランを使用するとともに、本発明に係る接着促進層を使用して、スチールとポリエチレンとの間の中間層について試験した。
【0028】
機械的挙動を評価するために、試験片はインサイチュー単軸崩壊試験によって試験した。変位制御装置を備え、さらに1,000Nロードセルを装備したコンピュータ制御引張試験機(Rheometric Scientific社製MiniMat2000)を使用して、4%の伸びεまでスチール基質試験片を引っ張った。被覆されたスチール基質のつかみは、試験片つかみ具内での試験片の滑りを防止するために、サンドペーパーを用いて注意深く最適化した。次に、被覆されたスチール基質の表面形態は、走査電子顕微鏡(SEM)(Philips XL30)によって分析し、引っ張る前の試験片の表面形態と比較した。
【0029】
追加のインサイチュー短軸崩壊測定試験は、変位制御装置を備え、200Nロードセルを装備したコンピュータ制御引張試験機(MICROTEST材料試験モジュール、DEBEN Research社製)を用いて1×1cm2の試験片について実施した。SEMチャンバ内に装置を取り付ける前に、被覆された基質のつかみは、試験片つかみ具内での試験片の滑りを防止するために、サンドペーパーを用いて注意深く最適化した。引っ張り装置をJEOL JSM−6300F SEMに取り付け、事前に規定した名目引っ張りレベルまで試験片へ段階的に負荷を加えた。引っ張り下でのコーティングにおける損傷の発生は、長さを引っ張り軸へ平衡に整列させて、顕微鏡写真で分析した。
【0030】
試験片としては、接着促進層で被覆した基質を用いた。基質としては金属基質とポリマー基質を用いた。金属基質としては厚さ50μm、幅6mmのスチール片を使用した。ポリマー基質は、厚さ300〜500μmを有するポリエチレン(PE)と無水マレイン酸グラフト化ポリエチレン(MAH−g−PE)を試験した。
【0031】
スチール基質とポリマー基質は、液体のγ−(アミノプロピル)トリエトキシシラン(γ−APS)(純度99%)で被覆するか、または10重量%のエポキシ官能性ハイパーブランチポリマー(HBP)を用いて改質したγ−(アミノプロピル)トリエトキシシラン(γ−APS)で被覆した。
【0032】
シランγ−APSは、小オリゴマーから広範囲の架橋重合網に及ぶ成形製品を加水分解かつ凝縮する1クラスの有機官能性トリアルコキシシランに属する。改質剤(HBP)は、スウェーデンのPerstorp社によって供給されるエポキシ官能化HBPである。このハイパーブランチポリマーは、1,080g/当量のエポキシ当量および11の理論的エポキシ官能性を有する。
【0033】
γ−APS/HBPは、スピンコーティング前に95重量%のエタノール中に希釈した。基質は、各々5重量%のγ−APSおよびエタノール中の5重量%のγ−APS+10重量%のHBPの新鮮な塩基性溶液を用いるスピンコーティングによって被覆した。
【0034】
スチール基質についての崩壊測定試験では、4%の歪みまでは、純粋シランおよびHBP改質シランの両コーティングでも亀裂は全く観察されなかった。使用されたスチール基質について可能性のある最高伸びは4.5%である。化学改質ポリエチレン基質についてのインサイチュー崩壊試験では、純粋シランおよびHBP改質シランの両コーティングの亀裂開始点、すなわち最初の亀裂が出現する歪みはほぼ同じであり、10%よりわずかに小さい歪みであった。しかし、亀裂伝搬機序は、シランコーティングにHBPが添加された場合に変化した。純粋シランのコーティングでは亀裂の直線的な伝搬が観察されたが、HBPをシランに添加した場合では、亀裂の蛇状の伝搬が発生した。シランにHBPを添加したことによって、両成分の間の相分離を含む網を伴う新しい中間層が作り出された。インサイチュー崩壊試験では、HBPのこぶ(nodule)が亀裂を停止させる、逸らす、または遅らせることができることを示した。これらの結果は、HBPがシランコーティングに添加された場合、亀裂開始点には影響を及ぼさないが、靭性を向上する作用があることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの金属強化材が埋め込まれたポリマー材料を備えた複合製品であって、前記金属強化材が少なくとも部分的に接着促進層で被覆されており、前記接着促進層が前記金属強化材と前記ポリマー材料との間に位置しており、前記接着促進層が第1成分と第2成分とを含み、前記第1成分が有機官能性シランを含み、前記第2成分がハイパーブランチポリマーを含むことを特徴とする複合製品。
【請求項2】
前記第2成分が20重量%未満の濃度で存在する請求項1に記載の複合製品。
【請求項3】
前記有機官能性シランがアミノ有機官能性シランを含む請求項1または2に記載の複合製品。
【請求項4】
前記ハイパーブランチポリマーが1世代から5世代を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合製品。
【請求項5】
前記ハイパーブランチポリマーが少なくとも1つの末端官能基を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合製品。
【請求項6】
前記ハイパーブランチポリマーが1分子当たり平均して少なくとも16個の末端基を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合製品。
【請求項7】
前記ハイパーブランチポリマーが1分子当たり平均して少なくとも32個の末端基を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合製品。
【請求項8】
前記末端基がヒドロキシル基、チオール基、アミン基またはエポキシ基である請求項5〜7のいずれか一項に記載の複合製品。
【請求項9】
前記金属強化材が、1つの細長の金属材または複数の細長の金属材を含む構造を有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の複合製品。
【請求項10】
前記金属強化材は、前記接着促進層が塗布される前に、少なくとも1つの金属または合金のコーティングで被覆されている請求項1〜9のいずれか一項に記載の複合製品。
【請求項11】
前記金属または合金のコーティングが亜鉛または亜鉛合金を含む請求項10に記載の複合製品。
【請求項12】
前記ポリマー材料が熱可塑性ポリマー材料を含む請求項1〜11のいずれか一項に記載の複合製品。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の複合製品を製造する方法であって、
金属強化材を準備する工程と、
前記金属強化材の少なくとも一部の上に、有機官能性シランを含む第1成分と、ハイパーブランチポリマーを含む第2成分とを含む接着促進層を塗布する工程と、
前記接着促進層で被覆された前記金属強化材を、ポリマー材料中に埋め込む工程と
を含む方法。
【請求項14】
前記接着促進層を塗布する工程の前に、金属または合金のコーティングを塗布する工程をさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の複合製品のホースとしての使用。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の複合製品のケーブルとしての使用。

【公表番号】特表2007−527809(P2007−527809A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502336(P2007−502336)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/051015
【国際公開番号】WO2005/084905
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(592014377)ナムローゼ・フェンノートシャップ・ベーカート・ソシエテ・アノニム (81)
【氏名又は名称原語表記】N V BEKAERT SOCIETE ANONYME
【Fターム(参考)】