説明

熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法、並びに、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置

【課題】厚み精度およびフィルムの表面性の高いフィルムを効率よく製造することができ、生産性の高い熱可塑性樹脂フィルムの製造方法および熱可塑性樹脂フィルム、並びに、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置を提供する。
【解決手段】ダイから溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂を、金属押圧体と金属製のキャスト冷却ロールとで挟んで冷却固化する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記金属押圧体と前記キャスト冷却ロールとに挟まれる直前での前記膜状の熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃〜Tg+90℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)であり、且つ、前記金属押圧体の表面温度(Tt)と前記キャスト冷却ロールの表面温度(T1)との差が下記式(1)を、前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qが下記式(2)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
式(1): 0.5℃≦T1−Tt≦20℃
式(2): 0.1cm≦Q≦8cm
〔式中、T1は前記キャスト冷却ロールの表面温度を示し、Ttは前記金属押圧体の表面温度を示す。Qは前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法、特に液晶表示装置に好適な品質を有する熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法に関連し、さらに、これを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶画像表示装置に使用されるセルロースアシレート等の熱可塑性樹脂フィルムを製造する際には、主に、ジクロロメタンのような塩素系有機溶媒にセルロースアシレートを溶解し、これを基材上に流延、乾燥して製膜する溶液流延法が実施されている。塩素系有機溶媒の中でもジクロロメタンは、セルロースアシレートの良溶媒であるとともに、沸点が低く(約40℃)、製膜工程や乾燥工程において乾燥させ易いという利点を有することから好ましく使用されている。
【0003】
一方、近年では環境保全の観点から、塩素系有機溶媒を始めとする有機溶媒の排出を抑えることが強く求められるようになっている。このため、より厳密なクローズドシステムを採用して系から有機溶媒が漏れ出さないように努めたり、製膜工程から漏れても外気に出る前にガス吸収塔を通して有機溶媒を吸着させたり、火力により燃焼させたり、電子線ビームにより分解させたりするなどの処理を行って、殆ど有機溶媒を外気に排出することがないように種々の対策が講じられている。しかしながら、これらの対策を行っても有機溶媒の排出を完全に防ぐのは未だ困難であり、さらなる改良が必要とされている。
【0004】
そこで、有機溶媒を使用しない製膜法として、セルロースアシレートを溶融製膜する方法が開発されている(例えば、特許文献1および2参照)。これらの文献には、セルロースアシレートのエステル基の炭素鎖を長くすることでその融点を下げ、溶融製膜しやすくすることが記載されている。具体的には、セルロースアセテートを、セルロースプロピオネート等に変えることが記載されており、これにより溶融製膜しやすくしている。
また、最近ではセルロースアシレートの代りに光弾性率の低い、即ち、外部応力が加わったとき複屈折の変化が小さく、光学特性に影響を与えにくい、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムを偏光子の保護層として使用することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
上述のセルロースアシレートフィルムや熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムを溶融製膜しようとした場合、光学特性に関してはある程度満足するものが得られる。しかしながら、これらは光学特性をある程度満足するものであっても、製膜時の表面平滑性が不十分であったり、温度変化の不均一性から厚み精度やフィルム両面の平滑性に差が生じたり、さらには、ダイスジおよび段ムラなどが生じることから、光学特性に加えて偏光板に適する保護膜物性のいずれにも優れたフィルムを得ることは非常に困難であった。
【0006】
また、厚み精度および表面平滑性が十分でない場合には、フィルムに長さむらが発生しやすくなり、巻き回した場合に、外観が悪化する傾向にある。さらに、上述のフィルムを、偏光子を保護するための偏光子保護フィルムに用いたときには、偏光子との接着の際に密着ムラが生じるという問題がある。また、上述のフィルムを位相差板の原反として用いると、延伸した際に位相差ムラが生じるという問題もある。さらに、フィルムの表面平滑性が不十分でダイズジや段ムラを有する場合には、偏光子の保護フィルムとして液晶表示装置に組み込んだ際に表示ボケや画像の歪みを生じるという問題があることも判明した。
このことから、光学特性に加えて厚み精度や表面平滑性に優れる熱可塑性樹脂フィルムの開発が切望されている。
【特許文献1】特開2000−352620号公報
【特許文献2】特開2006−63169号公報
【特許文献3】特開2003−232930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、厚み精度およびフィルムの表面性の高いフィルムを効率よく製造することができ、生産性の高い熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。これにより、厚み精度が高く、フィルム表面粗さRaが極めて小さく、凸凹スジ故障がなく、且つ、光学歪みが抑制されレターデーション(ReおよびRth)が小さい熱可塑性樹脂フィルムを効率よく製造することができる。また、本発明の目的は、生産性に優れた本発明の製造方法を用い、厚み精度、フィルム表面性および光学特性がより一層高められた熱可塑性樹脂フィルムを提供することにある。
さらに本発明の目的は、本発明の熱可塑性樹脂フィルムを用い、表示ボケおよび画像の歪みを抑制した偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、および、液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、上述の問題を解消する手段として、ポリシングタッチロール製膜法またはポリシング金属ベルト製膜法など、金属製のタッチロールや金属ベルト等の金属押圧体を用いたポリシング製膜法に着目した。これらのポリシング製膜法は、本発明の製膜条件に制御することで、フィルムの厚み精度や表面性を向上させることができ、さらに、光学歪みを抑制することでレターデーション(ReおよびRth)が小さな熱可塑性樹脂フィルムを製造することができることを見出した。これにより、以下の態様構成を有する本発明を提供するに至った。
【0009】
(1)ダイから溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂を、金属押圧体と金属製のキャスト冷却ロールとで挟んで冷却固化する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記金属押圧体と前記キャスト冷却ロールとに挟まれる直前での前記膜状の熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃〜Tg+90℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)であり、且つ、前記金属押圧体の表面温度(Tt)と前記キャスト冷却ロールの表面温度(T1)との差が下記式(1)を、前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qが下記式(2)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
式(1): 0.5℃≦T1−Tt≦20℃
式(2): 0.1cm≦Q≦8cm
〔式中、T1は前記キャスト冷却ロールの表面温度を示し、Ttは前記金属押圧体の表面温度を示す。Qは前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離を示す。〕
(2)ダイから溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂を、金属押圧体と金属製のキャスト冷却ロールとで挟んで冷却固化する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記金属押圧体と前記キャスト冷却ロールとに挟まれる直前での前記膜状の熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃〜Tg+90℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)であり、且つ、前記金属押圧体の表面温度(Tt)と前記キャスト冷却ロールの表面温度(T1)との差が下記式(1)を、前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qとキャスト冷却ロールの半径Rとから求められる中心角θが下記式(3)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
式(1): 0.5℃≦T1−Tt≦20℃
式(3): 0.2°≦θ≦31°
〔式中、T1は前記キャスト冷却ロールの表面温度を示し、Ttは前記金属押圧体の表面温度を示す。Qは前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離を示す。〕
(3)前記金属押圧体が、金属製の弾性タッチロールまたは張設状態で走行可能な無端状の金属ベルトであることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(4)前記金属押圧体の表面温度(Tt)が、Tg−40℃〜Tg+5℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(5)前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールの表面粗さRaが、0〜100nmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(6)前記キャスト冷却ロールよりも下流側に1〜6本の金属製剛性ロールを連続的に配置することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法で製造した熱可塑性樹脂フィルムであって、フィルム厚みが20〜300μm、および、フィルムの幅方向および長手製膜方向の厚みバラツキがいずれも0〜3μmであり、且つ、フィルムの表面粗さRaが0.01〜200nmであり、フィルム両面の表面粗さRaの比が0.8〜1.2であることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
(8)残存溶媒率0.01質量%以下であり、且つ、下記式(I)および(II)を満足することを特徴とする(7)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
式(I): Re≦10、且つ、|Rth|≦15
式(II):|Re(10%)−Re(80%)|<5、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<15
[式中、ReおよびRthは、それぞれ測定波長が590nmであるときの面内方向および膜厚方向のレターデーション値(単位;nm)を表し、Re(H%)およびRth(H%)は、それぞれ相対湿度がH(単位;%)における測定波長が590nmであるときの面内方向および膜厚方向のレターデーション値を表す。]
(9)前記熱可塑性樹脂が、数平均分子量2万〜7万であり、且つ、下記式(S−1)〜(S−3)の全てを満足するセルロースアシレートであることを特徴とする(7)または(8)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
式(S−1):2.5≦X+Y ≦3.0
式(S−2):0≦X≦1.8
式(S−3):1.0≦Y≦3.0
(式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
(10)下記式(T−1)および(T−2)を満たす組成を有するセルロースアシレートを含むことを特徴とする(7)または(8)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
式(T−1):2.5≦A+C≦3.0
式(T−2):0.1≦C<2
(式中、Aは、アセチル基の置換度を示し、Cは置換もしくは無置換の芳香族アシル基を示す。)
(11)ノルボルネン樹脂を含むことを特徴とする(7)または(8)に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
(12)分子量500以上の安定剤の少なくとも一種を前記熱可塑性樹脂に対して0.01〜3質量%含有し、且つ、240℃における溶融粘度が100〜3000Pa・sであることを特徴とする(7)〜(11)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
(13)(7)〜(12)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも1方向に1〜300%延伸した熱可塑性樹脂フィルムであって、25℃・相対湿度60%における面内方向のレターデーション(Re)が0〜200nmであり、25℃・相対湿度60%における厚み方向のレターデーション(Rth)が−100〜300nmであることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
(14)(7)〜(13)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを、縦横比L/Wが2を超え50以下、または0.01〜0.3で延伸したことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
(15)(7)〜(14)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを、横延伸前に延伸温度より1℃〜50℃高い温度で予熱したことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
(16)(7)〜(15)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを、横延伸後に延伸温度より1℃〜50℃低い温度で熱処理したことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
(17)(7)〜(16)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムであって、縦延伸および横延伸の少なくとも一方を行った熱可塑性樹脂フィルムを、Tg−50℃〜Tg+30℃で0.1kg/m〜20kg/mの張力で搬送しながら熱緩和したことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
(18)(7)〜(17)のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム又は反射防止フィルム。
(19)(18)に記載の偏光板、光学補償フィルム、および、反射防止フィルムの少なくとも一つを用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、厚み精度およびフィルム表面性の高い熱可塑性樹脂フィルムを製造でき、生産性の高い熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。したがって、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によれば、厚み精度が高く、フィルム表面粗さRaが極小、凸凹スジ故障がなく、且つ光学歪みが抑制されてレターデーション(ReおよびRth)が小さい熱可塑性樹脂フィルムを効率よく製造することができる。さらに、本発明によれば、厚み精度、フィルム表面性および光学特性がより一層高められた熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、表示ボケおよび画像の歪みを抑制した偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、および、液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、適宜図面に用い本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法および該製造方法によって得られた熱可塑性樹脂フィルムについて、好ましい実施の形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<<熱可塑性樹脂フィルムの製造方法≫
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、ダイから溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂を、金属押圧体と金属製のキャスト冷却ロールとで挟んで冷却固化する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、前記金属押圧体と前記キャスト冷却ロールとに挟まれる直前での前記膜状の熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃〜Tg+90℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)であり、且つ、前記金属押圧体の表面温度(Tt)と前記キャスト冷却ロールの表面温度(T1)との差、および、前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qが、それぞれ下記式(1)および(2)を満たすことを特徴とする。
式(1): 0.5℃≦T1−Tt≦20℃
式(2): 0.1cm≦Q≦8cm
〔式中、T1は前記キャスト冷却ロールの表面温度を示し、Ttは前記金属押圧体の表面温度を示す。Qは前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離を示す。〕
【0013】
ここで、「金属押圧体」とは、Tダイ等のダイから溶融状態で押し出された膜状の熱可塑性樹脂を、金属製のキャスト冷却ロールの表面に押圧し、該キャスト冷却ロールと膜状の熱可塑性樹脂を挟んで冷却固化することができる金属製の押圧体であれば、特にその形状および材質に限定はなく、公知のロールや無端ベルトを用いることができる。前記金属押圧体は、金属弾性体であることが好ましい。また、本発明において、前記金属押圧体としては、表面にポリシング加工が施された、ロールや無端ベルトが好ましく、具体的には、金属製の弾性タッチロールおよび、張設状態で走行可能な無端状の金属ベルトのいずれかであることが好ましく、ポリシング金属製の弾性ロール(図1および図3に示す。)または張設状態で走行可能な無端状のポリシング金属ベルト(図2および図4に示す。)であることが特に好ましい。
キャスト冷却ロールのロール直径Rは、50mm〜5000mmが好ましく、より好ましくは100mm〜1000mmであり、さらに好ましくは120mm〜600mmである。
【0014】
本発明によれば、前記金属押圧体と前記キャスト冷却ロールとに挟まれる直前での前記膜状の熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃〜Tg+90℃であり、且つ、前記金属押圧体の表面温度(Tt)と前記キャスト冷却ロールの表面温度(T1)との差、および、前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qが、それぞれ前記式(1)および(2)を満足することで、製膜したフィルムの凸凹状故障の防止や厚み精度の向上を図ることができ、しかも残留歪みの発生を抑え、製膜時のレターデーション発現を抑制できる。これにより、優れた光学特性のフィルムを得ることができる。
【0015】
以下、図面を用いて本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、ポリシング金属製の弾性ロールを用いた熱可塑性樹脂フィルムの製造装置の概略構成の一例を示す。図2は、張設状態で走行可能な無端状のポリシング金属ベルトを用いた熱可塑性樹脂フィルムの製造装置の概略構成の一例を示す。図1および図2に示すようにフィルム製造装置10は主として、熱可塑性樹脂フィルム(セルロースアシレートフィルム)12を製膜する製膜工程部14と、熱可塑性樹脂フィルム12を巻き取る巻取工程部20とで構成される。
【0016】
図1に示すように、押出機22で溶融された熱可塑性樹脂がダイ24からシート状に吐出され、回転する金属弾性タッチロール26Aと金属製のキャスト冷却ロール28との間に供給される。そして、膜状の熱可塑性樹脂は、金属弾性タッチロール26Aと金属製のキャスト冷却ロール28との間で挟まれて流延製膜される。膜状の熱可塑性樹脂層は流延製膜によってセルロースアシレートフィルム12とされた後、パスロール17を経て、巻取工程部20にて巻き取られる。
【0017】
図2に示すように、押出機22で溶融された熱可塑性樹脂がダイ24からシート状に吐出され、回転する金属ベルト26Bと金属製のキャスト冷却ロール28との間に供給される。そして、膜状の熱可塑性樹脂は、金属ベルト26Bと金属製のキャスト冷却ロール28との間で挟まれて流延製膜される。膜状の熱可塑性樹脂層は流延製膜によって熱可塑性樹脂フィルム12とされた後、パスロール17を経て、巻取工程部20にて巻き取られる。
【0018】
次に、本発明における金属押圧体として用いられる金属製の弾性タッチロールおよび無端ベルトについて説明する。
図3は、ポリシング金属製の弾性タッチロールを用いた製膜工程部14の断面図である。金属弾性タッチロール26Aは図3に示すように、外層から外筒44、液状媒体層46、弾性体層(内筒)48、金属シャフト50の順で構成されている。シート状の溶融樹脂を介して接触するキャスト冷却ロール28の回転により弾性ロール26の外筒44と内筒48とは回転する。一対のポリシングローラ(金属弾性タッチロール26A、キャスト冷却ロール28)でシート状の溶融樹脂を挟持すると、金属弾性タッチロール26Aがシートを介してキャスト冷却ロール28からの反力を受け、キャスト冷却ロール28の面に倣って凹状に弾性変形する。外筒44の肉厚は、0.05mm〜7.0mmが好ましく、より好ましくは0.2mm〜5.0mmである。具体的には、例えば、特開平11−314263号公報、特開2002−36332号公報、特開平11−235747号公報、特開2004−216717号公報、特開2003−145609号公報、国際公開WO97/28950号パンフレット記載のものを利用できる。
【0019】
図4は、張設状態で走行可能な無端状のポリシング金属ベルトを用いた製膜工程部14の断面図である。本発明における無端状の金属ベルト26Bは図4に示すように、金属薄膜で作られており、溶接継ぎ部のないシームレス構造であることが好ましい。ロール52、54、56によって弛まないように張力がかかっており、ロール52、54、56の回転で搬送されるように構成されている。これにより、金属ベルト26Bとキャスト冷却ロールとでシート状の溶融樹脂を挟持すると、金属ベルト26Bがシートを介してキャスト冷却ロール28からの反力を受け、キャスト冷却ロール28の面に倣って凹状に弾性変形する。金属ベルト26Bとキャスト冷却ロール28とは、モータ等の回転駆動手段に接続されており、ダイ24から吐出された溶融樹脂が着地する点での速度と略同じ速度で回転するようになっている。
ここで、図3及び4において、Qは金属押圧体26A、26B及びキャスト冷却ロール28と熱可塑性樹脂との接触距離を示す。また中心角θは、キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qとキャスト冷却ロールの半径Rとから求められる。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によれば、熱可塑性樹脂が分解しない範囲で、熱可塑性樹脂の流動性を確保する観点から、タッチロールや無端ベルト等の金属押圧体とキャスト冷却ロールとに挟まれる直前での前記膜状の熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃〜Tg+90℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)である。ここで、「挟まれる直前」とは、金属押圧体とキャスト冷却ロールとに押圧され始めるポイント(図3における押圧点P)から樹脂流れ上流側の5cm以内範囲での熱可塑性樹脂の平均温度を意味する。
前記金属押圧体とキャスト冷却ロールとに挟まれる直前での熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃未満であると、挟み込む際にレべリング性が悪くなり、Tg+90℃を超えると、挟み込む際に熱可塑性樹脂の融着が発生し易くなる。金属押圧体とキャスト冷却ロールとに挟まれる直前での熱可塑性樹脂の温度は、より好ましくはTg+25℃〜Tg+80℃であり、さらに好ましくはTg+30℃〜Tg+50℃である。
これは、金属押圧体とキャスト冷却ロールとに挟まれる直前での熱可塑性樹脂膜状物の温度が本発明の範囲に制御することにより、ロールで挟み込む際にレベリング性を向上させることができ、変形時に応力を発生しないためである。従って、フィルム形成時に樹脂を押圧し変形する際に、前記の温度範囲に制御することにより、発生する熱可塑性樹脂の応力が著しく小さく、厚み変動ムラおよび残留位相差(Re、Rth)の発生を最小限に抑えることができる。また、幅方向の厚み精度および残留位相差をさらに低減するには、フィルム幅方向における温度のバラツキは±10℃未満が好ましく、さらに好ましくは±5℃未満である。温度にバラツキがあると、熱可塑性樹脂の変形に対する応力にバラツキが生じ、得られたフィルムの厚みおよび残留位相差がばらついたり、一部分への応力の集中による光軸のズレが発生したりするようになる。
【0021】
このような金属押圧体とキャスト冷却ロールとに挟まれる直前での熱可塑性樹脂の温度をTg+20℃〜Tg+90℃内に均一に保つ具体的な方法は、特に限定はなく、本発明の効果に影響を与えない限り公知の方法を任意に採用することができる。このような、方法としては、例えば、Tダイ等のダイ温度を制御したり、ダイと金属製のキャスト冷却ロールとの間の距離を短くしたり、加熱ヒーターを設けたり、保温ボックスを設けたりする等の制御方法が挙げられる。
【0022】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によれば、用いる金属製弾性タッチロール、金属ベルト等の金属押圧体の表面温度(Tt)と、金属製のキャスト冷却ロール温度(T1)との差が、下記式(1)を満たすように構成されているので、熱可塑性樹脂の溶融膜状物を押圧通過する際に、溶融膜状物がキャスト冷却ロール側にスムーズに引き込まれ、粘着跡の解消および表面粗さの改善効果を著しく得ることができる。さらに、ロールの駆動ムラによる厚みバラツキ、ダイスジおよび段ムラを大幅に低減できる。また、式(1)の範囲内でタッチ温度を制御することで、溶融膜状物が金属押圧体の押圧面(タッチローラを用いた場合には、タッチ面)に貼り付き難く、またはキャスト冷却ロールのロール面にも貼り付きにくく、バランスよく、安定的に熱可塑性樹脂フィルムを製造することができる。
式(1):0.5℃≦T1−Tt≦20℃、
【0023】
式(1)に示す「T1−Tt」が0.5℃未満になると、溶融膜状物が金属弾性タッチロールまたは金属ベルト等の金属押圧体側に貼り付いてしまい、製膜されたフィルムに粘着跡が発生し、表面性が悪化してしまう。一方、20℃を超えると、溶融膜状物が冷却ロール面に過剰に貼り付き、段ムラが生じ易くなる。また、20℃を超えると、ロールに押し込まれる溶融膜状物の両面で付与される温度の差が生じ、得られたフィルム両面の平滑性の差が不均一となる場合がある。なお、前記「T1−Tt」は0.5℃〜20℃であることを満たせば特に問題はないが、好ましくは1℃〜15℃であり、さらに好ましくは2℃〜10℃である。
【0024】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qが下記式(2)を満たす。
式(2): 0.1cm≦Q≦8cm
【0025】
接触距離Q(接触幅)とは、図3および図4にQで示されるように、金属押圧体(金属弾性タッチロール26Aまたは金属ベルト26B)およびキャスト冷却ロール28と、膜状の熱可塑性樹脂とが円周方向で接触している距離を意味する。
前記接触距離Qが、0.1cm未満であると、樹脂フィルムの変動や金属キャスト冷却ロールの回転変動に対し、タッチロールおよび金属ベルト等の金属押圧体が十分に追従できずに、フィルムと冷却ロールとの間に空気が侵入し、厚み変動が生じるおそれがある。逆に、接触距離が8cmを超えると、フィルムの流れ方向に厚み変動が生じる。これは、樹脂フィルムがロールから受ける圧力の分布と、樹脂の冷却時の粘度とが影響するためと考えられる。また、接触距離が大きいと、接触開始直後の接触圧力が小さくなり、圧力が弱い状態で樹脂が固化し、厚み変動の影響が大きくなるためとも考えられる。これに対して、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、接触距離Qが前記特定の範囲とされていることにより、厚み変動を最小限に抑えることができる。
【0026】
前記接触距離Qは、好ましくは0.2〜7.5cmであり、さらに好ましく0.2〜7cmである。これにより、面接触するため押圧が分散され、低い面圧を達成できる。このためロール間に挟まれたフィルムに残留歪を残すことなく、厚み精度および表面粗さを矯正できる。
なお、ここで、挟む接触距離Qは、金属弾性タッチロールや金属ベルト等金属押圧体が樹脂と接触している幅の太さであるが、例えば、静止した一対のローラ間に、樹脂と同じ厚みになるようにプレスケール(圧力に感応して発色するシート)をスペーサーとともに挟み、プレスケールが発色した長さによって測定することができる。また、挟む接触距離Qは、金属弾性タッチロールまたは金属ベルト等のシリンダー圧を変えることで、制御することができる。
また本発明では、キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qとキャスト冷却ロールの半径Rとから求められる中心角θ(場合により、タッチ接触角度という)が下記式(3)を満たす。またこのときも、上記式(1)の要件を満たす。
式(3): 0.2°≦θ≦31°
中心角θをこの範囲に制御して熱可塑性樹脂フィルムを製造すると、厚みバラツキおよびフィルムの面状(段ムラや縦スジ)の向上効果が得られる。また中心角θは、キャスト冷却ロールの直径が小さい場合(例えば、250mm以下)には大きく、キャスト冷却ロールの直径が大きい場合(例えば、260mm以上)には小さく設定し、タッチ接触距離Qに対応するように制御することが好ましい。すなわち、例えば、キャスト冷却ロールの直径が300mmである場合には、中心角θの下限値は0.2°とすることが好ましく、0.5°とすることがより好ましい。他方、中心角θの上限値は19°とすることが好ましく、15°とすることがより好ましく、10°とすることがさらに好ましい。
キャスト冷却ロールの直径が180mmである場合には、中心角θの下限値は20°とすることが好ましい。他方、中心角θの上限値は31°とすることが好ましく、30°とすることがより好ましい。
なお、上記接触距離Q及び中心角θは金属押圧体の種類及び金属押圧体とキャスト冷却ロール28との距離を制御することで調整することができる。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に係る金属製の弾性タッチロールおよび金属ベルト等金属押圧体の表面温度Ttは、Tg−40℃〜Tg+5℃であることが好ましく、より好ましくはTg−30℃〜Tg+3℃、さらに好ましくはTg−20℃〜Tgである。これにより、製膜したフィルムの表面平面性や厚み精度の向上を図ることができ、残留歪みの発生を抑え、製膜時のレターデーション発現を抑制できるので、優れた光学特性のフィルムを得ることができる。金属押圧体の表面温度TtがTg−40℃以下になると、押し込む応力が残り易く、残留歪が発生してしまい、レターデーション(Re、Rth)が発現する場合がある。一方、Tg+5℃を超えると、熱可塑性樹脂の溶融膜状物が弾性タッチロールおよび金属ベルト等の金属押圧体に貼り付いて、粘着跡などの面状不良および厚み精度の悪化が発生してしまう場合がある。このような金属押圧体の温度制御は、例えば、これらの内部(例えばロール内部)に温調した液体、気体を通すことで達成できる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に係る金属製の弾性タッチロール、無端状の金属ベルト等の金属押圧体や、金属キャスト冷却ロールは、表面が鏡面、或いは鏡面に近い状態になっていることが好ましい。前記金属押圧体および前記金属キャスト冷却ロールの表面粗さRaは、いずれも、好ましくは0〜100nm、さらに好ましくは0〜50nm、特に好ましくは0〜25nmで鏡面化される。このようなロール等によって熱可塑性樹脂の溶融膜状物を挟んで冷却固化することで、厚み精度の向上および膜表面凸凹の低減の相乗効果を得ることができる。ここで、表面粗さRaはJIS B0601−1982に定義されている中心線平均粗さRaを意味する。
【0029】
また、本発明における金属押圧体として用いられる金属製の弾性タッチロールや無端状の金属ベルトは、従来のゴム弾性タッチロールと比べ、高精度に研磨することができる。このため、偏心振れを完全に消去すること可能であり、より厚み精度および表面性に優れるフィルムを得ることができる。特に、製膜する時の圧力変動または回転周期変動に伴う偏心振れの影響が厚み精度および表面性への影響を最低限に抑えられると考えられる。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に係る線圧は3kg/cm〜100kg/cmであることが好ましく、より好ましくは5kg/cm〜80kg/cm、さらに好ましくは7kg/cm〜60kg/cmである。ここでいう線圧とは金属弾性タッチロールまたは金属ベルト等の金属押圧体に加える力をダイの吐出口の幅で割った値である。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に係る金属製のキャスト冷却ロールの周速度V1の、ポリシングタッチロール(金属押圧体)の周速度Vtに対する比V1/Vtを1.01未満、0.990以上に設定することが好ましく、1.000未満、0.995以上に設定することがより好ましい。V1/Vtの値が過度に大きいとシート状セルロースアシレート樹脂に延伸がかかってレターデーションReおよびRth値が大きくなるおそれがある。一方、V1/Vtの値が過度に小さいとキャスト冷却ロール表面上でフィルムにたるみが生じ、シワなどの外観欠陥を発生する可能性がある。ポリシングタッチロールとキャスト冷却ロールは互いに逆回転になるようにし、その周速度を設定するのが好ましい。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に係る金属製のキャスト冷却ロールの熱可塑性樹脂の搬送方向に対する下流側には、1本〜6本の金属製剛性ロールを連続的に配置することが好ましく、より好ましくは2〜4本を用い、徐冷する方法が好ましい。この際、ロール直径は50mm〜5000mmが好ましく、さらに好ましくは150mm〜1000mmである。複数本あるロールの間隔は、面間で0.3mm〜300mmが好ましく、さらに好ましくは3mm〜30mmである。
【0033】
<<熱可塑性樹脂フィルムの特性>>
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によれば、フィルムの厚みが20〜300μm、フィルムの幅方向および長手製膜方向の厚みバラツキがいずれも0〜3μmであり、且つ、フィルムの表面粗さRaが0.01〜200nmであり、フィルム両面の表面粗さRaの比が0.8〜1.2である熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。ここに、表面粗さRaはJIS B0601−1982に定義されている中心線平均粗さRaである。
前記フィルムの厚みが20μm未満であると、フィルムのハンドリング性が悪くなり、300μmを超えると、フィルムの巻き取り性が悪くなる。
前記フィルムの幅方向および長手製膜方向の厚みバラツキのいずれかが3μmを超えると、フィルムの光学特性であるレターデーション(ReおよびRth)値のバラツキが大きくなる。
前記フィルムの表面粗さRaが0.01nm未満であると、実質的に製造は困難となり、200nmを超えると、フィルム表面の平滑性が悪くなる。
フィルム両面の表面粗さRaの比が0.8未満または1.2を超えると、フィルムの両面平滑性の差が生じ易くなる。
【0034】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法によれば、残存溶媒率0.01質量%以下、下記式(I)〜(II)の全てを満足する熱可塑性樹脂フィルムを得ることができる。
式(I): Re≦10、且つ、|Rth|≦15
式(II): |Re(10%)−Re(80%)|<5、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<15
[式中、ReおよびRthは、それぞれ測定波長が590nmであるときの面内方向および膜厚方向のレターデーション値(単位;nm)を表し、Re(H%)およびRth(H%)は、それぞれ相対湿度がH(単位;%)における測定波長が590nmであるときの面内方向および膜厚方向のレターデーション値を表す。]
【0035】
式(I)および(II)の両者を満足することによって、レターデーション(ReおよびRth)値の低減、および湿度変動によるレターデーション値の変動を抑制することができ、偏光板保護フィルムとして好ましく用いることができる。
【0036】
このような厚み精度が高く、フィルム表面粗さが極小であり、凸凹スジ故障がなく、両面とも表面性の差が無く、且つ光学歪みが抑制されてレターデーション(ReおよびRth)が小さな熱可塑性樹脂フィルムを用いることにより、液晶表示装置に組み込んだ時発生する表示ボケおよび画像の歪みを解消できる。
【0037】
以下に、本発明に適した熱可塑性樹脂、その製膜方法および加工方法について手順にそって詳細に説明する。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂フィルムとしてはセルロースアシレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ノルボルネン系樹脂から成る熱可塑性樹脂フィルム等が好ましい例として挙げられる。中でもセルロースアシレート樹脂、ノルボルネン系樹脂が好ましい。本実施の形態では、セルロースアシレートフィルムを製造する例を示すが、本発明はこれに限定するものではなく、ノルボルネン系樹脂やポリカーボネート樹脂等の製造にも適用することができる。
【0038】
(セルロースアシレート樹脂)
まず、本発明に使用することのできるセルロースアシレートは、下記(S−1)〜(S−3)の置換度を満足することが好ましい。
式(S−1) 2.5≦X+Y ≦3.0
式(S−2) 0≦X≦1.8
式(S−3) 1.0≦Y≦3.0
【0039】
より好ましくは、下記の式(S−4)〜(S−6)を満足することがより好ましい。
式(S−4) 2.6≦X+Y≦3.0
式(S−5) 0≦X≦1.2
式(S−6) 1.5≦Y≦3
【0040】
さらに好ましくは、下記の式(S−7)〜(S−9)を満足することがさらに好ましい。
式(S−7) 2.65≦X+Y≦3.0
式(S−8) 0≦X≦0.8
式(S−9) 2.0≦Y≦3
【0041】
前記式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。セルロースアシレートの置換度を前記範囲にすることで融解温度を低下し、融解性が良好となり、より均一に製膜することができるためである。
【0042】
本発明の炭素数3〜22のアシル基は、脂肪族アシル基でも芳香族アシル基のいずれであってもよい。これらのアシル基は複数同時に存在していてもよい。しかし、アシル基を前記のものより長くすると、分子疎水性が強すぎ、フィルムのケン化特性および偏光子との貼合適性が低下させすぎる場合がある。このためアセチル基より大きなプロピオネート基、ブチレート基、ペンタノイル基が好ましく、より好ましくはプロピオネート基、ブチレート基であり、さらに好ましくはプロピオネート基である。
【0043】
本発明のセルロースアシレートを合成する際のセルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。
【0044】
本発明のセルロースアシレートの合成方法については特開2006−45500号公報の段落[0018]〜[0033]、特開2006−45501号公報の段落[0014]〜[0030]、特開2006−45502号公報の段落[0018]〜[0023]に詳細に記載している。また、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の7頁〜12頁にも詳細に記載されている。これらの合成方法は好ましく用いることができる。また、本発明において好ましく使用されるセルロースアシレートの具体的手順については、後述する合成例1および合成例2を参照することができる。これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。
【0045】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの数平均分子量は2万〜7万であることが必要であり、好ましくは3万〜6万、さらに好ましくは4万〜5万である。分子量が2万を下回ると、フィルムの機械物性が十分でなく、割れやすくなる場合がある。一方、分子量が7万を超えて大きい場合には溶融製膜時の溶融粘度が高くなり過ぎる場合がある。本発明においては、GPC測定によるセルロースアシレートの重量平均重合度/数平均重合度が1.5〜4.0であることが好ましく、1.6〜3.6であることがさらに好ましく、1.7〜3.5であることが特に好ましい。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂には、以下に記載されるような安定剤等を混合して製膜することが好ましいが、このような安定剤を含有する熱可塑性樹脂の240℃における溶融粘度としては、100〜3000Pa・sが好ましく、150〜2000Pa・sがより好ましく、200〜1500Pa・sがさらに好ましい。特に、分子量500以上の安定剤を熱可塑性樹脂に対して0.01〜3質量%含有するときの溶融粘度が上記範囲内にあることが好ましい。
【0046】
(芳香族アシル化セルロースアシレート)
本発明では、下記式(T−1)および(T−2)を満たす組成を有するセルロースアシレートを用いることも好ましい。
式(T−1):2.5≦A+C≦3.0
式(T−2):0.1≦C<2
より好ましくは
式(T−3):2.6≦A+C≦3.0
式(T−4):0.1≦C<1.5
さらに好ましくは
式(T−5):2.7≦A+C≦3.0
式(T−6):0.1≦C<1.0
である。なお式中Aは、アセチル基の置換度を示し、Cは置換もしくは無置換の芳香族アシル基を示す。
ここで置換もしくは無置換の芳香族アシル基としては下記一般式(I)で表される基があげられる。
【0047】
【化1】

【0048】
まず、一般式(I)について説明する。Xは置換基で、置換基の例には、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基およびアリールオキシスルホニル基、−S−R、−NH−CO−OR、−PH−R、−P(−R)2、−PH−O−R、−P(−R)(−O−R)、−P(−O−R)2、−PH(=O)−R−P(=O)(−R)2、−PH(=O)−O−R、−P(=O)(−R)(−O−R)、−P(=O)(−O−R)2、−O−PH(=O)−R、−O−P(=O)(−R)2−O−PH(=O)−O−R、−O−P(=O)(−R)(−O−R)、−O−P(=O)(−O−R)2、−NH−PH(=O)−R、−NH−P(=O)(−R)(−O−R)、−NH−P(=O)(−O−R)2、−SiH2−R、−SiH(−R)2、−Si(−R)3、−O−SiH2−R、−O−SiH(−R)2および−O−Si(−R)3が含まれる。上記Rは脂肪族基、芳香族基またはヘテロ環基である。置換基の数は、1〜5個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜3個であることがさらに好ましく、1または2個であることが最も好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アシル基、カルボンアミド基、スルホンアミド基およびウレイド基が好ましく、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基およびカルボンアミド基がより好ましく、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基およびアリールオキシ基がさらに好ましく、ハロゲン原子、アルキル基およびアルコキシ基が最も好ましい。
【0049】
上記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が含まれる。
上記アルキル基は、環状構造または分岐構造を有していてもよい。アルキル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキル基が置換基を有する場合は、該置換基の炭素原子数も含めた数が、前記炭素原子数であることが好ましい(以下、他の基についても同じ)。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基および2−エチルヘキシル基が含まれる。
上記アルコキシ基は、環状構造または分岐を有していてもよい。アルコキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基は、さらに別のアルコキシ基で置換されていてもよい。アルコキシ基の例には、メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基およびオクチルオキシ基が含まれる。
【0050】
上記アリール基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。アリール基の例には、フェニル基およびナフチル基が含まれる。上記アリールオキシ基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。
上記アリールオキシ基の例には、フェノキシ基およびナフトキシ基が含まれる。上記アシル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。
上記アシル基の例には、ホルミル基、アセチル基およびベンゾイル基が含まれる。
上記カルボンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましい。カルボンアミド基の例には、アセトアミド基およびベンズアミド基が含まれる。上記スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。
上記スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基およびp−トルエンスルホンアミド基が含まれる。
上記ウレイド基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。ウレイド基の例には、(無置換)ウレイド基が含まれる。
【0051】
上記アラルキル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アラルキル基の例には、ベンジル基、フェネチル基およびナフチルメチル基が含まれる。上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。
上記アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基が含まれる。上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は、7〜20であることが好ましく、7〜12であることがより好ましい。アリールオキシカルボニル基の例には、フェノキシカルボニル基が含まれる。上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は、8〜20であることが好ましく、8〜12であることがより好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例には、ベンジルオキシカルボニル基が含まれる。上記カルバモイル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましい。カルバモイル基の例には、(無置換)カルバモイル基およびN−メチルカルバモイル基が含まれる。上記スルファモイル基の炭素原子数は、20以下であることが好ましく、12以下であることがより好ましい。スルファモイル基の例には、(無置換)スルファモイル基およびN−メチルスルファモイル基が含まれる。
上記アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アシルオキシ基の例には、アセトキシ基およびベンゾイルオキシ基が含まれる。
【0052】
上記アルケニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基およびイソプロペニル基が含まれる。上記アルキニル基の炭素原子数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましい。
上記アルキニル基の例には、チエニル基が含まれる。上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。上記アリールスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。
上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましい。
上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。
上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましい。上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがより好ましい。
【0053】
このような化合物は、セルロースの水酸基への芳香族アシル基の置換によって得られ、一般的には芳香族カルボン酸クラロイドあるいは芳香族カルボン酸から誘導される対称酸無水物および混合酸無水物を用いる方法等が挙げられる。特に好ましいのは芳香族カルボン酸から誘導した酸無水物を用いる方法(Journal of AppliedPolymer Science、Vol.29、3981-3990(1984)記載)が挙げられる。上記の方法として本発明のセルロース混合酸エステル化合物の製造方法としては、(1)セルロース脂肪酸モノエステルまたはジエステルを一旦製造したのち、残りの水酸基に前記一般式(I)で表される芳香族アシル基を導入する方法、(2)セルロースに直接に、脂肪族カルボン酸と芳香族カルボン酸の混合酸無水物を反応させる方法などが挙げられる。前記(1)の方法では、セルロース脂肪酸エステルまたはジエステルの製造方法自体は周知の方法を採用でき、これにさらに芳香族アシル基を導入する後段の反応は、該芳香族アシル基の種類によって適宜定めることができるが、反応温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜50℃で、反応時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは30〜300分で行われる。また、前記(2)の混合酸無水物を用いる方法も、反応条件は混合酸無水物の種類によって適宜定めることができるが、反応温度は、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜50℃、反応時間は、好ましくは30〜300分、より好ましくは60〜200分である。上記のいずれの反応も、反応を無溶媒または溶媒中のいずれで行ってもよいが、好ましくは溶媒を用いて行われる。溶媒としてはジクロロメタン、クロロホルム、ジオキサンなどを用いることができる。
【0054】
以下に一般式(I)で表わされる芳香族アシル基の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【化2】

【0055】
【化3】

【0056】
【化4】

【0057】
【化5】

【0058】
これらの置換基の中でも、1〜9、18〜19、27〜28の置換基が好ましく、より好ましく1〜3の置換基であり、最も好ましいのが1の置換基である。
【0059】
《添加剤》
(1)安定剤
本発明においては、高温溶融製膜時のセルロースアシレートの熱劣化やゲル化や着色を防止するために、安定剤を添加することが好ましい。本発明では、いかなる安定剤を用いてもよいが、フェノール構造、亜リン酸エステル構造、またはチオエーテル構造を有する化合物を用いることが好ましい。これら安定剤は1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。
【0060】
本発明において、安定剤は高温で揮発性が十分に低いことが好ましく、分子量が500〜4000が好ましく、より好ましくは530〜3500であり、特に特に好ましくは550〜3000である。分子量が500以上であれば熱揮散性をより低く抑えやすく、また分子量が4000以下であればセルロースアシレートとの相溶性がより良好になる。
また、揮発性の指標として加熱時の質量減少量を用いることができ、例えば、窒素雰囲気下、240℃で1時間保持したときの質量減少量が15質量%以下であることが好ましい。より好ましい質量減少量は10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。これにより、本発明の溶融製膜工程中の過酷な条件(局部の樹脂滞留およびセン断熱による高温)においても、安定剤の熱揮散を大幅に低減できる。
【0061】
本発明における安定剤の好ましい添加量は、熱可塑性樹脂(例えば、セルロースアシレート)に対して0.01〜3質量%であり、より好ましくは0.05〜1.5質量%、特に好ましくは0.1〜1質量%である。
【0062】
次に、好ましい安定剤の種類について、以下に記述する。
(フェノール構造を有する安定剤)
フェノール構造を有する安定剤としては、公知の任意のフェノール系安定剤を使用することができる。前記フェノール構造を有する安定剤の好ましい例としては、ヒンダードフェノール系安定剤が挙げられる。前記ヒンダードフェノール系安定剤としては、特に、ヒドロキシフェニル基に隣接する部位に置換基を有することが好ましく、その場合の置換基としては炭素数1〜22の置換または無置換のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基がより好ましい。
【0063】
フェノール系安定剤の具体例として、例えば下記の具体例(F−1)〜(F−12)を挙げることができるが、本発明で用いることができるフェノール系安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(F−1)
n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(分子量531)
(F−2)
テトラキス−〔メチレン−3−(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(分子量1178)
(F−3)
トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(分子量784)
(F−4)
トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕(分子量588)
(F−5)
3,9−ビス−{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(分子量741)
(F−6)
1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3、5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(分子量775)
(F−7)
1,1,3−トリス(5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン(分子量545)
(F−8)
1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}(分子量639)
(F−9)
2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(分子量589)
(F−10)
2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート〕(分子量643)
(F−11)
N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)(分子量637)
(F−12)
ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム(分子量695)
【0065】
これらは、市販品として容易に入手可能であり、それぞれ下記のメーカーから販売されている。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社からは、Irganox 1076、Ir
ganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irgan
ox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425
WL、として入手することができる。また、旭電化工業(株)から、アデカスタブ AO
−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−7
0、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学(株)から、スミラ
イザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。また、シプロ化成(株)からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することが可能である。
【0066】
(亜リン酸エステル構造を有する安定剤)
亜リン酸エステル構造を有する安定剤の具体例は、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報等に記載されている。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている。本発明では、これらを始めとする素材の中から適宜選択して使用することができる。
本発明では高温での揮発が少ないことから、分子量500以上の酸化防止効果を有する亜リン酸エステル系安定剤を含有することが好ましい。これらの安定剤は特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物などから選ぶことができる。
【0067】
前記の分子量500以上である亜リン酸エステル系安定剤としては、従来公知の任意の亜リン酸エステル系安定剤を用いることができる。また、本発明で用いる亜リン酸エステルは、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下である。
【0068】
好ましい亜リン酸エステル系安定剤の具体例(P−1)〜(P−7)を以下に挙げるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0069】
(P−1)
トリスノニルフェニルフォスファイト(分子量689)
(P−2)
トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト(分子量647)
(P−3)
ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト(分子量733)
(P−4)
ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールフォスファイト(分子量605)
(P−5)
ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールフォスファイト(分子量633)
(P−6)
2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト(分子量529)
(P−7)
テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレン−ジ−フォスファイト(分子量517)
【0070】
これらは、旭電化工業(株)からアデカタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP-36,同HP−10として、またクラリアント社からSandost
ab P−EPQとして市販されており、入手可能である。
【0071】
(チオエーテル構造を有する安定剤)
次にチオエーテル構造を有する安定剤としては、公知の任意のチオエーテル系安定剤を用いることができる。好ましいチオエーテル系安定剤の具体例(S1)〜(S4)を以下に挙げるが、本発明で用いることができるチオエーテル構造を有する安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0072】
(S1)
ジラウリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量515)
(S2)
ジミリスチル−3,3−チオジプロピオネート(分子量571)
(S3)
ジステアリル−3,3−チオジプロピオネート(分子量683)
(S4)
ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(分子量1162)
【0073】
これらは、住友化学(株)からスミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業(株)から、アデカスタブAO−412Sとしても入手可能である。
【0074】
フェノール系安定剤と、亜リン酸エステル系安定剤またはチオエーテル系安定剤の含有比率は特に限定されないが、好ましくは1/10〜10/1(質量部)であり、より好ましくは1/5〜5/1(質量部)であり、さらに好ましくは1/3〜3/1(質量部)であり、特に好ましくは1/3〜2/1(質量部)が好ましい。
【0075】
(同一分子内にヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基とを有する安定剤)
さらに、本発明においては同一分子内にヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基とを有する安定剤を使用することも推奨される。該安定剤は、ヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基とを同一分子内に含有していれば、その構造は特に限定されない。低分子化合物でもよく、また高分子化合物(単分子を重合、あるいは縮合した素材)でもよい。また、ヒドロキシフェニル基あるいは亜リン酸エステル基は同一分子内であればその官能基の数は特に規定されず、それぞれ1〜20個が好ましく、1〜10個がさらに好ましく
、1〜6個が特に好ましい。それらの素材は特開平10−273494号公報に記載されている。市販品として、スミライザーGP(住友化学工業(株))が挙げられる。
【0076】
本発明の同一分子内にヒドロキシフェニル基と亜リン酸エステル基とを有する安定剤の好ましい具体例(PF−1)〜(PF−14)を以下に示すが、本発明で用いることができる安定剤はこれらに限定されるものではない。
【0077】
(PF−1)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量632)
(PF−2)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量702)
(PF−3)
2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量787)
(PF−4)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量646)
(PF−5)
2,4,8,10−テトラ−tert−ペンチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量801)
(PF−6)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量716)
(PF−7)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量618)
(PF−8)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾイルオキシ)−12−メチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(PF−9)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
(PF−10)
2,10−ジメチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量590)
(PF−11)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量717)
(PF−12)
2,10−ジエチル−4,8−ジ−tert−ブチル−6−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン(分子量661)
(PF−13)
2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−[2,2−ジメチル−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量688)
(PF−14)
6−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン(分子量660)
【0078】
(アミン系安定剤)
さらに、特開昭61−63686号公報に記載の長鎖脂肪族アミン、特開平6−329830号公報に記載の立体障害アミン基を含む化合物、特開平7−90270号公報に記載のヒンダードピペリジニル系光安定剤、特開平7−278164号公報に記載の有機アミン等も使用することができる。
好ましいアミン系安定剤は、旭電化工業(株)からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。アミン類の亜リン酸エステル類(I)に対する使用比率は、通常0.01〜3質量%程度である。
【0079】
(紫外線吸収剤)
セルロースアシレート(本発明における熱可塑性樹脂)には、紫外線防止剤を添加してもよい。紫外線防止剤については、特開昭60−235852号公報、特開平3−199201号公報、同5−1907073号公報、同5−194789号公報、同5−271471号公報、同6−107854号公報、同6−118233号公報、同6−148430号公報、同7−11056号公報、同7−11055号公報、同7−11056号公報、同8−29619号公報、同8−239509号公報、特開2000−204173号公報等に記載がある。その添加量は、調製する溶融物(メルト)の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0080】
これらの紫外線吸収剤は、市販品として下記のものがあり利用できる。ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 234(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 320(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 327(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、TINUBIN 328(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、スミソーブ340(住友化学社製)、アデカスタイプLA−31(旭電化工業(株)製)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成社製)、シーソーブ101(シプロ化成社製)、シーソーブ101S(シプロ化成社製)、シーソーブ102(シプロ化成社製)、シーソーブ103(シプロ化成社製)、アデカスタイプLA−51(旭電化工業(株)製)、ケミソープ111(ケミプロ化成社製)、UVINUL D−49(BASF社製)などを挙げられる。また、オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やTINUBIN 315(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)がある。さらにサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成社製)やシーソーブ202(シプロ化成社製)が市販されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成社製)、UVINUL N−539(BASF社製)がある。
【0081】
(微粒子)
本発明では、セルロースアシレートに微粒子を添加することもできる。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれを用いてもよい。本発明におけるセルロースアシレートに含まれる好ましい微粒子の平均一次粒子サイズは5nm〜3μmであり、好ましくは5nm〜2.5μmであり、特に好ましくは20nm〜2.0μmである。微粒子の添加量は、セルロースアシレートに対して0.005〜1.0質量%であり、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
前記無機化合物としては、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、V25、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウム等が挙げられる。好ましく、SiO2、ZnO、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2、In23、MgO、BaO、MoO2、およびV25の少なくとも1種が好ましく、さらに好ましくはSiO2、TiO2、SnO2、Al23、ZrO2である。
【0082】
前記SiO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品を用いてもよい。また、前記ZrO2の微粒子としては、例えば、アエロジルR976およびR811(以上、日本アエロジル(株)製)等の市販品が使用できる。またシーホスターKE−E10、同E30、同E40、同E50、同E70、同E150、同W10、同W30、同W50、同P10、同P30、同P50、同P100、同P150、同P250((株)日本触媒製)なども使用される。また、シリカマイクロビーズP−400、700(触媒化成工業(株)製)も利用できる。SO−G1、SO−G2、SO−G3、SO−G4、SO−G5、SO−G6、SO−E1、SO−E2、SO−E3、SO−E4、SO−E5、SO−E6、SO−C1、SO−C2、SO−C3、SO−C4、SO−C5、SO−C6、((株)アドマテックス 製)として利用することもできる。さらに、モリテックス(株)製シリカ粒子(水分散物を粉体化)8050、同8070、同8100、同8150も利用できる。
【0083】
次に、本発明で使用されうる有機化合物の微粒子としては、例えばシリコーン樹脂、フッ素樹脂およびアクリル樹脂等のポリマーが好ましく、シリコーン樹脂が特に好ましい。前記シリコーン樹脂としては、三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えばトスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(以上、東芝シリコーン(株)製)等の商品名を有する市販品を使用できる。
【0084】
さらに、無機化合物からなる微粒子は、セルロースアシレートフィルム中で安定に存在させるために表面処理されているものを用いることが好ましい。無機微粒子は、表面処理を施してから用いることも好ましい。表面処理法としては、カップリング剤を使用する化学的表面処理と、プラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とがあるが、本発明においてはカップリング剤を使用することが好ましい。前記カップリング剤としては、オルガノアルコキシ金属化合物(例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等)が好ましく用いられる。微粒子として無機微粒子を用いた場合(特にSiO2を用いた場合)ではシランカップリング剤による処理が特に有効である。前記カップリング剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは無機微粒子に対して、0.005〜5質量%使用することが推奨され、さらには0.01〜3質量%が好ましい。
【0085】
(可塑剤)
セルロースアシレートに可塑剤を添加すれば、セルロースアシレートの結晶融解温度(Tm)および溶融粘度を下げることができるだけでなく、経時によるRe,Rth変化を軽減できるので好ましい。本発明に用いる可塑剤の分子量は特に限定されないが、好ましくは高分子量の可塑剤が挙げられ、例えば分子量500以上が好ましく、より好ましくは550以上であり、さらには600以上が好ましい。可塑剤の種類としては、リン酸エステル類、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類などが挙げられる。それらの可塑剤の形状としては固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。溶融製膜を行なう場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。
【0086】
(離型剤)
本発明におけるセルロースアシレートには、離型剤を添加することができる。離型剤としては、フッ素原子を有する化合物が好ましい。フッ素原子を有する化合物は、離型剤としての作用を発現でき、低分子量化合物であっても重合体であってもよい。前記重合体としては、特開2001−269564号公報に記載の重合体を挙げることができる。フッ素原子を有する重合体として好ましいものは、フッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含有してなる単量体を重合せしめた重合体である。前記重合体に係わるフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体としては、分子中にエチレン性不飽和基とフッ素化アルキル基とを有する化合物であれば特に制限はない。またフッ素原子を有する界面活性剤も利用でき、特に非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0087】
(ノルボルネン系樹脂)
本発明の熱可塑性樹脂フィルムには、レターデーションの湿度依存性の低減等を目的としてノルボルネン樹脂を用いることができる。前記ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物、ノルボルネン系モノマーとオレフィンとの付加重合体、ノルボルネン系モノマー同士の付加重合体並びにこれらの誘導体などが挙げられる。 また、ノルボルネン系樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0088】
前記ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン(ノルボルネン)や、6−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、5,6−ジメチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、1−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−エチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−n−ブチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、6−イソブチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エン、7−メチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−2−エンなどのノルボルネン系誘導体などが挙げられる。
【0089】
前記ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物としては、ノルボルネン系モノマーを公知の方法で開環重合した後、残留している二重結合を水素添加したものを広く用いることができる。なお、開環重合体水素添加物は、ノルボルネン系モノマーの単独重合体であってもよく、ノルボルネン系モノマーと他の環状オレフィン系モノマーとの共重合体であってもよい。
【0090】
前記ノルボルネン系モノマーとオレフィンとの付加重合体としては、ノルボルネン系モノマーとα−オレフィンとの共重合体が挙げられる。α−オレフィンとしては、特に限定されないが、炭素数が2〜20、好ましくは2〜10のα−オレフィン、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセンなどが挙げられる。中でも、共重合性に優れているため、エチレンが好適に用いられる。また、他のα−オレフィンをノルボルネン系モノマーと共重合させる場合にも、エチレンが存在している方が共重合性を高めることができ、好ましい。
【0091】
前記ノルボルネン系樹脂は、公知のものが挙げられ、商業的に入手可能である。公知のノルボルネン系樹脂の例としては、例えば、特開平1−240517号公報に記載されているものが挙げられる。商業的に入手され得るノルボルネン系樹脂の例としては、例えば、JSR社製、商品名「アートン」シリーズ、日本ゼオン社製、商品名「ゼオノア」シリーズなどが挙げられる。
【0092】
さらに下記構造の飽和ノルボルネン樹脂を本発明のフィルムに使用することができる。本発明では、飽和ノルボルネン樹脂として、
[A−1]:炭素数が2〜20のα-オレフィンと下記式(II)で表される環状オレフィンとのランダム共重合体の水素添加物、
[A−2]:下記式(II)で表される環状オレフィンの開環重合体または共重合体の水素添加物などを挙げることができる。
【0093】
式(II)
【化6】

【0094】
これらの飽和ノルボルネン樹脂は、DSCで測定したガラス転移温度(Tg)が、好ましくは70℃以上であり、より好ましくは70〜250℃であり、さらに好ましくは120〜180℃である。
【0095】
また、これらの飽和ノルボルネン樹脂は、非晶性または低結晶性であり、X線回折法によって測定される結晶化度が、通常20%以下であり、好ましくは10%以下、より好ましくは2%以下である。
【0096】
また、本発明の飽和ノルボルネン樹脂は、135℃のデカリン中で測定される極限粘度[η]が、通常0.01〜20dl/gであり、好ましくは0.03〜10dl/gであり、より好ましくは0.05〜5dl/gであり、ASTM D1238に準じ260℃荷重2.16kgで測定した溶融流れ指数(MFR)は、通常0.1〜200g/10分であり、好ましくは1〜100g/10分、さらに好ましく5〜50g/10分である。
【0097】
さらに、環状オレフィン系樹脂の軟化点は、サーマルメカニカルアナライザーで測定した軟化点 (TMA)として、通常30℃以上であり、好ましくは70℃以上、より好ましくは80〜260℃である。
【0098】
上記式(II)で表わされる飽和ノルボルネンの構造の詳細について述べる。
上記式(II)中、nは0または1であり、mは0または1以上の整数であり、qは0または1である。なお、qが1の場合には、R a およびR b は、それぞれ独立に、下記に示す原子または炭化水素基であり、qが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する。
【0099】
1 〜R18 ならびにRa およびRb は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基である。ここでハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。また、炭化水素基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜15のシクロアルキル基、芳香族炭化水素基が挙げられる。より具体的には、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アミル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基およびオクタデシル基が挙げられ、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が挙げられ、芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。さらに上記式(II)において、R15 〜R18がそれぞれ結合して(互いに共同して)単環または多環を形成していてもよく、しかも、このようにして形成された単環または多環は二重結合を有していてもよい。
【0100】
上記式(II)で示される環状オレフィンを、より具体的に次に例示する。一例として、
【化7】

で示されるビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(=ノルボルネン)(上記式中において、1〜7の数字は炭素の位置番号を示す。)および該化合物に炭化水素基が置換した誘導体が挙げられる。
【0101】
この置換炭化水素基として、5−メチル基、5,6−ジメチル基、1−メチル基、5−エチル基、5−n−ブチル基、5−イソブチル基、7−メチル基、5−フェニル基、5−メチル−5−フェニル基、5−ベンジル基、5−トリル基、5−エチルフェニル基、5−イソプロピルフェニル基、5−ビフェニル基、5−β−ナフチル基、5−α−ナフチル基、5−アントラセニル基、5,6−ジフェニル基などを例示することができる。
【0102】
さらに他の誘導体として、シクロペンタジエン−アセナフチレン付加物、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセンなどのビシクロ[2.2.1]−2−ヘプテン誘導体を例示することができる。
【0103】
この他、トリシクロ[4.3.0.12,5]−3−デセン、2−メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]−3−デセン、5−メチルトリシクロ[4.3.0.12,5]−3−デセンなどのトリシクロ[4.3.0.12,5]−3−デセン誘導体、トリシクロ[4.4.0.12,5]−3−ウンデセン、10−メチルトリシクロ[4.4.0.12,5]−3−ウンデセンなどのトリシクロ[4.4.0.12,5]−3−ウンデセン誘導体、
【化8】

で示されるテトラシクロ[4.4.0.1 2,5 .1 7,10 ]−3−ドデセン、およびこれに炭化水素基が置換した誘導体が挙げられる。ここで、誘導体に置換される炭化水素基としては、8−メチル基、8−エチル基、8−プロピル基、8−ブチル基、8−イソブチル基、8−ヘキシル基、8−シクロヘキシル基、8−ステアリル基、5,10−ジメチル基、2,10−ジメチル基、8,9−ジメチル基、8−エチル−9−メチル基、11,12−ジメチル基、2,7,9−トリメチル基、2,7−ジメチル−9−エチル基、9−イソブチル−2,7−ジメチル基、9,11,12−トリメチル基、9−エチル−11,12−ジメチル基、9−イソブチル−11,12−ジメチル基、5,8,9,10−テトラメチル基、8−エチリデン基、8−エチリデン−9−メチル基、8−エチリデン−9−エチル基、8−エチリデン−9−イソプロピル基、8−エチリデン−9−ブチル基、8−n−プロピリデン基、8−n−プロピリデン−9−メチル基、8−n−プロピリデン−9−エチル基、8−n−プロピリデン−9−イソプロピル基、8−n−プロピリデン−9−ブチル基、8−イソプロピリデン基、8−イソプロピリデン−9−メチル基、8−イソプロピリデン−9−エチル基、8−イソプロピリデン−9−イソプロピル基、8−イソプロピリデン−9−ブチル基、8−クロロ基、8−ブロモ基、8−フルオロ基、8,9−ジクロロ基、8−フェニル基、8−メチル−8−フェニル基、8−ベンジル基、8−トリル基、8−エチルフェニル基、8−イソプロピルフェニル基、8,9−ジフェニル基、8−ビフェニル基、8−β−ナフチル基、8−α−ナフチル基、8−アントラセニル基、5,6−ジフェニル基等を例示することができる。
【0104】
さらには、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物とシクロペンタジエンとの付加物などのテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]−3−ペンタデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]−3−ヘキサデセンおよびその誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセンおよびその誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]−4−ヘプタデセンおよびその誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]−5−エイコセンおよびその誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.13,6.110,17.112,15.02,7.011,16]−4−エイコセンおよびその誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.03,8.012,17]−5−ヘンエイコセンおよびその誘導体、オクタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17]−5−ドコセンおよびその誘導体、ノナシクロ[10.9.1.14,7.113,20.115,18.02,10.03,8.012,21.014,19]−5−ペンタコセンおよびその誘導体などが挙げられる。
【0105】
これらの飽和ノルボルネン樹脂の具体例は、上記した通りであるが、より具体的なこれらの化合物の構造については、特開平7-145213号公報の段落番号0032〜0054に示されている。
また、これらの飽和ノルボルネン樹脂の合成法については、特開2001−114836号公報の段落番号0039〜0068を参考に実施することができる。
【0106】
また本発明の飽和ノルボルネン樹脂として、下記式(I)〜(VI)で表される化合物の少なくとも1種類由来の重合単位または、これらの少なくとも1種と下記式(VII)で表される化合物由来の重合単位からなるシクロオレフィン(共)重合体が挙げられる。ここで、該シクロオレフィン(共)重合体における、式(VII)で表される化合物由来の重合単位の割合は、0〜99モル%である。
【化9】

【0107】
上記式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ、水素原子、直鎖若しくは分岐の炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数7〜20のアルキレンアリール基、環状であってもよい炭素数2〜20のアルケニル基等の炭素数1〜20の炭化水素基、飽和若しくは不飽和若しくは芳香族の環状基を形成する。nは、0〜5の整数である。
【化10】

式中、R9、R10、R11およびR12は、それぞれ、水素原子、または、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基等の直鎖または分岐の、飽和または不飽和の、炭素数1〜20の炭化水素基である。
【0108】
上記シクロオレフィン(共)重合体は、例えば、式(I)〜式(VI)を有するモノマーの少なくとも一種類を開環重合し、次に得られた生成物を水素化することによって得ることができる。
【0109】
また、上記ポリマーに、下記式(VIII)で表される化合物由来の重合単位を、全体の0〜45モル%含むシクロオレフィン(共)重合体も好ましい。
【化11】

式中、nは2〜10の数である。
【0110】
環式、特に多環式オレフィンから誘導される重合単位の割合は、シクロオレフィン(共)重合体の、好ましくは3〜75モル%である。非環式オレフィンから誘導される重合単位の割合は、シクロオレフィン(共)重合体の、好ましくは5〜80モル%である。
【0111】
シクロオレフィン(共)重合体は、好ましくは、一種類以上の多環式オレフィン、特に式(I)または式(III)で表される多環式オレフィンから誘導される重合単位、および、式(VII)で表される一種類以上の非環式オレフィン、特に2〜20個の炭素原子を有するα-オレフィンから誘導される重合単位から成っている。好ましくは、特に、式(I)または式(III)で表される多環式オレフィンから誘導される重合単位、および式(VII)で表される非環式オレフィンから誘導される重合単位から成るシクロオレフィンコポリマーである。好ましくは、更に、式Iまたは式IIIで表される多環式モノオレフィンから誘導される重合単位、式(VII)で表される非環式モノオレフィンから誘導される重合単位、および少なくとも2つの二重結合を含む環式または非環式オレフィン(ポリエン)、例えば、ノルボルナジエンのような特に環式、好ましくは多環式のジエン、特に好ましくは、例えば、炭素数2〜20のアルケニル基を含むビニルノルボルネンのような多環式アルケンから誘導される重合単位から成る三次元重合体である。
【0112】
本発明で用いるシクロオレフィン(共)重合体は、好ましくはノルボルネン構造をベースとするオレフィン、特に好ましくはノルボルネン、テトラシクロドデセン、必要に応じて、ビニルノルボルネンまたはノルボルナジエンを含む。また、好ましくは、例えば2〜20個の炭素原子を有するα-オレフィン、特に好ましくはエチレンまたはプロピレンのような末端二重結合を有する非環式オレフィンから誘導される重合単位を含むシクロオレフィン(共)重合体である。特に好ましくは、ノルボルネン・エチレンコポリマーおよびテトラシクロドデセン・エチレンコポリマーである。
【0113】
三次元重合体の中では、特に好ましくは、ノルボルネン・ビニルノルボルネン・エチレン三次元重合体、ノルボルネン・ノルボルナジエン・エチレンターポリマー、テトラシクロドデセン・ビニルノルボルネン・エチレンターポリマー、およびテトラシクロドデセン・ビニルテトラシクロドデセン・エチレン三次元重合体である。ポリエン、好ましくはビニルノルボルネンまたはノルボルナジエンから誘導される重合単位の割合は、シクロオレフィン(共)重合体の全構造を基準として、0.1〜50モル%、特に好ましくは0.1〜20モル%であり、式(VII)で表される非環式モノオレフィンの割合は、通常、0〜99モル%、好ましくは5〜80モル%である。上記三次元重合体では、シクロオレフィン(共)重合体の、好ましくは0.1〜99モル%、より好ましくは3〜75モル%である。
【0114】
本発明で用いるシクロオレフィン(共)重合体は、好ましくは、式(I)で表される多環式オレフィンから誘導することができる重合単位および式(VII)で表される非環式オレフィンから誘導することができる重合単位を含む少なくとも一種類のシクロオレフィン(共)重合体を含む。
このようなシクロオレフィン(共)重合体は、特開平10−168201号公報の段落番号0019〜0020に従い合成することができる。
【0115】
本発明においては、上述のように熱可塑性樹脂には、本発明の課題達成を阻害しない範囲で、必要に応じて、種々の添加剤が添加されてもよい。このような添加剤としては、熱可塑性樹脂の劣化防止や、成形された光学フィルムの耐熱性、耐紫外線性、あるいは平滑性などを向上させる様々な添加剤が挙げられ、フェノール系もしくはリン系の酸化防止剤、ラクトン系などの熱劣化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、アクリロニトリル系などの紫外線吸収剤;脂肪族アルコールのエステル系、多価アルコールの部分エステル系や部分エーテル系などの滑剤;アミン系などの帯電防止剤、可塑剤などを挙げることができる。これらの添加剤は、前述の添加剤の1種もしくは2種以上添加されても良い。
【0116】
<<溶融製膜>>
以下、熱可塑性樹脂の溶融製膜方法について、セルロースアシレート樹脂製膜法の例を挙げてさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれに限定するものではなく、ノルボルネン系樹脂やポリカーボネート樹脂等の製造にも、それぞれの適宜製膜温度に応じて、以下の記載に準じて行うことができる。
(1) ペレット
セルロースアシレート樹脂は粉体のまま用いてもよいが、製膜の厚み変動を少なくするためにはペレット化したものを用いるのがより好ましい。
ペレット化を行うにあたりセルロースアシレート樹脂および添加物は事前に乾燥を行うことが好ましいが、ベント式押出機を用いることで、これを代用することもできる。乾燥を行う場合は、乾燥方法として、加熱炉内にて90℃で8時間以上加熱する方法等を用いることができるが、この限りではない。ペレット化は前記セルロースアシレート樹脂と添加物とを、2軸混練押出機を用い150℃〜240℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作製することができる。また、押出機による溶融後水中に口金より直接押出ながらカットする、アンダーウオーターカット法等によりペレット化を行ってもかまわない。
【0117】
押出機は十分な溶融混練が得られる限り、任意の公知の単軸スクリュー押出機、非かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。
好ましいペレットの大きさは断面積が1〜300mm2、長さはが1〜30mmがこのましく、より好ましくは断面積が2〜100mm2、長さが1.5〜10mmである。
またペレット化を行う時に、前記添加物は押出機の途中にある原料投入口やベント口から投入する異もできる。
押出機の回転数は10〜1000rpmが好ましく、より好ましくは20〜700rpm、さらにより好ましくは30〜500rpmである。これより、回転速度が遅くなると滞留時間が長くなり、熱劣化により分子量が低下したり、黄色味が悪化しやすくなる為、好ましくない。また回転速度が速すぎると剪断により分子の切断がおきやすくなり、分子量低下を招いたり、架橋ゲルの発生は増加するなどの問題が生じやすくなる。
ペレット化における押出滞留時間は10秒間〜30分間、より好ましくは15秒間〜10分間、さらに好ましくは30秒間〜3分間である。十分に溶融ができれば、滞留時間は短い方が、樹脂劣化、黄色み発生を抑えることができる点で好ましい。
【0118】
(2)乾燥
溶融製膜に先立ちペレット中の水分を乾燥して含水率が1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0119】
(3)溶融押出し
乾燥したセルロースアシレート樹脂を混練押出機の供給口からシリンダー内に供給する。混練押出機のスクリュー圧縮比は2.5〜4.5が好ましく、より好ましくは3.0〜4.0である。L(スクリュー長)/D(スクリュー径)は20〜70が好ましく、より好ましくは24〜50である。押出温度は190〜240℃が好ましい。押出機のバレルは3〜20に分割したヒーターで加熱し溶融することが好ましい。好ましい溶融温度は160℃〜240℃、より好ましくは170℃〜235℃、さらに好ましくは180℃〜230℃である。この際、入口側(ホッパー側)の温度を低くし、出口側の温度を10℃〜60℃高くすることが好ましい。スクリューは、フルフライト、マドック、ダルメージ等を用いることができる。樹脂の酸化防止のために、混練押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。
【0120】
(4)濾過
樹脂中の異物濾過のためや異物によるギアポンプ損傷を避けるため押し出し機出口にフィルター濾材を設けるいわゆるブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。またさらに精度高く異物濾過をするために、ギアポンプ通過後にいわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は、濾過部を1カ所設けて行うことができ、また複数カ所設けて行う多段濾過でもよい。フィルター濾材の濾過精度は高い方が好ましいが、濾材の耐圧や濾材の目詰まりによる濾圧上昇から、濾過精度は15μm〜3μmが好ましくさらに好ましくは10μm〜3μmである。特に最終的に異物濾過を行うリーフ型ディスクフィルター装置を使用する場合では品質の上で濾過精度の高い濾材を使用することが好ましく、耐圧,フィルターライフの適性を確保するために装填枚数にて調整することが可能である。濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でも特にステンレス鋼,スチールなどを用いることが好ましく、腐食の点から特にステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば金属長繊維あるいは金属粉末を焼結し形成する焼結濾材が使用でき、濾過精度,フィルターライフの点から焼結濾材が好ましい。
【0121】
(5)ギアポンプ
厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要であり、押出機出機とダイスとの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量のセルロースアシレート樹脂を供給することは効果がある。ギアポンプとは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するものである。押出機先端部分の樹脂圧力が若干の変動があっても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプを用いることにより、ダイ部分の樹脂圧力の変動巾を±1%以内にすることが可能である。
【0122】
前記ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。また、ギアポンプのギアの変動を解消した3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。
【0123】
ギアポンプを用いるその他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を下げて製膜できることから、エネルギー消費の軽減・樹脂温上昇の防止・輸送効率の向上・押出機内での滞留時間の短縮・押出機のL/Dを短縮が期待できる。また、異物除去のために、フィルターを用いる場合には、ギアポンプが無いと、ろ圧の上昇と共に、スクリューから供給される樹脂量が変動したりすることがあるが、ギアポンプを組み合わせて用いることにより解消が可能である。一方、ギアポンプのデメリットとしては、設備の選定方法によっては、設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり、注意が必要である。
樹脂が供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの樹脂の好ましい滞留時間は2〜60分間であり、より好ましくは2〜30分間であり、さらに好ましくは3〜15分間である。
【0124】
ギアポンプの軸受循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受部とにおけるポリマーによるシールが悪くなり、計量および送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生する。このため、セルロースアシレート樹脂の溶融粘度に合わせたギアポンプの設計(特にクリアランス)が必要である。また、場合によっては、ギアポンプの滞留部分がセルロースアシレート樹脂の劣化の原因となるため、滞留のできるだけ少ない構造が好ましい。押出機とギアポンプあるいはギアポンプとダイ等をつなぐポリマー管やアダプタについても、できるだけ滞留の少ない設計が必要であり、且つ溶融粘度の温度依存性の高いセルロースアシレート樹脂の押出圧力安定化のためには、温度の変動をできるだけ小さくすることが好ましい。一般的には、ポリマー管の加熱には設備コストの安価なバンドヒーターが用いられることが多いが、温度変動のより少ないアルミ鋳込みヒーターを用いることがより好ましい。さらに上述のように押出し機内で、押出し機のバレルを3〜20に分割したヒーターで加熱し溶融することが好ましい。
【0125】
(6)ダイ
前記の如く構成された押出機によってセルロースアシレート樹脂が溶融され、必要に応じ濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂がダイに連続的に送られる。ダイはダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。また、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜5.0倍がよく、好ましくは1.2〜3倍、さらに好ましくは1.3〜2倍である。リップクリアランスがフィルム厚みの1.0倍小さい場合には製膜により面状の良好なシートを得ることが困難である。また、リップクリアランスがフィルム厚みの5.0倍を超えて大きい場合にはシートの厚み精度が低下するため好ましくない。ダイはフィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、厚み調整がシビアにコントロールできるものが好ましい。通常厚み調整は40〜50mm間隔で調整可能であるが、好ましくは35mm間隔以下、さらに好ましくは25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが好ましい。また、製膜フィルムの均一性を向上するために、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラのできるだけ少ない設計が重要である。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも長期連続生産の厚み変動の低減に有効である。
フィルムの製造は設備コストの安い単層製膜装置が一般的に用いられるが、場合によっては機能層を外層に設けために多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。一般的には機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
【0126】
(7)キャスト
本発明の前述のキャスト製膜条件に従い、キャスト製膜することが好ましい。
【0127】
(8)巻取り
また巻取り前に両端をトリミングすることも好ましい。トリミングカッターはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等の何れのタイプの物を用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼何れを用いても構わない。一般的には、超硬刃、セラミック刃を用いると刃物の寿命が長く、また切り粉の発生が抑えられて好ましい。トリミングで切り落とした部分は破砕し、再度原料として使用してもよい。
また巻取り前に片端あるいは両端に厚みだし加工(ナーリング処理)を行うことも好ましい。厚みだし加工による凹凸の高さは1〜200μmが好ましく、より好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜100μmである。厚みだし加工は両面に凸になるようにしても、片面に凸になるようにしても構わない。厚みだし加工の幅は1〜50mmが好ましく、より好ましくは3〜30mm、さらに好ましくは5〜20mmである。押出し加工は室温〜300℃で実施できる。
【0128】
また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。ラミフィルムの厚みは5〜200μmが好ましく10〜150μmが好ましく、15〜100μmが好ましい。材質はポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等、特に限定されない。
好ましい巻き取り張力は1kg/m幅〜50kg/幅、より好ましくは2kg/m幅〜4
0kg/幅、さらに好ましくは3kg/m幅〜20kg/幅である。巻き取り張力が1kg/m幅より小さい場合には、フィルムを均一に巻き取ることが困難である。逆に、巻き取り張力が50kg/幅を超える場合には、フィルムが堅巻きになってしまい、巻き外観が悪
化するのみでなく、フィルムのコブの部分がクリープ現象により延びてフィルムの波うちの原因になったり、あるいはフィルムの伸びによる残留複屈折が生じるため好ましくない。巻き取り張力は、ラインの途中のテンションコントロールにより検知し、一定の巻き取り張力になるようにコントロールされながら巻き取ることが好ましい。製膜ラインの場所により、フィルム温度に差がある場合には熱膨張により、フィルムの長さが僅かに異なる場合があるため、ニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが必要である。
【0129】
巻き取り張力はテンションコントロールの制御により、一定張力で巻き取ることもできるが、巻き取った直径に応じてテーパーをつけ、適正な巻取り張力にすることがより好ましい。一般的には巻き径が大きくなるにつれて張力を少しずつ小さくするが、場合によっては、巻き径が大きくなるにしたがって張力を大きくする方が好ましい場合もある。
製膜幅は1m〜5mであることが好ましく、より好ましくは1.2m〜4m、さらに好ましくは1.3m〜3mである。
【0130】
《未延伸セルロースアシレートフィルムの物性》
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの残留溶剤は0.01質量%以下が好ましく、より好ましくは0質量%である。
また、偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール、並びに、生産性の観点から、未延伸フィルムの厚みは20〜300μmが好ましく、より好ましくは30〜250μm、さらに好ましくは35〜200μmである。特に薄手のフィルムを使用するときは、フィルムの厚みは30μm〜100μmが好ましく、より好ましくは30μm〜60μmである。このような薄手のフィルムは、溶融製膜時にダイから出た融体(メルト)がキャストドラム上で冷却固化する際に、キャストドラム側の面からその反体面までフィルム厚み方向に同時に均一に冷却されるため、フィルム内に残留歪が残りにくく経時でのレターデーション変化が発生しにくい。一方、厚手フィルムは熱容量の大きなキャストドラム側から反対面に向かい徐冷されるため、キャストドラム側が反体面より熱収縮が大きく、歪が発生し易い。この結果経時でのレターデーション変化が大きくなり易い。
厚みバラツキは長手方向、幅方向いずれも0〜3μmが好ましく、より好ましくは0〜2μm、さらに好ましくは0〜1μmである。
【0131】
フィルムの表面粗さRaが0.01〜200nmが好ましく、より好ましくは0.01〜150nm、さらに好ましくは0.01〜100nmである。
フィルム両面の表面粗さRaの比が0.8〜1.2が好ましく、より好ましくは0.85〜1.1、さらに好ましくは0.9〜1.05である。
【0132】
本発明の未延伸セルロースアシレートフィルムは、上述の式(I)および(II)にあるように、Re=0〜10nm,Rth=−15〜15nmが好ましく、より好ましくはRe=0〜5nm,Rth=−10〜10nm、さらに好ましくはRe=0〜4nm,Rth=−8〜8nmである。Re、Rthは25℃・相対湿度60%における測定波長590nmの測定値である。ReおよびRthのムラは長手方向、幅方向いずれも0%〜1.5%が好ましく、より好ましくは0%〜1%である。
【0133】
25℃・相対湿度10%のReと25℃・相対湿度80%のReとの差の絶対値は5nm以下が好ましく、より好ましくは4nm以下、さらに好ましくは3nm以下である。
25℃・相対湿度10%のRthと25℃・相対湿度80%のRthとの差の絶対値は15nm以下が好ましく、より好ましくは12nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。
【0134】
25℃、相対湿度80%での平衡含水率は1質量%〜2.5質量%が好ましく、より好ましくは1.1質量%〜2.4質量%、さらに好ましくは1.2質量%〜2.3質量%である。
【0135】
本発明の溶融セルロースアシレートフィルムは、波長に対する光学特性の挙動をコントロールすることも可能である。すなわち、波長400nmおよび700nmにおけるそれぞれのRe(400)、Re(700)の差の絶対値が0〜15nmであることが好ましく、より好ましくは0〜10nmである。
波長400nmおよび700nmにおけるそれぞれのRth(400)、Rth(700)の差の絶対値が0〜35nmであることが好ましく、より好ましくは0〜20nmである。
即ち、式で表わすと、下記式(A−1)および(A−2)を満たすことが好ましい。
式(A−1):0≦|Re(700)−Re(400)|≦15nm
式(A−2):0≦|Rth(700)−Rth(400)|≦35nm
(式中、Re(400)およびRe(700)は、波長400nmおよび700nmにおける面内レターデーションを表し、Rth(400)およびRth(700)は、波長400nmおよび700nmにおける厚さ方向のレターデーションを表す。)
【0136】
40℃、相対湿度90%における透水率は250g/m2・日〜1200g/m2・日が好ましく、より好ましくは300g/m2・日〜1000g/m2・日である。
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは透明であることが好ましい。また、本発明の製造方法によれば透明な熱可塑性樹脂フィルムを好ましく製造することができる。本発明の熱可塑性樹脂フィルムの全光透過率は90%〜100%が好ましく、より好ましくは91〜100%である。ここで、本発明において「透明」とは、全光透過率が88%以上であることを意味する。
【0137】
引張り弾性率は1.0kN/mm2〜3.5kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.4kN/mm2〜2.6kN/mm2である。
【0138】
破断伸度は好ましくは8%〜400%、より好ましくは10%〜300%、さらに好ましくは15%〜200%である。
【0139】
セルロースアシレートのTgは95℃〜145℃が好ましく、100〜145℃がより好ましい。80℃1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。
【0140】
《延伸と延伸セルロースアシレートフィルムの物性》
(延伸)
未延伸フィルムを延伸し、Re,Rthを制御することもできる。上述のように製膜した本発明の熱可塑性樹脂フィルムを、縦延伸、横延伸することも好ましい。縦延伸、横延伸はいずれか一方でもよく、両方実施してもよい。また縦延伸、横延伸は各々1回で行ってもよく、複数回に亘って実施してもよく、同時に縦、横に延伸してもよい。
このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げてもよい(横延伸)。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
ここで、延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
【0141】
具体的には下記のような延伸法を用いるのが好ましい。上述の本発明の熱可塑性樹脂フィルムを下記の延伸を行うことにより、フィルムの平面性、表面の粗さ、凹凸スジ、光学特性(ReおよびRthの変動ムラなど)をさらに向上することができる。
(1)縦延伸
縦延伸は、2対のニップロールを設置し、この間を加熱しながら出口側のニップロールの周速を入口側のニップロールの周速より速くすることで達成できる。この際、ニップロール間の間隔(L)と延伸前のフィルム幅(W)を変えることで厚み方向のレターデーション(Rth)の発現性を変えることができる。L/W(縦横比と称する)が2を超え50以下(長スパン延伸)ではRthを小さくでき、縦横比が0.01〜0.3(短スパン延伸)ではRthを大きくできる。これらを目的(Rthの目標値)に応じて適宜使用する。以下に詳細を説明する。
【0142】
(1−1)長スパン延伸
延伸に伴いフィルムは伸張されるが、この時フィルムは体積変化を小さくしようと厚み、幅を減少させる。このときニップロールとフィルム間の摩擦により幅方向の収縮が制限される。このためニップロール間隔を大きくすると幅方向に収縮しやすくなり厚み減少を抑制できる。厚み減少が大きいとフィルムが厚み方向に圧縮されたことと同じ効果があり、フィルム面内に分子配向が進みRthが大きくなり易い。縦横比が大きく厚み減少が少ないとこの逆でRthは発現し難く低いRthを実現できる。
さらに縦横比が長いと幅方向の均一性を向上することができる。これは以下の理由による。
・縦延伸に伴いフィルムは幅方向に収縮しようとする。幅方向中央部では、その両側も幅方向に収縮しようとするため、綱引き状態となり自由に収縮できない。
・一方、フィルム幅方向端部は片側としか綱引き状態とならず、比較的自由に収縮できる。
・この両端と中央部の延伸に伴う収縮挙動の差が幅方向の延伸ムラとなる。
このような両端と中央部の不均一性により、幅方向のレターデーションむら、軸ズレ(遅相軸の配向角分布)が発生する。これに対し、長スパン延伸は長い2本のニップロール間でゆっくり延伸されるため、延伸中にこれらの不均一性の均一化(分子配向が均一になる)が進行する。これに対し、通常の縦延伸(縦横比=0.3を超え2未満)では、このような均一化は発生しない。
【0143】
縦横比は、2を越え50以下が好ましく、3〜40がより好ましく、4〜20がさらに好ましい。延伸温度は、好ましくは(Tg−5℃)〜(Tg+100)℃であり、より好ましくは(Tg)〜(Tg+50)℃であり、さらに好ましくは(Tg+5)〜(Tg+30)℃である。延伸倍率は、好ましくは1.05〜3倍であり、より好ましくは1.05〜1.7倍であり、さらに好ましくは1.05〜1.4倍である。このような長スパン延伸は3対以上ニップロールで多段延伸しても良く、多段のうち最も長い縦横比が上記範囲に入っていればよい。
このような長スパン延伸は所定の距離離した2対のニップロールの間でフィルムを加熱して延伸すればよく、加熱方法はヒーター加熱法(赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等をフィルム上や下に設置し輻射熱で加熱)でも良く、ゾーン加熱法(熱風等を吹き込み所定の温度に調温したゾーン内で加熱)でもよい。本発明では延伸温度の均一性の観点からゾーン加熱法が好ましい。この時、ニップロールは延伸ゾーン内に設置してもよく、ゾーンの外に出してもよいが、フィルムとニップロールの粘着を防止するためにはゾーンの外に出すのが好ましい。このような延伸の前にフィルムを予熱することも好ましく、この場合の予熱温度は、(Tg−80℃)〜(Tg+100℃)が好ましい。
【0144】
このような延伸により、Re値が、好ましくは0〜200nmの、より好ましくは10〜200nmの、さらに好ましくは15nm〜100nmのフィルムが得られる。また、このような延伸により、Rth値が、好ましくは30〜500nmの、より好ましくは50〜400nmの、さらに好ましくは70〜350nmのフィルムが得られる。この延伸法により、RthとReの比(Rth/Re)を、例えば、0.4〜0.6、好ましくは0.45〜0.55とすることができる。さらに、このような延伸により、Re値およびRth値の変動がいずれも、例えば5%以下、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下にすることができる。
このような延伸により、延伸前後のフィルム幅の比(延伸後のフィルム幅/延伸前のフィルム幅)は、例えば0.5〜0.9、好ましくは0.6〜0.85、より好ましくは0.65〜0.83とすることができる。
【0145】
(1−2)短スパン延伸
縦横比(L/W)を、例えば、0.01を越え0.3未満、好ましくは0.03〜0.25、より好ましくは0.05〜0.2で縦延伸(短スパン延伸)を行う。このような範囲の縦横比(L/W)で延伸を行うことで、ネックイン(延伸に伴う延伸と直行する方向の収縮)を小さくすることができる。延伸方向の伸張を補うため幅、厚みが減少するが、このような短スパン延伸では幅収縮が抑制され厚み減少が優先的に進む。この結果、厚み方向に圧縮されたようになり、厚み方向の配向(面配向)が進む。この結果、厚み方向の異方性の尺度であるRth値が増大し易い。一方、従来は縦横比(L/W)が1前後(0.7〜1.5)で行われるのが一般的であった。これは、通常ニップロール間に加熱用ヒーターを設置して延伸するが、L/Wが大きくなりすぎるとヒーターでフィルムを均一に加熱できず、延伸むらが発生し易く、L/Wが小さすぎるとヒーターが設置しにくく加熱が十分に行えないためである。
上述の短スパン延伸は、2対以上のニップロール間で搬送速度を変えることにより実施できるが、通常のロール配置と異なり、2対のニップロールを斜めに(前後のニップロールの回転軸を上下にずらす)配置することで達成できる。
これに伴いニップロール間に加熱用ヒーターは設置できないため、ニップロール中に熱媒を流しフィルムを昇温することが好ましい。さらに、入口側ニップロールの前に内部に熱媒を流した予熱ロールを設け、フィルムを延伸前に加熱することも好ましい。延伸温度は、好ましくは、(Tg-5℃)〜(Tg+100)℃、より好ましくは(Tg)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+5)〜(Tg+30)℃であり、好ましい予熱温度はTg−80℃〜Tg+100℃である。
【0146】
ここで、長スパン延伸および短スパン延伸ついて詳細に説明する。
図5は、長スパン延伸を行う場合の、熱可塑性樹脂フィルムを溶融製膜で製造する場合のフィルム製造装置10の構成概略図である。
フィルム製造装置10は、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性樹脂フィルムFを製造する装置である。熱可塑性樹脂フィルムFの原材料であるペレット状のセルロースアシレート樹脂またはシクロオレフィン樹脂を乾燥機13に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機15によって押し出し、ギアポンプ16によりフィルタ18に供給する。次いで、フィルタ18により異物が濾過され、ダイ21から押し出される。その後、キャストドラム29とタッチロール25で挟まれ、キャストドラム29とタッチロール27の間を通過して固化し、所定の表面粗さの未延伸フィルムFaが形成される。そして、この未延伸フィルムFaが長スパン延伸を行う縦延伸部30に供給される。
縦延伸部30では、未延伸フィルムFaが入口側ニップロール32及び出口側ニップローラ34間で搬送方向に延伸され、縦延伸フィルムFbとされる。なお、図6は、縦延伸部30の斜視説明図であり、縦延伸の縦/横比(L/W)は、入口側ニップロール32及び出口側ニップローラ34間の距離Lと、入口側ニップロール32及び出口側ニップローラ34の長さ方向の幅Wとによって規定される。次いで、縦延伸フィルムFbは、予熱部36を通過することで所定の予熱温度に調整された後、横延伸部42に供給される。
横延伸部42では、縦延伸フィルムFbが搬送方向と直交する幅方向に延伸され、横延伸フィルムFcとされる。そして、横延伸フィルムFcは、熱固定部45に供給され、巻取部47によって巻き取られることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性樹脂フィルムFが製造される。なお、横延伸フィルムFcには熱固定部45を通過した後、さらに熱緩和処理を施してもよい。
【0147】
一方、図7は、図5および図6に示す長スパン延伸を行う縦延伸部30に代えて、短スパン延伸を行う縦延伸部30aとしたフィルム製造装置10aの概略構成図である。
このフィルム製造装置10aでは、未延伸フィルムFaが予熱ロール33、35によって所定の温度まで予熱された後、二組のニップロール37、39間に供給されて縦延伸が行われる。この場合、ニップロール37、39は、未延伸フィルムFaの搬送方向に近接して配置されるとともに、上下方向に所定距離だけ高さが異なるように配置されている。ニップロール37、39をこのように配置することにより、縦延伸部30aにおける未延伸フィルムFaの搬送距離を確保できるとともに、縦延伸部30aの前後に配置される機構間の距離を短縮して、フィルム製造装置10aの小型化を図ることができる。
なお、図8は、縦延伸部30aの斜視説明図であり、縦延伸の縦/横比(L/W)は、ニップロール37、39によってニップされる未延伸フィルムFaの搬送方向の距離Lと、ニップロール37、39の長さ方向の幅Wとによって規定される。
【0148】
(2)横延伸
縦延伸と横延伸を組み合わせることで、ReおよびRthを調整できる。縦延伸および横延伸いずれか1軸延伸のみでもよいが、両方向の延伸を組み合わせることにより、延伸方向の配向が進みReの絶対値が増加し過ぎるのを調整しやすい。また、縦延伸と横延伸を組み合わせることで縦方向の配向と横方向の配向が相殺されReを小さくできる。さらに、縦および横の両方向に伸張されるため、厚み減少が大きくなり面配向が進みRthを大きくすることができる。
縦延伸および横延伸は、どちらを先に実施してもよく、同時に延伸しても良いが、より好ましいのは縦延伸後に横延伸を行う方法である。これにより設備をコンパクトにすることができる。縦延伸および横延伸は各々独立に実施しても、連続して実施しても良いが、連続して実施することがより好ましい。
横延伸は、例えば、テンターを用い実施することができる。即ちフィルムの幅方向の両端部をクリップで把持し、横方向に拡幅することで延伸する。この時、テンター内に所望の温度の風を送ることで延伸温度を制御できる。延伸温度は、(Tg−10)℃〜(Tg+60)℃が好ましく、(Tg−5)℃〜(Tg+45)℃がより好ましく、(Tg)〜(Tg+30)℃がさらに好ましい。好ましい延伸倍率は1.01倍〜4倍、より好ましく1.03倍〜3.5倍、さらに好ましくは1.05倍〜2.5倍である。横延伸と縦延伸の倍率比(横延伸倍率/縦延伸倍率)は、1.1〜100若しくは0.9〜0.01が好ましく、より好ましく2〜60若しくは0.5〜0.017、さらに好ましくは4〜40若しくは0.25〜0.025である。
【0149】
このような延伸の前に予熱、および、延伸の後に熱処理を行うことができる。このような手段を採用することにより、延伸後のReおよびRth分布を小さくし、ボーイングに伴う配向角のばらつきを小さくできる。予熱および熱処理はどちらか一方であってもよいが、両方行うのがより好ましい。これらの予熱、熱処理はクリップで把持して行うのが好ましく、即ち延伸と連続して行うのが好ましい。
予熱は、延伸温度より、好ましくは1℃〜50℃、より好ましく2℃〜40℃、さらに好ましくは3℃〜30℃高くする。予熱時間は、好ましくは1秒〜10分であり、より好ましくは5秒〜4分であり、さらに好ましくは10秒〜2分である。
熱処理は、延伸温度より、好ましくは1℃〜50℃、より好ましく2℃〜40℃、さらに好ましくは3℃〜30℃低くする。さらに好ましくは延伸温度以下かつTg以下にするのが好ましい。予熱時間は、好ましくは1秒〜10分であり、より好ましくは5秒〜4分であり、さらに好ましくは10秒〜2分である。
このような予熱、熱処理により配向角やReおよびRthのバラツキを小さくできるのは下記理由による。
・フィルムは幅方向に延伸され、直行方向(長手方向)に細くなろうとする(ネックイン)。
・このため横延伸前後のフィルムが引っ張られ応力が発生する。しかし幅方向両端はチャックで固定されており応力により変形を受けにくく、幅方向の中央部は変形を受け易い。この結果、ネックインによる応力は弓(bow)状に変形しボーイングが発生する。これにより面内のReおよびRthむらや配向軸の分布が発生する。
・これを抑制するために、予熱側(延伸前)の温度を高くし、熱処理(延伸後)の温度を低くすると、ネックインはより弾性率の低い高温側(予熱)で発生し、熱処理(延伸後)では発生しにくくなる。即ち、熱固定を行わない場合には、図9に示すように、横延伸後のフィルムFの横延伸ゾーン出口付近で、搬送方向上流側に凸なボーイングが発生するが、本発明では、横延伸部42の直後の熱固定部45において熱固定を行うことで、図10に示すように、搬送方向上流側に凸なボーイングの発生が抑制できる。また、横延伸部42の直前の予熱部36において予熱を行った場合には、横延伸部42の入口付近で搬送方向下流側に樹脂の分布が広がり易く、均一な横延伸が可能になり、横延伸部42の出口付近で搬送方向上流側に凸なボーイングが発生し難くなる。この結果、延伸後のボーイングを抑制できる。
【0150】
このような延伸によりさらに、Re、Rthの幅方向、長手方向の場所による変動をいずれも好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下にする。さらに、配向角を90°±5°以下または0°±5°以下とすることが好ましく、90°±3°以下または0°±3°以下とすることがより好ましく、90°±1°以下または0°±1°以下とすることがさらに好ましい。
【0151】
(3)緩和
さらにこれらの延伸の後に緩和処理を行うことで寸法安定性を改良できる。熱緩和は縦延伸後、横延伸後のいずれか、あるいは両方で行うことが好ましく、より好ましく横延伸後である。緩和処理は延伸後に連続してオンラインで行ってもよく、延伸後巻き取った後、オフラインで行ってもよい。
熱緩和は、好ましくは(Tg−50)℃〜(Tg+30)℃、より好ましく(Tg−30)℃〜(Tg+20)℃、さらに好ましくは(Tg−15)℃〜(Tg+10)℃で、好ましくは1秒〜10分、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分、好ましくは0.1kg/m〜20kg/m、より好ましく1kg/m〜16kg/m、さらに好ましくは2kg/m〜12kg/mの張力で搬送しながら実施する。
【0152】
延伸後のセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは下式を満足することが好ましい。
|Rth|≧Re
200≧Re≧0
300≧Rth≧−100
【0153】
延伸後のセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは下式を満足することがより好ましい。
|Rth|≧Re×1.2
150≧Re≧20
250≧Rth≧−100
【0154】
また製膜方向(長手方向)と遅相軸とのなす角度θは、縦延伸の場合は、0±3°が好ましく、より好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。
【0155】
延伸後のセルロースアシレートフィルムの厚みは15μm〜200μmが好ましく、より好ましくは30μm〜150μm、さらに好ましくは30μm〜120μmである。薄手のフィルムを用いることでよりフィルム内に残留歪が残りにくく経時でのレターデーション変化が発生しにくい。これは、延伸後に冷却する際、厚みが厚いと表面に比べ内部の冷却が遅れ、熱収縮量の差に起因する残留歪が発生し易いためである。
厚みバラツキは長手方向、幅方向いずれも0〜3μmが好ましく、より好ましくは0〜2μm、さらに好ましくは0〜1μmである。
【0156】
延伸セルロースアシレートフィルムの物性は以下の範囲が好ましい。
引張り弾性率は1.0kN/mm2以上3.0kN/mm2未満が好ましく、より好ましくは1.3kN/mm2〜2.6kN/mm2である。破断伸度は3%〜200%が好ましく、より好ましくは8%〜150%である。80℃に1日静置した後の熱寸法変化は縦、横両方向とも0%〜±1%が好ましく、さらに好ましくは0%〜±0.3%である。
【0157】
(セルロースアシレートフィルムの加工)
次に、本発明の熱可塑性樹脂フィルムに対して行うことができる処理について、好ましい態様を参照しながら説明する。
【0158】
(表面処理)
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。
また、グロー放電処理には、10-3〜20Torr(0.13〜2700Pa)の低圧ガス下でおこる低温プラズマ処理を含む。また、大気圧下でのプラズマ処理も好ましいグロー放電処理である。
プラズマ励起性気体とは、前記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。
【0159】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬(浸漬法)してもよく、鹸化液を塗布(塗布法)してもよい。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分間〜10分間通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0160】
塗布法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性がよく、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、前記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒間〜5分間が好ましく、5秒間〜5分間がさらに好ましく、20秒間〜3分間が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開第02/46809号パンフレットに記載されている。
【0161】
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は前記表面処理をした後、塗設してもよく、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
【0162】
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0163】
《本発明の熱可塑性樹脂フィルムの利用》
本発明の熱可塑性樹脂フィルムに、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムである。以下に順に説明する。
【0164】
(1)偏光板の作製
(偏光子)
本発明の偏光子は、ポリビニルアルコール(PVA)と二色性分子から構成することが好ましいが、特開平11−248937号公報に記載されているようにPVAやポリ塩化ビニルを脱水、脱塩素することによりポリエン構造を生成し、これを配向させたポリビニレン系偏光子も使用することができる。また、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光子も利用できる。
【0165】
PVAは、ポリ酢酸ビニルをケン化したポリマー素材であるが、例えば不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、オレフィン類、ビニルエーテル類のような酢酸ビニルと共重合可能な成分を含有しても構わない。また、アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等を含有する変性PVAも用いることができる。
【0166】
PVAのケン化度は特に限定されないが、溶解性等の観点から80〜100mol%が好ましく、90〜100mol%が特に好ましい。またPVAの重合度は特に限定されないが、1000〜10000が好ましく、1500〜5000が特に好ましい。 PVA
のシンジオタクティシティーは特許2978219号公報に記載されているように耐久性を改良するため55%以上が好ましいが、特許第3317494号公報に記載されている45〜52.5%も好ましく用いることができる。
【0167】
PVAはフィルム化した後、二色性分子を導入して染色、延伸することによって偏光子を得られる。詳細な偏光子作製方法は特開2005−138375号公報の段落[0075]〜[0082]、特開2006−2026号公報の段落[0138]〜[0141]、特開2006−45500号公報の段落[0099]〜[0108]に記載するものを好ましく用いることができる。
【0168】
(偏光板)
本発明において偏光子とセルロースアシレート保護フィルムとの接着処理は、特に限定されるものではないが、例えば、ビニルアルコール系ポリマーからなる接着剤、あるいは、ホウ酸やホウ砂、グルタルアルデヒドやメラミン、シュウ酸などのビニルアルコール系ポリマーの水溶性架橋剤から少なくともなる接着剤などを介して行うことができる。特に、ポリビニルアルコール系フィルムとの接着性が最も良好である点で、ポリビニルアルコール系接着剤を用いることが好ましい。かかる接着層は、水溶液の塗布乾燥層などとして形成しうるが、その水溶液の調製に際しては必要に応じて、他の添加剤や、酸等の触媒も配合することができる。詳細な偏光板の作製方法および偏光板特性は特開2005−138375号公報の段落[0083]〜[0113]、特開2006−2026号公報の段落[0142]〜[0145]、特開2006−45500号公報の段落[0109]〜[0111]に記載するものが好ましく用いることができる。
【0169】
一般に液晶表示装置は、二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられ、また、一般に液晶セルは、2枚の基板の間に液晶注入される。従って、通常の液晶表示装置では、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよい。偏光板の保護フィルムは第1保護フィルム、偏光子、第2保護フィルムから積層してなる偏光板において、二枚偏光板を直交する際に第2保護フィルムが内側(液晶セル側)に配置する。ただし、本発明の熱可塑性樹脂フィルムはReおよびRthが極小であり、且つ湿度変化によるRe、Rthの変動が少なく、平衡含水率が低いという特徴を有しており、液晶表示装置の視野角依存性、経時変化、黒表示時の光漏れおよび色味変化をより改善するために、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、液晶表示装置における偏光子と液晶層(液晶セル)との間に配置される第2保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。
【0170】
また、液晶セルの上面(視認側)に配置する上偏光板の第1保護フィルムが本発明の溶融製膜される透明セルロースアシレートフィルム、または溶液流延製膜したトリアセチルセルロースフィルムから選ばれ、表面にハードコート層、防眩層、反射防止層の少なくとも一層を設け、偏光板の第1保護フィルムとして視認側配置することが好ましく用いられる。液晶セルの下面(奥側)に配置する下偏光板の第1保護フィルムが本発明の溶融製膜される透明セルロースアシレートフィルム、または溶液流延製膜したトリアセチルセルロースフィルムから選ばれ、偏光板の第1保護フィルムとしてバックライトユニット側に配置することが好ましく用いられる。
【0171】
(2)光学補償フィルムの作製
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。本発明の光学補償フィルムは、基材として本発明の熱可塑性樹脂フィルムを用い、その上に光学補償層を設けることで、作製することができる。
【0172】
(配向膜)
前記表面処理したセルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。詳細な配向膜の作製方法および材料は特開2006−2026号公報の段落[0148]〜[0159]、特開2006−45500号公報の段落[0114]〜[0127]、特開2006−45501号公報の段落[0080]〜[0085]に記載するものが好ましく用いることができる。このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0173】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
【0174】
(光学補償層)
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0175】
−棒状液晶性分子−
前記棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
【0176】
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0177】
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
【0178】
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基あるいはカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報明細書中の段落番号[0064]〜[0086]記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0179】
−円盤状液晶性分子−
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されている
トルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0180】
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
【0181】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0151]〜[0168]記載の化合物等が挙げられる。
【0182】
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光板の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光板の面からの距離の増加と共に増加または減少している。前記円盤面と偏光板の面との角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、前記円盤面と偏光板の面との角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。前記円盤面と偏光板の面との角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、前記円盤面と偏光板の面との角度は連続的に変化することが好ましい。
【0183】
偏光板側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸の配向方向の変化の程度も、前記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0184】
−光学異方性層の他の組成物−
前記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上させることができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0185】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、前記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。前記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0186】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報明細書中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0187】
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
【0188】
ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、前記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0189】
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0190】
(光学異方性層の形成)
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
【0191】
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0192】
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0193】
(液晶性分子の配向状態の固定)
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
【0194】
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
【0195】
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0196】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2 〜50J/cm2 の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2 の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2 の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。保護子を光学異方性層の上に設けてもよい。
【0197】
この光学補償フィルムと偏光板とを組み合わせることも好ましい。具体的には、前記のような光学異方性層用塗布液を偏光板の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光板と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光板の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作製される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
【0198】
偏光板と光学補償層との傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0199】
(3)反射防止フィルム
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、またハードコート層、防眩層、反射防止層への適用が好ましく実施できる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。特に基材として本発明の熱可塑性樹脂フィルムを用い、その上に光学補償層を設けることで、本発明の光学補償フィルムを作製することができる。このようなハードコート層、防眩層、反射防止層としての望ましい実施態様は、発明協会公開技報公技番号2001−1745号(2001年3月15日発行、発明協会)の54頁〜57頁、特開2005−178194号公報の段落[0137]〜[0167]、特開2005−325258号公報の段落[0136]〜[0154]、特開2006−45500号公報の段落[0153]〜[0175]、特開2006−45501号公報の段落[0095]〜[0103]に詳細に記載されている。これらの作製方法は好ましく用いることができる。
【0200】
《液晶表示装置》
本発明の熱可塑性樹脂フィルム、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムは、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明の熱可塑性樹脂フィルム、偏光板および光学補償フィルムは特にTN、STN、VA、IPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0201】
(TNモード液晶表示装置)
TNモード液晶表示装置は、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差板の支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn. J. Appl. Phys. Vol.36(1997)p.143や、Jpn. J. Appl. Phys. Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0202】
(STN型液晶表示装置)
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の位相差板の支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)との積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0203】
(OCBモード液晶表示装置)
OCBモード液晶表示装置は、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0204】
(VAモード液晶表示装置)
VAモード液晶表示装置は、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0205】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償板や光学補償板の支持体として用いてもよい。または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0206】
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号公報、特開2004−12731号公報、特開2004−215620号公報、特開2002−221726号公報、特開2002−55341号公報、特開2003−195333号公報に記載のものなどを使用できる。
【0207】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償板や光学補償板の支持体として用いてもよい。または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明の熱可塑性樹脂フィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラストの良化に寄与する。
【0208】
(反射型液晶表示装置)
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest-Host)型の反射型液晶表示装置の位相差板としても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0209】
(その他の液晶表示装置)
本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)
モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。
【0210】
なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、本発明と下記特許公報に開示の技術を組合わせて使用することができる。
実開平3−110418号公報、特開平5−119216号公報、特開平5−162261号公報、特開平5−182518号公報、特開平5−19115号公報、特開平5−196819号公報、特開平5−264811号公報、特開平5−281411号公報、特開平5−281417号公報、特開平5−281537号公報、特開平5−288921号公報、特開平5−288923号公報、特開平5−311119号公報、特開平5−339395号公報、特開平5−40204号公報、特開平5−45512号公報、特開平6−109922号公報、特開平6−123805号公報、特開平6−160626号公報、特開平6−214107号公報、特開平6−214108号公報、特開平6−214109号公報、特開平6−222209号公報、特開平6−222353号公報、特開平6−234175号公報、特開平6−235810号公報、特開平6−258520号公報、特開平6−264030号公報、特開平6−305270号公報、特開平6−331826号公報、特開平6−347641号公報、特開平6−75110号公報、特開平6−75111号公報、特開平6−82779号公報、特開平6−93133号公報、特開平7−104126号公報、特開平7−134212号公報、特開平7−181322号公報、特開平7−188383号公報、特開平7−230086号公報、特開平7−290652号公報、特開平7−294903号公報、特開平7−294904号公報、特開平7−294905号公報、特開平7−325219号公報、特開平7−56014号公報、特開平7−56017号公報、特開平7−92321号公報、特開平8−122525号公報、特開平8−146220号公報、特開平8−171016号公報、特開平8−188661号公報、特開平8−21999号公報、特開平8−240712号公報、特開平8−25575号公報、特開平8−286179号公報、特開平8−292322号公報、特開平8−297211号公報、特開平8−304624号公報、特開平8−313881号公報、特開平8−43812号公報、特開平8−62419号公報、特開平8−62422号公報、特開平8−76112号公報、特開平8−94834号公報、特開平9−137143号公報、特開平9−197127号公報、特開平9−251110号公報、特開平9−258023号公報、特開平9−269413号公報、特開平9−269414号公報、特開平9−281483号公報、特開平9−288212号公報、特開平9−288213号公報、特開平9−292525号公報、特開平9−292526号公報、特開平9−294959号公報、特開平9−318817号公報、特開平9−80233号公報、特開平10−10320号公報、特開平10−104428号公報、特開平10−111403号公報、特開平10−111507号公報、特開平10−123302号公報、特開平10−123322号公報、特開平10−123323号公報、特開平10−176118号公報、特開平10−186133号公報、特開平10−264322号公報、特開平10−268133号公報、特開平10−268134号公報、特開平10−319408号公報、特開平10−332933号公報、特開平10−39137号公報、特開平10−39140号公報、特開平10−68821号公報、特開平10−68824号公報、特開平10−90517号公報、特開平11−116903号公報、特開平11−181131号公報、特開平11−211901号公報、特開平11−211914号公報、特開平11−242119号公報、特開平11−246693号公報、特開平11−246694号公報、特開平11−256117号公報、特開平11−258425号公報、特開平11−263861号公報、特開平11−287902号公報、特開平11−295525号公報、特開平11−295527号公報、特開平11−302423号公報、特開平11−309830号公報、特開平11−323552号公報、特開平11−335641号公報、特開平11−344700号公報、特開平11−349947号公報、特開平11−95011号公報、特開平11−95030号公報、特開平11−95208号公報、特開2000−109780号公報、特開2000−110070号公報、特開2000−119657号公報、特開2000−141556号公報、特開2000−147208号公報、特開2000−17099号公報、特開2000−171603号公報、特開2000−171618号公報、特開2000−180615号公報、特開2000−187102号公報、特開2000−187106号公報、特開2000−191819号公報、特開2000−191821号公報、特開2000−193804号公報、特開2000−204189号公報、特開2000−206306号公報、特開2000−214323号公報、特開2000−214329号公報、特開2000−230159号公報、特開2000−235107号公報、特開2000−241626号公報、特開2000−250038号公報、特開2000−267095号公報、特開2000−284122号公報、特開2000−304927号公報、特開2000−304928号公報、特開2000−304929号公報、特開2000−309195号公報、特開2000−309196号公報、特開2000−309198号公報、特開2000−309642号公報、特開2000−310704号公報、特開2000−310708号公報、特開2000−310709号公報、特開2000−310710号公報、特開2000−310711号公報、特開2000−310712号公報、特開2000−310713号公報、特開2000−310714号公報、特開2000−310715号公報、特開2000−310716号公報、特開2000−310717号公報、特開2000−321560号公報、特開2000−321567号公報、特開2000−338309号公報、特開2000−338329号公報、特開2000−344905号公報、特開2000−347016号公報、特開2000−347017号公報、特開2000−347026号公報、特開2000−347027号公報、特開2000−347029号公報、特開2000−347030号公報、特開2000−347031号公報、特開2000−347032号公報、特開2000−347033号公報、特開2000−347034号公報、特開2000−347035号公報、特開2000−347037号公報、特開2000−347038号公報、特開2000−86989号公報、特開2000−98392号公報、特開2001−100012号公報、特開2001−108805号公報、特開2001−108806号公報、特開2001−133627号公報、特開2001−133628号公報、特開2001−142062号公報、特開2001−142072号公報、特開2001−174630号公報、特開2001−174634号公報、特開2001−174637号公報、特開2001−179902号公報、特開2001−183526号公報、特開2001−188103号公報、特開2001−188124号公報、特開2001−188125号公報、特開2001−188225号公報、特開2001−188231号公報、特開2001−194505号公報、特開2001−228311号公報、特開2001−228333号公報、特開2001−242461号公報、特開2001−242546号公報、特開2001−247834号公報、特開2001−26061号公報、特開2001−264517号公報、特開2001−272535号公報、特開2001−278924号公報、特開2001−2797号公報、特開2001−287308号公報、特開2001−305345号公報、特開2001−311827号公報、特開2001−350005号公報、特開2001−356207号公報、特開2001−356213号公報、特開2001−42122号公報、特開2001−42323号公報、特開2001−42325号公報、特開2001−4819号公報、特開2001−4829号公報、特開2001−4830号公報、特開2001−4831号公報、特開2001−4832号公報、特開2001−4834号公報、特開2001−4835号公報、特開2001−4836号公報、特開2001−4838号公報、特開2001−4839号公報、特開2001−51118号公報、特開2001−51119号公報、特開2001−51120号公報、特開2001−51273号公報、特開2001−51274号公報、特開2001−55573号公報、特開2001−66431号公報、特開2001−66597号公報、特開2001−74920号公報、特開2001−81469号公報、特開2001−83329号公報、特開2001−83515号公報、特開2002−162628号公報、特開2002−169024号公報、特開2002−189421号公報、特開2002−201367号公報、特開2002−20410号公報、特開2002−258046号公報、特開2002−275391号公報、特開2002−294174号公報、特開2002−311214号公報、特開2002−311246号公報、特開2002−328233号公報、特開2002−338703号公報、特開2002−363266号公報、特開2002−365164号公報、特開2002−370303号公報、特開2002−40209号公報、特開2002−48917号公報、特開2002−6109号公報、特開2002−71950号公報、特開2003−105540号公報、特開2003−114331号公報、特開2003−131036号公報、特開2003−139952号公報、特開2003−172819号公報、特開2003−35819号公報、特開2003−43252号公報、特開2003−50318号公報、特開2003−96066号公報、特開2006−45501号公報、特開2006−45502号公報、特開2006−45499号公報、特開2006−45500号公報、特開2006−182008号公報、特開2006−241433号公報、特開2006−348123号公報、特開2005−325258、特開2006−2026、特開2006−2025、特開2006−183005号公報、特開2006−183004号公報、特開2006−143873号公報、特開2006−257204号公報、特開2006−205472号公報、特開2006−241428号公報、特開2006−251746号公報、特開2007−1198号公報、特開2007−1238号公報、国際公開WO2005/103122号公報、特開2006−176736号公報、特開2006−243688号公報、特開2006−327105号公報、特開2006−124642号公報、特開2006−205708号公報、特開2006−341443号公報、特開2006−199913号公報、特開2006−335050号公報、特開2007−8154号公報、特開2006−334840号公報、特開2006−341450号公報、特開2006−327162号公報、特開2006−341510号公報、特開2006−327161号公報、特開2006−327107号公報、特開2006−327160号公報、特開2006−328316号公報、特開2006−334839号公報、特開2007−8151号公報、特開2007−1286号公報、特開2006−327106号公報、特開2006−334841号公報、特開2006−334842号公報、特開2005−330411号公報、特開2006−116945号公報、特開2005−301225号公報、特開2007−1287号公報、特開2006−348268号公報、国際公開WO2006/132367号パンフレット、
特開2005−178194号公報、特開2006−336004号公報、特開2006−249418号公報、特開2007−2216号公報、特開2006−28345号公報、特開2006−215535号公報、特開2006−28387号公報、特開2007−2215号公報、特開2006−343479号公報、特開2006−263992号公報、特開2000−352620号公報、特開2005−088578号公報、特開2005−300978号公報、特開2005−342929号公報、特開2006−021459号公報、特開2006−030425号公報、特開2006−036840号公報、特開2006−045306号公報、特開2006−045307号公報、特開2006−058825号公報、特開2006−063169号公報、特開2006−77067号公報、特開2006−77113号公報、特開2006−82261号公報、特開2006−91035号公報、特開2006−91078号公報、特開2006−104374号公報、特開2006−106247号公報、特開2006−111796号公報、特開2006−111797号公報、特開2006−113175号公報、特開2006−113551号公報、特開2006−113567号公報、特開2006−116904号公報、特開2006−117714号公報、特開2006−119182号公報、特開2006−119183号公報、特開2006−123513号公報、特開2006−123177号公報、特開2006−124629号公報、特開2006−137821号公報、特開2006−142800号公報、特開2006−163033号公報、特開2006−163034号公報、特開2006−171404号公報、特開2006−178020号公報、特開2006−182020号公報、特開2006−182865号公報、特開2006−188663号公報、特開2006−195407号公報、特開2006−208934号公報、特開2006−219615号公報、特開2006−220814号公報、特開2006−224589号公報、特開2006−249221号公報、特開2006−256082号公報、特開2006−272616号公報、特開2006−290929号公報、特開2006−293201号公報、特開2006−301500号公報、特開2006−301592号公報。
【0211】
《測定方法および評価方法》
以下において、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂フィルム、それらを用いた製造物の測定方法と評価方法ついて記載する。本出願に記載される測定値は、以下に記載される方法により測定されたものである。なお、本発明のフィルム物性の測定はフィルムの長手製膜方向において、その代表部位として製膜巻取り時点から5mの部位、全長の1/4の部位、全長の1/2の部位、全長の3/4の部位、および巻き最終端から5mの部位について、下記の物性測定項目に所要のサンプルサイズに応じて、それぞれ5箇所サンプリングし、下記の物性測定を行った。
【0212】
(1)厚みと厚みバラツキ
(1−1)厚み
前記5箇所の幅方向中央、中央から全幅の35%ずつ離れた左右両点において、幅35mm×長さ1mのサンプルを切り出し、連続厚み計(安立電気(株)製電子マイクロメー
タ)を用い600mm/分で測定し、各測定値の平均値を長手製膜方向MDの厚みとして求める。 前記5箇所の全幅方向に幅35mm×長さ全幅のサンプルを切り出し、連続厚み計(安立電気(株)製電子マイクロメータ)を用い600mm/分で測定し、各測定値の平均値を幅方向TDの厚みとする。
後述の実施例では、前記得られたMDおよびTD方向の厚みを算術平均し、フィルムの厚みとして記載した。
【0213】
(1−2)長手方向(MD)の厚みバラツキ
幅方向中央、中央から全幅の35%ずつ離れた左右両点において、幅35mm×長さ1mサンプリングし、連続厚み計(安立電気(株)製電子マイクロメータ)を用い600mm/分で測定し、最大点と最小点との差をMD方向の厚みバラツキとした。
【0214】
(1−3)幅方向(TD)の厚みバラツキ
全幅方向に幅35mm×長さ全幅のサンプルを切り出し、連続厚み計(安立電気(株)
製電子マイクロメータ)を用い600mm/分で測定し、最大点と最小点との差をTD方
向の厚みバラツキとした。
【0215】
(2)表面粗さRa
フィルムの幅方向(TD)および長手方向(MD)にサンプリングし、小坂研究所製の三次元表面粗さ計SEF−3500を用い、JIS B0601−1982に準拠して中心線平均粗さRaを測定し、その10箇所の測定値の平均値をRaとして求めた。また、フィルムおもて面と反対側面の表面粗さは前記と同様に測定算出し、その両面粗さRaの比を求めた。
測定条件は以下の通りである。
触針先端半径:2μm
触針荷重 :0.07g
触針速度 :20μm/分
測定長 :100mm
【0216】
(2)残存溶媒率
サンプルフィルム300mgを酢酸メチル30mlに溶解したもの(サンプルA)、およびジクロロメタン30mlに溶解したもの(サンプルB)を作製する。
次いで、これらをガスクロマトグラフィー(GC)を用い、下記条件で測定する。
カラム:DB−WAX(0.25mmφ×30m、膜厚0.25μm)
カラム温度:50℃
キャリアーガス:窒素
分析時間:15分間
サンプル注入量:1μml
下記方法で溶剤量を求めることができる。
サンプルAで溶剤(酢酸メチル)以外の各ピークについて検量線を用い含率を求め、その総和をSaとする。サンプルBで、サンプルAにおいて溶剤ピークで隠れていた領域の各ピークについて検量線を用い含率を求め、その総和をSbとし、SaとSbとの和を残留溶剤量とする。
【0217】
(3)Re、Rthの測定法
(3−1)Re、Rthの測定
本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法にしたがって求めたものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において
、532nmの固体レーザーを用いて下記式(a)で表される平均屈折率(n)を求める。
式(a): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
【0218】
Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0219】
なお、本明細書において、λに関する記載が特になく、Re、Rthとのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(b)および式(c)よりRthを算出することもできる。
【0220】
【数1】

[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレタ−デーション値をあらわす。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表す。]
【0221】
式(c): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
【0222】
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフイルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0223】
これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0224】
(3−2)Re,Rthの湿度変動
サンプルフィルムを温度25℃、湿度10%RHおよび温度25℃、湿度80%RHの環境に3時間以上調湿後、それぞれ25℃、10%RHおよび25℃80%RHにおいて前記と同様にRe、Rthを測定し、得られた数値により、|Re(10%)−Re(80%)|および|Rth(10%)−Rth(80%)|の差を求めることができる。
【0225】
(3−3)幅方向、長手方向におけるRe,Rthのバラツキ
フィルムの長手方向に0.5m間隔で50点、1cm正方形の大きさに切り出す。フィルムの製膜全幅にわたり、1cm正方形の大きさに50点、等間隔で切り出す。これらの、前記MD方向100点、TD方向50点の各最大値と最小値との差を、各平均値で割り、百分率で示したものをRe,Rth変動とする。
【0226】
(4)セルロースアシレートの置換度
アシル基の置換度は、ASTM D−817−91に準じた方法、セルロースアシレートを完全に加水分解し、遊離したカルボン酸またはその塩をガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーで定量する方法、1H−NMRあるいは13C−NMRに
よる方法などを単独または組み合わせることにより決定した。
【0227】
(5)セルロースアシレートの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)
樹脂をTHFに溶解し0.5質量%のサンプル溶液を調製する。これを、GPCを用いて下記の条件下で測定し、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めることができる。なお、検量線はポリスチレン(TSK標準ポリスレン:分子量1050、5970、18100、37900、190000、706000)を用いて作製した。Mw、Mnを前記方法で決定した置換度から求めた1セグメントあたりの分子量で割った値をDPwとDPnとした。
カラム:TSK GEL Super HZ4000、TSK GEL Super HZ2000、
TSK GEL Super HZM-M、TSK Guard Column Super HZ-L、
カラム温度:40℃
溶離液:THF
流量:1ml/分
検出器:RI
【0228】
(6)セルロースアシレートのTg
セルロースアシレートペレット10〜20mgを秤量しサンプルパンに入れる。DSC(走査型示差熱量計)を用いて、窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却する。この後、再度10℃/分で30℃から250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとする。
【0229】
(7)溶融粘度η
プレート型レオメーター(例えばPhysica社製 MCR301型)を用い、下記条件でセルロースアシレートペレットの溶融粘度を測定する。
測定温度:240℃
プレート:25mmφ平行板
ギャップ:1mm
剪断速度:1sec-1
【0230】
(8)ヘイズ
日本電色工業(株)製、濁度計 NDH−1001DPを用いて測定することができる。
【0231】
(9)ダイスジ
セルロースアシレートフィルムの長さ方向について、その代表部位として製膜巻取り時点から5mの部位、全長の1/4の部位、全長の1/2の部位、全長の3/4の部位、および巻き最終端から5mの部位について、スジ状に発生するダイスジの評価を目視観察し総合評価する。評価基準は、以下のとおりとした。
A: ダイスジは見られなかった。
B: ダイスジが微かに見られた。
C: ダイスジがはっきりと認められた。
D: ダイスジが全面に著しく発生した。
【0232】
(10)段ムラ
セルロースアシレートフィルムの長さ方向について、その代表部位として製膜巻取り時点から5mの部位、全長の1/4の部位、全長の1/2の部位、全長の3/4の部位、および巻き最終端から5mの部位について、その流延方向に対して直角な方向(幅方向)にスジ状に発生する段状ムラを目視観察し総合評価した。評価基準は、以下のとおりとした。
A: 段ムラは全く認められなかった。
B: 段ムラがわずかに認められた。
C: 段ムラがかなり認められた。
D: 段ムラが著しく認められた。
【0233】
(11)異物検査
セルロースアシレートフィルムの長さ方向について、その代表部位として製膜巻取り時点から5mの部位、全長の1/4の部位、全長の1/2の部位、全長の3/4の部位、および巻き最終端から5mの部位について、セルロースアシレートフィルム各部位の全幅×1mの範囲に反射光をあて、膜中異物を目視にて検出した後、偏光顕微鏡で異物(フィッシュアイ、リントなど)を確認してその平均状態を評価した。なお、面状検査機で異常部が認められる場合はその部位も追加して目視観察し総合評価した。評価基準は、以下のとおりとした。
A: 異物は見られなかった。
B: 異物が微かに見られた。
C: 異物がはっきりと認められた。
D: 異物が全面に著しく発生した。
【0234】
(12)弾性タッチロール、または金属ベルトとキャスト冷却ロールとの接触距離Q
タッチ接触距離Qを測定する方法としては、あらかじめ、使用する弾性ロールまたは金属ベルトとキャスト冷却ロールの間に富士フィルム(株)製のプレスケール(中圧用)を介してシリンダー圧を30秒間かけ、その後、シリンダー圧を解放した際に得られるプレスケールの発色幅を測り、これを接触距離Qとした。シリンダー圧を変え、製膜所要な接触距離Qを制御することができる。
(13)キャスト冷却ロールとのタッチ接触角度θ
前記測定されたタッチ接触距離Qと、金属キャスト冷却ロールの直径Rを用いて、下式でキャスト冷却ロールとのタッチ接触角度θを算出することができる。
タッチ接触角度θ=タッチ接触距離Q ×(360/πR) (単位:°)
【実施例】
【0235】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0236】
[合成例1]
セルロースアセテートプロピオネートの合成(CAP1)
攪拌装置および冷却装置を付けた反応容器に、セルロース(リンター)80質量部、酢酸33質量部を取り、60℃で4時間処理してセルロースを活性化した。無水酢酸33質量部、プロピオン酸518質量部、プロピオン酸無水物536質量部、硫酸4質量部を混合し、−20℃に冷却してから反応容器に添加した。
【0237】
反応の最高温度が35℃になるようにエステル化を実施し、反応液の粘度が840cP(0.84Pa・s)となった時点を反応の終点とした。終点での反応混合物の温度は15℃になるように調節した。水133質量部、酢酸133質量部の混合物を−5℃に冷却した反応停止剤を、反応混合物の温度が23℃を超えないように添加した。
【0238】
反応混合物の温度を60℃とし、2時間攪拌して部分加水分解を行った。反応液を、保留粒子サイズ40μm、10μm、3μmの各金属焼結フィルターにて順に加圧ろ過して異物を除去した。酢酸水溶液と混合することにより得られた高分子化合物の再沈殿を実施し、70〜80℃の温水での洗浄を繰り返した。脱液の後、0.001質量%の水酸化カルシウム水溶液に浸漬し、30分攪拌を行った後に再度脱液を行った。70℃で乾燥を行い、セルロースアセテートプロピオネートを得た。
【0239】
得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル置換度0.42、プロピオニル置換度2.40、全アシル置換度2.82、数平均分子量50200(数平均重合度DPn=159)、重量平均分子量125900(重量平均重合度DPw=398)、残存硫酸量85ppm、ナトリウム含有量1ppm、マグネシウム含有量2ppm、カルシウム含有量39ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、不溶解物はほとんど認められなかった。本試料の熔融粘度は240℃における溶融粘度が675Pa・sであった。
【0240】
[合成例2]
セルロースアセテートブチレートの合成(CAB1)
攪拌装置および冷却装置を付けた反応容器に、セルロース(木材パルプ)200質量部、酢酸100質量部を取り、60℃で4時間処理することによりセルロースを活性化した。酢酸161質量部、無水酢酸449質量部、酪酸742質量部、酪酸無水物1349質量部、硫酸14質量部を混合し、−20℃に冷却してから反応容器に添加した。
【0241】
反応の最高温度が30℃になるようにエステル化を実施し、反応液の粘度が1050cP(1.05Pa・s)となった時点を反応の終点とした。終点での反応混合物の温度は10℃になるように調節した。水297質量部、酢酸558質量部の混合物を−5℃に冷却した反応停止剤を、反応混合物の温度が23℃を超えないように添加した。
【0242】
反応混合物の温度を60℃とし、2時間30分攪拌して部分加水分解を行った。反応液を、保留粒子サイズ40μm、10μm、3μmの各金属焼結フィルターにて順に加圧ろ過して異物を除去した。酢酸水溶液と混合することにより得られた高分子化合物の再沈殿を実施し、70〜80℃の温水での洗浄を繰り返した。脱液の後、0.002質量%の水酸化カルシウム水溶液に浸漬し、30分攪拌を行った後に再度脱液を行った。70℃で乾燥を行い、セルロースアセテートブチレートを得た。
【0243】
得られたセルロースアセテートブチレートは、アセチル置換度1.51、ブチリル置換度1.19、全アシル置換度2.70、数平均分子量55600(数平均重合度DPn=181)、重量平均分子量139000(重量平均重合度DPw=451)、残存硫酸量122ppm、ナトリウム含有量1ppm、マグネシウム含有量3ppm、カルシウム含有量53ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、不溶解物はほとんど認められなかった。本試料の熔融粘度は240℃における溶融粘度が815Pa・sであった。
【0244】
[実施例1] 未延伸熱可塑性樹脂フィルムの製膜1
(1)セルロースアシレートの添加剤
下記の添加剤組成を用い、下記表1に記載した。各添加剤の添加量は樹脂100質量部に対し、使用する添加剤の質量部である。
【0245】
−組成1−
安定剤:スミライザーGP(住友化学工業(株)製) 0.2質量部
安定剤:アデカスタイプAO−80(旭電化工業(株)製) 0.15質量部
安定剤:アデカスタイプ2112(旭電化工業(株)製) 0.15質量部
紫外線吸収剤:アデカスタイプLA−31(旭電化工業(株)製) 1.1質量部
微粒子:平均一次粒子サイズが1.2μmのシリカ粒子(0.9〜1.5μmの質量存在比率が95%以上、1.5μm以上は1.0%以下である) 0.05質量部
【0246】
−組成2−
安定剤:アデカスタイプAO−60(旭電化工業(株)製) 0.2質量部
安定剤:アデカスタイプPEP36(旭電化工業(株)製) 0.2質量部
安定剤:アデカスタイプO−180A(旭電化工業(株)製) 1質量部
紫外線吸収剤:アデカスタイプLA−31(旭電化工業(株)製) 1.1質量部
微粒子:平均一次粒子サイズが1.2μmのシリカ粒子 0.05質量部
(0.9〜1.5μmの質量存在比率が95%以上、
1.5μm以上は1.0%以下である)
【0247】
−組成3−
安定剤:スミライザーGP(住友化学工業(株)製) 0.15質量部
安定剤:アデカスタイプAO−60(旭電化工業(株)製) 0.1質量部
安定剤:アデカスタイプPEP36(旭電化工業(株)製) 0.1質量部
可塑剤:アデカスタイプFP−700(旭電化工業(株)製) 4質量部
紫外線吸収剤:アデカスタイプLA−31(旭電化工業(株)製) 1.1質量部
微粒子:平均一次粒子サイズが1.2μmのシリカ粒子 0.05質量部
(0.9〜1.5μmの質量存在比率が95%以上、
1.5μm以上は1.0%以下である)
【0248】
−組成4−
安定剤:スミライザーGP(住友化学工業(株)製) 0.30質量部
紫外線吸収剤:アデカスタイプLA−31(旭電化工業(株)製) 1.0質量部
微粒子:平均一次粒子サイズが1.2μmのシリカ粒子 0.05質量部
(0.9〜1.5μmの質量存在比率が95%以上、
1.5μm以上は1.0%以下である)
【0249】
(3)セルロースアシレートのペレット化
前記合成例1に得られたCAP1を下記表1に記載の添加物をヘンシェルミキサー((株)三井三池製作所製)で撹拌・混合した後、100℃で含水率を0.1質量%以下乾燥した。均一に混合とした樹脂混合物を下記の押し出し機(工程はすべて、窒素気流で満たされている)を用いてペレット化した。すなわち、2軸混練押し出し機のホッパーにセルロースアシレート混合物を投入し、さらに180〜220℃でスクリュー回転数300rpm、滞留時間40秒で混練して融解し、平均孔径30μmの金属フィルター部とさらに連続する平均孔径20μmからなる金属フィルターからなるろ過部を通して、85℃の温水中に押し出しストランドとした後裁断し、直径3mm長さ5mmの円柱状のペレットを作製した。
【0250】
(4)セルロースアシレートの製膜
前記混練樹脂ペレットは90℃の脱湿風を用い、水分率を0.1質量%以下に乾燥した後、L/D=35、圧縮率3.5、スクリュー径が65mmのフルフライトスクリューを挿入した単軸押し出し機を用いて溶融製膜した。製膜温度は107℃になるように調整したホッパーにペレットを投入し、上流側溶融温度195℃、中間溶融温度230℃、下流側溶融温度235℃で溶融させた後、厚み精度をアップさせるために、ギアポンプを用いて一定量送り出した。ギアポンプから送り出された溶融ポリマーは異物除去のために濾過精度5μmのリーフディスクフィルターにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、230℃のハンガーコートダイから送り出され、表1に記載のキャスト製膜条件に従って製膜した。固化したシートをロール状に巻き取った。用いた金属キャスト冷却ロールは直径500mm、肉厚25mm、表面粗度Ra=20nmの金属ロールである。使用した金属製弾性タッチロールの直径が300mmで、薄肉金属外筒厚みは3mm、タッチ線圧は10kg/cmで製膜を行った。タッチ直前の膜状物の温度が放射線温度計を用いて測定した。なお、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。試料No.1−1〜No.1−16のフィルムを得た。
さらに、試料No.1−1〜No.16の製膜時用いた金属キャスト冷却ロールと金属製弾性タッチロールの代わりに、直径300mm、肉厚20mm、表面粗度Ra=20nmの金属キャスト冷却ロールと、直径180mm、薄肉金属外筒厚みは2.5mmの金属製弾性タッチロールを用いて、同様に溶融製膜し、試料No.1−17およびNo.1−18のフィルムを得た。
【0251】
(評価)
得られたフィルムの厚み、幅方向および長手方向の厚みバラツキ、両面の表面粗さRa、両面粗さの比、ReおよびRth、ReおよびRthの湿度変動、ダイスジ、段ムラを測定・評価し、その結果を下記表1に記載した。
【0252】
【表1】

【0253】
本発明の製造方法からなる本発明の試料No.1−1〜No.1−3、No.1−6〜No.1−8、No.1−11、No.1−13、No.1−17、No.1−18は、幅方向および長手方向の厚みバラツキ、両面の表面粗さRa、両面粗さの比、ダイスジ、段ムラは優れた特性であった。さらにヘイズが0.3%以内、ReムラおよびRthムラが5nm以下、透過率が91.8%以上、着色および異物が認められず、優れた特性であった。また、残存溶媒率を測定したところ、全て0%であることを確認した。
【0254】
一方、比較例No.1−4〜1−5では、本発明で規定するT1−Ttを満たさないため、得られたフィルムの厚みバラツキ、表面粗さ、両面の粗さ比、ダイスジ、段ムラが本発明と比べ、性能が劣るものであった。比較例No.1−9では、本発明で規定する接触距離Qを満たさないため、TDまたはMD方向の厚みバラツキが大きくなり、表面粗さRaも悪化傾向を示した。なお、参考例No.1−10は、タッチ接触角度θは上記式(3)を満たすものの、接触距離Qが大きすぎるために、TDまたはMD方向の厚みバラツキが大きくなり、表面粗さRaも悪化傾向を示した。比較例No.12および比較例No.1−14は、挟む直前の膜状物の温度がそれぞれ230℃および150℃であり、Tg+20℃〜Tg+90℃を満たしていないため、TDおよびMD方向の厚みバラツキ、Re,Rthの光学歪が残り、高い結果となってしまった。さらに、弾性タッチロールの表面材質としてシリコンゴムを使用した比較例1−15では、表面粗さRaが悪化傾向を確認した。比較例No.1−19は、本発明に規定する接触距離とタッチ接触角度を満たないため、TDまたはMD方向の厚みバラツキが大きくなり、表面粗さRaも悪化傾向を示した。さらに、タッチロールを使用しなかった比較例No.1−16では、厚みバラツキ、表面粗さ、両面の粗さ比、ダイスジ、段ムラが最も悪い結果となった。
【0255】
[実施例2] 未延伸熱可塑性樹脂フィルムの製膜2
実施例1で使用した金属製弾性タッチロールの代わりに、厚み0.3mmでベルト長さ500mmの図4記載の金属ベルトを用い、表2の設定条件に従って製膜を行った。それ以外の製膜条件は実施例1と全く同様にして本発明の試料No.2−1〜No.2−3を作製した。得られたフィルムの物性を評価した結果を下記表2に示す。試料No.2−1〜No.2−3は実施例1の本発明の試料と同等な優れた特性を有するものであった。
【0256】
[実施例3] 未延伸熱可塑性樹脂フィルムの製膜3
実施例1および実施例2のCAP1樹脂の代わりに、下記の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を用いた。
(1)飽和ノルボルネン系樹脂
(i) 飽和ノルボルネン系樹脂−A
6−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレンに、重合触媒としてトリエチルアルミニウムの15%シクロヘキサン溶液10部、トリエチルアミン5部、および四塩化チタンの20%シクロヘキサン溶液10部を添加して、シクロヘキサン中で開環重合し、得られた開環重合体をニッケル触媒で水素添加してポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をイソプロピルアルコール中で凝固させ、乾燥し、粉末状の樹脂を得た。この樹脂の数平均分子量は40,000、水素添加率は99.8%以上、Tgは139℃であった。
【0257】
(ii)飽和ノルボルネン樹脂−B
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12.5,17.10]−3−ドデセン(特定単量体B)100質量部と、5−(4−ビフェニルカルボニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(特定単量体A)150質量部と、1−ヘキセン(分子量調節剤)18部と、トルエン750質量部とを窒素置換した反応容器に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、重合触媒としてトリエチルアルミニウム(1.5モル/l)のトルエン溶液0.62質量部と、tert−ブタノールおよびメタノールで変性した六塩化タングステン(tert−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(濃度0.05モル/l)3.7質量部とを添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であり、得られた開環重合体について、30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度(ηinh)は0.65dl/gであった。
【0258】
このようにして得られた開環重合体溶液4,000質量部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C65330.48部を添加し、水素ガス圧100kg/cm2、反応温度165℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加重合体(特定の環状ポリオレフィン系樹脂)を得た。このようにして得られた水素添加重合体について400MHz、1H−NMRを用いてオレフィン性不飽和結合の水素添加率を測定したところ99.9%であった。GPC法(溶媒:テトラヒドロフラン)によりポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定したところ、数平均分子量(Mn)は39,000、重量平均分子量(Mw)は126,000、分子量分布(Mw/Mn)は3.23であった。また、Tgは110℃であった。
【0259】
(iii)飽和ノルボルネン樹脂−C
特開2005−330465号公報の実施例2に記載の飽和ノルボルネン化合物(Tg=127℃)
(iv)飽和ノルボルネン樹脂−D
特表平8−507800号公報の実施例1に記載の飽和ノルボルネン化合物(Tg=181℃)
(v)飽和ノルボルネン樹脂−E
三井化学(株)製APL6015T(Tg=145℃)
(vi)飽和ノルボルネン樹脂−F
ポリプラスチックス(株)製TOPAS6013(Tg=140℃)
(vii)飽和ノルボルネン樹脂−G
特許第3693803号公報の実施例1に記載の飽和ノルボルネン化合物
【0260】
(2)飽和ノルボルネン系樹脂のペレット化
前記飽和ノルボルネン樹脂に前述の添加剤組成4を添加し、窒素雰囲気下220℃〜240℃の温度で、実施例1と同様に直径3mm長さ5mmの円柱状のペレットを作製した。
【0261】
(3)飽和ノルボルネン系樹脂の製膜
110℃の真空乾燥機で乾燥し、含水率を0.1質量%以下とした後、L/D=35、圧縮率3.5、スクリュー径が65mmのフルフライトスクリューを挿入した単軸押し出し機を用いて溶融製膜した。製膜温度は130℃になるように調整したホッパーにペレットを投入し、上流側溶融温度210℃、中間溶融温度240℃、下流側溶融温度260℃で溶融させた後、厚み精度をアップさせるために、ギアポンプを用いて一定量送り出した。ギアポンプから送り出された溶融ポリマーは異物除去のために濾過精度5μmのリーフディスクフィルターにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、265℃のハンガーコートダイから送り出され、表2に記載のキャスト製膜条件に従って製膜した。それ以外の製膜条件は実施例2と全く同様にして本発明の試料No.3−1〜No.3−9を作製した。得たフィルムの物性を評価し結果を下記表2に示す。 尚、本発明の試料No.3−1〜No.3−3は飽和ノルボル樹脂−A原料を用いて製膜したフィルムである。本発明の試料No.3−4〜No.3−9はそれぞれ飽和ノルボル樹脂−B〜飽和ノルボル樹脂−G原料を用いて製膜したフィルムである。本発明の試料No.3−1〜No.3−9は、実施例1の本発明の試料と同等な優れた特性を有するものであった。
【0262】
【表2】

【0263】
[実施例4] 未延伸熱可塑性樹脂フィルムの製膜4
実施例1および実施例2のCAP1樹脂の代わりに、下記のアシル基の種類、置換度、重合度の異なる熱可塑性セルロースアシレート樹脂を用いた。
【0264】
前記セルロースアシレートの合成例1、2の方法に準じて、アシル化剤の組成、アシル化の反応温度および時間、部分加水分解の温度および時間を変化させることにより、下記表2の記載のセルロースアシレートを合成した。目的とするアシル置換度に応じて、セルロースにアシル化剤(酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、プロピオン酸無水物、酪酸、酪酸無水物から単独または複数を組み合わせて選択される)、ならびに触媒としての硫酸を混合し、反応温度を40℃以下に保ちながらアシル化を実施した。原料となるセルロースが消失してアシル化が完了した後、さらに40℃以下で加熱を続けて、所望の重合度に調整した。酢酸水溶液を添加して残存する酸無水物を加水分解した後、60℃以下で加熱を行うことで部分加水分解を行い、所望の全置換度に調整した。残存する硫酸を過剰量の酢酸マグネシウムにより中和した。酢酸水溶液から再沈殿を行い、さらに、水での洗浄を繰り返すことにより、表3に記載のアシル基の種類、置換度、重合度の異なるセルロースアシレートを得た。
【0265】
また、置換もしくは無置換の芳香族アシル基を結合したセルロースアシレートとして、特開2002−32201号公報の実施例1に準じて安息香酸と酢酸でエステル化したセルロースアシレートを合成した。但し原料のセルロースアシレートを2.45置換、2.20置換のセルロースアセテートを用いた。この結果、酢酸置換度=2.45、安息香酸置換度=0.55、数平均分子量が3.8万の芳香族アシル基置換セルロースアシレートを得た(本発明試料No.4−14)。また、酢酸置換度=2.20、安息香酸置換度=0.80、数平均分子量が4.1万の芳香族アシル基置換セルロースアシレートを得た(本発明試料No.4−15)。
さらに、上述の方法に従い、アセチル置換度=1.8、プロピオニル置換度=0.8、数平均分子量が6.0万のセルロースアセテートプロピオネートを合成し、これに特開2006−195407号公報の実施例に記載の可塑剤10質量%を添加した(本発明試料No.4−16)。
【0266】
得られた各セルロースアシレート樹脂を実施例1と同様にペレット化した後、実施例1の本発明試料No.1−1の製膜条件を準じて、溶融製膜を行った。なお、使用される金属製弾性タッチロールの温度はTg−10℃、キャストロールのTg−5℃であった。それ以外の製膜条件は実施例1の本発明試料No.1−1と同様にして本発明の試料No.4−1〜No.4−16を作製した。得られたフィルムの物性を評価し下記表3に示す。結果、実施例1の本発明の試料と同等な優れた特性を有するものであった。
【0267】
[実施例5] 未延伸熱可塑性樹脂フィルムの製膜5
実施例1および実施例2のCAP1樹脂の代わりに、下記のアシル基の種類、置換度、重合度の異なる熱可塑性セルロースアシレート樹脂を用いた。
【0268】
セルロース(広葉樹パルプ)10質量部に、酢酸0.1質量部、プロピオン酸2.7質量部を噴霧した後、1時間室温で保存した。別途、無水酢酸1.2質量部、プロピオン酸無水物61質量部、硫酸0.7質量部の混合物を調製し、−10℃に冷却後に、前記前処理を行ったセルロースと反応容器内で混合した。30分経過後、外設温度を30℃まで上昇させ、4時間反応させた。反応容器に25%含水酢酸46質量部を添加し、内温を60℃に上昇させて、2時間攪拌した。酢酸マグネシウム4水和物と酢酸と水とを等重量ずつ混合した溶液を6.2質量部添加し、30分間攪拌した。反応液を、保留粒子サイズ40μm、10μm、3μmの各金属焼結フィルターにて順に加圧ろ過して異物を除去した。75%含水酢酸に濾過後の反応液を混合してセルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた後、70℃の温水にて、洗浄液のpHが6〜7になるまで洗浄を行った。さらに、0.001%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌する処理を行った後に濾過した。得られたセルロースアセテートプロピオネートを70℃で乾燥した。1H−NMRの測定
から、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル置換度0.15、プロピオニル置換度2.62、全アシル置換度2.77、数平均分子量54500(数平均重合度DPn=173)、質量平均分子量132000(質量平均重合度DPw=419)、残存硫酸量45ppm、マグネシウム含有量8ppm、カルシウム含有量46ppm、ナトリウム含有量1ppm、カリウム含有量1ppm、鉄含有量2ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、偏光子を直交させた場合も平行にした場合も、異物は認められなかった。Tgは130℃であった。
さらに、上記無水酢酸、プロピオン酸無水物の仕込み量を変えることで、アセチル置換度0.51、プロピオニル置換度2.33、重量平均分子量136000(質量平均重合度DPw=432)、数平均分子量50300(数平均重合度DPw=160)のセルロースアセテートプロピオネートを得た。残存硫酸量32ppm、マグネシウム含有量11ppm、カルシウム含有量52ppm、ナトリウム含有量2ppm、カリウム含有量2ppm、鉄含有量1ppmであった。本試料のジクロロメタン溶液からキャストしたフィルムを偏光顕微鏡で観察した結果、偏光子を直交させた場合も平行にした場合も、異物は認められなかった。Tgは137℃であった。本試料の熔融粘度は240℃における溶融粘度が1015Pa・sであった。
【0269】
得られた上記セルロースアシレート樹脂を実施例1と同様にペレット化した後、実施例1の本発明試料No.1−1の製膜条件に準じて、溶融製膜を行った。なお、使用される金属製弾性タッチロールの温度はTg−10℃、キャストロールのTg−5℃であった。それ以外の製膜条件は実施例1の本発明試料No.1−1と全く同様にして本発明の試料No.5−1とNo.5−2を作製した。また、金属ベルトを用いた実施例2の本発明試料No.2−1の製膜条件と全く同様にして、本発明の試料No.5−3とNo.5−4を作製した。得られたフィルムの物性を評価し下記表3に示す。結果、実施例1の本発明の試料と同等な優れた特性を有するものであることが確認された。
【0270】
【表3】

【0271】
[実施例6] 延伸熱可塑性樹脂フィルムの製膜
未延伸の本発明試料No.2−1、No.1−1、No.3−1、No.3−8、No.4−14、No.4−15、No.4−16の未延伸フィルムを、下記表4に示す縦および横の延伸倍率で、Tg+10℃にて300%/分で下記倍率に延伸した(縦延伸、横延伸とも同条件)。得られた各延伸フィルムの特性を表4に示した。ここでいう延伸倍率は、下記式で定義される。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)
【0272】
なお、上記表中の幅方向、長手方向のRe、Rth変動(ばらつき)、配向角は以下の方法で測定した。
(1)MD方向(長手方向)サンプリングは、長手方向に0.5m間隔で100点、1cm角の大きさに切り出した。TD方向(幅方向)サンプリングは、製膜全幅にわたり1cm角の大きさに50点、等間隔で切り出した。
(2)ReおよびRthは上記方法に従い測定した。配向角は上記測定を行う際にサンプルフィルムのMD辺をサンプルホルダーの測定器挿入方向と平行にセットし測定することで求めることができる。
(3)ReおよびRth変動は、上記MD方向100点、TD方向50点の各最大値と最小値の差を、各平均値で割り、百分率で示したものをRe、Rth変動とした。配向角については、上記各点の絶対値の最大値と最小値の差を示した。
【0273】
また、表4に記載の熱寸法変化率は、下記の方法で測定した。
(1)サンプルをMDおよびTD方向に5cm×25cmに裁断し、20cm間隔の孔をあける。
(2)これを25℃、60%相対湿度で2時間調湿後、この環境下でピンゲージを用い2つの孔の間を測長する(これをL1とする)。
(3)サンプルを80℃の空気恒温槽に5時間入れる。
(4)これを取り出し25℃、60%相対湿度中に3時間調湿後、この環境下でピンゲージを用い2つの孔の間を測長する(これをL2とする)。
(5)100×(L1−L2)/L1を寸法変化率(%)とする。
【0274】
【表4】

【0275】
[実施例7] 偏光板の作製
(1)セルロースアシレートフィルムの鹸化
前記長期経時した未延伸セルロースアシレートフィルム、延伸セルロースアシレートフィルムに対して下記の手順で浸漬鹸化を行った。下記の手順で塗布鹸化を行った場合も同様の結果が得られた。
【0276】
(1−1)浸漬鹸化
鹸化液として60℃に調温した2.0mol/LのNaOH水溶液を用いて、その中にセルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0277】
(1−2)塗布鹸化
イソプロパノール20質量部に水80質量部を加え、これにKOHを2.0mol/Lとなるように溶解し、60℃に調温したものを鹸化液として用いた。この鹸化液を60℃のセルロースアシレートフィルム上に10g/m2で塗布し、1分間鹸化した。この後、
50℃の温水を10L/m2・分で1分間スプレーして洗浄した。
【0278】
(2)偏光子の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し厚み20μmの偏光子を調製した。
【0279】
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光子と、前記鹸化処理した未延伸および延伸セルロースアシレートフィルムならびに鹸化処理した未延伸トリアセテートフィルム(富士写真フイルム(株)製、フジタック)を、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3質量%水溶液を接着剤として、偏光子の延伸方向とセルロースアシレートとの製膜流れ方向(長手方法)に下記組み合わせで張り合わせ、偏光板を得た。また、本発明のノルボルネン系フィルムは表面の水との接触角が60°になるように、フィルム表面にコロナ処理を行った。アクリル系粘着剤を用い、偏光板D、Eを得た。
偏光板A:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/フジタック(TD80UL)
偏光板B:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロースアシレートフィルム
偏光板C:未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/延伸セルロースアシレートフィルム
偏光板D:未延伸ノルボルネン系フィルム/偏光膜/フジタック(TD80UL)
偏光板E:延伸ノルボルネン系フィルム/偏光膜/フジタック(TD80UL)
【0280】
また、得られた偏光板A〜Eを特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置に、25℃・相対湿度60%下で取り付けた後、これを25℃・相対湿度10%および80%の環境中に持ち込み、目視でLCD表示視認性を下記の基準に従い評価した。結果は前記表1〜3に記載した。
【0281】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に従い、実施したものは良好な性能が得られた。一方、本発明の範囲外のものはLCDでの視認性は劣った。
視認性の評価基準は、以下の通りとした。
A: 黒表示した時に発生するダイスジや画像ボケや歪みは見られなかった。
B: 黒表示した時に発生するダイスジや画像ボケや歪みが微かに見られた。
C: 黒表示した時に発生するダイスジや画像ボケや歪みがはっきりと認められた。
D: 黒表示した時に発生するダイスジや画像ボケや歪みが全面に著しく発生した。
【0282】
[実施例8] 光学補償フィルムの作製
(1)未延伸フィルム
特開平11−316378号公報の実施例1の第1透明支持体に、本発明の未延伸セルロースアシレートフィルムを使用したところ、良好な光学補償フィルムを作製であった。
【0283】
(2)延伸セルロースアシレートフィルム
特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明の延伸セルロースアシレートフィルムを使用したところ、良好な光学補償フィルムを作製できた。また、特開平7−333433号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明の延伸セルロースアシレートフィルムを用いて光学補償フィルターフィルムを作製したところ、良好な光学補償フィルムを作製できた。
【0284】
[実施例9] 低反射フィルムの作製
本発明の熱可塑性樹脂フィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従い、本発明の延伸セルロースアシレートフィルム、未延伸セルロースアシレートフィルムを用いて低反射フィルムを作製したところ、良好な光学性能が得られた。
【0285】
[実施例10] 液晶表示素子の作製
前記本発明の偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置に用いた。さらに、本発明の低反射フィルムをこれらの液晶表示装置の最表層に貼り目視評価を行ったところ、良好な視認性能が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0286】
本発明によれば、厚み精度およびフィルム表面性がより一層高められた熱可塑性樹脂フィルムを製造することができる。したがって、厚み精度が高く、フィルム表面粗さRaが極小、凸凹スジ故障がなく、且つ光学歪みが抑制されてレターデーション(ReおよびRth)が小さく、生産性に優れた透明熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。このため、液晶表示装置に組み込んだ時発生する表示ボケおよび画像の歪みを解消できる。
このように、本発明の熱可塑性樹脂フィルムは、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムとして極めて有用である。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0287】
【図1】ポリシング金属弾性タッチロールを用いた熱可塑性樹脂フィルムの製造装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【図2】張設状態で走行可能な無端状のポリシング金属ベルトを用いた熱可塑性樹脂フィルムの製造装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【図3】ポリシング金属製の弾性タッチロールを用いた製膜工程部14の断面図である。
【図4】張設状態で走行可能な無端状のポリシング金属ベルトを用いた製膜工程部14の断面図である。
【図5】長スパン延伸を行う場合の熱可塑性樹脂フィルムを製造するフィルム製造装置の概略構成図を示す。
【図6】図5の縦延伸部の斜視説明図を示す。
【図7】短スパン延伸を行う場合の熱可塑性樹脂フィルムを製造するフィルム製造装置の概略構成図を示す。
【図8】図7の縦延伸部の斜視説明図を示す。
【図9】熱固定を行わない製造方法によって発生するボーイングの説明図である。
【図10】熱固定による、ボーイングの発生の抑制を示す説明図である。
【符号の説明】
【0288】
10 フィルム製造装置
12 熱可塑性樹脂フィルム
14 製膜工程部
17 パスロール
20 巻取工程部
22 押出機
24 ダイ
26A 金属弾性タッチロール
26B 金属ベルト
28 キャスト冷却ロール
44 外筒
46 液状媒体層
48 弾性体層(内筒)
50 金属シャフト
52、54、56 ロール
P 押圧点
Q 接触距離
θ 接触角度
Y ライン速度
Z 外筒肉厚
10、10a フィルム製造装置
13 乾燥機
15 押出機
16 ギアポンプ
18 フィルタ
21 ダイ
25 タッチロール
27 タッチロール
29 キャストドラム
30、30a 縦延伸部
32 入口側ニップロール
33 予熱ロール
34 出口側ニップローラ
35 予熱ロール
36 予熱部
37 ニップロール
39 ニップロール
42 横延伸部
45 熱固定部
47 巻取部
Fa 未延伸フィルム
Fb 縦延伸フィルム
F 熱可塑性樹脂フィルム
Lb 曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイから溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂を、金属押圧体と金属製のキャスト冷却ロールとで挟んで冷却固化する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記金属押圧体と前記キャスト冷却ロールとに挟まれる直前での前記膜状の熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃〜Tg+90℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)であり、且つ、前記金属押圧体の表面温度(Tt)と前記キャスト冷却ロールの表面温度(T1)との差が下記式(1)を、前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qが下記式(2)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
式(1): 0.5℃≦T1−Tt≦20℃
式(2): 0.1cm≦Q≦8cm
〔式中、T1は前記キャスト冷却ロールの表面温度を示し、Ttは前記金属押圧体の表面温度を示す。Qは前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離を示す。〕
【請求項2】
ダイから溶融状態で押し出した膜状の熱可塑性樹脂を、金属押圧体と金属製のキャスト冷却ロールとで挟んで冷却固化する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記金属押圧体と前記キャスト冷却ロールとに挟まれる直前での前記膜状の熱可塑性樹脂の温度がTg+20℃〜Tg+90℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)であり、且つ、前記金属押圧体の表面温度(Tt)と前記キャスト冷却ロールの表面温度(T1)との差が下記式(1)を、前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離Qとキャスト冷却ロールの半径Rとから求められる中心角θが下記式(3)を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
式(1): 0.5℃≦T1−Tt≦20℃
式(3): 0.2°≦θ≦31°
〔式中、T1は前記キャスト冷却ロールの表面温度を示し、Ttは前記金属押圧体の表面温度を示す。Qは前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールと前記膜状の熱可塑性樹脂との接触距離を示す。〕
【請求項3】
前記金属押圧体が、金属製の弾性タッチロールまたは張設状態で走行可能な無端状の金属ベルトであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記金属押圧体の表面温度(Tt)が、Tg−40℃〜Tg+5℃(Tgは前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示す。)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記金属押圧体および前記キャスト冷却ロールの表面粗さRaが、0〜100nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記キャスト冷却ロールよりも下流側に1〜6本の金属製剛性ロールを連続的に配置することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法で製造した熱可塑性樹脂フィルムであって、フィルム厚みが20〜300μm、および、フィルムの幅方向および長手製膜方向の厚みバラツキがいずれも0〜3μmであり、且つ、フィルムの表面粗さRaが0.01〜200nmであり、フィルム両面の表面粗さRaの比が0.8〜1.2であることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
残存溶媒率0.01質量%以下であり、且つ、下記式(I)および(II)を満足することを特徴とする請求項7に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
式(I): Re≦10、且つ、|Rth|≦15
式(II):|Re(10%)−Re(80%)|<5、且つ、
|Rth(10%)−Rth(80%)|<15
[式中、ReおよびRthは、それぞれ測定波長が590nmであるときの面内方向および膜厚方向のレターデーション値(単位;nm)を表し、Re(H%)およびRth(H%)は、それぞれ相対湿度がH(単位;%)における測定波長が590nmであるときの面内方向および膜厚方向のレターデーション値を表す。]
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、数平均分子量2万〜7万であり、且つ、下記式(S−1)〜(S−3)の全てを満足するセルロースアシレートであることを特徴とする請求項7または8に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
式(S−1):2.5≦X+Y ≦3.0
式(S−2):0≦X≦1.8
式(S−3):1.0≦Y≦3.0
(式中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対する炭素数3〜22のアシル基の置換度の総和を表す。)
【請求項10】
下記式(T−1)および(T−2)を満たす組成を有するセルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項7または8に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
式(T−1):2.5≦A+C≦3.0
式(T−2):0.1≦C<2
(式中、Aは、アセチル基の置換度を示し、Cは置換もしくは無置換の芳香族アシル基を示す。)
【請求項11】
ノルボルネン樹脂を含むことを特徴とする請求項7または8に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項12】
分子量500以上の安定剤の少なくとも一種を前記熱可塑性樹脂に対して0.01〜3質量%含有し、且つ、240℃における溶融粘度が100〜3000Pa・sであることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを、少なくとも1方向に1〜300%延伸した熱可塑性樹脂フィルムであって、25℃・相対湿度60%における面内方向のレターデーション(Re)が0〜200nmであり、25℃・相対湿度60%における厚み方向のレターデーション(Rth)が−100〜300nmであることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを、縦横比L/Wが2を超え50以下、または0.01〜0.3で延伸したことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項15】
請求項7〜14のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを、横延伸前に延伸温度より1℃〜50℃高い温度で予熱したことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項16】
請求項7〜15のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを、横延伸後に延伸温度より1℃〜50℃低い温度で熱処理したことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項17】
請求項7〜16のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムであって、縦延伸および横延伸の少なくとも一方を行った熱可塑性樹脂フィルムを、Tg−50℃〜Tg+30℃で0.1kg/m〜20kg/mの張力で搬送しながら熱緩和したことを特徴とする熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項18】
請求項7〜17のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム又は反射防止フィルム。
【請求項19】
請求項18に記載の偏光板、光学補償フィルム、および、反射防止フィルムの少なくとも一つを用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−55890(P2008−55890A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123297(P2007−123297)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】