説明

熱可塑性樹脂フィルムのエンボス加工方法

【課題】熱可塑性樹脂フィルムにエンボス加工を施す際に、エンボスリングにフィルムが融着しないで、所定のエンボス突起高さが得られる生産性の高い熱可塑性樹脂フィルムのエンボス加工方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルム1の側縁部に搬送方向に沿った突起部のエンボス模様をフィルムに帯状に形成するエンボス加工装置において、エンボス加工を加工する前のフィルム温度をTg−25℃〜Tgまで加熱し、かつ、エンボス加工を施すロールがTg〜融点未満に加熱されている熱可塑性樹脂フィルムのエンボス加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂フィルムの製造における、フィルムの巻取り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を原料とする種々のフィルム成形品が知られている。中でも、ポリエステルフィルム、とりわけポリエチレンテレフタレートフィルムは、機械的特性、電気的特性、耐薬品性、寸法安定性などの点で優れているため、磁気テープ用、コンデンサ用、包装材料用、製版用、電気絶縁材料用、飲料缶ラミネート用、写真フィルム用、光学用等多様な分野で基材として使用されている。熱可塑性樹脂原料は、たとえば溶融押出法により口金から吐出され、ドラムなどにより冷却固化される。その後適当な温度、延伸倍率にて二軸延伸され、巻取機でロール状に巻き取られる。この巻取の際には、巻き込まれる空気の量により、中間製品として巻き取られたフィルムの端面がずれたり、フィルムにしわなどが生じ、巻姿欠点となることがある。従来から、これらの対策として、多数の突起を持ったエンボスリングとロールでフィルムを圧接させることにより、フィルム側縁部にエンボス加工し、フィルムに突起を形成して巻き取る方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。またこの後工程では顧客の必要な幅、長さに巻き取る工程、すなわちスリット工程があるが、この工程でも同様にフィルム側縁部にエンボス加工し、フィルムに突起を形成して巻き取る方法が知られている。
【特許文献1】特開平7−108603号公報
【特許文献2】特開平9−124199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの方法により、適度な巻取り条件にてフィルムを巻き取った場合には、ロール上に巻き込まれた空気を適度に排除でき、フィルムのしわ防止などには効果があった。しかしながら、フィルムにエンボス加工を施す場合に、突起高さを任意の高さに加工するためには、エンボスリングを加熱するか、もしくはエンボスリングとロール間の圧接力を高くしてフィルムを挟む、又は両方を併用してエンボス加工をする必要があった。この場合、エンボスリングはフィルムの融点以上に加熱する場合があり、しばしば加熱されたエンボスリングにフィルムが融着する事があった。その融着したフィルムが脱落した場合には異物混入欠点になっていた。また、融着したまま脱落しないフィルムは炭化するために、それをエンボスリングから除去するのに多大な時間を要するために工程を停止する必要があり生産性が良くなかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
すなわち、熱可塑性樹脂フィルムの側縁部に、搬送方向に沿ったエンボスを帯状に形成するためのエンボス加工方法において、エンボス加工を施す前の熱可塑性樹脂フィルムが、Tg(Tgはガラス転移温度)−25℃以上、Tg以下に加熱されており、かつ、エンボス加工を施すエンボスリングが、熱可塑性樹脂フィルムのTg以上、融点未満に加熱されている、熱可塑性樹脂フィルムのエンボス加工方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムのエンボス加工方法によれば、エンボス加工中に発生する加熱されたエンボスリングへのフィルム融着が無くなり、(I)フィルムが融着し、脱落したフィルム片の混入が無くなる。(II)エンボスリングに融着したフィルムを除去するための工程停止がなくなる。これらの効果により高品位のフィルムを提供することが可能になり、さらに生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、実施例に基づき本発明を説明する。
【0007】
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、特に限定されないが、代表的な例を挙げれば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、ナイロン−6、ポリフェニリンサルファイドなどである。以下、熱可塑性樹脂フィルムを単にフィルムと表現する。
【0008】
従来フィルムにエンボス加工を施す場合は、走行しているフィルムをリング外周に突起を付けたエンボスリングをフィルムの融点以上に加熱し、ロール間でフィルムを圧接し、エンボスリングの突起をフィルム面に転写する方法が一般的であった。しかし、上記したように、この方法ではしばしばフィルムが加熱されたエンボスリングに融着し欠点が発生するなど、満足できる効果が得られなかった。
【0009】
本願発明者らは、従来のエンボス加工方法においてフィルムが加熱されたエンボスリングに融着する原因を検討した結果、エンボスによる突起の高さを高くするためにエンボスリングを高温、高圧でフィルムに突起を形成させていることに着眼した。さらに高温、高圧で圧接する必要性について熟慮した結果、熱可塑性樹脂フィルムは一般に熱伝導性が悪く、高速で搬送しているフィルムにエンボスリングのみで常温からフィルムが軟化するTg以上にフィルムの温度を短時間で上昇させてエンボス加工を施すために、高温、でのエンボス加工が必要であることを見いだした。そのためにエンボスリングがフィルムに接触しているフィルム表面のみが必要以上に加熱され、さらにはフィルム表面を調査した結果、フィルム表面が溶融した痕跡があった。これらよりフィルム表面が融点以上になっているために融着が発生していることがわかった。
【0010】
そこで本願発明者らは、加熱されたエンボスリングに接触しているフィルム表面を融点以上に加熱しなくても任意のエンボスによる突起の高さを満足できる方法を鋭意検討した結果、フィルムをエンボス加工する前にフィルムを任意の温度に加熱することにより、エンボスリングの温度をフィルムの融点未満にすることでも従来と同様なエンボスによる突起の高さが得られることを発見した。さらにはエンボスリングをフィルムの融点未満でエンボス加工することによりエンボスリングへの融着が皆無になった。つまり本発明のエンボス加工方法は、熱可塑性樹脂フィルムの側縁部に、搬送方向に沿ったエンボスを帯状に形成するためのエンボス加工方法において、エンボス加工を施す前の熱可塑性樹脂フィルムが、Tg(Tgはガラス転移温度)−25℃以上Tg以下に加熱されており、かつ、熱可塑性樹脂フィルムのTg以上融点未満に加熱されたエンボスリングを用いてエンボス加工することを特徴としている。
【0011】
図1は、本発明のエンボス加工方法を実現する、熱可塑性フィルムのエンボス加工装置の1例を示す。図1において1はフィルム、2はエンボスリング、3はロール、4は表面加熱器、5は裏面加熱器、6は上流側搬送ロール、7は下流側搬送ロールである。上流側搬送ロール6で搬送されたフィルム1は表面加熱器4と裏面加熱器5により任意の温度に加熱される。その後、フィルム1はフィルムの融点未満に加熱されたエンボスリング2とロール3に圧接され、突起が形成され、搬送ロール7により搬送される。
【0012】
そして本発明の方法では、エンボス加工を施す前の熱可塑性樹脂フィルムが、寸法収縮などを起こさないTg以下であり、エンボスリングで熱可塑性樹脂フィルムを容易にTg以上に加熱可能なTg―25℃以上の範囲に加熱されていることが重要である。
【0013】
なお、本発明でいうTgとはガラス転移温度のことであり、非晶質固体材料にガラス転移が起きる温度のことである。
【0014】
またエンボス加工を行うエンボスリングの温度については、熱可塑性樹脂フィルムが軟化するTg以上であり、熱可塑性樹脂フィルムが溶融しない、融点未満が好ましい。
【0015】
なお、本発明でいう融点とは固体が融解し、液体化する温度のことである。
【0016】
エンボスの位置については、生産性が高く、巻姿欠点に効果が大きい熱可塑性樹脂フィルムの側縁部に搬送方向に沿ったエンボスを帯状に形成するのが好ましい。
【0017】
なお、本発明のより好ましい態様としては、エンボスリングの突起部高さが1〜250μmである。エンボスリングの突起部高さは、熱可塑性樹脂フィルムの目的・用途によって種々変更可能であるが、エンボスリングの突起部高さを上記範囲に制御することで、熱可塑性樹脂フィルムに形成されるエンボス模様の突起部の高さも1〜250μmとすることができ、この場合本発明の効果の点で顕著に優れるために好ましい。
【0018】
また、本発明に用いられる熱可塑性樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、一般に薄物と言われる4μm以上であり、さらに、一般に厚物と言われる500μm以下であることが、本発明の効果の点で好ましい。
【0019】
図1では、加熱器を表裏2台としたが、フィルム厚み、搬送速度により必ずしも2台必要とはしない。加熱器が1台の場合は、突起加工面のフィルム温度を任意の温度にするためにエンボスロール側の面の方に加熱器を設置する方が好ましいが、周囲のレイアウト上困難な場合は必ずしも必要ではない。
加熱器については熱風、ラジエーションヒーターなどフィルムの加熱ができる装置であれば特にこだわらないが、フィルムが薄い場合など短時間でフィルムの加熱が可能な場合には、設備的に容易で取り扱いが簡単な熱風が好ましい。フィルムが厚物の場合には、短時間でフィルム内部まで加熱できるラジエーションヒーターが好ましい。またエンボスロールの加熱方法については温度制御が容易な誘導加熱方式が好ましいが、熱風でも問題ない。エンボスリングに対向しているロールについては金属ロール又はゴムロールを使用し用途により決定される。同様に、エンボスリングの突起形状、高さ、突起部の面積比率なども用途により決定される。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0021】
図1に示す装置においてポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いて、フィルム厚み188μm、フィルム巻き長さ1000m×5回、フィルムの搬送速度70m/分、エンボスリングとロールとの接圧950N、エンボスリングの突起部の面積比率は19.8%、ロール材質は金属ロールを使用、エンボスリング表面温度200℃、加熱器はフィルム加熱幅200mmのラジエーションヒーターを使用しフィルム表面温度が55℃まで加熱した。尚、フィルム表面温度はサーモグラフィにて測定した。この時のフィルム表面に形成された突起高さをマイクロメーターで測定した結果4〜7μmであり所定の高さが得られた。また、フィルム凹部分を拡大、観察した結果フィルムが溶融した形跡はなかった。さらにエンボスリング表面を観察したがフィルムが融着した形跡は無かった。
【0022】
(実施例2)
図1に示す装置においてポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いて、フィルム厚み12μm、フィルム巻き長さ10000m×5回、フィルムの搬送速度150m/分、エンボスリングとロールとの接圧150N、エンボスリングの突起部の面積比率は1.4%、ロール材質はゴムロールを使用、エンボスリング表面温度90℃、加熱器はスポット型熱風発生装置を使用しフィルム表面温度を50℃まで加熱した。尚、フィルム表面温度はサーモグラフィにて測定した。この時のフィルム表面に形成された突起高さをマイクロメーターで測定した結果170〜200μmであり所定の高さが得られた。また、フィルム凹部分を拡大、観察した結果フィルムが溶融した形跡はなかった。さらにエンボスリング表面を観察したがフィルムが融着した形跡は無かった。
【0023】
(比較例1)
図1に示す装置においてポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いて、フィルム厚み188μm、フィルム巻き長さ1000m×5回、フィルムの搬送速度70m/分、エンボスリングとロールとの接圧950N、エンボスリングの突起部の面積比率は19.8%、ロール材質は金属ロールを使用、エンボスリング表面温度290℃、加熱器は無くフィルム温度は20℃であった。この時のフィルム表面に形成された突起高さをマイクロメーターで測定した結果3〜7μmであり所定の高さが得られた。また、フィルム凹部分を拡大、観察した結果フィルムが溶融した形跡があった。さらにエンボスリング表面を観察した結果フィルムが融着し、炭化していた。
【0024】
(比較例2)
図1に示す装置においてポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いて、フィルム厚み188μm、フィルム巻き長さ1000m×5回、フィルムの搬送速度50m/分、エンボスリングとロールとの接圧950N、エンボスリングの突起部の面積比率は19.8%、ロール材質は金属ロールを使用、エンボスリング表面温度250℃、加熱器は無くフィルム温度は20℃であった。この時のフィルム表面に形成された突起高さをマイクロメーターで測定した結果1〜3μmであり所定の高さが得られなかった。また、フィルム凹部分を拡大、観察した結果フィルムが溶融した形跡はなかった。さらにエンボスリング表面を観察したがフィルムが融着した形跡は無かった。
(比較例3)
図1に示す装置においてポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いて、フィルム厚み12μm、フィルム巻き長さ10000m×5回、フィルムの搬送速度150m/分、エンボスリングとロールとの接圧150N、エンボスリングの突起部の面積比率は1.4%、ロール材質はゴムロールを使用、エンボスリング表面温度30℃(加熱は無く成り行き)、加熱器は無くフィルム温度は20℃であった。この時のフィルム表面に形成された突起高さをマイクロメーターで測定した結果20〜30μmであり、所定の突起高さが得られなかった。また、フィルム凹部分を拡大、観察した結果フィルムが溶融した形跡はなかった。さらにエンボスリング表面を観察したがフィルムが融着した形跡は無かった。
(比較例4)
図1に示す装置においてポリエチレンテレフタレートのフィルムを用いて、フィルム厚み12μm、フィルム巻き長さ10000m×5回、フィルムの搬送速度150m/分、エンボスリングとロールとの接圧300N、エンボスリングの突起部の面積比率は1.4%、ロール材質はゴムロールを使用、エンボスリング表面温度30℃、加熱器は無くフィルム温度は20℃であった。この時のフィルム表面に形成された突起高さをマイクロメーターで測定した結果140〜180μmであり、所定の突起高さは得られたがフィルムに穴があき製品には使用できなかった。また、フィルム凹部分を拡大、観察した結果フィルムが溶融した形跡はなかった。さらにエンボスリング表面を観察したがフィルムが融着した形跡は無かった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂フィルムのエンボス加工装置の一例を示す。
【符号の説明】
【0026】
1 フィルム
2 エンボスリング
3 ロール
4 表面加熱器
5 裏面加熱器
6 上流側搬送ロール
7 下流側搬送ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムの側縁部に、搬送方向に沿ったエンボスを帯状に形成するためのエンボス加工方法において、
エンボス加工を施す前の熱可塑性樹脂フィルムが、Tg(Tgはガラス転移温度)−25℃以上Tg以下に加熱されており、
かつ、熱可塑性樹脂フィルムのTg以上融点未満に加熱されたエンボスリングを用いてエンボス加工する、熱可塑性樹脂フィルムのエンボス加工方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−111052(P2010−111052A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286495(P2008−286495)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】