説明

熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法

【課題】品位、厚みムラ、光学的ムラ、生産性に優れた熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法の提供。
【解決手段】一対の延伸ロール11の速度差によって、前記延伸ロール間に設けられた延伸区間において熱可塑性樹脂シート1,2をその走行方向に一軸延伸する熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法であって、前記延伸区間において熱可塑性樹脂シートを熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上に加熱するとともに、下記式(1)〜(4)を満足するように熱可塑性樹脂シートを延伸する。(L+L+L)/W>3(1)、0.9<W×(E)0.5/W<1.1(2)、0.2<L/(L+L+L)<0.5(3)、0.1<L/(L+L+L)<0.25(4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は品位、厚みムラ、光学的ムラ、生産性に優れた熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂フィルムはディスプレイ部材などの光学用途において多く用いられる。光学用途に用いられるフィルムは、延伸により位相差や靱性などの機能を付与する場合が多く、延伸には高い精度が要求される。延伸方式としては製膜方向または幅方向の1軸延伸や、縦横の逐次2軸延伸や同時2軸延伸が挙げられる。製膜方向に延伸する方法としては、加熱ニップロールにより熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上に昇温して延伸するロール延伸法や、コーティングなどに用いられるフローティングオーブンを使用し、乾燥炉で過熱しながら入口と出口の速度差により延伸するオーブン延伸法が挙げられるが、キズなどの品位や厚みムラ、位相差ムラや配向角度ムラなどの光学的ムラの観点からオーブン延伸法が好ましく用いられている。
【0003】
しかし、近年、ディスプレイの高精細化、高画質化が進む中、光学的ムラの更なる改善が要求されている。オーブン延伸法で光学的ムラを改善する方法として、例えば、特許文献1には、オーブンを縦型とし輻射伝熱によりフィルムを昇温することで、フィルムのばたつきを軽減し、光学的ムラを改善する方法が記載されている。しかし、本方法ではフィルムパスの高低差が大きく、メンテナンスや操作性の観点から実際に製造装置として使用することは困難である。また、赤外線パネルやハロゲンランプ等の輻射伝熱を使用するため、延伸工程でフィルムが破断した際、熱源に接触し火災が発生するなどの危険がある。また、位相差のムラに関しても更なる改善が必要であった。
【0004】
また、特許文献2には、加熱ゾーンを高温、低温、高温と交互に設けることにより、低倍率でも配向度の高いフィルムを得る方法について記載されている。しかし、光学ムラはフィルムの温度がガラス転移温度を超えて変化する過程で生じやすく、本方法では光学的ムラの小さなフィルムを得ることは困難であった。
【0005】
さらに、特許文献3には、加熱部分を短くすることで延伸時の幅減少を抑え、生産性を向上する方法についての記載があるが、本方法では、延伸区間が短いため幅方向に応力が発生し、光学的ムラが大きくなる場合があった。
【0006】
また、特許文献4には、幅減少の区間を規定することで、光学的ムラの小さいフィルムを得る方法について記載されているが、本方法では、冷却ゾーンが長くなるため装置スペースが大きくなるため効率が悪く、また、配向角度のムラに関しても更なる改善が必要であった。
【0007】
また、オーブン延伸法は、ロール延伸法に比べ、延伸区間が長く、生産性、装置スペースなどの問題があった。
【特許文献1】特開2000−147257号公報
【特許文献2】特開2001−305342号公報
【特許文献3】特開2002−333521号公報
【特許文献4】特開2003−131033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、品位、厚みムラ、光学的ムラ、生産性に優れた熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するための本発明は、一対の延伸ロールの速度差によって、前記延伸ロール間に設けられた延伸区間において熱可塑性樹脂シートをその走行方向に一軸延伸する熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法であって、前記延伸区間において熱可塑性樹脂シートをそのガラス転移温度(Tg)以上に加熱するとともに、下記式(1)〜(4)を満足する熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法によって達成される。
【0010】
(L+L+L)/W>3 ・・・(1)
0.9<W×(E)0.5/W<1.1 ・・・(2)
0.2<L/(L+L+L)<0.5 ・・・(3)
0.1<L/(L+L+L)<0.25 ・・・(4)
(mm):延伸区間入口から、延伸区間の上流側に位置するロールのうち最も延伸区間に近いロールまでの距離
(mm):延伸区間の距離
(mm):延伸区間出口から、延伸区間の下流側に位置するロールのうち最も延伸区間に近いロールまでの距離
(mm):延伸前の熱可塑性樹脂シートの幅
(mm):延伸後の熱可塑性樹脂シートの幅
E (倍):走行方向の延伸倍率
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法により製膜した熱可塑性樹脂延伸フィルムは、品位、厚みムラ、光学的ムラに優れるため、光学用フィルムとして好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の製造方法に用いられる熱可塑性樹脂は、透明性、耐熱性、機械特性など、光学用途に必要な特性を満たしていれば特に構造は限定されず、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができ、これらの樹脂のうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上をブレンドしてアロイフィルムとしたり、上記樹脂をそれぞれ用いた積層構成のフィルムとしたりもできるが、特に非晶性樹脂を用いるとより光学的ムラの少ない延伸フィルムが得られるため好ましい。中でもアクリル系樹脂を用いると、透明性に優れるため光学用フィルムとして好適に用いることができる。
【0013】
本発明の製造方法に用いられる延伸前の熱可塑性樹脂シートを得る方法としては、特に限定はなく、溶融押出法や溶液キャスト法など一般的に用いられる成型方法が挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法に用いられる延伸前の熱可塑性樹脂シートは、厚みムラX(%)が10%未満であることが好ましい。より好ましくは5%未満、更に好ましくは3%未満である。延伸前のシートの厚みムラが10%を超えると、シートの走行が不安定となり、蛇行やシワが生じやすくなる。延伸前のシートに、製膜時の幅方向端部が含まれていて、厚みが中央部と大きく異なる場合は、厚みムラが10%未満となるように幅方向端部をスリットしてから延伸することが好ましい。
【0015】
ここで、延伸前の熱可塑性樹脂シートの厚みムラXとは、製膜方向(走行方向)に測定したときの厚みムラをX0,MD、幅方向(製膜方向と直交する方向)の厚みムラをX0,TDとしたとき、X0,MDとX0,TDのうち大きい方の値である。X0,MDとX0,TDの値はそれぞれ下記式で求められる。
【0016】
0,MD=(t0,max,MD−t0,min,MD)/t0,ave,MD×100 ・・・(5)
0,TD=(t0,max,TD−t0,min,TD)/t0,ave,TD×100 ・・・(6)
0,max,MD:フィルムの幅方向中央部で製膜方向に任意の1mの区間でフィルムの厚みを測定したときの厚みの最大値
0,min,MD:フィルムの幅方向中央部で製膜方向に任意の1mの区間でフィルムの厚みを測定したときの厚みの最小値
0,ave,MD:フィルムの幅方向中央部で製膜方向に任意の1mの区間でフィルムの厚みを測定したときの厚みの平均値
0,max,TD:フィルムの幅方向に全幅で厚みを測定したときの厚みの最大値
0,min,TD:フィルムの幅方向に全幅で厚みを測定したときの厚みの最小値
0,ave,TD:フィルムの幅方向に全幅で厚みを測定したときの厚みの平均値
以下、図面に基づいて本発明の製造方法を説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施態様に係る熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法を説明するための概略図である。
【0018】
図1において、延伸前の熱可塑性樹脂シート1は延伸ロール11(2本のニップロールにより構成されている)、延伸前ガイドロール12を経て、延伸区間21に導入される。熱可塑性樹脂シートは延伸区間を出た後、延伸後ガイドロール13、延伸ロール14(2本のニップロールにより構成されている)を経て、延伸された熱可塑性樹脂シート2となり、その後、必要に応じて熱処理等が施こされ、熱可塑性樹脂延伸フィルムとなる。
【0019】
図1において、熱可塑性樹脂シートの延伸は、一対の延伸ロールを構成する延伸ロール11と延伸ロール14との速度差によって、製膜方向(走行方向)に一軸延伸される。延伸区間21は、熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度(Tg)以上の雰囲気にある区間をいう(なお、本発明においては、その雰囲気温度をθ℃とすれば、θ℃雰囲気中にある熱可塑性樹脂シートの温度もθ℃であるとみなす)。延伸区間21においては、例えばエアフロート方式など非接触の搬送方式を採用することが好ましい。また、ガイドロール12および13は駆動ロールであってもフリーロール(従動ロール)であっても構わない。さらに、ガイドロールを用いず、延伸ロールのみとする態様であっても構わない。
【0020】
さて、本発明においては、延伸区間の距離をL、延伸区間入口から、延伸区間の上流側に位置するロールのうち最も延伸区間に近いロールまでの距離をL(図1において、延伸区間入口からガイドロール12までの距離)、延伸区間出口から、延伸区間の下流側に位置するロールのうち最も延伸区間に近いロールまでの距離L(図1において、延伸区間出口からガイドロール13までの距離)、延伸前の熱可塑性樹脂シートの幅をW、延伸後の熱可塑性樹脂シートの幅をW、走行方向の延伸倍率をEとしたとき、以下の(1)〜(4)を全て満足するように延伸を行う。
【0021】
(L+L+L)/W>3 ・・・(1)
0.9<W×(E)0.5/W<1.1 ・・・(2)
0.2<L/(L+L+L)<0.5 ・・・(3)
0.1<L/(L+L+L)<0.25 ・・・(4)
距離L+L+Lで表される区間(図1において、ガイドロール12からガイドロール13までの区間)は非接触区間である。
【0022】
式(1)において、左辺である(L+L+L)/Wの値をAとすると、Aは3を超えることが重要である。Aは3.5を超えることがより好ましく、4を超えることが更に好ましい。Aが3以下であると、非接触区間が短いため、幅方向にも張力がかかり、幅方向の厚みムラや位相差ムラや配向角度ムラが大きくなる。また、Aの値は12未満であることが好ましく、より好ましくは10未満、更に好ましくは8未満である。12以上であると、装置が大きくなり生産性が低下する場合がある。また、非接触区間が長いため、シートのばたつきやシワにより走行が不安定になったり、配向角度ムラが大きくなる場合がある。
【0023】
式(2)において、W×(E)0.5/Wの値をBとすると、Bは0.9を超えることが重要である。Bは0.95を超えることがより好ましい。Bが0.9以下であると、幅の減少が大きく生産性が低下する。また、Bの値は1.1未満である。より好ましくは1.05未満である。1.1以上であると、延伸区間が十分でなく、延伸時に幅方向にも張力がかかり、幅方向の厚みムラや位相差ムラや配向角度ムラが大きくなる場合がある。
【0024】
式(3)において、L/(L+L+L)の値をCとすると、Cは0.2を超えることが重要である。Cは0.23を超えることがより好ましく、0.25を超えることが更に好ましい。Cが0.2以下であると、延伸区間にシートが入る位置でのシートのシワが大きくなり、幅方向の配向角度ムラが大きくなったり、シワによりシートがフローティングノズルに接触して品位が低下したりする場合がある。また、Cの値は0.5未満である。より好ましくは0.4未満、更に好ましくは0.3未満である。0.5以上であると、装置が大きくなり生産性が低下する場合がある。また、非接触区間が長いため、シートのばたつきやシワにより走行が不安定になったり、配向角度ムラが大きくなる場合がある。
【0025】
式(4)において、L/(L+L+L)の値をDとすると、Dは0.1を超えることが重要である。Dは0.12を超えることがより好ましい。Dが0.1以下であると、延伸区間出口の下流側に最初に位置するロール(図1ではガイドロール13)に接触する際に、シートが高温のままであり、キズが発生する場合がある。また、Dの値は0.25未満である。より好ましくは0.2未満である。0.25以上であると、装置が大きくなり生産性が低下する場合がある。また、非接触区間が長いため、シートのばたつきやシワにより走行が不安定になったり、配向角度ムラが大きくなる場合がある。
【0026】
本発明の製造方法において、非接触区間で加熱する方法としては、熱風加熱方式による対流伝熱や、ラジエーションヒータなどを利用した輻射伝熱、又はこれらを併用する方法が用いられる。
【0027】
本発明の製造方法において、延伸区間における雰囲気温度は、熱可塑性樹脂シートのガラス転移温度Tg以上であり、より好ましくはTg+5℃以上、更に好ましくはTg+10℃以上である。上記温度がTg未満であると、上述した式(2)において、Bの値が1.1以上となり、幅方向の厚みムラや位相差ムラや配向角度ムラが大きくなる場合がある。
【0028】
本発明の製造方法において、シートが延伸区間に導入されガラス転移温度以上に昇温される際、シートの幅方向の温度ムラをできる限り小さくすると、配向角度のムラが小さくなるため好ましい。温度ムラを小さくするために、例えば後述するように延伸区間前に予熱区間を設けてもよいが、その場合でも、前述した式(3)を満たす必要がある。
【0029】
なお、本発明における雰囲気温度とは、Kタイプの熱電対を用いて走行中のフィルム面から垂直方向に10mm上側で測定した雰囲気の温度である。温度測定は、フィルムの幅方向中央部について、製膜方向に複数本の熱電対を装置内に取り付け、フィルムを延伸条件で走行させながら実施し、延伸区間を決定した。
【0030】
本発明の製造方法において、延伸区間で延伸後のシートが最初に接触するロール(図1では、ガイドロール13)に接触する際、シートの温度を低くするとキズが発生しにくいため好ましい。最初に接触するロールに接触する際のシート温度は、Tg−10℃未満であることが好ましく、更に好ましくはTg−20℃未満である。シートの冷却を効率的に行うため、例えば後述するように冷却区間を設けてもよいが、その場合でも前述した式(4)を満たす必要がある。
【0031】
図2は、本発明の他の実施態様に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を説明するための概略図である。
【0032】
基本構成は図1と同様であるが、延伸区間の前後に予熱区間22と冷却区間23を設けた例である。
【0033】
本発明の製造方法において、延伸倍率Eは特に限定されるものではなく、必要なフィルム特性に合わせて適宜設定されるものであるが、1.2〜6倍程度が望ましい。また、延伸フィルムの厚みも特に限定されるものではなく、適宜選択されるものであるが、熱可塑性樹脂延伸フィルムの厚みが20〜150μm程度が望ましい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂延伸フィルムは、厚みムラX(%)が5%未満であることが好ましい。より好ましくは3%未満、更に好ましくは1%未満である。厚みムラが5%を超えると、位相差ムラが大きくなり、画像表示素子として使用したとき、色調のムラが生じる場合がある。また、延伸前のフィルムの厚みムラをX(%)としたとき、X/Xの値が1.05未満であることが好ましい。
【0035】
ここで、延伸前の熱可塑性樹脂延伸フィルムの厚みムラXとは、製膜方向(走行方向)に測定したときの厚みムラをX1,MD、幅方向(製膜方向と直交する方向)の厚みムラをX1,TDとしたとき、X1,MDとX1,TDのうち大きい方の値である。X1,MDとX1,TDの値はそれぞれ下記式で求められる。
【0036】
1,MD=(t1,max,MD−t1,min,MD)/t1,ave,MD×100 ・・・(7)
1,TD=(t1,max,TD−t1,min,TD)/t1,ave,TD×100 ・・・(8)
1,max,MD:フィルムの幅方向中央部で製膜方向に任意の1mの区間でフィルムの厚みを測定したときの厚みの最大値
1,min,MD:フィルムの幅方向中央部で製膜方向に任意の1mの区間でフィルムの厚みを測定したときの厚みの最小値
1,ave,MD:フィルムの幅方向中央部で製膜方向に任意の1mの区間でフィルムの厚みを測定したときの厚みの平均値
1,max,TD:フィルムの幅方向に全幅で厚みを測定したときの厚みの最大値
1,min,TD:フィルムの幅方向に全幅で厚みを測定したときの厚みの最小値
1,ave,TD:フィルムの幅方向に全幅で厚みを測定したときの厚みの平均値
本発明の熱可塑性樹脂延伸フィルムは、幅方向に20mmおきに位相差を測定したとき、位相差の最大値と最小値の差が2.0nm未満であることが好ましい。より好ましくは1.0nm未満、更に好ましくは0.5nm未満である。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂延伸フィルムは、幅方向に20mmおきに配向角度を測定したとき、製膜方向に対する配向角度の最大値と最小値の差が2.0°未満であることが好ましい。より好ましくは1.0°未満、更に好ましくは0.5°未満である。
【0038】
上記した本発明の熱可塑性樹脂延伸フィルムは、品位、厚みムラ、光学的ムラに優れるため、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができるが、特に光学的ムラに優れるため、位相差フィルムなどディスプレイ機器用の部材として好適に使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0041】
1.ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。サンプル量は5mgとした。
【0042】
尚、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定し、JIS K7121(1987)に従い、求めた中間点ガラス転移温度(Tmg)である。
【0043】
2.厚みムラ
アンリツ株式会社性フィルムシックネステスタ「KG601A」および電子マイクロメータ「K306C」を用いて、フィルムの搬送速度0.3m/分、サンプリング間隔0.1秒として測定した。製膜方向の厚みムラは幅方向中央部で任意の1mで測定し、幅方向の厚みムラは全幅で測定した。厚みムラは、上述した方法により各サンプルの厚みを測定した時のXおよびXの値である。
【0044】
3.位相差ムラ
王子計測(株)製の自動複屈折計(KOBRA−21ADH)を用い、波長548.3nmの光線に対する位相差を測定した。位相差ムラは、幅方向全幅で20mmおきに位相差を測定したときの位相差の最大値と最小値の差とした。
【0045】
4.配向角度
王子計測(株)製の自動複屈折計(KOBRA−21ADH)を用い、波長548.3nmの光線における遅相軸の角度を測定した。配向角度ムラは、20mmおきに配向角度を測定したとき、製膜方向を0°としたときの配向角度の最大値と最小値の差とした。
【0046】
5.キズ評価
延伸後のフィルムを目視で観察し、延伸工程で発生した製膜方向のスリキズがある場合を×、キズが確認されない場合を○とした。
【0047】
[実施例1]
厚み80μm、幅550mmのアクリルフィルムを図1に示すような方式で延伸した。延伸前のアクリルフィルムはガラス転移温度が95℃であり、厚みムラは5%であった。使用した装置は1室800mmの乾燥炉が3室あり、3室とも110℃に設定し、延伸区間は2,400mmとした。ガイドロール12から延伸区間までの距離は1,000mm、延伸区間からガイドロール13までの距離は500mmであった。ガイドロール12の位置でのフィルム走行速度を2m/分、ガイドロール13の位置でのフィルム走行速度を2.8m/分として、製膜方向に1.4倍の延伸を行った。
【0048】
[実施例2、3および比較例1、2]
実施例1において、ガイドロール12および13の位置を変えることにより、表に示すようにL〜Lの区間長を変更して延伸を行った。
【0049】
比較例1ではLが短いため延伸区間の入口でシワが発生し、配向角度ムラが大きくなった。また、幅方向のエッジ部分の厚みが厚くなり、厚みムラと位相差ムラが大きくなった。比較例2ではLが短いため、ガイドロール13上でフィルム前面にキズが発生した。
【0050】
[実施例4および比較例3]
実施例1において、乾燥炉3室中、1室目を70℃として、その他の条件は表に示すように変更して延伸を行った。
【0051】
比較例3ではLが長いため非接触区間が長くなりシワが発生し、フィルムがノズルと部分的に接触してキズが発生した。
【0052】
[比較例4]
実施例1において、乾燥炉3室中、3室目を70℃として、その他の条件は表に示すように変更して延伸を行った。
【0053】
比較例4ではLが長いため非接触区間が長くなりシワが発生し、フィルムがノズルと部分的に接触してキズが発生した。
【0054】
[比較例5]
厚み80μm、幅550mmのアクリルフィルムを図1に示すような方式で延伸した。延伸前のアクリルフィルムはガラス転移温度が95℃であり、厚みムラは5%であった。使用した装置は500mmの乾燥炉が1室であり、110℃に設定した。ガイドロール12から延伸区間までの距離は300mm、延伸区間からガイドロール13までの距離は300mmであった。ガイドロール12の位置でのフィルム走行速度を2m/分、ガイドロール13の位置でのフィルム走行速度を2.8m/分として、製膜方向に1.4倍の延伸を行った。
【0055】
比較例5ではガイドロール12とガイドロール13の間隔が短いため、配向角度ムラが大きくなった。また、幅方向のエッジ部分の厚みが厚くなり、厚みムラと位相差ムラが大きくなった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂延伸フィルムは、品位、厚みムラ、光学的ムラに優れるため、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができるが、特に光学的ムラに優れるため、位相差フィルムなどディスプレイ機器用の部材として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施態様に係る熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法を説明するための概略図である。
【図2】本発明の他の実施態様に係る熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1:延伸前の熱可塑性樹脂シート
2:延伸後の熱可塑性樹脂シート
11:延伸ロール(ニップロール)
12:ガイドロール(延伸前)
13:ガイドロール(延伸後)
14:延伸ロール(ニップロール)
21:延伸区間
22:予熱区間
23:冷却区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の延伸ロールの速度差によって、前記延伸ロール間に設けられた延伸区間において熱可塑性樹脂シートをその走行方向に一軸延伸する熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法であって、前記延伸区間において熱可塑性樹脂シートをそのガラス転移温度(Tg)以上に加熱するとともに、下記式(1)〜(4)を満足するように熱可塑性樹脂シートを延伸する熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法。
(L+L+L)/W>3 ・・・(1)
0.9<W×(E)0.5/W<1.1 ・・・(2)
0.2<L/(L+L+L)<0.5 ・・・(3)
0.1<L/(L+L+L)<0.25 ・・・(4)
(mm):延伸区間入口から、延伸区間の上流側に位置するロールのうち最も延伸区間に近いロールまでの距離
(mm):延伸区間の距離
(mm):延伸区間出口から、延伸区間の下流側に位置するロールのうち最も延伸区間に近いロールまでの距離
(mm):延伸前の熱可塑性樹脂シートの幅
(mm):延伸後の熱可塑性樹脂シートの幅
E (倍):走行方向の延伸倍率
【請求項2】
熱可塑性樹脂が非晶性ポリマーである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂延伸フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−234008(P2009−234008A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82754(P2008−82754)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】