説明

熱可塑性樹脂成形体の製造方法

ポリグリコール酸樹脂を成形助剤として用いて、実質的に非水溶性の熱可塑性樹脂の多孔質フィルム、極微細繊維、極薄フィルム、多孔質中空糸等の各種形状の成形体を効率的に製造する。より詳しくは、該ポリグリコール酸樹脂と実質的に非水溶性の熱可塑性樹脂との複合成形体を水性溶媒と接触させてポリグリコール酸樹脂を選択的に加溶媒分解抽出除去し、残存する熱可塑性樹脂の成形体を得る。加溶媒分解抽出されて生成したグリコール酸水溶液は、濃縮グリコール酸オリゴマー形成、グリコリド形成を経て、成形助剤としてポリグリコール酸樹脂に再生され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ポリグリコール酸樹脂の最終的には成形体から抽出除去されるべき成形助剤としての特異的適性の発見に立脚した熱可塑性樹脂成形体の製造方法ならびに熱可塑性樹脂成形体に関する。
【背景技術】
各種熱可塑性樹脂の各種形状の成形体の有用性は広く知られるところである。熱可塑性樹脂成形体の各種形状の例としては、フィルム、シート、糸ないし繊維、およびこれらの延伸物、中空糸、中空容器、更にはこれらの多孔化物などが知られている。
これら成形体、特にその多孔質体を形成するために、熱可塑性樹脂とその可塑剤とを熱混和成形し、成形体から可塑剤を抽出して、多孔質の熱可塑性樹脂成形体を形成する一連の技術が知られている。例えば、水処理膜等として用いられる中空糸で代表される熱可塑性樹脂多孔質膜の製造のために、可塑剤を熱混和および抽出除去する技術としては、特開平3−215535号公報、特開平7−13323号公報、特開2000−309672号公報、本出願人による特願2003−112012号の明細書に記載の方法などがある。
しかし、上述したような可塑剤の成形助剤としての使用には、イ)抽出液として有機溶媒を必要とするため、抽出後の有機溶媒と可塑剤の混合液の処理・分離回収等が厄介である、ロ)可塑剤は当然のこととして熱可塑性樹脂に対し加塑化効果を発揮するため、熱可塑性樹脂と可塑剤との熱混和成形体を延伸しても期待される延伸効果(すなわち成形体に伸長応力を印加することにより熱可塑性樹脂ポリマー鎖の「たるみ」あるいは「もつれ」を低減してポリマー鎖を伸長させ、引張強度等の特性を向上する効果)が発揮されない。
これに対し、主として上記した可塑剤の成形助剤としての使用に伴う問題点のロ)を解決するために、最終成形体を形成すべき熱可塑性樹脂とは別の熱可塑性樹脂を成形助剤として用い延伸成形体から成形助剤としての熱可塑性樹脂を選択的に抽出除去する方法も知られている。例えば水溶性高分子とポリエステル樹脂とを複合紡糸し、その水溶性高分子を熱水などにより抽出・除去して空隙のあるポリエステル繊維を製造する方法が知られている(特開2002−220741号公報)。この場合、二種の熱可塑性樹脂は、互いに特定の規則配列で延伸成形体を形成してから抽出・除去工程に付されることが多い。より具体的には、二種の熱可塑性樹脂を太さの異なるノズルの組合せからなる複合ノズルを通して共押出しし、断面形状としては一方が「海」、他方が「島」状に配置された糸状押出物ないしは高分子相互配列体を形成し、「海」(マトリクス)を形成する成形助剤としての熱可塑性樹脂を抽出・除去して、極細繊維を形成する方法(特公昭44−18369号公報、特公昭46−3816号公報、特公昭48−22126号公報等)、「島」を形成する成形助剤としての熱可塑性樹脂を抽出・除去して中空糸を形成する方法(特開平7−316977号公報、特開2002−220741号公報等)、二種の熱可塑性樹脂の交互斜め積層体シートを形成しておいて成形助剤としての熱可塑性樹脂を抽出して極薄フィルムを形成する方法(特開平9−87398号公報)等が知られている。
しかしながら、上記した別の熱可塑性樹脂を成形助剤として使用する方法も、ハ)抽出溶媒の多くは有機溶媒であり、また水の場合でも、抽出後の高分子溶液の処理は厄介である、ニ)成形助剤としての熱可塑性樹脂は基本的に高分子であるため、可塑剤に比べてその抽出・除去は困難である、等の問題点がある。
【発明の開示】
従って、本発明の主要な目的は、上述した可塑剤あるいは熱可塑性樹脂を成形助剤として用いる従来の熱可塑性樹脂成形体の製造方法の問題点の多くに対し、本質的な改善を与える熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、上記製造方法を通じて形成された有用な各種形状の熱可塑性樹脂成形体を提供することにある。
本発明者等は、生分解性樹脂として知られるポリグリコール酸樹脂が、その高分子量状態においては、可塑剤には到底期待できない剛性等の優れた機械的特性を示す一方で、水あるいは低級アルコール等の、本発明で「水性媒体」と総称する水類似の溶媒により加溶媒分解性を示すことに着目し、非水溶性熱可塑性樹脂成形体の製造に際しての成形助剤として適するのではないかとの着想を抱き、その有用性ならびに回収における優位性を確認して、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法は、ポリグリコール酸樹脂と実質的に非水溶性の熱可塑性樹脂との複合成形体を水性溶媒と接触させてポリグリコール酸樹脂を選択的に加溶媒分解抽出除去し、残存する熱可塑性樹脂の成形体を得ることを特徴とするものである。
また、本発明は、更にこうして製造された各種形状の有用な熱可塑性樹脂成形体を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの一例(後記FA4)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第2図は、本発明法で用いる複合成形体フィルムの一例(FA5)の抽出前の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第3図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの他の一例(FA5;85℃、1時間抽出後)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第4図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの他の一例(FA5;85℃、5時間抽出後)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第5図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの他の一例(FS1)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第6図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの他の一例(FS2)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第7図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの他の一例(FS3)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第8図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの他の一例(FS4)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第9図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの他の一例(FS5)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第10図は、本発明法により得られる多孔質フィルムの他の一例(FS6)の延伸方向断面SEM写真(6000倍)である。
第11図は、本発明法により得られた微細繊維集束体の一例の長手方向断面SEM写真(5000倍;PET/PGA=75/25)である。
第12図は、本発明法により得られた微細繊維集束体の他の一例の長手方向断面SEM写真(5000倍;PET/PGA=50/50)である。
第13図は、本発明法により得られた微細繊維集束体の他の一例の長手方向断面SEM写真(5000倍;PET/PGA=25/75)である。
第14図は、本発明法により得られた微細繊維集束体の一例の直径方向断面SEM写真(5000倍;PET/PGA=75/25)である。
第15図は、本発明法により得られた微細繊維集束体の他の一例の直径方向断面SEM写真(5000倍;PET/PGA=50/50)である。
第16図は、本発明法により得られた微細繊維集束体の他の一例の直径方向断面SEM写真(5000倍;PET/PGA=25/75)である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法を、その工程に沿って遂次説明する。
(ポリグリコール酸樹脂)
本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法において、成形助剤として用いるポリグリコール酸樹脂(以下、しばしば「PGA樹脂」という)は、下記式(I)

で表わされるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリド(GL)の開環重合物を含む)に加えて、上記グリコール酸繰り返し単位を主成分とするポリグリコール酸共重合体を含むものである。
上記グリコリド等のグリコール酸モノマーとともに、ポリグリコール酸共重合体を与えるコモノマーとしては、例えば、シュウ酸エチレン(即ち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、カーボネート類(例えばトリメチリンカーボネート等)、エーテル類(例えば1,3−ジオキサン等)、エーテルエステル類(例えばジオキサノン等)、アミド類(εカプロラクタム等)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類と、こはく酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類との実質的に等モルの混合物;またはこれらの2種以上を挙げることができる。
本発明において、PGA樹脂は最終的には、水(スチーム)、アルコールなどの水性溶媒による加溶媒分解を受けて抽出・除去されるが、この抽出・除去を容易とするため、上記グリコール酸単位がPGA樹脂中に、70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上、含まれていることが好ましい。
使用するPGA樹脂の分子量は、後述する複合成形体が、PGA樹脂と非水溶性の熱可塑性樹脂(以下、しばしば単に「熱可塑性樹脂」と称する)との、熱混和成形体か、規則配列成形体であるか否か、ならびに熱可塑性樹脂の分子量によっても異なる。例えば後述するように、熱混和成形体から多孔質成形体を得る場合でも、熱混和成形体中のPGA樹脂の分散形状、すなわち生成する孔(空隙)の形状、分布等が熱可塑性樹脂とPGA樹脂の熱混和成形中の粘度比によって変化するからである。一般的に、熱可塑性樹脂の最も好ましい例としての後述するシートや繊維用の芳香族ポリエステル樹脂を考慮した場合、ならびにその他の場合の熱混和性、延伸性等も考慮して、PGA樹脂は、重量平均分子量(ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒を用いるGPC測定におけるポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量)が5万〜60万、特に10万〜30万程度であることが好ましい。
熱混和(溶融混練)成形あるいは溶融成形による複合成形体の製造時のPGA樹脂の熱安定性を維持するために熱安定剤を併用することもできる。その場合は、予めPGA樹脂に熱安定剤を溶融混合しておくことが好ましい。熱安定剤としては、従来からポリマー用の酸化防止剤として知られる加工物の中から選択使用することができるが、中でも重金属不活性化剤、下式(II)で表わされるペンタエリスリトール骨格構造(あるいはサイクリックネオペンタンテトライル構造)を有するリン酸エステル、下式(III)で表わされる少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのアルキルエステル基とを持つリン化合物、及び炭酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく用いられる。特に下式(II)で表わされるペンタエリスリトール骨格構造(あるいはサイクリックネオペンタンテトライル構造)を有するリン酸エステル、下式(III)で表わされる少なくとも1つの水酸基と少なくとも1つのアルキルエステル基とを持つリン化合物が少量の添加で効果的に熱安定性の改善効果が得られるので好ましい。

熱安定剤の配合割合は、PGA樹脂100重量部に対して、通常0.001〜5重量部、好ましくは0.003〜3重量部、より好ましくは0.005〜1重量部である。PGA組成物100重量に対しては、通常0.0001〜2.5重量部程度である。熱安定剤の添加量が多過ぎると、その添加効果は飽和して不経済である。
(熱可塑性樹脂)
PGA樹脂とともに複合成形体を形成する熱可塑性樹脂は、PGA樹脂の加溶媒分解抽出のために必要に応じて加温した水性溶媒に対し実質的な溶解性を有さない程度に非水溶性である必要がある。
熱混和成形の場合も含めてPGA樹脂との複合成形体形成性を考慮すると、PGA樹脂の融点(180〜230℃)に対し、−30℃〜+100℃程度の温度範囲での溶融成形性を有する樹脂が好ましい。この条件が満される限り、熱可塑性樹脂は、疎水性樹脂と、非水溶性の範囲内で親水性樹脂のいずれも用いられる。
親水性の樹脂の例としては、芳香族ポリエステル樹脂、ジアミンとジカルボン酸の少なくとも一方が芳香族である芳香族ポリアミド、芳香族ポリカーボネート、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびアイオノマー樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、アクリロニトリル系樹脂、が;また疎水性の樹脂としては、耐薬品性、耐候性に優れたポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などのポリアリーレンサルファイド樹脂(PAS)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含量15重量%以下程度)を含むポリオレフィン類、等が含まれる。疎水性樹脂を用いる際のPGA樹脂との熱混和性を調整するために、ポリメチルメタクリレート等の親水性樹脂(あるいは加水分解による親水性樹脂の前駆体)を併用することもできる。
熱混和性等も考慮して、本発明で最も好ましく用いられる熱可塑性樹脂は、芳香族ポリエステル樹脂である。この態様については後で別途詳述する。
(複合成形体)
上述したPGA樹脂と熱可塑性樹脂との複合成形体には、一見均質な混合物の成形体である熱混和成形体と、規則配列成形体とがある。
また、熱混和成形体の全体的形状としては、シート(特に異らない限り、厚さ的には「フィルム」と称するのがより適当な250μm以下の厚さのものを含める趣旨でこの語を用いる)、糸ないし繊維、中空糸、網物、中空容器などがあり得る。樹脂混合物のこれら形状の成形体への成形法は周知であるので改めて詳述する必要はないと思われる。但し、PGA樹脂の水性溶媒による加溶媒分解を容易とするために、成形体の厚さあるいは径(中空糸は厚さで支配されるので除く)は、3mm以下、特に1mm以下とすることが好ましい。但し、可塑剤と異なりPGA樹脂は成形体中に残存しても樹脂としても機能するのでより厚肉の複合成形体を形成し、その表層から優先的にPGA樹脂を除去して多孔質化し、芯層にはPGA樹脂を残した熱可塑性樹脂成形体を形成することも可能である。
他方、規則配列成形体の成形法としては、前記従来技術の項に記載した方法が挙げられる。すなわち、二種の熱可塑性樹脂を太さの異なるノズルの組合せからなる複合ノズルを通して共押出しし、断面形状としては一方が「海」、他方が「島」状に配置された糸状押出物を形成し、「海」(マトリクス)を形成する成形助剤としての熱可塑性樹脂を抽出・除去して、極細繊維を形成する方法(特公昭44−18369号公報、特公昭46−3816号公報、特公昭48−22126号公報等)、「島」を形成する成形助剤としての熱可塑性樹脂を抽出・除去して中空糸を形成する方法(特開平7−316977号公報、特開2002−220741号公報等)、二種の熱可塑性樹脂の交互斜め積層体シートを形成しておいて成形助剤としての熱可塑性樹脂を抽出して極薄フィルムを形成する方法(特開平9−87398号公報)等である。これらの方法において抽出除去される樹脂の代りに、PGA樹脂が用いられる。
必要に応じて上記したPGA樹脂および熱可塑性樹脂の少なくとも一方に、マイカ、タルク、雲母、カーボンブラックなどのフィラーを混入することもできる。
最終的に得られる熱可塑性樹脂成形体の強度等を向上するために、上記のようにして形成される複合成形体は、一軸または二軸に延伸されていることが好ましい。ここにおいて、可塑剤とは異なるPGA樹脂の成形助剤としての優位性が顕著に発揮される。例えば、強度改善のための延伸倍率は、厚さあるいは断面積を、1/5以下に減少させる程度が好ましい。
(水性溶媒)
上記のようにして形成された複合成形体を水性溶媒と接触させてPGA樹脂を選択的に加溶媒分解・抽出除去して、残留する熱可塑性樹脂の成形体を得る。
本発明において、「水性溶媒」とは、水そのものに加えて、水と混和性で水と同様にPGA樹脂に対し加溶媒分解効果を示す溶媒が含まれる。このような水混和性溶媒の典型例としては、炭素数5以下の低級アルコール、分岐を有する炭素数6のアルコールがあり、単独であるいは水と混合して使用される。環境への負荷を考慮すると、水が最も好ましい。これら水性溶媒により加溶媒分解抽出を受けたPGA樹脂は、抽出液中に、グリコール酸またはその低級アルキルエステルとして含まれる。
水性溶媒は、必要に応じて加温状態で用いることが、加溶媒分解を促進する意味で好ましい。抽出に際しては液状であることが必要であるが、供給時には蒸気であることも熱の供給の意味で好ましい。
PGA樹脂の加溶媒分解は、水性溶媒に酸、アルカリを添加することにより促進されることが確認されている。特に、酸としてグリコール酸(例えば10重量%水溶液はpH約1.8を示す)を含めるのが工業的には最も好ましい。すなわち、水性溶媒でPGA樹脂の加溶媒分解・抽出を行った後、抽出液をリサイクルするとグリコール酸濃度が約70重量%程度までは抽出速度が増大する。
複合成形体として、繊維(ないし糸)を形成したときには、これらを異なる樹脂(例えばポリエステルに対するナイロン樹脂、アクリル樹脂等)の繊維との混紡の後、あるいは織物に加工後、上記水性溶媒により加溶媒分解処理を施すこともできる。これは複合繊維等におけるPGA樹脂の割合が高く、繊維等の強度が比較的弱い場合に有効である。
(熱可塑性樹脂成形体)
上記した複合成形体からのPGA樹脂の選択的加溶媒分解、抽出除去により、残存する熱可塑性樹脂の成形体が得られる。このようにして得られる熱可塑性樹脂成形体の形態には、複合成形体の形態によって、また熱可塑性樹脂とPGA樹脂の相互の関係によって実に様々なものとなることが確認されている。
まず、複合成形体として、シート、糸、中空糸、網物、中空容器等の熱混和成形体を形成した場合には、PGA樹脂の抽出除去後の熱可塑性樹脂成形体として、これらの多孔質化物が得られる。しかし、その孔(空隙)の発生状況は、熱可塑性樹脂とPGA樹脂の相互の関係によって、大いに異なり得る。また特異な現象として、熱混和成形体の紡糸物をPGA樹脂の加溶媒分解抽出・除去に付した際には、熱可塑性樹脂の微細繊維が得られることが確認されている。これらの点は、好適な熱可塑性樹脂として芳香族ポリエステル樹脂を用いた際に確認された現象として、後に詳述する。
また複合成形体として、上記(複合成形体)の項に記載した規則配列成形体を形成した場合には、PGA樹脂の抽出除去後の熱可塑性樹脂成形体としては、それぞれ対応する極細繊維、中空糸あるいは極薄フィルムが得られる。特に極薄フィルムの形成法自体は、特開平9−87398号公報に開示されるものであるが、本発明のために使用される複合成形体としての、PGA樹脂と、他の熱可塑性樹脂、すなわちブチレン/アジペート/テレフタレート共重合体(IRe Chemical社製「EnPolG8060」)、脂肪族芳香族ポリエステル共重合体(BASF社製「Ecoflex」)、との交互斜め積層シートの形成性は、既に特開2003−189769号公報の実施例5〜9で確認されている。
(後処理)
上記のようにして得られたPGA樹脂の加溶媒分解抽出・除去後に得られた熱可塑性樹脂成形体は、必要に応じて、更に一軸または二軸の延伸処理、熱処理等の後処理に付すこともできる。
(抽出液の後処理−グリコール酸の回収)
PGA樹脂の加溶媒分解抽出・除去処理後の抽出液はグリコール酸あるいはそのエステルを含んでいる。繰り返し使用することでグリコール酸やそのエステルの濃度は濃縮される。濃縮倍率はグリコール酸水溶液の場合70%までが好ましい。70%を超えると低温時に溶液が固化しやすく、移送やハンドリングが困難にやりやすい。濃縮時に70%を超えた場合は水で希釈して70%以下に保つことが好ましい。回収液を濃縮と縮重合を行うことで、またエステルの場合は必要に応じて加水分解後、濃縮と縮重合を行うことでグリコール酸オリゴマーを得ることができる。このグリコール酸オリゴマーは、例えば国際公開WO 02/14303号公報に開示されるような方法を用いることにより、高純度な環状エステル「グリコリド」を生成することが可能であり、さらに開環重合することでポリグリコール酸に再生することも可能である。このような環境負荷の低い抽出システムと密接に結びついていることが、本発明のPGA樹脂を成形助剤として用いる熱可塑性樹脂成形体の製造方法の重要な利点である。
より具体的には、上記国際公開WO 02/14303号公報に記載の方法によれば、(I)上記グリコール酸オリゴマー(A)と下記式(1)

(式中、Rは、メチレン基または炭素数2〜8の直鎖状または分岐状のアルキレン基を表わし、Xは、炭化水素基を表わし、Yは、炭素数2〜20のアルキル基またはアリール基を表わし、pは、1以上の整数を表わし、pが2以上の場合には、複数のRは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
で表わされ、かつ、230〜450℃の沸点と150〜450の分子量を有するポリアルキレングリコールエーテル(B)とを含む混合物を、常圧下または0.1〜90kPaの減圧下に、該グリコール酸オリゴマー(A)の解重合が起こる温度(例えば200〜320℃)に加熱し、
(II)該グリコール酸オリゴマー(A)の融液相と該ポリアルキレングリコールエーテル(B)からなる液相とが実質的に均一な相を形成した溶液状態とし、
(III)該溶液状態で加熱を継続することにより、解重合により生成したグリコリド(環状エステル)を該ポリアルキレングリコールエーテル(B)とともに留出させ、
(IV)留出物からグリコリドを回収する
ことが可能になる。
(芳香族ポリエステル樹脂)
上述したように、本発明でPGA樹脂とともに複合成形体を形成する熱可塑性樹脂としては、実質的に非水溶性であり、PGA樹脂との複合成形体形成性を有する各種の熱可塑性樹脂が用いられるが、最も好ましいものは、これら特性に加えて、形成される繊維、シート(フィルム)、糸等としての成形体の特性が優れており多孔質化したときの風合いも優れた芳香族ポリエステル樹脂である。
ここで芳香族ポリエステル樹脂とは、ポリエステルを構成するジカルボン酸とジオールとの少なくとも一方、より好ましくは少なくともジカルボン酸、が芳香族であるポリエステルを意味するものであり、ジカルボン酸および/またはジオールの一部として3価以上のポリカルボン酸および/またはポリオールも用いられる。また芳香族ジカルボン酸またはジオールの一部が、脂肪族ジカルボン酸またはジオールである脂肪族−芳香族コポリエステルも用いられる。より具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびこれらを主成分とする共重合体などの芳香族ポリエステル樹脂あるいは脂肪族−芳香族コポリエステルが用いられる。
なかでも、最も好ましく用いられる芳香族ポリエステル樹脂は、脂肪族ジオールの少なくとも一種とともにポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いるもの、特にポリエチレンテレフタレート(PET)であるが、テレフタル酸の一部を、比較的少量(例えば10モル%以下)のイソフタル酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、セバチン酸、アジピン酸等の他のポリカルボン酸で置換して親水性、立体性等を制御した共重合ポリエステルも好ましく用いられる。PETを主体樹脂とする熱可塑性樹脂成形体は、リサイクル利用の観点から好適である。
また、芳香族ポリエステル樹脂には、親水性ないし透水性の制御、あるいはその他の目的で酸化チタン、シリカ、アルミナ、導電性あるいは非導電性のカーボンブラック等のフィラーを配合することもできる。これは他の熱可塑性樹脂についても同様である。
以下、本発明でPGA樹脂とともに複合成形体を形成する最も好ましい熱可塑性樹脂として、このような芳香族ポリエステル樹脂(以下、代表的にしばしば「PET樹脂」と称する)を用い且つ複合成形体として熱混和成形体を形成する態様について、上記した本発明の熱可塑性樹脂成形体の製造方法を補足説明する。
この態様に従う熱可塑性樹脂成形体、すなわちPET樹脂成形体、の製造方法の主たる特徴は、PGA樹脂とPET樹脂の複合成形体を水性溶媒と接触させて、PGA樹脂を加溶媒分解し、グリコール酸やそのエステルである低分子量体に転換させ、その低分子量体をPET樹脂から抽出することにより、多孔質、すなわち孔(空隙)を有するPET樹脂成形体を得ることにある。そのため、空隙のデザインはポリマー同士の熱混和、いわゆるポリマーアロイ技術によりさまざまな設計が可能となり、抽出は低分子量体で行われるため、従来の例えば可塑剤を有機溶媒で抽出し、無機塩を水で溶解抽出するような公知の技術が応用可能である。
ポリマーアロイ技術では組成比、粘度比、混練時のせん断力、界面活性剤のような相溶化剤、エステル交換反応のような高分子間反応などさまざまな技術が提案され用いられてきている。これらの技術は本発明の抽出前の熱混和による複合成形体形成時においても有用に利用される。
本発明のPET樹脂とPGA樹脂の熱混和組成物(以下、「PET/PGA組成物」と称する)は、公知の押出機や混練機などを用いた溶融混練などにより容易に得ることができる。溶融温度が高い場合や、熱履歴時間が長い場合など混練時のPGA樹脂の熱安定性が乏しくなるので、上述したように熱安定剤を添加する事もできる。
PET/PGA組成物は混練後、ペレット形状や粉砕形状で提供される。もしくは溶融混練機に直接シート成形用ダイや紡糸ノズルを取り付けて直接シートや繊維の形状で得ることもできる。
シートや繊維はそのまま抽出に用いても良いが、強度を高めるために延伸することが好ましい。延伸は、強度を高める目的であればシートなら厚みを1/5以下、繊維では断面積を1/5以下にする程度の倍率が好ましい。また繊維の場合、ナイロン樹脂、アクリル樹脂などの他の樹脂からなる繊維などとの混紡の後、あるいは布地への加工後などの段階で抽出処理を行うこともできる。特に抽出率が高く、PET樹脂繊維の強度が比較的弱くなる場合には有効な手段である。
抽出前に抽出温度以上で熱処理を行うことで延伸後のPET樹脂の熱収縮を押えることができる。熱処理温度は、PET樹脂とPGA樹脂の熱的性質の違いにより、両者の混合割合によっても異なるが、例えばPET/PGA組成物の組成比70/30であれば、100〜150℃の熱処理が好ましい。この温度で熱処理することで抽出時の熱収縮応力は大幅に緩和される。
抽出量は、抽出時間でも制御可能である。抽出時間を制御することで空隙を有したPET樹脂組成物を得る事ができる。具体的には抽出時間により組成物中の組成比および空隙率を制御できる。また、抽出物が低分子であるため、PGA樹脂を充分に加溶媒分解させることで、中央部まで均一に抽出が可能である。したがって厚めのシートや直系の太い繊維についても適用可能である。
また、マイカ、タルク、雲母、顔料、カーボンブラックなど添加物を含有することも可能だが、あらかじめPGA樹脂にこれら添加物を混練しておけば、空隙内にこれら添加物を局在化して残存させることができる。樹脂中ではなく、空隙に存在させることによって樹脂の官能基などの影響を受けにくくなり添加物の物性が活性化させることもできる。PET樹脂側への事前添加や、製膜時の添加との割合変更や組み合わせで添加物の物性を任意に制御することができる。
本発明において主たる空隙(孔)とは、液体窒素で硬化させた成形体を−80℃の雰囲気下でダイヤモンドナイフにより裁断し断面を露出させ、SEMにて5000倍で観察し、肉眼で空間と認識できる空隙をさす。空隙率とは、SEMにて4000〜8000倍で観察し幅10μmの断面における空隙の面積比率のことである。面積比率は画像解析や画像写真からの切り抜き重量法等公知の方法によって求めることができる。
PET樹脂に比べPGA樹脂は比重が大きい、また一部エステル交換反応などにより部分相溶していることも予想され、分子レベルでの分散は空隙率として現われない。重量法の場合、目視で検出されないレベルの厚みの空隙は無視される。また、PET樹脂の一部収縮も考えられる。したがって空隙率を面積比率で表した場合、その値は抽出されたPGA樹脂の重量割合より小さい値を示す。
発明者らはPET樹脂の種類、PGA樹脂の種類、組成比、混練度等を種々変化させた組成物に関して抽出を行い、その空隙を観察した。その一部を後記実施例に示すが、例えばシート状の成形体を形成した場合、主たる空隙は何れの場合も厚み方向の長さ(D)と幅方向の長さ(L)に異方性を有し、そのL/Dが2以上である。また、その主たる空隙の大きさや空隙率は、PET樹脂の種類、PGA樹脂の種類、組成比、混練度等を変化させることで任意に変化させられることを見出した。
PET樹脂の粘度が低い場合、空隙は外側に局在化する傾向にあり、例えば繊維に乱反射による不透明感を付与させたい場合などわずかな空隙だけで目的を達成し易くなる。PET樹脂の粘度が高い場合、空隙は厚み方向の長さ(D)が大きくなる傾向にあり弾力性のある材料設計に有効である。上記の逆の方向、つまりPET樹脂の粘度が低い場合の、均一で緻密な空隙は剛性のある材料設計に有効である。
シートやフィルムでは「スリット状」や「スポンジ状」に、繊維では断面が「へちま状」から「レンコン状」までさまざまな形態の空隙を与えることが可能となる。またグリコール酸あるいはそのエステルの抽出が阻害されない範囲であれば多層シートや複合シートの一以上の層に空隙を与えることができる。各層に存在させるPGA樹脂の割合を変えることで空隙率の違う多層シートや複合繊維を設計することも可能となる。空隙を形成後に多層化やコーティング等で複合化したり他の繊維と混紡したりする利用形態も可能である。
抽出温度は、PGA樹脂が加溶媒分解し、グリコール酸やそのエステルに転換し、PET樹脂から抽出される温度領域であれば任意で選択できる。空隙が生成する際のPET樹脂の熱収縮を抑制したい場合、例えば、80〜90℃程度の比較的低い温度が選ばれる。PET樹脂が結晶化などにより熱変形に強い場合は120〜150℃などの比較的高い温度を選ぶことも可能である。60℃以下では抽出効率が低くなる。170℃以上でも抽出は可能だが、PET樹脂の加水分解も考慮する必要がある。
抽出は常圧でも、高圧でも行うことができる。圧力をかけて浸透圧を高めることにより効果的な抽出が行われる。
抽出時間は、成形体の形状やPGA樹脂の分子量、モルフォロジーなどさまざまな要因を考慮して決定されるべきである。通常10分以上24時間以内で行われる。抽出前に若干の水分と接触させることによりPGAの分子量を下げておくと、抽出時間の短縮が可能である。例えば、飽和水分量を吸湿させたポリエステル樹脂成形物を90℃のオーブンで24時間程度熱処理するだけでもPGAの分子量は半分以下に低下し、抽出速度は短縮される。
(1)熱収縮性成形体の利用
上記のようにして成形過程での熱収縮を抑制することにより、空隙を有する熱可塑性樹脂成形体が熱収縮性を有する場合、これを断熱材として利用することができる。例えばステンレススチールやアルミニウム等の金属容器(例えばボトル)に樹脂成形体を熱収縮性を利用して外側から密着させ空隙を有する熱可塑性樹脂外装材とすると該金属容器に熱い飲み物を入れた場合の持ち運び易さかせ与えられる。この際、印刷を施した他の層(例えばPET樹脂層)、接着層、粘着層、バリア層等と組み合わせてもよい。
(2)極微細繊維の製造
上記PGA樹脂/PET樹脂の熱混和成形体として、(延伸)糸を形成した後に、これを水性溶媒によるPGA樹脂の加溶媒分解抽出・除去に付した場合に、予想されるような多孔質のPET樹脂の糸でなく、PET樹脂の微細繊維が得られるという極めて特異な現象が認められている。このような現象は少なくともPGA/PET=25/75〜75/25の重量割合の熱混和組成物の延伸糸の場合に認められており、例えば直径70μmの延伸糸から約0.2〜0.5μmの極微細繊維が1000〜10000本得られるという結果が得られている(後記例3およびSEM写真(第11〜16図)参照)。これは加溶媒分解性のPGA樹脂と非分解性のPET樹脂とが混合紡糸(ならびに必要に応じて更に延伸)により極めて規則的な繊維束の集合体あるいは繊維束とマトリクスの複合体として形成され、そのうちPGA樹脂が選択的に加溶媒分解除去されたために、PET樹脂の極微細繊維が残存したものと解される。例えば、特公昭46−3816号公報のような規則配列成形体(糸)を形成することなく、単なる熱混和成形(延伸)糸の水性溶媒処理により、このような極微細繊維が得られることは、極めて意外であり、且つ工業的に有用なものと解される。
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。以下の例で得られた熱可塑性樹脂成形体の成形体(あるいはその前駆体としての複合成形体)については、次のSEM観察ないし測定を行った。
〔A.SEM(走査電子顕微鏡)観察〕
(サンプル作成)
クライオキット付ミクロトーム(Bromma社製「LKB2088 Ultratome V」)に試料片(必要に応じて複数用いる)をセットし、−120℃冷却下でダイヤモンドナイフにより断面露出する。露出した断面を上にして、エポキシ接着剤でSEM試料台に取り付ける。50℃の高温槽で12時間放置し、接着剤を固化させる。また、試料の乾燥も同時に行う。イオンスパッタコーター(エイコーエンジニアリング製「IB−5型」)に試料をセットし白金を2分間コーティングする。
得られた試料を、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡:日本電子(株)製「JSM−6301F」)によるSEM観察に付した。
(観察条件)
加速電圧: 5KV
作動距離: 15mm(対物レンズから試料までの距離)
加速電圧: 5000〜6000倍
なお露出した断面のエッジが光って像観察がし難い場合には、試料を1〜6度程度二次電子検出器側へ傾斜させた。
(空隙率)
SEM撮影した写真画像を均一厚みの印画紙に焼き付け、その写真からフィルム部分を幅10μmに切り出しその重さ(Zg)を測り、次いでその切り取ったフィルム部分の写真から黒く写る空隙部分を切り取って、その重さ(Yg)を測定した。同様の操作を3箇所で行い、空隙率はその平均値を以下の式に代入して求めた。
空隙率=(Yの平均/Zの平均)×100%
〔B.熱可塑性樹脂成形体の製造〕
I.多孔質フィルムの製造
(例1)PET/PGA組成物(1)
(1)ペレットサンプル
20φ異方向回転二軸押出機(東洋精機製作所製「LT20」)を用い、240〜250℃のシリンダー温度条件で、下表1の重量比のPET/PGA組成物を溶融混練してペレットを得た。PET樹脂は、共重合PET(カネボウ合繊社製「PET−DA5」、組成:テレフタル酸/ダイマー酸/エチレングリコール=95/5/100(モル/モル/モル)、固有粘度(IV)=0.74)。PGA樹脂は、ポリグリコール酸(呉羽化学製「PGA−1」;溶融粘度(測定条件は、270℃、剪断速度:121/s。以下、同様)=680Pa・s)を用いた。表にサンプル名と組成をまとめて示す。

(2)シート、延伸フィルムの成形および抽出
上記、ペレットサンプルA1からA5のそれぞれに対し、下から金属板/アルミ箔/ペレット/アルミ箔/金属板の順に重ね、全体を盤面温度250℃のプレス台において、予熱時間3分、プレス圧力70MPa、プレス時間1分で溶融圧延して、シートを得た。シート厚みはおよそ250μmであった。
得られたシートを70℃でテンター法により、面積比でおよそ10〜20倍に二軸延伸した。丸みを帯びた延伸フィルムを枠固定し、180〜200℃で1分間緊張下に熱処理して平滑なフィルムを得た。得られた平滑な熱処理フィルムについて、120℃の熱水レトルト抽出を8時間行った。抽出後のフィルムは、乾燥して重量を測り、その重量(Xg)と抽出前の重量(Yg)とPET/PGAの組成比からPETの理論重量(Pg)をもとめ、100×(Y−X)/(Y−P)(%)を抽出率として求めた。結果を表2に示す。

(3)空隙率
抽出フィルムの断面をSEMにより観察した。一例として延伸フィルムFA4の延伸方向に沿った厚さ方向断面写真を第1図に示す。空隙はフィルムの延伸方向にスリット状に開いている。主たる空隙の幅方向(延伸方向と直交する方向)の長さ(L)と厚さ方向の長さ(D)を比較すると、L/Dは5以上であった。空隙の長さは微小な小さいものから大きいものは10μm以上まで分布がある。また、空隙の厚みも微小な小さなものから1μm以上まで分布がある。主たる空隙の異方性および空隙率を表3にまとめて示す。空隙率はPGAの添加量の多いサンプル(最大はA5)を用いたフィルムほど大きくなっている。

(4)追加試料観察
延伸フィルムFA5について、抽出前、85℃で1時間の熱水抽出後、85℃で5時間の熱水抽出後、のそれぞれのフィルムについて、上記したように、SEM観察の試料を作成し、端面を出ししてSEM撮影を行った。それぞれの結果を第2〜4図に示す。試料厚みは殆ど変化することなく、空隙が大きくなっていく様子が観察できる。第4図から求めた空隙率は36%であった。
(例2)PET/PGA組成物(2)
(1)ペレットサンプル
20φの異方向回転二軸押出機(東洋精機製作所製、「LT20」)、230〜270℃のシリンダー温度条件で、表4の重量比のPET/PGA組成物を溶融混練してペレットを得た。PET樹脂は、イーストマンコダック製「9921W」(IV=0.8)を用いた。PGA樹脂は、呉羽化学製「PGA−2」溶融粘度=718Pa・s)を用いた。表4に溶融粘度等をまとめて示す。

(2)シート成形
粘度の違うPET樹脂、PGA樹脂のいくつかの組み合わせ、および上記(1)で合成したPET/PGAブレンド組成物(B1)、のそれぞれを300mm幅のT−ダイを有する単軸40φの押出機でシリンダー温度条件(230〜270℃)で押出し、冷却ロールにて冷却してシート(S1〜S6)を得た。組成を表5にまとめて示す。

(3)延伸フィルムの成形、抽出
得られたシートを120℃で延伸し、得られた延伸フィルム(FS1〜FS6)を150℃で熱固定した。熱固定したフィルムについて120℃の熱水レトルト抽出8時間を行った。抽出に関する結果を表6にまとめて示す。抽出前後のフィルムの重量変化に基づいて抽出率を算出した。この抽出率の精度を確認するため、延伸フィルムおよび抽出後のフィルムをそれぞれ80℃の5%NaOH水溶液に5時間浸漬し、完全にPGA樹脂を加水分解した結果からも抽出率を算出した。この際には、延伸フィルムから検出されたグリコール酸量(Eg)に対する、抽出後のフィルムから検出されたグリコール酸量(Fg)の比に基づいて抽出率を算出した。すなわち、抽出率(%)は、100×(E−F)/Eとして求めた。

(4)SEM観察
前記で得られた抽出フィルム(FS1〜FS6)の断面のSEM画像を第5〜10図に示す。主たる空隙の異方性および空隙率を表7にまとめて示す。また断面観察結果を表8にまとめて示す。なお表8で表記した粘度とは、270℃、剪断速度121/sにおける溶融粘度の値である。


(5)抽出速度
抽出速度に関する情報を得るため、FS4の延伸シートについてレトルト抽出条件をいくつか変えて抽出操作を行った。抽出率は重量法で求めた。結果を表9にまとめて示す。

(6)延伸倍率の効果
S4のシートを各種延伸倍率で延伸し、未延伸フィルム(FS4−1)ならびに延伸フィルム(FS4−10およびFS4−20)についてそれぞれ抽出実験を行った。未延伸では空隙がつぶれた。延伸倍率を上げると空隙率が高いものでも強度の優れたフィルムが得られた。結果を表10にまとめて示す。

II.微細繊維の製造
(例3)
上記I(例2)で用いたPET樹脂(イーストマンコダック製「9921W」)およびPGA樹脂(呉羽化学製「PGA−2」)を重量比で75/25、50/50(上記例2のB1と同じ)および25/75でそれぞれ混合して溶融混練して得られた三種のペレットについて、φ35mm押出機を用い230〜260℃のシリンダー温度で押出し、径0.8mmのノズル12本から押出し、空冷下、引張速度30m/分、ドラフト率28倍の条件で紡糸することにより径150μmの延伸糸3種を得た。
PET/PGA比75/25、50/50および25/75である上記三種の延伸糸を、それぞれ120℃熱水により12時間のレトルト抽出処理を行った。その結果、それぞれ径が約0.2〜0.5μmの極微細繊維の集束体(全体径:約50〜100μm)が得られた。得られた三種の微細繊維の各5000倍長手方向断面写真を、それぞれ第11〜13図、また各5000倍直径方向断面写真をそれぞれ第14〜16図に示す。
各繊維集束体は、いずれも手指により単位繊維に容易に解繊可能な状態であった。
III.多孔質中空糸の製造
(例4)
PVDF(呉羽化学工業(株)製「KF#1100」)100重量部とPGA(重量平均分子量Mw=250,000)120重量部をヘンシェルミキサーで混合後30mmφ二軸押出機(東洋精機製作所製「LT−20」)により270℃でペレット化した後、同押出機に中空糸製造装置を取り付けて外径1.6mm、内径0.7mmの中空糸を得た。
この中空糸をエタノール/水(30/70)混合液(120℃)中で煮沸し6時間処理した後に乾燥することにより、空孔率57%、平均孔径0.67μmのPVDFの中空糸が得られた。
〔C.抽出液の後処理〕
(例5)
上記B.II多孔質フィルムの製造例2の(5)抽出速度試験と同様にFS4の延伸シートについて、スチームによる抽出操作を50回繰り返すことにより、濃度43%のグリコール酸溶液を得た。
次いでのグリコール酸溶液について、PCT公開公報WO 02/14303号の方法により、オリゴマー、グリコリドを経てPGAを再度得た。
すなわち、上記で得た濃度43%のグリコール酸溶液をオートクレーブに仕込み、加熱下に残留水を除去しながら、常圧で撹拌し、更に170℃から200℃まで2時間かけて昇温加熱し、生成水を留出させながら縮合反応を行った。次いで、缶内圧力を5.0kPaに減圧し、200℃で2時間加熱して、未反応原料等の低沸分を留去し、グリコール酸オリゴマーを調製した。
上記で調製したグリコール酸オリゴマー40gを、冷水で冷却した受器を連結した300mlフラスコに仕込み、溶媒のポリアルキレングリコールエーテル(B)として、別途調製したテトラエチレングリコールジブチルエーテル(TEG−DB)を200g加えた。窒素ガス雰囲気でグリコール酸オリゴマーと溶媒の混合物を280℃に加熱した。グリコール酸オリゴマーは、溶媒に均一に溶解し、実質的に相分離していないことが目視により確認された。加熱を続けながらフラスコ内を10kPaに減圧すると、解重合反応によりグリコリドと溶媒の共留出が始まった。解重合反応は、およそ4時間で終了した。
共留出終了後、留出液から析出しているグリコリドを分離し、酢酸エチルで再結晶することにより純度99.99%のグリコリドを得た。このグリコリドを、開環重合することにより回収ポリグリコール酸(PGA−R)を得た。
(例6)
例1で用いた共重合PET(「PET−DA5」)と上記例5の回収グリコール酸(PGA−R)とを表11に示す割合で混合することによりPET/PGA組成物サンプルR1〜R5を得た。
更に得られた組成物R1〜R5を用いた以外は例1と同じ操作によりシート作成、抽出し、SEM観察を行った。得られた空隙率などを含む結果を表12〜13にまとめて示す。



【産業上の利用可能性】
上述したように、本発明によれば、成形助剤としてのポリグリコール酸樹脂と、実質的に非水溶性の熱可塑性樹脂との複合成形体を形成し、これを水性媒体と接触させてポリグリコール酸樹脂を選択的に加溶媒分解抽出除去するという簡単な方法により、残存する熱可塑性樹脂により、多孔質フィルムあるいは繊維、極微細繊維、極薄フィルムなどの多様な成形体が効率的に得られる。また抽出液中に含まれるグリコール酸は、グリコリドを経て原料ポリグリコール酸樹脂に効率的に回収可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸樹脂と実質的に非水溶性の熱可塑性樹脂との複合成形体を水性溶媒と接触させてポリグリコール酸樹脂を選択的に加溶媒分解抽出除去し、残存する熱可塑性樹脂の成形体を得ることを特徴とする熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
水性溶媒が、水、水と混和性の低級アルコールまたはこれらの混合物からなる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水性溶媒が、加温状態である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
水性溶媒が、酸またはアルカリを含む請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
水性溶媒がグリコール酸の水溶液である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
グリコール酸がポリグリコール酸樹脂の加水分解生成物である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
複合成形体がポリグリコール酸樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂との熱混和物の成形体である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
複合成形体がポリグリコール酸樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂との規則配列成形体である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
複合成形体が延伸された成形体である請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
非水溶性熱可塑性樹脂が芳香族ポリエステル樹脂である請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかの方法により製造された熱可塑性樹脂成形体。
【請求項12】
多孔質フィルムないしシート状である請求項11に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項13】
熱収縮性を有する請求項12に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項14】
芳香族ポリエステル樹脂からなる請求項12または13に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項15】
微細繊維状である請求項11に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項16】
芳香族ポリエステル樹脂からなる請求項15に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項17】
多孔質中空糸状である請求項11に記載の熱可塑性樹脂成形体。
【請求項18】
ポリフッ化ビニリデン樹脂からなる請求項17に記載の熱可塑性樹脂成形体。

【国際公開番号】WO2004/106419
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506536(P2005−506536)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007565
【国際出願日】平成16年5月26日(2004.5.26)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】