説明

熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法

【課題】 本発明は、オゾン破壊係数がゼロか又は極めて低いと共に、地球温暖化係数も小さな発泡剤を使用したとしても、熱伝導率が小さく、長期に亘り断熱性を維持できる、表面状態の良好な押出発泡体を製造できる、熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法は、特定の飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)、及び水(c)と熱可塑性樹脂とを溶融混練して発泡性熱可塑性樹脂溶融物を得、該発泡性熱可塑性樹脂溶融物を押出発泡する熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法であって、
該熱可塑性樹脂が、特定のポリエステル共重合体(B)と、ポリスチレン樹脂(A)とからなり、該ポリエステル共重合体(B)の配合量が、該ポリスチレン樹脂(A)100重量部に対して5〜150重量部であり、該水(c)の配合量が、前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.01モル以上1モル未満であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂押出発泡体(以下、単に押出発泡体ということがある)の製造方法に関し、詳しくは建築物の壁、床、屋根等の断熱材として有用な熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン樹脂押出発泡体は、優れた断熱性及び機械的強度を有することから、板状に成形されたものが断熱材をはじめとする建築用材料として広く使用されている。このようなポリスチレン樹脂押出発泡体は、一般に押出機中でポリスチレン樹脂を加熱溶融して樹脂溶融物とした後、該溶融物に発泡剤を圧入し混練して得られる発泡性樹脂溶融物を、押出機先端に付設されたフラットダイなどから低圧域に押出発泡し、ガイダーなどの賦形装置を通して板状に賦形することにより製造されている。
【0003】
前記のようなポリスチレン樹脂押出発泡体の製造に使用される物理発泡剤としては、以前は、ジクロロジフルオロメタン等の塩化フッ化炭化水素(以下、CFCという)が広く使用されてきた。しかし、CFCはオゾン層を破壊する危険性が高いことから、オゾン破壊係数の小さい水素原子含有塩化フッ化炭化水素(以下、HCFCという)がCFCに替わって用いられるようになった。しかしながら、HCFCもオゾン破壊係数が0(ゼロ)でないことから、オゾン層を破壊する危険性が全くないわけではない。そこで近年においては、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であり、分子中に塩素原子を持たないフッ化炭化水素(以下、HFCという)が発泡剤として用いられるようになった。
【0004】
ところが、このHFCは地球温暖化係数が大きいため、地球環境保護の観点からは未だ改善の余地を残す発泡剤であった。このため、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であるとともに、地球温暖化係数も小さい、環境にやさしい発泡剤を使用するポリスチレン樹脂押出発泡体の製造法が検討されている。例えば、物理発泡剤として、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、シクロペンタンやイソペンタンなどの脂肪族炭化水素や脂環式炭化水素(以下、これらをHCという)が検討され、前記フロン類の代替発泡剤として使用されるようになってきている。
【0005】
前記HCは、オゾン破壊係数が0(ゼロ)であり、地球温暖化係数も小さく、地球環境保護の観点からは好ましい発泡剤であり、熱伝導率が小さいガスである。しかしながら、HCは、ポリスチレン樹脂に対する透過速度が空気よりも遅いものの、前記フロン類と比べると相対的に速いものである。その結果、HCは発泡体中から散逸し易く、HCを用いて製造されたポリスチレン樹脂押出発泡体の熱伝導率は、前記フロン類を用いて製造された押出発泡体よりも速く上昇してしまうという問題が新たに発生し、HCを用いて製造されたポリスチレン樹脂押出発泡体は長期間に亘り断熱性を維持することに関しては改善の余地を残すものであった。
【0006】
前記ポリスチレン樹脂押出発泡体の長期断熱性を改良する方法として、製造後1ヶ月以内に、ポリスチレン樹脂押出発泡体の表面に非ハロゲン系物質のガスバリアー性被膜を形成させることにより、ポリスチレン樹脂押出発泡体からの物理発泡剤の散逸を抑制する技術が提案されている(特許文献1)。
【0007】
また、見かけ密度が20〜50kg/m、独立気泡率が85%以上、厚みが10〜150mm、非ハロゲン系有機物理発泡剤を含有する熱可塑性樹脂押出発泡断熱板において、該発泡板を構成する熱可塑性樹脂がポリスチレン樹脂と特定の条件を満足するポリエステル樹脂との混合物であると共に、該ポリエステル樹脂の配合量がポリスチレン樹脂100重量部に対して5〜150重量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡断熱板が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−144497号公報
【特許文献2】特願2010−90555号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載の方法は、ポリスチレン樹脂押出発泡体をガスバリアー性被膜で被覆するために特別な装置を必要とするうえに、ポリスチレン樹脂押出発泡体の切断加工の際や、施工時に該被膜が傷つけられると断熱性能が維持できなくなるため、実用性に劣るといった問題を有するものであった。
【0010】
また、特許文献2の発泡体においては、さらに断熱性を向上させることが求められてきている。
【0011】
本発明は、従来技術の問題点に鑑み、オゾン破壊係数がゼロか又は極めて低いと共に、地球温暖化係数も小さな発泡剤を使用して、熱伝導率が小さく、長期に亘り断熱性を維持できると共に、表面状態の良好な押出発泡体を製造できる、熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下に示す熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法が提供される。
[1] 炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)、及び水(c)と熱可塑性樹脂とを溶融混練して発泡性熱可塑性樹脂溶融物を得、該発泡性熱可塑性樹脂溶融物を押出発泡する熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法であって、
該熱可塑性樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜50モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とのポリエステル共重合体(B)と、ポリスチレン樹脂(A)とからなり、該ポリエステル共重合体(B)の配合量が、該ポリスチレン樹脂(A)100重量部に対して5〜150重量部であり、該水(c)の配合量が、前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.01モル以上1モル未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。

[2] 前記ポリエステル共重合体(B)が、スピログリコールを10〜50モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなることを特徴とする前記[1]に記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。

[3] 前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の配合量が前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.01〜2モルであり、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)、及び水(c)の配合量の合計が前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.5〜3モルであることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜50モル%含むジオール成分と、ジカルボン酸成分とのポリエステル共重合体(B)(以下、ポリエステル共重合体(B)ということがある)と、ポリスチレン樹脂(A)とからなる熱可塑性樹脂を用い、さらに、該熱可塑性樹脂に炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)及び水(c)を含有させて、発泡性熱可塑性樹脂溶融物とし、該発泡性熱可塑性樹脂溶融物を押出発泡させることにより、該発泡性熱可塑性樹脂溶融物に含有される水が、前記ポリエステル共重合体(B)と相互作用するので、押出発泡時の生産安定性に優れる方法である。更に本発明の製造方法によれば、該熱可塑性樹脂中にポリスチレン樹脂(A)の連続相と前記ポリエステル共重合体(B)の分散相とを形成させることができることから、長期断熱性に優れた熱可塑性樹脂押出発泡体(以下、単に押出発泡体という。)を、容易に得ることが可能となる。
【0014】
また、前記ポリエステル共重合体(B)の環状エーテル骨格を有するグリコール成分の含有量が、全ジオール成分を100モル%として、10〜50モル%であることにより、ポリスチレン樹脂(A)との相溶性が更に向上することにより、発泡性が阻害されないと共に、押出安定性が更に向上し、難燃性及び熱安定性に優れる押出発泡体を安定して得ることが可能となる。
さらに、得られる押出発泡体を構成する熱可塑性樹脂が、ポリスチレン樹脂(A)の連続相、ポリエステル共重合体(B)の分散相を形成し易いものとなる。更には、ポリエステル共重合体(B)の分散相が層状構造を形成させることが可能となる。
そのため、本発明の製造方法により得られる押出発泡体は、気泡膜中のポリエステル共重合体(B)の分散相構造によりガスバリアー性が向上することから、得られる押出発泡体からの炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の逸散と、空気の発泡体への流入を効果的に抑制することが可能となる。従って、本発明の製造方法により得られる押出発泡体は、フロン類からなる発泡剤を使用しなくても、低い熱伝導率が長期に亘って維持されることにより、優れた断熱性能を保持することができ、次世代の建築、土木用断熱材として有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例2により得られた熱可塑性樹脂押出発泡体の気泡膜の断面写真(拡大倍率:5000倍)である。
【図2】図2は、比較例3により得られた熱可塑性樹脂押出発泡体の気泡膜断面写真(拡大倍率:5000倍)である。
【図3】図3は、参考例1により得られた熱可塑性樹脂押出発泡体の気泡膜断面写真(拡大倍率:5000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法について詳細に説明する。
【0017】
本発明は、炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)および水(c)と熱可塑性樹脂とを溶融混練して発泡性熱可塑性樹脂溶融物を得、該発泡性熱可塑性樹脂溶融物を押出発泡する熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法であって、
該熱可塑性樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜50モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とのポリエステル共重合体(B)と、ポリスチレン系樹脂(A)とからなり、
該ポリエステル共重合体(B)の配合量が、該ポリスチレン系樹脂(A)100重量部に対して5〜150重量部であり、
該水(c)の配合量が、前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.01モル以上1モル未満であることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法においては、前記のとおり、炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)、および水(c)を含有する発泡性熱可塑性樹脂溶融物を押出発泡することにより押出発泡体を製造する。
該熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂(A)と、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜50モル%含むジオール成分と、ジカルボン酸成分とからなるポリエステル共重合体(B)とからなるものである。該熱可塑性樹脂を用いることにより、発泡性の悪化を招くことなく、安定して、長期断熱性に優れ、発泡体厚みが厚く、高発泡倍率の、良好な熱可塑性樹脂押出発泡体を製造することができる。
【0019】
本発明において使用されるポリスチレン樹脂(A)としては、例えばスチレン単独重合体や、スチレンを主成分とするスチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体、スチレン−ジメチルスチレン共重合体、スチレン−エチルスチレン共重合体、スチレン−ジエチルスチレン共重合体、ハイインパクトポリスチレン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用される。なお、上記ポリスチレン樹脂におけるスチレン成分含有量は50モル%以上であることが好ましく、特に80モル%以上であることがより好ましい。
【0020】
前記ポリスチレン樹脂の中でも、スチレン単独重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メチルスチレン共重合体が好ましく、なかでも、スチレン単独重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体が好適である。
【0021】
前記ポリスチレン樹脂(A)は、温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度(η)が、500〜10000Pa・sであることが好ましく、700〜8000Pa・sであることがより好ましく、800〜6000Pa・sであることがさらに好ましい。なお、前記溶融粘度の測定は、温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下において測定するものとし、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定することができる。
【0022】
前記ポリエステル共重合体(B)は、環状エーテル骨格を有するグリコールを特定量含むジオール成分と、ジカルボン酸成分とからなるものであり、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合させる方法やポリエステル単独重合体及び/又はポリエステル共重合体のエステル交換反応等により製造することができる。
【0023】
該ポリエステル共重合体(B)は、環状エーテル骨格を有するグリコールを含有するものである。なお、環状エーテル骨格を有するグリコールとして、具体的には3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン(以下、スピログリコールということがある)等が挙げられる。
該環状エーテル骨格を有するグリコール成分を特定量含有するポリエステル共重合体(B)は、前記熱可塑性樹脂のガスバリアー性を向上させることができ、更に耐熱性を向上させることもできる。
【0024】
該ポリエステル共重合体(B)において、環状エーテル骨格を有するグリコールの含有量は、全グリコール成分を100モル%として、10〜50モル%である。
該含有量が上記範囲内である場合には、前記ポリエステル共重合体(B)がポリスチレン系樹脂(A)との相溶性に優れるものとなると共に、非晶性、或いは結晶化速度が十分に遅い特性を有するものであることにより、発泡性が阻害されることなく、また、押出安定性が向上する。更に、該ポリエステル共重合体(B)を用いると、押出発泡体を構成する熱可塑性樹脂が、気泡膜断面において、ポリスチレン樹脂(A)の連続相、前記ポリエステル共重合体(B)の分散相を形成させることが容易となる。なお、該ポリエステル共重合体(B)が、気泡膜全体において層状構造を形成し易くなるという観点からは、前記環状エーテル骨格を有するグリコール成分の含有量は、全グリコール成分中、15〜45モル%であることが好ましく、20〜40モル%であることがより好ましく、25〜35モル%であることがさらに好ましい。
【0025】
前記ポリエステル共重合体(B)は、前記環状エーテル骨格を有するグリコールの他に、他のジオール成分として、脂肪族系及び芳香族系ジオール(二価のフェノールを含む)、或いはそのエステル形成性誘導体を含有することができる。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール、又は1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,6−シクロヘキサンジオール等の脂環式ジオール、ビスフェノールA等の芳香族ジオールなどを含有することができる。これらのジオール成分は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
前記ポリエステル共重合体(B)のジカルボン酸成分としては、ジカルボン酸或いはそのエステル形成性誘導体から選択される少なくとも一種を使用できる。
ポリエステル共重合体(B)中のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、3,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸若しくはその酸無水物等の誘導体、又はシュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸若しくはその誘導体、又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸,テトラリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸若しくはその誘導体が挙げられる。
なお、エステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1〜4程度のアルキルエステルなどのエステル誘導体、ジアンモニウム塩などの塩、ジクロリドなどの酸ハロゲン化物などを挙げることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で使用してもよく2種以上を複合して使用してもよい。
【0027】
前記ジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸又はその酸無水物またはその誘導体、例えば、テレフタル酸,イソフタル酸,ナフタレンジカルボン酸、これらのジカルボン酸を一種類以上含むことが好ましい。
【0028】
また、前記ポリエステル共重合体(B)は、例えば少量の安息香酸,ベンゾイル安息香酸,メトキシポリエチレングリコール等の単官能化合物から誘導される成分単位によって分子末端が封止されていてもよい。また、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多官能化合物から誘導される成分単位を少量含んでいてもよい。
【0029】
また、前記ポリエステル共重合体(B)は、非晶性または低結晶性の化合物、或いは結晶化速度が十分に遅い化合物であることが好ましい。前記ポリエステル共重合体(B)が上記特性を有するものであれば、ポリスチレン樹脂(A)との混練性に優れると共に、押出発泡時に前記ポリエステル共重合体(B)の結晶化が起こり、発泡性や押出安定性が悪化してしまうことを防止することができる。
【0030】
なお、前記ポリエステル共重合体(B)の替わりに、ポリスチレン樹脂(A)と、代表的なポリエステル樹脂であるポリエチレンテレフタレートとの混合樹脂を用いて押出発泡を行うと、押出機内にて、ポリスチレン樹脂とポリエチレンテレフタレートとの混合樹脂を発泡温度まで冷却する前に、ポリエチレンテレフタレートが結晶化してしまうため、安定して押出発泡を行うことができないうえに、得られる発泡体も機械的物性や独立気泡率に劣るものとなる。
【0031】
前記ポリエステル共重合体(B)の結晶性や結晶化速度の程度は、例えば、スピログリコール以外の他のジオール成分としてエチレングリコールとシクロヘキサンジメタノール等2種以上を使用して、それらジオール成分単位のモル比を変える方法や、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸等を2種以上使用してそれらジカルボン酸成分単位のモル比を変える方法等により調整することができる。
【0032】
なお、前記ポリエステル共重合体(B)の結晶性の程度は、JIS K7122(1987)に記載の方法に基づいて測定することができる。具体的には、熱流束示差走査熱量測定法に基づいて、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温した後、10℃/分の冷却速度で30℃まで降温し、再度10℃/分の昇温速度で30℃から300℃まで昇温して得られるDSC曲線において、前記ポリエステル共重合体(B)の融解に伴う吸熱ピークの熱量が、5J/g未満(0を含む)であるものが好ましい。さらに、該ポリエステル共重合体(B)の吸熱ピーク熱量は、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル共重合体(B)とからなる熱可塑性樹脂の押出発泡性の観点から、2J/g未満(0も含む)であることがより好ましい。
【0033】
前記ポリエステル共重合体(B)の溶融粘度は、ポリスチレン樹脂(A)との相溶性の観点からは、ポリスチレン樹脂(A)の溶融粘度(ηA)に近いほど好ましい。温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下における溶融粘度(ηB)は500〜10000Pa・sであることが好ましく、700〜8000Pa・sであることがより好ましく、1000〜6000Pa・sであることがさらに好ましく、特に2000〜5000Pa・sの範囲内であることが好ましい。
また、前記ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル共重合体(B)との溶融粘度比(ηA/ηB)は、0.15〜0.50であることが好ましく、より好ましくは0.25〜0.4である。
【0034】
本発明においては、該ポリエステル共重合体(B)の溶融粘度とポリスチレン樹脂(A)の溶融粘度とが近いものを用いることにより優れた相溶性が発現し、更に押出発泡体の見かけ密度が20〜50kg/m程度の高発泡倍率となるように押出発泡された場合に、気泡膜を適度に延伸させることが可能となり、気泡膜内で延伸されたポリエステル共重合体(B)の分散相の形成が容易になる。
【0035】
前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン樹脂(A)100重量部に対してポリエステル共重合体(B)が5〜150重量部の割合で配合されたものである。該ポリエステル共重合体(B)の配合量は、ポリスチレン樹脂(A)100重量部に対して8〜100重量部であることが好ましく、10〜70重量部であることがより好ましく、15〜60重量部であることが更に好ましく、20〜45重量部であることが特に好ましい。ポリエステル共重合体(B)の配合量が少なすぎると、得られる押出発泡体のガスバリアー性を向上させる効果が小さくなる。一方、ポリエステル共重合体(B)の配合量が多すぎると、ポリスチレン樹脂(A)との相溶性が低下して押出発泡が困難になり、高い発泡倍率を有し、更には高い独立気泡率を有する押出発泡体が得られなくなったり、ポリエステル共重合体(B)がガスバリアー性に優れる分散相構造をとることができなくなったりする虞がある。
【0036】
本発明の製造方法においては、本来の目的を阻害しない範囲内で、熱可塑性樹脂中に、ポリオレフィン樹脂やスチレン系エラストマーやポリフェニレンエーテル樹脂のような他の重合体を、配合目的に応じて混合して使用することもできる。但し、そのような他の重合体の配合量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、30重量部を上限とすることが好ましく、20重量部以下であることが更に好ましく、10重量部以下であることが特に好ましい。
【0037】
次に、本発明の特徴の一つである、ポリスチレン樹脂(A)と特定のポリエステル共重合体(B)とからなる熱可塑性樹脂を用いることの意味について詳しく説明する。
ポリエステル共重合体(B)を配合することにより押出発泡体に期待される効果には、<1>熱伝導率自体の低減効果と、<2>炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)に対するガスバリアー性の向上効果によるガス透過速度を遅くすることによる、熱伝導率の上昇の遅延化がある。
【0038】
<1>熱伝導率の低減
一般に、ポリスチレン樹脂の熱伝導率と、ポリエステル共重合体の熱伝導率を非発泡状態、すなわちポリマー同士で比較すると、ポリスチレン樹脂に比べポリエステル共重合体の熱伝導率が高いことから、ポリスチレン樹脂にポリエステル共重合体を混合した非発泡の混合樹脂の熱伝導率はポリスチレン樹脂単独の熱伝導率よりも高くなる。
【0039】
それに対して、ポリスチレン樹脂単独発泡体と、ポリスチレン樹脂(A)にポリエステル共重合体(B)を混合した熱可塑性樹脂発泡体とを比較すると、ポリエステル共重合体(B)を混合した熱可塑性樹脂発泡体の方がポリスチレン樹脂単独発泡体に比べ熱伝導率が低くなる。さらに、発泡体中のポリエステル共重合体(B)の含有量が増すにしたがって熱伝導率が低下する傾向がある。この事実は、本発明者等が見出したものである。
【0040】
前記ポリエステル共重合体(B)を含有する熱可塑性樹脂発泡体の熱伝導率が、ポリスチレン樹脂単独発泡体の熱伝導率より低くなる理由としては、ポリスチレン樹脂(A)の赤外領域の吸収帯にさらにポリエステル共重合体(B)の吸収帯が付加されて赤外領域の吸収帯が増し、該熱可塑性樹脂が赤外線を吸収するためであると推測される。
【0041】
一般的に、発泡体では樹脂自体の熱伝導のほかに、発泡体気泡中の気体(残存発泡剤及び大気成分)による熱伝導及びその対流によっても熱が伝わる。さらに、発泡体を構成する気泡は幾重にも亘って形成されていることから気泡膜間の赤外線の輻射によっても熱が伝わる。本発明で得られる押出発泡体の場合、前記ポリエステル共重合体(B)の赤外線の吸収により、輻射による伝熱が低減されて輻射伝熱が小さくなることによっても断熱性が向上すると推測される。この輻射伝熱の抑制は、後述するように、ポリエステル共重合体(B)が微細に分散することでその効果はより顕著なものとなる。
【0042】
また、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル共重合体(B)とからなる熱可塑性樹脂の場合、ポリスチレン樹脂(A)の屈折率とポリエステル共重合体(B)との屈折率とが異なる上に、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル共重合体(B)とからなる熱可塑性樹脂は完全な相溶系までは呈しないために白濁を生じる。この白濁化は赤外領域まで影響し、赤外線を乱反射し、輻射による伝熱が低減することにより輻射伝熱が小さくなることで熱伝導率が低下し、押出発泡体の断熱性が向上することも推測される。
いずれの理由によっても、本発明においては、ポリスチレン樹脂(A)と特定のポリエステル共重合体(B)とからなる熱可塑性樹脂を用いることにより、得られる押出発泡体の熱伝導率が低下する。
【0043】
<2>発泡剤(a)に対するガスバリアー性の向上
前記ポリエステル共重合体(B)の酸素、窒素、炭化水素などのガス透過速度は、結晶性ポリエステル樹脂よりも数倍高く、延伸によるガスバリアー性向上効果は殆ど期待できない。従って、押出発泡体からの発泡剤の散逸および該発泡体への空気の流入の抑制には、ポリエステル共重合体(B)をポリスチレン樹脂(A)に配合することが効果的とは、通常では考え難い。しかしながら、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル共重合体(B)との組合せが比較的相溶性に優れることから、発泡体の気泡膜においてポリエステル共重合体(B)が配向した状態で微細に分散相を形成することが可能となる。この分散構造により、ガス透過遮蔽効果が発揮されるものと考えられる。このことは、該ポリエステル共重合体(B)が延伸されて、分散した構造を形成すること、特に、気泡膜の断面写真において層状に分散した構造が表れているものが、優れたガスバリアー性能を発揮することからも裏づけられる。このガスバリアー性の向上<2>と前記熱伝導率の低減<1>との組合わせにより、断熱性能は一層向上すると考えられる。
【0044】
次に、本発明において熱可塑性樹脂に配合される、炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)と、二酸化炭素(b)と、水(c)について説明する。
【0045】
前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)(以下、単に(a)と記すことがある。)は、熱可塑性樹脂に配合されて、発泡剤として働くものであり、その具体例としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、ガス透過速度が遅く発泡剤として好適な、イソブタンが好ましい。
【0046】
前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)は、ポリスチレン樹脂に対するガス透過速度が比較的遅いものであり、押出発泡体に比較的長期間残存することができる。また、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)は、熱伝導率が空気よりも低いことから、発泡体の気泡内に残存した場合には、押出発泡体の熱伝導率の低減に寄与することができる。しかしながら、一方で、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)は、押出発泡体の難燃性を阻害するものでもある。従って、難燃性と長期の断熱性を両立するように、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)を添加しなければならない。
【0047】
押出発泡体の長期断熱性と難燃性との両立を考慮すると、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の配合量は、前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.01〜2モルであることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.5モル、更に好ましくは0.2〜1.2モル、特に好ましくは0.3〜1.0モルである。さらに、上記範囲内であれば、発泡性熱可塑性樹脂溶融物を可塑化することもでき、押出発泡時の溶融物性をより発泡に適した状態とすることができる。
【0048】
前記二酸化炭素(b)(以下、単に(b)と記すことがある。)は発泡剤として働き、特に、押出発泡体の見かけ密度をさらに小さくすることが可能となる。
また、二酸化炭素(b)は、ポリスチレンに対するガス透過速度が比較的速いものである。従って、発泡直後に押出発泡体中からその殆どが散逸してしまうことから、押出発泡体に残存することは少ない。このような、発泡体中に残存しない二酸化炭素を用いることにより、より高い発泡倍率の押出発泡体を得ることが可能となる。従来の方法においては、高い発泡倍率の押出発泡体を得ようとする場合には、発泡性に優れる、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)を多量に配合しなければならならず、その結果押出発泡体の難燃性を満足させることが困難となるおそれがあった。
【0049】
本発明の製造方法によれば、前記二酸化炭素(b)を添加することより、高い発泡倍率の押出発泡体を得ることが可能となると共に、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の配合量を、難燃性が問題とならない程度に少なくすることが可能となる。結果として、断熱性と難燃性が両立する範囲で、得られる押出発泡体中の前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の残存量を少なくすることが可能となり、押出発泡体に所望される難燃性を付与するための難燃剤の添加量を少なくすることができる。
【0050】
さらに、二酸化炭素(b)を発泡剤として使用すると、得られる押出発泡体の気泡を小さくすることができるので、従来添加されていた、気泡調整剤の添加量を減らすことも可能となる。該気泡調整剤は、主に熱伝導率の高い無機化合物が使用されることが多いことから、気泡調整剤の配合量を減少させることができれば、得られる押出発泡体の熱伝導率を低くでき、断熱性能を向上させる効果が期待できる。
【0051】
押出発泡体の発泡性と難燃性とを考慮すると、二酸化炭素(b)の配合量は、前記熱可塑性樹脂1kg当たり、0.1〜3モルであることが好ましく、0.2〜2.5モルであることがより好ましく、0.3〜2モルであることが更に好ましく、0.3〜1モルであることが特に好ましい。
【0052】
さらに、本発明の製造方法では、前記熱可塑性樹脂溶融物に、前記(a)、(b)に加えて、水(c)(以下、単に(c)と記すことがある。)が配合される。水(c)は発泡剤としても働くことから、得られる発泡体の見かけ密度をより小さくすることが可能となる。さらに、水は、ポリスチレン樹脂(A)よりもポリエステル共重合体(B)に対して高い親和性を示し、ポリエステル共重合体(B)の溶融粘度を低下させることが可能となる。従って、ポリスチレン樹脂(A)と前記ポリエステル共重合体(B)との押出機内での溶融混練性を向上させることができると共に、押出発泡時の成形性を向上させることができる。
【0053】
さらに、前記水(c)は、ポリエステル共重合体(B)との親和性が高いことから、押出発泡時にポリスチレン樹脂(A)とポリエステル共重合体(B)の粘度バランスを良好に維持することができ、押出発泡体の気泡膜が形成される際に、ポリエステル共重合体(B)を気泡膜の厚み方向に対して直交する方向に延伸された状態で微細に分散させることを可能にする。
【0054】
前記水(c)の配合量は、前記熱可塑性樹脂1kgに対して、0.01モル以上1モル未満である。
水(c)の配合量が少なすぎる場合には、押出発泡体の気泡膜が形成される際に、大部分がポリエステル共重合体(B)の分散相を形成するものの、ポリエステル共重合体(B)の一部分が粒状となる虞があり、気泡膜全体にポリエステル共重合体(B)が分散相を形成する場合と比較するとガスバリアー性が低下する虞がある。一方、水(c)の配合量が多すぎると、得られる押出発泡体の内部や表面に過大な気泡が発生しやすくなる。この過大気泡は、押出発泡体の熱伝導率の上昇及びガスバリアー性の低下に繋がるので好ましくない。また、過大気泡が押出発泡体の表面に発生した場合には、表面凹凸が生じることから、外観が良好な押出発泡体が得られなくなる。該過大気泡は、水の過剰な添加により、ポリエステル共重合体(B)の溶融粘度がポリスチレン樹脂(A)の粘度より低くなりすぎて、気泡生成時の樹脂の延伸にポリエステル共重合体(B)が耐えられなくなり、破泡することが原因と推察される。
【0055】
上記観点から、水(c)の配合量は、前記熱可塑性樹脂1kgに対して、0.02〜0.95モルであることが好ましく、0.05〜0.8モルであることがより好ましく、0.1〜0.7モルであることが更に好ましい。上記範囲内であれば、水による過大気泡が生成することなく、より良好な押出発泡体が得られる。
【0056】
前記(a)、(b)、及び(c)の熱可塑性樹脂溶融物に対する配合量は、所望する発泡倍率との関連で適宜選択されるが、見かけ密度が20〜50kg/cmの押出発泡体を得るには、通常、熱可塑性樹脂1kg当たり、(a)〜(c)の合計量として0.5〜3モルであることが好ましく、0.6〜2.5モルであることがさらに好ましい。
【0057】
さらに、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)と二酸化炭素(b)と水(c)の配合割合は、(a):(b):(c)=20〜70モル%:10〜50モル%:10〜50モル%(但し(a)+(b)+(c)=100モル%である)であることが好ましい。上記範囲内であれば、難燃性と断熱性が良好な、低い見かけ密度の押出発泡体を得ることができる。また、ポリエステル共重合体(B)のポリスチレン樹脂(A)との混練性をさらに向上させることが可能である。上記観点から、(a):(b):(c)=30〜60モル%:20〜40モル%:10〜45モル%(但し(a)+(b)+(c)=100モル%である)であることが更に好ましい。
【0058】
本発明においては物理発泡剤として、本発明の所期の目的を損なわない範囲内で、前記(a)〜(c)以外の発泡剤を適宜添加することができる。
具体的には、trans−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、cis−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロプロペン等のハイドロフルオロオレフィン、シクロヘキサン、塩化アルキル、アルコール類、エーテル類、ケトン類、蟻酸メチル等が挙げられる。これらの発泡剤の中でも炭素原子数1〜3の塩化アルキル、炭素原子数1〜4の脂肪族アルコール、アルキル鎖の炭素原子数が1〜3のエーテル類等が物理発泡剤として好適なものである。炭素原子数1〜3の塩化アルキルとしては、例えば塩化メチル,塩化エチル等が挙げられる。炭素原子数1〜4の脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、アリールアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール等が挙げられる。アルキル鎖の炭素原子数が1〜3のエーテル類としては例えばジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチレンジメチルエーテル等が挙げられる。特に、発泡倍率向上効果などが期待できるものとして、ジメチルエーテル、メタノール、エタノールが挙げられる。これらの物理発泡剤は単独または2種以上を併用することもできる。
【0059】
本発明の製造方法においては、難燃性を向上させるために、難燃剤を、前記熱可塑性樹脂に添加することができる。該難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく使用される。
臭素系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(2−ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAビス(アリルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、デカブロモジフェニルオキサイド、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、N−2,3−ジブロモプロピル−4,5−ジブロモヘキサヒドロフタルイミド、臭素化ポリスチレン、臭素化ビスフェノールエーテル誘導体などが挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。上記の臭素系難燃剤の中でも、その熱安定性が高く、高い難燃効果が得られることから、テトラブロモシクロオクタン、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、2,2−ビス[4−(2,3−ジブロモ−2−メチルプロポキシ)−3,5−ジブロモフェニル]プロパン、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートが特に好ましい。
【0060】
該難燃剤の配合量は、難燃性を向上させるとともに、押出発泡性の低下および機械的物性の低下を抑制するうえで、熱可塑性樹脂100重量部当たり1〜10重量部であることが好ましく、1.5〜7重量部であることがより好ましく、2〜5重量部であることが更に好ましい。
【0061】
さらに、本発明の製造方法においては、押出発泡体の難燃性をさらに向上させることを目的として、難燃助剤を上記臭素系難燃剤と併用して使用することができる。難燃助剤としては、例えば2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等のジフェニルアルカンやジフェニルアルケン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン等のポリアルキル化芳香族化合物、トリフェニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、三酸化アンチモン、五酸化二アンチモン、硫酸アンモニウム、すず酸亜鉛、シアヌル酸、イソシアヌル酸、トリアリルイソシアヌレート、メラミンシアヌレート、メラミン、メラム、メレム等の窒素含有環状化合物、シリコーン系化合物、酸化ホウ素、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛などの無機化合物、赤リン系、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン、次亜リン酸塩等のリン系化合物等が挙げられる。これらの化合物は単独又は2種以上を混合して使用できる。前記難燃助剤の添加量は熱可塑性樹脂100重量部に対して、ジフェニルアルカンやジフェニルアルケンの場合は0.05〜1重量部であることが好ましく、0.1〜0.5重量部であることが更に好ましい。その他の難燃助剤の場合は、0.5〜5重量部添加されることが好ましく、1〜4重量部添加されることがより好ましい。
【0062】
また、本発明の製造方法においては、押出発泡体に断熱性向上剤を添加してさらに断熱性を向上させることができる。該断熱性向上剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、アルミ等の金属、セラミック、カーボンブラック、黒鉛等の微粉末、赤外線遮蔽顔料、ハイドロタルサイトなどが例示される。これらは1種又は2種以上を使用することができる。断熱性向上剤の配合量は熱可塑性樹脂100重量部に対し、0.5〜5重量部であることが好ましく、更に1〜4重量部であることさらに好ましい。
【0063】
また、本発明の製造方法においては、必要に応じて、気泡調整剤、顔料,染料等の着色剤、熱安定剤、充填剤等の各種の添加剤を適宜添加することができる。該気泡調整剤として、例えば、タルク、カオリン、マイカ、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、クレー、ベントナイト、ケイソウ土等の無機物粉末、アゾジカルボジアミド等の従来公知の化学発泡剤などを用いることができる。なかでも難燃性を阻害することがなく、気泡径を調整することが容易であるタルクが好適である。特にJIS Z8901(2006年)に規定される粒径が0.1〜20μm、更に0.5〜15μmの大きさのタルクが好ましい。気泡調整剤の配合量は、該気泡調整剤の種類、目的とする気泡径等によって異なるが、熱可塑性樹脂100重量部に対し、概ね、0.01〜8重量部であることが好ましく、更に0.01〜5重量部であることがより好ましく、0.05〜3重量部であることが更に好ましい。
【0064】
難燃剤、気泡調整剤や他の添加剤は、マスターバッチを調製して添加することが分散性の点から好ましい。気泡調整剤のマスターバッチの調製は、例えば、気泡調整剤としてタルクを使用した場合、熱可塑性樹脂に対してタルクの含有量が20〜80重量%となるように調製されることが好ましく、30〜70重量%となるように調製されることがより好ましい。
【0065】
本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法においては、ポリスチレン系樹脂(A)と、ポリエステル共重合体(B)と、必要に応じて気泡調整剤などの添加剤を、押出機内にて溶融混練して熱可塑性樹脂溶融物とし、ついで押出機中に前記(a)、(b)、及び(c)を圧入して溶解させて発泡性樹脂溶融物とし、該発泡性樹脂溶融物を冷却して発泡樹脂温度とした後、押出機先端に取付けたフラットダイから低圧域に押出して発泡させることで熱可塑性樹脂押出発泡体を得ることができる。
なお、発泡樹脂温度とは、発泡性樹脂溶融物が発泡に適した溶融粘度を示す範囲の温度を意味し、使用する樹脂の種類、流動性向上剤の添加の有無(添加する場合、その種類や量)、更には発泡剤の添加量や発泡剤の成分等によっても変化する。
【0066】
発泡性樹脂溶融物を構成する熱可塑性樹脂、前記(a)〜(c)、難燃剤、断熱性向上剤、その他の添加剤や、これらの配合量は、前記した通りである。
なお、難燃剤を押出機に供給する場合には、所定量の難燃剤を熱可塑性樹脂やポリスチレン樹脂(A)等とドライブレンドしたものを押出機に供給する方法、難燃剤と熱可塑性樹脂やポリスチレン系樹脂(A)等とをニーダー等により混練した溶融混練物を押出機に供給する方法、予め加熱溶融させた液状の難燃剤を押出機内に供給する方法や難燃剤マスターバッチを作製して押出機に供給する方法を採用することができる。特に、分散性の点から難燃剤マスターバッチを作製して押出機に供給する方法を採用することが好ましい。
【0067】
本発明の製造方法においては、押出機内で熱可塑性樹脂、前記(a)〜(c)、添加剤等が溶融混練された発泡性熱可塑性樹脂溶融物を発泡樹脂温度に調整した後、ダイリップを通して連続的に高圧域から低圧域に押出して発泡させつつ板状等の発泡体に賦形する。具体的には、まず発泡性樹脂溶融物を発泡させつつ、賦形装置を通過させながら圧縮して、板状に賦形する。該賦形装置としては、例えば上下一対のポリテトラフルオロエチレン製の板で構成される賦形具の使用が好ましい。
【0068】
以下、本発明の製造方法により得られる熱可塑性樹脂押出発泡体の諸物性、物性の測定方法、評価などについて詳述する。
【0069】
本発明の製造方法により得られる熱可塑性樹脂押出発泡体は、基材樹脂としてポリスチレン樹脂(A)と、ポリエステル共重合体(B)とからなる熱可塑性樹脂を用いることにより、得られる押出発泡体からの炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の散逸と、発泡体への空気の流入を抑制することができる。従って、フロン類からなる発泡剤を使用しなくても、低い熱伝導率が長期に亘って維持される優れた押出発泡体である。また、該押出発泡体は、省エネ、環境対応技術として、次世代の建築、土木用断熱材として有用なものである。
【0070】
本発明の製造方法においては、得られる押出発泡体の見かけ密度を、20〜50kg/cmとすることが好ましい。上記範囲内であれば、充分な断熱性を発揮させることが可能となり、また断熱材用途としては軽量性の点からも好ましい押出発泡体となる。
【0071】
押出発泡体の見かけ密度の測定は、JIS K 6767(1999年)に準拠して行なうものとする。試料は、押出発泡体の幅方向中央部および幅方向両端部付近の計3箇所から厚みが全厚みの直方体のサンプルを切り出して各々のサンプルについて見かけ密度を測定し、3箇所の測定値の相加平均値を見かけ密度とする。
【0072】
前記押出発泡体の厚みは、10〜150mmにすることが好ましい。上記範囲内であれば、板状に成形して、建築物用の断熱材として使用するのに好適な押出発泡体となり、十分な断熱性を有するものとなる。かかる観点から、押出発泡体の厚みは15〜120mmであることがより好ましい。なお、押出発泡体の厚みは、押出発泡体の幅方向垂直断面の幅方向の一方の端から他方の端までを6等分して両端を除く5箇所に測定点を定め、続いて、前記5箇所の測定点における押出発泡体の厚みをそれぞれ測定し、5箇所の測定値の相加平均値として算出することができる。
【0073】
前記押出発泡体の厚み方向の平均気泡径は、0.05〜2mmにすることが好ましい。厚み方向の平均気泡径が上記範囲内にあることにより気泡膜が赤外線透過を抑制することができ、より一層高い断熱性を有する押出発泡体を得ることができる。該厚み方向の平均気泡径は、0.06〜0.8mmであることがより好ましく、0.06〜0.3mmであることがさらに好ましい。
【0074】
前記押出発泡体の気泡変形率は、0.7〜2.0にすることが好ましい。気泡変形率が上記範囲内であれば、気泡が扁平となり押出発泡体の圧縮強度が低下することなく、寸法安定性に優れ、気泡形状による断熱性向上効果に優れる押出発泡体が得られる。上記観点から、該気泡変形率は、0.8〜1.5であることがより好ましく、0.8〜1.2であることがさらに好ましい。
【0075】
本明細書における平均気泡径の測定方法は次の通りである。
押出発泡体厚み方向の平均気泡径(DT:mm)及び押出発泡体幅方向の平均気泡径(DW:mm)は押出発泡体の幅方向垂直断面(押出発泡体の押出方向と直交する垂直断面)を、押出発泡体押出方向の平均気泡径(DL:mm)は押出発泡体の押出方向垂直断面(押出発泡体の押出方向に平行に、幅方向の中央部で二等分する垂直断面)の顕微鏡拡大写真を得る。次いで、該拡大写真上において測定しようとする方向に直線を引き、その直線と交差する気泡の数を計数し、直線の長さ(当然のことながら、この長さは拡大写真上の直線の長さではなく、写真の拡大率を考慮した直線の真の長さを指す。)を計数された気泡の数で割ることによって、各々の方向における平均気泡径を求める。
【0076】
なお、前記厚み方向の平均気泡径(DT:mm)の測定は幅方向垂直断面の中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、厚み方向に押出発泡体の全厚みに亘る直線を引き各々の直線の長さと該直線と交差する気泡の数から各直線上に存在する気泡の平均径(直線の長さ/該直線と交差する気泡の数)を求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を厚み方向の平均気泡径(DT:mm)とする。
【0077】
前記幅方向の平均気泡径(DW:mm)は幅方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、押出発泡体を厚み方向に二等分する位置に、3mmに拡大率を乗じた長さの直線を幅方向に引き、該直線と該直線と交差する気泡の数から、各直線上に存在する気泡の平均径を式(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))にて求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を幅方向の平均気泡径(DW:mm)とする。
【0078】
前記押出方向の平均気泡径(DL:mm)は、押出発泡体の幅方向を二等分する位置で、押出発泡体を押出方向に切断して得られた押出方向垂直断面の、中央部及び両端部の計3箇所の顕微鏡拡大写真を得、各々の写真上において、押出発泡体を厚み方向に二等分する位置に、3mmに拡大率を乗じた長さの直線を押出方向に引き、該直線と該直線と交差する気泡の数から、各直線上に存在する気泡の平均径を式(3mm/(該直線と交差する気泡の数−1))にて求め、求められた3箇所の平均径の算術平均値を押出方向の平均気泡径(DL:mm)とする。また、押出発泡体の水平方向の平均気泡径(DH:mm)は、DWとDLの相加平均値とする。
【0079】
押出発泡体の気泡変形率とは、上記測定方法により求められたDTをDHで除すことにより算出される値(DT/DH)である。該気泡変形率が1よりも小さいほど気泡は扁平であり、1よりも大きいほど縦長である。
【0080】
前記押出発泡体の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。独立気泡率が高い程、高い断熱性能を維持することができる。
【0081】
押出発泡体の独立気泡率S(%)は、ASTM−D2856−70の手順Cに従って、空気比較式比重計(例えば、東芝ベックマン(株)製、空気比較式比重計、型式:930型)を使用して、下記方法により測定された押出発泡体の真の体積Vxを用い、下記(1)式により求めることができる。
【0082】
押出発泡体の独立気泡率の測定においては、押出発泡体の中央部および幅方向両端部付近の計3箇所からカットサンプルを切り出して各々のカットサンプルを測定試料とし、各々の測定試料について独立気泡率を測定し、3箇所の独立気泡率の算術平均値を採用した。なお、カットサンプルは押出発泡体から縦25mm×横25mm×厚み20mmの大きさに切断された、押出発泡体表皮を有しないサンプルとし、厚みが薄く厚み方向に20mmのサンプルが切り出せない場合には、例えば縦25mm×横25mm×厚み10mmの大きさに切断された試料(カットサンプル)を2枚重ねて測定する。
【0083】
S(%)=(Vx−W/ρ)×100/(VA−W/ρ) (1)
【0084】
ただし、Vx:上記空気比較式比重計による測定により求められるカットサンプルの真の体積(cm)(押出発泡体のカットサンプルを構成する樹脂の容積と、カットサンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和に相当する。)
VA:測定に使用されたカットサンプルの外寸法から算出されたカットサンプルの見かけ上の体積(cm
W:測定に使用されたカットサンプル全重量(g)
ρ:押出発泡体を構成する樹脂の密度(g/cm
【0085】
本発明により得られる押出発泡板を構成する熱可塑性樹脂は、ポリスチレン樹脂(A)が連続相、前記ポリエステル共重合体(B)が分散相を形成する分散相構造を有することが好ましい。更には、発泡体中の発泡剤の散逸や発泡体への空気の流入を効果的に防止することが可能となり、優れた長期断熱性を得ることができるという観点からは、前記ポリエステル共重合体(B)が、押出発泡体の気泡膜内に引き伸ばされた状態で存在することが好ましく、更には、層状の分散構造を形成することが好ましい。
【0086】
なお、本発明において「層状」とは、押出発泡体の気泡膜断面において、気泡膜全体に、図1に示すように、ポリスチレン樹脂(A)中に分散しているポリエステル共重合体(B)の大部分が、微細に、かつ気泡膜の厚み方向に対し直交する方向に延伸された状態で重なり合うように存在している状態のことをいう。
【0087】
前記気泡膜中の、ポリエステル共重合体(B)の相の数が多いほど押出発泡体の熱伝導率を低下させる効果が大きい。かかる観点から、具体的には、ポリエステル共重合体(B)の相の数の平均が気泡膜の厚み方向に対して3以上であることが好ましく、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは7以上であり、特に好ましくは10以上であり、最も好ましくは20以上である。その上限は、概ね50以下である。

【0088】
本発明により得られる押出発泡体は、前記ポリエステル共重合体(B)により、発泡体内への空気の流入、発泡体からの発泡剤ガスの散逸が抑制され、熱伝導率の上昇が抑制されるものである。例えば、JIS A9511で規定される押出法ポリスチレンフォーム保温板3種の規格を満足するような、高度の断熱性を発現することができる。
【0089】
前記押出発泡体は、製造後10日経過後の熱伝導率が、0.0250(W/m・K)以下であることが好ましく、更には、0.0240(W/m・K)以下であることが好ましい。
また、長期断熱性の観点から、製造100日経過後の熱伝導率が、0.0280(W/m・K)以下であることが好ましく、更には、0.0270(W/m・K)以下であることが好ましい。
【0090】
なお、発泡体の熱伝導率は、特に、発泡剤として炭素数3〜5の飽和炭化水素を使用した場合には、発泡体内への空気の流入、発泡体からの発泡剤ガスの散逸によって、発泡体の製造直後から熱伝導率が上昇することが知られている。この熱伝導率の上昇は、発泡体の製造後100日経過後においては、ほぼ安定した値となる。従って、長期の断熱性を判断する場合には、製造直後(或いは数日後)の初期の熱伝導率だけではなく、製造直後から製造後100日までの熱伝導率の上昇が小さいことも重要であり、製造後100日経過後の熱伝導率についても評価することが必要となる。
【0091】
本発明の製造方法で得られる押出発泡体の熱伝導率の測定は、次のように測定される。
製造直後の押出発泡体を、23℃、湿度50%の雰囲気下に保存した後、製造後10日経過後、又は100日経過後の発泡体を用いて、以下の方法で測定した。前記した保存方法により保存した押出発泡体から、縦200mm×横200mm×厚み25mmの押出発泡体表皮が存在しない試験片を切り出し、該試験片についてJIS A 1412−2(1999年)記載の平板熱流計法(熱流計2枚方式、高温側38℃、低温側8℃、平均温度23℃)に基づいて測定した。なお、厚み25mmの試験片を切り出せない場合は複数枚(できるだけ少ない枚数)の厚みの薄い試験片を積層して厚み25mmの試験片とする。
【0092】
本発明の製造方法で得られる押出発泡体は、製造10日後の気泡内の空気分圧が0.2atm以下であることが好ましい。前記押出発泡体は、前記ポリエステル共重合体(B)やその分散構造により、空気よりも熱伝導率の低い、炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の大気中への散逸が防止されると共に、発泡体の熱伝導率を上昇させる要因となる空気の気泡内への流入を遅延させることができる。従って、従来の押出発泡体よりも長期間、前記気泡内の空気分圧が低く保持されるものと推察される。上記観点から、製造10日後の空気分圧は、0.15atm以下であることが好ましい。
【0093】
本発明の製造方法により得られる熱可塑性樹脂押出発泡体は、難燃性を阻害しない範疇で優れた長期断熱性を得る観点から、押出発泡体製造後100日経過時における、押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の残存量が、押出発泡体1kg当たり0.01〜0.95モルであることが好ましく、0.1〜0.9モルであることがより好ましく、0.4〜0.9モルであることがさらに好ましい。前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の配合量が、前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.01モル以上1モル未満である場合には、得られた押出発泡体の前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の残存量が上記範囲となり、熱伝導率の低下が防止され、長期の断熱性が維持されやすくなる。
【0094】
本発明により得られる押出発泡体の炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の残存量は、製造直後の押出発泡体を、23℃、湿度50%の雰囲気下に保存し、製造後100日経過後の押出発泡体を用いて以下の方法で測定した。
炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の残存量は、ガスクロマトグラフを用いて内部標準法により測定した。具体的には、前記した保存方法により保存した押出発泡体から適量のサンプルを切り出し、このサンプルを適量のトルエンと内部標準物質(シクロペンタン)の入った蓋付き試料ビン中に入れ蓋を閉めた後、充分に撹拌し押出発泡体中の発泡剤をトルエン中に溶解させた溶液を測定用試料としてガスクロマトグラフ分析を行って押出発泡体中の炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の残存量を求めることができる。
【実施例1】
【0095】
以下、実施例及び比較例により本発明について具体的に説明する。但し、本発明の権利範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0096】
実施例、比較例で用いるポリスチレン樹脂(A)を表1に、ポリエステル共重合体(B)を表2に示す。さらに、ポリスチレン樹脂(A)とポリエステル共重合体(B)からなる熱可塑性樹脂の配合割合を表3〜5に示す。なお、実施例、比較例において、ポリスチレン樹脂(A)としては、表2に記したPS1とPS2とを同量の重量割合で混合したものを用いた。この混合樹脂(PS1+PS2)の溶融粘度(200℃、100s−1)は、1070Pa・sであった。また、ポリスチレン樹脂(A)の溶融粘度(ηA)とポリエステル共重合体(B)の溶融粘度(ηB)の比を表3〜5に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
【表2】

【0099】
気泡調整剤として、ポリスチレン樹脂(A)をベースレジンとし、タルク(松村産業(株)製、商品名:ハイフィラー#12)60重量%を含有するタルクマスターバッチを用いた。
【0100】
難燃剤として、ヘキサブロモシクロドデカン93重量%を含有する難燃剤マスターバッチを用いた。
【0101】
実施例1〜10、比較例1〜3、参考例1〜4
内径65mmの第1押出機と内径90mmの第2押出機と内径150mmの第3押出機が直列に連結されており、発泡剤注入口が第1押出機の終端付近に設けられており、間隙1mm×幅90mmの幅方向断面が長方形の樹脂排出口(ダイリップ)を備えたフラットダイが第3押出機の出口に連結され、フラットダイの樹脂出口には、これと平行するように設置された上下一対のポリテトラフルオロエチレンからなる板により構成された賦形装置(ガイダー)が付設されている、製造装置を用いた。
【0102】
熱可塑性樹脂、難燃剤及び気泡調整剤を、表3〜5に示す配合量となるように、前記第1押出機に供給し、220℃まで加熱してこれらを溶融、混練して熱可塑性樹脂溶融物とし、第1押出機の先端付近に設けられた発泡剤注入口から、飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)、水(c)を表3〜5に示す配合組成、割合となるように、該樹脂溶融物に供給し、溶融混練して発泡性樹脂溶融物とした。該発泡性樹脂溶融物を、続く第2押出機及び第3押出機に供給して樹脂温度を表中に示すような発泡樹脂温度(この発泡樹脂温度は押出機とダイとの接合部の位置で測定された発泡性樹脂溶融物の温度である)に調整した後、表3〜5に示す吐出量でダイリップからガイダー内に押出し、発泡させながら押出発泡体の厚み方向に28mmの間隙で平行に配置されたガイダー内を通過させることにより板状に成形(賦形)して、板状の熱可塑性樹脂押出発泡体を製造した。
【0103】
得られた押出発泡体の物性等の評価結果を表3〜5にまとめて示す。
なお、表中、i−Bはイソブタン、CO2は二酸化炭素を表す。なお、表中、実施例8、参考例4においては、ポリエステル共重合体(B)の配合量が多いため、気泡分圧、(a)の残存量の測定ができなかった。
【0104】
【表3】

【0105】
【表4】


【0106】
【表5】

【0107】
実施例1〜5と比較例1との対比から、水の配合量が多すぎると、過大気泡が発生することが判る。
また、実施例1〜5と比較例2、3との対比、及び図1(実施例2)と図2(比較例2)との対比から、環状エーテル骨格を有するグリコールを含むジオール成分を含まない、ポリエステル共重合体を用いると、押出発泡体の気泡膜において、ポリエステル共重合体が粒状に偏在して存在し、過大気泡が発生することが判る。
なお、実施例1〜5と参考例1〜4との対比、及び図1(実施例2)と図3(参考例1)との対比から、水が配合されていないと、ポリエステル共重合体(B)の一部が粒状となり易いことが判る。
【0108】
表1〜5の物性、評価は次のように行なった。
【0109】
<溶融粘度>
溶融粘度の測定は、温度200℃、剪断速度100sec−1の条件下において測定するものとし、株式会社東洋精機製作所製のキャピログラフ1Dによって測定される。具体的には、シリンダー径9.55mm、長さ350mmのシリンダーと、ノズル径1.0mm、長さ10.0mmのオリフィスを用い、シリンダー及びオリフィスの設定温度を200℃にし、熱風循環式乾燥機によりガラス転移温度より10℃低い温度で十分に乾燥させた樹脂を該シリンダー内に入れ、4分間放置してから測定し、そこで得られた溶融粘度(Pa・s)を採用する。なお、測定の際にオリフィスから押出されるストランドには気泡ができるだけ混入しないようにして測定した。
【0110】
<断面積>
熱可塑性樹脂押出発泡体の断面積は、押出発泡体の押出方向と直交する垂直断面(幅方向垂直断面)の断面積とした。
【0111】
<空気分圧>
押出発泡体の気泡内の空気分圧は、製造直後の押出発泡体を、23℃、湿度50%の雰囲気下に保存した後、製造後10日経過後の押出発泡体を用いて以下の方法で測定した。
前記した保存方法により保存した押出発泡体の中央部より、縦90mm×横25mm×厚み15mmのサンプルを抜き加工により採取する。次に、エタノールを満たした容器中にサンプルを入れ、容器内の空気を排出する。次に、空気が混入しないようにトルエンを容器内に入れ、サンプルをトルエンに溶解させ、気泡中の空気の体積を測定し、押出発泡体の体積と重量から気泡の体積を算出し、空気の体積を気泡の体積で割算することにより気泡内の空気分圧を求めた。
【0112】
<過大気泡>
熱可塑性樹脂押出発泡体の過大気泡の有無を、下記の評価基準により目視にて評価した。
◎:5mm以上の過大気泡が見られない。
○:押出発泡体0.3m(例えば、押出方向100m×幅方向200mm×厚み方向15mmの押出発泡体)当り、5mm以上の過大気泡が1〜2個存在している。
×:押出発泡体0.3m(例えば、押出方向100m×幅方向200mm×厚み方向15mmの押出発泡体)当り、5mm以上の過大気泡が3個以上存在している。
【0113】
<モルフォロジー>
熱可塑性樹脂押出発泡体から超薄切片を作製し、染色後、透過型電子顕微鏡にて気泡膜部断面におけるモルフォロジーを目視にて確認した。
具体的には、まず、適当な大きさに切り出した押出発泡体をエポキシ樹脂中に入れ包埋させた。包埋後、ガラスナイフ等で厚み方向に垂直な面を切り出し、ダイヤモンドナイフ等で断面から厚さ約0.1μmの発泡体の超薄型切片を切り出した。切り出した切片(サンプル)をCuメッシュに載せた状態で2%OsO水溶液数mlと共にシャーレ内に入れ室温で密封し、OsO蒸気に暴露させ、染色を30分間行った。次にサンプルをNaClO水溶液数mlと小スパチュラ1杯分のRuCl結晶を使用直前に混合した液とともにシャーレ内に入れ室温で密封し、発生するRuO蒸気に暴露させて30分間染色した。染色された発泡体の超薄型切片を透過型電子顕微鏡を用いて撮影した。撮影した電子顕微鏡写真においてポリスチレン樹脂(A)の部分が白く、ポリエステル共重合体(B)の部分が黒く観察される。なお、透過型電子顕微鏡としては、例えば日本電子株式会社製透過電子顕微鏡「JEM−1010」などを使用することができる。
【0114】
[観察条件]
透過型電子顕微鏡:日本電子株式会社製透過電子顕微鏡「JEM−1010」
加速電圧:100kV
染色:四酸化ルテニウム
拡大倍率:5000倍
◎:ポリエステル共重合体(B)が気泡膜全体に分散相を形成している。
○:ポリエステル共重合体(B)が気泡膜の大部分に分散相を形成しているが、一部に、粒状部分が見られる。
×:ポリエステル共重合体(B)が粒状に偏在している。
【符号の説明】
【0115】
1 気泡膜
2 ポリエステル共重合体(B)
3 ポリスチレン樹脂(A)






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)、及び水(c)と熱可塑性樹脂とを溶融混練して発泡性熱可塑性樹脂溶融物を得、該発泡性熱可塑性樹脂溶融物を押出発泡する熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法であって、
該熱可塑性樹脂が、環状エーテル骨格を有するグリコールを10〜50モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とのポリエステル共重合体(B)と、ポリスチレン樹脂(A)とからなり、該ポリエステル共重合体(B)の配合量が、該ポリスチレン樹脂(A)100重量部に対して5〜150重量部であり、該水(c)の配合量が、該熱可塑性樹脂1kgに対して0.01モル以上1モル未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステル共重合体(B)が、スピログリコールを10〜50モル%含むジオール成分とジカルボン酸成分とからなることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。

【請求項3】
前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)の配合量が前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.01〜2モルであり、前記炭素数3〜5の飽和炭化水素(a)、二酸化炭素(b)、及び水(c)の配合量の合計が前記熱可塑性樹脂1kgに対して0.5〜3モルであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255078(P2012−255078A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128587(P2011−128587)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】