説明

熱可塑性樹脂発泡体の製造方法

【課題】 強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れる熱可塑性樹脂発泡体、特に高温条件において気泡構造が収縮することが少なく、高い発泡倍率を達成でき、優れた外観を有する熱可塑性樹脂発泡体を安定して得ることのできる熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 熱可塑性エラストマー及び活性エネルギー線硬化型化合物を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を得る発泡構造体形成工程、
前記発泡構造体形成工程後に、表面粗さ(Ra)が1μm以上、引張破断強度が30N/15mm以上であるキャリアシートにより前記発泡構造体を連続的に搬送する発泡構造体搬送工程、及び
前記発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、前記発泡構造体中に前記活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成する活性エネルギー線照射工程、
を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション性、歪回復性(圧縮永久歪特性)の点で優れる熱可塑性樹脂発泡体の製造方法に関する。さらに詳細には、製造途中の搬送トラブルを防ぎ、クッション性、歪回復性(圧縮永久歪特性)の点で優れる熱可塑性樹脂発泡体を、安定的に連続形成できる熱可塑性樹脂発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、電子機器等の内部絶縁体、緩衝材、遮音材、断熱材、食品包装材、衣料材、建築用として用いられる発泡体(樹脂発泡体)には、部品として組み込まれる際のシール性の観点から、柔軟で、クッション性が高く、断熱性に優れたものが要求される。
【0003】
発泡体を得るために用いられる、従来の一般的な発泡方法の一つとして知られている化学的発泡方法は、ポリマーベースに添加された化合物(発泡剤)の熱分解により生じたガスによりセルを形成し、発泡体を得るものである。
【0004】
近年、気泡構造のセル径が小さく、セル密度の高い樹脂発泡体を得るために、窒素や二酸化炭素等の気体を高圧にてポリマー中に溶解させた後、圧力を解放し、ポリマーのガラス転移温度や軟化点付近まで加熱することにより気泡を形成させる方法が提案されている。このような窒素や二酸化炭素等の気体を高圧にてポリマー中に溶解させた後、圧力を解放し、場合によってはガラス転移温度まで加熱することにより気泡を成長させる方法は、非常に微細な構造を形成できる優れた方法である。この発泡方法では、熱力学的に不安定な状態から核を形成し、核が膨張成長することで気泡が形成されて、微細な発泡体が形成される。
【0005】
さらに、この発泡方法を用いて柔らかい発泡体を作るために、熱可塑性ポリウレタンを熱可塑性エラストマーへ適用する試みがなされている。例えば、この発泡方法により、熱可塑性ポリウレタン樹脂を発泡させ、均一で微細な気泡を有して、変形しにくい発泡体が得られることが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
前記方法では、発泡後、ポリマーが収縮し、気泡構造が徐々に変形したり、縮小したりして、十分な発泡倍率が得られないという問題点があった。前記方法においては、気泡中に残る窒素や二酸化炭素等の発泡ガスは、圧力が大気に解放された後に、気泡核が膨張成長して気泡を形成するため、高い気泡倍率を一旦形成した後に、気泡中に残存する発泡ガスがポリマー壁を徐々に透過していくためである。
【0007】
これに対して、紫外線硬化樹脂を添加した熱可塑性樹脂組成物を原料とし、これを発泡させた後に、前記紫外線硬化樹脂を架橋構造により硬化させることが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−168215号公報
【特許文献2】特開2009−13397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、架橋構造により硬化させる場合でも、発泡直後は、前記紫外線硬化樹脂は硬化しておらず、発泡体は非常に柔軟である。したがって、発泡後に前記紫外線硬化樹脂を活性エネルギー線照射装置に搬送する際に、発泡体が変形したり破断したりする搬送トラブルが起きやすかった。これは、搬送に用いるキャリアシートと発泡体との間にポリマー壁を透過した発泡ガスが溜まることも原因と考えられた。さらに、発泡直後の発泡体は付着性も高いため、発泡体が搬送中の装置に付着したりする搬送トラブルも起きやすかった。そのため、このような搬送トラブルが起きにくく、熱可塑性樹脂発泡体を安定して得ることができる発泡体製造方法が求められている。
【0010】
従って、本発明の目的は、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性、外観等に優れる熱可塑性樹脂発泡体、特に高温条件において気泡構造が収縮することが少ない熱可塑性樹脂発泡体を安定して得ることができ、発泡体が変形したり破断したり、発泡体が搬送中の装置に付着したりする搬送トラブルを抑制、防止できる熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らが、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、一定以上の表面粗さを有するキャリアシートを用いることにより、発泡ガスの抜け道ができて、発泡体とキャリアシートとの間に発泡ガスが溜まることを抑制できることを見いだした。さらに、前記キャリアシートが一定以上の強度を有すると、発泡体が搬送中の装置に付着することをも抑制できることを見いだした。すなわち、一定の性質を有するキャリアシートを用いることにより、搬送トラブルを抑制、防止でき、気泡構造を収縮させずに熱可塑性樹脂発泡体を安定して得ることができることを見いだし、本発明は完成に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
熱可塑性エラストマー及び活性エネルギー線硬化型化合物を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を得る発泡構造体形成工程、
前記発泡構造体形成工程後に、表面粗さ(Ra)が1μm以上、引張破断強度が30N/15mm以上であるキャリアシートにより前記発泡構造体を連続的に搬送する発泡構造体搬送工程、及び
前記発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、前記発泡構造体中に前記活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成する活性エネルギー線照射工程、
を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を提供する。
【0013】
また、前記キャリアシートの下記で規定される通気性が、200sec/100cc以下であることが好ましい。
通気性:差圧1.23kPaで100cm3の空気が、通気面積642mm2の試料を通過する際の時間(秒)(JIS P8117に準拠して測定される通気度ガーレー値)
【0014】
さらに、前記発泡構造体形成工程において用いられる発泡剤が、二酸化炭素又は窒素であることが好ましい。前記二酸化炭素は、液化二酸化炭素であることがより好ましい。また、前記二酸化炭素は、超臨界状態の二酸化炭素であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法によれば、搬送トラブルが防がれるため、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性、外観等に優れて、特に高温条件において樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少ない熱可塑性樹脂発泡体が安定して効率良く得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法の一態様を示す概略図である。
【図2】本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法の他の態様を示す概略図である。
【図3】本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法のさらに他の態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明の概要を図面に基づいて説明する。但し、これらの各図面で示される発明は、本発明の一態様に過ぎない。
【0018】
図1に示すように、発泡構造体形成工程では、発泡成形装置1により熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して、発泡構造体11が形成される。
次に、発泡構造体搬送工程では、ロール21が回転して、キャリアシート2をbで示す向きに回転させ、発泡構造体11はキャリアシート2上をaで示す方向に連続的に搬送される。本態様の場合、キャリアシート2は無端形状であり、ループを形成する。
さらに、活性エネルギー線照射工程では、活性エネルギー線照射装置3により前記発泡構造体11に活性エネルギー線が照射され、熱可塑性樹脂発泡体12が得られる。
【0019】
これに対し、図2に示すように、キャリアシート2がループを形成しない有端形状であり、繰り出しロール22からbで示す方向に繰り出され、巻き取りロール23に巻き取られるような態様も考えられる。
【0020】
さらに、図3に示すように、キャリアシート2が熱可塑性樹脂発泡体12とともに巻き取りロール23に巻き取られるような態様も考えられる。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法は、下記の工程を含む。なお「熱可塑性エラストマー及び活性エネルギー線硬化型化合物を含む熱可塑性樹脂組成物」を以下、単に「熱可塑性樹脂組成物」と称する場合がある。
[1.発泡構造体形成工程]
熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を形成する発泡構造体形成工程
[2.発泡構造体搬送工程]
前記発泡構造体形成工程後に、表面粗さ(Ra)が1μm以上、引張破断強度が30N/15mm以上であるキャリアシートにより前記発泡構造体を連続的に搬送する発泡構造体搬送工程
[3.活性エネルギー線照射工程]
前記発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、前記発泡構造体中に前記活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成する活性エネルギー線照射工程
【0022】
また、本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法は、さらに下記の工程を含むことが好ましい。
[4.発泡構造体加熱工程]
前記発泡構造体を加熱する発泡構造体加熱工程
以下に、これらの各工程を詳細に説明する。
【0023】
[1.発泡構造体形成工程]
熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を得る発泡構造体形成工程としては、特に制限されないが、
前記熱可塑性樹脂組成物を成形して構造体を得る(1−A)構造体形成工程、
前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体に発泡剤を含浸させる(1−B)発泡剤含浸工程、
前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体の圧力を解放する(1−C)減圧工程、
前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体を加熱する(1−D)加熱工程、及び
前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体を冷却する(1−E)冷却工程、
の少なくとも何れかを含むことが好ましく、
(1−A)構造体形成工程、(1−B)発泡剤含浸工程及び(1−C)減圧工程を全て含むことがより好ましく、
さらに(1−D)加熱工程を含むことがさらに好ましく、
さらに(1−E)冷却工程を含むことが特に好ましい。
【0024】
(発泡構造体形成工程の方式)
前記発泡構造体形成工程の方式としては、特に制限されないが、例えば、バッチ方式と連続方式等が挙げられる。前記バッチ方式においては、(1−A)構造体形成工程により熱可塑性樹脂組成物を構造体(未発泡樹脂成形体、未発泡成形物)とした後に、前記構造体に発泡剤を含浸させる(1−B)発泡剤含浸工程、及び前記構造体の圧力を解放する(1−C)減圧工程を行うことになる。一方、前記連続方式においては、熱可塑性樹脂組成物に発泡剤を含浸させる(1−B)発泡剤含浸工程を行った後に、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して構造体を得る(1−A)構造体形成工程と、前記熱可塑性樹脂組成物の圧力を解放する(1−C)減圧工程とを共に行う。これらのうち、前記連続方式がより好ましく用いられる。この理由は、上述のように、本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法によれば、従来よりも高い発泡倍率を達成できるという効果を奏するが、とりわけ連続方式で発泡構造体を製造する場合には、下記の理由により、特に高い発泡倍率で発泡させる必要があり、本発明の効果がより顕著であるからである。
【0025】
連続方式の場合には、特に高い発泡倍率で発泡させる必要がある理由は以下の通りである。すなわち、前記構造体形成工程と前記減圧工程とを共に行う工程である混練含浸工程において、押出機等の内部での圧力を保持するためには、例えば、押出機の場合には先端に取り付けるダイスのギャップをできるだけ狭くする必要がある。従って、連続方式の場合に充分に厚みのある発泡構造体を得るためには、狭いギャップを通して押し出された熱可塑性樹脂発泡体組成物を特に高い発泡倍率で発泡させなければならないのである。
【0026】
具体的には、連続方式の場合に押出し機先端に取り付けるダイスのギャップは、通常0.1〜1.0mmであり、従来の製造方法で形成される発泡構造体の厚みは、例えば0.5〜2.0mm程度に限定されてしまっていたのに対して、本願発明の方法によれば、そのような場合であっても最終的な厚みで0.5〜5.0mmの発泡体としての発泡構造体を連続して得ることが可能である。
【0027】
以下、(1−1)において発泡構造体形成工程の各工程について説明し、(1−2)において発泡構造体について説明する。
【0028】
(1−1)発泡構造体形成工程の各工程
以下(1−A)〜(1−E)において、(1−A)構造体形成工程、(1−B)発泡剤含浸工程、(1−C)減圧工程、(1−D)加熱工程、及び(1−E)冷却工程の各工程について説明する。
【0029】
(1−A)構造体形成工程
前記構造体形成工程は、熱可塑性樹脂組成物を成形して構造体を得る工程であれば、特に制限されない。具体的には、発泡構造体形成工程がバッチ方式の場合は、構造体を得る方法として、例えば、熱可塑性樹脂組成物を、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を用いて成形する方法、熱可塑性樹脂組成物をローラ、カム、ニーダ、バンバリ型等の羽根を設けた混錬機を用いて均一に混錬しておき、熱板プレス等を用いて所定の厚みにプレス成形する方法、射出成形機を用いて成形する方法等が好ましい方法として挙げられる。あるいは、発泡構造体形成工程が連続方式の場合は、熱可塑性樹脂組成物を、例えば、押出機、射出成形機等を用いて成形する方法等が挙げられるが、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を用いて混錬する方法等が好ましい。これらの方法のうち、所望の形状や厚みの構造体が得られる適宜な方法により成形することが好ましい。
【0030】
前述したように、連続方式において、前記構造体形成工程と前記減圧工程とを共に行う工程である混練含浸工程で押出機を用いる場合には、先端に取り付けるダイスのギャップをできるだけ狭くする必要があり、前記ギャップは通常0.1〜1.0mm程度である。
【0031】
以下(1−A−1)及び(1−A−2)において、それぞれ熱可塑性樹脂組成物及び発泡構造体について詳細に説明する。
【0032】
(1−A−1)熱可塑性樹脂組成物
本発明において、熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂発泡体の原料となる組成物であり、熱可塑性エラストマー及び活性エネルギー線硬化型化合物を少なくとも含有する。
【0033】
前記熱可塑性樹脂組成物の引張破断強度は、特に制限されないが、30N/15mm以下であることが好ましい。前記発泡構造体の引張破断強度が、30N/15mm以下である場合、キャリアシートが特に有効に機能し、さらに良好な搬送性が得られる。
【0034】
熱可塑性樹脂組成物は、該熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得られる厚さ0.5mmシート状の未発泡成形体における引張応力保持率(80℃雰囲気下、10%引張歪み、1400秒後)で、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上(とりわけ70%以上)となるものが好ましい。40%以上であれば、発泡体を形成する際の材料の応力保持率が高いことにより、発泡体を圧縮した際に発生する反発応力が保持され歪回復率の向上につながる。
【0035】
引張応力保持率(80℃雰囲気下、10%引張歪み、1400秒後)は、以下のようにして求めることができる。レオメトリックス動的粘弾性装置ARES(ティー・エイ・インスツルメント社製)の引っ張り応力緩和測定モードで、80℃の雰囲気下、前記熱可塑性樹脂組成物により得られる厚さ0.5mmのシート状の未発泡成形体に、10%の引っ張り歪を加え、歪みを加えた直後及び1400秒後に発生する応力を測定し、それぞれ初期の引張応力、1400秒後の引張応力とする。そして、下記式より求める。
引張応力保持率(80℃雰囲気下、10%引張歪み、1400秒後)
=1400秒後の引張応力/初期の引張応力×100
【0036】
前記熱可塑性樹脂組成物としては、具体的には、熱可塑性エラストマー及び活性エネルギー線硬化型化合物に加え、光重合開始剤、エラストマー架橋剤、無機粒子及び各種添加剤の少なくとも何れかを含んでいてもよい。以下(1−A−1−1)〜(1−A−1−6)においてこれらの成分について述べ、(1−A−1−7)において前記熱可塑性樹脂組成物の製造方法について述べる。
【0037】
(1−A−1−1)熱可塑性エラストマー
前記熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性エラストマーとしては、常温でゴム弾性を有する限り特に制限されないが、アクリル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。中でも、材料設計の容易さからアクリル系熱可塑性エラストマーが好ましい。なお、前記熱可塑性樹脂組成物には、前記熱可塑性エラストマーは1種類のみ含まれていてもよいし、2種類以上含まれていてもよい。
【0038】
前記熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性エラストマーは、主成分として含まれていることが好ましい。前記熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性エラストマーの含有量は、前記熱可塑性樹脂組成物全量に対して、20〜80%含有されていることが好ましく、30〜70%含有されていることがより好ましい。
【0039】
以下(1−A−1−1−1)及び(1−A−1−1−2)において、それぞれ前記アクリル系熱可塑性エラストマー及び前記ウレタン系熱可塑性エラストマーについて詳細に説明する。
【0040】
(1−A−1−1−1)アクリル系熱可塑性エラストマー
前記アクリル系熱可塑性エラストマーは、アクリル系モノマーの1種又は2種以上をモノマー成分として用いたアクリル系重合体(単独重合体又は共重合体)である。前記アクリル系重合体の種類は特に制限されないが、ガラス転移温度の低いもの(例えば、ガラス転移温度が0℃以下のもの)が好ましい。
【0041】
前記アクリル系モノマーとしては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましい。前記アクリル系モノマー(特にアクリル酸エステル)としては、ブチルアクリレート(BA)、エチルアクリレート(EA)、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)、イソオクチルアクリレート、イソノニルアクリレート、プロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート(IBXA)等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
前記アクリル系モノマーは、前記アクリル系熱可塑性エラストマーの主モノマー成分として用いられていることが好ましく、その割合は、例えば、前記アクリル系熱可塑性エラストマーを構成する全モノマー成分のうち50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。
【0043】
前記アクリル系熱可塑性エラストマーが共重合体である場合、必要に応じて、前記アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な単量体成分がモノマー成分として用いられていてもよい。なお、本願では「アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な単量体成分」を「他の単量体成分」と称する場合がある。他の単量体成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
前記他の単量体成分としては、官能基含有モノマーが好ましく用いられる。官能基含有モノマーとは、熱可塑性エラストマーを構成する単量体成分であり、主の単量体成分と共重合することにより得られる熱可塑性エラストマーにおいて、後述のエラストマー架橋剤中の官能基と反応できる官能基を有する単量体をいう。なお、本願では、「熱可塑性エラストマーが有している官能基であって、後述のエラストマー架橋剤中の官能基と反応し得る官能基」を「反応性官能基」と称する場合がある。
【0045】
前記他の単量体成分として、官能基含有モノマーを用いると、反応性官能基を有しているアクリル系熱可塑性エラストマーが得られる。なお、本発明の熱可塑性樹脂発泡体では、後述のエラストマー架橋剤による架橋構造を形成する場合、前記熱可塑性エラストマーとしては、反応性官能基を有しているアクリル系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0046】
前記官能基含有モノマーとしては、メタクリル酸(MMA)、アクリル酸(AA)、イタコン酸(IA)等のカルボキシル含有モノマー;ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)等のヒドロキシル基含有モノマー;アクリルアマイド(AM)、メチロールアクリルアマイド(N−MAN)等のアミド基含有モノマー;アクリルニトリル(AN)等のシアノ基含有モノマー等が挙げられる。中でも、メタクリル酸、アクリル酸、4−ヒドロキシブチルアクリレート、アクリルニトリル等のモノマーが架橋のし易さから好ましく、特にアクリル酸、4−ヒドロキシブチルアクリレート、アクリルニトリルが好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
前記官能基含有モノマーの割合は、前記アクリル系熱可塑性エラストマーを構成する全モノマー成分に対して1重量%〜20重量%が好ましく、より好ましくは、1重量%〜10重量%である。これより多い場合は、前記アクリル系熱可塑性エラストマーの合成が困難になる場合がある。また、これより少ない場合は、十分な架橋効果が発現できない場合がある。
【0048】
また、前記アクリル系熱可塑性エラストマーを形成する単量体成分であって、前記官能基含有モノマー以外のほかの単量体成分(コモノマー)としては、例えば、酢酸ビニル(VAC)、スチレン(St)、メチルメタクリレート(MMA)、メチルアクリレート(MA)等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
前記コモノマーの割合は、例えば、前記アクリル系熱可塑性エラストマーを構成する全モノマー成分に対して0〜50重量%が好ましく、より好ましくは、0〜30重量%である。50重量%を超えると経日での特性が低下する傾向があり好ましくない。
【0050】
前記コモノマーの種類や割合を適宜選択することにより、前記アクリル系熱可塑性エラストマーの物牲を制御することが可能である。粘弾性、ガラス転移温度、弾性率を適宜設定することにより、前記熱可塑性樹脂発泡体の発泡性を制御することができる。
【0051】
前記アクリル系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は特に制限されないが、30万〜300万であることが好ましい。この範囲より小さいと、発泡時の発泡剤の圧力に耐えることができず、気泡が破泡することで十分な気泡成長ができない場合がある。この範囲より大きくても深刻な問題は無いが、成形時に前記熱可塑性エラストマーが硬くなりすぎる場合がある。
【0052】
(1−A−1−1−2)ウレタン系熱可塑性エラストマー
前記熱可塑性樹脂組成物に主成分として含まれる好ましい熱可塑性エラストマーとしてのウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、イソシアネート化合物とポリオール化合物とのウレタン化反応により得られる樹脂を何れも用いることができ、特に制限されない。前記ウレタン系熱可塑性エラストマーとして、反応性官能基を有するウレタン系熱可塑性エラストマーを用いてもよい。反応性官能基を有するウレタン系熱可塑性エラストマーは、例えば、重合の際にイソシアネート化合物をポリオール化合物に対して等モル量より過剰に配合することにより、重合体にイソシアネート基を残す方法等を用いることにより得ることができる。
【0053】
前記イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物等が挙げられる。中でも、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
前記ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ブテンジオール、へキサンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルジオール、ペンタンジオール等の多価アルコールと、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マレイン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸との縮合反応により得られるポリエステル系ポリオール化合物;ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリへキサメチレンエーテルグリコール等のポリエーテル系ポリオール化合物;ポリカプロラクトングリコール、ポリプロピオラクトングリコール、ポリバレロラクトングリコール等のラクトン系ポリオール化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール等の多価アルコールと、ジエチレンカーボネート、ジプロピレンカーボネート等との脱アルコール反応により得られるポリカーボネート系ポリオール化合物等が挙げられる。また、ポリエチレングリコール等の低分子量ジオールを用いることもできる。中でも、ポリエステル系ポリオール化合物、ポリエーテル系ポリオール化合物等が好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
(1−A−1−2)活性エネルギー線硬化型化合物
前記熱可塑性樹脂組成物に含有される活性エネルギー線硬化型化合物は、活性エネルギー線に反応して、架橋構造を形成する。架橋構造を形成することにより、前記熱可塑性樹脂発泡体の形状固定性が向上し、前記熱可塑性樹脂発泡体における気泡構造の経時的な変形や収縮を防ぐことができる。また、このような架橋構造を有する熱可塑性樹脂発泡体は、高温下で圧縮した場合の歪回復性にも優れており、発泡時の高い発泡倍率を維持することができる。
【0056】
前記活性エネルギー線硬化型化合物としては、活性エネルギー線の照射によって硬化する樹脂である限り特に制限されないが、不揮発性でかつ重量平均分子量が10000以下の低分子量体である重合性不飽和化合物が好ましい。なお、本願では「不揮発性でかつ重量平均分子量が10000以下の低分子量体である不飽和化合物」を「重合性不飽和化合物」と称する場合がある。
【0057】
前記重合性不飽和化合物の具体例としては、例えばフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステル化物、ウレタン(メタ)アクリレート、多官能ウレタンアクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、前記重合性不飽和化合物は、モノマーであってもよいし、オリゴマーであってもよい。なお、本発明にいう「(メタ)アクリル」とは「アクリル及び/又はメタクリル」を意味し、他も同様である。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
前記活性エネルギー線硬化型化合物の配合量は、前記発泡構造体に活性エネルギー線を照射することによって前記発泡構造体中に架橋構造を形成できる限り特に制限されないが、熱可塑性エラストマー100重量部に対して3〜100重量部(好ましくは5〜100重量部)であることが好ましい。前記活性エネルギー線硬化型化合物の配合量が多すぎると(例えば、前記活性エネルギー線硬化型化合物の配合量が熱可塑性エラストマー100重量部に対して100重量部を超えていると)、前記熱可塑性樹脂発泡体の硬度が高くなり、クッション性が低下する場合がある。一方、前記活性エネルギー線硬化型樹脂の配合量が少なすぎると(例えば、前記活性エネルギー線硬化型化合物の配合量が熱可塑性エラストマー100重量部に対して3重量部未満であると)高い発泡倍率を維持することができない場合がある。前記重合性不飽和化合物を前記活性エネルギー線硬化型化合物として用いる場合も同様である。
【0059】
前記活性エネルギー線硬化型化合物と前記熱可塑性エラストマーとの組み合わせは、特に制限されないが、相溶性が高い組み合わせであることが好ましい。より具体的には、熱可塑性エラストマーと活性エネルギー線硬化型樹脂との組み合わせは、熱可塑性エラストマーの溶解度パラメーター(SP値)δ1[(J/cm31/2]と活性エネルギー線硬化型樹脂の溶解度パラメーター(SP値)δ2[(J/cm31/2]との差Δδ(δ1−δ2)が、±2.5[(J/cm31/2]以内(好ましくは±2[(J/cm31/2]以内)となる組み合わせが好ましい。前記活性エネルギー線硬化型化合物と前記熱可塑性エラストマーとの組み合わせが、このような組み合わせであると、両者が分離せず均一性が極めて良好となるため、前記熱可塑性樹脂組成物において、前記活性エネルギー線硬化型化合物の配合量をより多くすることができる。前記活性エネルギー線硬化型化合物と前記熱可塑性エラストマーとがこのような組み合わせに該当する場合、熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性エラストマー100重量部に対して活性エネルギー線硬化型化合物を3〜150重量部(好ましくは5〜120重量部)配合することができる。
【0060】
活性エネルギー線硬化型樹脂と熱可塑性エラストマーとの組み合わせが前記のような相溶性が高い組み合わせであると、活性エネルギー線硬化型樹脂の配合量をより多くできるため、熱可塑性樹脂発泡体において、形状固定性が向上する。また、相溶性が優れると、活性エネルギー線硬化型樹脂を反応させ架橋構造を形成させた際に熱可塑性エラストマー分子鎖と活性エネルギー線硬化型樹脂ネットワークが相互侵入網目構造(IPN)を形成し、その効果によっても発泡体の形状固定性が向上する。
【0061】
なお、溶解度パラメーター(SP値)は、Fedors法による計算により求めた値である。Fedors法の計算式によれば、SP値は、各原子団のモル凝集エネルギーの和を体積で割ったものの平方根とされ、単位体積あたりの極性を示す。
【0062】
(1−A−1−3)光重合開始剤
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、光重合開始剤が含まれていてもよい。光重合開始剤が含まれていると、前記熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して得られる発泡構造体に、活性エネルギー線を照射して前記発泡構造体中の活性エネルギー線硬化型樹脂を反応させる際に、架橋構造を形成させることがより容易となる。
【0063】
前記光重合開始剤としては、特に制限されず、各種のものを特に制限なく用いることができる。例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、アニソールメチルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤;2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン系光重合開始剤;2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエチル)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン等のα−ケトール系光重合開始剤;2−ナフタレンスルホニルクロリド等の芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤;1−フェニル−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)−オキシム等の光活性オキシム系光重合開始剤;ベンゾイン等のベンゾイン系光重合開始剤;ベンジル等のベンジル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ポリビニルベンゾフェノン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;ベンジルジメチルケタール等のケタール系光重合開始剤;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、ドデシルチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル」−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等のα−アミノケトン系光重合開始剤;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
前記光重合開始剤の使用量としては、特に制限されないが、例えば、熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性エラストマー100重量部に対して0.01〜5重量部(好ましくは0.2〜4重量部)の範囲から選択することができる。
【0065】
(1−A−1−4)エラストマー架橋剤
前記熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂組成物中に含まれる反応性官能基と反応するエラストマー架橋剤が含まれてもよい。前記熱可塑性樹脂組成物にエラストマー架橋剤が含まれていると、前記熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより得られる発泡構造体において、前記発泡構造体を加熱する等により架橋構造を形成することができる。このような架橋構造の形成は、熱可塑性樹脂発泡体の形状固定性を向上させ、気泡構造の経時的な変形や収縮を防止し、発泡体の変形時の歪み回復性を改善できる点で有利である。
【0066】
前記エラストマー架橋剤としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のポリイソシアネート;ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、N,N’−ジシンナミイデン−1,6−ヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)カルバメート、4,4’−(2−クロロアニリン)等のポリアミン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
前記エラストマー架橋剤は、後述する所望の特性が得られるように適宜調節して用いることができる。前記エラストマー架橋剤の使用量は、特に制限されないが、通常、熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性エラストマー100重量部に対して、0.01〜10重量部(好ましくは0.05〜5重量部)程度である。
【0068】
前記エラストマー架橋剤は、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーに配合しても差し支えなく、さらに、反応性官能基を有する熱可塑性エラストマーと、反応性官能基を有しない樹脂と、反応性官能基を有する架橋剤とを同時に用いてもよい。また、前記エラストマー架橋剤は、各種エラストマー架橋助剤と同時に用いてもよい。これらの配合量は、後述する所望の特性が得られるように適宜調節して用いることができる。
【0069】
(1−A−1−5)無機粒子
本発明では、熱可塑性樹脂発泡体は、さらに、無機粒子を含んでいてもよい。無機粒子は、発泡成形時の発泡核剤としての機能を発揮することができる。そのため、無機粒子を配合することにより、良好な発泡状態の熱可塑性樹脂発泡体を得ることができる。
【0070】
前記無機粒子としては、平均粒子径(粒径)が0.1〜20μm程度のパウダー状粒子を用いることが好ましい。無機粒子の平均粒子径が0.1μm未満では核剤として十分機能しない場合があり、無機粒子の平均粒子径が20μmを超えると発泡成形時に発泡剤が抜ける原因となる場合があり好ましくない。
【0071】
前記パウダー状粒子としては、例えば、パウダー状のタルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マイカ、モンモリナイト等のクレイ、カーボン粒子、グラスファイバー、カーボンチューブ等の無機粒子等を用いることができる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
前記無機粒子は、表面処理を施したものであってもよい。前記表面処理により、前記無機粒子と前記熱可塑性樹脂組成物との親和性を高め、発泡時に発泡剤が抜けたり、前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体が収縮したりすることを防止できる。また、前記表面処理により、前記無機粒子と前記熱可塑性樹脂組成物とが界面から剥離することや発泡剤が抜けたりすることが抑制され、良好な発泡状態の熱可塑性樹脂発泡体を得ることができる。
【0073】
前記表面処理としては、例えば、シランカップリング処理、シリカ処理、有機酸処理、界面活性剤処理等が挙げられる。これらの処理は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
前記無機粒子の配合量は、特に制限されないが、例えば、熱可塑性エラストマー100重量部に対して5〜150重量部(好ましくは10〜120重量部)の範囲から適宜選択することができる。無機粒子の配合量が、熱可塑性エラストマー100重量部に対して5重量部未満であると、均一な発泡体を得ることが困難になり、一方、150重量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物の粘度が著しく上昇するとともに、発泡成形時に発泡剤が抜けてしまい、発泡特性を損なうおそれがある。
【0075】
前記無機粒子として、例えば、難燃性無機粒子を配合してもよい。熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性エラストマーにより構成されているため、燃えやすいという特性(欠点とも言える)を有するため、前記難燃性無機粒子により難燃性が付与されることが好ましい。特に、電気・電子機器用途等の難燃性の付与が極めて重要な用途では有効である。
【0076】
前記難燃性無機粒子としては、特に制限されないが、例えば、パウダー状の各種難燃剤等が挙げられる。前記難燃性無機粒子は、難燃性でない無機粒子とともに用いることができる。
【0077】
前記難燃性無機粒子としては、無機難燃剤が好ましい。前記無機難燃剤としては、例えば、ノンハロゲン−ノンアンチモン系無機難燃剤、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤等が挙げられるが、ノンハロゲン−ノンアンチモン系無機難燃剤が好ましい。前記ノンハロゲン−ノンアンチモン系無機難燃剤は、燃焼時にも人体に対して無害であり、機器類に対して腐食性を有するガス成分を発生することが無いという点で前記臭素系難燃剤や前記塩素系難燃剤に比べて優れている。さらに、前記ノンハロゲン−ノンアンチモン系無機難燃剤は、有害性や爆発性等の問題が無いという点で前記リン系難燃剤や前記アンチモン系難燃剤に比べて優れている。前記ノンハロゲン−ノンアンチモン系無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム・酸化ニッケル等の水和物、酸化マグネシウム・酸化亜鉛の水和物等の水和金属酸化物等が挙げられる。なお、前記水和金属酸化物は表面処理されていてもよい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
前記難燃性無機粒子の使用量としては、特に制限されないが、例えば、熱可塑性樹脂組成物全量に対して5〜150重量%(好ましくは10〜120重量%)の範囲から適宜選択することができる。前記難燃性無機粒子の使用量が少なすぎると、難燃化効果が小さくなり、逆に多すぎると、高発泡の発泡体を得ることが困難になる。
【0079】
(1−A−1−6)各種添加剤
熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて添加剤が配合されていてもよい。前記添加剤の種類は特に限定されず、発泡成形に通常用いられる各種添加剤を用いることができる。具体的には、前記添加剤として、例えば、結晶核剤、可塑剤、滑剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、界面活性剤、張力改質剤、収縮防止剤、流動性改質剤、加硫剤、表面処理剤、難燃剤(無機粒子以外の各種形態のもの)等が挙げられる。熱可塑性樹脂発泡体の強度、柔軟性、圧縮永久歪性等の所望の特性を考慮して、これらのうち適宜のものを用いればよい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
前記添加剤の配合量は、特に制限されず、通常熱可塑性樹脂発泡体の製造に用いられる配合量で用いることができ、熱可塑性樹脂発泡体の強度、柔軟性、圧縮永久歪性等の所望の特性を阻害しない範囲内で適宜調整すればよい。
【0081】
(1−A−1−7)熱可塑性樹脂組成物の製造方法
前記熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、例えば、必要に応じて、熱可塑性エラストマー、活性エネルギー線硬化型樹脂、光重合開始剤、エラストマー架橋剤、エラストマー架橋助剤、無機粒子、各種添加剤等を、混合、混錬、溶融混合等することにより得ることができる。これらの方法は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
(1−A−2)構造体
構造体としては、前記熱可塑性樹脂組成物を成形したものであれば特に制限されない。構造体の形状は特に限定されず、ロール状、シート状、板状等の何れであってもよい。
【0083】
(1−B)発泡剤含浸工程
発泡剤含浸工程は、熱可塑性樹脂組成物又は構造体に発泡剤を含浸させる工程であれば、特に制限されない。以下(1−B−1)において発泡剤について述べ、(1−B−2)において熱可塑性樹脂組成物又は構造体に前記発泡剤を含浸させる方法について述べる。
【0084】
(1−B−1)発泡剤
発泡構造体形成工程において用いられる発泡剤としては、常温常圧では気体であって、熱可塑性エラストマーに対して不活性で、且つ含浸可能なものであれば、特に限定されない。
【0085】
前記発泡剤としては、特に制限されず、例えば、希ガス(例えば、へリウム、アルゴン等)、二酸化炭素、窒素、空気等が挙げられるが、二酸化炭素や窒素が好ましく、二酸化炭素がより好ましい。これらの発泡剤は混合して用いてもよい。
【0086】
前記二酸化炭素は、液化二酸化炭素又は超臨界状態の二酸化炭素であることが好ましい。液化二酸化炭素又は超臨界状態の二酸化炭素は、熱可塑性エラストマーへの溶解度が高い。したがって、熱可塑性エラストマーへの含浸速度が速く、高濃渡の含浸が可能である。高濃度の含浸が可能であると、含浸後の急激な圧力降下時に気泡核の発生が多くなり、その気泡核が成長してできる気泡の密度が、気孔率に対して大きくなるため、微細な気泡を得ることができる。なお、二酸化炭素の臨界温度は31℃、臨界圧力は7.4MPaである。
【0087】
(1−B−2)熱可塑性樹脂組成物又は構造体に発泡剤を含浸させる方法
熱可塑性樹脂組成物又は構造体に発泡剤を含浸させる方法としては、特に制限されない。具体的には、発泡構造体形成工程がバッチ方式の場合は、例えば、熱可塑性樹脂組成物又は構造体を耐圧容器又は高圧容器中に入れて、発泡剤である高圧ガスを注入等により導入する高圧ガス含浸工程等が好ましい方法として挙げられる。あるいは、発泡構造体形成工程が連続方式の場合は、熱可塑性樹脂組成物又は構造体を、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を用いて混錬しながら、発泡剤である高圧ガスを注入等により導入する混練含浸工程等が好ましい方法として挙げられる。また、発泡構造体形成工程が連続方式の場合は、発泡剤含浸工程は加圧条件下で行われることが好ましい。何れの場合も、発泡剤の導入は連続的に行ってもよく、不連続的に行ってもよい。
【0088】
前記発泡剤の混合量は特に制限されないが、例えば、熱可塑性エラストマー成分全量に対して2〜10重量%程度であり、前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体全量に対して
2〜5重量%程度である。所望の密度や発泡倍率が得られるように、適宜調節して混合すればよい。
【0089】
前記発泡剤を熱可塑性樹脂組成物又は構造体に含浸させるときの圧力は、3MPa以上(例えば、3〜50MPa程度)、好ましくは4MPa以上(例えば4〜30MPa程度)とするのがよい。前記高圧ガスの圧力が3MPaより低い場合には、発泡時の気泡成長が著しく、気泡径が大きくなりすぎ、例えば、防塵効果が低下する等の不都合が生じやすくなり、好ましくない。これは、圧力が低いと発泡剤の含浸量が高圧時に比べて相対的に少なく、気泡核形成速度が低下して形成される気泡核数が少なくなるため、1気泡あたりのガス量が逆に増えて気泡径が極端に大きくなるからである。また、3MPaより低い圧力領域では、含浸圧力を少し変化させるだけで気泡径、気泡密度が大きく変わるため、気泡径及び気泡密度の制御が困難になりやすい。
【0090】
前記発泡剤を熱可塑性樹脂組成物又は構造体に含浸させるときの温度は、用いる高圧ガスや熱可塑性エラストマーの種類等によって異なり、広い範囲で選択できるが、操作性等を考慮した場合、例えば、10〜200℃程度である。例えば、バッチ方式において、シート状の熱可塑性樹脂組成物又は構造体に前記発泡剤である高圧ガスを含浸させるときの温度(含浸温度)は、10〜200℃(好ましくは40〜200℃)程度である。また、連続方式において、熱可塑性樹脂組成物又は構造体に高圧ガスを注入し混練する際の温度は、40〜200℃程度が一般的である。なお、高圧ガスとして二酸化炭素を用いる場合には、超臨界状態を保持するため、含浸させるときの温度は32℃以上(特に40℃以上)であることが好ましい。
【0091】
(1−C)減圧工程
減圧工程は、前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体の圧力を解放する工程であれば、特に制限されない。本減圧工程を設けることによって、熱可塑性エラストマー中の気泡核発生が促進される。
【0092】
減圧工程における、圧力を解放する態様としては、特に制限されないが、大気圧条件にまで圧力が解放されることが通常である。減圧速度は、特に制限されないが、均一な微細気泡を得るためには、5〜300MPa/秒程度であることが好ましい。発泡構造体形成工程がバッチ方式の場合は、十分に高圧ガスを含浸させた時点である発泡剤含浸工程後に減圧工程が行われることが好ましい。発泡構造体形成工程が連続方式の場合は、押出機の先端に設けられたダイス等を通して熱可塑性樹脂組成物を押し出すことにより圧力を解放することが好ましい。また、押出機のほか、射出成形機等を用いて同様に圧力を解放することもできる。これらの方法については、シート状、角柱状、その他任意の形状の発泡構造体を得られる方法を適宜選択すればよい。
【0093】
(1−D)加熱工程
加熱工程は、前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体を加熱する工程であれば、特に制限されない。本加熱工程を設けることによって、気泡核の成長が促進され、発泡構造体を得る効率が向上する。なお、加熱工程を設けずに、室温で気泡核を成長させてもよい。
【0094】
前記加熱工程における加熱温度は、特に制限されないが、例えば、40〜250℃程度であり、40〜100℃程度であることが好ましく、40〜60℃程度であることがより好ましい。加熱の方法としては、ウォーターバス、オイルバス、熱ロール、熱風オーブン、遠赤外線、近赤外線、マイクロ波等の公知ないし慣用の方法を採用できる。
【0095】
(1−E)冷却工程
冷却工程は、前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体を冷却する工程であれば、特に制限されない。本冷却工程を設けることによって、前記熱可塑性樹脂組成物又は前記構造体の形状の固定化が促進され、発泡構造体を得る効率が向上する。
【0096】
前記冷却工程は、前記加熱工程後に行われることが好ましい。前記冷却工程における冷却の具体的な方法は、特に制限されないが、冷水等により急激に冷却することが好ましい。
【0097】
(1−2)発泡構造体
発泡構造体とは、前記熱可塑性樹脂組成物を発泡成形することにより得られる発泡体であり、且つ架橋構造形成前の発泡体のことを意味する。前記発泡構造体は、構造体中に気泡構造(発泡構造、セル構造)を有している。
【0098】
前記発泡構造体の厚みは、特に制限されないが、0.1〜20mmであることが好ましい。前記発泡構造体の形状等は、特に制限されず、前記発泡構造体に活性エネルギー線を照射することにより形成する熱可塑性樹脂発泡体の用途等に応じて、適宜選択することができ、具体的にはシート状、角柱状等の形状が挙げられる。また、前記発泡構造体は、前記製造方法によって作製された後、架橋構造の形成を目的とする活性エネルギー線の照射や加熱の前に、種々の形状や厚みに加工されてもよい。
【0099】
前記発泡構造体の相対密度(発泡後の密度/未発泡状態での密度)は、特に制限されないが、例えば、0.02〜0.3程度であり、0.02〜0.25程度であることが好ましい。前記相対密度が0.3を超えると発泡が不十分であり、0.02未満では発泡構造体の強度が著しく低下する場合があり、厚い発泡構造体を得るためには好ましくない。
【0100】
前記発泡構造体の厚み、相対密度等は、用いる高圧ガス、熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂)の成分に応じて、例えば、発泡構造体形成工程における構造体形成工程や発泡剤含浸工程における温度、圧力、時間等の操作条件、減圧工程における減圧速度、温度、圧力等の操作条件、加熱工程における加熱温度等を適宜選択、設定することにより調整することができる。
【0101】
[2.発泡構造体搬送工程]
発泡構造体搬送工程は、前記発泡構造体形成工程後に、表面粗さ(Ra)が1μm以上、引張破断強度が30N/15mm以上であるキャリアシートにより前記発泡構造体を連続的に搬送する工程である限り特に制限されない。以下(2−A)において前記キャリアシートについて述べ、(2−B)において前記キャリアシートにより前記発泡構造体を連続的に搬送する方法について述べる。
【0102】
(2−A)キャリアシート
本発明のキャリアシートの表面粗さ(Ra)は1μm以上であり、2μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、通常1mm以下である。前記表面粗さが1μm未満の場合、前記熱可塑性樹脂組成物の発泡成形後に前記発泡構造体から抜けた発泡剤が、発泡構造体−キャリアシート間に溜まり、熱可塑性樹脂発泡体の表面が大きく膨張する等の外観不良の問題が生じる。
【0103】
本発明のキャリアシートは、フィルム状素材を搬送できる最低の張力を保持できるレベルの強度を保持する必要があり、その引張破断強度は30N/15mm以上であり、40N/15mm以上であることが好ましく、60N/15mm以上であることがより好ましい。これより小さい値では、搬送時にキャリアシートの破断が生じる場合がある。これ以上であれば、その装置の張力や搬送距離にも、影響されるが、破断することなく連続的に搬送することが可能となる。なお、引張破断強度はJIS P8113に準拠して測定した値によって規定される。
【0104】
また、本発明のキャリアシートには通気性があることが好ましく、通気性のレベルは、例えば、ガーレー値で200sec/100cc以下であり、100sec/100cc以下であることが好ましく、50sec/100cc以下であることがより好ましい。熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して得られた発泡構造体の表面から徐々に発泡剤が抜けていき、発泡構造体−キャリアシート間に溜まり、外観不良の問題が生じることは前述の通りである。前記キャリアシートの表面粗さ(Ra)が1μm以上であり、さらに前記キャリアシートの通気性がガーレー値で200sec/100cc以下の場合、発泡構造体−キャリアシート間に発泡剤が一層溜まりにくくなり、発泡体の外観不良をさらに確実に回避することができる。
【0105】
前記キャリアシートの材質としては、表面粗さ(Ra)が1μm以上であり、引張破断強度が30N/15mm以上であればよく、特に制限されないが、例えば、PE多孔質フィルム、PP多孔質フィルム等の熱可塑性樹脂、セルロースやPET等から構成される不織布、紙製又は金属製のメッシュ、又は金属不織布等を用いることができる。
【0106】
(2−B)キャリアシートにより前記発泡構造体を連続的に搬送する方法
キャリアシートにより前記発泡構造体を連続的に搬送する方法については、特に制限されないが、例えば、発泡構造体をキャリアシート上に配置し、前記発泡構造体と前記キャリアシートとを一体の状態で活性エネルギー線照射装置に連続的に搬送する方法等が挙げられる。前記発泡構造体のキャリアシート上への配置は、連続的に行われることが好ましい。なお「連続的」とは、前記搬送や前記配置等が途中で中断されずに行わることをいう。
【0107】
[3.活性エネルギー線照射工程]
前記発泡構造体に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程としては、特に制限されない。本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法は、活性エネルギー線照射工程を有することで、前記発泡構造体中に前記活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造が形成された熱可塑性樹脂発泡体を製造することができる。そのため、前記熱可塑性樹脂発泡体は、良好な形状固定性を有し、経時的に生じる発泡体内の気泡構造が変形、収縮しにくくなり、歪回復性が良好である。特に、樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少なく、発泡時の高い発泡倍率を維持することができるため、クッション性に優れている。
【0108】
前記活性エネルギー線照射工程の具体的態様としては、例えば、以下に述べる活性エネルギー線及びその照射方法を用いることが考えられる。
【0109】
前記活性エネルギー線としては特に制限されないが、例えば、α線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線や、紫外線等が挙げられ、紫外線又は電子線が好ましい。
【0110】
また、前記活性エネルギー線の照射エネルギー、照射時間等の照射方法は、活性エネルギー線硬化型樹脂による架橋構造を形成することができる限り特に制限されない。このような活性エネルギー線の照射方法としては、例えば、発泡構造体がシート状の形状であって、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合に、シート状の発泡構造体に対して、一方の面に対して紫外線を照射(照射エネルギー:750mJ/cm2)した後、再び、他方の面に対して紫外線を照射(照射エネルギー:750mJ/cm2)する方法等が挙げられる。また、活性エネルギー線として電子線を用いる場合に、シート状の発泡構造体に対して、一方の面に対して電子線を照射(照射エネルギー:100kGy)した後、再び、他方の面に対して電子線を照射(照射エネルギー:100kGy)する方法等が挙げられる。また、例えば、キャリアシート上に配置した発泡構造体に活性エネルギー線を照射すること等が挙げられる。より具体的には、活性エネルギー線照射装置内で、一体となった状態の発泡構造体とキャリアシートとに照射すること等が挙げられる。
【0111】
[4.発泡構造体加熱工程]
本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法は、前記発泡構造体を加熱する発泡構造体加熱工程を含むことが好ましい。前記活性エネルギー線照射工程に加え、さらに、前記発泡構造体加熱工程を含む場合、それらの工程の順序は特に制限されないが、前記活性エネルギー線照射工程、前記発泡構造体加熱工程の順が好ましい。
【0112】
前記発泡構造体加熱工程における加熱条件は特に制限されないが、例えば、40〜180℃(好ましくは60〜180℃、さらに好ましくは80〜180℃)の温度雰囲気下で、4分〜10時間(好ましくは30分〜8時間、さらに好ましくは1〜5時間)放置する方法等が挙げられる。なお、このような温度雰囲気は、例えば、公知の加熱方法(例えば、電熱ヒーター等を用いた加熱方法、赤外線等の電磁波を用いた加熱方法、ウォーターバス等を用いた加熱方法等)等により得ることができる。これらの加熱方法は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0113】
[熱可塑性樹脂発泡体]
本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法において、前記発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、前記発泡構造体中に前記活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成することにより、熱可塑性樹脂発泡体を製造することができる。
【0114】
前記熱可塑性樹脂発泡体(又は発泡構造体)の発泡倍率は特に制限されないが、5倍以上(例えば5倍〜40倍)であることが好ましく、より好ましくは5倍〜30倍である。発泡倍率が5倍未満であると、柔軟性が低下し、特に高い圧縮状態での圧縮荷重が大きくなり、クッション性の点で問題を生じるおそれがある。
【0115】
前記熱可塑性樹脂発泡体(又は発泡構造体)の発泡倍率は、以下の式により算出される。
発泡倍率(倍)=(発泡前の密度)/(発泡後の密度)
発泡前の密度は、例えば、原料となる熱可塑性樹脂組成物の密度である。また、発泡後の密度は、得られた熱可塑性樹脂発泡体(又は発泡構造体)の密度である。
【0116】
前記熱可塑性樹脂発泡体の歪回復率(80℃、50%圧縮歪)は特に制限されないが、40%以上(例えば、40%〜95%)であることが好ましい。歪回復率が40%未満であると、高温下で圧縮保持された後の歪回復性が劣り、高温下でのシール性能の低下を生じるおそれがある。
【0117】
歪回復率の算出方法は、以下の通りである。すなわち、熱可塑性樹脂発泡体を、試験片を50%の厚みになるように圧縮し、その状態で、80℃で24時間保存する。24時間後、圧縮状態を保持しつつ、常温に戻し、圧縮状態を解放する。解放してから30分後に試験片の厚みを測定する。そして、圧縮した厚みに対する回復した厚みの比率を歪回復率(80℃、50%圧縮歪)とする。
【0118】
前記熱可塑性樹脂発泡体の形状や厚みとしては、特に限定されず、用途等に応じて適宜選択できる。前記形状としては、例えば、シート状、テープ状、フィルム状等が挙げられるが、シート状であることが好ましい。前記厚みとしては、例えば、0.1〜10mm(好ましくは、0.2〜6mm)程度の範囲から選択することができる。シート状で用いる場合は、厚みは0.1〜20mmであることが好ましく、より好ましくは、0.2〜15mmである。
【0119】
前記熱可塑性樹脂発泡体(又は発泡構造体)の密度としては、特に限定されないが、例えば、0.01〜0.20g/cm3(好ましくは、0.02〜0.15g/cm3)程度の範囲から選択することができる。
【0120】
前記熱可塑性樹脂発泡体(又は発泡構造体)の密度は、電子比重計を用いて測定することができる。
【0121】
前記熱可塑性樹脂発泡体(又は発泡構造体)の気泡構造は、特に制限されないが、独立気泡構造や、半連続半独立気泡構造であることが好ましい。なお、半連続半独立気泡構造とは、独立気泡構造と連続気泡構造とが混在している気泡構造である。
【0122】
前記熱可塑性樹脂発泡体は、表面に粘着層を有していてもよい。例えば、本発明の熱可塑性樹脂発泡体がシート状である場合、その片面又は両面に粘着層を有していてもよい。また、該粘着層上には、ポリオレフィン系フィルム、PETフィルム、ポリイミドフィルム等の透明又は着色したフィルムを有していてもよい。また、前記熱可塑性樹脂発泡体は、粘着層を介してフィルムが付与された状態で、用途に応じて、適宜選択される。
【0123】
前記熱可塑性樹脂発泡体の厚み等は、用いる高圧ガス、熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂)の成分に応じて、例えば、発泡構造体形成工程の構造体形成工程や発泡剤含浸工程における温度、圧力、時間等の操作条件、減圧工程における減圧速度、温度、圧力等の操作条件、加熱工程における加熱温度等を適宜選択、設定することにより調整することができる。
【実施例】
【0124】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0125】
[実施例1]
アクリル酸ブチル:85重量部、アクリロニトリル:15重量部、アクリル酸:6重量部から構成されるアクリルエラストマー(アクリル酸5.67重量% 重量平均分子量217万(PS換算)):100重量部に対して、活性エネルギー線硬化型化合物としてのポリプロピレングリコールジアクリレート(2官能アクリレート、商品名「アロニックスM270」、東亜合成社製):30重量部、活性エネルギー線硬化型化合物としてのトリメチロールプロパントリメタクリレート(3官能アクリレート、商品名「NKエステルTMPT」、新中村化学社製):45重量部、無機粒子としての水酸化マグネシウム(商品名「EP1−A」、神島化学社製):50重量部、エラストマー架橋剤としてのヘキサメチレンジアミン(商品名「diak No.1」、デュポン社製):2重量部、エラストマー架橋助剤としての1,3−ジ−o−トリルグアニジン(商品名「ノクセラ−DT」、大内新興化学社製):2重量部、老化防止剤(商品名「スミライザ−GM」、住友化学社製):8重量部、着色剤としてのカーボンブラック(商品名「#35」、旭カーボン社製):10重量部を、2枚羽根を設けた小型加圧ニーダー(装置名「TD−10−20MDX」(10L)、トーシン社製)に投入し、羽根の回転速度:30rpm、温度:60℃の条件で、約40分間混練して、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0126】
前記熱可塑性樹脂組成物を、二軸一軸押出機(テーパースクリュー(日東電工社製)及び50mm一軸スクリュー(エンプラ産業株式会社製))に投入し、二軸一軸押出機から単軸押出機(装置名「P75押出機」φ75スクリューフルフライト、JSW社製)に供給した。80℃の条件下で混練しながら、ガス量:4重量部(前記熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して4重量部となる量)の二酸化炭素を注入し、十分に二酸化炭素を熱可塑性樹脂組成物に含浸させた。
【0127】
なお、供給される二酸化炭素は、高圧ポンプを用いて、供給ガス圧力を28MPaまで昇圧させた高圧二酸化炭素であり、また、注入された二酸化炭素は、単軸押出機の温度が80℃に設定されているので、直ちに超臨界状態となる。
【0128】
次に、二酸化炭素を含浸させた熱可塑性樹脂組成物を押出機の先端に設けた円形ダイスを通して大気中に押し出し、圧力を大気圧まで解放して、発泡させ、円筒状の発泡体の一部を連続的に切断することにより、シート状の発泡構造体を得た。なお、この工程は発泡と成形を同時に行う成形減圧工程である。
【0129】
シート状の発泡構造体をクラフト紙(商品名「cpK」、王子製紙社製)の片面に連続的に添付した。該発泡構造体に、電子線(加速電圧:250kV)を、片面当たりの線量が200kGyとなるように、片面から1回照射した。照射雰囲気は窒素置換を実施した。この電子線照射により、活性エネルギー線硬化型化合物が反応して、架橋構造が形成される。
【0130】
電子線照射後、さらに170℃の雰囲気下で1時間加熱処理を行った。この加熱処理により発泡体中の熱可塑性エラストマー成分が架橋して、シート状の発泡構造体に架橋構造が付与され、シート状の熱可塑性樹脂発泡体を得た。
【0131】
[比較例1]
シート状の発泡構造体を、キャリアシートを用いずに電子線照射装置への搬送を実施した以外は、実施例1と同様にして、シート状の熱可塑性樹脂発泡体を得た。搬送ラインには複数の金属ロールを設置しているが、装置内に付着したり、付着後にシートが破断したりしたため、シートを連続的に搬送することが困難となって、シート状の発泡構造体に架橋構造を付与することができなかった。
【0132】
[比較例2]
シート状の発泡構造体をPETフィルム(商品名「MRF38」、三菱樹脂社製)に添付した以外は、実施例1と同様にして、シート状の熱可塑性樹脂発泡体を得た。
【0133】
[比較例3]
シート状の発泡構造体を不織布(商品名「F−18」、日本大昭和板紙社製)に添付した以外は、実施例1と同様にして、シート状の熱可塑性樹脂発泡体を得た。この熱可塑性樹脂発泡体については、搬送時に、基材と発泡構造体がともに破断するという搬送トラブルが観察された。
【0134】
[キャリアシートの特性評価]
実施例1並びに比較例2及び3において、それぞれキャリアシートとして用いたクラフト紙、PETフィルム及び不織布の厚み、坪量、引張破断強度、通気性及び表面粗さを下記表1の「キャリアシートの特性」の欄に示す。キャリアシートの坪量はJIS P8124に準拠して測定し、引張破断強度は上述のようにJIS P8113に準拠して測定した。キャリアシートの通気性は上述のようにJIS P8117に準拠して通気度ガーレーを求め、通気性の指標とした。なお、比較例2で用いたPETフィルムは通気せず、通気度ガーレーが測定できなかった。
【0135】
[発泡構造体の搬送性評価]
発泡構造体の搬送性については、下記の基準で評価し、結果を下記表2の「発泡構造体の搬送性」の欄に示した。
搬送時のトラブルは確認できなかった:「良好」
搬送時に発泡構造体が破断した:「不良」
連続的な搬送が困難だった:「とても不良」
【0136】
[熱可塑性樹脂発泡体の厚み評価]
熱可塑性樹脂発泡体の厚みの測定は、発泡体が柔軟であるため、非接触式レーザー変位計(キーエンス社製)にて、熱可塑性樹脂発泡体をエア吸着ステージに吸着させた状態で、測定を実施し、結果を下記表2の「熱可塑性樹脂発泡体の特性」の「厚み」の欄に示した。
【0137】
[熱可塑性樹脂発泡体の外観評価]
熱可塑性樹脂発泡体の外観については、下記の基準で評価し、結果を下記表2の「熱可塑性樹脂発泡体の特性」の「外観」の欄に示した。なお、電子線照射以前に搬送自体が困難だった比較例1については「評価不可」とした。
気泡の存在は確認できなかった:「良好」
数cm程度の気泡が数個確認された:「やや不良」
数cm程度の気泡が多数生じた:「不良」
【0138】
[発泡倍率の評価]
電子比重計(商品名「MD−200S」、アルファーミラージュ社製)を用いて、比重測定を行うことにより発泡前後の密度を求め、それにより発泡倍率を評価した。なお、発泡前の密度は、原料となる熱可塑性樹脂組成物の密度であり、発泡後の密度は、発泡構造体製造後、室温で24時間保存してから測定した。密度の測定は、実施例1について行い、下記の式に基づいて、発泡倍率を算出した。
発泡倍率(倍)=(発泡前の密度)/(発泡後の密度)
【0139】
前記の発泡倍率の評価によれば、実施例1における発泡倍率は21倍であった。
【0140】
[熱可塑性樹脂発泡体の50%圧縮時の対反発荷重の評価]
JIS K 6767に記載されている測定方法に準じて、実施例1の熱可塑性樹脂発泡体の50%圧縮時の対反発荷重を測定した。具体的には、直径30mmの円形状に切り出した試験片を、複数枚重ねて厚みを約25mmとし、圧縮速度10mm/minで50%まで圧縮したときの応力を単位面積(cm2)当たりに換算して、50%圧縮した時の対反発荷重(N/cm2)とした。
【0141】
前記の50%圧縮時の対反発荷重の評価によれば、実施例1における熱可塑性樹脂発泡体の50%圧縮時の対反発荷重は0.4N/cm2であった。
【0142】
[熱可塑性樹脂発泡体の歪回復率の評価]
熱可塑性樹脂発泡体を、1辺の長さが25mmの正方形に切断し、5枚重ねて、試験片とし、その厚さを正確に測りとった。このときの試験片の厚さをaとした。試験片の厚さの半分の厚さbを有するスペーサーを用いて、試験片を50%の厚さ(厚さb)になるように圧縮し、その状態で、80℃で24時間保存した。24時間後、圧縮状態を維持しつつ常温に戻し、圧縮状態を解放する。解放してから30分後に試験片の厚みを正確に測りとった。このときの試験片の厚さをcとした。圧縮した距離に対する回復した距離の比率を歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)とした。
歪回復率(80℃、50%圧縮永久歪)[%]=(c−b)/(a−b)×100
【0143】
前記の歪回復率の評価によれば、実施例1における熱可塑性樹脂発泡体の歪回復率は90%であった。
【0144】
【表1】

【0145】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法によれば、搬送中の装置に発泡体が付着したり、発泡体が変形したりすることによる搬送トラブルが防がれ、強度、柔軟性、クッション性、歪回復性等に優れて、特に高温で樹脂の復元力による気泡構造の収縮が少ない熱可塑性樹脂発泡体を効率よく製造でき、高い発泡倍率を達成できるため、特に電子機器等の内部絶縁体、緩衝材、遮音材、断熱材、食品包装材、衣料材、建築用として用いられる発泡体として有用である。
【符号の説明】
【0147】
1 発泡成形装置
2 キャリアシート
3 活性エネルギー線照射装置
11 発泡構造体
12 熱可塑性樹脂発泡体
21 ロール
22 繰り出しロール
23 巻き取りロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー及び活性エネルギー線硬化型化合物を含む熱可塑性樹脂組成物を発泡成形して発泡構造体を得る発泡構造体形成工程、
前記発泡構造体形成工程後に、表面粗さ(Ra)が1μm以上、引張破断強度が30N/15mm以上であるキャリアシートにより前記発泡構造体を連続的に搬送する発泡構造体搬送工程、及び
前記発泡構造体に活性エネルギー線を照射して、前記発泡構造体中に前記活性エネルギー線硬化型化合物による架橋構造を形成する活性エネルギー線照射工程、
を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記キャリアシートの下記で規定される通気性が、200sec/100cc以下である請求項1記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
通気性:差圧1.23kPaで100cm3の空気が、通気面積642mm2の試料を通過する際の時間(秒)(JIS P8117に準拠して測定される通気度ガーレー値)
【請求項3】
前記発泡構造体形成工程において用いられる発泡剤が、二酸化炭素又は窒素である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記発泡構造体形成工程において用いられる発泡剤が、液化二酸化炭素である請求項3記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記発泡構造体形成工程において用いられる発泡剤が、超臨界状態の二酸化炭素である請求項3記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−72038(P2013−72038A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213361(P2011−213361)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】