説明

熱可塑性樹脂組成物とそれを成形してなる成形体

【課題】ポリ乳酸樹脂アロイ系の樹脂組成物で、耐熱性、機械物性、湿熱耐久性に優れ、地球環境負荷の低い樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂(A)25〜50質量%、ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)を混合した樹脂(B)30〜74.5質量%、およびアクリル系化合物(C)0.5〜20質量%を含有し、かつ、(A)、(B)、および(C)の合計を100質量%とした熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械物性や耐熱性、湿熱耐久性、難燃性に優れ、石油系製品への依存度の低い樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の見地からポリ乳酸樹脂をはじめとするバイオマス原料の樹脂が注目されている。バイオマス由来の樹脂の中では、ポリ乳酸樹脂は耐熱性が高い樹脂の1つであり、大量生産が可能なためコストも安く、有用性が高い。さらに、ポリ乳酸樹脂はトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として製造することが可能で、石油等の枯渇資源の節約に貢献できる。また、植物由来樹脂の場合、植物原料中の炭素は、大気中の炭素を固定化したものであるので、石油のように地中の炭素を地表に持ち込まず、二酸化炭素排出量増大による地球温暖化の問題もない。
【0003】
しかし、バイオマス由来樹脂の中で耐熱性の高いポリ乳酸樹脂であっても、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂等の汎用樹脂と比べると、耐熱性は必ずしも十分とはいえない。また、ポリ乳酸樹脂は、機械物性、とりわけ衝撃強度が低く、また製品化したときの長期湿熱耐久性も悪く、高温多湿環境では劣化が顕著である。そのため、現在、汎用樹脂が使用されている自動車部品や家電筐体等にポリ乳酸樹脂を使用する場合、製品の寿命に到達する前に性能が低下してしまうという欠点があった。
【0004】
このようなポリ乳酸樹脂の欠点を補うため、他樹脂とのアロイが検討されており、耐熱性、耐衝撃性の高い、芳香族ポリカーボネート樹脂とのアロイが提案されている。このようなアロイであっても100%石油由来の樹脂に比較すると、石油資源の節約および二酸化炭素排出量の低減といった環境負荷を低減する効果がある。
【0005】
例えば、特許文献1ではポリ乳酸樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂を溶融混練してアロイ化することが提案されている。
【0006】
しかしながら、耐熱性、機械物性の点からは、芳香族ポリカーボネート樹脂を50重量%以上配合することが望ましく、環境負荷低減という目的には十分と言えなかった。さらに、ポリ乳酸樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂を単純に溶融混練しても、両樹脂の溶融粘度の差が大きいため、均一な相溶化が難しく、混練押出機のノズルから溶融樹脂が脈動を伴って吐出され、安定したペレット化が困難であるという問題があった。また、成形品の外観に真珠光沢が現れるため、樹脂に着色剤を混合して着色すると、ヘイズが目立つという問題があった。
【0007】
そこで、ポリ乳酸樹脂とポリカーボネート樹脂のアロイの相溶性・性能・外観等の問題を改善するため、次のような相溶化剤や耐衝撃改良剤が見出されている。
【0008】
特許文献2では、アクリル樹脂あるいはスチレン樹脂をポリ乳酸樹脂にグラフト共重合することが提案されている。特許文献3では、ポリ乳酸樹脂と他の樹脂のアロイに、ビニル系単量体をゴム状重合体にグラフト共重合した樹脂を配合することが提案されている。
【0009】
特許文献2、3においては、いずれも機械物性、耐衝撃性、外観等に関しては改善効果がみられたが、湿熱耐久性が不十分であり、特に、高温環境下で使用される自動車部品や電気部品等において使用は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07−109413号公報
【特許文献2】特開2007−56247号公報
【特許文献3】特開2005−320409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、耐熱性や湿熱耐久性の問題を解決するために、本発明者は、ポリカーボネート樹脂よりもさらに耐熱性の高い樹脂、すなわち、ポリアリレート樹脂とポリ乳酸樹脂とのアロイを作製した。しかしながら、加工温度が大きく異なるために、単純な溶融混練では相溶化が難しく、十分な性能のものを得ることができなかった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、耐熱性、機械物性、湿熱耐久性に優れ、地球環境負荷の低いポリ乳酸系の樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は鋭意検討の結果、ポリ乳酸樹脂と、ポリカーボネート樹脂とポリアリレート樹脂の混合物、およびアクリル系化合物を特定の割合で含有させることで耐熱性、機械物性、湿熱耐久性すべてを格段に向上させることができることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)ポリ乳酸樹脂(A)25〜50質量%、ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)を混合した樹脂(B)30〜74.5質量%、およびアクリル系化合物(C)0.5〜20質量%を含有し、かつ、(A)、(B)、および(C)の合計を100質量%とした熱可塑性樹脂組成物。
(2)ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)の混合比率が30/70〜70/30(質量比)である(1)記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)アクリル系化合物(C)がエポキシ基を有するアクリル系化合物である請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物100質量部とカルボジイミド化合物(D)0.1〜5質量部とを含有する熱可塑性樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた機械物性、耐熱性、湿熱耐久性、外観を有し、かつ、石油系製品への依存度の低い樹脂組成物が提供される。この樹脂組成物は射出成形等により各種成形体とすることができ、上記の特性を生かして、機械機構部品、電気・電子部品、建築部材、自動車部品および日用品など各種用途に有効に利用することができる。さらに天然物由来の樹脂を利用しているので、石油等の枯渇資源の節約・二酸化炭素排出量の削減に貢献できるなど、産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物はポリ乳酸樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)の混合樹脂(B)、およびアクリル系化合物(C)を含有する。
【0017】
なお、以下において、ポリ乳酸樹脂(A)、ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)の混合樹脂(B)およびアクリル系化合物(C)からなる樹脂組成物を「樹脂組成物(ABC)」と略称する。
【0018】
まず、ポリ乳酸樹脂(A)について説明する。
【0019】
ポリ乳酸樹脂(A)としては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体等を挙げることができる。
【0020】
ポリ乳酸樹脂(A)の含有量は、樹脂組成物(ABC)に対して、25〜50質量%が必要で、30〜40質量%が好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の含有量が25質量%未満であると、バイオマス原料の比率が小さく環境側面でのメリットが小さくなり、一方、含有量が50質量%を超えると耐熱性、耐衝撃性等の物性が損なわれ好ましくない。
【0021】
ポリ乳酸樹脂(A)には、ポリ乳酸樹脂(A)に対して、20質量%を超えない範囲で、他の生分解性樹脂が混合されていてもよい。他の生分解性樹脂としては、例えば、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンアジペート)等のジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3−ヒドロキシカプロン酸)等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(ε−カプロラクトン)やポリ(δ−バレロラクトン)等のポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、さらに芳香族成分を含んでいても生分解性を示すポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート)、ポリエステルアミド、ポリエステルカーボネート、澱粉等の多糖類が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。また、共重合されていてもよい。
【0022】
ポリ乳酸樹脂(A)の後述の測定方法によるメルトフローレート(以下、MFRと略称する。)は、0.1〜50g/10分が好ましく、0.2〜20g/10分がより好ましく、0.5〜15g/10分がさらに好ましい。MFRが50g/10分を超えると、溶融粘度が低すぎて成形物の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。一方、MFRが0.1g/10分未満であると成形加工時の負荷が高くなり、操業性が低下する。
【0023】
ポリ乳酸樹脂(A)は、公知の溶融重合法により、あるいは必要に応じてさらに固相重合法を併用して製造される。
【0024】
本発明におけるポリ乳酸樹脂(A)として、架橋ポリ乳酸樹脂を使用すると、耐熱性や、溶融混練時の操業性を向上させることができる。架橋ポリ乳酸樹脂とはポリ乳酸樹脂に架橋構造を導入したものである。架橋の形態としては、ポリ乳酸樹脂分子同士が直接架橋したものでも、架橋助剤を介して間接的に架橋したものでも、直接架橋と間接架橋が混在したものでもよい。
【0025】
ポリ乳酸樹脂に架橋構造を導入する方法としては、電子線を照射する方法、多価イソシアネート化合物等の多官能性化合物を使用する方法、過酸化物を使用する方法等の公知の方法が挙げられる。架橋効率の点で、過酸化物を使用する方法が好ましい。
【0026】
過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメンが挙げられる。
【0027】
過酸化物の含有量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して0.1〜20質量部とすることが好ましく、0.1〜10質量部とすることがより好ましい。20質量部を超えても使用できるが、効果が飽和するばかりか、経済的でない。なお、過酸化物は、混練する際に分解して消費されるため、ポリ乳酸樹脂との混練時に使用されても、樹脂組成物中には残存しない場合がある。
【0028】
架橋効率を上げるために、過酸化物とともに架橋助剤を使用することが好ましい。架橋助剤を用いる場合、その含有量は、過酸化物100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、10〜30質量部がより好ましい。50質量部を超えても使用できるが、効果が飽和するばかりか、経済的でない。
【0029】
架橋助剤としては、例えば、アルコキシ基、ビニル基、(メタ)アクリル基から選ばれる官能基を2個以上有するシラン化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、脂肪族および芳香族ビニル、芳香族アリル、ビニル複素環式化合物、多官能性(メタ)アクリル系化合物、脂肪族および芳香族多価カルボン酸のポリビニルエステル、脂肪族および芳香族多価カルボン酸のポリビニルエステル、ポリアリルエステル、脂肪族および芳香族多価カルボン酸のポリビニルエステル、ポリアリルエステル、シアヌール酸またはイソシアヌール酸のアリルエステル、マレイミド系化合物、2個以上の三重結合を有する化合物が挙げられる。中でも架橋反応性の点から、アルコキシ基、ビニル基、(メタ)アクリル基から選ばれる官能基を2個以上有するシラン化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物が好ましい。
【0030】
アルコキシ基、ビニル基、アクリル基、(メタ)アクリル基から選ばれる官能基を2個以上有するシラン化合物とは、シラン化合物の4つの水素のうち、2つ以上がアルコキシ基、ビニル基、アクリル基、(メタ)アクリル基から選ばれる官能基で置換された構造を有する化合物である。
【0031】
このような化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−1003)、ビニルトリエトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8311、信越化学工業社製KBE−1003)、p−スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−1403)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(GE東芝シリコーン社製TSL8370、信越化学工業社製KBM−503)、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE−503)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−5103)が挙げられる。
【0032】
ポリ乳酸樹脂に、過酸化物と架橋助剤を架橋反応させる方法としては、一般的な押出機を用いて溶融混練する方法が挙げられる。その場合、あらかじめ過酸化物および/または架橋助剤を媒体に溶解または分散させてもよい。例えば、ポリ乳酸樹脂と過酸化物とを溶融混練しながら架橋助剤の溶解液または分散液を注入してもよく、また、ポリ乳酸樹脂を溶融混練しながら架橋助剤と過酸化物の溶解液または分散液を注入して溶融混練してもよい。
【0033】
過酸化物および/または架橋助剤を溶解または分散させる媒体としては、特に限定されないが、本発明の樹脂組成物との相溶性に優れた可塑剤が好ましい。例えば、脂肪族多価カルボン酸エステル誘導体、脂肪族多価アルコールエステル誘導体、脂肪族オキシエステル誘導体、脂肪族ポリエーテル誘導体、脂肪族ポリエーテル多価カルボン酸エステル誘導体等が挙げられる。具体的な化合物としては、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノカプレート、ポリグリセリン酢酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸トリグリセライド、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、トリエチレングリコールジアセテート、アセチルリシノール酸メチル、アセチルトリブチルクエン酸、ポリエチレングリコール、ジブチルジグリコールサクシネート、ビス(ブチルジグリコール)アジペート、ビス(メチルジグリコール)アジペート等が挙げられる。市販品としては、理研ビタミン社製PL−012、PL−019、PL−320、PL−710、アクターシリーズ(M−1、M−2、M−3、M−4、M−107FR)、田岡化学社製のATBC、大八化学社製のBXA、MXA、太陽化学社製のチラバゾールVR−01、VR−05、VR−10P、VR−10P改1、VR−623が挙げられる。
【0034】
次に、ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)の混合樹脂(B)(以下、「混合樹脂(B)」と略称することがある。)について説明する。
【0035】
混合樹脂(B)としては、ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)のそれぞれのチップまたはパウダーを単にブレンドしたものでもよいが、ポリ乳酸樹脂との相溶性を向上させ、物性を向上させる観点から、(B1)と(B2)を溶融混練して作製した樹脂(B3)の方が好ましい。また、(B1)と(B2)とが共重合されていてもよい。
【0036】
混合樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物(ABC)に対して、30〜74.5質量%が必要で、40〜60質量%が好ましい。混合樹脂(B)の含有量が30質量%未満であると、耐熱性、耐衝撃性等の物性が損なわれ、一方、含有量が69.5質量%を超えると、バイオマス比率が少なくなり、環境面で好ましくない。
【0037】
ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)の混合比率は、耐熱性と流動性の点から、70/30〜30/70(質量比)の範囲が好ましく、60/40〜40/60(質量比)の範囲がより好ましい。
【0038】
混合樹脂(B)の極限粘度は、相溶性、機械物性、耐熱性の点から0.55以下が好ましく、衝撃強度の点から0.35以上が好ましい。
【0039】
ポリカーボネート樹脂(B1)について説明する。
【0040】
ポリカーボネート樹脂(B1)とは、ビスフェノール類残基とカーボネート残基からなる樹脂である。
【0041】
ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと略称する。)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下、ビスフェノールTMCと略称する。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4´−ジチオジフェノール、4,4´−ジヒドロキシ−3,3´−ジクロロジフェニルエーテル、4,4´−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテルが挙げられる。中でも、汎用性の点から、ビスフェノールAとビスフェノールTMCが好ましい。これらを単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0042】
ポリカーボネート樹脂(B1)は、公知の方法で製造することができる。例えば、ビスフェノール類とホスゲン、または、ビスフェノール類とジフェニルカーボネートを反応させる方法が挙げられる。
【0043】
ポリカーボネート樹脂(B1)の極限粘度は0.35〜0.64の範囲にあることが好ましい。(B1)の極限粘度が0.35未満であると、得られる成形品の衝撃強度が不足する場合があり、一方、0.64を超えると、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、混練押出しおよび射出成形が困難になる場合がある。
【0044】
ポリアリレート樹脂(B2)について説明する。
【0045】
ポリアリレート樹脂(B2)とは、芳香族ジカルボン酸残基とビスフェノール残基からなる樹脂である。
【0046】
ビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールTMC、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3,5―ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが挙げられる。これらを単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。中でも、ビスフェノールAとビスフェノールTMCの併用が好ましい。
【0047】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4′−ジカルボキシフェニルが挙げられる。中でも、溶融加工性、機械的特性の点から、テレフタル酸とイソフタル酸が好ましく、両者の併用がより好ましい。
【0048】
テレフタル酸とイソフタル酸を併用する場合、両者のモル比率は、特に限定されないが、90/10〜10/90の範囲とすることが好ましく、70/30〜30/70の範囲とすることがより好ましく、50/50とすることがさらに好ましい。両者のモル比率がこの範囲にあると、界面重合する場合、十分に重合度を上げることができる。
【0049】
ポリアリレート樹脂(B2)の極限粘度は0.35〜0.65であることが好ましい。0.35未満であると、得られる成形品の衝撃強度が不足する場合がある。一方、0.65を超えると溶融粘度が高くなり、射出成形が困難となることがある。
【0050】
ポリアリレート樹脂(B2)の製造方法は特に限定されないが、例えば、界面重合法、溶融重合法が挙げられる。
【0051】
次に、アクリル系化合物(C)について説明する。
【0052】
アクリル系化合物(C)を使用することによって、ポリ乳酸樹脂(A)と混合樹脂(B)の相溶性をさらに向上させ、機械強度やウェルド強度を高めることができる。
【0053】
アクリル系化合物(C)の含有量は、樹脂組成物(ABC)に対して、0.5〜20質量%が必要であり、1〜15質量%が好ましい。アクリル系化合物(C)の含有量が0.5質量%未満であると、ポリ乳酸樹脂(A)と混合樹脂(B)が相溶化しないという問題があり、一方、含有量が20質量%を超えると耐熱性が低下するという問題があるので好ましくない。
【0054】
アクリル系化合物(C)としては、例えば、(メタ)アクリル系共重合体、スチレン系モノマーと(メタ)アクリル系モノマーの共重合体が挙げられる。
【0055】
(メタ)アクリル系共重合体とは、(メタ)アクリル系モノマーを単独で重合したもの、または2種以上の(メタ)アクリル系モノマーを共重合したものである。
【0056】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等のアルキル基(シクロアルキル基を含む)の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー、メタクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル系モノマー、メタクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル系モノマーが挙げられる。
【0057】
スチレン系モノマーと(メタ)アクリルモノマーの共重合体としては、スチレン系モノマーと前記(メタ)アクリル系共重合体を構成するモノマーを共重合したものが挙げられる。
【0058】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレンのスチレン誘導体が挙げられる。中でも、スチレン、α―メチルスチレンが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0059】
アクリル系化合物(C)としてはゴム強化アクリル系樹脂も使用できる。ゴム強化アクリル系樹脂とは、ゴム状重合体の存在下に、(メタ)アクリル系モノマーを共重合したもの、または、2種以上のモノマーを共重合したものである。
【0060】
ゴム状重合体としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレン共重合体、イソプレン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、ブタジエン・イソプレン・スチレン共重合体、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン・非共役ジエン共重合体等のエチレン−プロピレン系ゴム、ポリブチルアクリレート等のアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサン系ゴム等のシリコン系ゴム、これら2種以上のゴムからなる複合ゴムが挙げられる。中でも、ジエン系ゴムまたはアクリル系ゴムが好ましい。これらは単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0061】
アクリル系化合物(C)としては、内層にゴム層を有し、外層にアクリル系樹脂がグラフトさせた、コアシェル型重合体も挙げられる。コアシェル構造の一例として、コア(内層)は、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分等を重合させたゴム等から構成され、シェル(外層)はメタクリル酸メチル重合体等から構成されるものが挙げられる。市販品としては、例えば、三菱レイヨン製メタブレン、鐘淵化学工業製カネエース、呉羽化学工業製パラロイド、ロームアンドハース製アクリロイド、武田薬品工業製スタフィロイドまたはクラレ製パラペットSAが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0062】
アクリル系化合物(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体がグラフト共重合された変性オレフィン化合物も挙げられる。市販品としては、日油製モディパー等が挙げられる。
【0063】
さらに、アクリル系化合物(C)としては、エポキシ基を有するアクリル系化合物も挙げることができる。
【0064】
エポキシ基を有するアクリル化合物としては、エポキシ基を有するアクリル系重合体が挙げられる。例えば、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー同士の共重合体、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーと(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体、スチレンモノマーとエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体が挙げられる。市販品としては東亜合成製ARUFON UG−4000シリーズ等が挙げられる。
【0065】
エポキシ基を有するアクリル系共重合体としては、エポキシ基を有するアクリル系モノマーとスチレン系モノマーの共重合体、スチレン系共重合体に(メタ)アクリル酸エステル重合体をグラフト共重合体させた化合物も挙げられる。市販品としては、例えば、東亜合成製RESEDAが挙げられる。
【0066】
エポキシ基を有するアクリル系化合物としては、内層にゴム層を有し、外層にアクリル系重合体がグラフトさせた、コアシェル型重合体も挙げられる。コアシェル構造の一例として、コア(内層)は、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分等を重合させたゴム等から構成され、シェル(外層)はエポキシ基を有するメタクリル酸メチル共重合体等から構成されるものが挙げられる。市販品としては、例えば、三菱レイヨン製メタブレンS−2200が挙げられる。
【0067】
エポキシ基を有するアクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体がグラフト共重合されたエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体も挙げられる。市販品としては、例えば、日油製モディパーA4200が挙げられる。
【0068】
次に、カルボジイミド化合物(D)について説明する。
【0069】
カルボジイミド化合物(D)を使用することによって、耐湿耐久性を向上させることができる。
【0070】
カルボジイミド化合物(D)を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物(ABC)100質量部に対して、0.1〜5質量部とすることが好ましく、0.5〜3質量部とすることがより好ましい。カルボジイミド化合物(D)の含有量がこの範囲にあると、湿熱耐久性が向上し、耐熱性が向上する。
【0071】
モノカルボジイミド化合物と多価カルボジイミド化合物を併用する場合、両者の質量比率は、30/70〜70/30の範囲が好ましい。質量比率がこの範囲にあると、極めて優れた湿熱耐久性が得られる。
【0072】
カルボジイミド(D)として、モノカルボジイミド化合物と多価カルボジイミド化合物を併用することで、それぞれを単独で用いる場合より、湿熱耐久性が向上する。理由は明らかでないが、以下のように推測できる。
【0073】
ポリ乳酸分子の加水分解は、カルボン酸末端基により促進されることが知られている。モノカルボジイミド化合物は、分子量が小さく動きやすいため分散性に優れ、すばやくポリ乳酸分子のカルボン酸末端と反応して、ポリ乳酸分子の末端を封鎖する。一方、ポリ乳酸が加水分解してカルボン酸末端が新たに発生すると、多価カルボジイミド化合物が、発生したカルボン酸末端と反応し、鎖延長して分子量を増大させるため、分子量低下が抑制される。このため、湿熱耐久性が飛躍的に向上すると推測される。
【0074】
モノカルボジイミド化合物とは(−N=C=N−)で表されるカルボジイミド基を分子内に1個有する化合物であり、多価カルボジイミド化合物はカルボジイミド基を分子内に2個以上有する化合物である。
【0075】
モノカルボジイミドとしては、N,N´−ジイソプロピルカルボジイミド、N,N−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−クロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−3,4−ジクロルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,5−ジクロルフェニルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−o−トルイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−p−クロルフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トルイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トルイルカルボジイミド、N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドが挙げられる。中でも、湿熱耐久性点から、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが好ましい。
【0076】
多価カルボジイミド化合物としては、例えば、ポリ(1,6−ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′−ジメチル−4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミドが挙げられる。中でも、ポリ(4,4′−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド、ポリ(1,5−ジイソプロピルベンゼン)カルボジイミドが好ましい。
【0077】
カルボジイミド化合物は、公知の方法により製造することができる。例えば、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により製造する方法が挙げられる。
カルボジイミド化合物には、末端にイソシアネート基が残存していてもよい。
【0078】
次に、本発明の樹脂組成物を製造する方法について説明する。
【0079】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、樹脂組成物中に各成分が分散されている状態になれば、特に限定されず、例えば、所定の原料を溶融混練する方法が挙げられる。
【0080】
混練する順序は、特に限定されない。例えば、すべての原料を同時に混合し溶融混練してもよく、また、ポリ乳酸樹脂、非晶性熱可塑性樹脂、アクリル系化合物を混合し溶融混練してから、カルボジイミド化合物や難燃剤を配合してもよい。
【0081】
アクリル系化合物としてエポキシ基を有するアクリル化合物を使用し、カルボジイミド化合物を使用する場合は、エポキシ基を有するアクリル化合物をポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂と溶融混練後、カルボジイミド化合物を配合して溶融混練する方が好ましい。このようにすることで、樹脂組成物の物性、耐久性が向上する。明確な理由は不明であるが、エポキシ基を有するアクリル化合物、カルボジイミドは、いずれもポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂と反応するため、反応の順序が変わるためと推測される。より具体的な方法としては、例えば、押出機のメインフィーダから、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系化合物を投入して、バレル内で溶融混練させた後、押出機途中から、カルボジイミド化合物を投入する方法が挙げられる。
【0082】
本発明の樹脂組成物には、機械的強度や耐熱性の向上を目的としてガラス繊維等の無機充填材を使用してもよい。ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物(ABC)100質量部に対して、1〜50質量部が好ましい。
【0083】
ガラス繊維としては公知のガラス繊維を用いることができ、樹脂との密着性を高めるために、表面処理を施してもよい。添加の方法としては、押出機において、ホッパーから、あるいはサイドフィーダを用いて混練の途中から添加する方法が挙げられる。また、ガラス繊維をマスターバッチ加工して、成形時にベース樹脂で希釈し、使用することもできる。
【0084】
本発明の樹脂組成物には、難燃性能を付与する目的で、難燃剤を含有させることができる。
【0085】
難燃剤を用いる場合、その含有量は、樹脂組成物(ABC)100質量部に対して、5〜30質量部とすることが好ましい。難燃剤の含有量が、この範囲にあると、樹脂組成物の強度を低下させることなく、難燃性能を発現させることができる。
【0086】
難燃剤としては、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤および無機系難燃剤等が挙げられる。中でも、リン系難燃剤が好ましい。これらを単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0087】
リン系難燃剤としては、縮合リン酸エステル、ホスフィン酸金属塩等が挙げられる。縮合リン酸エステルの市販品としては、例えば、大八化学社製PX−200、PX−201、PX−202、CR−733S、CR−741、CR747等が挙げられる。ホスフィン酸金属塩の市販品としてはクラリアント社のOPシリーズ(OP930、OP935、OP1230、OP1312、OP1240等)が挙げられる。
【0088】
本発明の樹脂組成物にはその特性を大きく損なわない範囲内で、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、耐光剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材、結晶核剤等を添加することができる。
【0089】
熱安定剤や酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、ビタミンE等が挙げられる。
【0090】
ガラス繊維以外の無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品等が挙げられる。
【0091】
無機結晶核材としては、タルク、カオリン等が挙げられ、有機結晶核材としては、ソルビトール化合物、安息香酸およびその化合物の金属塩、燐酸エステル金属塩、ロジン化合物、脂肪酸アミド化合物、芳香族アミド化合物、フェニルホスフォン酸金属塩、スルフォン酸金属塩等が挙げられる。なお、本発明の樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0092】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、およびシート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。特に、射出成形法に適しており、一般的な射出成形のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等に用いることができる。射出成形条件は、熱可塑性樹脂の種類や含有比率によって適宜選択されるが、シリンダ温度は180〜260℃が好ましく、190〜250℃がより好ましい。金型温度は100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。成形温度が低すぎると成形品にショートショートが発生する等操業性が不安定になる場合がある。逆に成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色したりする等の問題が発生する場合がある。
【0093】
本発明の樹脂組成物は、結晶化を促進させることにより、その耐熱性を高めることができる。例えば、射出成形時に金型内で冷却して結晶化を促進させる方法や、成形後に結晶化を促進させる方法等が挙げられる。射出成形時に金型内で冷却して結晶化を促進させる方法としては、金型温度を樹脂組成物の結晶化温度±20℃で所定時間冷却するのが好ましい。金型温度を樹脂組成物のガラス転移温度以下にまで下げてから、金型を開いて成形品を取り出してもよい。ガラス転移温度が複数存在する場合は、成形上、問題ないガラス転移温度を選択すればよい。成形後に結晶化を促進させる方法としては、得られた成形品を、結晶化温度±20℃で熱処理することが好ましい。結晶化温度が複数存在する場合は、各温度で同様の処理を実施してもよい。なお、成形上、性能上、問題なければ、上記金型温度以外の設定でも、成形してよい。
【0094】
本発明の樹脂組成物から得られる成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フイルム、繊維およびシート等が挙げられる。中でも、射出成形品は薄肉化が可能である。これらの成形品は、電気・電子部品、機械部品、光学機器、建築部材、自動車部品および日用品等各種用途に使用することができ、特に電子機器用筐体として好適に使用できる。難燃性を付与した組成物は、ノートパソコン、プロジェクタ、複写機、プリンタ等の筐体に好適に使用することができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0096】
1.評価項目
(1)MFR
JIS規格K−7210(試験条件4)にしたがい、190℃、荷重21.2Nで測定した。
【0097】
(2)極限粘度
1,1,2,2−テトラクロロエタンを測定溶媒として、濃度1g/dl、温度25℃の条件で測定した。
【0098】
(3)熱変形温度
ISO規格75−1、2にしたがい、熱変形温度用試験片を用いて荷重1.8MPaおよび荷重0.45MPa熱変形温度を測定した。荷重1.8MPaにおいては、90℃以上が望ましく、荷重0.45MPaにおいては、110℃以上が望ましい。ただし難燃剤を配合している場合は荷重1.8MPaにおいて80℃以上が望ましい。
【0099】
(4)衝撃強度(シャルピー衝撃強度)
ISO規格179−1eAにしたがい、ノッチ(V字型切込み)付きシャルピー衝撃試験片を用いてシャルピー衝撃強度を測定した。実用的に10kJ/m2以上が好ましい。
【0100】
(5)曲げ強度
ISO規格178にしたがい、曲げ強度試験片を用いて変形速度1mm/分で、曲げ強度を測定した。
【0101】
(6)湿熱耐久性
曲げ強度試験片を温度60℃、湿度95%RHの環境下で200時間処理した後、曲げ強度を測定して、未処理品の値に対する強度保持率を下記の式で計算した。実用的に90%以上が好ましい。
強度保持率(%)=(処理後の曲げ強度÷未処理品の曲げ強度)×100
また、カルボジイミドを配合して湿熱耐久性を向上させた組成(実施例18〜実施例29)に関しては、800hまで処理したものに関しても同様に測定した。
【0102】
(7)難燃性
難燃剤を配合した組成に関しては、UL94(米国Under Writers Laboratories Inc.で定められた規格)の垂直燃焼試験方法にしたがって測定した。なお試験片の厚みは1/16インチ(約1.6mm)とした。難燃性はV−2,V−1あるいはV-0であることが好ましくV−1、V−0であることが特に好ましい。
【0103】
2.原料
<(A)ポリ乳酸樹脂>
(1)ポリ乳酸樹脂
カーギルダウ社製NatureWorks 3001DK、MFR=10、融点168℃。(以下、PLAと略称する。)
【0104】
(2)架橋ポリ乳酸樹脂
次の通りに作製した。
二軸押出機(東芝機械社製TEM−37BS)を使用して、PLA100質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン(信越シリコーン製)1.0質量部とジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製)1.0質量部を脂肪酸トリグリセライド(理研ビタミン製)2.5質量部に溶解した溶液を注入し、190℃で混練した。吐出された樹脂をペレット状にカッティングして、架橋ポリ乳酸樹脂を得た。(以下、架橋PLAと略称する。)得られた架橋PLAのMFRは1.0であった。
【0105】
<(B1)ポリカーボネート樹脂>
(1)ポリカーボネート樹脂
住友ダウ社製200−30、極限粘度0.44(以下、PCと略称する。)
<(B2)ポリアリレート樹脂>
(1)ポリアリレート樹脂1
ユニチカ社製Lパウダー、極限粘度0.54(以下、PAR1と略称する。)
【0106】
(2)ポリアリレート樹脂2、極限粘度0.50(以下、PAR2と略称する。)
なお、PAR2は以下の通りに作製した。
攪拌装置を備えた反応容器中に、二価フェノール成分としてビスフェノールA13.9kg(61.0モル)、ビスフェノールTMC18.9kg(61.0モル)、末端封止剤としてp−tert−ブチルフェノール0.92kg(6.1モル)、アルカリとして水酸化ナトリウム11.2kg(281モル)、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド759g、層間移動触媒としてハイドロサルファイトナトリウム164gを仕込み、水588Lに溶解した(水相)。
さらに、塩化メチレン346Lに、テレフタル酸クロライド12.69kg(62.5モル)、イソフタル酸クロライド12.69kg(62.5モル)を溶解した。(有機相)。
この有機相を、すでに攪拌している水相と強攪拌下で添加し、15℃で2時間重合反応をおこなった。この後攪拌を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。水相を除去した後、純水600Lと酢酸を添加して反応を停止し、15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で5回洗浄した後に、有機相をヘキサン中に添加してポリマーを沈殿させ、分離・乾燥後、ポリアリレート樹脂を得た。得られたポリアリレートをH−NMRにて、組成分析をおこなったところ、得られたポリアリレート樹脂のモル比率は仕込みのモル比率と同じであることが確認された。また極限粘度は0.50であった。
【0107】
(3)ポリアリレート樹脂3
ユニチカ社製Dパウダー、極限粘度0.72(以下、PAR3と略称する。)
【0108】
<(B)ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)を混合した樹脂>
(1)溶融混練樹脂1
二軸押出機(東芝機械社製TEM−37BS)を使用してPAR1/PC=50/50質量%の配合で供給し、加工温度300℃で溶融混練押出しをおこなった。そして、吐出された樹脂をペレット状にカッティングしてポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の溶融混練物を得た。得られたPAR/PC―1の極限粘度は0.48であった。(以下、PAR/PC−1と略称する。)
【0109】
(2)溶融混練樹脂3
原料の配合比率をPAR2/PC=30/70質量%にした以外は、PAR/PC−1と同様にしてポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の溶融混練物を得た。(以下PAR/PC−2と略称する。)得られたPAR/PC―2の極限粘度は0.45であった。
【0110】
(3)溶融混練樹脂3
原料の配合比率をPAR3/PC=50/50質量%にした以外は、PAR/PC−1と同様にしてポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の溶融混練物を得た。(以下、PAR/PC−3と略称する。)得られたPAR/PC―3の極限粘度は0.57であった。
【0111】
<(C)アクリル系化合物>
(1)アクリル化合物
内層にゴム層を有し、外層にアクリル系重合体がグラフトされた、コアシェル型重合体 三菱レイヨン社製メタブレンC−223A(以下、A−1と略称する。)
【0112】
(2)エポキシ基を有するアクリル化合物
三菱レイヨン社製メタブレンS−2200(以下、EA−1と略称する。)
(3)エポキシ基を有するアクリル化合物
東亜合成社製RESEDA GP−301(以下、EA−2と略称する。)
(4)エポキシ基を有するアクリル化合物
日本油脂社製モディパーA4200(以下、EA−3と略称する。)
【0113】
<D>カルボジイミド
(1)芳香族モノカルボジイミド化合物、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド
ラインケミー社製スタバクゾールI(以下、HMCD−1と略称する。)
(2)芳香族多価カルボジイミド化合物、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)カルボジイミド
ラインケミー社製スタバクゾールP(以下、HPCD−1と略称する。)
【0114】
(3)脂肪族多価カルボジイミド化合物
日清紡社製LA−1、イソシアネート基含有率1〜3%(以下、SPCD−1と略称する。)
【0115】
<難燃剤>
(1)ホスフィン酸アルミニウム塩
クラリアント社製エクソリットOP935(以下、FR−1と略称する。)
(2)芳香族縮合リン酸エステル
大八化学工業社製PX−200(以下、FR−2と略称する。)
【0116】
実施例1〜26、比較例1〜7
各原料をドライブレンドしたのち、表1〜表4に示す割合で、二軸押出機(東芝機械社製TEM−37BS)に供給し、加工温度230℃〜260℃で、溶融混練押出しをおこない、吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物を得た。
【0117】
実施例1〜26および比較例1〜7で得られた樹脂組成物を、熱風乾燥機で、80℃で5時間乾燥処理した後、射出成形機(東芝機械製IS−80G型)を用いて成形し、各種試験片を得た。このときシリンダ設定温度240〜220℃で溶融して、射出圧力120MPa、射出速度100mm/s、射出と保圧の合計時間15秒で、保圧60MPaで60℃の金型に充填し、30秒間冷却した。
【0118】
試験片の製造条件、樹脂組成、混合樹脂(B)の極限粘度および特性値を、表1〜表4に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
【表2】

【0121】
【表3】

【0122】
【表4】

【0123】
実施例1〜29の樹脂組成物は、熱変形温度、衝撃強度、湿熱耐久性ともに良好であった。
【0124】
さらに難燃剤を配合した、実施例28、29に関しては難燃性も良好であった。
【0125】
実施例1と実施例14、実施例15と実施例16を対比することにより、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合樹脂の極限粘度が0.55を超えると、熱変形温度、衝撃強度が優れていることがわかる。
【0126】
実施例1と実施例16、実施例2と実施例17、および実施例14と実施例15を対比することで、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の溶融混連樹脂を使用すると、熱変形温度、衝撃強度が向上することがわかる。
【0127】
カルボジイミドを含有させた実施例18〜実施例29は800時間の湿熱耐久性が優れていた。とりわけモノカルボジイミドと多価カルボジイミドを所定の割合で併用した、実施例23〜25、実施例27〜29は、極めて湿熱耐久性が優れていた。
【0128】
それに対して、比較例1はポリ乳酸樹脂の含有量が多かったため、湿熱耐久性が悪く、熱変形温度も低かった。
比較例2はポリアリレート樹脂を含有させなかったため、湿熱耐久性が低く、熱変形温度も低かった。
比較例3では、アクリル系化合物の含有量が少なかったため、衝撃強度が低かった。
比較例4では、アクリル系化合物の含有量が多かったため、熱変形温度が低かった。
比較例5は、ポリアリレートとポリカーボネートの混合樹脂の含有量が少なく、アクリル系化合物の含有量が多かったため、熱変形温度が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)25〜50質量%、ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)を混合した樹脂(B)30〜74.5質量%、およびアクリル系化合物(C)0.5〜20質量%を含有し、かつ、(A)、(B)、および(C)の合計を100質量%とした熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリカーボネート樹脂(B1)とポリアリレート樹脂(B2)の混合比率が30/70〜70/30(質量比)である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系化合物(C)がエポキシ基を有するアクリル系化合物である請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物100質量部とカルボジイミド化合物(D)0.1〜5質量部とを含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2011−195668(P2011−195668A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62604(P2010−62604)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】