説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】固相重合時の減圧に伴う、添加剤の固相重合槽外への飛散防止が可能な熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】減圧下回転回分式固相重合装置に用いる、1つもしくは複数の添加剤において、添加剤の形状が錠剤であり、且つ、添加剤の組成の内、少なくとも1つの融点が固相重合温度以下であり、錠剤状添加剤の直径と高さの比が0.5〜2.5、また、錠剤状添加剤の破壊強度が3〜15kgであることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物表面に耐熱剤、離型剤等(以下、添加剤)を付着させる熱可塑性樹脂組成物の製造方法である。更に詳しくは、添加剤の形状が錠剤のため、固相重合時の減圧に伴う添加剤の槽外飛散が少なく、それに伴い、減圧系の閉塞が抑制され、整備回数が減少できるので、増産が可能となる熱可塑性樹脂組成物の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
通常、熱可塑性樹脂組成物の固相重合は、一般にペレットと言われる小粒の樹脂塊を固相重合槽に充填し、回分式または連続式の装置で減圧または不活性ガス流通下において、高温で行なわれることが知られている。このような熱可塑性樹脂組成物の固相重合装置は従来から使用されており、例えば、特許文献1および2にその例を見ることができる。
【0003】
減圧下回転回分式固相重合装置は、少量多品種生産に適しており、減圧下回転回分式固相重合装置の周囲に張り巡らせたジャケット内の熱媒によって熱可塑性樹脂組成物ペレットを加熱しているので、これを利用して、ペレット表面に添加剤を固着させることが可能である。しかし、減圧下回転回分式固相重合装置は減圧下で固相重合を行なうことから、添加剤が固相重合槽外へ飛散するため、減圧系配管の閉塞や、減圧発生装置の不具合を引き起こす問題がある。
【0004】
固相重合槽外への粉末飛散を防止するには、固相重合終了後に固相重合槽へ添加剤を投入し、混合する方法もあるが、配合する添加剤量が多いと、ペレットに付着しきれず、風送等の輸送時に脱落したり、包装袋の底に堆積するという問題がある。
【0005】
添加剤の脱落を防止するには、シリコーンやプロピレングリコール等の展着剤を使用する方法があるが、押出や成形前に乾燥を行なった際に展着剤が揮発して、乾燥機のフィルタ等に付着し、閉塞を起こすという問題がある。
【特許文献1】特開昭49−16794号公報
【特許文献2】特開昭56−84719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、固相重合時の減圧に伴う、添加剤の固相重合槽外への飛散防止が可能な熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、
(1)減圧下回転回分式固相重合装置で重合する際に用いる、1つもしくは複数の添加剤において、添加剤の形状が錠剤であり、且つ、添加剤の組成の内、少なくとも1つの融点が固相重合温度以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法であり、好ましくは
(2)錠剤状添加剤の直径と高さの比が、0.5〜2.5の範囲であることを特徴とする(1)記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法であり、更に好ましくは
(3)錠剤状添加剤の破壊強度が、3〜15kgの範囲であることを特徴とする(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、固相重合時の減圧に伴う、添加剤の固相重合槽外への飛散が少ないので、減圧系配管の閉塞が起こりにくく、且つ、減圧発生装置の不具合も防止できる。そのため、機器の整備回数が減少し、増産が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例である装置と方法を図面を用いて詳細に説明する。図1は減圧下回転回分式固相重合装置の正面概略図である。本装置はダブルコーン状をなしている固相重合槽1に、固相重合槽1の加熱用ジャケット2、原料熱可塑性樹脂組成物ペレット投入口兼固相重合終了ペレット排出口3、添加剤投入口4、メッシュフィルタ5が設けられている。また、固相重合槽1には、減圧系配管6、捕集ポット7、真空発生装置8、固相重合槽回転用モータ9等が連結されている。
【0010】
本発明の固相重合方法は、まず、ダブルコーン状の固相重合槽にペレットと錠剤状添加剤を充填し、減圧を開始する。減圧を行なっても、添加剤は、メッシュフィルタの目開きより大きい錠剤形状なので、槽外への飛散が防止されることから、減圧系配管の閉塞が起こりにくく、且つ、真空発生装置の不具合も防止できる。規定値まで減圧後、固相重合槽の回転を開始し、固相重合槽の周囲に設置されたジャケットに熱媒を通し、加熱を開始する。ペレット温度が高くなるに従い、錠剤状添加剤も加熱されるので、錠剤状添加剤の組成の融点以上になった時点で、徐々に崩壊し、ペレットに固着する。
【0011】
ここで言う固着とは、融解した添加剤が、ペレット表面に付着し、その後ペレット内部に含浸することであり、融解しない添加剤では、融解した添加剤を介してペレット表面に付着することを示す。よって、融解しない添加剤だけでは、固着とは言えない。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法における固相重合に際しては、図1において、まず、ペレット投入口3から原料熱可塑性樹脂組成物ペレットを規定量の1/5程度、固相重合槽1へ充填し、そこへ、添加剤投入口4から錠剤状の添加剤を規定量投入する。添加剤を投入後、残りの原料熱可塑性樹脂組成物ペレットをペレット投入口3から固相重合槽1に充填する。充填終了後、固相重合槽1を真空発生装置8により減圧する。
規定減圧度到達後、固相重合槽回転用モータ9により、固相重合槽1の回転を開始し、その後、加熱用ジャケット2へ熱媒を通して加熱を開始する。
【0013】
加熱用ジャケット2により、熱可塑性樹脂組成物ペレットが加熱されると、錠剤状添加剤も加熱されるので、徐々に融解し、熱可塑性樹脂組成物ペレットに固着する。
【0014】
所定の重合度に到達後、加熱用ジャケット2への熱媒供給を停止し、替わりに冷媒を供給して、熱可塑性樹脂組成物ペレットを冷却する。
熱可塑性樹脂組成物ペレットが規定温度まで冷却されたら、冷媒供給と、真空発生装置8を停止し、固相重合槽1を窒素で常圧に戻した後、排出口3から、ペレットを抜き出す。
【0015】
本発明が適用できる熱可塑性樹脂組成物としては、ポリカプラミドやポリヘキサメチレンアジパミドなどに代表されるポリアミドおよび、その共重合体、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどに代表されるポリエステルおよび、その共重合体などであるが、それ以外の熱可塑性樹脂組成物についても適用することができる。
【0016】
錠剤状添加剤の製造方法としては、圧縮法や溶融法が挙げられるが、圧縮法が好ましく用いられる。
【0017】
錠剤形状に特に制限はないが、球状や円柱状が好ましい。また、錠剤の大きさは、メッシュフィルタより槽外へ飛散しないように、フィルタの目開きより大きい必要がある。しかし、錠剤の直径と高さの比が大きすぎると、輸送中や保管時、固相重合槽内で崩壊しやすくなるので、直径と高さの比が0.5〜2.5の範囲であることが好ましい。
【0018】
錠剤の破壊強度は、低強度だと、輸送中や保管時、固相重合槽内で崩壊しやすくなり、高強度だと、固相重合槽内で崩壊しにくくなるので、3〜15kgの範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明によって得られた熱可塑性樹脂組成物は、そのまま、あるいは、着色剤と混合して射出成形や押出成形に用いたり、ガラス繊維等の補強材やゴム成分、着色剤、耐熱剤等と溶融混練して用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、実施例中で用いた槽外飛散粉末量は、減圧系配管の途中に設置してある、捕集ポットで回収された粉末の重量より求めた。また、本発明は実施例の態様に限定されるものではない。
【0021】
実施例1
図1に示す構造の減圧下回転回分式固相重合装置へポリエステルエラストマーペレットを1,000kg投入し、次に錠剤状添加剤(直径:7mm、高さ:6mm、破壊強度:7kg、錠剤組成:融点が158℃と176℃の等比率混合物)を25kg、更に7,000kgのポリエステルエラストマーペレットを投入した。投入終了後、真空発生装置8で減圧を行ない、規定減圧度到達後、固相重合槽回転用モータ9を起動し、固相重合槽1の回転を開始した。次に、加熱用ジャケット2にスチームを供給、昇温を開始し、ペレット温度が180℃になるように昇温し、そのままの温度を保ち固相重合を行なった。所定の重合度に到達後、加熱用ジャケット2へのスチーム供給を停止し、冷却水を流してペレットの冷却を行なった。ペレット温度が90℃になったら冷却水と、真空発生装置8を停止し、固相重合槽1を窒素で常圧に戻した後、ペレット排出口3から払い出した。捕集トラップで回収された粉末は0.01kgだった。
【0022】
比較例1
錠剤状添加剤の代わりに、粉末状添加剤を用いた以外は、実施例1と同様に固相重合を行なった。捕集トラップで回収された粉末は2kgあった。
【0023】
このように、錠剤状添加剤を使用することにより、槽外飛散粉末はほとんどなくなることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明で好ましく用いることのできる、減圧下回転回分式固相重合装置の正面概略図である。
【符号の説明】
【0025】
1:固相重合槽
2:加熱用ジャケット
3:原料熱可塑性樹脂ペレット投入口兼固重終了ペレット排出口
4:添加剤投入口
5:メッシュフィルタ
6:減圧系配管
7:捕集ポット
8:真空発生装置
9:固相重合槽回転用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧下回転回分式固相重合装置で重合する際に用いる、1つもしくは複数の添加剤において、添加剤の形状が錠剤であり、且つ、添加剤の組成の内、少なくとも1つの融点が固相重合温度以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
錠剤状添加剤の直径と高さの比が、0.5〜2.5の範囲であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
錠剤状添加剤の破壊強度が、3〜15kgであることを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−225535(P2006−225535A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41869(P2005−41869)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】