説明

熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】流動性に優れ、得られる成形体の耐衝撃性及び外観に優れる熱可塑性樹脂組成物及びその熱可塑性樹脂組成物を生産性良く製造することができる熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物は、ガラス転移温度が−60〜−20℃のビニル系重合体よりなるAセグメントと、ガラス転移温度が50〜130℃のビニル系重合体よりなるBセグメントとから構成され粉状又は粒状のA−B型ブロック共重合体及び熱可塑性樹脂を含有するものである。そして、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中におけるA−B型ブロック共重合体の含有量が0.1〜90質量%及び熱可塑性樹脂の含有量が10〜99.9質量%に設定される。さらに、熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値(SP値)は8.5〜14.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性が良く、その成形体の耐衝撃性及び外観に優れた熱可塑性樹脂組成物並びに生産性の高い熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料の耐衝撃性を向上させることは、材料の用途を拡大したり、成形品の薄肉化や大型化を可能にしたりするなど、工業的な有用性は非常に大きい。そのため、樹脂材料の耐衝撃性を向上させる様々な方法が検討されてきた。このうち、ゴム状重合体を硬質樹脂と組み合わせることによって、樹脂材料の耐衝撃性を高める方法が工業的に行われてきた。
【0003】
しかしながら、ゴム状重合体としてメチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(MBS樹脂)等の共役ジエン系ゴム成分を使用した場合には、主鎖中に化学的に不安定な二重結合を多く有するため、エンジニアリングプラスチック等のような高温で加工する樹脂に使用した場合、耐熱性が悪いために分解が生じたりする。また、屋外用途に用いた場合には、紫外線によって劣化し易くなって強度の低下や褪変色をきたす等のため、耐候性に問題があった。
【0004】
この耐候性の欠点を改良する方法としては、酸基含有共重合体ラテックスにより肥大化処理された(メタ)アクリル酸エステル系ゴム状重合体に、ビニル系単量体をグラフト重合したグラフト共重合体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この場合、共重合体の基本骨格がくし型のグラフト構造である上に、この(メタ)アクリル酸エステル系ゴムにアリル基などの不飽和基をグラフト交叉剤として導入しているため、耐熱性が低下するといった不具合があった。また、交叉剤として多官能モノマーを導入する方法もあるが、架橋することで樹脂との相溶性が悪化したり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系ゴムの低温特性が悪化したりといった問題があった。
【0005】
また一方、中間原料となるアクリル系ゴムの形態の問題も従来からあった。アクリル系ゴムを熱可塑性樹脂中に混合させる際、アクリル系ゴムの形態が塊状であることに起因して、ニーダーやバンバリーミキサー等を使用せざるを得なかった(例えば、特許文献2参照)。しかも、バッチ式となって生産性が低い上に、二軸押出機によりコンパンド化しても表面外観性が劣るという問題があった。そこで、連続生産で生産性の高い二軸押出機によりコンパンド化が可能なアクリル系ゴムの形態、即ち常温で粉状、ビーズ状、ペレット状等の形態を持つアクリル系ゴムを用いる熱可塑性樹脂組成物の製造方法が要望されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−16524号公報(第2頁及び第4頁)
【特許文献2】特開2007−45885号公報(第2頁及び第14頁の実施例1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであり、その目的とするところは、流動性に優れ、得られる成形体の耐衝撃性及び外観に優れる熱可塑性樹脂組成物及びその熱可塑性樹脂組成物を生産性良く製造することができる熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明における第1の発明の熱可塑性樹脂組成物は、ガラス転移温度が−60〜−20℃のビニル系重合体よりなるAセグメントと、ガラス転移温度が50〜130℃のビニル系重合体よりなるBセグメントとから構成され粉状又は粒状のA−B型ブロック共重合体及び熱可塑性樹脂を含有するものである。そして、前記A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中におけるA−B型ブロック共重合体の含有量が0.1〜90質量%及び熱可塑性樹脂の含有量が10〜99.9質量%であると共に、熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値が8.5〜14.5であることを特徴とする。
【0009】
第2の発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1の発明において、前記A−B型ブロック共重合体のAセグメントを形成する単量体はアルキル基の炭素数が1〜4のアクリル酸アルキルエステル又はアルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルコキシアルキルエステルであり、Bセグメントを形成する単量体はアルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル、スチレン又は(メタ)アクリロニトリルであることを特徴とする。
【0010】
第3の発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1又は第2の発明において、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が50〜220℃であることを特徴とする。
第4の発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、第1の発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、ポリメリックペルオキシドを重合開始剤とする乳化重合又は懸濁重合によって、Aセグメントとしてガラス転移温度が−60〜−20℃のビニル系重合体を得る工程、次いで残存するポリメリックペルオキシドに基づいてBセグメントとしてガラス転移温度が50〜130℃のビニル系重合体を得る工程の後、精製工程を経て得られ粉状又は粒状のA−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂とを溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物を調製するにあたり、前記A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中におけるA−B型ブロック共重合体の含有量が0.1〜90質量%及び熱可塑性樹脂の含有量が10〜99.9質量%であると共に、熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値が8.5〜14.5であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の熱可塑性樹脂組成物では、A−B型ブロック共重合体はガラス転移温度が−60〜−20℃のビニル系重合体よりなるAセグメントと、ガラス転移温度が50〜130℃のビニル系重合体よりなるBセグメントとから構成され粉状又は粒状である。この場合、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中におけるA−B型ブロック共重合体の含有量が0.1〜90質量%及び熱可塑性樹脂の含有量が10〜99.9質量%に設定されている。
【0012】
このため、A−B型ブロック共重合体のうちAセグメントのビニル系重合体に基づいて、熱可塑性樹脂組成物の成形体の耐衝撃性を向上させることができる。また、A−B型ブロック共重合体のうちBセグメントのビニル系重合体は熱可塑性樹脂と相溶性が良く、しかも熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値が8.5〜14.5に設定されBセグメントのビニル系重合体との相溶性が高められていることから、熱可塑性樹脂組成物は流動性が良く、その成形体の外観に優れている。従って、熱可塑性樹脂組成物は、自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品又は半製品に利用することが可能な成形体として好適に使用することができる。
【0013】
第2の発明の熱可塑性樹脂組成物では、A−B型ブロック共重合体のAセグメントを形成する単量体はアルキル基の炭素数が1〜4のアクリル酸アルキルエステル又はアルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルコキシアルキルエステルであり、Bセグメントを形成する単量体はアルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル、スチレン又は(メタ)アクリロニトリルである。このため、A−B型ブロック共重合体は不飽和結合を有しておらず、架橋構造を形成しないため、熱可塑性樹脂組成物の成形体の耐熱性を低下させることがない。
【0014】
第3の発明の熱可塑性樹脂組成物では、熱可塑性樹脂のガラス転移温度が50〜220℃である。一方、A−B型ブロック共重合体を構成する特に外層を形成すると考えられるBセグメントのビニル系重合体のガラス転移温度は50〜130℃である。このため、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との溶融、混合時における流動性や混合性を良好にすることができ、成形体の外観を向上させることができる。
【0015】
第4の発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法では、ポリメリックペルオキシドを重合開始剤とする乳化重合又は懸濁重合によって、Aセグメントとしてガラス転移温度が−60〜−20℃のビニル系重合体を得る工程、次いで残存するポリメリックペルオキシドに基づいてBセグメントとしてガラス転移温度が50〜130℃のビニル系重合体を得る工程の後、精製工程を経て得られ粉状又は粒状のA−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂とを溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物が調製される。この場合、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中におけるA−B型ブロック共重合体の含有量が0.1〜90質量%及び熱可塑性樹脂の含有量が10〜99.9質量%である。
【0016】
このため、A−B型ブロック共重合体はAセグメントを内層、Bセグメントを外層とする2層構造を形成しているものと推測され、常温で粉状又は粒状になるため例えば二軸押出機により熱可塑性樹脂と容易に溶融、混合することができる。その結果、熱可塑性樹脂組成物の生産性を高めることができると共に、その成形体の外観を向上させることができる。また、A−B型ブロック共重合体のうちAセグメントのビニル系重合体に基づいて、熱可塑性樹脂組成物の成形体の耐衝撃性を向上させることができる。さらに、A−B型ブロック共重合体のうちBセグメントのビニル系重合体は熱可塑性樹脂と相溶性が良く、しかも熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値が8.5〜14.5に設定されBセグメントのビニル系重合体との相溶性が高められていることから、熱可塑性樹脂組成物は流動性が良く、その成形体の外観に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本実施形態における熱可塑性樹脂組成物は、ガラス転移温度(Tg)が−60〜−20℃のビニル系重合体(低融点ビニル系重合体ともいう)よりなるAセグメントと、Tgが50〜130℃のビニル系重合体(高融点ビニル系重合体ともいう)よりなるBセグメントとから構成され粉状又は粒状のA−B型ブロック共重合体及び熱可塑性樹脂を含有する。そして、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中におけるA−B型ブロック共重合体の含有量が0.1〜90質量%及び熱可塑性樹脂の含有量が10〜99.9質量%に設定される。熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値は8.5〜14.5である。
【0018】
以下、熱可塑性樹脂組成物に関する各構成要素と製造方法について順に説明する。
<A−B型ブロック共重合体>
A−B型ブロック共重合体は、ポリメリックペルオキシドを重合開始剤として用いた乳化重合又は懸濁重合によって製造され、粉状又は粒状をなしている。ポリメリックペルオキシドとしては、公知のジアシル型ポリメリックペルオキシドやエステル型ポリメリックペルオキシドが含まれている(例えば、特公昭63−32089号公報、特公平2−5771号公報、特公平3−2375号公報、特公平5−59942号公報、特開平11−92541号公報等)。これらのうち、ジアシル型ポリメリックペルオキシドが有機溶剤やビニル単量体に対する溶解性が高く、取扱性と重合開始効率が高いため好ましい。さらに、下記の化学式(1)、(2)及び(3)で示されるものはより好ましい。
【0019】
アジポイルジクロリド・2,2’−(エチレンジオキシ)ジエタノール重縮合物と過酸化水素との重縮合物(このポリメリックペルオキシドの末端構造はカルボキシル基である。)。
【0020】
【化1】

脂肪族(炭素数7〜11)ジカルボン酸ジクロリドと過酸化水素との重縮合物。
【0021】
【化2】

分岐エイコサン二酸クロリドと過酸化水素との重縮合物。
【0022】
【化3】

これらの重合開始剤は、1段目の重合開始剤として用いられると同時に、1段目の重合終了時に残存するポリメリックペルオキシド(ペルオキシ結合を有する)により2段目の重合開始剤としても利用される。重合開始剤の使用量は1段目及び2段目の重合に用いられる単量体の総量100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.2〜5質量部、さらに好ましくは0.5〜3質量部である。重合開始剤の使用量が0.1質量部より少ない場合には、重合速度が遅くなり生産性が低下するため好ましくない。その一方、10質量部より多い場合には、重合開始剤の分解生成物が増加し、得られる重合体の機械的強度を低下させるため好ましくない。
【0023】
次に、A−B型ブロック共重合体のAセグメントについて説明する。Aセグメントは、ガラス転移温度が−60〜−20℃、好ましくは−60〜−25℃の低融点ビニル系重合体から構成される。ガラス転移温度が−20℃よりも高い場合、熱可塑性樹脂組成物の成形体の耐衝撃性が低下する。一方、ガラス転移温度が−60℃よりも低い場合、A−B型ブロック共重合体が粉状又は粒状で得られなくなるため、取り扱いが悪化する。
【0024】
このような単量体としては、アルキル基の炭素数が1〜4のアクリル酸アルキルエステル及びアルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましい。これらのうちガラス転移温度とゴム弾性の点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチルが好ましい。
【0025】
前記単量体以外に、重合体のガラス転移温度が−60〜−20℃となるように、他の単量体を使用できる。このような単量体としては、アルキル基の炭素数が5〜18のアクリル酸アルキルエステル類、アルキル基の炭素数が1〜18のメタクリル酸アルキルエステル類、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の環構造含有(メタ)アクリル酸エステル類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体類、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル単量体類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体類が挙げられる。なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。上記の単量体は、目的に応じて1種又は2種以上を用いることができ、通常Aセグメント100質量部に対して20質量部以下、好ましくは10質量部以下の量で用いることができる。
【0026】
ここで、ビニル系重合体のうち単独重合体のガラス転移温度はPOLYMER HANDBOOK(ポリマーハンドブック)、第3版、第6章、209ページに記載されている。また、ビニル系重合体のうち共重合体のガラス転移温度(Tg)については、フォックス(Fox)の式(1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・W/Tg)により求めることができる。但し、iは構成単量体成分、Wは構成単量体成分iの質量分率、そしてTgは構成単量体成分iのホモポリマーのTgを表す。また、Tgは絶対温度(K)で計算する。ここで、フォックスの式とは、共重合体を形成する個々の単量体について、その単量体の単独重合体のTgに基づいて、共重合体のTgを算出するためのものであり、その詳細は、ブルテン・オブ・ザ・アメリカン・フィジカル・ソサエティー,シリーズ2(Bulletin of the American Physical Society,Series 2)1巻・3号・123頁(1956年)に記載されている。
【0027】
次に、A−B型ブロック共重合体のBセグメントについて説明する。Bセグメントは、ガラス転移温度が50〜130℃、好ましくは60〜130℃の高融点ビニル共重合体から構成される。このように構成することにより、A−B型ブロック共重合体が粉状又は粒状(ビーズ状)として取り出すことができるため、取り扱いが良好となる。ガラス転移温度が50℃よりも低い場合には重合体が塊状となってしまい、取り扱いが悪くなる。一方、ガラス転移温度が130℃よりも高い場合には、成形体が硬く、脆くなって機械的強度が悪化する。
【0028】
また、Bセグメントの選択により溶融、混合する熱可塑性樹脂との相溶性を向上可能であり、溶融、混合される熱可塑性樹脂の種類によって適宜選択して使用する。そのような単量体としては、アルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等の環構造含有メタクリル酸エステル、スチレン、(メタ)アクリロニトリル等から選ばれる少なくも1種が好ましい。これらのうち、高融点である点から、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、スチレン及びアクリロニトリルが好ましい。これらの単量体を用いることにより、A−B型ブロック共重合体は不飽和結合を有さず、架橋構造を形成しないため、成形体の耐熱性を高めることができる。
【0029】
前記単量体以外に、ガラス転移温度を50℃よりも低下させない程度に、他の単量体を使用できる。このような単量体としては、アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキルエステル類、アルキル基の炭素数が5〜18のメタクリル酸アルキルエステル類、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート等の環構造含有アクリル酸エステル類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有単量体類、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有単量体類、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル単量体類、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体類が挙げられる。これらの単量体は、目的に応じて1種又は2種以上を用いることができ、通常Bセグメント100質量部に対して20質量部以下、好ましくは10質量部以下の量で用いることができる。
【0030】
A−B型ブロック共重合体のAセグメントとBセグメントとの割合は、AセグメントがAセグメントとBセグメントとの総量中10〜80質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましいものであり、BセグメントはAセグメントとBセグメントとの総量中20〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。Aセグメントの割合が10質量%未満の場合、Aセグメントの低融点ビニル系重合体に由来するゴム弾性の効果が低いため、結果として耐衝撃性が低くなり好ましくない。逆にAセグメントの割合が80質量%を超える場合、重合後のA−B型ブロック共重合体がべたつきを発生するため塊状となり易く、取り扱いが悪化するため好ましくない。
【0031】
A−B型ブロック共重合体の溶解度パラメータ値(単にSP値ともいう)は8.5〜14.5、好ましくは9.0〜14.0である。ここで、溶解度パラメータとはFedors法〔Polm.Eng.Sci.14(2)152(1974)〕によって算出される値である。このSP値が8.5未満又は14.5を超える場合には、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との相溶性が低下し、得られる成形体の外観が悪くなると共に、強度も低下する。
<A−B型ブロック共重合体の調製方法>
A−B型ブロック共重合体を調製する際の重合方法としては、乳化重合法或いは懸濁重合法が採用される。例えば、懸濁重合法の場合、懸濁液中で、1段目重合としてポリメリックペルオキシドを重合開始剤として用い、ペルオキシ結合の分解率が20〜80%の範囲になる重合条件で、低融点ビニル系重合体セグメントを形成する単量体を重合することにより、連鎖中にペルオキシ結合が導入されたペルオキシ結合含有ビニル系重合体(Aセグメント)が得られる。続いて、第二工程において、第一工程で得られた懸濁液中に高融点ビニル系重合体を形成する単量体を加えて重合を行うことにより、ペルオキシ結合含有ビニル系重合体(Aセグメント)中のペルオキシ結合が開裂し、高融点ビニル系重合体(セグメントB)が形成され、効率よくブロック共重合体を得ることができる。この重合方法により、A−B型ブロック共重合体はAセグメントを内層とし、Bセグメントを外層とする2層構造をなし、常温で粉状又は粒状になるものと考えられる。
【0032】
また、重合温度はポリメリックペルオキシドの種類、重合助剤の使用等により異なるが、通常1段目の重合では好ましくは30〜90℃、より好ましくは40〜80℃である。1段目の重合温度が30℃未満では重合速度が遅く、一方90℃を超えると1段目の重合における重合開始剤の分解率が大きくなり、2段目の重合速度が遅くなるため何れも好ましくない。また、2段目の重合では好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜90℃である。2段目の重合温度が30℃未満では重合速度が遅く、一方100℃を超えると重合操作上好ましくない。また、重合時間は特に制限されないが、1段目、2段目ともに一般に0.5〜20時間、好ましくは1〜15時間程度である。
【0033】
乳化重合に使用される界面活性剤としては、公知のノニオン系、アニオン系又はカチオン系の界面活性剤が使用できるが、塩析によって重合体を取り出すことを考慮すると、アニオン系界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種以上が適宜選択して使用され、1段目及び2段目の重合に用いられる単量体100質量部に対して通常0.1〜10質量部、好ましては1〜5質量部の割合で使用される。
【0034】
重合が完結した後、乳化重合で得られた乳化液は通常の方法に従って精製される。精製方法としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸等の酸類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硝酸カルシウム等の電解質類を用い、ワックスの融点以下の温度で塩析した後、濾過、水洗、乾燥する方法が一般的な方法として挙げられる。
【0035】
懸濁重合に用いられる分散剤としては、例えば無機系化合物として、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナ、磁性体、フェライト等が挙げられる。また、有機系化合物として、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプン等が挙げられ、それを水相に分散又は溶解して使用される。
【0036】
これらの分散剤の含有量は、1段目及び2段目の重合に用いられる単量体100質量部に対して好ましくは0.01〜10.0質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。また、分散剤として市販のノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤も利用することができる。そのような界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウム等が挙げられる。懸濁重合が完結した後、得られた重合体は通常の方法に従い精製される。精製方法としては、例えば懸濁液を濾過、洗浄及び乾燥する方法が一般的な方法として挙げられる。
【0037】
乳化重合又は懸濁重合に際しては、必要により公知のpH調整剤、キレート剤、重合調節剤、重合安定剤等を添加することができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のpH調節剤、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等のキレート剤、無機電解質、有機電解質、高分子電解質等からなる粘度調節剤又は重合安定剤等が挙げられる。さらに、重合度を制御するために、公知の架橋剤、連鎖移動剤、重合禁止剤等を添加することも可能である。
【0038】
前記1段目の重合後における重合体の重量平均分子量(質量平均分子量)〔テトラヒドロフラン(THF)中、スチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)に基づく測定値〕は、通常1,000〜3,000,000、好ましくは10,000〜2,000,000である。この重量平均分子量が1,000未満であると成形体の機械的物性が低下する傾向があり、重量平均分子量が3,000,000を超えると重合体を溶融させたときの流動性が悪化し、成形性が低下する傾向にある。また、2段目の重合後における重合体の重量平均分子量は、通常1,000〜4,000,000、好ましくは10,000〜3,000,000である。この重量平均分子量が1,000未満であると成形体の機械的物性が不足し、重量平均分子量が4,000,000を超えると重合体を溶融させたときの流動性が低下し、良好な成形性が発揮されなくなる傾向にある。
【0039】
2段目の重合を完結させる目的で、一般に知られている他の重合開始剤を追加的な重合開始剤として使用することができる。他の重合開始剤として例えば、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシイソプロピルカーボネート等のペルオキシエステル類、ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、ジ(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン及びジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン等のペルオキシケタール類、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物類、加硫酸カリウム、加硫酸アンモニウムが挙げられる。また、その使用量は、1段目の重合に用いられる重合開始剤100質量部に対して50質量部以下が好ましい。さらに、重合助剤として硫酸第一鉄等の遷移金属化合物、ジメチルアニリン等のアミン、ロンガリット等の還元剤を用いることもできる。
【0040】
このようにして調製されるA−B型ブロック共重合体は、べたついて塊状になることなく、流動性の良い粉状又は粒状をなし、取扱性に優れている。
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、SP値が8.5〜14.5、好ましくは9.0〜14.0の熱可塑性樹脂を使用することができる。このSP値が8.5未満又は14.5を超えると、A−B型ブロック共重合体との相溶性が悪くなり、成形体の外観の悪化や強度の不足が生じる結果を招く。
【0041】
SP値が8.5〜14.5の範囲にある熱可塑性樹脂としてはビニル重合系樹脂〔アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂等〕、縮合系樹脂〔ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドスルホン等)、ポリスルホン樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等)、ポリエーテルイミド樹脂(ポリ−N−ホルミルエチレンイミン樹脂等)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等〕、重付加系樹脂〔ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂等)、ケトン樹脂(脂肪族ポリケトン樹脂、アセトンホルムアルデヒド樹脂、アセトンフルフラール樹脂、環状ケトン樹脂等)〕、生分解性樹脂〔ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、変性ポリビニルアルコール、カゼイン等〕等が挙げられる。
【0042】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル系単量体〔炭素数5〜20、例えば(メタ)アクリル酸(エステル)[(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル等]、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等〕の単独又は共重合体;及び(メタ)アクリル系単量体と他の共重合可能な単量体(炭素数4〜20、例えばブタジエン、イソブテン、スチレン、α−メチルスチレン等)との共重合体[(メタ)アクリル酸(エステル)−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等]が挙げられる。これらのアクリル樹脂のうち好ましいのは、ポリ(メタ)アクリル酸メチル及び(メタ)アクリル酸(メチル)−スチレン共重合体である。
【0043】
ポリスチレン樹脂としては、スチレン系単量体(炭素数8〜20、例えばスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等)の単独又は共重合体;スチレン系単量体とビニル系単量体[上記の(メタ)アクリル系単量体を除く炭素数2〜20、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイミド等]との共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等が挙げられる。これらのポリスチレン樹脂のうち好ましいのは、ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体である。
【0044】
ポリアミド樹脂としては、ジカルボン酸とジアミンから得られるポリアミド;アミノカルボン酸、必要に応じてジカルボン酸及びジアミンを併用して得られるポリアミド;及びラクタム、必要に応じてジカルボン酸及びジアミンを併用して得られるポリアミド等が挙げられる。上記ジカルボン酸、ジアミン、アミノカルボン酸及びラクタムとしては前記例示したものが挙げられる。
【0045】
ポリアミド樹脂の具体例としては、脂肪族ポリアミド(ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等)、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから得られるポリアミド、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとから得られるポリアミド及び芳香族及び脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから得られるポリアミド等が挙げられる。これらのポリアミド樹脂は単独又は混合して使用できる。上記ポリアミド樹脂のうち好ましいのは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12及びジアミン成分とジカルボン酸成分のうち少なくとも一方が芳香族化合物であるポリアミド樹脂である。
【0046】
ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸とジオールとの重縮合、ラクトン又はオキシカルボン酸の重縮合、又はこれらの混合成分の重縮合等により得られるものが挙げられる。ジカルボン酸としては、前記例示したもの及びその誘導体[低級アルキル(炭素数1〜4)エステル、酸無水物等のエステル形成性誘導体]が挙げられる。これらのうち好ましいのは、芳香族ジカルボン酸及びその誘導体、さらに好ましいのはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びそれらの誘導体である。ジオール及びラクトンとしては、前記例示したものが挙げられる。オキシカルボン酸としては、オキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシエナント酸、ヒドロキシカプリル酸、ヒドロキシペルゴン酸、ヒドロキシカプリン酸等が挙げられる。さらに必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価(3〜4価)カルボン酸等を併用してもよい。
【0047】
ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート及びポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等のほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート等のポリエステルが挙げられる。これらのうち樹脂強度の観点からポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートが好ましい。これらのポリエステル樹脂は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
ポリカーボネート樹脂としては、ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン、炭酸ジエステル又はジアルキルカーボネートとの反応により得られる重合体が挙げられる。ジヒドロキシ化合物としてはビスフェノール化合物、脂環式化合物〔シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、水添ビスフェノ―ルA等〕などが挙げられ、好ましいのはビスフェノール化合物である。
【0049】
ビスフェノール化合物としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン等が挙げられる。上記のポリカーボネート樹脂のうち樹脂強度の観点から好ましいのは、ビスフェノール化合物がビスフェノールAであるビスフェノールA型ポリカーボネートである。
【0050】
ポリフェニレンオキシド樹脂としては、2,6−(ヒドロキシ)アルキルフェノールを重合して得られるもので、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)オキシド、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)オキシド、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)オキシド、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)オキシドポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)オキシド等が挙げられる。
【0051】
上記の熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)は、成形体の機械的特性の観点から好ましくは1,000〜200,000、さらに好ましくは10,000〜100,000である。これらの熱可塑性樹脂は単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
SP値が8.5〜14.5の熱可塑性樹脂のうち、A−B型ブロック共重合体との相溶性の観点から、ポリアミド樹脂〔ナイロン12(SP値9.5)、ナイロン6(SP値12.7)、ナイロン66(SP値13.6)〕、ポリエステル樹脂〔ポリエチレンテレフタレート(SP値10.7)、ポリブチレンテレフタレート(SP値10.0)〕、ポリカーボネート樹脂(SP値9.9)、ポリフェニレンオキシド樹脂(SP値9.6)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(SP値12.5)及びポリ乳酸樹脂(SP値10.5)から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0053】
A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との割合は、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中にA−B型ブロック共重合体が0.1〜90質量%、好ましくは1〜85質量%であり、熱可塑性樹脂が10〜99.9質量%、好ましくは15〜99質量%である。A−B型ブロック共重合体が0.1質量%未満の場合には、低融点ビニル系重合体に由来するゴム弾性の効果が低いため、結果として成形体の耐衝撃性が悪化する。その一方、A−B型ブロック共重合体が90質量%を超える場合には、熱可塑性樹脂に由来する熱可塑性が低下するため、熱可塑性樹脂組成物の流動性が悪化する。
【0054】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、特にA−B型ブロック共重合体のBセグメントを構成する高融点ビニル系重合体に対応させて50〜220℃であることが好ましく、50〜150℃であることがさらに好ましい。このように設定することにより、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との溶融、混合時における流動性や混合性を改善することができ、成形体の外観をより良好にすることができる。
【0055】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度を示すと、ポリエステル樹脂〔ポリエチレンテレフタレート(Tg69℃)、ポリブチレンテレフタレート(Tg50℃)〕、ポリカーボネート樹脂(Tg150℃)、ポリフェニレンエーテル(Tg210〜220℃)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(Tg90℃)、ポリアミド樹脂〔ナイロン6(Tg50℃)、ナイロン66(Tg50℃)〕及びポリ乳酸樹脂(Tg57℃)である。
【0056】
前記熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で無機充填剤を配合してもよい。そのような無機充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、シリカ、ケイソウ土、雲母粉、アスベスト、アルミナ、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、二硫化モリブデン、グラファイト、ガラス繊維、ガラス球、シラスバルーン、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー等が挙げられる。
【0057】
また、熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で公知の熱安定剤、難燃剤、老化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、分散剤、発泡剤、紫外線防止剤、着色剤、可塑剤、鉱物油系軟化剤等を配合することも可能である。
〔熱可塑性樹脂組成物の製造方法〕
熱可塑性樹脂組成物は、前記A−B型ブロック共重合体及び熱可塑性樹脂を加熱して溶融、混合することにより調製される。溶融、混合方法としては、二軸押出機、一軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等による公知の方法が採用可能であるが、連続生産可能な二軸押出機を用いる方法が好ましい。その際の加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類によって異なるが、好ましくは70〜300℃である。この加熱温度が70℃未満の場合、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との溶融が不完全となったり、溶融粘度が高いため混合が不十分になったり、相分離や層状剥離が現れたりする傾向にあるため好ましくない。一方、300℃を超える場合、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の分解が生じる傾向にあるため好ましくない。
〔熱可塑性樹脂組成物の成形体〕
このようにして得られる熱可塑性樹脂組成物はシート、フィルム、中空成形体、発泡体、射出成形体等の成形体に加工され、前記の優れた特長を生かして、自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品又は半製品として利用することができる。成形方法としては、一般に採用される熱可塑性樹脂の成形機で成形する方法が採用され、具体的にはカレンダー加工法、圧空加工法、加熱成形法、ブロー成形法、発泡成形法、押出成形法、射出成形法、真空成形法、粉末スラッシュ成形法等が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。各例中における部及び%は特に断らない限り質量部及び質量%を示す。また、各例における物性の試験方法を以下に示す。
(1)重合後の外観:重合体の外観を次の基準で評価した。
【0059】
○:べとつきがない状態。×:べとつきがある状態。
(2)TG/DTA測定:示差熱熱質量同時測定装置〔セイコーインスツル(株)製、TG/DTA6200〕を用いて示差熱熱質量同時測定を行なった。なお、TGは熱質量測定法(Thermogravimetry Analysis)を表し、DTAは示差走査熱量測定法(differential scanning calorimetry)を表す。測定条件は、窒素下200ml/分、昇温速度10℃/分である。そして、5%質量減温度を求めた。
(3)アイゾット衝撃試験:造粒した樹脂(熱可塑性樹脂組成物)を用い、射出成形機〔田端機械工業(株)製〕によって試験片(成形体)を作製した。試験片の大きさは次のとおりである。試験は、JIS7110に準拠して行った。
【0060】
アイゾット衝撃試験片;縦64mm、横12.7mm及び厚さ3.2mm(ノッチ付き)
(4)成形体の外観:アイゾット衝撃試験で用いた試験片の外観を、下記の評価基準で評価した。
【0061】
○:界面剥離が全く観察されない状態。×:界面剥離が観察される状態。
(5)メルトフローレート(MFR):メルトインデクサー〔(株)東洋精機製作所製〕を用い、JIS K 7210に準拠した方法により測定した。
【0062】
以下の参考例、実施例、比較例及び表中の略記号は次の物質を表す。なお、括弧内は単独重合体のガラス転移温度(Tg)であり、POLYMER HANDBOOK(ポリマーハンドブック)、第3版、第6章、209ページに記載されている。また、共重合体のガラス転移温度(Tg)については、前述したフォックス(Fox)の式により計算して求めた。
(単量体)
EA:エチルアクリレート(Tg:−24℃)、BA:ブチルアクリレート(Tg:−54℃)、MEA:メトキシエチルアクリレート(Tg:−50℃)、GMA:グリシジルメタクリレート(Tg:46℃)、MMA:メタクリル酸メチル(Tg:105℃)、BMA:ブチルメタクリレート(Tg:20℃)、St:スチレン(Tg:100℃)、AN:アクリロニトリル(Tg:125℃)、MA:メチルアクリレート(Tg:10℃)、MAA:メタクリル酸(Tg:227℃)、ALMA:アリルメタクリレート(グラフト交叉剤)
(熱可塑性樹脂)
PBT:ポリブチレンテレフタレート〔商品名:ジュラネックス2002、ウィンテックポリマー(株)製、SP値10.0〕
PET:ポリエチレンテレフタレート〔商品名:FR−PETC3015FA、ウィンテックポリマー(株)製、SP値10.7〕
PC:ポリカーボネート〔商品名:カリバー301−30、住友ダウ(株)製、SP値9.9〕
変性PPE:変性ポリフェニレンエーテル〔商品名:ザイロン200H、旭化成ケミカルズ(株)製、SP値9.6〕
PPS:ポリフェニレンサルファイド〔商品名:フォートロン0220A9、ポリプラスチックス(株)製、SP値12.5〕
PA:ポリアミド(ナイロン6)〔商品名:UBEナイロン1013B、宇部興産(株)製、SP値12.7〕
PLA:ポリ乳酸〔商品名:テラマックTE−7000、ユニチカ(株)製、SP値10.5〕
PP:ポリプロピレン〔商品名:サンアロマーPM600A、サンアロマー(株)製、SP値8.1〕
(参考例1、A−B型ブロック共重合体1の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水3000gを入れ、さらに乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20gを溶解させた。この中に前記化学式(1)で示されるPPO(ATと称する)を10g仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱し、2時間でBA400gを滴下する速度で滴下ポンプを使用しながら重合を開始した。温度を70℃に維持しつつ2時間重合させた後、滴下ポンプを使用してMMA570g及びGMA30gを滴下した。次いで、温度を80℃に昇温して5時間重合を続けた。その後、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を塩析、濾過し、よく水洗してから乾燥してA−B型ブロック共重合体1を得た。
(参考例2、A−B型ブロック共重合体2の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水2900gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液を50g溶解させた。この中に前記化学式(3)で示されるPPO(LC−2と称する)を10gとEA500gを仕込んだ。続いて、反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して重合を開始した。温度を70℃に維持しつつ2時間重合させた後、ポリビニルアルコール1%水溶液を50g、MMA420g、MA30g及びGMA50gを加えた。次いで、温度を80℃に昇温して5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を濾別しよく水洗してから乾燥してA−B型ブロック共重合体2を得た。
(参考例3、A−B型ブロック共重合体3の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水2900gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液を50g溶解させた。この中に前記化学式(3)で示されるPPOを10g、EA200g、BA100g及びMEA100gを仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して重合を開始した。温度を70℃に維持しつつ2時間重合させた後、懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液50g及びSt600gを加えた。次いで、温度を80℃に昇温して5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を濾別しよく水洗してから乾燥してA−B型ブロック共重合体3を得た。
(実施例4、A−B型ブロック共重合体4の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水2900gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液を50g溶解させた。この中に前記化学式(3)で示されるPPOを10gとEA600gを仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して重合を開始した。温度を70℃に維持しつつ2時間重合させた後、懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液50g、St320g及びAN80gを加えた。次いで、温度70℃で5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を濾別しよく水洗してから乾燥してA−B型ブロック共重合体4を得た。
(参考例5、A−B型ブロック共重合体5の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水2900gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液を50g溶解させた。この中に前記化学式(3)で示されるPPOを10g、EA400g及びBA100gを仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して重合を開始した。温度を70℃に維持しつつ2時間重合させた後、懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液50g、MMA420g、MA30g及びMAA50gを加えた。次いで、温度を80℃に昇温して5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を濾別しよく水洗してから乾燥してA−B型ブロック共重合体5を得た。
(参考例6、ランダム共重合体1の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水3000gを入れ、さらに乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20gを溶解させた。この中に重合開始剤として過硫酸カリウム(KPS)2gを仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して、滴下ポンプを使用して2時間でBA400g、MMA570g及びGMA30gを滴下した。次いで、温度を80℃に昇温して5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を塩析・濾過し、よく水洗してから乾燥してランダム共重合体1を得た。
(参考例7、ブロック共重合体1の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水3000gを入れ、さらに乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20gを溶解させた。この中に前記化学式(1)で示されるPPOを10g仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して、滴下ポンプを使用して2時間でMMA570gとGMA30gを滴下し重合を開始した。温度を70℃に維持しつつ2時間重合させた後、滴下ポンプを使用してBA400gを滴下した。次いで、温度を80℃に昇温して5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を塩析・濾過し、よく水洗してから乾燥してブロック共重合体1を得た。
(参考例8、ブロック共重合体2の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水2900gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液を50g溶解させた。この中に前記化学式(3)で示されるPPOを10gとBMA400gを仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して重合を開始した。温度を70℃に維持しつつ2時間重合させた後、懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液50g、MMA570g及びGMA30gを加えた。次いで、温度を80℃に昇温して5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を濾別しよく水洗してから乾燥してブロック共重合体2を得た。
(参考例9、ブロック共重合体3の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に、純水2900gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液を50g溶解させた。この中に前記化学式(3)で示されるPPOを10gとBA400gを仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して重合を開始した。温度を70℃に維持しつつ2時間重合させた後、懸濁剤としてポリビニルアルコール1%水溶液50g及びBMA600gを加えた。次いで、温度を80℃に昇温して5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を濾別しよく水洗してから乾燥してブロック共重合体3を得た。
(参考例10、コア・シェルポリマー1の製造)
温度計、攪拌機及びコンデンサーを備えた5リットルのステンレス鋼製反応器に純水3000gを入れ、さらに乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20gを溶解させた。この中に重合開始剤として過硫酸カリウム0.8gを仕込んだ。反応器内の空気を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ70℃に加熱して、滴下ポンプを使用して2時間でBA390gとALMA10gを滴下した。次いで、温度70℃で3時間重合を続けた。この乳化液に過硫酸カリウム1.2gを仕込んだ後、滴下ポンプを使用して2時間でMMA570gとGMA30gを滴下した。次いで、温度を70℃に5時間重合を続けた。次に、室温に冷却して重合を終了した後、重合体を塩析、濾過し、よく水洗してから乾燥してコア・シェルポリマー1を得た。
【0063】
以上の参考例1〜10の内容について表1に示す。なお、Aセグメント又はBセグメントを構成するビニル系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、前記フォックスの式に基づく計算値である。但し、参考例10のAセグメントのガラス転移温度については、グラフト交叉剤であるALMAのTgが計算に含まれていない。
【0064】
【表1】

参考例1〜5のA−B型ブロック共重合体は、重合後の外観が粉状や粒状であり、取り扱いが良好である。それに対して、参考例6のランダム共重合体は、参考例1と同じ単量体を使用しているがランダム共重合体であるため、重合後の外観が塊状であり、取り扱いが悪い。従って、二軸押出機へのフィードが困難である。また、参考例7はAセグメントとBセグメントを参考例1と逆の順序で重合したため、重合後の外観が塊状となり、取り扱いが悪い。従って、二軸押出機への供給(フィード)が困難である。参考例8はAセグメントのガラス転移温度が高いため、Bセグメントの重合後も粒状であり、取り扱いは良好であるが、以下の比較例4で示したように成形体の耐衝撃性が低い。参考例9はBセグメントのガラス転移温度が低いため、重合後の外観が塊状であり、取り扱いが悪い。そのため、二軸押出機へのフィードが困難である。参考例10はAセグメントにグラフト交叉剤としてアリルメタクリレートを導入しているため、参考例1と比較して試験片の耐熱性が低いため好ましくない。
〔熱可塑性樹脂組成物の製造及び成形体の評価〕
〔PBT〕
(実施例1〜4及び比較例1〜4)
表2に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度240℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて射出成形し、成形体としての試験片を得た。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表2に示した。なお、MFRは250℃、2.16kgの条件で測定した。
【0065】
【表2】

実施例1〜4に示した結果より、成形体は外観及び耐衝撃性に優れ、しかも熱可塑性樹脂組成物の流動性も優れていた。従って、これらの成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品及び半製品に利用することができる。それに対し、比較例1では熱可塑性樹脂であるPBT単体であるため、外観と流動性は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。比較例2ではPBTにA−B型ブロック共重合体をブレンドしたものであり、A−B型ブロック共重合体の割合が少ないため、比較例1のPBT単体と同様に外観と流動性は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。比較例3ではPBTにA−B型ブロック共重合体をブレンドしたものであり、A−B型ブロック共重合体の割合が多いため、外観と耐衝撃性は優れているが、流動性が劣っていた。比較例4ではPBTにブロック共重合体2をブレンドしたものであり、ブロック共重合体のAセグメントにガラス転移温度が−20℃以上であるBMAを使用していることにより、外観と流動性は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。
〔PET〕
(実施例5〜7及び比較例5)
表3に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度260℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて射出成形し、成形体としての試験片を得た。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表3に示した。
【0066】
【表3】

実施例5〜7の結果に見られる通り、成形体は外観及び耐衝撃性に優れていた。従って、これらの成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品及び半製品に利用することができる。それに対し、比較例5では熱可塑性樹脂であるPET単体であるため、外観は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。
〔PC〕
(実施例8〜10及び比較例6〜8)
表4に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度240℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて射出成形し、成形体としての試験片を得た。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表4に示した。なお、MFRは300℃、1.2kgの条件で測定した。
【0067】
【表4】

実施例8〜10の結果より、成形体は外観及び耐衝撃性に優れ、しかも熱可塑性樹脂組成物の流動性も優れていた。従って、これらの成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品及び半製品に利用することができる。
【0068】
それに対し、比較例6では熱可塑性樹脂であるPC単体であるため、外観と流動性は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。比較例7ではPCにA−B型ブロック共重合体をブレンドしたものであり、A−B型ブロック共重合体の割合が少ないため、比較例6のPC単体と同様に外観と流動性は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。比較例8ではPCにA−B型ブロック共重合体をブレンドしたものであり、A−B型ブロック共重合体の割合が多いため、外観と耐衝撃性は優れているが、熱可塑性樹脂組成物の流動性が劣っていた。
〔変性PPE〕
(実施例11〜13及び比較例9)
表5に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度240℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて射出成形し、成形体としての試験片を得た。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表5に示した。
【0069】
【表5】

実施例11〜13の結果から、成形体は外観及び耐衝撃性に優れていた。従って、これらの成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品及び半製品に利用することができる。それに対し、比較例9では熱可塑性樹脂である変性PPE単体であるため、外観は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。
〔PPS〕
(実施例14〜16及び比較例10)
表6に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度290℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて射出成形し、成形体としての試験片を得た。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表6に示した。
【0070】
【表6】

実施例14〜16の結果から、成形体は外観及び耐衝撃性に優れていた。従って、これらの成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品及び半製品に利用することができる。それに対し、比較例10では、熱可塑性樹脂であるPPS単体であるため、外観は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。
〔PA〕
(実施例17〜19及び比較例11)
表7に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度260℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて成形体としての試験片を射出成形した。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表7に示した。
【0071】
【表7】

実施例17〜19の結果から、成形体は外観及び耐衝撃性に優れていた。従って、これらの成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品及び半製品に利用することができる。それに対し、比較例11では、熱可塑性樹脂であるPA単体であるため、外観は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。
〔PLA〕
(実施例20、21及び比較例12)
表8に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度180℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて成形体としての試験片を射出成形した。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表8に示したなお、MFRは230℃、5kgの条件で測定した。
【0072】
【表8】

実施例20及び21の結果から、成形体は外観及び耐衝撃性に優れていた。従って、これらの成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品及び半製品に利用することができる。それに対し、比較例12では、熱可塑性樹脂であるPLA単体であるため、外観は優れているが、耐衝撃性は劣っていた。
〔PC/PLA系アロイ〕
(実施例22及び比較例13)
表9に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度200℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて成形体としての試験片を射出成形した。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表9に示した。なお、MFRは230℃、5kgの条件で測定した。
【0073】
【表9】

実施例22の結果から、成形体は外観及び耐衝撃性に優れていた。従って、これらの成形体を自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品及び半製品に利用することができる。それに対し、比較例17では、熱可塑性樹脂であるPCとアロイの単純ブレンドであるため、外観と耐衝撃性が劣っていた。
(比較例14及び15)
表10に示す成分及び配合割合でドライブレンドした後、シリンダー温度200℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。これらのペレットを用いて成形体としての試験片を射出成形した。得られた成形体について前記の試験を行った。それらの結果を表10に示した。
【0074】
【表10】

比較例14は、PP単体であるため、外観は良好だが、衝撃性で劣る。また、比較例15は熱可塑性樹脂であるPPの溶解度パラメーターが8.1であるため、A−Bブロック共重合体との相溶化性が低く、成形体の外観で劣る。
【0075】
なお、前記実施形態を次のように変更して実施することも可能である。
・ 熱可塑性樹脂組成物にA−B型ブロック共重合体の特にBセグメントを形成する高融点ビニル系重合体と熱可塑性樹脂との相溶性を高める相溶化剤を配合することができる。
【0076】
・ A−B型ブロック共重合体のAセグメントに耐衝撃性改良剤を加えたり、Aセグメント又はBセグメントに両セグメントの結合力を高める化合物を加えることも可能である。
【0077】
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記A−B型ブロック共重合体のAセグメントとBセグメントの総量中におけるAセグメントの含有量が10〜80質量%及びBセグメントの含有量が20〜90質量%であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。この場合、熱可塑性樹脂組成物より形成される成形体の耐衝撃性を高くし、かつ重合後のA−B型ブロック共重合体がべたつきを発生せず、塊状となり難いため、取り扱いを良好にすることができる。
(ロ)前記A−B型ブロック共重合体の溶解度パラメータ値が8.5〜14.5であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。このように構成した場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との相溶性を高めることができ、熱可塑性樹脂組成物の流動性をより高めることができ、熱可塑性樹脂組成物の生産性を向上させることができると共に、得られる成形体の外観を一層良好にすることができる。
(ハ)前記ビニル系重合体は単独重合体又は共重合体であり、該共重合体のガラス転移温度がフォックス(Fox)の式により求めたものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。このように構成した場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、ビニル系重合体のガラス転移温度を明確にすることができ、A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂との溶融、混合時における流動性や混合性を一層良好にでき、成形体の外観をより向上させることができる。
(ニ)請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。この成形体は、熱可塑性樹脂組成物の性質に基づいて耐衝撃性及び外観に優れている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が−60〜−20℃のビニル系重合体よりなるAセグメントと、ガラス転移温度が50〜130℃のビニル系重合体よりなるBセグメントとから構成され粉状又は粒状のA−B型ブロック共重合体及び熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中におけるA−B型ブロック共重合体の含有量が0.1〜90質量%及び熱可塑性樹脂の含有量が10〜99.9質量%であると共に、熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値が8.5〜14.5であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記A−B型ブロック共重合体のAセグメントを形成する単量体はアルキル基の炭素数が1〜4のアクリル酸アルキルエステル又はアルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルコキシアルキルエステルであり、Bセグメントを形成する単量体はアルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステル、スチレン又は(メタ)アクリロニトリルであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度が50〜220℃であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリメリックペルオキシドを重合開始剤とする乳化重合又は懸濁重合によって、Aセグメントとしてガラス転移温度が−60〜−20℃のビニル系重合体を得る工程、次いで残存するポリメリックペルオキシドに基づいてBセグメントとしてガラス転移温度が50〜130℃のビニル系重合体を得る工程の後、精製工程を経て得られ粉状又は粒状のA−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂とを溶融、混合して熱可塑性樹脂組成物を調製するにあたり、
前記A−B型ブロック共重合体と熱可塑性樹脂の総量中におけるA−B型ブロック共重合体の含有量が0.1〜90質量%及び熱可塑性樹脂の含有量が10〜99.9質量%であると共に、熱可塑性樹脂の溶解度パラメータ値が8.5〜14.5であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2011−6555(P2011−6555A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150183(P2009−150183)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】