説明

熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】押出加工、成形加工等による熱可塑性樹脂成形品の製造において、熱履歴による品質低下の影響を受けにくい等、加工条件の許容範囲が広く、半透明性、耐衝撃性、耐熱性及び流動性に優れた、ゴム強化樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びリン酸系化合物を必須成分とする熱可塑性樹脂組成物及びそれを用いてなる成形品を提供する。
【解決手段】本発明の組成物は、屈折率が1.520〜1.580の範囲にあるゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られたゴム強化共重合樹脂、又は、このゴム強化共重合樹脂と上記ビニル系単量体の(共)重合体との混合物、からなるゴム強化樹脂、ポリカーボネート樹脂、並びに、リン酸系化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形品の製造において、熱履歴による品質低下の影響を受けにくい等、加工条件の許容範囲が広く、半透明性、耐衝撃性、耐熱性及び流動性に優れた熱可塑性樹脂組成物及びそれを用いてなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ランプ等の照明装置、スイッチ等の表示装置等の装飾性を付与する、いわゆる、「イルミネーション化」のために、ランプ等の光源と、透明又は半透明の成形品とが組み合わされて多用されている。成形品の形成材料としては、各種の熱可塑性樹脂を含む成形材料が用いられている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐熱性及び機械特性を有しているが、ノッチ感度が敏感であるため、成形品に傷がつくと、著しく耐衝撃性が低下する特徴がある。また、耐熱性に優れる反面、成形温度を高く設定せざるを得ず、大型の成形品の製造に不向きな場合がある。
【0004】
また、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等のABS系樹脂は、成形性、耐衝撃性、寸法安定性等において、非常にバランスがとれた成形材料であり、車両分野、家電分野、OA機器の筐体等に幅広く用いられている。しかし、このABS系樹脂は、耐熱性が十分ではないため、ポリカーボネート樹脂と併用し、ノッチ付き衝撃強度、成形加工性及び耐熱性が改良されたポリマーアロイが提案されている(例えば、特許文献1等。)。近年、これらの樹脂を併用したポリマーアロイは、車両分野、OA機器の筐体等において広く利用されている成形材料の1つになっているが、通常、不透明であり、イルミネーション化が達成されない場合がある。
【0005】
しかし、特許文献2には、ABS系樹脂に含まれるアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)からなる連続相の屈折率と、ABS系樹脂を構成するゴム成分からなる不連続相の屈折率との差が±0.005以内に入るように調整されたABS系樹脂と、ポリカーボネート樹脂とが混合された熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特公昭38−15225号公報
【特許文献2】特表2004−521968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、自動車等の車両分野において、特に、自動車の作動状態を示す表示装置等に、目的に応じた質感を与えるために、半透明性、耐衝撃性及び耐熱性に優れた成形材料が求められている。
特許文献2によると、連続相及び分散相の各屈折率を略一致させることにより、例えば、AS樹脂の屈折率を高くすることにより、半透明化又は透明化を図っているが、耐衝撃性が未だ不十分である。また、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する組成物は、成形加工に際して溶融状態とした場合、樹脂の分解による低分子化や、異物の発生を招くことがある。これらの現象は、更に組成物の着色、粘度の低下等を導き、安定した成形加工が進められない場合がある。
本発明の目的は、押出加工、成形加工等による熱可塑性樹脂成形品の製造において、熱履歴による品質低下の影響を受けにくい等、加工条件の許容範囲が広く、半透明性、耐衝撃性、耐熱性及び流動性に優れた、ゴム強化樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びリン酸系化合物を必須成分とする熱可塑性樹脂組成物及びそれを用いてなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究した結果、ゴム強化樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂及びリン酸系化合物を必須成分とする樹脂組成物を用いて、押出加工、成形加工等による半透明の熱可塑性樹脂成形品を製造したとき、押出機、成形機等に樹脂組成物が滞留していても、得られる成形品の変色が抑制され、即ち、熱履歴の影響を受けにくく、加工条件の許容範囲が広くなったこと、及び、耐衝撃性が更に向上したことを見出し、また、ポリエステル樹脂を更に含有することで、半透明性の度合いの調整が容易であり、且つ、耐衝撃性が向上したことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下に示される。
[1]〔A〕屈折率が1.520〜1.580の範囲にあるゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)と上記ビニル系単量体(b)の(共)重合体(A2)との混合物、からなるゴム強化樹脂と、〔B〕ポリカーボネート樹脂と、〔D〕リン酸系化合物と、を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記ポリカーボネート樹脂〔B〕の含有量は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、5〜60質量%及び40〜95質量%であり、上記リン酸系化合物〔D〕の含有量は、上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記ポリカーボネート樹脂〔B〕の合計を100質量部とした場合に、0.01〜5質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2]上記ゴム質重合体(a)が、スチレン・ブタジエン系共重合体である上記[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]上記スチレン・ブタジエン系共重合体を構成するスチレン単位の含有量が、すべての単量体単位の合計を100質量%とした場合に、10〜80質量%である上記[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]上記スチレン・ブタジエン系共重合体を構成するスチレン単位の含有量が、すべての単量体単位の合計を100質量%とした場合に、30質量%を超えて80質量%以下である上記[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]上記リン酸系化合物〔D〕が、下記式で表される有機リン酸エステルである上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
O=P(OR)(OH)3−s
〔式中、各Rは、独立して、炭素数1〜30の炭化水素基であり、sは1又は2である。〕
[6]更に、〔C〕ポリエステル樹脂を含有し、該ポリエステル樹脂〔C〕の含有量が、上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記ポリカーボネート樹脂〔B〕の合計を100質量部とした場合に、1〜40質量部である上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[7]上記ポリエステル樹脂〔C〕が、非晶性ポリエステル樹脂である上記[6]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[8]上記非晶性ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸類と、炭素数2〜12のアルキレングリコール及び脂環族ジオールを含むジオール類との縮重合体である上記[7]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[9]上記アルキレングリコールがエチレングリコールであり、且つ、脂環族ジオールが1,4−シクロヘキサンジメタノールである上記[8]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[10]厚さ2.5mmの試験片に対して、ASTM D1003に準じて測定された全光線透過率が30〜80%である上記[1]乃至[9]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[11]上記[1]乃至[10]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、流動性に優れ、押出加工、成形加工等の際に熱履歴の影響を受けにくいため、半透明性、耐衝撃性及び耐熱性に優れた成形品を安定して得ることができる。
ゴム強化樹脂〔A〕を形成するゴム質重合体(a)が、スチレン・ブタジエン系共重合体であり、該スチレン・ブタジエン系共重合体を構成するスチレン単位の含有量が所定の範囲にある場合には、特に、半透明性、耐衝撃性及び流動性に優れる。
リン酸系化合物〔D〕が、上記式で表される化合物である場合には、成形加工の際に、特に、熱履歴の影響を受けにくく、得られる成形品の変色が抑制され、成形加工の条件の許容範囲が広くなる。
また、上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記ポリカーボネート樹脂〔B〕に、更に、ポリエステル樹脂〔C〕を含有する組成物は、更に耐衝撃性に優れ、半透明性の度合いの調整も容易である。
従って、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含む成形品は、半透明性、耐衝撃性及び耐熱性に優れ、光を透過させて装飾性を付与しやすく、例えば、自動車等の車両の内装部品に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
尚、本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。また、「屈折率」は、プレス成形により厚さ100〜500μmのフィルムを作製し、アッベの屈折率計により25℃で測定した値であるが、共重合体の屈折率については、該共重合体の構成単位を100質量%含む単独重合体のそれぞれの25℃における屈折率の値を用い、構成単位の含有割合に応じた計算値とすることができる。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、〔A〕屈折率が1.520〜1.580の範囲にあるゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)と上記ビニル系単量体(b)の(共)重合体(A2)との混合物、からなるゴム強化樹脂(以下、「成分〔A〕」ともいう。)と、〔B〕ポリカーボネート樹脂(以下、「成分〔B〕」ともいう。)と、〔D〕リン酸系化合物(以下、「成分〔D〕」ともいう。)と、を所定の割合で含有する。
【0013】
1.ゴム強化樹脂〔A〕
この成分〔A〕は、屈折率が1.520〜1.580の範囲にあるゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)と上記ビニル系単量体(b)の(共)重合体(A2)との混合物、からなるものである。
【0014】
上記ゴム質重合体(a)は、単独重合体であってよいし、共重合体であってもよいが、ジエン系重合体及び非ジエン系重合体が挙げられる。また、これらは、単独で用いてよいし、組み合わせて用いてもよい。更に、このゴム質重合体(a)は、非架橋重合体であってよいし、架橋重合体であってもよい。
尚、上記ゴム質重合体(a)の屈折率は、通常、重合体の構成単位の種類及びその含有量により決定される。
【0015】
ジエン系重合体としては、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体等のスチレン・ブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のスチレン・イソプレン系共重合体;上記各(共)重合体の水素化物等が挙げられる。
尚、上記各共重合体は、ブロック共重合体でもよいし、ランダム共重合体でもよい。
【0016】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いるゴム質重合体(a)は、屈折率が1.520〜1.580であり、好ましくは1.522〜1.575、より好ましくは1.530〜1.570、更に好ましくは1.535〜1.565、特に好ましくは1.539〜1.565の範囲にある。上記屈折率が小さすぎると、成形品が不透明になる傾向にある。上記ゴム質重合体(a)としては、スチレン・ブタジエン系共重合体及びスチレン・イソプレン系共重合体が好ましく、特に好ましくは、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体及びこれらの水素化物(ブロック、ランダム又はホモ)である。
【0017】
上記のスチレン・ブタジエン系共重合体及びスチレン・イソプレン系共重合体におけるスチレン、及び、ブタジエン又はイソプレンの各単位の含有量は、特に限定されない。
スチレン単位の含有量は、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜75質量%、更に好ましくは25〜65質量%である。スチレン単位の含有量が多すぎると、耐衝撃性が低下する傾向にある。一方、該含有量が少なすぎると、成形品が不透明となる傾向にある。
【0018】
上記のスチレン・ブタジエン系共重合体及びスチレン・イソプレン系共重合体においては、スチレン単位の含有量が10〜30質量%の共重合体とすることができ、30質量%を超えて80質量%以下の共重合体とすることもできる。後者の場合、好ましくは33〜70質量%、更に好ましくは35〜60質量%であれば、本発明の組成物を用いて、容易に半透明の成形品とすることができる。
【0019】
上記ゴム質重合体(a)のゲル含率は、特に限定されないが、通常、30〜98%である。
上記ゴム質重合体(a)の体積平均粒子径は、好ましくは80〜15,000nm、より好ましくは100〜15,000nm、更に好ましくは100〜3,000nm、より更に好ましくは200〜2,000nm、特に好ましくは500〜2,000nmである。該体積平均粒子径が上記範囲外の場合、耐衝撃性が十分でないことがある。尚、上記体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法等により測定することができる。
【0020】
上記ゴム質重合体(a)は、体積平均粒子径が上記範囲内にあるものであれば、例えば、特開昭61−233010号公報、特開昭59−93701号公報、特開昭56−167704号公報等に記載されている方法等の公知の方法により肥大化したものを用いることもできる。
【0021】
上記ビニル系単量体(b)としては、芳香族ビニル化合物の1種以上、あるいは、芳香族ビニル化合物の1種以上と、該芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物の1種以上とを組み合わせた単量体を用いることができる。
【0022】
上記芳香族ビニル化合物としては、少なくとも1つのビニル結合と、少なくとも1つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されることなく用いることができる。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0023】
上記の芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド化合物、官能基を有する化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0025】
上記マレイミド化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、N−シクロヘキシルマレイミド及びN−フェニルマレイミドが好ましい。
尚、このマレイミド化合物からなる単量体単位を重合体に導入する方法としては、予め、無水マレイン酸を共重合させ、その後、イミド化する方法がある。
【0026】
上記の官能基を有する化合物としては、カルボキシル基、酸無水物基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、オキサゾリン基等の1種以上を有する不飽和化合物等が挙げられる。また、アミド基のように、アミノ基における水素原子の1つが他の原子又は官能基に置換された基を有する不飽和化合物を用いることもできる。
【0027】
カルボキシル基を有する不飽和化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
酸無水物基を有する不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ヒドロキシル基を有する不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
アミノ基を有する不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸ジエチルアミノメチル、アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノメチル、メタクリル酸ジエチルアミノメチル、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、p−アミノスチレン、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N−メチルアクリルアミン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
アミド基を有する不飽和化合物としては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
エポキシ基を有する不飽和化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
オキサゾリン基を有する不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いるビニル系単量体(b)としては、下記の組み合わせで用いることが好ましい。シアン化ビニル化合物を用いることにより、成分〔A〕及び〔B〕のあいだの相溶性が向上し、本発明の組成物の耐衝撃性も改良される。
(1)芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物。
(2)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物。
【0032】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b)を重合して得られたものである。このゴム強化共重合樹脂(A1)は、ビニル系単量体(b)として芳香族ビニル化合物のみを用いて得られたゴム強化共重合樹脂(i)の1種以上であってよいし、ビニル系単量体(b)として上記(1)の単量体を用いて得られたゴム強化共重合樹脂(ii)の1種以上であってよいし、ビニル系単量体(b)として上記(2)の単量体を用いて得られたゴム強化共重合樹脂(iii)の1種以上であってもよい。更には、これらを適宜、組み合わせたものであってもよい。
【0033】
以下、ゴム強化共重合樹脂(A1)の製造方法について説明する。
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)は、ゴム質重合体(a)の存在下に、ビニル系単量体(b)を、乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合による方法で製造することができる。これらのうち、乳化重合が好ましい。
尚、製造時に用いるゴム質重合体(a)及びビニル系単量体(b)は、反応系において、ゴム質重合体(a)全量の存在下に、ビニル系単量体(b)を一括添加してもよいし、分割又は連続添加してもよい。また、これらを組み合わせた方法でもよい。更に、ゴム質重合体(a)の全量又は一部を、重合途中で添加して重合してもよい。
【0034】
また、ゴム質重合体(a)及びビニル系単量体(b)の各使用量については、ゴム質重合体(a)100質量部に対し、ビニル系単量体(b)が、通常、25〜230質量部、より好ましくは40〜180質量部である。
尚、ビニル系単量体(b)の種類別の使用量は下記の通りである。
上記(1)において、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の各使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは65〜95質量%及び5〜35質量%、より好ましくは70〜90質量%及び10〜30質量%、更に好ましくは75〜85質量%及び15〜25質量%である。
また、上記(2)において、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物の使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは50〜94質量%、5〜35質量%及び1〜45質量%、より好ましくは30〜85質量%、10〜30質量%及び5〜40質量%、更に好ましくは45〜80質量%、15〜25質量%及び5〜30質量%である。
シアン化ビニル化合物の使用量が少なすぎると、成分〔A〕及び〔B〕のあいだの相溶性が低下し、耐衝撃性も低下する場合がある。一方、シアン化ビニル化合物の使用量が多すぎると、熱安定性が低下する傾向にある。
【0035】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)を乳化重合により製造する場合には、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、水等が用いられる。
【0036】
上記重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等で代表される有機ハイドロパーオキサイド類と含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方等で代表される還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレイト、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、上記重合開始剤は、反応系に一括又は連続的に添加することができる。また、上記重合開始剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b)の全量に対し、通常、0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜1質量%である。
【0037】
上記連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン、α−メチルスチレンのダイマー;テトラエチルチウラムスルフィド、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコール等が挙げられ、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記連鎖移動剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b)の全量に対して、通常、0.05〜2質量%である。
【0038】
上記乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;ロジン酸塩;リン酸塩等のアニオン性界面活性剤:ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型等のノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記乳化剤の使用量は、上記ビニル系単量体(b)の全量に対して、通常、0.3〜5質量%である。
【0039】
乳化重合は、公知の条件で行うことができる。この乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、重合体成分を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩、硫酸、塩酸等の無機酸、酢酸、乳酸、クエン酸等の有機酸等が用いられる。また、要求される性能に応じて、凝固後にアルカリ成分又は酸成分を添加し中和処理した後、洗浄してもよい。
尚、上記凝固剤として、無機塩を用いた場合、ゴム強化共重合樹脂(A1)に残存し、本発明の組成物中にも含有されることとなる。無機塩が含有されると、本発明の組成物中の成分〔B〕の分子量低下を招くことがあり、その結果、耐衝撃性が低下する傾向にある。従って、上記凝固剤としては、無機酸及び/又は有機酸を用いることが好ましい。
【0040】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)を溶液重合により製造する場合には、通常、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤等が用いられる。
上記溶媒としては、公知のラジカル重合で使用される不活性重合溶媒、例えば、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類;ジクロルメチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等を用いることができる。
【0041】
上記重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物があげられる。
上記連鎖移動剤としては、メルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン類等が挙げられる。
【0042】
溶液重合は、公知の条件で行うことができるが、重合温度は、80〜140℃の範囲が好ましい。尚、溶液重合に際し、重合開始剤を使用せず、熱重合によりゴム強化共重合樹脂を製造することもできる。
【0043】
塊状重合及び懸濁重合による製造方法は、公知の方法を適用することができる。これらの方法において用いる重合開始剤、連鎖移動剤等は、溶液重合において例示した化合物を用いることができる。
【0044】
上記のようにして得られたゴム強化ビニル系樹脂には、通常、ビニル系単量体(b)の(共)重合体がゴム質重合体(a)にグラフトしたグラフト化ゴム質重合体が主として含有され、ビニル系単量体(b)の(共)重合体がゴム質重合体(a)にグラフトしていない、ビニル系単量体(b)の(共)重合体や、未グラフトのゴム質重合体(a)が含まれることがある。
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)のグラフト率は、好ましくは10〜100質量%、更に好ましくは30〜80質量%である。このグラフト率が10質量%未満では、ゴム質重合体(a)と、ビニル系単量体(b)の(共)重合体との界面接着強度が劣るため、耐衝撃性が十分でない場合がある。一方、100質量%を超えると、ビニル系単量体(b)の(共)重合体からなる界面層が厚くなり、また、ゴム質重合体(a)の内部にグラフトした(共)重合体からなる層が発達するため、ゴム弾性が低下し、耐衝撃性が十分でない場合がある。
尚、上記グラフト率は、下記式により求められる。
グラフト率(質量%)={(S−T)/T}×100
上記式中、Sは、ゴム強化共重合樹脂(A1)1グラムをアセトン20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で1時間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは、ゴム強化共重合樹脂(A1)1グラムに含まれるゴム質重合体(a)の質量(g)である。
【0045】
また、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)のアセトン可溶分、即ち、ゴム質重合体(a)にグラフトしていない(共)重合体の固有粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.25〜0.8dl/g、更に好ましくは0.3〜0.7dl/gである。この範囲とすることにより、成形加工性及び耐衝撃性に優れる。
【0046】
尚、上記のグラフト率及び固有粘度[η]は、上記ゴム強化共重合樹脂を製造する際に用いる、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には重合時間、重合温度等を変えることにより、容易に制御することができる。
【0047】
複数のゴム強化共重合樹脂(A1)を用いる場合には、単離した後、混合してもよいが、他の方法として、例えば、乳化重合により各樹脂を各々含むラテックスを製造してから混合し、その後、凝固する等により得ることができる。
【0048】
上記ゴム強化共重合樹脂(A1)中のゴム質重合体(a)の含有量は、好ましくは3〜80質量%、より好ましくは4〜65質量%である。このゴム質重合体(a)の含有量が少なすぎると、耐衝撃性が劣る傾向にあり、多すぎると、成形加工性、成形品の表面外観性等が劣る傾向にある。
【0049】
本発明に係る成分〔A〕は、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)と、芳香族ビニル化合物を含む上記ビニル系単量体(b)の(共)重合体(A2)との混合物であってもよい。
従って、上記成分〔A〕としては、ゴム強化共重合樹脂(A1)の1種以上であってよいし、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の1種以上と、上記(共)重合体(A2)の1種以上との混合物であってもよい。
【0050】
上記(共)重合体(A2)としては、下記(3)〜(6)に例示される。尚、各単量体は、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の形成に用いられる化合物を適用でき、好ましい化合物も同様である。
(3)芳香族ビニル化合物のみを重合して得られた(共)重合体の1種以上。
(4)芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(5)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物を重合して得られた共重合体の1種以上。
(6)芳香族ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物を除く他の化合物とを重合して得られた共重合体の1種以上。
これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
尚、ビニル系単量体(b)の種類別の使用量は下記の通りである。
上記(4)において、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物の各使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは65〜95質量%及び5〜35質量%、より好ましくは70〜90質量%及び10〜30質量%、更に好ましくは75〜85質量%及び15〜25質量%である。
上記(5)において、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び他の化合物の使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは35〜94質量%、5〜35質量%及び1〜30質量%、より好ましくは45〜85質量%、10〜30質量%及び5〜25質量%、更に好ましくは55〜80質量%、15〜25質量%及び5〜20質量%である。
また、上記(6)において、芳香族ビニル化合物及び他の化合物の使用量は、ビニル系単量体(b)の全量を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは65〜95質量%及び5〜35質量%、より好ましくは70〜90質量%及び10〜30質量%、更に好ましくは75〜85質量%及び15〜25質量%である。
【0052】
上記(共)重合体(A2)は、上記ゴム強化共重合樹脂の製造に適用される重合開始剤等を用いて、単量体成分を、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等で重合することにより、あるいは、重合開始剤を用いない熱重合により、製造することができる。また、これらの重合方法を組み合わせてもよい。
【0053】
上記(共)重合体(A2)の固有粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.2〜1.3dl/g、より好ましくは0.25〜0.9dl/g、更に好ましくは0.3〜0.7dl/gである。固有粘度[η]が上記範囲内にあれば、成形加工性と耐衝撃性の物性バランスに優れる。尚、固有粘度[η]は、上記ゴム強化共重合樹脂(A1)の場合と同様、製造条件を調整することにより制御することができる。
【0054】
上記成分〔A〕が、ゴム強化共重合樹脂(A1)のみからなる場合、並びに、ゴム強化共重合樹脂(A1)と(共)重合体(A2)との混合物の場合、のいずれであっても、本発明の組成物中のゴム質重合体(a)の含有量は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%、更に好ましくは2〜15質量%、特に好ましくは3〜10質量%である。このゴム質重合体(a)の含有量が少なすぎると、耐衝撃性が劣る傾向にあり、多すぎると、成形加工性、耐熱性等が劣る傾向にある。
【0055】
上記成分〔A〕のアセトン可溶分の固有粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.2〜1.3dl/g、より好ましくは0.3〜0.9dl/g、更に好ましくは0.35〜0.7dl/gである。固有粘度[η]が上記範囲内にあれば、成形加工性と耐衝撃性の物性バランスに優れる。
また、上記アセトン可溶分の多分散度、即ち、GPCにより得られた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは1.3〜5、より好ましくは1.5〜4、更に好ましくは1.5以上3未満である。このMw/Mn比が大きすぎると、成形加工性が低下する傾向がある。
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の成分〔A〕の含有量は、成分〔A〕及び〔B〕の合計を100質量%とした場合に、5〜60質量%であり、好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは5〜20質量%である。この成分〔A〕の含有量が5質量%未満では、耐衝撃性が劣る傾向にあり、60質量%を超えると、成形加工性、耐熱性等が劣る傾向にある。
【0057】
上記成分〔A〕又は本発明の組成物又はその成形品中に含まれる、ビニル系単量体(b)の重合体がグラフト化されたゴム質重合体の数平均粒子径は、好ましくは80〜15,000nm、更に好ましくは100〜15,000nm、特に好ましくは200〜2,000nmである。上記数平均粒子径が上記範囲にあれば、耐衝撃性に優れる。
尚、上記数平均粒子径は、上記成分〔A〕又は本発明の組成物又はその成形品からなる薄片を、OsO又はRuOの溶液に浸漬することにより染色した後、透過型電子顕微鏡で観察し、例えば、100個のゴム質重合体の粒子について測定された粒子径の平均値とすることができる。
【0058】
本発明の組成物又はその成形品中に含まれる、シアン化ビニル化合物からなる単位の含有割合は、好ましくは、3〜12質量%、より好ましくは5〜10質量%である。この割合が12質量%を超えると、熱老化性が低下する傾向にあり、3質量%未満では、ポリカーボネート樹脂〔B〕との相溶性が低下し、耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0059】
2.ポリカーボネート樹脂〔B〕
この成分〔B〕は、主鎖にカーボネート結合を有するものであれば特に限定されない。
上記成分〔B〕は、芳香族ポリカーボネートでよいし、脂肪族ポリカーボネートでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。本発明においては、耐衝撃性、耐熱性等の観点から、芳香族ポリカーボネートが好ましい。尚、この成分〔B〕は、末端が、R−CO−基、R’−O−CO−基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。この成分〔B〕は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
上記芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを溶融によりエステル交換(エステル交換反応)して得られたもの、ホスゲンを用いた界面重縮合法により得られたもの、ピリジンとホスゲンとの反応生成物を用いたピリジン法により得られたもの等を用いることができる。
【0061】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(p−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のうち、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。尚、この化合物において、炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。また、ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。従って、上記化合物としては、ビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのうち、特に、ビスフェノールAが好ましい。
【0063】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
上記成分〔B〕の粘度平均分子量は、好ましくは15,000〜40,000、より好ましくは17,000〜30,000、特に好ましくは18,000〜28,000である。この粘度平均分子量が高いほど、ノッチ付き衝撃強度が高くなる一方、流動性が十分でなく、成形加工性に劣る傾向にある。
【0065】
尚、上記成分〔B〕は、全体としての粘度平均分子量が上記範囲に入るものであれば、異なる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0066】
上記成分〔B〕の屈折率は、通常、1.580〜1.590である。従って、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分〔A〕及び〔B〕、即ち、屈折率の異なるもの同士を含有することとなり、透明性が失われ、各成分が所定の含有割合であることにより、半透明とすることができる。
【0067】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分〔B〕の含有量は、上記成分〔A〕及び〔B〕の合計を100質量%とした場合に、40〜95質量%であり、好ましくは60〜95質量%、より好ましくは65〜95質量%、更に好ましくは70〜95質量%である。この範囲であれば、流動性及び耐熱性に優れる。
【0068】
3.リン酸系化合物〔D〕
この成分〔D〕は、P−O結合を有する化合物であれば、特に限定されず、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸及びピロリン酸並びにこれらの誘導体、シリルホスフェート等を用いることができ、無機化合物でも、有機化合物でもよい。
この成分〔D〕を含有することにより、押出加工、成形加工等の際に、本発明の組成物が、熱履歴の影響を受けにくくなるため、半透明性、耐衝撃性及び耐熱性に優れた成形品を安定して製造することができる。また、本発明の組成物を溶融混練する際に、ポリカーボネート樹脂の分子量低下を抑制することができることから、成形品の表面が変色することなく、所望の外観を有する成形品を得ることができる。
【0069】
無機化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸及びピロリン酸のほか、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素亜鉛、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素ストロンチウム、リン酸水素バリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素亜鉛、リン酸二水素マグネシウム、リン酸二水素バリウム等のリン酸塩;亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸アンモニウム等の亜リン酸塩;ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸アンモニウム、ホスホン酸カルシウム等のホスホン酸塩;次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸バリウム等の次亜リン酸塩;ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸亜鉛等のピロリン酸塩が挙げられる。
これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
有機化合物としては、下記式(I)で表される有機リン酸エステル及びその塩、下記式(II)で表される有機亜リン酸エステル及びその塩、下記式(III)で表される有機ホスホン酸エステル及びその塩等が挙げられる。
O=P(OR(OMn+1/n3−s (I)
〔式中、各Rは、独立して、炭素数1〜30の炭化水素基であり、各Mは、独立して、水素原子、又は、周期表の第1A族、第1B族、第2A族及び第2B族から選ばれる金属原子であり、sは1、2又は3であり、nは1又は2である。〕
P(OR(OMn+1/n3−t (II)
〔式中、各Rは、独立して、炭素数1〜30の炭化水素基であり、各Mは、独立して、水素原子、又は、周期表の第1A族、第1B族、第2A族及び第2B族から選ばれる金属原子であり、tは1、2又は3であり、nは1又は2である。〕
O=P(R)(OMn+1/n (III)
〔式中、Rは、水素原子、又は、炭素数1〜30の炭化水素基であり、各Mは、独立して、水素原子、又は、周期表の第1A族、第1B族、第2A族及び第2B族から選ばれる金属原子であり、nは1又は2である。但し、R及びMのすべてが水素原子である場合を除く。〕
これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
上記式(I)で表される有機リン酸エステルにおいて、Rは、炭素数1〜30の炭化水素基であるが、脂肪族炭化水素基(直鎖状でも、分岐状でもよい。)、脂環族炭化水素基(置換基を有してもよい。)、及び、芳香族炭化水素基(置換基を有してもよい。)のいずれでもよく、また、飽和型でも不飽和型でもよい。好ましい炭素数は、6〜28であり、より好ましくは10〜24である。尚、s=2又はs=3の場合、2つのRによって環構造を形成していてもよい。
【0072】
上記式(I)で表される有機リン酸エステルは、s=1のとき、モノエステルであり、例えば、メチルジハイドロジェンホスフェート、エチルジハイドロジェンホスフェート、ヘキシルジハイドロジェンホスフェート、オクチルジハイドロジェンホスフェート、ノニルジハイドロジェンホスフェート、デシルジハイドロジェンホスフェート、ドデシルジハイドロジェンホスフェート、オクタデシルジハイドロジェンホスフェート、ノニルフェニルジハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。s=2のとき、ジエステルであり、例えば、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジノニルホスフェート、ジデシルホスフェート、ジドデシルホスフェート、ジテトラデシルホスフェート、ジオクタデシルホスフェート、ジフェニルホスフェート、ジベンジルホスフェート等が挙げられる。また、s=3のとき、トリエステルであり、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等が挙げられる。各化合物の金属塩とすることもできる。
更に、s=2の場合、R同士で環構造を形成している、ナトリウム−2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、リチウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、リチウム−2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート等を用いることもできる。
【0073】
上記式(II)で表される有機亜リン酸エステルにおいて、Rは、炭素数1〜30の炭化水素基であるが、脂肪族炭化水素基(直鎖状でも、分岐状でもよい。)、脂環族炭化水素基(置換基を有してもよい。)、及び、芳香族炭化水素基(置換基を有してもよい。)のいずれでもよく、また、飽和型でも不飽和型でもよい。好ましい炭素数は、6〜28であり、より好ましくは10〜24である。
【0074】
上記式(II)で表される有機亜リン酸エステルは、t=1のとき、モノエステルであり、例えば、メチルジハイドロジェンホスファイト、エチルジハイドロジェンホスファイト、ヘキシルジハイドロジェンホスファイト、オクチルジハイドロジェンホスファイト、ノニルジハイドロジェンホスファイト、デシルジハイドロジェンホスファイト、ドデシルジハイドロジェンホスファイト、オクタデシルジハイドロジェンホスファイト、ヘキサコシルジハイドロジェンホスファイト、ドデシルフェニルジハイドロジェンホスファイト等が挙げられる。t=2のとき、ジエステルであり、例えば、ジメチルハイドロジェンホスファイト、ジエチルハイドロジェンホスファイト、ジヘキシルハイドロジェンホスファイト、ジオクチルハイドロジェンホスファイト、ジ(2−エチルヘキシル)ハイドロジェンホスファイト、ジノニルハイドロジェンホスファイト、ジデシルハイドロジェンホスファイト、ジドデシルハイドロジェンホスファイト、ジテトラデシルハイドロジェンホスファイト、ジオクタデシルハイドロジェンホスファイト、オクチルベンジルハイドロジェンホスファイト、ノニルトリデシルハイドロジェンホスファイト、ブチルエイコシルハイドロジェンホスファイト、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、ジベンジルハイドロジェンホスファイト等が挙げられる。また、t=3のとき、トリエステルであり、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリキシレニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジデシルホスファイト等が挙げられる。各化合物の金属塩とすることもできる。
【0075】
上記式(III)で表される有機ホスホン酸エステルにおいて、Rは、水素原子、又は、炭素数1〜30の炭化水素基であるが、後者の場合、脂肪族炭化水素基(直鎖状でも、分岐状でもよい。)、脂環族炭化水素基(置換基を有してもよい。)、及び、芳香族炭化水素基(置換基を有してもよい。)のいずれでもよく、また、飽和型でも不飽和型でもよい。好ましい炭素数は、6〜28であり、より好ましくは10〜24である。
【0076】
上記式(III)で表される有機ホスホン酸エステルとしては、ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ジブチル、ホスホン酸ジヘキシル、ホスホン酸ジオクチル、ホスホン酸ジデシル、ホスホン酸ジドデシル、ホスホン酸ジオクタデシル、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジトリル、ホスホン酸ジメチルメチル、ホスホン酸ジエチルエチル、ホスホン酸ジイソプロピルメチル、ホスホン酸ジオクチルフェニル、ホスホン酸ジフェニルメチルが挙げられる。各化合物の金属塩とすることもできる。
【0077】
上記成分〔D〕としては、上記式(I)で表される有機リン酸エステルが好ましく、特に、上記式(I)におけるMが水素原子である、下記式(IV)で表される化合物及びその金属塩が好ましい。
O=P(OR(OH)3−s (IV)
〔式中、各Rは、独立して、炭素数1〜30の炭化水素基であり、sは1又は2である。〕
上記式(IV)で表される化合物において、Rが、炭素数5以下の炭化水素基である化合物の場合、沸点が低く、本発明の組成物を、溶融混練により製造する際に、蒸発又は飛散することがあるため、Rは、炭素数が6以上、更には10以上の炭化水素基であることが好ましい。その具体例としては、オクタデシルジハイドロジェンホスフェート、ジオクタデシルホスフェート等が挙げられ、これらを組み合わせて用いることができる。
【0078】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分〔D〕の含有量は、上記成分〔A〕及び〔B〕の合計を100質量部とした場合に、0.01〜5質量部であり、好ましくは0.02〜3質量部、より好ましくは0.03〜1質量部、更に好ましくは0.05〜0.5質量部である。この範囲であれば、ポリカーボネート樹脂の分子量低下を効率よく抑制することができる。尚、本発明の組成物が、後述する他の重合体、例えば、−COO−構造を有するポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂等を更に含有する場合にも、本発明の組成物は、熱履歴の影響を受けにくく、これらの樹脂の分子量低下を抑制することができ、安定した溶融混練を行うことができる。
【0079】
4.他の成分
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、目的、用途等に応じて、他の重合体成分、添加剤等を含有したものとすることができる。
他の重合体成分としては、特に限定されないが、熱可塑性重合体が好ましい。この熱可塑性重合体としては、樹脂、アロイ及びエラストマーが挙げられ、これらは、各々、単独であるいは組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂;オレフィン系樹脂;塩化ビニル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール樹脂(POM);ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;フッ素樹脂;イミド系樹脂;ケトン系樹脂;スルホン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;ポリビニルブチラール;フェノキシ樹脂;感光性樹脂;液晶ポリマー;生分解性プラスチック等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0080】
上記の他の重合体成分の配合量は、上記成分〔A〕及び〔B〕の合計を100質量部とした場合に、好ましくは1〜100質量部、より好ましくは2〜50質量部、更に好ましくは3〜40質量部である。
【0081】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記成分〔A〕及び〔B〕と、更に、ポリエステル樹脂(以下、「成分〔C〕」ともいう。)とを含有したものとすることができる。
上記成分〔C〕は、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル及び脂環族ポリエステルのいずれでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。これらのポリエステルは、各々、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
この成分〔C〕を含有することにより、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0082】
上記成分〔C〕は、ジカルボン酸及び/又はジカルボン酸のエステル形成性誘導体を含むジカルボン酸類と、ジオール化合物及び/又はジオール化合物のエステル形成性誘導体を含むジオール類との縮重合体であることが好ましい。
【0083】
上記ジカルボン酸類のうち、ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ジグリコール酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。また、上記芳香族ジカルボン酸の置換体(メチルイソフタル酸等のアルキル基置換体等)や、誘導体(テレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル等のアルキルエステル等)を用いることもできる。
更に、p−オキシ安息香酸及びp−ヒドロキシエトキシ安息香酸のような、オキシ酸及びこれらのエステル形成性誘導体を用いることもできる。
上記ジカルボン酸類は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
また、上記ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール(テトラメチレングリコール)、ペンタメチレングリコール、ヘキシレングリコール(ヘキサメチレングリコール)、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の炭素数2〜12のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジアルキレングリコール等の脂肪族ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール;ピロカテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールA、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等が挙げられる。尚、これらの置換体や誘導体を用いることもできる。また、ε−カプロラクトン等の環状エステルを用いることもできる。
更に、必要に応じて、長鎖型のジオール化合物(ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)、ビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加重合体等(ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加重合体等)等を用いることもできる。
上記ジオール類は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
上記のジカルボン酸類と、ジオール類との反応(縮重合)により得られたポリエステル樹脂においては、ホモポリエステル及びコポリエステルのいずれか、又は、両方を用いることができる。
【0086】
ホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリネオペンチルテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート等が挙げられる。
【0087】
また、コポリエステルとしては、下記の(ア)〜(ウ)のポリエステルが挙げられる。
(ア)1種のジカルボン酸類と、2種以上のジオール類との縮重合体。
(イ)2種以上のジカルボン酸類と、1種のジオール類との縮重合体。
(ウ)2種以上のジカルボン酸類と、2種以上のジオール類との縮重合体。
上記縮重合体は、例えば、特表平9−509449号等に開示されている。
【0088】
上記(ア)としては、ジカルボン酸類と、2種以上の炭素数2〜12のアルキレングリコールとの縮重合体、ジカルボン酸類と、炭素数2〜12のアルキレングリコール及び脂環族ジオールを含むジオール類との縮重合体等が挙げられる。これらのうち、後者が好ましく、例えば、ジカルボン酸類としての、テレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルと、ジオール類としての、エチレングリコール、並びに、炭素数3〜12のアルキレングリコール及び/又は1,4−シクロヘキサンジメタノールとの縮重合体等を用いることができる。より好ましくは、アルキレングルコールがエチレングリコールであり、且つ、脂環族ジオールが1,4−シクロヘキサンジメタノールである態様である。特に、テレフタル酸、エチレングリコール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールを反応させてなるポリエステルは、一般に、「PETG」(エチレングリコール50モル%以上100モル%未満且つ1,4−シクロヘキサンジメタノール0モル%を超えて50モル%以下)及び「PCTG」(エチレングリコール0モル%を超えて50モル%未満且つ1,4−シクロヘキサンジメタノール50モル%を超えて100モル%未満)と呼ばれており、例えば、イーストマンケミカル社製「Easter Copolyester 6763」及び「Easter PCTG Copolyester 5445」(以上、商品名)として入手可能である。これらは、いずれも好ましく用いることができる。
【0089】
上記(イ)としては、例えば、ジカルボン酸類としての、テレフタル酸及びイソフタル酸と、ジオール類としての、エチレングリコールとの縮重合体、即ち、テレフタル酸単位、イソフタル酸単位及びエチレングリコール単位からなるコポリエステルや、テレフタル酸単位、2,6−ナフタレンジカルボン酸単位及びエチレングリコール単位からなるコポリエステル等が挙げられる。これらのコポリエステルにおいては、テレフタル酸単位を主として含む「共重合PET」が好ましく用いられる。このテレフタル酸単位の割合は、ジカルボン酸からなる単位の全量に対して、好ましくは70〜98モル%、より好ましくは80〜95モル%である。
【0090】
上記(ウ)としては、例えば、ジカルボン酸類としての、テレフタル酸及びイソフタル酸と、ジオール類としての、エチレングリコール及び1,4−シクロヘキサンジメタノールとの縮重合体等が挙げられる。更に、ジカルボン酸類として、イソフタル酸に加えて又は代えて、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸、グルタル酸、アゼライン酸等の1種以上を用いてよいし、ジオール類として、エチレングリコールに加えて又は代えて、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、テトラメチルシクロブタンジオール等を用いてもよい。
【0091】
上記成分〔C〕は、結晶性の樹脂でも、非晶性の樹脂でもよい。また、結晶性の樹脂、及び、非晶性の樹脂の組み合わせでもよい。後述する組成物の製造条件(混練温度、混練時間等)、あるいは、成形品の製造条件(成形温度、成形サイクル、金型温度等)により透明状態にあるポリエステル樹脂が好ましい。本発明においては、上記成分〔C〕は、非晶性の樹脂であることが好ましい。上記成分〔C〕が非晶性であることにより、本発明の組成物を用いて成形品を製造する際の製造条件の幅が広くなり、得られる成形品の全光線透過率(半透明性)の調整を容易にすることができる。また、本発明の組成物が、高温下及び/又は多湿下にあっても、流動性を所期の範囲に維持することができ、安定した成形品製造を進めることができる。
尚、本発明において、「非晶性」とは、加熱処理を行っても結晶化による物性の変化を起こすことのない性質をいい、例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて熱分析を行った場合に、結晶化に基づく発熱ピークを示さないこと、あるいは、外観的に白濁又は白化を生じないことにより確認することができる。
【0092】
上記非晶性の樹脂としては、ホモポリエステル及びコポリエステルのいずれでもよく、コポリエステルを用いる場合には、上記(ア)の縮重合体が、特に好ましい。該縮重合体としては、上記のイーストマンケミカル社製「Easter Copolyester 6763」及び「Easter PCTG Copolyester 5445」等を用いることができる。尚、上記(イ)の縮重合体のうち、上記共重合PETは、通常、結晶性の樹脂である。
【0093】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に上記成分〔C〕が含有される場合の該成分〔C〕の含有量は、成分〔A〕及び〔B〕の合計を100質量部とした場合に、1〜40質量部であり、好ましくは3〜35質量部、更に好ましくは、5〜30質量部である。この成分〔C〕の含有量が多すぎると、熱安定性が低下する傾向がある。
【0094】
添加剤としては、充填剤、耐候剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱老化防止剤、老化防止剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤、滑剤、抗菌剤、離型剤、着色剤等が挙げられる。各添加剤は、半透明性を維持するために、粒子径が、可視光線の波長より小さいことが好ましい。
【0095】
上記充填剤としては、粉末状、繊維状、塊状、板状、不定形状等特に限定されることなく、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
粉末状の充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化マグネシウム、ワラストナイト、ミルドファイバー等が挙げられる。
繊維状の充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、酸化亜鉛ウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー等が挙げられる。好ましい繊維径は6〜60μmであり、好ましい繊維長さは、30μm以上である。
塊状の充填剤としては、ガラスビーズ、中空ガラス、ロックフィラー等が挙げられる。
板状の充填剤としては、マイカ、ガラスフレーク等が挙げられる。
上記の充填剤を用いることにより、剛性及び耐熱変形性を付与することができる。尚、炭酸カルシウム及びタルクを用いた場合には、成形品の表面に艶消し性を付与することができる。
【0096】
上記充填剤の含有量は、成分〔A〕及び〔B〕を含む重合体全量に対して、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは2〜30質量%である。
【0097】
上記耐候剤としては、リン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等が挙げられる。
上記滑剤としては、エチレンビスステアリルアミド、硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0098】
上記帯電防止剤としては、低分子型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤等が挙げられる。また、これらは、イオン伝導型でもよいし、電子伝導型でもよい。
低分子型帯電防止剤としては、アニオン系帯電防止剤;カチオン系帯電防止剤;非イオン系帯電防止剤;両性系帯電防止剤;錯化合物;アルコキシシラン、アルコキシチタン、アルコキシジルコニウム等の金属アルコキシド及びその誘導体等が挙げられる。
また、高分子型帯電防止剤としては、分子内にスルホン酸塩を有するビニル共重合体、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ベタイン等が挙げられる。更に、ポリエーテル、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等を用いることもできる。
【0099】
上記熱老化防止剤としては、フェノール系化合物、硫黄系化合物、ラクトン系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0100】
フェノール系化合物としては、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール誘導体、2−メチル−6−tert−ブチルフェノール誘導体、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−ブチリデン−ビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、ペンタエリスリチル・テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2−〔1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0101】
硫黄系化合物としては、3,3’−チオビスプロピオン酸ジラウリルエステル、3,3’−チオビスプロピオン酸ジドデシルエステル、3,3’−チオビスプロピオン酸ジオクタデシルエステル、ペンタエリスリチル・テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)等が挙げられる。
ラクトン系化合物としては、5,7−ジ−tert−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン等が挙げられる。
【0102】
上記着色剤としては、顔料でもよいし、染料でもよい。顔料としては、カーボンブラック、ベンガラ等が挙げられる。
【0103】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等により、原料成分を混練することにより製造することができる。混練温度は、通常、200〜280℃、好ましくは210〜270℃である。原料成分の使用方法は特に限定されず、各々の成分を一括配合して混練してもよく、多段、分割配合して混練してもよい。
好ましい製造方法は、押出機を用いる方法であり、二軸押出機を用いることが特に好ましい。
【0104】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ASTM D1003に準ずる全光線透過率が、好ましくは30〜80%、より好ましくは40〜75%、更に好ましくは45〜70%、特に好ましくは50〜70%であり、半透明性に優れる。該全光線透過率が30%未満では、実質、不透明であるため、半透明性を生かした装飾性の高い成形品とすることが困難な場合がある。
【0105】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、シート押出成形、異形押出成形、真空成形、発泡成形等の公知の成形法により、成形品とすることができる。即ち、本発明の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物を含む。
射出成形では、通常の成形法のほか、ガスアシスト成形、インモールド成形、二色成形、サーモエジェクト成形、サンドイッチ成形等により、成形品を得ることができる。
シート押出成形では、平滑シート、表面にエンボス模様等を有するシート等を得ることができる。
真空成形では、ストレート成形、ドレープ成形、プラグアシスト成形、プラグアシスト・リバースドロー成形、エアスリップ成形、スナップバック成形、リバースドロー成形、エアクッション成形、プラグアシスト・エアスリップ成形、フリー成形、マッチドモールド成形、プラグリング成形、スリップ成形、接触加熱成形等により、成形品を得ることができる。
成形品とする場合には、通常、本発明の組成物を200〜280℃、好ましくは210〜270℃に加熱し、溶融させた後、加工される。
また、各種成形品は、用途等に応じて、塗装、スパッタリング、溶着等の二次加工を施してもよい。
【0106】
上記成形品としては、その優れた性質を利用して、ランプ等の照明装置、スイッチ等の表示装置、OA機器、家電製品、車両部品等のケース、ハウジング、トレイ、ディスク等に好適である。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない、尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0108】
1.評価方法
下記の実施例及び比較例における、各評価項目の測定方法を以下に示す。
(1)体積平均粒子径
ゴム強化共重合樹脂(A1)の調製に用いたラテックス中の分散粒子(ゴム質重合体(a))の体積平均粒子径を、レーザー粒径解析装置(型式「LPA−3100」、大塚電子社製)により、光散乱法で測定し、70回積算でキュムラント法により算出した。尚、熱可塑性樹脂組成物を製造後、該組成物に含まれるグラフト化されたゴム質重合体の数平均粒子径は、上記ゴム質重合体(a)の体積平均粒子径とほぼ同じであることを透過型電子顕微鏡で確認した。
(2)グラフト率
本文中に記載した。
(3)固有粘度[η]
ゴム強化共重合樹脂(A1)のアセトン可溶分、及び共重合体(A2)について、それぞれ、メチルエチルケトンに溶解し、30℃における固有粘度[η]を、ウベローデ型粘度計を用いて測定した。
【0109】
(4)流動性(MFR)
ASTM D1238に準じ、温度240℃、荷重10kgでメルトフローレート(MFR)を測定した。
(5)アイゾット衝撃強度
ASTM D256に準じて測定した。試験片の大きさは、2.5×1/2×1/4インチであり、ノッチ付きである。
(6)全光線透過率
ASTM D1003に準じて測定した。試験片の厚さは、2.5mmである。
(7)ヘイズ
ASTM D1003に準じて測定した。試験片の厚さは、2.5mmである。
(8)熱変形温度
ASTM D648に準じ、荷重18.56kg/cmで熱変形温度(HDT)を測定した。試験片の厚さは、1/2インチである。
(9)MFR保持率
熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを、除湿乾燥機を用いて十分に乾燥した後、温度95℃及び湿度98%の条件下に200時間放置し、放置前後のMFRの比を算出し、MFR保持率を得た。

(10)滞留後の落錘強度保持率
新潟鐵工所社製射出成形機「NN30B型」を用い、下記のような異なる成形条件により、大きさが2.5×100×100mmである板状成形品(以下、「試験片P」及び「試験片Q」という。)を作製し、ASTM D2794に準じ、23℃でデュポン式衝撃強さを測定し、下記式により滞留後の落錘強度保持率を得た。
試験片P;シリンダー温度を270℃に設定した後、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを供給し、40秒サイクルで板状成形品を作製し、5ショット目を試験片Pとした。
試験片Q;シリンダー温度を270℃に設定した後、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを供給し、40秒サイクルで板状成形品を5ショット作製した後、15分間滞留させ、次いで、40秒サイクルで板状成形品を作製し、4ショット目を試験片Qとした。

(11)滞留後のΔE
新潟鐵工所社製射出成形機「NN30B型」を用い、下記のような異なる成形条件により、大きさが2×50×80mmである板状成形品(以下、「試験片X」及び「試験片Y」という。)を作製し、多光源分光測定計(スガ試験機社製)を用いて、各Lab値(L;明度、a;赤色度、b;黄色度)を測定し、下記式によりΔEを得た。
試験片X;シリンダー温度を270℃に設定した後、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを供給し、40秒サイクルで板状成形品を作製し、5ショット目を試験片Xとした。
試験片Y;シリンダー温度を270℃に設定した後、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットを供給し、40秒サイクルで板状成形品を5ショット作製した後、15分間滞留させ、次いで、40秒サイクルで板状成形品を作製し、4ショット目を試験片Yとした。
ΔE=√{(L−L+(a−a+(b−b
(式中、L、a及びbは、各々、試験片Xの色調を、L、a及びbは、各々、試験片Yの色調を示す。)
ΔEは、小さいほど、色の変化が小さく、色調が優れていることを示す。
【0110】
2.熱可塑性樹脂組成物の原料成分
熱可塑性樹脂組成物の製造に用いた原料成分を以下に示す。
2−1.成分〔A〕
2−1−1.ゴム強化共重合樹脂(A1)
製造例1
攪拌装置を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、ゴム質重合体(a)として、体積平均粒子径が0.17μmであり且つスチレン単位量が30%のスチレン・ブタジエン共重合体(以下、スチレン・ブタジエン共重合体を「SBR」と表記する。)50部(固形分換算)と、スチレン7.5部と、アクリロニトリル2.5部と、不均化ロジン酸ナトリウム1.5部と、tert−ドデシルメルカプタン0.1部と、イオン交換水100部とを充填し、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.2部及びイオン交換水15部よりなる活性剤水溶液と、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.1部とを添加し、1時間反応を続けた。
その後、反応系に、イオン交換水50部、不均化ロジン酸ナトリウム1部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルヒドロパーオキサイド0.2部、スチレン30部及びアクリロニトリル10部からなるインクレメント重合用成分を3時間にわたって連続的に添加し、攪拌しながら重合反応を続けた。該インクレメント重合用成分の全量を添加した後、更に攪拌を1時間続け、ゴム強化共重合樹脂(A1−1)を含むラテックスを得た。
次いで、反応系に、老化防止剤としての2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加した。その後、樹脂成分等を含むラテックスに、硫酸2部を添加して、凝固し、凝固物を十分に水洗した。その後、75℃で、24時間乾燥し、白色粉末を得た。重合転化率は97%、グラフト率は80%、アセトン可溶分の固有粘度[η]は0.50dl/gであった(表1参照)。
【0111】
尚、表1には、使用したゴム質重合体(a)の屈折率の計算値を掲載した。該屈折率は、ゴム質重合体(a)が30%のスチレン単位と、70%のブタジエン単位とからなり、ポリスチレン及びポリブタジエンの屈折率が、それぞれ、1.591及び1.515であることを利用し、下記式に従って算出した。
屈折率 = 1.591×0.3 + 1.515×0.7
= 1.538
【0112】
製造例2〜4
ゴム質重合体(a)として、表1に示す、体積平均粒子径及びスチレン単位量を有するスチレン・ブタジエン共重合体(SBR)を用いた以外は、製造例1と同様にして、ゴム強化共重合樹脂(A1−2)〜(A1−4)を得た。尚、グラフト率及びアセトン可溶分の固有粘度[η]は、表1に併記した。
【0113】
製造例5
ゴム質重合体(a)として、表1に示す、体積平均粒子径を有するポリブタジエン(以下、ポリブタジエンを「BR」と表記する。)を用いた以外は、製造例1と同様にして、ゴム強化共重合樹脂(A1−5)を得た。尚、グラフト率及びアセトン可溶分の固有粘度[η]は、表1に併記した。
【0114】
【表1】

【0115】
2−1−2.共重合体(A2)
製造例6
攪拌装置を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、スチレン75部と、アクリロニトリル25部と、オレイン酸ナトリウム1.5部と、tert−ドデシルメルカプタン0.1部と、イオン交換水300部とを加え、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、過硫酸カリウム0.8部及び酸性亜硫酸ナトリウム0.2部を添加し、3時間反応を行い、アクリロニトリル・スチレン共重合体(A2−1)を含むラテックスを得た。
その後、攪拌を1時間続け、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加した。次いで、樹脂成分等を含むラテックスに、硫酸2部を添加して、凝固し、凝固物を十分に水洗した。その後、75℃で、24時間乾燥し、白色粉末を得た。固有粘度[η]は、0.45dl/gであった。
【0116】
2−2.成分〔B〕
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート樹脂「ノバレックス7022PJ」(JIS K7210に準ずるMFR(温度240℃、荷重10kg)は8g/10分であり、粘度平均分子量は22,000であり、屈折率は1.585である。)を用いた。
【0117】
2−3.成分〔C〕
2−3−1.PETG(C1)
イーストマンケミカル社製「Easter Copolyester 6763」(商品名)を用いた。
2−3−2.ホモPET(C2)
三菱化学社製「NOVAPEX GM700」(商品名)を用いた。
2−3−3.共重合PET(C3)
東洋紡績社製「RN−163」(商品名)を用いた。
上記各成分は、表3において、それぞれ、「C1」、「C2」及び「C3」と表記した。
【0118】
2−4.成分〔D〕
旭電化工業社製「アデカスタブAX−71」(商品名、オクタデシルジハイドロジェンホスフェート及びジオクタデシルホスフェートの混合物)を用いた。
【0119】
3.熱可塑性樹脂組成物の製造及び評価
実施例1〜7及び比較例1〜3
上記の成分〔A〕及び〔B〕を、表2に記載の配合割合でヘンシェルミキサーに投入し、混合した。その後、二軸押出機(シリンダー設定温度;240℃)を用いて溶融混練し、ペレット(熱可塑性樹脂組成物)を作製した。
次いで、ペレットを、除湿乾燥機を用いて十分に乾燥し、射出成形機(シリンダー設定温度;250℃、金型温度;60℃)を用いて評価用試験片を得た。この試験片を用いて、各種評価を行い、その結果を表2に併記した。
【0120】
【表2】

【0121】
実施例8〜17並びに比較例4〜6
上記の成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕を、表3に記載の配合割合でヘンシェルミキサーに投入し、混合した。その後、二軸押出機(シリンダー設定温度;240℃)を用いて溶融混練し、ペレット(熱可塑性樹脂組成物)を作製した。
次いで、ペレットを、除湿乾燥機を用いて十分に乾燥し、射出成形機(シリンダー設定温度;250℃、金型温度;60℃)を用いて評価用試験片を得た。この試験片を用いて、各種評価を行い、その結果を表3に併記した。
尚、表3において、成分〔A〕、〔B〕及び〔C〕の配合量の欄内にある括弧内数字は、成分〔A〕及び〔B〕の合計を100%とした場合の換算値である。
【0122】
【表3】

【0123】
表2及び表3より、以下のことが明らかである。即ち、比較例1は、PCのみを用いた例であり、耐熱性に優れるものの、流動性、耐衝撃性及び半透明性に劣る。比較例2は、成分〔D〕を含有しない例であり、成形加工時の熱安定性(滞留後のΔE)に劣り、MFR及び耐衝撃性も十分でなかった。また、比較例3は、屈折率が本発明の範囲外にあるゴム質重合体を用いた例であり、半透明性を通り越して不透明であり、好ましくない。
一方、実施例1〜7では、いずれも、半透明性、耐衝撃性及び耐熱性に優れていた。特に、実施例1は、比較例2に対して、成分〔D〕が配合された例であり、滞留後のΔEが8から4へと向上し、MFRが25g/10分から23g/10分へと、アイゾット衝撃強度も45kgf・cm/cmから52kgf・cm/cmへと改良された。また、実施例2も、比較例4に対して、成分〔D〕が配合された例であり、滞留後のΔEが13から4へと向上し、MFRが20g/10分から18g/10分へと、アイゾット衝撃強度も52kgf・cm/cmから57kgf・cm/cmへと改良された。また、
【0124】
実施例8は、比較例5の組成に対し、更に成分〔D〕を含有するので、滞留後のΔEが向上し(10→3)また、アイゾット衝撃強度も60kgf・cm/cmから65kgf・cm/cmへと改良された。また、滞留後の落錘強度の保持率は、78%から95%へと向上した。更に、実施例9〜17は、いずれも、半透明性、耐衝撃性及び耐熱性に優れていた。
成分〔A〕、〔B〕及び〔D〕の種類並びに含有量を同一として、成分〔C〕を含有した実施例8及び17は、それぞれ、実施例2及び1に比べ、半透明性及び耐衝撃性に優れていた。
また、成分〔A〕、〔B〕及び〔D〕の種類並びに含有量を同一として、成分〔C〕の種類を変えた実施例8、14及び15の場合、非晶性のポリエステル樹脂(C1)を用いた実施例8は、結晶性のポリエステル樹脂(C2及びC3)を用いた実施例14及び15に比べて、湿熱試験後のMFR保持率が小さく、組成物の耐湿熱安定性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、半透明性、耐衝撃性、耐熱性及び流動性に優れるため、ランプ等の照明装置、スイッチ等の表示装置、OA機器、家電製品、車両部品等のケース、ハウジング、トレイ、ディスク等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕屈折率が1.520〜1.580の範囲にあるゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b)を重合して得られるゴム強化共重合樹脂(A1)、又は、該ゴム強化共重合樹脂(A1)と上記ビニル系単量体(b)の(共)重合体(A2)との混合物、からなるゴム強化樹脂と、〔B〕ポリカーボネート樹脂と、〔D〕リン酸系化合物と、を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記ポリカーボネート樹脂〔B〕の含有量は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、5〜60質量%及び40〜95質量%であり、上記リン酸系化合物〔D〕の含有量は、上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記ポリカーボネート樹脂〔B〕の合計を100質量部とした場合に、0.01〜5質量部であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
上記ゴム質重合体(a)が、スチレン・ブタジエン系共重合体である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記スチレン・ブタジエン系共重合体を構成するスチレン単位の含有量が、すべての単量体単位の合計を100質量%とした場合に、10〜80質量%である請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
上記スチレン・ブタジエン系共重合体を構成するスチレン単位の含有量が、すべての単量体単位の合計を100質量%とした場合に、30質量%を超えて80質量%以下である請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
上記リン酸系化合物〔D〕が、下記式で表される有機リン酸エステルである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
O=P(OR)(OH)3−s
〔式中、各Rは、独立して、炭素数1〜30の炭化水素基であり、sは1又は2である。〕
【請求項6】
更に、〔C〕ポリエステル樹脂を含有し、該ポリエステル樹脂〔C〕の含有量が、上記ゴム強化樹脂〔A〕及び上記ポリカーボネート樹脂〔B〕の合計を100質量部とした場合に、1〜40質量部である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
上記ポリエステル樹脂〔C〕が、非晶性ポリエステル樹脂である請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
上記非晶性ポリエステル樹脂が、ジカルボン酸類と、炭素数2〜12のアルキレングリコール及び脂環族ジオールを含むジオール類との縮重合体である請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
上記アルキレングリコールがエチレングリコールであり、且つ、脂環族ジオールが1,4−シクロヘキサンジメタノールである請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
厚さ2.5mmの試験片に対して、ASTM D1003に準じて測定された全光線透過率が30〜80%である請求項1乃至9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を含むことを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2007−254507(P2007−254507A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77596(P2006−77596)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】