説明

熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】熱可塑性ポリエステル樹脂とゴム強化スチレン系樹脂をベースとした熱可塑性樹脂組成物であって、耐熱性、制電性、制電持続性、強度、剛性、及び成形品表面外観に優れたものを提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル樹脂40〜99質量%、及び、(B)ゴム強化スチレン系樹脂1〜60質量%を含有してなり(但し、上記(A)成分と(B)成分の合計は100質量%)、更に、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(C)ポリエーテルポリエステル樹脂1〜50質量部、および、(D)フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオンを有する塩0.1〜5質量部を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。更に、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(E)無機充填材5〜150質量部を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、制電性、制電持続性、強度、剛性、及び成形品表面外観に優れた熱可塑性樹脂組成物、並びにこの熱可塑性樹脂組成物からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂、なかでもポリエチレンテレフタレート(以下PETと記す)は、高い融点を有したポリエステル樹脂として各種分野で使用されているが、結晶化し難く、耐熱性を要求される分野では、結晶核剤を配合し、ガラス繊維等の無機充填材を配合して使用される。しかしながら、一般的に、PETは、結晶化を向上させることにより、耐熱性は向上するとしても、材料として脆くなる傾向にある。
【0003】
熱可塑性ポリエステル樹脂の脆さを改善する方法として、ゴム強化スチレン系樹脂を配合する方法が既に提案されている。
他方、熱可塑性樹脂は、一般的に、帯電し易い特性を有し、静電気障害の問題を発生させることから、液晶を用いた表示装置、半導体周辺装置、プラズマディスプレー、クリーンルーム内等で用いられる各種パーツ、シート、フィルム等に使用することは難しかった。
かかる欠点を改良する目的から、熱可塑性樹脂に、高分子型帯電防止剤を添加したり、これと界面活性剤を併用して添加することが提案されている。
近年、ICやLSIの高性能化と大容量化により、これらを収容するトレーなどの包装容器は、電気特性として表面抵抗値で1010Ω以下を満たすことが求められており、いわゆる従来の帯電防止領域の水準を満たすだけでは充分でなくなっており、また、水洗に対する優れた耐久性、すなわち、制電持続性の上でも著しく不十分という問題を有している。
帯電防止水準を改善する方法として特許文献1には特定の熱可塑性樹脂および/または熱可塑性エラストマーにカチオン及びイオン解離可能なアニオンにより構成される金属塩類、更には特定の有機化合物を含有させることが提案されている。しかしながら、この組成物は、更に耐熱性を要求される分野で使用するには未だ不十分である。
他方、特許文献2には、熱可塑性ポリエステル樹脂と、ゴム強化スチレン系樹脂と、ポリエーテルポリエステル樹脂、更に無機充填剤からなる熱可塑性樹脂組成物が開示されているが、耐熱性については満足する値が得られるものの制電性が不十分であった。
【0004】
【特許文献1】国際公開WO01/79354号パンフレット
【特許文献2】特開2005-139312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱可塑性ポリエステル樹脂とゴム強化スチレン系樹脂をベースとした熱可塑性樹脂組成物であって、耐熱性、制電性、制電持続性、強度、剛性、及び成形品表面外観に優れたものを提供することにある。
本発明のさらなる目的は、上記の優れた熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的の下に鋭意研究した結果、熱可塑性ポリエステル樹脂とゴム強化スチレン系樹脂をベースとした熱可塑性樹脂組成物に対して、特定の化合物と特定の無機充填剤を所定量配合することにより、耐熱性、制電性、制電持続性、強度、剛性、及び成形品表面外観に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明は、
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂40〜99質量%、
(B)ゴム強化スチレン系樹脂1〜60質量%、
上記(A)成分及び(B)成分を含有してなり(但し、上記(A)成分と(B)成分の合計は100質量%)、
更に、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、
(C)ポリエーテルポリエステル樹脂1〜50質量部、および、
(D)フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオンを有する塩0.1〜5質量部
を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
更に、本発明の好ましい実施形態によれば、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、
(E)無機充填材5〜150質量部を更に含有することを特徴とする上記熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱可塑性ポリエステル樹脂とゴム強化スチレン系樹脂をベースとし、所望により無機充填材を含有させた熱可塑性樹脂組成物に対して、ポリエーテルポリエステル樹脂および特定のアニオンを備えた塩を特定量含有せしめたため、耐熱性、制電性、制電持続性、強度、剛性、及び成形品表面外観に優れた樹脂組成物が得られ、かつ、上記特性に優れた各種分野の成形品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物について詳しく説明する。
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
本発明の(A)成分の熱可塑性ポリエステル樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂が好ましく、さらに好ましくはポリエチレンテレフタレート、またはエチレンテレフタレート繰り返し単位を少なくとも80質量%以上、好ましくは90質量%以上含む共重合ポリエステル樹脂である。共重合成分としては酸成分および/またはグリコール成分が広く使用出来る。
酸成分の例としては、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸等が挙げられる。
【0009】
グリコール成分の例としては、炭素数2〜6のポリメチレングリコール(例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール)、1,4−シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA、ヒドロキノン等が挙げられる。また、p−オキシ安息香酸、p−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のオキシ酸を共重合成分として使用することも出来る。
尚、上記酸成分および上記グリコール成分等は、1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。更に成形性を損なわない程度で3官能性成分を共重合してもよい。
【0010】
本発明で使用される熱可塑性ポリエステル樹脂の固有粘度には、特に制限は無いが、ポリエチレンテレフタレートの場合、テトラクロルエタン/フェノールの等量混合溶媒中、25℃で測定した固有粘度〔η〕(単位dl/g)は、好ましくは0.5〜2.0、更に好ましくは0.5〜1.5である、特に好ましくは0.5〜1.0である。また、熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート製ボトル等のリサイクル品の粉砕物も使用できる。
【0011】
(A)成分の使用量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量%に対して、40〜99質量%であり、好ましくは60〜95質量%、更に好ましくは65〜90質量%である。40質量%未満では、耐熱性が劣り、99質量%を超えると耐衝撃性が劣り好ましくない。
【0012】
(B)ゴム強化スチレン系樹脂
本発明の(B)成分であるゴム強化スチレン系樹脂は、(b1)ゴム質重合体の存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体からなり、必要に応じて、(b2)ゴム質重合体の非存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物及び芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体を(共)重合してなる(共)重合体を含有する。なお、本明細書において、「(共)重合」は、単独重合及び/又は共重合を意味する。
なお、(b1)成分は、通常、ビニル単量体がゴム質重合体にグラフト重合してなるグラフト体と、ゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト体(上記(b2)成分と実質的に同じ)とを含む。
【0013】
上記(b1)で用いられるゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、少なくとも1個のスチレン重合体ブロックと少なくとも1個のブタジエン重合体ブロックからなる重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体等のブタジエン系(共)重合体、該ブタジエン系(共)重合体の水素添加物、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ブテン−非共役ジエン共重合体、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、シリコーン−アクリル系IPNゴム等が挙げられ、これらは1種単独、または2種以上組み合わせて使用できる。
これらのうち、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、ブタジエン系(共)重合体の水素添加物、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、アクリルゴム、及びシリコーンゴムが好ましい。
【0014】
(B)成分に含まれるゴム質重合体の量は、(B)成分全体を100重量%として、5〜85質量%が好ましく、更に好ましくは10〜80質量%、特に好ましくは20〜80質量%である。
【0015】
上記(b1)及び(b2)で用いられる芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、臭素化スチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられ、これらは、1種単独で、または2種以上を組合わせて使用できる。これらのうち、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
上記(b1)及び(b2)で用いられる芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、ビニルシアン化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、水酸基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等の官能基含有不飽和化合物が挙げられる。
【0016】
ビニルシアン化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
マレイミド化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。また、このマレイミド化合物は、無水マレイン酸を共重合させ、その後イミド化する方法で導入してもよい。
【0017】
カルボキシル基含有不飽和化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
酸無水物基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
エポキシ基含有不飽和化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
水酸基含有不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
【0018】
置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N−メチルアクリルアミン、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、p−アミノスチレン等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組合わせて使用できる。
オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられ、これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて使用できる。
【0019】
(b1)及び(b2)のいずれにおいても、本発明の目的を達成する上で好ましい単量体の組み合わせは、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物を必須成分として含む単量体の組み合わせである。この場合、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の好ましい使用比率(質量比)は、芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物=60/40〜90/10である。
【0020】
また、好ましい(B)成分の態様としては、(B)成分の1〜100質量%、好ましくは5〜80質量%、特に好ましくは5〜50質量%が、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、オキサゾリン基、及び置換または非置換のアミノ基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基が導入された変性物である態様が挙げられる。上記官能基の内、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基が好ましく、特に好ましくはエポキシ基、カルボキシル基である。
【0021】
この変性物は、例えば、(b1)成分調製時、即ちゴム質重合体存在下に重合されるビニル単量体中に上記官能基含有不飽和化合物を存在させることにより調製でき、また、(b2)成分調製時、即ちゴム質重合体非存在下に重合するビニル単量体中に上記官能基含有不飽和化合物を存在させることによって調製できる。その際、当該官能基含有不飽和化合物は、使用するビニル単量体総量の1〜30質量%の範囲で用いることが好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の材料強度、成形品表面外観をより向上させる目的から、(b1)成分調製時、即ちゴム質重合体存在下に重合されるビニル単量体中に上記官能基含有不飽和化合物を存在させることにより調製された変性物が好ましい。
また、上記変性物を含有する(B)成分は、上記官能基の分散性を向上させる目的から、非変性物と変性物とを個別に調製した後、両者を混合する方法によって製造することが好ましい。例えば、ビニル単量体中に上記官能基含有不飽和化合物を存在させてゴム質重合体存在下又は不存在下に乳化重合を行いラテックス(B1)を調製し、別途、ビニル単量体中に上記官能基含有不飽和化合物を存在させずにゴム質重合体存在下又は不存在下に乳化重合を行いラテックス(B2)を調製した後、両ラテックス(B1)及び(B2)をラテックスブレンドして回収することにより、上記変性物を含有する(B)成分を製造できる。ラテックスブレンドする際の上記ラテックス(B1)と(B2)の割合は、(B1)の固形分/(B2)の固形分=5/95〜95/5(質量比)の範囲が好ましく、更に好ましくは15/85〜70/30、特に好ましくは20/80〜60/40の範囲である。また、上記ラテックスブレンドで得られた組成物に、官能基を有さない(b1)及び/又は(b2)を添加することもできる。
【0022】
(B)成分は、公知の重合法である乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及びこれらを組み合わせた重合法で重合することができる。
なお、(B)成分を重合する際の各成分の添加方法は、ゴム質重合体の全量の存在下にビニル単量体を一括添加する方法でもよく、または、分割もしくは連続的に添加する方法でもよく、さらには、これらを組み合わせた方法でもよい。
乳化重合で(B)成分を重合する場合、使用される重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、水等は、公知のものが全て使用できる。
重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサオイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシモノカーボネート等が挙げられる。また、重合開始助剤として、各種還元剤、含糖ピロリン酸・鉄処方、スルホキシレート処方等のレドックス系を用いることもできる。
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、テトラエチルチウラムスルフィド、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2−エチルヘキシルチオグリコール、ターピノーレン類等が挙げられる。
乳化剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸金属塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、ロジン酸塩、燐酸塩等のアニオン系界面活性剤、さらには、公知のノニオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0023】
乳化重合では、通常、凝固剤等により凝固して得た粉末を水洗、乾燥することによって、目的の重合体粉末が得られる。この際の凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機塩や、硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸等の酸を用いることができる。また要求される性能に応じて、凝固後にアルカリ成分を添加し中和処理した後、洗浄してもよく、また酸成分を添加し中和処理した後、洗浄してもよい。
【0024】
乳化重合で得たゴム質重合体をゴム強化スチレン系樹脂のベースゴムとして使用する場合、ゴム質重合体中のゲル含率は、通常、98質量%以下であり、30〜98質量%であることが好ましく、更に好ましくは40〜95質量%、特に好ましくは50〜90質量%である。ゲル含率が30〜98質量%において、優れた破壊強度及び成形品表面外観を有する成形品を与える熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
なお、上記ゲル含率は、トルエン100mlにゴム質重合体1gを投入し、室温で48時間静置したのち、100メッシュ金網(質量W)で濾過してトルエン不溶分と金網を80℃で6時間真空乾燥して秤量(質量W)し、次式(1)により算出される値である。
【0025】
ゲル含率=〔{W(g)−W(g)}/1(g)〕×100 (1)
【0026】
ゲル含率は、ゴム質重合体製造時に、分子量調節剤の種類、量、多官能性単量体の種類、量、重合温度、重合体転化率などを適宜設定することにより調整することができる。
【0027】
溶液重合で(B)成分を製造する場合、溶液重合において用いられる溶媒は、通常のラジカル重合で使用される不活性重合溶媒であり、例えば、エチルベンゼン、ジクロルメチレン、トルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、ジクロルメチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。重合温度は、80℃〜140℃の範囲が好ましい。
【0028】
溶液重合に際し、重合開始剤を使用せずに熱重合してもよく、または、重合開始剤を用いて重合してもよい。ここで使用される重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物が好ましく用いられる。
連鎖移動剤としては、例えば、メルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン類等が用いられる。
また、これらの重合開始剤、連鎖移動剤等は、塊状重合、塊状・懸濁重合でも好ましく用いられる。
【0029】
(B)成分であるゴム強化スチレン系樹脂中に分散するグラフトされたゴム質重合体の平均粒子径は500〜30000Åの範囲にあることが、破壊強度及び剛性の面から好ましく、更に好ましくは1000〜20000Å、特に好ましくは1500〜8000Åである。
【0030】
ゴム質重合体存在下にビニル単量体を重合して得られるゴム強化スチレン系樹脂成分((b1)成分)のグラフト率は、好ましくは20〜200質量%、更に好ましくは25〜150質量%、特に好ましくは30〜120質量%である。このグラフト率(%)は、次式(2)により求められる。
【0031】
グラフト率(質量%)={(T−S)/S}×100…(2)
【0032】
上記式中、Tはアセトン(ただし、ゴム質重合体がアクリルゴムである場合、アセトニトリル)20mlに(B)成分1gを投入し、振とう機にて2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23000rpm)で60分遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sは(B)成分1(g)に含まれるゴム質重合体の質量(g)である。
【0033】
また、(b1)成分のアセトン可溶分(ただし、ゴム質重合体がアクリルゴムである場合、アセトニトリル可溶分)の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを用い、30℃で測定)は、0.2〜1.2dl/gが好ましく、更に好ましくは0.3〜1.0dl/gである。
尚、グラフト率、極限粘度〔η〕及び上記平均粒子径は、(b1)成分を製造する際の、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や使用量、更には、重合時間、重合温度等を変化させることにより容易に制御することができる。
【0034】
ゴム質重合体非存在下にビニル単量体を重合して得られる重合体((b2)成分)も、公知の重合法である、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合及びこれらを組合わせた重合法で製造することができ、これらの重合法で用いられる試薬等についても、前記したものが全て使用できる。
(b2)成分の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを用い、30℃で測定)は、0.2〜1.2dl/gが好ましく、更に好ましくは0.3〜1.0dl/gである。
この極限粘度〔η〕は、上記(b1)成分の場合と同様、各種の製造条件を変化させることにより制御することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の(B)成分の割合は、(A)成分と(B)成分の合計量を100質量%に対して、1〜60質量%、好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは、10〜35質量%である。1質量%未満では耐衝撃性が劣り、60質量%を超えると耐熱性が劣る。
【0035】
(C)ポリエーテルポリエステル樹脂
本発明の(C)成分として使用するポリエーテルポリエステル樹脂は後述するような単量体A、単量体B、単量体Cからなる。
単量体Aは、1)炭素数4〜20のジカルボン酸、2)炭素数4〜20のジカルボン酸のエステル形成性誘導体、または3)前記1)と2)の混合物である。中でもテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及びこれらのエステル形成性誘導体が好ましい。
単量体Bは1)炭素数2〜10のアルキレンジオール、2)炭素数6〜10のシクロヘキサンジオール、または3)前記1)と2)の混合物である。中でもエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが好ましい。
単量体Cは炭素数2〜4のオキシアルキレン単位を構成単位とするポリオキシアルキレン基を有する数平均分子量400〜10000のポリアルキレンジオールである。中でもポリオキシアルキレン基がオキシエチレン単位のみ、若しくはオキシエチレン単位とオキシプロピレン単位を構成単位とするものが好ましい。
単量体A〜Cの使用割合は、単量体A〜Cの合計を100質量%として、単量体Aが15〜37.5質量%、単量体Bが15〜37.5質量%、単量体Cが25〜70質量%である。
【0036】
本発明の(C)成分中には有機スルホン酸型界面活性剤を含有してもよく、有機スルホン酸型界面活性剤としては公知のものを適用できる。中でもアルキル基の炭素数が8〜24であるアルキルスルホン酸塩、アルキル基の炭素数が6〜18であるアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。また、ポリエーテルポリエステル中に含有される有機スルホン酸型界面活性剤の割合は0〜30重量%、好ましくは0〜25重量%である。
【0037】
本発明の(C)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、より好ましくは10〜40質量部、更により好ましくは10〜35質量部、特に好ましくは12〜30質量部である。1質量部未満では制電性が発現せず、50重量部超過では曲げ強度、剛性が劣る。
【0038】
(D)フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオンを有する塩
本発明の(D)成分であるフッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオンを有する塩とは、フッ素化アルキルスルホニル基を1以上備えてなるアニオンと適当なカチオンとからなる塩を意味する。アニオン中に含まれるフッ素化アルキルスルホニル基としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸などのフッ素化された低級アルキルスルホニル基、特に、パーフルオロアルキルスルホニル基などが挙げられる。(D)成分を構成するアニオンとしては、トリフルオロメタンスルホン酸自体の他、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドなどの一以上の好ましくは複数のトリフルオロメタンスルホニル基で水素原子が置換されたメチド、アンモニア等の誘導体が挙げられる。成分(C1)を構成するカチオンとしては、代表的には、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が挙げられる。(D)成分の具体例としては、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドカリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドカリウム及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドナトリウム等が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい(D)成分は、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムである。
上記(D)成分は、そのまま使用することもできるし、溶液として使用することもできるし、更にエーテル結合を有する重合体に事前に配合して使用することもできる。
(D)成分を溶解させる溶剤として特に好ましいものは、水、または下記式(3)で示される化合物であり、最も好ましくは下記式(3)で示される化合物である。
【0039】
【化1】

【0040】
〔一般式(3)中、Xは炭素数2〜8からなるアルキレン基、芳香族基を含む二価の炭化水素基、または二価の脂環式炭化水素基、Rは同一または異なり炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基、Aは同一または異なり炭素数2〜4のアルキレン基を示し、nは同一または異なり1〜7の整数である。〕
【0041】
一般式(3)の化合物は、例えば分岐脂肪族アルコール1モルに、炭素数2〜4のアルキレンオキシドを1〜7モル付加して得られるアルコールと、ニ塩基酸とを原料として、一般的なエステル化合物の製造方法によって製造することが出来る。
ここで、上記アルコールの例としてはプロパノール1モルにエチレンオキシド1〜7モル、プロピレンオキシド1〜4モル、またはブチレンオキシド1〜3モル、ブタノールにエチレンオキシド1〜6モルまたはプロピレンオキシド1〜3モル、ヘキサノールにエチレンオキシド1〜2モル、ペンタノールにエチレンオキシド1〜5モル、プロピレンオキシド1〜3モル、またはブチレンオキシド1〜2モル、オクタノールにエチレンオキシド1〜5モル、ペンタノールにエチレンオキシド1〜5モル、プロピレンオキシド1〜3モル、またはブチレンオキシド1〜2モル、プロピレンオキシド1〜3モル、またはブチレンオキシド1〜3モル、ノナノールにエチレンオキシド1〜4モル、プロピレンオキシド1〜2モル、またはブチレンオキシド1〜2モルを、それぞれ、付加させたヒドロキシル化合物が挙げられる。
なお、これらの化合物の中でブタノール1モルにエチレンオキシド2モルを付加させた2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール、ブタノール1モルにエチレンオキシド1モルを付加させた2−ブトキシエタノールが加工性とのバランスに良い。
また、上記ニ塩基酸としては、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、コハク酸などのカルボン酸、およびこれらのカルボン酸無水物などが挙げられる。
上記一般式(3)で表される化合物として好ましいものは、Rが末端にヒドロキシ基を有さないアルキル基であるものである。特に好ましくはビス〔2−(2ブトキシエトキシ)エチル〕アジペート(アジピン酸ジブトキシエトキシエチル)、またはビス(2−ブトキシエチル)フタレートである。
上記一般式(3)で表される化合物は、(C)成分100質量部に対し10質量部以上、好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20重量部以上、特に好ましくは20〜60質量部の範囲で使用される。10質量部より少ないと耐熱性に劣り好ましくない。
本発明の(D)成分を上記一般式(3)で表される化合物に溶解する場合の濃度は、好ましくは0.1〜80質量%、更に好ましくは1〜60質量%の範囲である。
また、エーテル結合を有する重合体としては、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等をエポキシ基等の官能基で変性したもの、更にポリオレフィンブロックとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体、及び本発明の(C)成分等がある。
本発明の(D)成分の溶液は、三光化学工業社製サンコノール0862−20R、0862−13T、0862−10T、AQ−50T(商品名)等として、また、マスターバッチとしては、同じく三光化学工業社製サンコノールTBX−25(商品名)等として入手することができる。
(D)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し0.1〜5質量部、好ましくは0.4〜4質量部、更に好ましくは0.7〜3質量部である。0.1質量部未満では耐熱性、及び制電性が不足し、5質量部超過では剛性、及び耐熱性が低下する。
【0042】
(E)無機充填剤
本発明の(E)成分である無機充填剤は、タルク、及びタルク以外の無機充填剤である。
(E1)タルク
本発明の(E1)成分であるタルクは、本発明の(A)成分の結晶化剤の1つとして作用するものである。したがって、本発明の(E)成分はタルクを含有することが好ましい。タルクの平均粒子径は、10μm以下のものが好ましく、更に好ましくは7μm以下、特に好ましくは1〜5μmの平均粒子径のものである。これらのタルクは、例えば日本タルク株式会社製ミクロエース、SGシリーズ(商品名)として入手出来る。
【0043】
本発明の(E1)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは0.3〜15質量部、更に好ましくは0.5〜15質量部、特に好ましくは1.0〜10質量部である。0.1質量部未満では、耐熱性が劣り、20質量部を超えると強度が低下する。
【0044】
(E2)タルク以外の無機充填材
本発明で使用されるタルク以外の無機充填材としては、ガラス繊維、ガラス繊維のミルドファイバー、ガラスビーズ、中空ガラス、ガラスフレーク、炭素繊維、炭素繊維のミルドファイバー、ワラストナイト、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー、アタパルジャイト、マイカ等が挙げられ、これらは、1種単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらの内、ガラスファイバー、ガラスフレークが好ましい。このような無機充填材の配合により、耐熱性、強度、剛性が向上する。
【0045】
本発明の(E2)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、5〜150質量部、好ましくは10〜125質量部、更に好ましくは15〜100質量部である。5質量部未満では、耐熱性及び剛性が劣り、150質量部を超えると成形品表面外観が劣るため好ましくない。
尚、繊維状充填材のみ使用した場合、異方性が強まり成形品の反りが問題となることがある。こうした場合、板状充填材として上記マイカ、ガラスフレーク等を併用することにより解決を図ることが出来る。板状充填材の重量平均フレーク径は10〜300μm以下が好ましく、特に好ましくは30〜250μm以下である。300μを超えると外観が劣るため好ましくなく、10μmより小さいと反り抑制効果が小さくなるため好ましくない。
本発明の(E)成分全体の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して5〜150質量部、好ましくは10〜120質量部、更に好ましくは15〜100質量部、特に好ましくは30〜100質量部である。5質量部未満では、耐熱性が劣り、150質量部を超えると外観が低下する場合がある。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、プレス成形、シート押出成形、異形押出成形、発泡成形、真空成形等の公知の成形法により、成形品とすることができる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる各種成形品は、塗装、メッキ、スパッタリング、溶着等の二次加工を施して使用できる。
【0047】
これらの成形法で成形された成形品としては、下記のものが例示される。
各種ギア、各種ケース、センサー、LEPランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ部品、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶FDDキャリッジ、FDDシャーシー、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーデイオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声器部品、照明部品、冷蔵庫部品などに代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話機器関連部品、ファクシミリー関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具関連部品;便座、タンクカバー、ケーシング、台所回りの部品、洗面台関連部品、浴室関連パーツ等のサニタリー関連部品;窓枠、家具、床材、壁材等の住宅・住設関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器・精密機器関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種バルブ;エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウオーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイパーハーネス、ウインドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁弁用コイルボビン、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローラー、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース;パソコン、プリンター、ディスプレイ、CRTディスプレイ、ノートパソコン、携帯電話、PHS、DVDドライブ、PDドライブ、フレキシブルディスクドライブ等の記憶装置のハウジング、シャーシー、リレー、スイッチ、ケース部材、トランス部材、コイルボビン等の電気・電子機器部品;バンパー、フェンダー等の車両用外装部材、ICトレイ、ICキャリヤー、液晶トレイ等、その他各種用途。
【0048】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、公知の耐候(光)剤、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤、シリコーン化合物、可塑剤、着色剤、染料、抗菌剤、防黴剤、ハロゲン化ポリスチレン、ハロゲン化スチレンの重合体、ハロゲン化エポキシ重合体、(縮合)リン酸エステル等で代表される難燃剤、三酸化アンチモン等で代表される難燃助剤等を適宜配合できる。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、更に他の重合体である芳香族ビニル化合物を含まないビニル系単量体の(共)重合体(例えば、メタクリル酸メチル重合体、メタクリル酸メチル・フェニルマレイミド共重合体等)、芳香族ポリカーボネート等を本発明の熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して1〜30質量部の範囲で配合することができる。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フェーダールーダー等により、各成分を混練することにより調製することができる。好ましい製造方法は、押出機を用いる方法で、二軸押出機を用いることが特に好ましい。
二軸押出機を用いて本発明の熱可塑性樹脂組成物を得るに当たり、各々の成分を一括して混練する他、多段、分割配合して混練してもよい。また、本発明の(E)成分は、押出機途中から添加することが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、実施例中において部及び%は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例、比較例中の各種測定は、下記の方法に拠った。
【0052】
〔1〕 評価方法
(1)ポリエチレンテレフタレートの固有粘度〔η〕:上記のとおり。
(2)ゴム質重合体のゲル含率:上記のとおり。
(3)ゴム質重合体の平均粒子径:
(B)成分の形成に用いるゴム質重合体の平均粒子径を光散乱法で測定した。測定機は、大塚電子社製、LPA−3100型を使用し、70回積算でミュムラント法を用いた。なお、(B)成分中の分散粒子の粒子径は、ラテックス粒子径とほぼ同じであることを電子顕微鏡で確認した。
(4)重合体含率:
ラテックス約1gをアルミ皿に秤量し、120℃の乾燥器で1時間乾燥した。1時間後、アルミ皿を取出し、デシケータ中で室温まで徐冷した後、秤量し、重合体含率を計算した。
(5)ゴム質重合体存在下にビニル単量体を重合して得た重合体のグラフト率(B成分):上記の通り。
(6)(b1)成分のアセトン可溶分および(b2)成分の極限粘度〔η〕:上記のとおり。
(7)耐熱性(熱変形温度)
ISO75試験法に準拠して1.8MPa荷重で測定した。
【0053】
(8)制電性
直径100mm、厚み2mmの円板状シートを射出成形し、23℃、50%RH条件下に24時間放置後の表面固有抵抗(No.1表面固有抵抗)を三菱化学社製ハイレスターUP MCP―HT450を用い、印加電圧500Vで測定した。
(9)制電持続性
上記(8)と同様の厚み2mmのシート成形品表面を水道水にて30秒間洗い流し、蒸留水にて置換した後、23℃×50%RHの恒温恒湿槽に24時間放置した。上記(8)の方法で表面固有抵抗(No.2表面固有抵抗)を求めた。
No.1表面固有抵抗とNo.2表面固有抵抗から持続性を下記の如く評価した。
○;No.2表面固有抵抗がNo.1表面固有抵抗と比較して同等、または低く、持続性を有する。
×;No.2表面固有抵抗がNo.1表面固有抵抗と比較して劣り、持続性が劣る。
(10)強度、並びに剛性
ISO178試験法に準拠し、曲げ強度、並びに剛性として曲げモジュラスを測定した。
(11)成形品表面外観
厚み2.4mm×巾50mm×長さ50mmの平板を成形し、下記評価基準で目視評価した。
◎:成形品表面の凹凸がほとんどない
○:成形品表面の凹凸が小さい
△:成形品表面の一部で、凹凸が大きい
×:成形品表面の凹凸が大きい。
(12)耐衝撃性
ISO179試験法に準拠し、耐衝撃性を測定した。
【0054】
〔2〕熱可塑性樹脂組成物の成分
(1)(A)成分
ポリエチレンテレフタレート樹脂;三菱化学社製ノバペックス GV200(商品名)(固有粘度0.60)を用いた。
【0055】
(2)(B)成分:
(2−1)製造例B1−1;エポキシ基変性ゴム強化スチレン系樹脂B1−1
攪拌機を備えた内容積7Lのガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水155部、ポリブタジエンラテックス(平均粒径;2700Å、ゲル含率;95%)70部(固形分)を添加し、攪拌を開始した。内温が65℃になるまで昇温し、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.008部、硫酸第一鉄(7水和物)0.002部、ソディウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2部、イオン交換水15部からなる水溶液を添加した後、クメンハイドロパーオキサイド0.05部及びスチレン20部、アクリロニトリル6部、グリシジルメタクリレート4部、ロジン酸カリウム0.1部、イオン交換水30部からなる乳濁液を4時間かけて連続的に添加し重合反応を行った。その間内温は、65℃に保った。更に、2時間攪拌を続けた後冷却し、2,2´−メチレン−ビス(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し重合を完結し、エポキシ基変性ゴム強化スチレン系樹脂B1−1のラテックスを得た。サンプリングし、重合体含率、グラフト率及びアセトン可溶部の極限粘度を測定した。
重合体含率は33%、グラフト率32%、極限粘度0.35dl/gであった。
【0056】
(2−2)製造例B1−2;アクリロニトリル−スチレン共重合体B1−2
製造例B1−1と同じ反応容器を用い、イオン交換水163部、ロジン酸カリウム0.3部を添加し、攪拌を開始するとともに、昇温した。内温が65℃になった時点で、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.01部、硫酸第一鉄(7水和物)0.0025部、ソディムホルムアルデヒドスルホキシレート0.28部、イオン交換水10部からなる水溶液を添加した。t−ドデシルメルカプタン0.35部、クメンハイドロパーオキサイド0.12部、及びスチレン75部、アクリロニトリル25部からなる混合単量体を6時間かけて連続的に添加し内温を65℃に保ちながら重合反応を行った。単量体添加開始から1時間後にロジン酸カリウム0.4部を添加し、3時間後にエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.025部、硫酸第一鉄(7水和物)0.006部、ソディムホルムアルデヒドスルホキシレート0.07部、イオン交換水2.5部からなる水溶液を添加した。6時間後、上記3時間後に添加した重合開始助剤とクメンハイドロパーオキサイド0.05部を添加し、更に2時間攪拌を続けて、アクリロニトリル−スチレン共重合体B1−2のラテックスを得た。冷却後、サンプリングし、重合体含率及び極限粘度を測定した。重合体含率35%、極限粘度は0.36dl/gであった。
【0057】
(2−3)製造例B1:ゴム強化スチレン系樹脂B1成分
上記エポキシ基変性ゴム強化スチレン系樹脂B1−1とアクリロニトリル−スチレン共重合体B1−2の各ラテックスを固形分で50/50部の比率にてブレンドし、その後、塩化カルシウムを用いて、凝固、水洗、脱水、乾燥し、B1成分を得た。
【0058】
(3)(C)成分
C1:竹本油脂社製のポリエーテルポリエステルTEP018(商品名:ポリエチレングリコール成分を50wt%含有するブロック共重合体)を用いた。
C2:竹本油脂社製のポリエーテルポリエステルTEP004(商品名:ポリエチレングリコール成分を50wt%含有するブロック共重合体とアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの混合物)を用いた。
【0059】
(4)(D)成分
三光化学工業社製サンコノール 0862−10T(商品名) (アジピン酸ジブトキシエトキシエチルを溶媒とするトリフルオロメタンスルホン酸リチウム含有量10%の溶液)
を用いた。
【0060】
(5)(E)成分
E1:日本タルク社製超微粉タルク SG200(商品名)(平均粒子径3.2μm)を用いた。
E2:ガラス繊維;旭ファイバーグラス社製 CS03MA419(商品名)を用いた。
E3:ガラスフレーク;日本板硝子社製 REFG301(商品名)を用いた。
【0061】
実施例1〜11、比較例1〜7
表1及び2記載の成分(D、E成分以外)を十分に乾燥したのち、表1及び2記載の配合割合でヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(シリンダー設定温度250℃)で溶融混練してペレット化した。また(D)成分および(E)成分は、押出機途中から添加混練した。得られたペレットは除湿乾燥機で十分に乾燥し、射出成形機(シリンダー設定温度250℃、金型温度80℃)で耐衝撃性、耐熱性、制電性、制電持続性、強度、剛性、及び成形品表面外観評価用に各試験片を成形した。
上記、各成形品を用い、前記の方法で評価し評価結果を表1及び2に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1及び2に示される結果から、以下のことが明らかである。
実施例1は、(D)成分を所定量含有するため、制電性に優れている。実施例2は、(D)成分に加えて所定量のタルクを含有するため、制電性に加えて耐熱性に優れている。実施例3〜11は、(D)成分に加えて所定量のタルク以外の無機充填材を含有するため、制電性に加えて耐熱性、剛性及び強度に優れている。
これに対し、比較例1及び2は、(D)成分が配合されておらず、制電性に劣る。また、比較例3は、耐熱性に劣る。比較例4は、(D)成分の配合量が本発明の範囲よりも多いため、剛性が劣る。比較例5は、(C)成分が配合されておらず、制電性が劣る。比較例6は、(C)成分の配合量が本発明の範囲よりも多いため、剛性が劣る。比較例7は、(A)成分と(B)成分の配合量が本発明の範囲外であるため、剛性と耐熱性が劣る。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂40〜99質量%、
(B)ゴム強化スチレン系樹脂1〜60質量%、
上記(A)成分及び(B)成分を含有してなり(但し、上記(A)成分と(B)成分の合計は100質量%)、
更に、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、
(C)ポリエーテルポリエステル樹脂1〜50質量部、および、
(D)フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオンを有する塩0.1〜5質量部
を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
更に、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、
(E)無機充填材5〜150質量部を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記(A)成分の80質量%以上が、エチレンテレフタレート単位からなるポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
上記(B)成分の少なくとも一部が、官能基で変性されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
上記(D)成分が、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、及びトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。




【公開番号】特開2007−91778(P2007−91778A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279377(P2005−279377)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】