説明

熱可塑性樹脂組成物及び成形品

【課題】芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物が有する本来の特性(耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性)を損なうことなく、成形加工時の流動性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ビニル単量体単位を構成成分として含む熱可塑性樹脂(A)10〜99質量%、及び芳香族ビニル単量体単位を構成成分として含まない熱可塑性樹脂(B)90〜1質量%からなる熱可塑性樹脂混合物100質量部と、芳香族ビニル単量体(c1)0.5〜99.5質量%、及び特定の(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)0.5〜99.5質量%を含む単量体組成物を重合して得られる重合体(C)を前記熱可塑性樹脂混合物100質量部に対して0.1〜9質量部を含有する、熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物が有する本来の特性(耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性)を損なうことなく、成形加工時の流動性に優れた熱可塑性樹脂組成物、及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、射出成形等の成形方法により成形品が得られることから、電気・電子機器関連製品、自動車関連製品等、幅広い用途で使用されている。また、熱可塑性樹脂の特徴を活かす観点から、各種の熱可塑性樹脂のアロイ化(熱可塑性樹脂の混合)が検討されており、熱可塑性樹脂の成形加工性の向上、機械的特性の向上が図られている。
例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性等に優れることから、OA機器部品、機械部品、光学機器部品、容器等の幅広い用途で使用されている。しかし、成形加工時の流動性が劣ることから、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)のようなスチレン系樹脂とのアロイ化により流動性を向上させ、成形加工性が良好な材料として、その用途を広げている。
【0003】
近年、各種部品の軽量化を目的として、成形品に対して薄肉化の要求がなされている。この場合、熱可塑性樹脂には、従来よりも高度な流動性が要求される。
熱可塑性樹脂の流動性を向上させるため、芳香族ポリカーボネート樹脂においては、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端を変性する方法(特許文献1)、脂肪族ポリカーボネート樹脂を導入する方法(特許文献2)が提案されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2で提案されている方法では、芳香族ポリカーボネート樹脂の成形加工時の流動性を改善できたとしても、得られる成形品の耐熱性が低下するという問題点がある。
特許文献1及び2で提案されている芳香族ポリカーボネートを用いて、他の熱可塑性樹脂とのアロイ化を行なった場合にも、得られる成形品の耐熱性が低下するという問題は解決されない。
【特許文献1】特開2001−208917号公報
【特許文献2】特開2001−215336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物が有する本来の特性(耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性)を損なうことなく、成形加工時の流動性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物に対して、芳香族ビニル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる重合体を配合することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物が有する本来の特性を損なうことなく、成形加工時の流動性を向上させることが可能であることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、芳香族ビニル単量体単位を構成成分として含む熱可塑性樹脂(A)10〜99質量%、及び芳香族ビニル単量体単位を構成成分として含まない熱可塑性樹脂(B)90〜1質量%からなる熱可塑性樹脂混合物100質量部と、芳香族ビニル単量体(c1)0.5〜99.5質量%、及び下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)0.5〜99.5質量%を含む単量体組成物を重合して得られる重合体(C)を前記熱可塑性樹脂混合物100質量部に対して0.1〜9質量部を含有する。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していてもよいフェニル基である。)
また、本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、成形加工時の流動性良く、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物の本来の特性(耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性)を有する成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物の本来の特性(耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性)を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
また、本発明書において、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0010】
本発明の、芳香族ビニル単量体単位を構成成分として含む熱可塑性樹脂(A)は、特に限定されるものではなく、ゴム質重合体(A1)の単独、硬質重合体(A2)の単独、又はゴム質重合体(A1)と硬質重合体(A2)の併用でもよい。
ゴム質重合体(A1)としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体(SB)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリル共重合体(ASA)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体(AES)、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS)、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン共重合体(MAS)が挙げられる。
ゴム質重合体(A1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
硬質重合体(A2)としては、例えば、ポリスチレン(PS)、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン共重合体(MAS)、スチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA)が挙げられる。
硬質重合体(A2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
これらの中では、芳香族ポリカーボネート(PC)との相溶性に優れることから、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)が好ましい。
【0013】
本発明の、芳香族ビニル単量体単位を構成成分として含まない熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、芳香族ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のエステル系樹脂;メタクリル酸メチル重合体(PMMA)、メタクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂;6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド;ポリウレタン;シリコーン樹脂;ポリアリレート;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリアミドイミド;ポリアセタール;ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー等のエラストマーが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
これらの中では、耐熱性及び耐衝撃性に優れることから、芳香族ポリカーボネート(PC)が好ましい。
芳香族ポリカーボネートの分子量は、溶媒として塩化メチレンを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、14000〜40000が好ましく、16000〜30000がより好ましく、18000〜26000がさらに好ましい。また、これらの芳香族ポリカーボネートの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂混合物は、熱可塑性樹脂(A)10〜99質量%、及び熱可塑性樹脂(B)90〜1質量%からなる。
熱可塑性樹脂混合物中の、熱可塑性樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の含有率が前記の範囲であれば、得られる成形品は、電気・電子機器関連製品、自動車関連製品等の幅広い用途で使用可能な機械的特性を発現する。
【0016】
本発明の重合体(C)は、芳香族ビニル単量体(c1)0.5〜99.5質量%、及び下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)0.5〜99.5質量%を含む単量体組成物を重合して得られる。
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していてもよいフェニル基である。)
【0017】
芳香族ビニル単量体(c1)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、流動性の向上効果が高いことから、スチレン、α−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸ジブロモフェニル、(メタ)アクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸モノクロルフェニル、(メタ)アクリル酸ジクロルフェニル、(メタ)アクリル酸トリクロルフェニルが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中では、芳香族ポリカーボネートに対する相溶性が高く、耐剥離性を有することから、メタクリル酸フェニルが好ましい。
【0019】
単量体組成物中での、芳香族ビニル単量体(c1)の含有率は0.5〜99.5質量%であり、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)の含有率は0.5〜99.5質量%である。
単量体組成物中での、芳香族ビニル単量体(c1)の含有率が0.5質量%以上であれば、熱可塑性樹脂混合物に対する相溶性が過度に向上せず、流動性の向上効果が発現する。単量体組成物中での、芳香族ビニル単量体(c1)の含有率が99.5質量%以下であれば、熱可塑性樹脂混合物に対する相溶性が過度に低下せず、成形品の層状剥離が生じない。
単量体組成物中での、芳香族ビニル単量体(c1)の含有率の下限は50質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。単量体組成物中での、芳香族ビニル単量体(c1)の含有率の上限は95質量%が好ましく、90質量%がより好ましい。
【0020】
単量体組成物中での、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)の含有率が0.5質量%以上であれば、熱可塑性樹脂混合物に対する相溶性が過度に低下せず、成形品の層状剥離が生じない。単量体組成物中での、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)の含有率が99.5質量%以下であれば、熱可塑性樹脂混合物に対する相溶性が過度に向上せず、流動性の向上効果が発現する。
単量体組成物中での、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)の含有率の下限は5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。単量体組成物中での、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)の含有率の上限は50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。
【0021】
本発明の重合体(C)は、芳香族ビニル単量体(c1)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)、及び他の単量体(c3)を含む単量体組成物を重合して得られる重合体であってもよい。
他の単量体(c3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル;安息香酸ビニル、酢酸ビニル、無水マレイン酸が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の重合体(C)の質量平均分子量は、5000〜200000であることが好ましい。
質量平均分子量が5000以上であれば、相対的に低分子量物の含有率が低下するため、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性や機械的特性を低下させることがない。また、成形加工時に発煙、ミスト等が発生せず、成形品に外観不良が生じない。質量平均分子量が200000以下であれば、重合体(C)自体の溶融粘度が高くなりすぎず、十分な流動性の向上効果が発現する。
【0023】
本発明の重合体(C)を得るための重合方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられるが、回収が容易であることから乳化重合法、懸濁重合法が好ましい。
【0024】
重合体(C)は、重合前の単量体組成物における各単量体の混合比(質量%)と、重合後の重合体における各単量体単位の含有率(質量%)が一致していることが好ましい。
このような重合体を得るには、単量体組成物の重合率を90%以上とすることが好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。重合率が90%以上であれば、重合前の単量体組成物における各単量体の混合比(質量%)と、重合後の重合体における各単量体単位の含有率(質量%)はほぼ一致する。また、得られた重合体を回収する際に未反応の単量体を、精製により除去する必要がなく好ましい。
【0025】
本発明の重合体(C)は、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物に対して、成形加工時(溶融混練時)には、相分離挙動を示して流動性の向上効果を発現し、成形品の実使用温度領域では、適度な相溶性を発現する。
そのため、本発明の重合体(C)を配合すれば、熱可塑性樹脂混合物が有する本来の特性(耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性)を損なうことなく、成形加工時の流動性を従来にない高いレベルまで向上させることができる。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂混合物100質量部と、重合体(C)を熱可塑性樹脂混合物100質量部に対して0.1〜9質量部を含有する。
熱可塑性樹脂組成物中の重合体(C)の含有量が、熱可塑性樹脂混合物100質量部に対して0.1質量部以上であれば、熱可塑性樹脂組成物は十分な流動性を発現する。熱可塑性樹脂組成物中の重合体(C)の含有量が、熱可塑性樹脂混合物100質量部に対して9質量部以下であれば、熱可塑性樹脂混合物が有する本来の特性(耐衝撃性等の機械的特性、耐熱性)を損なうことなく、十分な流動性を発現させることができる。
熱可塑性樹脂組成物中の重合体(C)の含有量は、熱可塑性樹脂混合物100質量部に対して0.5〜6質量部であることが好ましい。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、充填剤、染顔料、可塑剤、強化剤、帯電防止剤、離型剤等を配合してもよい。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)、重合体(C)、及び必要に応じて各種の添加剤を配合して、混練することにより得られる。
混練方法としては、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単純スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、2本ロール、ニーダー、ブラベンダーを用いた公知の方法が挙げられる。
混練された熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形等の公知の成形方法により、成形することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中の「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
また、各実施例、比較例での諸物性の測定は次の方法による。
【0030】
(1)重合率
ガスクロマトグラフィーを用い、重合体(C)を試料とした。測定により得られた重合体(C)のガスクロマトグラムから各単量体の残存量を求め、重合体(C)の重合率を算出した。
【0031】
(2)質量平均分子量
ゲル浸透クロマトグラフィーを用い、重合体(C)を試料とした。標準ポリスチレンによる検量線を用い、重合体(C)の質量平均分子量を求めた(溶媒:クロロホルム)。
【0032】
(3)溶融粘度
Rosand社製 キャピラリーレオメーター RH7を用い、熱可塑性樹脂組成物のペレットを試料とした。測定温度260℃、L/D=16/1、剪断速度1000/秒及び10000/秒で測定した。
【0033】
(4)衝撃強度
射出成型機(「KM50B」:川口鉄工(株)製)を用いて、熱可塑性樹脂組成物のペレットを成形し、成形体を得た。得られた成形体から、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの試験片を作成し、切削加工によりV型ノッチを入れた。JIS K−7110に準じて、23℃、0℃、−30℃でアイゾット衝撃強度を測定した。
【0034】
(5)曲げ特性
射出成型機(「KM50B」:川口鉄工(株)製)を用いて、熱可塑性樹脂組成物のペレットを成形し、成形体を得た。得られた成形体から、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの試験片を作成した。JIS K−7171に準じて、試験速度3mm/分、支点間距離100mmの条件で曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
【0035】
(6)荷重たわみ温度
曲げ特性の測定と同様の試験片を作成した。JIS K−7191に準じて、荷重1.81MPaの条件で荷重たわみ温度を測定した。
【0036】
(製造例1)
重合体(C)の製造
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、下記の乳化剤水溶液を仕込み、窒素雰囲気下で、内温を80℃まで昇温させた。
乳化剤水溶液:
アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」:花王(株)製、固形分28%)
(固形分)1.0部
脱イオン水 290部
【0037】
次いで、下記の還元剤水溶液を添加した。
還元剤水溶液:
硫酸第一鉄 0.0001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.0003部
ロンガリット 0.3部
脱イオン水 5部
【0038】
次いで、下記の単量体混合物を3時間かけて滴下した。その後、加熱攪拌を1時間継続して重合を終了し、重合体(C)ラテックスを得た。得られた重合体(C)の重合率は、98%であった。
単量体混合物:
スチレン 87.5部
フェニルメタクリレート 12.5部
n−オクチルメルカプタン 0.2部
t−ブチルハイドロパーオキサイド 0.2部
【0039】
0.7%硫酸水溶液300部を70℃に加温して攪拌した。ここに、重合体(C)ラテックスを滴下して、重合体(C)の凝析を行なった。
凝析物を分離洗浄後、75℃で24時間乾燥し、重合体(C)を得た。重合体(C)の質量平均分子量(Mw)は99000であった。
【0040】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
製造例1で得られた重合体(C)を、下記の熱可塑性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)、及びその他の成分と共に、表1に示す割合で配合した。配合物を二軸押出機(「TEM−35」:東芝機械(株)製)に供給して280℃で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
熱可塑性樹脂(A)
ABS:ゴム含量60%のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体
AS :分子量約10万のアクリロニトリル−スチレン共重合体
熱可塑性樹脂(B)
PC1:ユーピロンS2000F(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)
PC2:タフロンFN1700A(出光石油化学(株)製)
その他
強化剤:メタブレンC−223A(三菱レイヨン(株)製)
【0041】
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを用い、諸物性の評価を行なった。評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1で明らかなように、ABSとPC1の混合物100部に対して、重合体(C)を3部又は5部配合した実施例1又は2は、重合体(C)を配合していない比較例1に対して、溶融粘度が低下して、成形加工時の流動性が向上している。
ABSとPC1の混合物100部に対して重合体(C)を10部配合した比較例2は、比較例1に対して溶融粘度が低下しているが、−30℃での衝撃強度及び荷重たわみ温度が低下しており、ABSとPC1の混合物が有する本来の特性を損なっている。
【0044】
ASとPC2の混合物100部に対して、重合体(C)を3部又は5部、及び強化剤を3部配合した実施例3又は4は、重合体(C)を配合していない比較例3に対して、溶融粘度が低下して、成形加工時の流動性が向上している。
ASとPC2の混合物100部に対して重合体(C)を10部、強化剤を3部配合した比較例4は、比較例3に対して溶融粘度が低下しているが、23℃での衝撃強度及び荷重たわみ温度が低下しており、ASとPC2の混合物が有する本来の特性を損なっている。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形加工時の流動性に優れ、芳香族ポリカーボネート樹脂を含有する熱可塑性樹脂混合物の本来の特性を有することから、耐衝撃性等の機械的特性及び耐熱性に優れた成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、耐衝撃性等の機械的特性及び耐熱性に優れることから、電気・電子機器関連製品、自動車関連製品等、幅広い用途で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位を構成成分として含む熱可塑性樹脂(A)10〜99質量%、及び芳香族ビニル単量体単位を構成成分として含まない熱可塑性樹脂(B)90〜1質量%からなる熱可塑性樹脂混合物100質量部と、
芳香族ビニル単量体(c1)0.5〜99.5質量%、及び下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(c2)0.5〜99.5質量%を含む単量体組成物を重合して得られる重合体(C)を前記熱可塑性樹脂混合物100質量部に対して0.1〜9質量部を含有する、熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは置換基を有していてもよいフェニル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2008−297322(P2008−297322A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141405(P2007−141405)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】