説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】熱安定性に優れた熱可塑性樹脂を提供する。
【解決手段】熱安定剤として、水酸基を120〜2000μmol/g有し30℃において0.5g/dlの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が0.04〜0.25dl/gであるポリフェニレンエーテル(A)を熱可塑性樹脂(B)100重量部に対して0.03〜3重量部含有する熱可塑性樹脂組成物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、電気絶縁性、機械的諸性質、耐薬品性に優れ、低比重でありその優れた成形加工性から日用品、家電製品、事務機、工業部品といった様々な用途に用いられているが、射出成型、圧縮成型、ブロー成型などにより成形加工されることから、熱を受けた材料が劣化しないことが求められ、熱安定剤を添加して使用されることが多い。例えば、ゴム補強されたポリスチレンの場合、一般にヒンダードフェノール系化合物である2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングルコール−N−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート等が熱安定剤として使用される。これらのヒンダードフェノール系熱安定剤はポリブタジエン系ゴムに対して優れた効果を発揮することが知られており、特にゴム補強されたスチレン系樹脂組成物の熱安定剤として広く使用されているが、それらの熱安定剤は一般に分子量が小さく、耐熱性を低下させるだけでなく加工時に揮発性ガスが発生することが懸念されてきた。またメタクリル系樹脂の場合も有用な熱安定剤がなく、成型温度等を管理することが必要となっている。
【0003】
一方、ポリフェニレンエーテルは、射出成型用途においては単独で使用されることはなく他樹脂とブレンドしたポリマーアロイとして展開されてきた。特にポリスチレン樹脂とのブレンドでは全ての比率において完全に相溶するため様々な比率で製造販売されている。熱安定性に優れたポリフェニレンエーテル樹脂組成物としてポリフェニレンエーテルとポリスチレン樹脂の樹脂組成物が特許文献1に記載されている。しかしこの樹脂組成物においては、熱安定剤として2,6−ジターシャリブチル−4−メチルフェノールとビス(2,6−ジ−ターシャリーブチル−4−メチルフェニル)エンタエリツトール−ジ−フォスファイトを添加することが記載されている。用いられているポリフェニレンエーテルも固有粘度η=0.4と比較的分子量が大きく、含有量もポリフェニレンエーテルとポリスチレン樹脂の合計100重量部に対して5〜85重量部と熱安定剤として使用される量より多い。
【0004】
また、還元粘度η(sp/c)0.07〜0.30の低分子量ポリフェニレンエーテルの製造方法が特許文献2に開示されており、低分子量ポリフェニレンエーテルのブレンド組成物に関して流動性がよいためブレンドすることが容易であること、及びそれらを他の樹脂に混ぜることにより得られるブレンド組成物が極めて優れた特性を発揮することを見出したとの記述がある。しかしブレンド組成物が特定されておらず、また優れた特性に関しての詳細の記述はない。
【特許文献1】特許第3473628号公報
【特許文献2】特公昭50−6520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱安定性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ある特定濃度の水酸基を有するポリフェニレンエーテルを熱可塑性樹脂に少量添加することにより、熱可塑性樹脂の物性を変化させることなく熱安定性を向上させることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.熱安定剤として、水酸基を120〜2000μmol/g有するポリフェニレンエーテル(A)を熱可塑性樹脂(B)100重量部に対して0.03〜3重量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物
2.ポリフェニレンエーテル(A)の30℃において0.5g/dlの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が0.04〜0.25dl/gであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物
3.熱可塑性樹脂(B)が芳香族モノビニル系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物
4.熱可塑性樹脂(B)がメタクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により熱安定性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において熱安定剤として用いられるポリフェニレンエーテル(A)は、水酸基を120〜2000μmol/g有することが必要であり、好ましくは300〜1500μmol/g、より好ましくは400〜1000μmol/gである。本発明のポリフェニレンエーテル(A)は分子鎖末端にフェノール性水酸基を有するが、片末端または両末端に水酸基を有してもよい。さらに水酸基は分子鎖末端にある水酸基に限定するものではなく、分子鎖中に存在するものも含む。1分子鎖あたりの水酸基数が同じである場合低分子量である方が水酸基濃度は高くなり、水酸基濃度120〜2000μmol/gを有するためには必然的分子量は比較的低分子量となる。通常射出成型用途等に使用されているポリフェニレンエーテルは分子量が比較的大きいため一般的に水酸基を100μmol/g以下で有している。水酸基、特に分子鎖末端のフェノール性水酸基はラジカルをトラップする効果を持つと推測され、水酸基を120〜2000μmol/gで有するポリフェニレンエーテルは熱安定剤としての効果を発揮する。
【0009】
本発明のポリフェニレンエーテル(A)としては、フェノール単独重合体または共重合体である。本発明で用いることのできるポリフェニレンエーテル単独重合体の具体例として、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられる。ポリフェニレンエーテル共重合体の具体例として、2,6−ジメチルフェノールと他の1価フェノール類(例えば2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−メチルブチルフェノール)、2,6−ジメチルフェノールと2価のフェノール類(例えばテトラメチルビスフェノールA)との共重合体等が挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとテトラメチルビスフェノールAとの共重合体が好ましく使用できる。
【0010】
一般にポリフェニレンエーテルを製造する方法としては、米国特許第3306875号、同第3344116号、同第3432466号の各明細書、特公昭36−18692号公報、特公昭60−34571号公報、特開昭62−39628号公報を始め多くの製法が提案されている。低分子量のポリフェニレンエーテルを製造する場合は、重合時に分子量を制御する方法や、高分子量のポリフェニレンエーテルをフェノール性化合物、過酸化物等とを混合し、加熱、反応させる方法を用いることができる。
本発明のポリフェニレンエーテル(A)は分子鎖中に官能基を含有しても良く、また本発明の効果を損なわない範囲で水酸基を官能基、官能基を持つ樹脂等で変性しても良い。官能基としては例えばビニル基、アリル基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水基、エステル基、水酸基、アミノ基、アミド基、イミド基等が挙げられ、これらから選ばれる1つ、または2つ以上を含むことができる。官能基を持つ樹脂としてはエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0011】
本発明のポリフェニレンエーテル(A)は、30℃において0.5g/dlの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が0.04〜0.25dl/gであり、好ましくは0.04〜0.18dl/g、より好ましくは0.06〜0.13である。水酸基を120μmol/g有し、かつ還元粘度(ηsp/c)が0.04〜0.25dl/gの範囲であるポリフェニレンエーテルは、最も効果的に熱安定剤としての効果を有する。
本発明のポリフェニレンエーテル(A)は熱可塑性樹脂(B)100重量部に対して0.03〜3重量部添加することが必要であり、好ましくは0.05〜1.5重量部、より好ましくは0.05〜0.8重量部である。含有量が0.03〜3重量部の範囲であれば、熱可塑性樹脂の耐熱性、機械的特性を変化させることなく熱分解温度を上昇させ熱安定性を付与することができる。また本発明のポリフェニレンエーテル(A)は熱分解開始温度も450℃と高い熱安定性を有していることから、熱分解して揮発性ガスを発生させることもない。
【0012】
本発明のポリフェニレンエーテル(A)は、ヒンダードフェノール系安定剤等その他の熱安定剤と併用して使用することが可能である。特にゴム補強されたポリスチレンの場合、本発明のポリフェニレンエーテル(A)はポリスチレンの熱分解温度を上昇させ、ヒンダートフェノール系化合物は、ゴムの熱安定性を向上させるため有効である。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂(B)としては、芳香族モノビニル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、芳香族ポリエステル、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではない。その中でも芳香族モノビニル系樹脂、メタクリル系樹脂が好ましい。本発明において用いられる熱可塑性樹脂は1種に限られるものではなく、2種以上混合して用いることも可能である。
【0013】
本発明で用いる芳香族モノビニル系樹脂は、原料として用いる芳香族モノビニル系単量体としてはスチレン単独のみならず、スチレンと共重合可能な他のビニル系単量体とスチレンとの混合物を挙げることができる。スチレンと共重合可能な他のビニル系単量体として、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルメタクリレート、ハロゲン含有ビニルモノマー、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、アクリロニトリル等があり、これらの1種以上を用いることができる。また芳香族モノビニル量体からなる樹脂は、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ニトリルゴム、天然ゴム等をゴム成分として含んでいてもよい。
【0014】
本発明で用いるメタクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル単独重合体、またはメタクリル酸メチルと他の共重合可能なビニル基を持つ単量体の混合物の共重合体である。共重合体可能な単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イゾプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、スチレン等のビニル化合物、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物、シクロヘキスルマレイミド、フェニルマレイミド等のマレイミド化合物などが挙げられる。
【0015】
本発明の芳香族モノビニル系樹脂、メタクリル系樹脂の製造法は特に限定されず、既存の重合法で製造することができる。
また本発明の樹脂組成物の製造方法は特に限定されない。ヘンシェルミキサー、タンブラー、ブレンダー等でブレンド後、押出機、ニーダー等で溶融混練する方法が一般的に用いられる。ポリフェニレンエーテルを高濃度で熱可塑性樹脂にブレンド、溶融してペレットを得た後、マスターバッチとして熱可塑性樹脂に添加する方法も用いられる。
また本発明の樹脂組成物には、難燃剤、各種安定剤、染顔料、充填剤を必要に応じて添加することができる。
【実施例】
【0016】
<ポリフェニレンエーテル>
[合成例1]
・ポリフェニレンエーテル−1
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、0.2512gの塩化第二銅2水和物、1.1062gの35%塩酸、3.6179gのジ−n−ブチルアミン、9.5937gのN,N,N‘,N’−テトラメチルプロパンジアミン、211.63gのメタノール及び493.80gのn−ブタノールおよび180.0gの2.5モル%の2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを含む2,6−ジメチルフェノールを入れた。溶媒の組成重量比はn−ブタノール:メタノール=70:30である。次いで激しく攪拌しながら反応器へ180ml/minの速度で酸素をスパージャーより導入を始めると同時に、重合温度は40℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。重合液は次第にスラリーの様態を呈した。重合中、反応器に付着は観測されなかった。酸素を導入し始めてから120分後、酸素の通気をやめ、得られた重合混合物にエチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)の10%水溶液を添加し、50℃に温めた。次いでハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のポリフェニレンエーテルが白色となるまで、50℃での保温を続けた。終了後、濾過して、濾残の湿潤ポリフェニレンエーテルを50%の水を含むメタノール洗浄溶媒に投入し、60℃で攪拌を行った。続いて再び濾過し、濾残に50%の水を含むメタノールをふりかけ洗浄し湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。次いで110℃で真空乾燥しポリフェニレンエーテル−1を得た。還元粘度ηsp/c0.115、水酸基600μmol/g
【0017】
[合成例2]
・ポリフェニレンエーテル−2
使用した溶媒の全量は変えずに組成重量比をn−ブタノール:メタノール=30:70とし,フェノール化合物を2,6−ジメチルフェノールを用いた以外は合成例1と同様の方法でポリフェニレンエーテル2を得た。還元粘度ηsp/c0.085、水酸基420μmol/g
【0018】
[合成例3]
・ポリフェニレンエーテル3
使用した溶媒の全量は変えずに組成重量比をキシレン:n−ブタノール:メタノール=60:20:20とし、洗浄溶媒としてメタノールを用い、フェノール化合物を2,6−ジメチルフェノールを用いた以外は合成例1の方法でポリフェニレンエーテル3を得た。還元粘度ηsp/c0.476、水酸基60μmol/g
【0019】
[還元粘度(ηsp/c)]
ポリフェニレンエーテルを0.5g/dlのクロロホルム溶液として、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。単位はdl/gである。
【0020】
[水酸基数]
高分子論文集、vol.51、No.7(1994)、480ページ記載の方法に従い、ポリフェニレンエーテルの塩化メチレン溶液にテトラアンモニウムハイドロオキシド溶液を加えたときの318nmにおける吸光度変化を紫外可視吸光光度計で測定を行い、算出した。
【0021】
<芳香族モノビニル系樹脂>
ゴム補強ポリスチレン(PSジャパン(株)製 PSJ−ポリスチレンH9407)
<メタクリル樹脂>
メタクリル酸メチル・アクリル酸メチル共重合体(旭化成ケミカルズ(株)製 デルペット80NH)
<ヒンダートフェノール系化合物>
n−オクタデシル−3−(3,5ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製 イルガノックス1076)
<熱分解温度>
島津製作所製TGA−50にて窒素雰囲気下20℃/分で昇温し熱重量変化を測定し、5%と10%重量が減少した温度を熱分解温度とした。
【0022】
[実施例1〜5および比較例1〜4]
表1に示す組成割合で配合し、混合し、30mmφの単軸押出機(石川鉄工株式会社 HS−30)を用いて200℃で溶融混練しペレタイズした。得られたペレットを用いて、熱分解温度の測定を行った。
【0023】
【表1】

【0024】
本発明に規定されたポリフェニレンエーテルを所定量配合することにより、熱可塑性樹脂の熱分解温度が上昇していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂が使用される日用品、家電製品、事務機、工業部品といった様々な用途に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱安定剤として、水酸基を120〜2000μmol/g有するポリフェニレンエーテル(A)を熱可塑性樹脂(B)100重量部に対して0.03〜3重量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリフェニレンエーテル(A)は30℃において0.5g/dlの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が0.04〜0.25dl/gであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(B)が芳香族モノビニル系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(B)がメタクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−274011(P2006−274011A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94603(P2005−94603)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】