説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐加水分解性、耐化学薬品性、および耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ基含有ビニル系共重合体樹脂1〜97.9質量%;(B)ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂1〜97.9質量%;(C)ポリエステル樹脂1〜97.9質量%;および(D)非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル0.1〜97質量%を含む(ただし、(A)〜(D)の合計は100質量%)、熱可塑性樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関する。より具体的には、エポキシ基含有ビニル共重合体樹脂、ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂および非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステルを含み、耐加水分解性、耐化学薬品性、および耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(以下、単に「ABS樹脂」とも称する)は、ブタジエンゴムに、スチレンおよびアクリロニトリルがグラフトされた共重合体(以下、単に「g−ABS」とも称する)が、マトリックス重合体であるスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(以下、単に「SAN」とも称する)に分散された樹脂である。ABS樹脂は、加工性、耐衝撃性、強度、および溶融強度に優れており、かつ着色性および光沢に優れ、美しい外見が要求される各種の電気、電子および雑貨部品に広く用いられている。ABS樹脂を、ミキサー、洗濯機、扇風機などのモーターの駆動による反復的な応力を受ける電気電子製品の内外装材に適用する場合、応力に対する耐久性が必要とされるため、優れた耐衝撃性を有しながら、酢酸やディーゼル油などの強い化学薬品に対する耐性をも有することが要求されている。
【0003】
一方、ポリエステル樹脂は、分枝鎖の長さが短く、簡単には撓まない構造を有する。よって、剛性、電気的性質、耐候性、および耐熱性に優れ、高温に長時間曝されても引張強度の低下が非常に少ない。また、結晶性プラスチックに属するため、ディーゼル油などの化学薬品に対する耐性に優れる。しかしながら、ポリエステル樹脂は結晶性を有するため、加工性および耐衝撃性劣るという問題がある。したがって、ポリエステル樹脂を構造材として用いるためには、ガラス繊維などの補強剤を添加する必要があり、補強剤を用いない場合は、射出成形によって製造される構造材として用いることが難しい。また、ポリエステル樹脂は、溶融強度が低く、フィルム押出成形を除いて、厚いシートやパイプなどの押出成形ではその使用が制限されている。
【0004】
耐化学薬品性および耐衝撃性に優れる熱可塑性樹脂組成物を製造する方法として、ABS樹脂とポリエステル樹脂とをアロイ化する方法が提示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリエステルが、高温条件下で水分により分解されるという問題があり、乾燥条件および成形条件によってABS樹脂とポリエステル樹脂とのポリマーアロイの物性が低下するという問題がある。そのため、ABS樹脂とポリエステル樹脂とをアロイ化した熱可塑性樹脂組成物の場合、乾燥条件および成形条件が難しいという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、耐加水分解性、耐化学薬品性、および耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)エポキシ基含有ビニル系共重合体樹脂1〜97.9質量%;(B)ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂1〜97.9質量%;(C)ポリエステル樹脂1〜97.9質量%;および(D)非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル0.1〜97質量%(ただし、(A)〜(D)の合計は100質量%)を含む。
【0008】
また、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐加水分解性、耐化学薬品性、および耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0011】
(A)エポキシ基含有ビニル系共重合体樹脂
本発明で用いられるエポキシ基含有ビニル系共重合体樹脂(A)は、不飽和エポキシ化合物(A)とビニル化合物(A)とを含む単量体混合物を重合して、不飽和エポキシ基が共重合体内に存在するように重合して製造された樹脂である。前記単量体混合物は、不飽和エポキシ化合物(A)0.01〜5.0モル%と、ビニル化合物(A)99.99〜95.0モル%(ただし、(A)と(A)の合計は100モル%)とを含むことが好ましい。前記単量体混合物は、不飽和エポキシ化合物(A)0.1〜5.0モル%と、ビニル化合物(A)99.9〜95.0モル%(ただし、(A)と(A)の合計は100モル%)とを含むことがより好ましい。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、エポキシ基含有ビニル系共重合体樹脂(A)の含有量は、1〜97.9質量%である。該含有量は、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは15〜60質量%、さらに好ましくは20〜40質量%である。前記の範囲であれば、耐化学薬品性、耐衝撃性、耐加水分解性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0013】
以下、前記不飽和エポキシ化合物(A)および前記ビニル化合物(A)について説明する。
【0014】
(A)不飽和エポキシ化合物
エポキシ基含有ビニル系共重合体に用いられる不飽和エポキシ化合物(A)は、下記化学式1で表される化合物であることが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
前記化学式(1)中、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されているかもしくは非置換のC〜C12の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、C〜C14のアリール基、C〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリール基、またはC〜C12のアルケニル基で置換されているC〜C14のアリール基であり、
は、水素原子、置換されているかもしくは非置換のC〜C12の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、C〜C14のアリール基、C〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリール基、C〜C12のアルケニル基で置換されているC〜C14のアリール基、カルボキシル基、または−CHCOOH基であり、
Xは、0または1であり、
Yは、エーテル基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、C〜C12のアルキレン基、C〜C14のアリーレン基、またはC〜C12のアルキル基で置換されているC〜C14のアリーレン基であり、
前記Yが、エーテル基、オキシカルボニル基、またはカルボニルオキシ基である場合、RおよびRは、それぞれ独立して、単結合、C〜C12のアルキレン基C〜C14のアリーレン基、またはC〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリーレン基であり、
前記YがC〜C12のアルキレン基、C〜C14のアリーレン基、またはC〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリーレン基である場合、RおよびRは単結合である。
【0017】
〜C12の直鎖状または分枝状のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、3,7−ジメチルオクチル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、1−エチルノニル基、またはn−ドデシル基などが挙げられる。
【0018】
〜C14のアリール基の例としては、例えば、フェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、テトラヒドロナフチル基などが挙げられる。
【0019】
〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリール基の例としては、例えば、メチルフェニル基、エチルフェニル基などが挙げられる。
【0020】
〜C12のアルケニル基で置換されたC〜C14のアリール基の例としては、例えば、アリルフェニル基、メタリルフェニル基などが挙げられる。
【0021】
〜C12のアルキレン基の例としては、例えば、エチレン基、n−プロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基などが挙げられる。
【0022】
〜C14のアリーレン基の例としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、ペンタレニレン基、インデニレン基、1−ナフチレン基、2−ナフチレン基、テトラヒドロナフチレン基、アズレニレン基などが挙げられる。
【0023】
〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリーレン基の例としては、例えば、メチルフェニル基、エチルフェニル基などが挙げられる。
【0024】
前記不飽和エポキシ化合物(A)は、より好ましくは、エポキシアルキルアクリレート、アリルグリシジルエステル、アリールグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ブタジエンモノオキサイド、ビニルグリシジルエーテル、およびモノグリシジルイタコネートからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0025】
前記不飽和エポキシ化合物(A)は、後述のビニル化合物(A)との単量体混合物の形態で、単量体混合物の全モル数に対して、好ましくは0.01〜5モル%含有される。0.01モル%未満の場合には耐衝撃性の向上効果が少ない場合があり、5モル%を超える場合には、押出時にゲル化現象が生じる場合がある。単量体混合物中の前記不飽和エポキシ化合物(A)の含有量は、より好ましくは0.1〜5.0モル%、さらに好ましくは0.5〜5.0モル%、特に好ましくは1〜5モル%、最も好ましくは3〜5モル%である。
【0026】
(A)ビニル化合物
本発明のエポキシ基含有ビニル系共重合体(A)に用いられるビニル化合物(A)は、芳香族ビニル単量体(A21)および前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)を含む。
【0027】
前記芳香族ビニル単量体(A21)の具体的な例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらのうち、スチレンが最も好ましい。前記芳香族ビニル単量体(A21)は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0028】
前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)の例としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル単量体が好ましいが、これらに制限されるものではない。
【0029】
前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらのうち、より好ましくはアクリロニトリルである。
【0030】
前記芳香族ビニル単量体(A21)と、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)との比率は、ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)の成分中のゴムを除いた単量体の比率と相溶性とによって、適宜選択されうる。単量体混合物中の含有量は、好ましくは芳香族ビニル単量体(A21)の含有量が40〜90質量%であり、かつ前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)の含有量が10〜60質量%(ただし、(A21)と(A22)との合計は100質量%)である。より好ましくは、芳香族ビニル単量体(A21)の含有量が50〜80質量%であり、かつ前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)の含有量が20〜50質量%(ただし、(A21)と(A22)との合計は100質量%)である。さらに好ましくは、芳香族ビニル単量体(A21)の含有量が55〜80質量%であり、かつ前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)の含有量が20〜45質量%である。前記芳香族ビニル単量体(A21)の含有量が40質量%未満の場合には、粘度が急激に増加して最終製品の加工性が劣る場合があり、含有量が90質量%を超える場合には、強度が低下する場合がある。
【0031】
本発明のビニル化合物(A)は、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、C〜Cのアルキル基を有するアクリル酸エステル、C〜Cのアルキル基を有するメタクリル酸エステル、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、2−フェニルエチルアクリレート、2−フェニルエチルメタクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート;N−置換マレイミド;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびこれらの無水物;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、ビニルカルバゾール、ビニルアニリン、アクリルアミド、およびメタクリルアミドなどの単量体をさらに添加して、加工の容易性および/または耐熱性などの特性を付与することもできる。これらは、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0032】
前記加工の容易性および/または耐熱性を付与するための単量体の添加量は、ビニル化合物(A)の全質量に対して好ましくは0〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは2〜15質量%である。
【0033】
前記(A)成分と前記(A)成分とを重合させる方法は特に制限されず、公知の重合方法により製造されうる。
【0034】
(B)ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂
本発明に係るゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)は、芳香族ビニル重合体よりなるマトリックス(連続相)中に、ゴム状重合体が粒子の形態で分散して存在する樹脂である。前記ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)は、ゴム状重合体に、芳香族ビニル単量体および必要に応じて前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体を添加して重合される。このようなゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂は、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などの公知の重合方法により製造することができる。また、グラフト共重合体樹脂(B)とスチレン系共重合体樹脂(B)とを混合押出することによっても製造することができる。さらに、前記エポキシ基含有ビニル系共重合体樹脂(A)、ポリエステル樹脂(C)、および非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル(D)と、(B)成分および(B)成分とを一度に混合押出してもよい。
塊状重合の場合は、グラフト共重合体樹脂(B)とスチレン系共重合体樹脂(B)を別途に製造せず、1段階の反応工程のみでゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)を製造することができる。いずれの場合にも、最終的に得られるゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)中のゴム状重合体の含有量は、5〜30質量%であることが好ましい。
【0035】
本発明において、ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)と後述のポリエステル樹脂(C)とのアロイ化によって適切な物性を表すために、ゴム状粒子の大きさは、Z−平均値で0.1〜6.0μmであることが好ましく、0.25〜3.5μmであることがより好ましい。
【0036】
本発明で用いられるゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)を、グラフト共重合体樹脂(B)およびスチレン系共重合体樹脂(B)を共に用いて製造する場合、それぞれの相溶性を考慮して配合比を選択して配合することが好ましい。以下、グラフト共重合体樹脂(B)およびスチレン系共重合体樹脂(B)について説明する。
【0037】
(B)グラフト共重合体樹脂
本発明のグラフト共重合体樹脂は、ゴム状重合体、芳香族ビニル単量体、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体、および必要に応じて加工の容易性および/または耐熱性を付与する単量体を加え、これらをグラフト共重合させて製造することができる。
【0038】
前記ゴム状重合体の例としては、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム共重合体などのジエン系ゴム;前記ジエン系ゴムの二重結合を水素添加したゴム;イソプレンゴム;ポリブチルアクリレートなどのアクリルゴム;エチレン・プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)などを挙げることができる。これらのうち、ジエン系ゴムが好ましく、ブタジエンゴムがより好ましい。前記ゴム状重合体の含有量は、グラフト共重合体樹脂(B)の全質量に対して5〜65質量%が好ましい。前記ゴム粒子の平均粒径は、衝撃強度および外見を考慮して、Z−平均値で0.1〜6.0μmであることが好ましい。なお、本発明において、平均粒径は、後述の実施例に記載の方法により測定した値を採用するものとする。
【0039】
前記ゴム状重合体とグラフト共重合可能な単量体のうち、芳香族ビニル単量体の例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。これら芳香族ビニル単量体は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらのうち、スチレンがより好ましい。芳香族ビニル単量体の使用量は、グラフト共重合体樹脂(B)の全質量に対して好ましくは34〜94質量%である。
【0040】
本発明のグラフト共重合体樹脂(B)は、前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体を1種以上導入することができる。導入可能な単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物が好ましく、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。前記単量体の使用量は、グラフト共重合体樹脂(B)の全質量に対して好ましくは1〜30質量%である。
【0041】
前記加工の容易性および/または耐熱性を付与するための単量体の例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、およびN−置換マレイミドなどを挙げることができ、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。該単量体を使用する場合の使用量は、グラフト共重合体樹脂(B)の全質量に対して好ましくは0.1〜15質量%である。
【0042】
(B)スチレン系共重合体樹脂
本発明に係るスチレン系共重合体樹脂(B)は、前記グラフト共重合体樹脂(B)の成分中、ゴム状重合体を除いた単量体の比率と相溶性とを考慮して、製造される。前記スチレン系共重合体樹脂(B)は、スチレン系単量体、スチレン系単量体と共重合可能な単量体、および必要に応じて加工の容易性および/または耐熱性を付与する単量体を添加して共重合させて得ることができる。
【0043】
前記スチレン系単量体の例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレンなどが挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。これらのうち、スチレンがより好ましい。本発明において、前記スチレン系単量体の使用量は、前記スチレン系共重合体樹脂(B)の全質量に対して、好ましくは60〜90質量%である。
【0044】
前記スチレン系単量体と共重合可能な単量体の例としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル系化合物が好ましく、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。前記スチレン系単量体と共重合可能な単量体の使用量は、前記スチレン系共重合体樹脂(B)の全質量に対して好ましくは10〜40質量%である。
【0045】
前記加工の容易性および/または耐熱性を付与するための単量体の例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなどを挙げることができ、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。該単量体を使用する場合の使用量は、スチレン系共重合体樹脂(B)の全質量に対して、好ましくは0.1〜30質量%である。
【0046】
本発明で用いられるゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)の例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン共重合体樹脂(AAS樹脂)などが挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0047】
本発明で用いられるゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)は、前記グラフト共重合体樹脂(B)の含有量が10〜100質量%であり、かつ前記スチレン系共重合体樹脂(B)の含有量が0〜90質量%(ただし、(B)と(B)との合計は100質量%)であることが好ましい。前記ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)は、前記グラフト共重合体樹脂(B)の含有量が55〜90質量%であり、かつ前記スチレン系共重合体樹脂(B)の含有量が10〜45質量%(ただし、(B)と(B)との合計は100質量%)であることがより好ましい。前記ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)は、前記グラフト共重合体樹脂(B)の含有量が15〜45質量%であり、かつスチレン系共重合体樹脂(B)の含有量が55〜85質量%(ただし、(B)と(B)との合計は100質量%)であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の、ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)の含有量は、1〜97.9質量%である。該含有量は、10〜80質量%がより好ましく、20〜60質量%がさらに好ましく、30〜50質量%が特に好ましい。前記の範囲であれば、耐化学薬品性、耐衝撃性、および耐加水分解性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0049】
(C)ポリエステル樹脂
本発明で用いられるポリエステル樹脂は結晶性を有し、固有粘度が好ましくは0.3〜1.15g/dL、より好ましくは0.5〜1.0g/dLである。
【0050】
前記ポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステルを、炭素数が2〜12のジオールと重縮合させることにより得ることができ、これは、本発明が属する分野の通常の知識を有する者により容易に実施されうる。
【0051】
前記芳香族ジカルボン酸またはそのエステルの例としては、例えば、テレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチル−1,2−ナフタレート、ジメチル−1,5−ナフタレート、ジメチル−1,7−ナフタレート、ジメチル−1,7−ナフタレート、ジメチル−1,8−ナフタレート、ジメチル−2,3−ナフタレート、ジメチル−2,6−ナフタレート、ジメチル−2,7−ナフタレート、またはこれらの2種以上混合物などが挙げられる。
【0052】
前記炭素数が2〜12のジオールの例としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、またはこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0053】
前記ポリエステル樹脂(C)は、用途に応じて、無機粒子が通常の方法で混合されていてもよい。前記無機粒子の例としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化シリコン(SiO)、水酸化アルミニウム(Al(OH))などが挙げられ、これらは単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。前記無機粒子は、ポリエステル樹脂(C)の全質量に対して、好ましくは0.1〜30質量%の範囲で含まれうる。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のポリエステル樹脂(C)の含有量は、1〜97.9質量%である。97.9質量%を超える場合、衝撃強度および難燃性が低下する。該含有量は、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは20〜45質量%である。前記の範囲であれば、耐化学薬品性、耐衝撃性、および耐加水分解性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0055】
(D)非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル(以下、単に「PETG」とも称する)
本発明において、前記非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステルは非晶性であり、固有粘度が0.5〜1.0dl/gであることが好ましく、固有粘度が0.6〜0.8dl/gであることがより好ましい。
【0056】
前記非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステルは、ジカルボン酸成分とジオール成分とを縮重合することにより製造されうる。前記ジカルボン酸成分の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。前記ジオール成分としては、1,4−シクロヘキサンジメタノールを必須に含み、他のジオール成分と共に用いることができる。他のジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンチレングリコールなど、炭素数2〜5のアルキレングリコールが好ましく挙げられる。
【0057】
前記非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステルは、シクロアルカンジオール10〜80モル%、芳香族ジカルボン酸10〜80モル%および炭素数2〜5のアルキレングリコール10〜80モル%の共重合体である(ただし、シクロアルカンジオール、芳香族ジカルボン酸、および炭素数2〜5のアルキレングリコールの合計モル数は100モル%)ことが好ましい。
【0058】
前記非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステルは、1,4−シクロヘキサンジメタノール、テレフタル酸およびエチレングリコールの共重合体であることが好ましい。前記1,4−シクロヘキサンジメタノールの使用量は、ジカルボン酸のモル数に対して0.1〜99モル%であることが好ましく、より好ましくは20〜60モル%、さらに好ましくは25〜50モル%である。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル(D)の含有量は、0.1〜97質量%である該含有量は、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは2〜25質量%、さらに好ましくは4〜20質量%である。前記の範囲であれば、耐化学薬品性、耐衝撃性、および耐加水分解性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0060】
前記非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル(D)は、ジカルボン酸成分と、シクロアルカンジオールと、必要に応じて炭素数2〜5のアルキレングリコールとを重縮合させることにより得ることができ、これは、本発明が属する分野の通常の知識を有する者により容易に実施されうる。
【0061】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、本発明の構成成分と他の添加剤とを同時に混合した後、押出機内で溶融押出してペレット形態に製造することができる。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形前にペレットを100℃で3時間乾燥させ、乾燥させたペレットを射出成形して得られる厚さ1/8インチの試験片の、ASTM D256に記載の方法に準拠して測定したアイゾッド衝撃強度(I)が70kgf・cm/cm以上であり、かつ、前記(I)のアイゾッド衝撃強度の値と、射出成形前にペレットを80℃で1時間乾燥し、乾燥させたペレットを射出して得られる厚さ1/8インチの試験片の、ASTM D256に記載の方法に準拠して測定したアイゾッド衝撃強度(II)の値との差が±15kgf・cm/cm以下であることが好ましい。
【0063】
該アイゾッド衝撃強度の差は、±12kgf・cm/cm以下であることがより好ましい。
【0064】
乾燥方法は特に制限されず、オーブン、ホットプレート、減圧乾燥機、熱風乾燥機などを用いた、従来公知の方法が適宜採用されうる。
【0065】
前記の射出成形の条件は、後述の実施例に記載の条件であることが好ましい。
【0066】
前記の試験片の形状は、後述の実施例に記載のアイゾッド衝撃強度の測定に用いた試験片の形状であることが好ましい。
【0067】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、滴下防止剤、難燃剤、抗菌剤、離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、相溶化剤、染料、無機添加剤、界面活性剤、核剤、カップリング剤、充填剤、可塑剤、衝撃補強剤、着色剤、安定剤、滑剤、静電気防止剤、顔料、および防炎剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を添加することができる。前記無機添加剤の例としては、例えば、ガラス繊維、シリカ、タルク、セラミックなどが挙げられる。
【0068】
本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形した成形品を提供する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、様々の製品の成形に用いられることができる。特に、ミキサー、洗濯機、扇風機、加湿器などの電気・電子製品の外装材、コンピューターのハウジング、または他の事務用機器のハウジングなど、広範囲に適用可能である。また、成形方法も特に制限されず、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形などが挙げられる。
【実施例】
【0069】
本発明は、下記の実施例により、より一層理解できるであろう。下記の実施例は本発明の例示のために示すものであり、特許請求の範囲により定義される範囲を制限するものではない。なお、ゴム粒子の平均粒径は、Malvern社製のMastersizer S Ver 2.14を用いて、Z−平均値を測定した。
【0070】
(A)エポキシ基含有ビニル系共重合体の製造
(A−1)エポキシ基含有ビニル系共重合体(グリシジルメタクリレート0.7モル%含有−SAN)
グリシジルメタクリレート 0.7モル%、スチレン 74.3モル%およびアクリロニトリル 25モル%よりなる単量体混合物100質量部に対して、脱イオン水120質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、リン酸カルシウム0.4質量部、およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部を添加して、室温(23℃)から80℃まで60分間かけて昇温させた後、80℃を180分間維持し、エポキシ基含有スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(GMA−SAN)を製造した。これを水洗、脱水および乾燥して、粉末状のエポキシ基含有スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂を製造した。
【0071】
(A−2)エポキシ基含有ビニル系共重合体(グリシジルメタクリレート5.0モル%含有−SAN)
グリシジルメタクリレート5.0モル%、スチレン70モル%およびアクリロニトリル25モル%よりなる単量体混合物100質量部に、脱イオン水120質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、リン酸カルシウム0.4質量部、およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部を添加して、室温(23℃)から80℃まで60分かけて昇温させた後、80℃を180分間維持し、エポキシ基含有スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(GMA−SAN)を合成した。これを水洗、脱水および乾燥して、粉末状態のエポキシ基含有スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂を製造した。
【0072】
(A−3)エポキシ基含有ビニル系共重合体(グリシジルメタクリレート10.0モル%含有−SAN)
グリシジルメタクリレート10.0モル%、スチレン65モル%およびアクリロニトリル25モル%からなる単量体混合物100質量部に、脱イオン水120質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、リン酸カルシウム0.4質量部、およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部を添加して、室温(23℃)から80℃まで60分かけて昇温させた後、80℃を180分間維持し、エポキシ基含有スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(GMA−SAN)を合成した。これを水洗、脱水および乾燥して、粉末状のエポキシ基含有スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂を得た。
【0073】
(B)ゴム強化スチレン系共重合体樹脂
(B)グラフト共重合体樹脂
ブタジエンゴムラテックスの固形分50質量部、スチレン36質量部、アクリロニトリル14質量部、および脱イオン水150質量部の混合物に、オレイン酸カリウム1.0質量部、クメンハイドロパーオキサイド0.4質量部、t−ドデシルメルカプタン0.2質量部、ブドウ糖0.4質量部、硫酸鉄水和物0.01質量部、およびナトリウムピロホスフェート0.3質量部を添加し、75℃で5時間重合反応を行い、グラフト共重合体(g−ABS)ラテックスを製造した。製造された共重合体ラテックスの固形分量に対して0.4質量部の硫酸を添加して凝固させ、グラフト共重合体樹脂(g−ABS)を粉末状で得た。ゴム粒子の平均粒径は0.3μmであった。
【0074】
(B)スチレン系共重合体樹脂
スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部、および脱イオン水120質量部の混合物に、アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、リン酸カルシウム0.4質量部およびt−ドデシルメルカプタン0.2質量部を添加して、室温(23℃)から80℃まで90分かけて昇温させた後、80℃で180分間維持してスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)を製造した。これを水洗、脱水および乾燥して、粉末状のスチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)を製造した。
【0075】
(C)ポリエステル樹脂
(C−1)固有粘度が0.76dl/gであるポリエステル樹脂として、AnyChem社製のA1100を用いた。
【0076】
(C−2)固有粘度が0.72dl/gであるポリエステル樹脂として、三養社製のClear PET Flakeを用いた。
【0077】
(D)非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル
固有粘度0.8dl/gであり、1,4−シクロヘキサンジメタノールの含有量が、ジカルボン酸成分に対して25モル%であるSKケミカル社製のSKYGREEN(登録商標) S2008を用いた。
【0078】
(実施例1)
ヘンシェルミキサーに、上記の各成分を下記表1に記載した含有量で添加した後、熱安定剤(IRGANOX(登録商標)1076、Ciba Specialty Chemicals社製)0.3質量部を添加し、7分間均一に混合した。当該混合物を通常の二軸押出機で、押出温度250℃、スクリュー回転速度250rpm、組成物の供給速度30kg/hrで押出してペレットを製造した。製造したペレットを、熱風乾燥機を用いて、100℃、3時間乾燥した後、6オンス射出機で成形温度230℃、金型温度60℃の条件で射出して試験片を製造した。製造した試験片を23℃、相対湿度50%で40時間放置した後、アイゾッド衝撃強度および耐化学性を測定した。
【0079】
(実施例2〜10、比較例1〜9)
各構成成分を下記表1に記載された含有量で添加し、射出前の乾燥条件を変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で行った。
【0080】
【表1】

【0081】
上記表1中、射出成形前の乾燥温度を*で示している比較例7は、ゲル化したため押出不可であった。
【0082】
試験片の物性は、下記の方法により測定した。
【0083】
(1)アイゾッド衝撃強度:ASTM D256に記載の方法により1/8インチ厚さの試験片(縦64mm、横12.5mm)で評価した。最終の試験結果は五つの試験結果の平均値で計算した(kgf・cm/cm)。
【0084】
(2)耐化学薬品性:有機溶媒に対する耐性を評価するために、200mm×50mm×2mm(横×縦×高さ)の試験片を1/4楕円形治具に装着して有機溶媒を塗布し、24時間後にクラックが発生する程度について、下記数式1を用いてクラック発生時のひずみで評価した。用いられた有機溶媒は、塩基性洗剤として花王株式会社製のマジックリン(登録商標)、酸性洗剤として大日本除虫菊株式会社製のサンポール(登録商標)、産業用油はボッシュ(BOSCH)ブレーキフルードDOT4、芳香剤はフィトンチッド(Phytoncide)原液、食用油は、日清オイリオグループ株式会社製のサラダ油を用いた。
【0085】
【数1】

【0086】
(3)耐加水分解性:耐加水分解性は、射出前の乾燥条件による耐化学薬品性およびアイゾッド衝撃強度の差の値によって間接的に評価した。
【0087】
評価結果を表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
上記表2中、「NC」はクラックがないことを示す。また、比較例7は、上述の表1に示したように押出不可であった。
【0090】
耐加水分解性は、不完全な乾燥時(80℃で1時間乾燥)に、押出物内に残留する水分により、耐化学薬品性とアイゾッド衝撃強度とが影響を受ける程度で間接的に評価した。他の条件が同様な場合、完全に乾燥した時と比べて、不完全な乾燥時の耐化学薬品性およびアイゾッド衝撃強度がほとんど同等であれば耐加水分解性に優れると言え、差があれば耐加水分解性が劣ると言える。
【0091】
前記表2から分かるように、本発明の非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル(PETG)を含む熱可塑性樹脂組成物を用いた場合、不完全な乾燥時(実施例4〜9)であっても完全に乾燥された場合(実施例1および実施例2)であっても、アイゾッド衝撃強度および耐化学薬品性は大きな差がなかった。しかしながら、非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステルを含まない比較例の組成物では、不完全な乾燥時(比較例5、6、8)にアイゾッド衝撃強度および耐化学薬品性が著しく低下されることが分かる。
【0092】
本発明の単純な変形または変更は、この分野の通常の知識を有する者により容易に実施することができ、このような変形や変更は、すべて本発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ基含有ビニル系共重合体樹脂1〜97.9質量%;
(B)ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂1〜97.9質量%;
(C)ポリエステル樹脂1〜97.9質量%;および
(D)非晶性シクロアルカンジオール変性共重合ポリエステル0.1〜97質量%;
を含む(ただし、(A)〜(D)の合計は100質量%)、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ基含有ビニル系共重合体樹脂は、不飽和エポキシ化合物(A)0.01〜5.0モル%と、ビニル化合物(A)99.99〜95モル%とを含む単量体混合物(ただし、(A)と(A)の合計は100モル%)を共重合して得られる、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記不飽和エポキシ化合物(A)は、下記化学式1で表される化合物である、請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物:
【化1】

前記化学式(1)中、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、置換されているかもしくは非置換のC〜C12の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、C〜C14のアリール基、C〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリール基、またはC〜C12のアルケニル基で置換されているC〜C14のアリール基であり、
は、水素原子、置換されているかもしくは非置換のC〜C12の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、C〜C14のアリール基、C〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリール基、C〜C12のアルケニル基で置換されているC6〜C14のアリール基、カルボキシル基、または−CHCOOH基であり、
Xは、0または1であり、
Yは、エーテル基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、C〜C12のアルキレン基、C〜C14のアリーレン基、またはC〜C12のアルキル基で置換されているC〜C14のアリーレン基であり、
前記Yが、エーテル基、オキシカルボニル基、またはカルボニルオキシ基である場合、RおよびRは、それぞれ独立して、単結合、C〜C12のアルキレン基C〜C14のアリーレン基、またはC〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリーレン基であり、
前記YがC〜C12のアルキレン基、C〜C14のアリーレン基、またはC〜C12のアルキル基で置換されたC〜C14のアリーレン基である場合、RおよびRは単結合である。
【請求項4】
前記不飽和エポキシ化合物(A)は、グリシジル基と炭素数1〜12のアルキル基とを有するアクリル酸エステル、グリシジル基と炭素数6〜14のアリール基を有するアクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ブタジエンモノオキサイド、ビニルグリシジルエーテル、およびモノグリシジルイタコネートからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ビニル化合物(A)は、芳香族ビニル単量体(A21)40〜90質量%と前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)10〜60質量%とからなる(ただし、(A21)と(A22)との合計は100質量%)、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体(A22)は、不飽和ニトリル単量体である、請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)は、グラフト共重合体樹脂(B)10〜100質量%と、スチレン系共重合体樹脂(B)0〜90質量%(ただし、(B1)と(B)の合計は100質量%)とを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂(B)のゴム粒子の平均粒径は、Z−平均値で0.1〜6.0μmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリエステル樹脂(C)は、さらに無機粒子を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル(D)の固有粘度が0.5〜1.0dl/gである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル(D)は、1,4−シクロヘキサンジメタノールをジカルボン酸のモル数に対して0.1〜99モル%で含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル(D)は、1,4−シクロヘキサンジメタノールをジカルボン酸のモル数に対して20〜60モル%で含む、請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂組成物は、(A)エポキシ基含有ビニル共重合体樹脂10〜80質量%;(B)ゴム強化芳香族ビニル系共重合体樹脂10〜80質量%;(C)ポリエステル樹脂1〜60質量%;および(D)非晶性シクロアルカンジオール変性ポリエステル1〜30質量%(ただし、(A)〜(D)の合計は100質量%)を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂組成物は、射出成形前にペレットを100℃で3時間乾燥させ、乾燥させたペレットを射出成形して得られる厚さ1/8インチの試験片の、ASTM D256に記載の方法に準拠して測定したアイゾッド衝撃強度(I)が70kgf・cm/cm以上であり、かつ、
前記(I)のアイゾッド衝撃強度の値と、射出成形前にペレットを80℃で1時間乾燥し、乾燥させたペレットを射出して得られる厚さ1/8インチの試験片の、ASTM D256に記載の方法に準拠して測定したアイゾッド衝撃強度(II)の値との差が±15kgf・cm/cm以下である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項15】
滴下防止剤、難燃剤、抗菌剤、離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、相溶化剤、染料、無機物添加剤、界面活性剤、核剤、カップリング剤、充填剤、可塑剤、衝撃補強剤、着色剤、安定剤、滑剤、静電気防止剤、顔料、および防炎剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品。

【公開番号】特開2009−155646(P2009−155646A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330670(P2008−330670)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(308010354)第一毛織株式会社 (14)
【Fターム(参考)】