説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】電気・電子部品等の精密成形品に特に好適な、耐熱性と耐薬品性と成形性と機械強度と電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を提供すること。
【解決手段】(A)ポリフェニレンエーテル、(B)ポリアリールケトン及び(C)ポリアリレート、を含む熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、成形性、機械強度及び電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物からなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリフェニレンエーテルは機械的性質、電気的性質及び耐熱性に優れており、しかも寸法安定性にも優れるため幅広い用途で使用されているが、単独では成形加工性に劣るため、これを改良するためにポリスチレンを配合することが広く知られている。しかしながら、ポリスチレンを配合すると耐熱性や耐薬品性が低下するという問題があった。
特許文献1には、耐熱性を維持したままポリフェニレンエーテルの流動性を改良する技術として、液晶ポリエステルを配合する技術が開示されているが、耐衝撃性、耐薬品性の観点において十分ではなかった。
一方、ポリエーテルエーテルケトンに代表されるポリアリールケトンは、耐薬品性に特に優れたポリマーであるが、原料価格が非常に高価な上、樹脂自体のガラス転移温度が約140〜170℃程度と低いため、耐熱性等の改良が検討されてきた。また、ポリエーテルエーテルケトンの電気特性は、低周波数領域では、誘電率や誘電正接が低いという長所を有するが、近年の高密度実装に伴う高周波数領域での誘電率や誘電正接は十分とは言えなかった。
以上の背景のもと、耐熱性、耐薬品性、成形性、機械強度及び電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物が切望されているのが現状である。
【0003】
特許文献2には、ポリフェニレンエーテルに、ポリエーテルエーテルケトンをブレンドし、層状ケイ酸塩を分散させた樹脂組成物が開示されているが、ポリマーアロイとしての相間の界面密着力は十分とは言えず、また、それらに関する記載もない。
また、特許文献3には、ポリフェニレンエーテルに、結晶性樹脂をアロイ・ブレンドさせた樹脂組成物が開示されているが、結晶性樹脂としてポリエーテルエーテルケトンについての具体的な例示はなく、また、相間の界面密着力に関する記載もない。
さらに、特許文献4及び5には、ポリアリールエーテルケトンとポリアリレート樹脂をブレンドした樹脂組成物が開示されているが、使用しているポリアリールエーテルケトンは非晶質であり、また、ポリフェニレンエーテルについての記載もない。
またさらに、特許文献6には、ポリアリレートの難燃性や成形性を改良するために、ポリアリレートにポリエーテルエーテルケトンやポリフェニレンエーテルをブレンドした樹脂組成物が開示されているが、ポリエーテルエーテルケトンとポリフェニレンエーテルを組み合わせたアロイ・ブレンドついての具体的な記載はなく、また相間の密着力を向上させることについての具体的な記載もない。
【0004】
【特許文献1】特開昭56−115357号公報
【特許文献2】特開2003−335867号公報
【特許文献3】特開昭63−183954号公報
【特許文献4】特開平4−211451号公報
【特許文献5】特開平5−140442号公報
【特許文献6】特開昭62−169848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、ポリフェニレンエーテルとポリエーテルエーテルケトンをアロイ・ブレンドしようとしても、第3成分なしには、それらの相間の密着力は十分でないため剥離が生じ易くなり、樹脂組成物から得られる成形体の機械強度が不十分となる。従って、相間の界面密着力を向上させることにより、機械強度を改善した熱可塑性樹脂組成物が強く望まれている。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、電気・電子部品等の精密成形品に特に好適な、耐熱性、耐薬品性、成形性、機械強度及び電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ポリフェニレンエーテル、ポリアリールケトン及びポリアリレート含む熱可塑性樹脂組成物が、上記特性のバランスに優れた樹脂組成物及び成形体を得るために有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] (A)ポリフェニレンエーテル、(B)ポリアリールケトン及び(C)ポリアリレート、を含む熱可塑性樹脂組成物。
[2] 各成分の割合は、前記(A)成分1〜49質量部、前記(B)成分99〜51質量部、前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して前記(C)成分0.5〜45質量部、である、上記[1]記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3] 前記(B)成分は、ポリエーテルエーテルケトンである、上記[1]又は[2]記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4] 前記(C)成分は、下記一般式(1)で表される構造を含む樹脂である、上記[1]〜[3]のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

[5] 前記(A)成分が分散相を形成し、前記(B)成分が連続相を形成する、上記[1]〜[4]のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6] 前記(A)成分の平均分散粒径が5μm以下である、上記[5]記載の熱可塑性樹脂組成物。
[7] (D)無機フィラーをさらに含む、上記[1]〜[6]のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物。
[8] 上記[1]〜[7]のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物からなるシート。
[9] 上記[1]〜[7]のいずれか記載の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性、耐薬品性、成形性、機械強度及び電気特性のバランスに優れた熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリフェニレンエーテル、(B)ポリアリールケトン及び(C)ポリアリレートを含む。以下、各成分(A)、(B)及び(C)について詳述する。
【0012】
[(A)成分]
本実施の形態の(A)成分のポリフェニレンエーテルとは、下記一般式(2)で表される構造単位からなる、単独重合体及び/又は共重合体である。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Oは酸素原子、R1、R2、R3、R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、第一級もしくは第二級の低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又はハロ炭化水素オキシ基(但し、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)を示す)
【0015】
(A)成分のポリフェニレンエーテルの具体例としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられる。また、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体(例えば、特公昭52−17880号公報に記載された、2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体や2−メチル−6−ブチルフェノールとの共重合体)等も挙げられる。
【0016】
これらの中でも特に好ましいポリフェニレンエーテルとしては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体又はこれらの混合物である。ポリフェニレンエーテルとして2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体を使用する場合の各単量体ユニットの比率は、共重合体全量を100質量%としたときに、2,6−ジメチルフェノールを約80〜約90質量%、2,3,6−トリメチルフェノールを約10〜約20質量%含むのが好ましい。
【0017】
(A)成分のポリフェニレンエーテルの製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、米国特許第3306874号明細書、同第3306875号明細書、同第3257357号明細書及び同第3257358号明細書、特開昭50−51197号公報、特公昭52−17880号公報及び同63−152628号公報等に記載された製造方法等を用いることができる。
【0018】
また、(A)成分のポリフェニレンエーテルとしては市販品を用いることもでき、例えば、旭化成ケミカルズ社製の商品名「ザイロン(登録商標)」、三菱ガス化学社製の商品名「ユピエース(登録商標)」、GE社製の商品名「ノリル(登録商標)」等を用いることができる。
【0019】
(A)成分のポリフェニレンエーテルの還元粘度(ηsp/c:0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃で測定)は、好ましくは0.15〜0.70dl/gであり、より好ましくは0.20〜0.60dl/gであり、さらに好ましくは0.40〜0.55dl/gである。
【0020】
本実施の形態においては、2種以上の還元粘度の異なるポリフェニレンエーテルをブレンドしたものを用いてもよく、例えば、還元粘度0.45dl/g以下のポリフェニレンエーテルと還元粘度0.50dl/g以上のポリフェニレンエーテルの混合物、還元粘度0.40dl/g以下のポリフェニレンエーテルと還元粘度0.50dl/g以上のポリフェニレンエーテルの混合物等を用いることができる。
【0021】
また、本実施の形態の(A)ポリフェニレンエーテルは、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテルであってもよい。ここでいう変性されたポリフェニレンエーテルとしては、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【0022】
上記変性されたポリフェニレンエーテルの製法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下で、100℃以上、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の範囲の温度でポリフェニレンエーテルを溶融させることなく変性化合物と反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下で、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度以上、360℃以下の範囲の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下で、ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテルと変性化合物を溶液中で反応させる方法等が挙げられ、上記いずれの方法を用いてもよいが、中でも、(1)及び(2)の方法が好ましい。
【0023】
次に、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物について具体的に説明する。
【0024】
分子内に炭素−炭素二重結合とカルボン酸基、酸無水物基を同時に有する変性化合物としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸及びこれらの酸無水物などが挙げられる。中でも、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、フマル酸、無水マレイン酸がより好ましい。
【0025】
また、これら不飽和ジカルボン酸のカルボキシル基の、1個又は2個のカルボキシル基がエステル化されているものも使用可能である。
【0026】
分子内に炭素−炭素二重結合とグリシジル基を同時に有する変性化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、エポキシ化天然油脂等が挙げられる。これらの中でも、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレートが特に好ましい。
【0027】
分子内に炭素−炭素二重結合と水酸基を同時に有する変性化合物としては、例えば、アリルアルコール、4−ペンテン−1−オール、1,4−ペンタジエン−3−オール等の一般式Cn2n-3OH(nは正の整数)で表される不飽和アルコール、一般式Cn2n-5OH、Cn2n-7OH(nは正の整数)で表される不飽和アルコール等が挙げられる。
【0028】
上述した変性化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際の変性化合物の添加量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.3〜5質量部である。
【0030】
ラジカル開始剤を用いて変性されたポリフェニレンエーテルを製造する際のラジカル開始剤の量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、好ましくは0.001〜1質量部である。
【0031】
また、変性されたポリフェニレンエーテル中の変性化合物の付加率は、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜3質量%である。
【0032】
上記変性されたポリフェニレンエーテル中には、未反応の変性化合物や変性化合物の重合体が残存していても構わない。
【0033】
また、樹脂組成物中には、ポリフェニレンエーテルの安定化の為に公知となっている各種安定剤が含まれていてもよい。安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤が挙げられ、これらの配合量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、好ましくは5質量部未満である。
【0034】
さらに、樹脂組成物中には、ポリフェニレンエーテルに添加することが可能な公知の添加剤等も、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して10質量部未満の量で含まれていてもよい。
【0035】
[(B)成分]
本実施の形態の(B)成分のポリアリールケトンとは、その構造単位に、芳香環と、エーテル結合及びケトン結合を含む樹脂であり、具体的には、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない範囲でビフェニル基、スルホニル基など、共重合可能な他の単量体単位を含んでいてもよい。本実施の形態においては、特に、下記一般式(3)で表される繰り返し単位を有するポリエーテルエーテルケトンが好適に用いられる。
【0036】
【化3】

【0037】
ポリエーテルエーテルケトンとしては、市販品を用いることができ、例えば、VICTREX社製の商品名「PEEK151G」、「PEEK90G」、「PEEK381G」、「PEEK450G」、「PEK」、BASF社製の商品名「Ultrapek」(PEKEKK)等を用いることができる。なお、ポリアリールケトンは、1種を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、VICTREX社製の商品名「PEEK」が好適に用いられる。
【0038】
ポリアリールケトンの分子量の目安としては、溶融粘度で50〜5000[Pa・s](500〜50000[Poise])の範囲のものが好適に使用される。より好ましくは70〜3000[Pa・s]であり、さらに好ましくは100〜2500[Pa・s]であり、特に好ましくは200〜1000[Pa・s]である。ポリアリールケトンの溶融粘度が50[Pa・s]以上であると、機械的強度が良好となる傾向にあり、5000[Pa・s]以下であると、成形加工性が良好となる傾向にある。なお、このときの溶融粘度は、400[℃]に加熱された樹脂を、内径1[mm]、長さ10[mm]のノズルから、負荷荷重100[kg]で押し出すときに測定される見掛けの溶融粘度である。
【0039】
本実施の形態において、熱可塑性樹脂組成物中の(A)ポリフェニレンエーテルと(B)ポリアリールケトンの割合は、ポリフェニレンエーテル1〜49質量部、ポリアリールケトン51〜99質量部であるのが好ましい。より好ましくは、ポリフェニレンエーテル5〜40質量部、ポリアリールケトン60〜95質量部、さらに好ましくは、ポリフェニレンエーテル20〜40質量部、ポリアリールケトン60〜80質量部である。ポリアリールケトンの割合が、51質量部以上であると耐薬品性が良好となる傾向にあり、99質量部以下であると電気特性が良好となる傾向にある。
【0040】
[(C)成分]
本実施の形態の(C)成分のポリアリレートとは、構造単位に、芳香環とエステル結合を含むポリマーであり、ポリアリールエステルとも言われる。ポリアリレートとしては、ビスフェノールAとテレフタル酸及び/又はイソフタル酸からなる、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリアリレートが好適に用いられる。
【0041】
【化4】

【0042】
本実施の形態においては、そのメカニズムは明確でないが、驚くべきことに、この(C)成分が存在することで、成形して得られるフィルムのポリフェニレンエーテル相とポリアリールケトン相の間の剥離が抑制され、あたかもポリアリレートが相容化剤として作用している挙動を示した。
【0043】
また、(C)成分のポリアリレートとしては市販品を用いることもでき、例えば、ユニチカ社製の商品名「Uポリマー」等を用いることができる。
【0044】
ポリアリレートの分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の数平均分子量が、好ましくは5000〜300000であり、より好ましくは10000〜300000であり、さらに好ましくは10000〜100000である。ポリアリレートの分子量が5000以上であると、耐熱性が良好になると共に、機械的強度が高くなる傾向にあり、300000以下であると、組成物の流動性が良好になり、分散相がより微分散化し易くなる傾向にある。
【0045】
(C)成分のポリアリレートの含有量は、上記(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.5〜45質量部、より好ましくは1〜40質量部、さらに好ましくは2〜30質量部、さらにより好ましくは3〜20質量部、特に好ましくは4〜10質量部である。ポリアリレートの含有量が0.5質量部以上であると、樹脂組成物の相間剥離が抑制されるため成形体の機械強度が向上する傾向にあり、45質量部以下であると、電気特性と耐熱性に優れる傾向にある。
【0046】
また、本実施の形態においては、(A)成分のポリフェニレンエーテルが分散相、(B)成分のポリアリールケトンが連続相を形成するのが好ましい。ポリフェニレンエーテルが分散相を形成することにより、機械強度に優れた樹脂組成物及び成形体が得られる傾向にあり、ポリアリールケトンが連続相を形成することにより、耐薬品性に優れた樹脂組成物及び成形体が得られる傾向にある。樹脂組成物のモルフォロジーについては、例えば、透過型顕微鏡を用いて観察することにより容易に判断することができる。
【0047】
さらに、本実施の形態においては、(A)成分のポリフェニレンエーテルが分散相を形成する場合、(A)成分の平均分散粒径は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下である。(A)成分の平均分散粒径が上記範囲であると、(A)成分が樹脂組成物中により微分散し、得られる成形体の強度、特にフィルムの引き裂き性が向上する傾向にある。(A)成分の平均分散粒径は、ランダムに分散径を20個選択し、各々の長径と短径の平均値を算出し、さらに20個についての平均値を採った値を意味する。
【0048】
さらに、本実施に形態においては、樹脂組成物中に、上記樹脂成分の他に、スチレン系重合体やエラストマーが含まれていてもよい。
【0049】
スチレン系重合体としては、例えば、ホモポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン(HIPS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−ゴム質重合体−アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。スチレン系重合体を含むことで、樹脂組成物及び成形体の耐候性が向上する傾向にある。スチレン系重合体の配合量としては、(A)ポリフェニレンエーテルと(B)ポリアリールケトンの合計100質量部に対し、好ましくは50質量部未満である。これらスチレン系重合体の添加方法に特に制限はないが、ポリフェニレンエーテルと同時に添加するのが好ましい。
【0050】
エラストマーとしては、例えば、少なくとも1個の芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと少なくとも1個の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体が挙げられる。
【0051】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」とは、当該ブロックにおいて、少なくとも50質量%以上が芳香族ビニル化合物単位であることを意味する。より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上が芳香族ビニル化合物単位である。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックにおける「主体とする」に関しても同様で、少なくとも50質量%以上が共役ジエン化合物単位であることを意味する。より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上が共役ジエン化合物単位である。
【0052】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、中でも、スチレンが好ましい。
【0053】
共役ジエン化合物の具体例としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられ、中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0054】
ブロック共重合体の共役ジエン化合物ブロック部分は、1,2−ビニル単位もしくは1,2−ビニル単位と3,4−ビニル単位の合計量が、好ましくは5〜80質量%であり、より好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは15〜40質量%である。
【0055】
本実施の形態におけるブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック[A]と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック[B]が、A−B型、A−B−A型、A−B−A−B型から選ばれる結合形式を有するブロック共重合体であることが好ましく、これらの混合物であっても構わない。これらの中でもA−B型、A−B−A型又はこれらの混合物がより好ましく、A−B−A型がさらに好ましい。
【0056】
また、上記芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体は、水素添加されたブロック共重合体であることがより好ましい。水素添加されたブロック共重合体とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体の脂肪族二重結合が水素添加処理されたものを言う。水素添加されたブロック共重合体の水素添加率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは98%以上である。
【0057】
これらのブロック共重合体は水素添加されていないブロック共重合体と水素添加されたブロック共重合体の混合物としても問題なく使用可能である。
【0058】
また、これら芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物のブロック共重合体は、本発明の効果を損なわない限り、結合形式の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2−結合ビニル含有量もしくは1,2−結合ビニル含有量と3,4−結合ビニル含有量の異なるもの、芳香族ビニル化合物含有量の異なるもの等を混合して用いても構わない。
【0059】
また、上記ブロック共重合体は、全部又は一部が変性されたブロック共重合体であっても構わない。ここでいう変性されたブロック共重合体とは、分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたブロック共重合体を指す。
【0060】
上記変性されたブロック共重合体の製法としては、(1)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下でブロック共重合体の軟化点温度以上、250℃以下の範囲の温度で変性化合物と溶融混練し反応させる方法、(2)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下でブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶液中で反応させる方法、(3)ラジカル開始剤の存在下又は非存在下でブロック共重合体の軟化点以下の温度で、ブロック共重合体と変性化合物を溶融させることなく反応させる方法等が挙げられ、これらいずれの方法でも構わないが、(1)の方法が好ましく、(1)の中でもラジカル開始剤存在下で行う方法がより好ましい。
【0061】
ここでいう分子構造内に少なくとも1個の炭素−炭素二重結合又は三重結合及び少なくとも1個のカルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を有する少なくとも1種の変性化合物としては、変性されたポリフェニレンエーテルで述べた変性化合物と同じものが挙げられる。
【0062】
本実施の形態において、樹脂組成物中のエラストマーの配合量としては、(A)ポリフェニレンエーテルと(B)ポリアリールケトンの合計量100質量部に対し、50質量部未満であるのが好ましい。これらエラストマーの添加方法に特に制限はないが、ポリフェニレンエーテルと同時に添加するのが好ましい。
【0063】
本実施の形態においては、熱可塑性樹脂組成物中に、さらに(D)無機フィラーが含まれていてもよい。無機フィラーとしては、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭素繊維、炭化ケイ素、セラミック、窒化ケイ素、マイカ、ネフェリンシナイト、ウォラストナイト、タルク、カオリン、マイカ、ゾノトライト、スラグ繊維、フェライト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、石英、石英ガラス、シリカ(溶融シリカ、ヒュームドシリカ等)、酸化チタン及び炭酸カルシウム等が挙げられる。中でも、射出成形体には、ガラス繊維、炭素繊維、ウォラストナイト、タルク等が好適に使用できる。一方、フィルム成形体には、シリカ、炭酸カルシウム等が好適に使用できる。なお、フィルム成形体の場合、用いる無機フィラーの粒径は、フィルムの厚みを超えない範囲のものが好ましい。
【0064】
本実施の形態の(D)無機フィラーの含有量は、特に制限はないが、樹脂組成物の成形性の観点から、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、100質量部以下であるのが好ましく、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
【0065】
本実施の形態においては、熱可塑性樹脂組成物中に、さらに難燃剤が含まれていてもよい。難燃剤としては、ケイ素化合物、環状窒素化合物、リン系難燃剤が好ましい。
【0066】
ケイ素化合物としては、例えば、シリコーン、籠状シルセスキオキサン又はその部分開裂構造体等が挙げられる。
【0067】
シリコーンとは、オルガノシロキサンポリマーのことで、直鎖構造のもの、架橋構造のもの或いはそれらがある割合で構成された構造のものが挙げられ、単独或いはそれらの混合物でもよい。中でも、難燃性、流動性を向上させる観点から、直鎖構造のものがより好ましい。また、難燃性、耐衝撃性の観点から、分子内の末端基或いは側鎖基として官能基を有するものが好ましい。官能基は、特に、エポキシ基、アミノ基が好ましい。具体的には、例えば、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製のシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーンパウダー、信越化学工業株式会社製のストレートシリコーンオイル、反応性シリコーンオイル、非反応性シリコーンオイル、シリコーンパウダーKMPシリーズ等を用いることができる。これらは、液体状、固体状いずれのものも用いることができる。液体状のものは、25℃における粘度が、好ましくは10〜10,000(mm2/s)であり、より好ましくは100〜8,000(mm2/s)であり、さらに好ましくは500〜3,000(mm2/s)である。固体状のものは、平均粒径が好ましくは0.1〜100μmであり、より好ましくは0.5〜30μmであり、さらに好ましくは0.5〜5μmである。このシリコーンは、ポリフェニレンエーテルとポリアリールケトンの合計100質量部に対して、難燃性を向上させる観点から0.1質量部以上であり、剛性を低下させる観点から10質量部の割合で含有されているのが好ましく、より好ましくは0.3〜5質量部、さらに好ましくは0.5〜2質量部含有される。
【0068】
環状窒素化合物とは、窒素元素を含有する環状の有機化合物である。具体的には、メラミン誘導体である、メラミン、メレム、メロンが好適に用いられる。中でも、揮発性の観点から、メレム、メロンがより好ましい。
【0069】
リン系難燃剤としては、赤燐、リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物、フォスファゼン化合物等が挙げられる。これらの中でも、難燃性と環境負荷の観点から赤燐又は有機リン化合物が好ましく、リン酸エステル化合物がより好ましい。リン酸エステル化合物としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート等のモノ有機リン化合物や有機リン化合物オリゴマーが挙げられるが、中でも、有機リン化合物オリゴマーが好ましい。
【0070】
有機リン化合物オリゴマーの特に好ましい例としては、下記一般式(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0071】
【化5】

【0072】
(式中、Q1、Q2、Q3、Q4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、nは1以上の整数、m1、m2、m3、m4は0〜3の整数を示し、Xは下記一般式(5)で表される化合物から選択されるいずれか1種を示す)
【0073】
【化6】

【0074】
(式中、S1、S2、S3は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を示し、n1、n2、n3は0〜2の整数を示す)
【0075】
有機リン化合物オリゴマーとしては、具体的には、大八化学社製のCR−741、CR−747、CR−733S等を好適に用いることができる。
【0076】
これらのリン系難燃剤の配合量としては、(A)ポリフェニレンエーテルと(B)ポリアリールケトンの合計100質量部に対して、難燃性を向上させる観点から0.1質量部以上、耐熱性を向上させる観点から10質量部以下の割合で含有されていることが好ましく、より好ましくは1〜8質量部、さらに好ましくは3〜5質量部含有されている。
【0077】
本実施の形態においては、樹脂組成物中に、上記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて付加的成分が添加されていてもよい。そのような付加的成分としては、例えば、導電性付与材(導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ等)、可塑剤(オイル、低分子量ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)及び帯電防止剤、各種過酸化物、硫化亜鉛、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤等が挙げられる。
【0078】
本実施の形態の熱可塑性組成物を得るための具体的な加工機械としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等が挙げられ、中でも、二軸押出機が好ましい。
【0079】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、例えば、上流側供給口を備えた二軸押出機を用い、上流側供給口よりポリフェニレンエーテル、ポリアリールケトン、ポリアリレート及びその他成分を供給して溶融混練する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
本実施の形態において、熱可塑性樹脂組成物を製造するための好ましい温度は、345〜380℃の範囲の中から任意に選ぶことができる。中でも、350〜370℃の範囲で製造するのがより好ましい。
【0081】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、射出成形等の、従来公知の種々の方法により各種部品の成形体として成形することができる。
【0082】
上記各種部品としては、例えば、パソコン、ハードディスクDVDドライブレコーダー、デジタルビデオカメラ、携帯型デジタル音楽プレーヤー、携帯電話等のデジタル家電製品に使用されるハードディスクの内部部品や各種コンピューター及びその周辺機器等の内部部品、ICトレー材料、各種ディスクプレーヤー等のシャーシー、キャビネット等の電気・電子部品、リレーブロック材料等に代表されるオートバイ・自動車の電装部品、自動車用耐熱部品、事務機器用耐熱部品等が挙げられる。中でも、精密成形が必要とされるハードディスクの内部部品として好適に用いられる。
【0083】
ハードディスクの内部部品としては、例えば、ブラケット、ラッチ、コウム、スポイラー、ブッシュ、マウントプレート、フック等が挙げられる。
【0084】
自動車用耐熱部品としては、例えば、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウウォッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、点火装置ケース等の部品、ホイールキャップ、ランプソケット、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプリフレクター等が挙げられる。
【0085】
また、事務機器用耐熱部品としては、例えば、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品等が挙げられる。
【0086】
また、本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、押出しシート成形によりシートに成形することもできる。ここで言うシートとは、厚みが0.001〜2.0mmのものであり、これらシートの製造方法としては、例えば、押出しチューブラー法(インフレーション法とも呼ばれる)、Tダイ押出し法等が挙げられる。
【0087】
こうして得られたシートは、難燃性や電気特性が要求される用途に好適に使用でき、例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、プリント基板製造用剥離フィルム、半導体パッケージ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、モーターやトランス等の絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用シートセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、発電機スロットライナ層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池等の絶縁ワッシャー等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を示して、本実施の形態をより詳細に説明する。なお、以下において%とは、質量%を意味する。
【0089】
[使用した原料]
(1)ポリフェニレンエーテル(PPE1)
ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)
商品名:ザイロン(登録商標)S202A(旭化成ケミカルズ社製)
(2)ポリフェニレンエーテル(PPE2)
押出機上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=44(バレル数:11)の二軸押出機[ZSK−25:コペリオン社製(ドイツ)]を用いて、上流側供給口からダイまでを320℃に設定し、スクリュー回転数300rpm、吐出量10kg/hで、上流側供給口よりポリフェニレンエーテルパウダー(PPE1)を供給して溶融混練しポリフェニレンエーテルのペレット(PPE2)を作製した。
(3)ポリアリールケトン(PAK1)
商品名:VICTREX PEEK 151G(登録商標)(ビクトレックス社製)
(4)ポリアリールケトン(PAK2)
商品名:VICTREX PEEK 90G(登録商標)(ビクトレックス社製)
(5)ポリアリレート(PAR)
商品名:U−ポリマー U−100(登録商標)(ユニチカ社製)
(6)ポリエーテルサルフォン(PES)
商品名:レーデル A−300A NT(登録商標)(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)
(7)ポリサルフォン(PSF)
商品名:ユーデル P−1700 NT(登録商標)(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)
(8)ポリカーボネート(PC)
商品名:カリバー 301−10(登録商標)(住友ダウ社製)
(9)ポリアミド66(PA66)
商品名:レオナ1400−301(登録商標)(旭化成ケミカルズ社製)
【0090】
[評価方法]
以下に、評価方法について述べる。
<フィルム引き裂き性>
実施例及び比較例で得られたフィルムをMD方向に12cm、TD方向に5cmに切り取り、MD方向と平行に切り目が入るように、フィルムにノッチを入れずに、指を用いて、3回異なる部位について縦て裂け試験を行った。その程度を以下の判断基準によって、フィルム引き裂き性を判断した。
○:3回とも引き裂けなかった。
△:3回のうち、1〜2回だけなんとか引き裂けた。
×:3回とも、容易に引き裂けた。
<フィルム成形性>
○:後述の実施例及び比較例で示したTダイでのフィルム成形が安定して実施できた。100μm厚みのフィルムが安定的に得られた。
△:ダイスウェルがひどく、めやにとダイラインが多く見られた。
×:Tダイより吐出される樹脂量が安定せず、フィルムが穴あき状態となった。
<耐薬品性1>
実施例及び比較例で得られた100μm厚みのフィルムを10cm×5cmサイズに切り取り、室温にてクロロフォルム溶液中に30分間含漬し、サンプルを取り出し様子を観察した。
○:ふくれや変形などのフィルム外観に全く異常が認められなかった。
△:ふくれや変形などのフィルム外観に変化が見られた。
×:大半以上が溶解してしまい、フィルムとして取り出すことができなかった。
<電気特性>
実施例及び比較例で得られた100μm厚みのフィルムを5cm×9cmサイズに切り出し、これを用いて、JIS−K6911に準拠した試験方法(アルミ箔を張り合わせる方法)により、誘電率(以下「ε」とも略記される)及び誘電正接(以下「tanδ」とも略記される)を測定した。測定装置は、アジレント社製の4284Aを用いた。測定雰囲気の温度は22℃、測定周波数は1kHzと1MHzにて実施した。
<耐熱性:DTUL(℃) 1.8MPa>
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを、乾燥機を用いて100℃で3時間乾燥し、射出成形機[IS−80EPN:東芝機械社製]を用いて、射出速度700mm/秒、保圧60MPa、射出+保圧時間10秒、冷却時間15秒に設定し、ホッパー側からノズルに向けて、350/355/360/365℃、金型温度を170℃に設定して、127×13×3.2mmの成形片を成形した。得られた試験片を用いてASTM D648に準拠し、1.82MPaで荷重たわみ温度を測定した。
<耐薬品性2>
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物ペレットを20gガラス製サンプル瓶に入れ、クロロホルムに23℃で完全に含漬した。24時間後にその様子を観察して、耐薬品性を判断した。
○:ペレットの外観に変化がなかった。
△:ペレットの形が崩れていた。
×:完全に溶解していた。
【0091】
[実施例1〜4、比較例1〜7]
テクノベル社製、15mmの2軸同方向回転押し出し機付きTダイ製膜機(KZW15TW)を用い、表1に記載された割合(質量部)で原料の全量を第一供給口から供給し、窒素を吹き込みながら、第一供給口側からTダイへ向けてのシリンダー設定温度を320/360/360℃に設定し、Tダイの設定温度を360℃、キャストロール温度を170℃に設定し、真空ベントをひきながら、約100μmの厚みのフィルムになるように、コンパウンドと製膜を同時に実施した。得られたフィルムの評価結果を表1に示した。
比較例6と比較例7については、おのおの単独のペレットを上記と同様、第一供給口から投入して、製膜することによってフィルムを得、その評価結果を表1に示した。
[実施例5、6、7、比較例8、9]
押出機上流側から1番目のバレルに上流側供給口を有し、L/D(押出機のシリンダーの長さ/押出機のシリンダー径)=44(バレル数:11)の二軸押出機[ZSK−25:コペリオン社製(ドイツ)]を用いて、上流側供給口からダイまでを360℃に設定し、スクリュー回転数300rpm、吐出量12kg/hで、上流側供給口より、表2に記載された割合(質量部)の原料を供給して溶融混練し樹脂組成物ペレットを作製した。得られた樹脂組成物ペレットから射出成形されたテストピースの耐熱性及び得られたペレットの耐薬品性2についての評価を実施し、評価結果を表2に示した。
[フィルム、ペレット及びテストピースの評価結果]
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜4のフィルムは、フィルム引き裂き性、フィルム成形性、耐薬品性のいずれにも優れていた。フィルム引き裂き性に優れていた理由としては、後述するように、(A)成分のポリフェニレンエーテルの分散相が、樹脂組成物中に微分散しており、界面の密着力が強固となっているためと推定される。
また、実施例1〜4のフィルムは、比較例7のポリアリールケトンのみを用いて製造したフィルムと比較して、誘電率及び誘電正接が低く、電気特性に優れていた。
さらに、実施例5及び6のペレットは、比較例8、9のペレットと比較して、耐熱性を維持すると共に、耐薬品性にも優れていた。実施例7のペレットは、実施例5や6と比較すると耐薬品性にやや劣るものの、ポリフェニレンエーテルのみを用いた比較例8よりも耐薬品性に優れ、ポリアリールケトンのみを用いた比較例9よりも耐熱性に優れていた。
以上のことから、本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性、耐薬品性、成形性、機械強度及び電気特性のバランスに優れており、それを成形することによって得られる成形体も上記特性のバランスに優れたものであった。
[フィルムのモルフォロジーの観察]
実施例2及び比較例1のフィルムは、いずれも連続相は、ポリエーテルエーテルケトンであり、分散相は、ポリフェニレンエーテルである。図1からは、(C)成分の存在によって、(A)成分のPPEの分散相がより微分散しており、界面の密着力が強固であることがわかる。図2では、超薄切片を切り出す際、界面密着力が弱いために、樹脂部が抜け落ちたと思われる白い部分が多く見られた。加えて、図1と比較して、分散相のサイズも大きくなってしまい、粒径も不揃いであることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の熱可塑性樹脂組成物及び該熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、電気・電子部品、OA部品、車両部品、機械部品等の幅広い分野における産業上利用可能性を有し、とりわけ、精密成形が必要とされる電気・電子部品として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例2のフィルム断面(画像の左右方向が、樹脂の流れ方向)の透過型電子顕微鏡写真を示した図である。
【図2】比較例1のフィルム断面(画像の左右方向が、樹脂の流れ方向)の透過型電子顕微鏡写真を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテル、(B)ポリアリールケトン及び(C)ポリアリレート、を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
各成分の割合は、前記(A)成分1〜49質量部、前記(B)成分99〜51質量部、前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して前記(C)成分0.5〜45質量部、である、請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)成分は、ポリエーテルエーテルケトンである、請求項1又は2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)成分は、下記一般式(1)で表される構造を含む樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

【請求項5】
前記(A)成分が分散相を形成し、前記(B)成分が連続相を形成する、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)成分の平均分散粒径が5μm以下である、請求項5記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
(D)無機フィラーをさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物からなるシート。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−67928(P2009−67928A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239255(P2007−239255)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】